絶対に笑ってはいけない管理局員   作:もぬ

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後編

 昼食から数十分が経ち、休憩室にセレナが戻ってくる。どうやら休息はここで終わりのようだ。

 

「皆さーん! 疲れはとれましたか? これから新人研修の一環として、隊舎での訓練や会議の様子を見学して回りますよー!」

「あぁ……来た……」

「もう終わりでええのに……」

 

 この休憩時間で疲れがとれたのはセレナだけである。最初のテンションが戻ったその明るい声が、3人にとっては腹立たしいことこの上ない。満面の笑顔なのもまた憎い、こちとら笑いを禁じられているのだ。

 とても渋い表情でセレナを見るメンバー達。さぁさぁと手招きする彼女に、嫌々ながら席を立ち、ついていく。

 

「最初は、えーっと……陸士部隊の教導見学ですね。外の訓練スペースへ行きましょう」

「また外? 段取り悪いなぁ……」

 

     ・

     ・

     ・

 

 そうして一行が向かったのは、屋外のグラウンドだ。運動場の端で見学するようにと指示され、3人は訓練スペースから少し離れたところで足を止め、グラウンドで整列している局員たちを見やる。あれが教導を受ける訓練生たちだろう。

 集合している訓練生達が注目しているのは、教導隊制服を着た一人の女性だ。

 

「えー、我が……じゃない、ウチが、本日貴様らの教導を担当する、八神子ガラスです……やで?」

 

 教導隊の白と青の制服があまり似合っていないその女性は、八神はやてにそっくりの顔立ちをしていた。しかし目つきや髪の色の違い、おっとり系ちび狸に比べて隠しきれない王気(オーラ)が溢れ出ているところから、別人だと分かる。

 教導と聞いて、なのはに扮したシュテルあたりが再出演するのではと予想していたはやてにとって、彼女――ロード・ディアーチェの登場は不意打ちだった。

 

「今回の訓練は、ふむ……シュートイベーション? なるほど。我……いや、ウチの魔法をひたすら回避し続けるというものらしいでんがな」

 

 手元のメモ用紙を見ながら話すディアーチェ。遮蔽物の一切が無いここで、広域型魔導師の攻撃を避けろとは、なかなかに無茶な教導である。これには現役教導官のなのはも少々引き気味だ。

 そして普段は自分がいくら貶されても怒らないという仏の八神は、ディアーチェの変な関西弁にイラついていた。語尾はおかしいしイントネーションも違和感あるし……

 

「そして王様が私と同じ声してるのがまたちょいムカ」

「あ、始まるみたいだよ……うわ、空から? 少しスパルタだね……」

 

 なのはの視線の先、ディアーチェは空に上がり弾幕を準備していた。散り散りに広がった訓練生たちは皆、弾丸の数や魔法陣の大きさを見て絶望の表情を浮かべている。

 陸戦魔導師が魔法戦を想定する場合、このように身を隠す場所の無い更地で相手が空戦広域型となると、チャージ前に撃墜するか全速力で遠くへ退避するしかないだろう。だからこんなものは弾丸回避訓練ではない、笑いの仕掛けだ。

 

「クックック……子ガラスめの真似などさせられて、ストレスが溜まっておったところだ……消し飛べェ!!」

「う、うわぁあああああああ!!!」

「冗談じゃねえ! 台本と違っ……!」

「ハァーッハッハッハ!! 存分に踊るが良い、塵芥共ッ!!」

「うわぁ……王様、ノリノリやなー」

 

 空から無数に降り注ぐ光が、地上の訓練生たちを薙ぎ払う。気の毒な悲鳴と共に一人、また一人と脱落していく。これが演技ではなくかなりマジな地獄絵図であることを、逃げ惑う訓練生たちの表情が物語っていた。はやてが思わず敬礼しそうになるくらいの壮絶さである。

 

「わ、あの人凄いよ」

 

 しかし、彼らが数を減らしていくほど、その異常な光景が露わになってきた。

 訓練生の中に一人、凄まじい反射と機動力で弾幕を回避し続けている人物がいるのだ。変則的な、それでいて弾道を正確に見切っているような動きは熟練の兵士を思わせる機動で、洗練されすぎていてなんかもう変態みたいだった。

 体格からして男性、容姿は……顔全体を覆うヘルメットを被っていて、誰だかわからない。訓練生の中で一人だけ顔を隠していてあまりにも怪しいこの男だが、おそらくこの企画の流れからいって知人の誰かだろう。だがあれほどの動きが可能な人物となると、かなり限られてくる。管理局でも有数の実力者に違いない。体格から見て……クロノ提督あたりだろうか。いやしかし……

 ヘルメットの男について予想を巡らせる3人。不意を衝く笑いに対抗するためにも、前もって展開を予測することは大事なのである。

 

「……ぬ? ほう、まさか躱しきる輩が出ようとはな。よい、全員集合せよ! ……何、立てん? 這ってでも来い!」

 

 回避訓練が終わったようだ。闇統べる教導官様の号令で、訓練生たちが元のように整列する。……何人か、気絶したまま集合出来ない者を除いて。

 列の先頭、なのは達3人からよく見える場所には、無傷のヘルメット男が立っていた。その目の前に降り立つディアーチェ。

 

「貴様か。見事な動きだったぞ、褒めてやる。素顔を晒すがいい」

「………」

 

 男はゆっくりとヘルメットを外した。そこに現れた顔は……

 

「……良い修行になった。礼を言わせてもらう」

 

 精悍な顔つきの美丈夫。なのはの兄、高町恭也だった。

 

「ええーっ!? な、なんでお兄ちゃん!?」

「……なのはのお兄さん、かなりの達人だとは聞いてたけど……」

「非魔導師なんやろ。もう人間やめてるんとちゃう?」

 

 外野の失礼な声をさらりと流し、恭也は身をひるがえした。

 

「今日は帰らせて頂く。また参加しても?」

「うむ。いつでも来るがよいぞ」

「感謝する。……美由希、行こう」

「うん、恭ちゃん」

 

 そして列の中から、なのはの姉の高町美由希が出てくる。今年でもう中々にいい歳だが、昔と変わらぬ美人のままだ。

 

「……ブフッ!!」

 

 デデーン  なのは アウトー

 

「お、お姉ちゃん……居たんだ……フフ、あいいっ!? ったたぁー……」

 

 お仕置きされているなのはを恨めしそうに見ながら、どうせ私は影薄いよーだ、との呟きを残して美由希と恭也は運動場を去って行った。

 美由希もまた弾幕を全て回避していたようだが、怪しげなヘルメットと派手な動きで恭也の方に注目が集まっていたのである。意外な身内の登場に一度は耐えたというのに、さらなる不意討ちになのはは吹き出してしまったのだった。

 

「よし、本日はこれにて解散!」

「だそうです。次は第一訓練室を見に行きましょう」

「訓練室か……多分シグナムとか、シスターシャッハあたり出て来るで」

「想像しやすい……」

 

 新人研修ご一行はグラウンドを後にし、再び屋内へと戻っていった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 第一訓練室。シミュレーターなどを使った訓練が出来る施設だ。

 広い空間で訓練しているのはたったの一人。その女性は縦縞柄のユニフォームと野球のヘルメットを被り、大剣型のデバイスを携え佇んでいた。

 彼女の名はレヴィ。力のマテリアルである。

 

「ふっ! ……よし。ばっちこーい!!」

 

 一度だけ素振りをし、レヴィは構えを取った。綺麗なバッティングフォームで立ち向かっているのは、謎の巨大な装置だ。バッティングマシンにしては大きい。魔力弾でも打ち返すつもりだろうか。なんにせよ、やはり普通の訓練ではないようだ。

 と、メンバー達が見つめる中、マシーンから大きな影が打ち出された。一メートル程はあろうかという謎の物体を、レヴィは手にしたバルニフィカスを大きくスイングし、打ち返した。

 

「……ってこっち来た!」

「おわっ!?」

 

 打ち返されたナニカが、訓練室の端にいた4人の元へと飛んでくる。それは素早くしゃがんだはやての頭上を過ぎ、壁に激突した。

 飛んできた物体が何なのか確認するため、墜落したそれに近づく3人。

 それは人のような形をしていた。どうやら人形か何かのようだ。白衣のようなものを着ていて、頭の毛は紫色。

 

「……アア……ホシカッタナァ……」

 

 よくわからないセリフを言いながら煙を吹きだしたそいつは、等身大ジェイル・スカリエッティ人形だった。

 

「ウラミノイチゲキダトオモッテクレタマエ!」

「はぁっ!」

「ヤハリワタシノサクヒンハユウシュウダナ!」

「とおっ!」

 

 3人が振り返ってみれば、レヴィは怒涛の勢いで次々とマシーンから吐き出されるジェイル人形を打ち返していた。潰された蛙のような変な声を上げてかっとんでいく無数のドクター達。

 恐ろしくシュールな光景だった。なんという――予算の無駄使いだろう。

 

「……プッ」

 

 思わずフェイトの口から笑いが漏れた。すぐさま「こいつ今笑たで」みたいな顔でフェイトを指さすはやて。焦るフェイト。

 

 デデーン  フェイト アウトー

 

「ああっ! そんなぁ」

「ついに!」

「来たで!!」

 

 この展開を待ってましたとばかりに嬉しそうに肩を組み出すフェイトの親友二人。友情とは複雑なものだ。

 記念すべき一打目にやってきたお仕置き隊員は……マッチョな男も裸足で逃げ出す筋力の持ち主、トーレだ。実に引きの良い執務官である。既に涙目だった。

 

「うう……ついてないよ……」

 

 トーレによって、壁に手をつきお尻を突き出すようなポーズをとらされるフェイト。模範的なお仕置き体勢である。

 ソフト棒を振りかぶるトーレに顔を向け、潤んだ瞳でフェイトは懇願する。

 

「お、お願い……やさしくしてね?」

「ッ……!」

「ひゃうん!?」

 

 パチーン、と小気味好い音を響かせ、トーレは早足で去って行った。痛そうに尻をさするフェイト。

 しかし、何度も喰らっているはやてには分かった。本来のトーレの一撃は、パチーンではなく、ボゴォ! なのだ。この贔屓には不満を隠せない。

 ……なんでやねん、明らかに手加減しとるやないか。「痛いねー」やないでフェイトちゃん、そんなもんとちゃうで。ていうかさっきトーレ、「フェイトお嬢様……」とか言って顔赤らめとったし、なんやの? そっちの趣味なん? まぁフェイトちゃんは確かに可愛いけどな、むしろ可愛いからこそお仕置きと厳しいジャッジが必要なのでは? この脚本家は全然わかってない、私に変われ。

 どうやらはやては叩かれ過ぎて情緒不安定気味のようだ。

 

「では次の第二訓練室へ参りましょうか」

 

 セレナに従って一行は、レヴィが一騎当千とばかりに無数のスカリエッティ人形をブッ飛ばし続ける様子に背を向け、この部屋を後にした。

 第二訓練室は少し歩いた先にある。廊下に出て歩き出す4人。

 

「あれ、こんにちは。みなさんも訓練ですか?」

 

 すると、後ろから声をかけられた。この声は、元機動六課のフォワードにして最近同僚のキャロより竜のフリードと仲が良いらしい、エリオ・モンディアルだ。

 

「あ、エリオ……ってあれ?」

 

 声に振り向くが……そこにエリオの姿は無い。おかしい、さっき確かに声がしたのに。

 

「僕もこれから訓練なんですよ」

 

 また背後から声がした。いつの間に追い越されたのだろうか? 不思議に思いながらも振り向くメンバー達。そして……

 

「あ、あれ!?」

「シグナムさんと一緒に」

「わっ!」

 

 またいない。と思ったらすぐ後ろから声がし、フェイトは驚いてそちらを見る。すると一瞬だけ、ピンボケした輪郭ブレブレのエリオらしき何かが見えたが、瞬きするとまたいない。

 

「稽古つけてもらってるんです」 「勉強になります」 「楽しいですよ!」

 

 後ろだけでなく、左右両方、なんと天井からもエリオの声がする。

 高速移動魔法を使用しながら、床だけでなく壁や天井をも蹴り、縦横無尽に飛び交いながら話しかけてきているのだ。声のした所へ振り向いても、いない。たまにチラチラと赤い髪が視界に入る。ダンダンッ、という壁を蹴る音と風切り音を鳴らしながらこうも四方八方から話しかけられると、すごく、うっとおしかった。

 

「ストップ! エリオ、ストーップ!」

「あ、はい」

 

 なのはの声で、ようやく動きを止めるエリオ。あれだけの立体的な機動をしておきながら本人は涼しげな顔だ。無駄なことに高レベルの実力を発揮するのはやめてほしいものである。

 

「皆さん、第二訓練室へ行かれるんですか? 僕もご一緒させて頂きますね」

「あぁ、うん……」

「では、行きましょう!」

《Sonic Mo……》

「ストォップ!! エリオ、落ち着いて! 普通に歩いて行こ? な?」

 

 懲りずに移動魔法を発動させようとするエリオに待ったをかけるはやて。何がそこまでエリオを駆り立てているのかは謎だ。

 妙にせっかちな彼をたしなめつつ、一行は第二訓練室へ向かうのだった。

 

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「紫電、一閃!」

 

 目的地へついた彼女たちが目にしたのは、剣の素振りに励むシグナムの姿だ。

 凛々しい顔つきと騎士の鑑のような人格、管理局内でもトップクラスの実力を持つ彼女は男女偏りなくファンが多い。今も、見事な剣技を披露していた。

 

「紫電……一閃っ!」

 

 何度も何度も繰り返し剣を振っているが、その度に、掛け声のイントネーションと剣の振り方を変えている。

 何やら鬼気迫るような雰囲気をまとっており、エリオはなかなか話しかけられない。無言でシグナムの訓練を見つめる一行。

 

「違うな……もっとこう、将っぽい感じで……」

 

 先ほどから何かが気になるのか、シグナムは難しい顔でぶつぶつ言いながら素振りをしている。

 どうやら――決め技をかっこよく魅せるために試行錯誤しているようだ。

 

「おおおおおッ! 紫電――!!! 一閃ッ!!」

 

 生暖かい視線に見守られていることに気付かず、いろいろと迷走したポーズを取り始めるシグナム。

 見かねたエリオが声をかける。

 

「これだ……! ……紫電!」

「あの、シグナムさん」

「いっせンッンー、どうした? エリオ」

 

 デデーン  全員 アウトー

 

 誤魔化すように咳払いをし、素早く佇まいを直すシグナム。全員吹き出してしまったが、その赤い顔をみると少し居たたまれない気分になる。

 

「く、ぶふふ……シグナム、シグナムはいつもかっこええよ……あいたっ!!」

「ったーーい!?」

「いひゃっ!」

「はい、次は会議室ですよー」

 

 3人が尻を叩かれているのを見届けたセレナは、ここの仕掛けは終わりだとばかりに案内を再開する。第二訓練室で目にしたものと言えば、シグナムの自主練習だけなのだが……。

 

「見学ってこんなんちゃうやろ」

「なんか雑だよね」

「巻きで行きますよ! ではお二方、失礼しまーす!」

 

 まだ恥ずかしそうな顔をしているシグナムと、エリオに見送られ、一行は会議室へと歩き出した。

 

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「ここがそうです。今日は本局から偉い人が来てるんですよ~。皆で見学させてもらいましょう!」

「それって重要なお話じゃないの……?」

 

 重役の会合など、末端の局員が傍聴していいものであるはずがない。無茶苦茶だった。

 セレナの言葉がそう思わせるのか、会議室の扉からは重苦しい雰囲気が漏れているように感じられる。大御所のにおいがする。

 

「し、失礼しまーす……」

 

 扉をノックし、はやてを先頭に入室するメンバー達。その部屋で待っていた大物局員達が、はやて達の眼に飛び込んできた。

 椅子に座っているのは、クロノ・ハラオウン提督、リンディ・ハラオウン統括官、レティ・ロウラン提督、そしてギル・グレアム元提督。あと、ユーノ・スクライア司書長。彼らの後ろにはアコース査察官と使い魔のリーゼ姉妹が立っている。

 こんな所に一度に集まるなどありえない面子だった。

 

「わ……グレアムおじさん?」

 

 数年ぶりに顔を合わせたグレアムは軽くはやてに微笑みかけた。

 はやてはとても暖かな気持ちを感じると同時に、こうも思った。何故こんなところで、尻を叩かれるところなんてグレアムおじさんに見られなければならないのかと。もっと立派に働いてるところを見せたかったのに。

 

「……ユーノくん」

 

 その声を聞いたユーノは軽くなのはに微笑みかけた。

 なのははとても暖かな気持ちを感じると同時に、

 

「……ふっ……んフフフフフッ……」

 

 デデーン  なのは アウトー

 

「お、思い出し笑いしちゃった……もう私、ユーノくんの顔見るだけで痛ーいッ!!」

 

 どうやらユーノは巨大フェレットから元に戻れたようだ。あの出来事を踏まえると、今の何事も無かったかのような爽やかスマイルが笑いを誘ってくる。

 それにしても、実に大物揃いの会議室だ。さらにグレアム元提督まで呼びつけるなど、本格的にこの企画が一体どのようにして成されたのか分からない。彼ら以上の地位にいる人間がこの企画の首謀だとでもいうのか。

 考え込む3人を他所に、セレナが話を進める。

 

「では、なのはさんとフェイトさんはあちらのイスで見学、はやてさんはこちらの空席に座って会議に参加してもらいます」

「……へ?」

 

 こちらの空席とは、笑いの仕掛け人にして上官の彼らと同じ席のことである。一人分だけ空いている席があった。

 

「本当は教会騎士団のカリム少将にお越しいただく予定だったのですが……『円卓にて振る舞われるのは、甘き優しさに潜む深緑の悪夢……まさか!?』とか言ってオファーを断られたんですよ」

「い、いや……なんで私が」

「八神二佐は海上警備部の司令官じゃないですか! 偉い人ですよ。ささ、どーぞ」

「はやてちゃん、がんばってー」

「見守ってるよー」

 

 よくわからない理由で、はやても会議に参加することになった。絶対に何らかの苦難が降りかかることだろう、今日はとことん自分にとって理不尽な日だ。既に他の二人は安全圏から鑑賞する姿勢である。腹立たしい。

 だが――グレアムおじさんの前では無様は見せられない。腹をくくって、はやては席に着いた。

 それを見届け、クロノが重々しく語り始める。

 

「よし、それでは今日の議題ですが――」

「あ、そうだ。ケーキ、食べる? 自作ものだけど」

「……だから、僕は甘いものは苦手だというのに」

 

 しかし、いきなり出鼻をヴェロッサによって挫かれた。魔法でケーキの箱を取り寄せ、机の上に置くヴェロッサ。まぁクロノがケーキを苦手だとしても、ありがたい差し入れではある。甘いものでも摂って気持ちを落ち着けられたら良いな、とはやては思った、のだが。

 

「大丈夫。甘さ控えめ。激辛ワサビ入り」

『え?』

 

 次の瞬間、軽快なBGMと共に、空中に大きなテロップが投影された。

 

『ドキッ! 高官だらけのワサビ入りケーキ・ロシアンルーレット!』

 

 急展開に動揺を隠せないはやて。いや……他の参加者たちも、戸惑っている様子だ。ユーノなどは「聞いてないよ!」とはっきり顔に書いてあり、青ざめている。

 いつの間にかマイクを手にしているヴェロッサと、机に皿を並べだすリーゼ姉妹。

 

「ルールは簡単。自分たちで順番を決めて、そこにある6つの一口大のケーキを一人一個ずつ食べてください。ただし、どれか一個には激辛のワサビが入っています」

「もう会議関係ない!?」

 

 ツッコミを抑えきれないはやて。だが……周りの高官たちは一瞬動揺したものの、すぐさま事態を理解し、冷静な表情になった。流石は管理局でここまで上り詰めて来た方たちである。

 しかし彼ら本局の高官たちにワサビケーキを食べさせようとするなど、なんと怖いもの知らずの脚本家だろうか。相手がレジアス中将あたりなら首が飛んでもおかしくはない。

 

「……リンディ、甘いものお好きでしょ。どうぞ」

「あらやだそんなことないわ。レティこそお先に」

 

 既に腹の探り合い(?)を始めている参加者たち。最初に食べる役を押し付けあっている。

 

「君なんかいつもワサビみたいな色の服着ているだろう。魔力光だってワサビ色じゃないか。さぁユーノ、遠慮せず行け」

「フェレットに薬味を与えるなと習わなかったのかい? 君が行けよ、ハードボイルドなキャラでやってるんだろ。ワサビくらい平気じゃないか!」

「んぐっ、むふふ……」

「ふひゅっ」

 

 仁義なき彼らのやりとりに思わず笑ってしまうなのはとフェイト。(※既に笑ってしまいましたがこのままお楽しみ下さい)

 と、ここでグレアムが重い口を開いた。

 

「私が行こう。先陣を切るのは老兵の役目だ……後は、若い者に任せるさ」

「グレアムおじさん……」

 

 彼ははやてに目配せをし、自ら危険へと赴くと言う。やはり人格者だ。はやては感激した。

 他の提督たちも感じ入ったのか、クロノが立ち上がって言った。

 

「そんな。大恩あるあなたに、そんなことをさせるわけにはいかない。……僕が、いきましょう」

 

 するとそれに感化されたのか、他の参加者たちも次々声を上げる。

 

「あら? じゃ私が行こうかしら」

「……いや、でしたら僕がやりますよ」

「私がいきましょうか」

「いいや、私が……」

 

 わかっていたことだがやはり皆、人の良い人間ばかりだ。そしてはやてもまた、グレアムにワサビ入りケーキを食べさせるくらいなら自分が当たっても良いと考えている。

 だからここで皆と同じように名乗り出たのは当然のことだった。

 

「あの、私が行きますよ」

『どうぞどうぞどうぞ』

「コラァーッ!! なんやこの流れ!!!」

 

 一斉にどうぞと譲る高官たち。あまりの仕打ちに、はやては上官達に全力でツッコんでしまう。それも仕方のない事だろう。

 それを楽しそうな表情で見ているグレアムと目が合い、何もグレアムおじさんまでこんなネタに乗らなくても良いのに……と恥ずかしそうなはやて。

 

「もう……じゃあ、い、行きます」

 

 まんまとトップバッターに選ばれてしまったので渋々ケーキに手を伸ばす。

 これか……いや、これか……? 仕掛け人たちがああも一番手を嫌がったということは、もしや全部にワサビが入っているのではないか……? 疑心暗鬼がはやてを襲う。

 ワサビは嫌だ。これだけお尻を叩かれて、その上刺激物など口にしては――最悪、切れ痔になってしまうんじゃ? それだけは嫌や……! いくら入院慣れしていても、お尻の治療で入院はしたくないはやてだった。

 長い時間をかけ一つを選びだしたはやては、当たりませんようにと聖王に祈りを捧げながら、ケーキを、口にした。

 ……会議室に緊張が流れる。

 

「……!! ……セェエエフ!!!」

 

 はやてが口にしたのは普通の美味しいケーキ。安心感のあまり涙が出そうになったが、ぐっと堪える。自分以外のほぼ全員が落胆したような表情になっていたが気にならなかった。

 

「よかったね、はやて。さて、残りの皆さんには、食べるケーキを順番に決めて頂いたのち、一斉に口にしてもらいましょうか。巻きでいきましょう」

 

 再び、重苦しい空気が部屋中を覆った。参加者たちは目で合図をするのみで順番は決めず、思い思いのタイミングでケーキを手にする。見た目や重さからは全く違いが判らず、どの順でどれを選んでも結局は運の勝負なのだ。

 全員にケーキが行きわたった。腹芸の得意なリンディや普段冷静なクロノも、緊張の面持ちを隠しきれていない。

 

「皆さん選びましたね?……それでは、どうぞ」

 

 ヴェロッサの一声で、一斉に、ケーキを口に運んだ。

 長く無言の状態が続く。一体、誰が当たりを引いたのだろうか。

 

「……あれ?」

 

 全員食べ終わった様子だが、誰も苦悶の声は上げない。ワサビに当たった誰かが我慢をしているのだろうか。

 

「……僕はセーフだ」

「僕も」

「……私も平気よ」

「ヴェロッサ君、このケーキ美味しいわ」

「はは、ありがとうこざいます……」

 

 ……そして、全員の目が彼に向けられた。ケーキを口にしてからは微動だにしない、ギル・グレアムに。

 

「……いや? 私は、平気だが?」

「じゃ、じゃあ……」

 

 グレアムは顔色一つ変えずに平気だ、と言う。最初から全部、ワサビは入っていなかったということなのか。そう確認するように、ヴェロッサに視線が集まる。

 

「いや、そんなはずは……」

 

 その時、ヴェロッサの視界の隅に崩れ落ちる人影が映った。同時に、ドサッという人が倒れたような音がして、全員がそれに気づき、倒れた人物たちに駆け寄った。

 

「リーゼ!? だ、大丈夫か、おい!」

 

 進行のアシスタントをしていたはずのリーゼロッテとリーゼアリアだが、泡を吹いて気絶している。何が起きたのかわからず焦る参加者たちの中で、一人落ち着き払った彼は照れたように頬を掻きながら笑い出した。

 

「いやあ、はっはっは。どうやら味覚がリーゼ達にフィードバックしてしまったらしい。こんな風にバレてしまうとは」

「え……グレアムおじさん、まさか」

「日本には様々な食文化があるのだな。なんとか辛いのは我慢したのだがね……」

 

 ドキッ! 高官だらけのサビ入りロシアンケーキ! で当たりを引いたのは、グレアムだった。

 本人は当たったのが悔しく、ちょっとした悪戯として嘘をついたようだが、何故か使い魔のパスを通じてリーゼ姉妹に刺激が飛んだらしい。とんだとばっちりである。

 

「おじさん、猫にネギとかワサビはあきませんよ?」

「ああ。リーゼ達には後で謝るとしよう」

「僕に当たらなくて良かった……」

「セレナ、こういう恐ろしい企画はやめてくれと言っておいてくれ……」

「あら。私は結構楽しかったわよ? ……グレアムさん、大丈夫ですか?」

「なに、心配ないよ。だが英国人でなければ駄目だったかもしれないな、ハハハ」

「では、これにて会議終了ですね」

 

 デデーン  なのは フェイト アウトー

 

 リーゼ姉妹の犠牲だけで済ませ、明るい空気のまま会議室を出られそうだと思ったメンバーだったが、そうはいかなかった。

 

「えー! 見逃してくれたと思ったのに!」

「後からまとめてやるんだね……」

 

 高官たちが見守る中、二人の尻を叩きに現れたのは――ナンバーズ4番、メガ姉ことクアットロだ。姉妹の中では最も罪状が重いはずだが……まぁ、そんなことは最早関係無いようだ。

 クアットロは現れるなり、すぐさまフェイトの尻を「んひゃう!」叩き、なのはの元までやって来た。その顔には悪ガキのような表情を浮かべている。

 

「……いたっ! ……へぶっ!?」

 

 なんと、メガ姉はルール通りなのはの尻を一打するだけでなく、その後尻を蹴とばし、逃げるように去って行った。なのはは床に顔からつっこむ形になり、場の空気が凍る。

 

「あの子はなのはちゃんに恨みあったんやろなぁ」

「だ、大丈夫ですかなのはさん。お仕置き隊の皆さんには真面目にやるように言っておきますので……ヒッ!?」

「……次……あの子来たら……怒る……」

 

 顔が下の方にあるからなのか、地の底から響くような唸り声をあげるなのは。聞く者に恐怖を感じさせるような、冷たい怒りを孕んでいる声。

 その場の全員が引きつったような表情になりながら、重役会議は閉会となった。何も会議などしてはいないが。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 見学の時間を終えた一行は、休憩室に戻ってきていた。少しの時間しか経っていないのにどっと疲れた気分の3人。部屋の扉を開け、自分の席に座ろうとする。

 

「……うわー、はい出ました。こういうしょうもない嫌がらせ」

 

 なのはとはやての机の上。そこにはそれぞれの引き出しの中に仕舞ったはずの、あの忌まわしき二つのボタンが置いてあった。

 

「やだ、もうこのボタン触りたくないよ」

「同感や……」

 

 もう一度押すなどということは、絶対にありえない。再び引き出しに入れてしまおうと、自分の机に向かうはやて。

 文句を言いながら苛立ち気味に引き出しを開け放った。

 

「まったく、もうこんなボタン見たくもないねん――ふひぇっ、はーーっ、はっ、んッ、ンフッ、フフフアハハハ……」

 

 デデーン  はやて アウトー

 

 はやてが開けた引き出し。空のはずのそこに仕舞われていたのは――

 真顔ではやての顔を見つめてくる、リインフォースⅡだ。

 

「は、リ、リイン、中でスタンバイしとったん? プフフ……あいたぁっ!! ふふ……」

「助かった……これは誰でも笑っちゃうよ」

 

 真顔のまま引き出しから飛び立ち、リインフォースはそのまま無言で休憩室から出ていった。仕掛け人というのも大変だ。

 ……そして、今度はなのはの引き出しに注目が集まる。そこに仕舞ったボタンもまた、机の外に出ているのだ。同様の仕掛けがあるとみていい。

 

「今のを踏まえると、アギトが収まってる可能性もあるな」

「……じゃあ、開けるね……」

 

 深呼吸をし、なのはは引き出しを開ける。ボタンは目に見えない場所にしまいたいし、仮にアギトが入っていたら開けないと可哀想だからだ。……いけない、想像しただけで笑いそうだ。

 

「……えい!」

 

 気合と共に開け放たれた引き出し。なのはの視界に飛び込んできたものは……

 深緑の瞳でこちらを見つめてくる一匹のフェレット。

 

「ブフーーッ!!!」

 

 デデーン  なのは アウトー

 

「ど、どうやって先回りを……んへっ、えひぇひぇひぇ……いたーっ!?」

 

 引き出しに収まっていたユーノは「失敬!」とだけ残し、俊敏な動きで部屋を去って行った。再三に渡り登場するとは、もうなのはを狙い撃ちに来ているとしか思えない。

 

「ここでユーノくんは卑怯だよう……」

「大丈夫? なのは」

 

 散々叩かれ、涙目で痛がるなのはに駆け寄り、声をかけるフェイト。しかしよく考えてみればまたフェイトの引き出しだけ仕掛けが無い、それを察するとジト目でフェイトを睨むなのは。

 素早く一歩踏み込み、フェイトの脇腹に手を伸ばした。

 

「こちょこちょこちょっ」

「ちょ、あ、なのはっやめ……! あははは!!」

 

 デデーン  フェイト アウトー

 

「こんなの酷いよ!? ……きゃんっ!」

「実力行使」

「流石なのはちゃんや……!」

 

 まるで一仕事やってやりましたと言わんばかりのドヤ顔を見せるなのは。何も悪いことはしていないフェイト本人にとっては理不尽だった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 休憩時間を思い思いに過ごす3人。だが、その平穏は隊舎中に鳴り響くアラーム音によって終わりを告げられた。

 どうやら緊急事態のようだ。現役の魔導師である3人はすぐに警報に反応し、表情を強張らせる。

 

「みなさーん! 大変です! 凶悪な指名手配犯が隊舎の裏庭に現れましたあ!」

 

 管理局隊舎に犯罪者が出現? そんなことが起こり得るのだろうか。そいつはわざわざ捕まりに来た阿呆なのか。

 

「犯人は一名です! なのはさん達はフォワードチームと合流し、逮捕に向かってください!」

 

 一名。こういうのを飛んで火にいる夏の虫というのではないか。

 色々とツッコミ所をスルーして指示に従い、出撃のため3人は走り出した。隊舎の裏口へと向かう。

 その途中で、横合いから声をかけられた。

 

「フォワードチームのスバルです! 力を合わせて犯人を捕まえましょう!」

「あ、スバル……じゃあフォワードってもしかして」

「はいっ。他の3人も現場に向かっています!」

 

 どうやらチームというのは、元機動六課のフォワードたち4人のようだ。

 なのはが手塩にかけて育て、その後も成長を続けているストライカー達。さらにオーバーSランクの魔導師が3人だ。犯人1人に対して過剰な戦力である。

 

「行きましょう! はやてさん! フェイトさん! なのはさンフフフ」

「ああッ! スバル、笑ったね!? もうっ……!」

 

 着ている本人は忘れかけていたが、なのはの格好はSt.ヒルデ魔法学院初等科の制服である。初見の人間に対する破壊力はいまだ健在だ。

 スバルにも後で報復してやろうと考えるなのははこの数時間のうちに寛容さを失ってしまったようだ。

 

「あそこです!」

 

 スバルの誘導に従い、現場に辿り着くメンバー達。すでに他の3人――ティアナ、キャロ、エリオは、指名手配犯の男と対峙していた。

 

「ん? やぁ、よく来た!」

「うっわ、出たー……」

 

 はやても思わず嫌そうな顔をする人物。狂ったような笑みを顔に張り付けたその男の名は……ジェイル・スカリエッティ。確かに、歴史に名を残す凶悪犯罪者だった。

 ……もう何故彼が留置場の外に出てきているのか気にならないメンバー達3人は、かなりこの企画に毒されてしまったのかもしれない。特にこの男と因縁があるはずの執務官殿は、先のレヴィによる華麗なバッティングを思い出し、笑いを必死にこらえて不自然なほど凛々しい顔つきになっていた。

 

「なのはさん達は、私の横に並んで下さい。あ、横一列で。そのまま動かないで下さいね」

「う、うん……」

 

 スバルの指示通りに並ぶ。すると7人が横一列に並ぶという、連携も何もないフォーメーションが出来上がった。実戦ではこのようなポジショニングはしない。例によって笑いのための陣形ということだろう。

 並んだのを見届け、スカリエッティはまず端に並ぶはやての前まで移動し、口を開いた。

 

「それにしても素晴らしい! 君たちは非常に興味深い人間だ。闇の書の主にエースオブエース……両名とも同じ管理外世界の出身でありながら、高ランクの魔導師だ!」

 

 そのまま横に、一列に並ぶ彼女たちを順繰りに観察するように、一人一人の顔を見ながらゆっくりと歩を進めていく。

 

「タイプゼロにFの遺産たち……! おおっ、真竜の召喚士まで!」

 

 そして、どんどんテンションを上げながら、はやてとは反対側の列の端に位置する、ティアナの目の前までやってきた。

 

「………」

「………」

 

 しかしスカリエッティは無言でティアナをスルー。

 一人だけ無視されたティアナはというと、しょんぼりと悲しそうな顔になっていた。

 

「……んフッ」

「フフ」

 

 デデーン  なのは はやて アウトー

 

「ちが……ティアナ、私は別にティアナのこと馬鹿にしてるわけじゃないよ! フフッフッ」

「ティアナ、そんなあからさまにしょぼくれた顔せんといて、いっっ!!」

「いたっ!……いな、もうっ! ごめんねティアナ?」

 

 二人のお尻を叩いた後、久しぶりに顔を合わせたのだろうか、スカリエッティに向けて挨拶するように少し手を上げて合図し、セインは去っていった。神妙な表情でそれを見届け、スカリエッティは口上の続きを話し始める。

 

「それで、はるばるこの隊舎まで私がやって来たのは――」

「みなさーん!! 超大変です!」

 

 しかし、休憩室に残っていたはずのセレナが割って入り、ドクターの演説は中断された。

 やってきたセレナは息も絶え絶え、いかにも緊急事態といった様相だ。

 

「セレナ? 一応今、捕り物中なんだけど……」

「そんなドクターに構ってる場合ではありません! 緊急事態なので、3人は今すぐついてきてください!」

「あれ、いいの……?」

 

 フェイトがちらりと視線を向けると、スカリエッティは何やら不満そうな顔だ。

 しかし3人を促すようにティアナが、とてもテンションの低い声で言った。

 

「この人は私たちが捕まえておきますから、なのはさん達は行ってください……」

「う、うん。わかったよ」

「あの、私の出番は……」

 

 聴こえてきたスカリエッティの声を無視し、3人はセレナに追従してその場を後にした。

 

 道中、フェイトはセレナに説明を求める。

 

「一体何があったの?」

「すぐそこの敷地内に3体の巨大怪獣が現れたんですっ! よく見える屋上に向かいましょう!」

『怪獣!?』

 

 それは……なんという超展開なのだろう。『新人管理局の一日』がここまでハードであっていいものなのか。

 階段を駆け上がっていく一行。一応武装隊所属なだけあって意外と体力のあるセレナを先頭に、運動不足気味のはやては少し遅れたり、それを見たフェイトが昔はなのはも運動音痴だったなぁと呟いたりするという一幕を挟みつつ、4人は屋上へとたどり着いた。

 そこで彼女たちが目にした光景は。

 

「グオオオオオオオオッ!!」

「キシャァアアアアアア!」

「えっ、ちょ……キュ、キューッ!?」

 

 怪獣大決戦! 白天王VSヴォルテールVS巨大フェレット。

 というか2体の召喚獣に苛められている、巨大化したユーノだった。

 

 デデーン  全員 アウトー

 

「またでっかくなっとるし。今日ユーノくん大活躍やな……あいっ!! つう~……」

「こ、これは……! ふふっ、もう……ユーノく、うひゅっ、くく……息……出来ない……」

「あ、チンク……少し弱くして? ……ひあっ!」

 

 約一名、どうもツボにはまったのか、笑いすぎて死にそうな人間がいるが大丈夫なのだろうか。

 それからしばらくして、フェレットを軽く攻撃していた二体の召喚獣が、動きを止める。そして……地面に、正座した。

 屋上からよく目を凝らしてみると、ヴォルテールと白天王の視線の先には小さな人影が見える。

 召喚士の、キャロとルーテシアだ。正座したそれぞれの召喚獣の前で、手などを振り回して暴れている。

 なるほど、どうやら説教されているようだ。召喚士の命令を無視して暴れてでもいたのかもしれない。

 

《誰か助けて……力を貸して、魔法の力を……》

 

 最後にそんな内容の念話を発信し、傷ついた巨大フェレットは消えていった。おそらく元の大きさに戻ったのだろうが、一体どういうストーリーなのかさっぱりである。

 なのはは深呼吸をし、脳内にチラつくフェレットの影を振り切り、己を落ち着けた。

 

「ふーっ、ふーっ……耐えた!」

「どうやら事態は収束したようですね、休憩室へ戻りましょうか」

 

 休める。その言葉を聞き、3人は再び安息の部屋へと戻っていった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 開始からどれだけの時間が経っただろうか、メンバー達は体力、精神力ともに限界に近づいていた。

 そして部屋の外から足音。また、セレナがやって来る。今度は何かと身構える3人。

 

「なのはさん、フェイトさん、はやてさん……お疲れ様でした! これで研修は終わりです!」

「……ほんと?」

「……やっ……たあぁ~……」

「疲れた……」

 

 ついに、この地獄にも終わりの時がきた。

 彼女たちは耐えきったのである。安堵し、涙すら流れそうな感動が、そこにはあった。

 セレナに案内され、隊舎の出入り口まで移動するメンバー達。

 

「さて……改めまして、本当にお疲れ様でした。ここで日程は全て終了です」

「リインフォース……見てる……? 私、泣かへんかった……強くなったよ……!」

「やっとこの服から解放される!!」

「それにしてもこの企画、一体何だったの……?」

 

 メンバー達も緊張から解放され、ようやく本当の安らぎが訪れる。

 と、セレナはどこからともなく看板を取り出し、はやてに見せた。

 

「ここで解散にしましょうか。はやてさん、これを声に出して読んでください」

「ええと……『せやけどそれは、ただの夢や』……?」

 

 口にした瞬間、はやての身体が淡く光りはじめ……そのまま無数の粒子となって消えてしまった。

 

「……えっ!? まさか夢オチなの!?」

 

 なのはもまた、光の粒となって消えてゆく。親友が次々消える光景を目の当たりにして、一瞬混乱するフェイト。

 しかし……なんとなくだが、やっと分かった。これが夢なのだということが。

 

「では、本当にお疲れ様でした、フェイトさん!」

 

 セレナも敬礼しながら別れを告げ、同じように消えた。……だが、中々フェイト自身の身体は消えない。どういうことだろう。

 困惑するその背中に、フェイトが昔耳にしたことのある、懐かしい声がかけられた。

 

「フェーイトっ、今日は楽しんでもらえた?」

「……アリ……シア……?」

 

 過去の己と全く同じ姿の少女。プロジェクトFによって生まれてきた自分にとっては、クローン元であり、姉。

 幼いころ、闇の書の夢の中で会った彼女、アリシア・テスタロッサがそこにいた。

 なるほど。アリシアが出てくるなら、それはなんでもアリなわけだ。こんな風に登場したのなら、何か自分に言いたいことがあるのだろう。

 残っていた疑問も晴れ、フェイトは久々に会えた姉と話すことにした。

 

「……もしかして、アリシアがこの夢、みせたの?」

「そう。わたしこそが、この番組の監督。脚本家にしてジャッジマンにしてディレクターにしてスペシャルパーソンなのだ!」

「そうだったんだ。はやて、怒ってたよ? 脚本担当出てこい! って」

「ええー、ハヤテはカンサイジンなんでしょ? あれぐらいの扱いは、むしろオイシイって感謝されるべきじゃない?」

「そうかな……なら、いいのかな」

 

 余談だが、このアリシアの持っている知識はあくまでフェイトと同じである。つまりはやては普段からフェイトにそういう目で見られていた可能性があるということだ。

 

「おっきくなったねー。これじゃあますますわたしの方が妹みたいだなぁ……」

「そんなことないよ。アリシアは今でも、笑顔が可愛い、私の大好きなお姉ちゃん」

 

 背を屈めて目線を合わせ、優しく頭を撫でる。しかしアリシアは頬を膨らませ、不満げな顔だ。

 

「むぅ。背ばっかり大きくなっちゃって。お姉ちゃん的には、ちょっとしたくつじょくだよ?」

「あぁ、ごめんね怒らないで? ……あ、ほら、シャーリーから貰った飴玉あげるから、許して?」

「……よろしい。この場はこれで、てうちとしましょう」

 

 制服のポケットを探ると、何故か飴が出てきた。まぁ、実際子供達によくあげたりしているので、夢であろうとこれは自然なことだ。

 飴を受け取ったアリシアは嬉しそうに顔をほころばせ、右手でフェイトの左手を握った。

 

「少し、歩こうか」

 

 手を繋ぎ、二人は当てもなく歩き出す。

 

「ねぇフェイト? 最近、あんまり笑ってなかったんじゃない?」

 

 言われてみれば、そうかもしれない。この頃は次元世界の治安も悪くなってきており、自分は『魔道殺し』関連と思われる凶悪事件にも関わっている。仕事に忙殺されてミッドチルダの家にも帰れず、少々疲れていたかもしれない。

 しかしそれは、仕方のないことだ。

 

「まぁそうだけど……わたしは、フェイトにはいつも笑っていてほしいって、思うんだよね。だからさ……」

 

 くるりと振り向き、アリシアはこちらをじっと見つめながら、言う。

 

「笑って。フェイトは、笑ってもいいんだよ」

 

 ――ああ。そんなこと、知っていたはずなのに。こんなにも響くのは何故だろう。

 ……それくらい、こんな変な夢を見せてまで言うことじゃないだろうに。全く、ヘンなお姉さんだ。

 

「……ありがとう、アリシア」

 

 そうして、フェイトは微笑んだ。

 ようやくこぼれた自然な笑顔を前に、アリシアは――

 

 ――してやったり、と悪戯っぽい笑みを浮かべた。

 

「ババーン!! フェイト、アウトー!」

「え……えぇーーッ!?」

 

 高らかに宣言するアリシア。台無し過ぎる。天真爛漫な姉に、フェイトは頭を抱えたくなった。

 

「ああ、フェイト……こんなにも立派になって……!」

「リ、リニス!? なんで!?」

 

 どこから出てきたのか、リニスは成長したフェイトの姿を見て、涙を流しながらフェイトの姿勢を四つん這いの形に持って行く。

 

「フェイト……ごめんなさいね、あんまり痛くしないから」

「か、母さん!? 嘘っ……!」

 

 さらにいつの間にかそこにいたプレシアが手に持っているのは……フェイトにとって色々と思い出深い、ムチ型のデバイスである。

 何をされるのか察したフェイト。逃げようとするが、リニスによって抑えられ、抜け出せない。

 

「あの! ちょっと、待っ……」

「さらばだ妹よー! 元気でねっ!!」

 

 最後に見えたのは、花が咲いたような笑顔で手を振る姉の姿。

 そして、鋭い感覚が尻に走り――――

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 その日。ミッドチルダの高町家では、久しぶりにフェイトを加えての団欒を満喫しているようだ。

 楽しそうに笑っているなのはが見ているのは、全体的に緑色の夕食に阿鼻叫喚するヴィヴィオ。そんな二人を見守るフェイトも、笑顔だ。

 

 

 これから先何があろうと、こんな日々が続けば良い。そう、私は思う。

 

 

 私たちが笑っていてもいい、そんな日常が――――。

 

 

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