ウルフウッドアーカイブ   作:タニシ・トニオ

1 / 88
25/01/26誤字修正
25/11/24誤字修正
25/12/20挿絵挿入
挿絵挿入した話には★をつけようと思います。


対策委員会編序章:白紙の切符
01_プロローグ_★


 砂まみれの教会で、赤いコートに身を包んだ男が穴を掘っていた。人一人がすっぽり入るような穴を掘り終え一息つくと、先ほどまで座っていたソファーを見る。そこには礼服に身を包んだ男が事切れていた。赤いコートの男、ヴァッシュ・ザ・スタンピードはその男へと重い足を引きずるように向かっていく。

 

(不思議な男だった。懐にづかづかと入って来たかと思えば深いところで意見が真逆に対立した。だが……)

 

 ヴァッシュはウルフウッドの前に立つ。

 

(あの時……GUNG-HO-GUNSの一人、雷泥・ザ・ブレードと対立した時。君と……意見がぶつかったあの時、僕と君が更に深い所で近しいことを知った)

 

「だから思ったんだ。全てやりとげた明日を君と分かちあいたいと……本当なんだぜウルフウッド」

 

 涙がこぼれそうになる。しかしまだ駄目だとヴァッシュは自分に言い聞かせた。震える手ではウルフウッドを運べない。彼の体は『ミカエルの眼』の秘薬の過剰摂取により破壊と再生を繰り返しグズグズになっていた。その体をヴァッシュはガラス細工を扱うように慎重に慎重に抱きかかえ、先ほど掘った墓穴へと運んで行く。ウルフウッドをそこへ寝かせてからヴァッシュは添えるものがないことに気づいた。

 

(花かなにかないかな……)

 

 周りを見渡すがやはり砂の惑星で花などそうそう見つかるものではない。しかし代わりになりそうなものをヴァッシュは見つける。それはウルフウッドのために子供たちが撒いた紙吹雪の一片。ウルフウッドへの祝福。はたから見ればたたの紙切れだが、きっと彼には抱えきれないほどの花束よりも価値のあるものだろう。そう思い、ヴァッシュはウルフウッドの左手にそれを添える。

 

(切符みたいだ……)

 

 添えた紙片を見て思う。そういえば地球のある国ではあの世に行くための運賃を添えるのだという話を思い出す。運賃とは少し違うが、君を楽園へと送ってくれる切符になってくれればと思う。

 

「君は自分には地獄がお似合いだって言うかもだけどさ……それでも……」

 

 それでも、あんまりじゃないか。無理やり鬼にさせられて、それでも鬼に成り切れなくて、心が悲鳴を上げながら子供たちのために決断をし続けて……そんな地獄を生ききった友人の、死後の安寧ぐらいは祈らせてくれよ、ウルフウッド。

 

(ああ……、神様、神様、せめて彼の旅路に幸を……お願いします)

 

  ヴァッシュはウルフウッドの左手が壊れぬように丁寧に指を折りたたみ、白紙の切符を握らせる。そして彼の埋葬を済ますと同時に、もうウルフウッドとは会えないのだという喪失感に襲われた。堰を切ったように涙があふれてきてしまう。

 

「ごめん、ウルフウッド。ここのみんなは守るから…だから……」

 

――だから今だけは泣かせてくれないか。

 

 そのコートと同じ色の夕日に照らされながら、ウルフウッドの墓石に縋りつくようにヴァッシュはただただ涙した。きっと彼がいれば「うるさいでトンガリ」という怒号を浴びせられただろうが、もはやそれは叶わない。ただ静寂の中、ヴァッシュの嗚咽だけが響いていた。

 

◇ ◇ ◇

 

(遠雷が彼方の空で鳴っとる――)

 

 その音でウルフウッドは目を覚ます。そしてバイクとも自動車とも、砂蒸気機関車とも違う見慣れない乗り物に乗っていることに戸惑いを覚える。

 

(どこやここ……確かワイは教会でマスター・チャペルらと戦って……そして死んだはずや。薬の二本同時使用で体がおかしなって終わったはず……)

 

 辺りを見回す。知らん乗り物や。ソファみたいな椅子はなかなかええ座り心地やな。あのぶら下がっとる輪っかはなんやろ?

 そんなことを思いながら窓の外の景色に視線を移す。そしてその景色に息を飲んだ。

 

――どこまでも透き通った青い空

 

「……きれいやなぁ」

 

 思わず声をこぼしてしまうほどの景色。ノーマンズランドでは絶対に見られない光景を見てウルフウッドは確信する。

 

(やっぱりワイ、死んだんやなぁ。地獄行きの乗り物にしてはちと綺麗すぎる気がするけど……見納めとけっちうことなんやろか?)

 

「……お客様、切符を拝見させていただけますか?」

 

「うわぁッ! ビックリしたぁ!!」

 

 先ほどまで確かに誰もいなかったはずの空間から急に声をかけられ、ウルフウッドは思わず飛びのく。セリフからして恐らく車掌と思われる人物は顔を知覚することができず、うすらぼんやりと人の形をした何かが制服を身にまとっているような出で立ちだった。ただまあ、あの世の案内人ならばこんなものかとウルフウッドは考え直す。

 

「あー、すまへん。ワイ、これに乗った記憶なくてやな……ちなみにこれ、どこ行きなん?」

 

()()です」

 

「……方舟やて? アカンわ、ワイには乗る資格があらへん。救済の切符なんかワイ持ってへんで」

 

「いえ、あなたは確かに切符を持っていますよ」

 

 車掌はウルフウッドの左手を指さす。無意識に握りしめていたそれを広げると、そこには一枚の紙片があった。

 

「これは……」

 

「かの力の影響で門は開かれました。ニコラス・D・ウルフウッド様、慎重を尽くしてあなたをキヴォトスへと送迎します。貴方はそこである所へ行って狼煙を上げてください」

 

「いやいやいやいや、何言ってんねん、さっぱりわからへん」

 

「すみませんがこれ以上お伝えすることはできません。なるべくしてなるかどうかが肝心ですので」

 

 車掌らしきソレは白紙の切符を取り、それを切る。

 

「狼煙を上げるまで辿り着くかはあなた次第です。九千九百九十九億九千九百九十九万九千九百九十九分の一をお掴みください。まもなくキヴォトスへ到着します」

 

◇ ◇ ◇

 

「ホシノちゃん、ごめんね、またコンパス忘れちゃった……」

 

「私の手帳は、あそこにあるから……」

 

「ホシノちゃん、私は……ホシノちゃんにまた会いたいよぉ……」

 

 砂漠にある岩陰の中で梔子ユメはうずくまることしかできなかった。脱水症状による衰弱で体に力は入らず、死が一歩一歩近付いていることがわかる。もう助からないかも、そんな考えが頭をよぎった時だった。

 

「……あれは、人影?」

 

 もしかしたら頼りになる後輩が来てくれたのかと思ったが、それにしては大きいのでその線はなさそうだ。ホシノちゃんはもうちょっと小さくて可愛い。いや、そうじゃない、人がいる。誰かがいる。

 一縷の望みにかけてその人影へとユメは駆け出していく。

 

「あの~、あの~!」

 

 カラカラに掠れた喉から必死に声をひねり出す。それが伝わったのかその人影の人物はユメのほうを振り向いた。気づいてもらえた、その嬉しさがユメの歩みを軽くする。

 

「「助けてください(くれ)! 遭難しちゃって(してもうて)!!」」

 

「「……えっ」」

 

 ――静寂

 ユメも、その人物も固まる。遭難者が一人から二人になった、ただそれだけであった。

 

「アッカーン!!」

 

 人影の主、ニコラス・D・ウルフウッドの声が砂漠の中に響き渡った。

 

◇ ◇ ◇

 

 パニッシャーはある。ハンドガンもある。薬は三本。装備は『あの時』と同じモン。そこまでは理解できた……が、それ以外がさっぱりわからへん。ここはどこや? なんでワイは砂漠におんねん? なんもかんもサッパリや。

 

 たまたま遭遇した少女と共に岩陰へ避難する。

 

「ちょい、情報を整理させてくれへんか? ワイの名前はニコラス・D・ウルフウッド、流れの牧師をしとる。その……なんでここにおるか、ここがどこかも分からへん。絶賛遭難中や」

 

「えっと、私は梔子ユメ。アビドス高等学校の三年生で、その……私も絶賛遭難中なの……」

 

「お互い、状況は絶望的っちゅうわけやな」

 

 重い沈黙が訪れる。その気まずさを変えるためかユメが話を振る。

 

「……ニコラス君は牧師って言ってたけど、もしかしてトリニティの生徒なの?」

 

「トリニティ? どこやねんそこ。生徒って学校のか? そない上等なもん通ってへんよ。……ちうかなんで君呼びなん? どう見たって年上やろ、ワイ」

 

「え、年上なの? ごめんなさい、同い年ぐらいかと思って……ヘイローもあるし……」

 

「は? どこをどう見たらそない……ヘイロー? ……鏡とかあったりするか?」

 

「えと、手鏡でよければ……」

 

 ユメから鏡を受け取り、映り込んだものを見てウルフウッドは絶句する。

 

(肉体が若返っとる!? いや、ホンマの年齢に合っとるんか!? てか、頭の後ろの光輪はなんやねん!? 嬢ちゃんに付いとるアレと似たようなモンあるやんけ! アレ幻覚やなかったんやな……いや逆に今の状況がすでに夢か幻なんちゃうか? )

 

「……もうホンマ訳わからん。もしかして、すでにここはあの世なんか?」

 

「ひぃぃぃん、そんな悲観しないでよニコラス君!! きっとホシノちゃんが見つけてくれるよ!」

 

「ホシノちゃん? 誰やねんそれ」

 

「ホシノちゃんはね、私の頼れる後輩なんだぁ。……喧嘩しちゃったけど、ホシノちゃんは優しい子だからきっと私を探してくれてると思うの……それで見つけてくれたらきっと『あれほどコンパスを忘れるなって言ったじゃないですか!』って怒るんだろうなぁ……」

 

 ユメの瞳から数滴の水滴が零れ、砂漠に染みる。

 

「あ、あれ。泣いたりしたら駄目なのに……ごめんねニコラスく――」

 

「そのホシノっちうんが探してくれてるんは確かなんやな?」

 

「え、う、うん……きっと」

 

 ウルフウッドは立ち上がる。わからないことだらけなのは変わらないが、今自分がすべきことは理解した。巨大な十字架を手に取り、それの拘束具を外す。バチンッ、バチンッと音を立て、最強にして最高の個人兵装が姿を現す。

 

「せやったら、ワイがでかい狼煙打ち上げたる」

 

【挿絵表示】

 

 

 パニッシャーの短辺部を上に向け、引き金に手を掛ける。十字が割れロケットランチャーの砲身がむき出しになり、ロケット弾が上空へと射出された。ウルフウッドはハンドガン取り出しその狙いを上空のロケット弾に絞る。

 

「トンガリほどやないけどな、撃ち抜くぐらいやったらワイでもできるっちうねん」

 

 ハンドガンの引き金を引くと、上空に爆炎の華が咲いた。

 

――おめでとうございます、ウルフウッド様。あなたは九千九百九十九億九千九百九十九万九千九百九十九分の一を掴み取りました。それでは、良き青春をお過ごしください――




ウルフウッドがキヴォトスに送られる際の「九千九百九十九億~」のくだりは血界戦線のパロです。上位存在がキヴォトスに投げられる石あるから投げたろって感じで送られるウルフウッド君(18)概念

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。