ひねくれ元・防御術士はなにもしたくないのに 作:oomaguro
落ちた。
偶然にも樹木の上に落ちたのが幸いして、衝撃もそこまでではなかった。
と言ってもまともに受け身も取れていないので、したたかに背中を打ち付け、湿った地面をごろごろと転がる。
空中で鞄が弾けたらしく、杖はどこかに消えていた、ついでに私物もおじゃんだ。
いや、それはもはやどうでもいい。それより、
(まず、い。二人は!?)
「ノア、キリエ、無事……うわぁ!?」
立ち上がろうとして、バランスを崩して派手に転ぶ。
顔を地面に突っ込みながら、気が付いた。
(右腕か……くっそ!!)
右腕がいくら命令しても、ぴくりとも反応しない。
さっきの魔導弾を弾いたときの青色防壁がまずかった。弾丸の強度がわからなかったから、後先考えずに右腕に魔力をつぎ込んでしまった。
魔力灼け。
人体に高濃度の魔力を流すことで発生する、身体の機能不全。これを起こさないために普通は術式用の魔力は杖やらの触媒に流す。のだが、わたしの杖は未だ復活していない。
なんとか立ち上がり、バランスを取る。ふらつきながらも辺りを見回して、乾いた笑いが漏れた。
「……!は、はは、そうだよな」
視界の端に。
飢餓霊体の群れが、独特の幽鬼のような足取りで、確かにこちらに向かってくる。
辺りを見回す。右からも、左からも。あぁ、後ろからも来てる。
完全に待ち伏せされてるじゃないかよ。体中が痛い。息が苦しい。魔力を使いどおしだった疲労もある。
これは。
これは、チャンスなんじゃないか?
わたしは深呼吸をし、大きく息を吸った。
眼を閉じて、魔力の波に集中する。
目標は、さっきの紫色の魔導弾と相似形の波長。あれだけの出力をあの距離、あの精確さで出せる実力者の、波動。
近くにいる。ここまでしておいて、弱った獲物の末路を確認しに来ないわけが、ない。
眼を開く。
「見せてやるよ、わたしの奥の手」
前方の、一番数が多そうな死霊の一団に向かって、まだかろうじて感覚のある左腕を突き出し、そして、
「【青色術式】【深奥---------って、わぁ!?」
傍らの草むらから伸びた4本の腕に、わたしはなすすべもなく引きずり込まれる。
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「むぐーーーっ!!!うぅーーーーーー!!」
突然のことにじたばたと暴れてみるが、もともと筋力皆無なわたしに出来ることなどなく、あえなく抑え込まれる。
「しーっ!!ミーシャちゃんしーーーーーっ!!!」
が、聞き覚えのある声に恐る恐る目を開けてみると、そこには人差し指を口に当てて静かにとジェスチャーするキリエと、なんか無表情でわたしに体重をかけるノアの姿があった。
「……ッ、ふーっ、ふーっ……!」
とりあえず口元を抑えているキリエの腕をタップすると、すぐに拘束は緩んだ。
「なんだよ、びっくりしたぁ……」
「ごめんねミーシャちゃん。だけど、」
「死霊が来てる、っていうんだろ?だから見えてる、って」
だから【禁則】なんてやばいものを使おうとしたんだよ。インターセプトされたけど。
「……あぁ、やっぱり、来てるよね。あの紫色の魔導弾、ミーシャちゃんが防いでくれたんだよね?それで、腕、そんなになっちゃて……」
「ごめん、ミーシャ。本当に……」
ごめんね、ごめん、と、キリエが半泣きで謝ってくる。
後ろでノアも深く頭を下げていた。
私は軽く頭を振って、
「なんでお前らが謝るんだよ。出力調整を間違えた私がへたくそなだけだよ」
「……でも」
「あぁもう、言ってる場合か。敵が来てる。そんなに気になるなら、わたしの腕を無駄にしないでくれよ」
言っとくけど、状況最悪だぞ。わたしだけじゃなく、長距離を飛んだノアだってガス欠だろうし。
「……、わかった」
ぐすん、とすすり上げて、涙を拭うキリエ。お、ちょっとは真剣な顔もできるじゃないか。
「狙撃された以上、わたしたちの場所はバレてる。迂闊に動けないな。ノア、また飛べるか?」
聞きはしたけど、ダメだろうなこれは。露骨に顔色悪いもん。
「ごめん、ちょっときつい、かも」
「まぁ、だよな」
「あ……私、まだ戦えるよ!わたしが暴れてる間に、二人は何とか逃げられるかも」
倫理を無視すれば一応アリだ。が、
「嘘つけ。キリエももうかなり限界来てるだろ」
「うぅ……」
「じゃ、こういうのはどうだろう。わたしが【青色術式】の奥義みたいなものを全方位にかましてみる。まだわたしの魔力は6割くらい残ってるからな。私の予想だと、いいところに入れば相手は一気に崩壊----」
「それはダメ!!!」
キリエが食い気味に叫ぶ。
ノアも続いて、
「キリエの言う通りだよ。ミーシャ、それ以上魔力を使ったら、魔力灼けで死んじゃう」
うん。
何かそう言われる気はしていた。
「……ここまで、なのかな」
キリエがぽつり、とこぼした。
「まだ……まだ何か、手が」
ノアが冷静そうに言うが、その呼吸は速い。
よくない空気だ。
わたしはすっと手を挙げる。
「……ミーシャ、何かないかな?ここからみんなで逃げられる、なにか」
二人の弱った視線にさらされるわたし。
なんだよ、最初に会った時の元気はどうした。
私は小さくため息をつく。
「最初に言っておくが、逃げる手はない。どうやったってたぶんムリだ」
「え……」
そう、さっきからわたしとふたりが微妙に噛み合っていないのは、この辺りだ。
「これ、チャンスだろ?死霊の使役者を倒せば、もう追われることもない」
「「……へ?」」
呆気にとられた声が二つ、あけぼのの空に響いて消える。
数秒の沈黙の後、二人が反応する。
「た……倒すって、そんな……」
「でもそれって結局、ミーシャちゃんの術式に頼ることになるよね?それじゃ……」
「それじゃだめなんだろ?わかってるよ」
わたしはさっさと先回りをする。
「私がだめなら、お前らがやればいい」
「「……へっ?」」
今度こそ気の抜けた声を発する二人。
「大丈夫。背中にはわたしがついてる」
あんぐりと口を開けた二人に向かって、にたりと悪っぽく微笑んでみる。
こうなったら【キラザの黒い影】の由縁、見せてやるとも。
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数分後。
簡単なブリーフィングの後、わたしたちは潔く草陰から出た。
最初に戦った時とは陣形が違う。
前線にキリエとノアが立ち、そのうしろにわたしことミーシャ・ゼレンディア。
懐かしいな、この立ち位置、この役割こそいつものわたしだった。
「いくぞ、ふたりとも。手筈通りにな」
「……うん!信じたからね、ミーシャちゃん!!」
「ミーシャ、お願いするね」
「任された。じゃ、いくぞ」
わたしは緊張気味のふたりの背中に、それぞれ手を置く。(右手はノアに握ってもらった)
それから小さく呼吸を整えて、術式を発動した。
それは、人類が唯一、杖やらの触媒無しで発動してもリスクのない魔法。
一人に一種類、天から与えられた、オンリーワンの才能。
固有術式。
わたしのそれは、【連理の糸(クラウドコード)】という。
二人から手を離すと、二人の背中から一本の白い糸が、わたしの両手にそれぞれ伸びた。
あまりにも儚げな細さのそれは、物理的には切れない、超々高伝導率で魔力を通す管だ。
そこからわたしのまぁまぁ残っていた魔力を、二人に分け与える。
「ふ……ふわぁぁぁあ……!!」
「ッ……!これ、は……………」
ふたりがぴくりと身体を震わせる。
ふふん、来てるだろう来てるだろう。
魔力の消費はそのまま精神の疲労度だ。
それが急速に満たされるのは、半日眠ったあとに温泉にゆっくりつかってサウナを堪能した後コーヒー牛乳を決めた瞬間くらいには清々しい。
「……っ、いける!日曜日の朝みたいに元気かも!!戦える、これなら戦えるよ!!」
「傷もふさがってる……凄い、どんな濃度の魔力ならこうなるの……?」
「そりゃよかった。じゃ、頼むぞ二人とも。遠隔操作でいいものを、わざわざ居場所を教えてくれた舐めプ野郎、今こそぶん殴ってやろうじゃないか」
わたしはにやりと微笑む。
「ミ……ミーシャちゃん、悪い顔してるぅ……」
「失礼な。この能力めっちゃ聖女っぽいだろ。跪いて崇め奉りなさい」
まったくこれが天使の施しでなくてなんだ。心外ったらない。
毎日投稿予定。
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