ウルフウッドアーカイブ   作:タニシ・トニオ

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04_セリカの平凡な一日

 食欲をそそる匂いが満たされる店内にて、その店の制服に身を包みセリカはせっせと働いていた。最近は学校への襲撃が頻発し、頼れる先輩たちが賞金首を捕えに行くことができずアビドスの財政は火の車だ。そのため少しでも自分が稼がねば、と息巻いていた。

 

「いらっしゃいませ! 紫関ラーメンです! 何名様ですか? 空いてる席にご案内しますね」

 

「少々お待ちください。 三番テーブル、替え玉追加です」

 

 そんなセリカに急な来訪者が訪れる。

 

ガララッ

 

「いらっしゃいませ! 紫関ラーメンで……」

 

「あの~六人なんですけど☆」

 

「ノノミ先輩!? みんなも!? 」

 

 想定していなかったアビドス生徒+αの来客に動揺を隠せないセリカ。そしてある人物を見つけると不満を隠そうともしなかった。

 

「ニコラスさんまで……いったい何のようですか? 」

 

「なにって、ラーメン食いに来たんやけど。おお、大将! 儲かってまっか? 」

 

「おお! ニコラス君じゃねえか! その挨拶も久しぶりだね~、相変わらずボチボチさ。さ、セリカちゃん、席に案内してあげて」

 

「うう……大将まで……それでは、広い席にご案内します……こちらへどうぞ」

 

 若干のぎこちなさを残しながらセリカはみなを席まで案内する。

 

「それで! ご注文は!? 」

 

「『ご注文はお決まりですか?』でしょー? セリカちゃーん、お客様には笑顔で親切に接客しなくちゃー」

 

「ぐ……珍しくホシノ先輩が先輩風吹かしてくる。ご、ご注文はお決まりですか?」

 

「私はチャーシュー麺をお願いします☆」

 

「ん、今日は塩」

 

「えっと……私は味噌で……」

 

「私はねー、特製味噌ラーメン! 炙りチャーシュートッピングで! 先生も遠慮しないでジャンジャンたのんでねー。この店、めちゃくちゃ美味しいんだよ! アビドス名物、柴関ラーメン」

 

“ うーん、どれも美味しそうで悩んじゃうな……”

 

「せやったら看板メニューの紫関ラーメンにしたらええ。醤油ベースのオーソドックスなやつや。セリカ、センセとワイの分、紫関ラーメン二つ頼むで」

 

「わかりましたよ……ところでみんなはお金は大丈夫なの? 」

 

 セリカは伝票に注文を書きながら不安をこぼす。答えたのはホシノだった。

 

「それは大丈夫だよー。ニコラスの奢りだから」

 

「おい、ちょい待ちホシノ。初耳やぞ」

 

「あはは、今聞いたからいいでしょ! 」

 

「……もしかして昨日のことまだ根に持っとるんか? 」

 

「いいよね! 」

 

 笑顔ながらウルフウッドへ圧力をかけるホシノ。ホシノはウルフウッドの家の掃除を無下にされたことをまだ許していなかった。ウルフウッドはそれとなくシロコとノノミに助けを求めるが「あれはニコ兄が悪いよ」「ギルティーですね☆」と梯子を外されてしまう。

 

「センセ、経費で落ちひんか? 」

 

“ 落ちひんです ”

 

 先生も首を横に振る。

 

「別にいいじゃん。前からシロコちゃんたちにはちょくちょく奢ってたんでしょ。私は奢ってもらったことないけど! 」

 

「お前は同学年やろが! お前も金だ…「何!? 」……わかったって。そないな目で見るのやめてーな」

 

 「センセは自腹やからな」と悪あがきをするウルフウッド。そんな喧噪を尻目にノノミがセリカへ話しかける。

 

「セリカちゃん。今日はバイト終わったらアビドスに来てくれませんか? 」

 

「なにかあるの? 」

 

「ニコ先輩の事件のこと、聞いてもらいたいんです」

 

「ッ! それは……」

 

「別にニコ先輩のことを認めてとまでは言いません。でも、あの事件のことをちゃんと聞いてもらってから判断して欲しいんです、ニコ先輩のこと」

 

「……考えとく」

 

「ありがとうございます! 学校で待ってますね☆」

 

「まだ行くって言ってないんだけど!? もうッ」

 

 セリカはツンツンしながらオーダーを伝えにカウンターへと向かって行った。

 

◇ ◇ ◇

 

 シフトの時間も終わりに近づき、食器を片付けているセリカに柴大将から声がかけられる。

 

「セリカちゃーん。それ片付けたら今日はもう上がっていいよ」

 

「え? 大将、いつもよりだいぶ早いんだけど? 」

 

「大丈夫さ。それに今日は学校でみんなが待ってるんだろ? 」

 

「聞いてたの、大将? 」

 

「いやーすまない、聞こえちまってね。それで、行かないのかい? 」

 

「それは……」

 

「……ニコラス君のこと、苦手かな? 」

 

「苦手っていうか……大将はあの人のこと、知ってるの? 」

 

「ああ、知ってるよ。出稼ぎ帰りによく寄ってくれてた気前のいい常連さ」

 

「そうじゃなくて……」

 

「……確かにここにいると変な噂は色々聞こえてくるよ。でも所詮、噂は噂さ。セリカちゃん、自分で見て聞いて判断するってのは大切な事だぜ。店の味だってそうやって作り上げていったんだ」

 

「大将……わかった。お先失礼します! 」

 

「おう、気を付けて帰るんだよ」

 

 セリカは早々に支度を整え店を後にした。

 

◇ ◇ ◇

 

 少し、噂に振り回されてしまっていたのかもしれない。大将から自分で見て聞いて判断することが大切だと言われて、そう感じてしまった。

 

 アビドス高校に入学する前から、ニコラスさんの存在は知っていた。これも直接ではないけれど。

 アビドスをどうにかしたい、そう思ってアヤネちゃんと一緒にアビドスを調べて知ったアビドス廃校対策委員会の存在。その中核を成すキヴォトスでは珍しい男子生徒、ニコラス・D・ウルフウッドという人。膨大な利息にもめげずアビドスの借金を返済しているということに驚嘆と憧れを持っていた。

 

 でも入学したときにその人は不在になっていて、バイトの面接で言われたことをキッカケに調べていくうちに出てくる数々の噂。冷酷非道、残虐、葬儀屋、そして人殺し。もしかして今まで稼いでいたお金は悪いことをして得ていたの? そう勝手に失望して、勝手に裏切られた気持ちになっていた。

 

 だからニコラスさんがさも当然のようにアビドスの一員として振舞っているのが嫌だったし、そんな悪人をもてはやす先輩たちを見ていられなくてイライラしてしまっていた。

 

(でも、それは私の早とちりだったのかな? )

 

 噂を聞いて思い描いていた人物像と、昨日今日とで直接見聞きした人物とで乖離があったのは確かだ。ホシノ先輩にちょっとあたりが強かったり、ヘルメット団の基地を襲撃した際に煙草吸っていたりして品行方正という感じではなかったけど、節々に私には無い先輩たちとの絆を感じられたし、なによりあの人は仮釈放されてからいの一番にアビドスを助けに来てくれていた。それは変わらない事実。

 

(あの人はアビドスを大切にしてくれている。それは間違いないと思う……)

 

 やっぱりちゃんと話を聞こう。先輩たちは無罪だって言ってたけど、ちゃんと聞いて判断しよう。もし本当に事情があったのなら、あの人が悪い人でないと思えたのなら、謝って、それで力を貸してもらおう。

 

 そんなことを考えこみながらアビドスへ向かっていた。だからかもしれない。忍び寄る魔の手に私は気づくことができなかった。

 ヘルメットを被った連中が私の前に立ちふさがる。

 

「黒見セリカ……だな? 」

 

「……カタカタヘルメット団? あんたたちまだこの辺うろついてんの? 昨日あれだけコテンパンにされたのによく懲りないわね」

 

「う、うるさい! こっちだって事情があるんだ! やっちまえ! 」

 

「ふんッ、返り撃ちにして……」

 

 ダダダダダダッ!

 

 不意を突くように後ろから銃撃を浴びせられる。

 

(背後にも敵!? ……こいつら、最初から私を……)

 

「捕えろ」

 

 リーダー格と思わしき人物が合図をすると榴弾が私に降りそそいできた。直撃を食らってしまい吹き飛ばされる。

 

(この爆発音はFlak41改……? 火力支援? どこから……? ち、違う、これはまさか……)

 

 こんな街中で遠方から高射砲で狙うなんて無理。きっと戦車に改造したもので近場から砲撃してきたに違いない。つまりは、そんなものまで持ってるんだ、こいつらは。

 

(こっ、こいつら、ハンパじゃない……ヤバい……意識が……)

 

 セリカは気を失ってしまう。それを見下ろすカタカタヘルメット団の団員。

 

「……続けますか?」

 

「やり返したい気持ちはわかるが、生かしておかないと人質としては使えない。この程度でいいだろう。車に乗せろ。ランデブーポイントへ向かう」

 

 ヘルメット団はセリカをトラックに載せるとその場から走り去ってしまった。




ブルアカのエイプリルフールCMで柴関ラーメンが醤油の香りって言ってたので柴関ラーメンは醤油味ってことにしてますが、実際は何味なんでしょうね?

2025/2/1誤字修正
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