ウルフウッドアーカイブ   作:タニシ・トニオ

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02_アビドスでの初日

 校庭から銃声が鳴り響く。またヘルメット団だ。この前先輩たちが前線基地を潰してきたばかりだというのに、もうやってきた。段々と襲撃の間隔が狭くなっている。こちらは弾の補充も間に合わずカードリッジを保管している箱の底が見えるほどだ。

 

「アヤネちゃん、いつも通りオペレートよろしくね」

 

「でもホシノ先輩、もう弾が……」

 

「あ~今回で弾切れだね、こりゃ。まあ最悪相手の武器奪って戦うよ」

 

「そんな、無茶ですよ!」

 

「へーきへーき。よし、じゃあみんな行こうか!」

 

 ホシノ先輩はいつもの力の抜けた表情を崩さず校庭へと駆け出して行った。他の先輩たちも一緒に駆け出していく。強い。先輩たちはこんな状況にも関わらずいつも通りだ。

 セリカちゃんも負けじと頬を張って先輩たちの後を追っかけていく。私も不安に飲まれちゃ駄目だ。偵察用のドローンを飛ばし襲ってきたヘルメット団を補足する。

 

「ひゃーっはははは!」

 

「攻撃、攻撃だ!! 何度も襲撃してあいつらはもう弾切れのはず! 今度こそ学校を占拠するぞ!」

 

 勝手なことを言って……絶対にここは渡さない!

 

「敵の数は二十四。歩兵のみです!」

 

「……流石にあっちも急ごしらえみたいだね。お姉さんが先行するから、みんな援護よろしくね~」

 

 私が誘導したところにホシノ先輩が積み上げてある土嚢の影から強襲をしかけ、少しずつ敵を削っていく。援護しているみんなも弾が切れ、倒した敵の武装を奪取し食いつないでいくように攻撃を仕掛けている。やきもきする戦い方だが今はそれしかない。なんとか敵は減らせている。

 しかしそんな私たちをあざ笑うかのように、私のドローンが敵の増援をとらえた。

 

「敵増援です! ……そんな……歩兵さらに二十人ほどに、戦車も来てます!」

 

「うへえ、戦車まで持ち出してきたかぁ……シロコちゃん、手りゅう弾余ってる?」

 

「ごめんホシノ先輩、前回の戦闘で切れてる。ドローンのミサイルも弾切れ」

 

「そっかあ、今の武装だとちょっと厳しい相手だねぇ」

 

 ホシノ先輩はちょっとなんて言っているが状況はかなり不味い。みんなの武器はとっくに弾切れで、手元にあるのはカタカタヘルメット団から奪取した武器しかない。そして、それらに戦車を倒せる火力なんて存在していない。きっと最初の部隊はこちらの弾切れを起こさせるためのもので今来ている増援が本命なんだ。私にはもうどうすればいいのかわからない。

 しかもさらに状況は悪化する。さらに敵の増援が来たことをドローンが捕えてしまったのだ。戦車だけでも絶望的なのに正体不明の相手が迫っている。

 

「……さらに敵増援を捕えました。人数は一……いえ、二人。サイドカー付きのバイクで接近中。これは……男の人?」

 

「男? ……ッ、アヤネちゃんそれどっちか十字架を背負ってたりする!?」

 

「十字架ですか? 確かに背負って……え!?」

 

 ドローン越しから見えた光景に思わず絶句してしまう。十字を背負っていた男の人がヘルメット団の戦車を吹き飛ばしたのだ。あの十字架にロケットランチャーでも仕込まれていたのだろうか? 戦車は爆炎に包まれ木っ端微塵になっている。そしてその男の人は残っているヘルメット団たちにバイクで突撃し大立ち回りをしていた。

 

「いや~助かったね、アヤネちゃん。少なくとも十字架背負ってる方は私達の味方だよ」

 

「あ、あの、お知り合いなんですか? ホシノ先輩」

 

「まあね。前に話したことあるよね、不在の会長のこと」

 

「え!? じゃあ、あの人がもしかして……」

 

「そ、対策委員会会長、ニコラス・D・ウルフウッドだよ」

 

◇ ◇ ◇

 

「葬儀屋がいるだなんて聞いてねえぞ!!」

 

「クソッ、撤退だ、撤退~!」

 

「おう、二度とこないアホなことすんなや!」

 

 脅しつけるようにヘルメット団共に銃口を向けて逃げるのを促す。これで少しは懲りたやろ、なんて思うとると見知った顔が三つ寄ってきた。

 

「久しぶりだね、ニコラス。その……本当に嬉しいんだけどさ、もしかして脱獄しちゃった感じ?」

 

「ん、私の差し入れたメモが役に立った」

 

「きっとヴァルキューレの人たちもすぐ来ますからニコ先輩を匿わないとですね☆」

 

「ちゃうわアホ共。脱獄やのうて仮釈放やっちうねん。ここに来たんも仕事や。なんでか知らんが、お前らあないな雑魚どもにも苦戦するほど困窮しとるんやろ。補給持ってきたで」

 

「あれ、なんで知ってるの? ニコラス」

 

「仮釈放の条件でな、シャーレで仕事することになってな。アヤネっちうんが連絡くれたやろ。それでシャーレのセンセと一緒に来たんやで」

 

「……ニコ兄、もしかしてそのぐったりしてる人がシャーレの先生?」

 

「ぐったり?」

 

 シロコの言葉を疑問に思いサイドカーへ視線を下すとセンセが言葉通りぐったりしとった。アカン、そういえばさっきの戦闘からセンセを乗せっぱなしやった。ケガは無いようやけど、顔が真っ青になっとる。

 

“ う、うう…… ”

 

「すまんな、センセ。大丈夫か?」

 

“ ……ごめん、戻しそう…… ”

 

「ちょ、アカン! そこで戻すのだけは勘弁してーな! シロコ! 水もってこい!」

 

“ ウッ ”

 

「あ~~~~~~ッ!!」

 

◇ ◇ ◇

 

“ さっきは情けない姿見せてごめんね。連邦捜査部シャーレの顧問になった戸狩です。みんなよろしくね ”

 

 先ほど起こしてしまったちょっとした事件を払拭するように先生はアビドスの面々に元気よく挨拶をする。ウルフウッドは先ほどから不機嫌そうな視線を先生に向けたままだが、他のメンバーはおおむね好意的な態度で対策委員会の部室に先生を案内してくれていた。

 

「初めまして、先生。私がアビドス生徒会会長兼、対策委員会副会長の小鳥遊ホシノだよ。いや~ちょうど物資切れちゃったからさぁ、なかなかいいタイミングで来てくれたよ~。ありがとね」

 

“ 間に合ったのならなによりだよ。ところで奥空アヤネさんはどの子かな? ”

 

 先生の問いかけに眼鏡をかけた耳長の子が名乗り出る。

 

「あ、私です。改めまして、先生。アビドス高校一年の奥空アヤネと申します。対策委員会では書記とオペレーターを担当しています」

 

“ 君の手紙を読んで来たんだ。先生として君たちの力になるよ ”

 

「やっと申請が届いたんですね……ありがとうございます、先生! あ、そういえば他のメンバーの紹介がまだでしたね。 こちらは私と同じく一年の黒見セリカ」

 

「……どうも」

 

「二年の十六夜ノノミ先輩と砂狼シロコ先輩」

 

「よろしくお願いします、先生~」

 

「ん、よろしくね、先生」

 

“ みんな、改めてよろしくね。ここの状況はウルフウッドからも聞いてるよ ”

 

「逆になんでこない追い詰められとるんかこっちは聞きたいんやけど」

 

 先生たちの会話にウルフウッドが割り込む。彼の視線はホシノに向いていた。

 

「ヘルメット団程度、お前一人でも余裕やろ。拠点見つけて潰したらええやないか」

 

「なによ! ホシノ先輩の苦労もしらないで!」

 

 ウルフウッドの言葉にセリカが噛みつくが、ホシノは「まあまあ」とセリカを抑えながら彼の疑問に答える。

 

「それがそう簡単な問題でもなくてさぁ。拠点見つけて潰しても次から次へと沸いて出てくるんだよ。まるでモグラ叩きみたいにね」

 

「そうなんですよニコ先輩。それに私達も交代で校舎に常駐しないといけないほど襲撃の頻度もひどくなってきて……」

 

「それで物資切れ起こしとったっちうわけか……」

 

 ホシノとノノミの説明を聞いて考えこむウルフウッド。賞金稼ぎをしていた時に何度もヘルメット団とは相対したことがあるため、あれがどのような組織かは理解していた。だからこその違和感があった。

 

「この校舎奪うためにしては金掛け過ぎやろ。明らかに割に合ってへん。あいつらはそないなことせえへんし、そない財力もあらへんはずや。きな臭いな、後ろになんかおるんちゃうか?」

 

「ん、それは私も思った。これ見て」

 

 シロコは机の上に一丁のライフルを置いた。それは先ほどの戦闘でヘルメット団から奪取したものだ。

 

「さっきの戦闘で拾ったやつだけど、シリアルナンバーが削り取られてる。しかもみんな同じ銃だった。弾の規格を揃えるためだとしてもここまでは普通しない」

 

「うへ~、お姉さんも薄々感じてたけどこれは確定かな~。今回は戦車も出てきたし、ヘルメット団に指示してる奴がいるね」

 

「それって、敵はカタカタヘルメット団だけじゃないってことですか……?」

 

 不安そうにアヤネが尋ねる。アヤネはあくまで相手はカタカタヘルメット団だと思っていた。今行っている防衛は彼らとの根競べのようなものでなんとかしのぎ切れば勝てるものだと、そう思っていた。だがスポンサーがいるとなっては話が違ってくる。多額の投資をしてでもアビドスを奪取しようとする悪意がいることにアヤネは不安を募らせる。

 そんなアヤネにホシノはいつも通りのおどけた顔を向ける。

 

「だいじょーぶだよ、アヤネちゃん。ニコラスも来てくれたしシャーレの先生もいる。どうにかなるよ。ね、手伝ってくれるんでしょ、先生?」

 

“ もちろん。そのために来たんだから ”

 

「だってさ。ほら、スマイルスマイル~」

 

「ホシノ先輩……そうですね、弱気になっちゃ駄目ですよね。前向きに、私たちがやるべきことをやりましょう!」

 

 確かに想定外の状況ではあるが、シャーレの先生と圧倒的な戦闘力を見せてくれた先輩が来てくれたのもまた事実である。ホシノの心遣いも相まって、アヤネの表情から曇りが薄まった。

 それを見てとりあえず安心したのかホシノは話題を切り替えるよに手を叩きみんなの注目を集める。

 

「じゃ、直近のやるべきことをまずはこなしちゃおうか」

 

“ やるべきことって? ”

 

「さっき襲ってきた奴らの前哨基地を潰すんだよ~。そうすれば少なくとも数日間はこっちが動ける猶予ができるからね。黒幕を探る余裕もできるでしょ」

 

 ホシノの言葉を待っていたと言わんばかりにシロコが机に地図を広げる。

 

「ニコ兄の面会行くついでに偵察してきて場所は発見済み。ここから三十キロぐらいのところにある廃墟が今回の基地になってるみたい」

 

 シロコが地図を指さしながら説明する。みなのやる気も満ちていた。

 

「先生からの補給で弾の心配もしなくていいですし、思いっきりやっちゃいましょう!」

 

「溜まってた鬱憤、晴らしてやるわ!」

 

「ん、やるなら徹底的に叩く」

 

「うへ~、みんなほどほどにね」

 

 熱くなっている生徒たちを心配そうに見ながらウルフウッドは先生に一言頼む。

 

「あ~、センセ。確かシャーレ取り返したときに生徒の指揮しとったんやろ? こいつら熱くなりすぎて同士討ちせんように面倒みることできるか?」

 

“ 大丈夫だよ、任せて ”

 

「それでは先生、これを」

 

 アヤネが先生にインカムを渡す。他のメンバーも補給物資から必要なものを取り出し装備していく。

 ホシノは装備しているチョッキに予備弾倉を詰め込むと、最後に自身の長髪をポニーテールにまとめ上げた。これが彼女なりのスイッチの入れ方だった。纏う空気がガラリと変化し、その目は鋭いものになる。「ほどほどに」なんて言っていたがホシノも相当な苛立ちをカタカタヘルメット団に募らせていた。

 

「みんな、準備はいいね?」

 

「はい~、それではしゅっぱーつ!」

 

 ノノミの明るい返事とは裏腹にとてつもない威圧感を放つ戦闘集団が敵の基地に向かって行進を始める。この時、先生はまだ知らなかった。ウルフウッドまで加わったアビドスはもはやキヴォトスでも有数の超武闘派集団であることを。まさかヘルメット団がかわいそうだと思う羽目になることを。

 

 前哨基地にいたあるヘルメット団団員は後に語る。「地獄を見た」と……

 




ウルフウッドVSホシノの後書きでも述べていましたが、ウルフウッドはこの小説では最強クラスの戦闘力を持っています。ついでにホシノもメンタルデバフ要素ないのでいわゆるホシノ(臨戦)と同じ実力を存分に振るいます。名付けるならホシノ(常戦)ですかね?シロコとノノミもウルフウッドの指導により原作よりちょい強の設定。

ヒナレベルの戦力×2、各学園の治安維持組織幹部レベルの生徒×2、期待の新人(他学園の幹部クラス)×2という弱小学園が持ってていい戦力じゃないのがアビドスという学校。やばいですね。
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