ウルフウッドアーカイブ   作:タニシ・トニオ

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06_とある牧師の懺悔録

 ウルフウッドはバイクを操縦しながらもポツリポツリと語り始める。皆は眠気も忘れてその話に集中していた。

 

――あれはアビドスの砂祭りを復活させるゆうてアドバイス貰いに百鬼夜行に行った時や。

 

◇ ◇ ◇

 

「人を集められるような目玉ねぇ…」

 

お祭り運営委員会との話を終えた帰り道、絶賛ワイとホシノは頭を抱えとった。色々話を聞かせて貰いアビドスの抱える大きな問題にぶち当たっとった。

 

(いいですか、お祭りにはそれをお祭り足らしめる目玉があります。ましてや一から作り上げるモノであればなおさらです! 花火大会の花火のように、コンサートのアイドルのように、そこならではの人を集める何かが必要です! )

 

「……なーんていうとったけど、アビドスにんなもんあったか? 」

 

「昔はそれがオアシスだったんだろうね」

 

「でも今はあらへんで」

 

「だから悩んでるんでしょ〜」

 

「「はぁ」」

 

 ワイとしてはアビドスは故郷に似とって居心地は悪ないけど、客観的に見たらなんも良いとこなんてあらへん場所や。昼は暑くて夜は寒い。砂だらけでモノも痛みやすい。水筒かて手離せへん。正直、好き好んでこないな場所には来ようとは思えん。それがアビドスっちう場所や。

 

「まあポジティブに考えて行こうよ、ニコラス。逆にそれさえあればスポンサー募って人と物はどうにかできるとも教えてもらった訳だしさ。今度の会議でシロコちゃんとノノミちゃんにも意見聞いてみようよ。もしかしたらアって驚く意見が聞けるかもだしね」

 

「……せやな」

 

 こんな往来で頭悩ますよりかは確かにそっちの方がええ。それに毎度会議で賞金首捕まえる為の作戦なんぞ練ったりするよか、祭りでなにやるっちう話して姦しくしとる方がガキらしくて健全ともいえる。いつになるかはわからんけども、そのいつかについて語れるんはええことや。

 

「じゃ、お土産買って帰ろうか。一応聞くけどさ、ノノミちゃんが言ってた限定…も、モモ……」

 

「モモフレンズやろ」

 

「そうそう、それの売ってる場所知ってる? 」

 

「んなもん知っとわけあらへんやろ」

 

「だよねえ。はぁ、適当に生徒に聞けば見つかるかなぁって思ってたんだけど……」

 

 ホシノは周囲を見渡す。そこは観光のメッカとは思えないほど閑散としていた。

 

「しゃあないやろ。人死にがあればこないな空気にもなる。ましてや犯人捕まってないなら尚更や」

 

「本当にタイミング最悪だったね」

 

 二人が百鬼夜行に訪れたのと同時期にある事件がここで起きていた。刀による連続殺人事件。犯人は刀を盗難した後、店の亭主や追ってきた生徒を惨殺して姿をくらませているらしい。まだ捕まっていない犯人を恐れて周辺住人は家に籠っているのだとか。

 二人が街に着いた頃にはもうそのような状態で、お祭り運営委員会に街の様子がおかしいと訊ねた際にこの話を聞かされていた。

 

 正直この話を聞いた時、あの男の顔が頭をよぎった。形だけだったがかつての同胞、GUNG-HO-GUNSの九番、雷泥・ザ・ブレード。キヴォトスという銃社会において剣による人殺しという存在がどうしても奴と被って仕方ない。だからなんや。あいつはワイが殺したやんけ。犯人かてここの生徒っちうのも判明しとる。なんも関係あらへんやんけ。

 せやのにどうしても、この話を聞いてから胸騒ぎが収まらへんかった。

 

「これも一応聞いておくけど、首突っ込まないでよ」

 

「……当たり前やろ。賞金つけられるか要請かかるまでは自治体の問題や。仮に犯人と遭遇しても逃げて通報の一択やで」

 

 せやからさっさと土産買って帰ろ思うとった。次の瞬間までは。

 ワイのスマホに知らん番号から連絡がかかる。

 

「……ニコラス・D・ウルフウッドや」

 

「こんにちは。百鬼夜行連合学園陰陽部の天地ニヤと申します」

 

  陰陽部……確か百鬼夜行の生徒会に当たる組織やったはずや。そないなとこからこのタイミングで連絡かかるっちゅうことは、まあそういうことなんやろ。

 

「ようワイが百鬼夜行におること知っとったな」

 

「貴方の十字架は目立ちますからねぇ。ここは今閑散としているのでなおさらです」

 

「んで、何の用や? 噂の殺人鬼でも捕まえてくれ言うんか? 」

 

「……その通りです」

 

ニヤという奴の声色が変わる。さっきまでののらりくらりとした話し方から一転、その声は真剣なものになる。

 

「先ほどヴァルキューレの生徒が殉職されたと連絡が入りました。これ以上生徒の被害を出すわけにはいきません。貴方の力を貸してもらえませんか? 」

 

「報酬次第や」

 

「前金二千万、犯人を捕えたら三千万でどうです? 」

 

「随分と気前ええな」

 

「残念ながら交渉している時間も惜しい状況でして。それにこれは命懸けの仕事になりますので……」

 

「ええで、その仕事受けたる」

 

「では直ぐに犯人の情報を送ります……引き受けて頂きありがとうございました」

 

 ニヤとの通信が切れる。

 

「ちうわけでホシノ、こっから別行動や。ワイは例の犯人を追う。お前はお土産頼むで 」

 

「何言ってるのさ! 二人で犯人捕まえるよ!! 」

 

「あんなぁ、別にワイ一人で……」

 

「ニ・コ・ラ・ス!! 」

 

 「置いていくな」そういう意思を瞳に込めてホシノは訴えかけてくる。アカン、この手の女は怒らすと後が怖い。これはワイが折れるしかなさそうや。

 

「……わかった、わかったって。ただ依頼受けたのはワイや。せいやからフロントはワイ、お前はサポート、それでええな? 」

 

「分かってるって。さっさと捕まえてお土産探しを再開するよ」

 

「なんでお前が気合入ってんねん……」

 

 今になって思えはこの時の判断は失敗やった。ありえへんからと胸騒ぎを無視せずホシノを別行動させとくべきやった。ありえへんことは起こる、それをワイの存在自体が証明しとるのにそれを忘れとったワイの落ち度や。

 

◇ ◇ ◇

 

「ここか……」

 

 ワイらはニヤから連絡があった犯人が居る場所へとたどり着いた。目の前には蕎麦屋がある。驚いたことに犯人はここで蕎麦を食っているのだとか。しかもヴァルキューレの生徒を二名斬り殺した直後だという。この異常性に胸のざわつきが強まる。

 

「その十字架……う、ウルフウッドさんですか!? 」

 

「せやで。陰陽部からの依頼でな、犯人とっ捕まえにきたで」

 

 チラホラと店の周りにいたヴァルキューレの生徒が寄ってくる。ワイが来たことがわかると大粒の涙をこぼしながら訴えかけてきた。

 

「と、友達が、犯人に……、犯人はそこにいて、でも…突入できなくて……ッ」

 

「もうええ、よう頑張ったな。後はワイがやる。危ないから下がっとき」

 

 あやすように頭を撫でながら、ヴァルキューレの生徒たちに下がるよう指示をする。この子らの心はもう折れとった。無理もない。キヴォトスじゃ殺しは珍しい。強盗やら誘拐やらやらかす不良かて殺人には忌避感を持つ。ここでは殺人は一種のタブーと化しとる。そないなところで育った子供に、こない異常極まる犯人の相手せいっちうほうが無理な話や。ましてや身内斬られて死を突きつけられた直後ならなおさらやで。

 

「ホシノ、お前はここで待機しとけ。店にはワイが入る」

 

「……わかった」

 

 ただならぬ雰囲気を感じ取ったのかホシノも素直に従う。パニッシャーの拘束具を外し、トリガーに指をかける。店の扉を蹴り破ると中にいた人影に向けて銃身を構えた。

 目の前にはただ一人、少女がいた。長髪をマゲのように結び、食事を終えたのか店の中央で佇んでいた。

 

「……これは驚いた。心震える相手が来たかと思えば、よもやお主が現れるとは」

 

 犯人が言葉を発する。少女の声のはずなのに、まるで男のような話し方をしていた。そして初対面のはずであるのに、見知った風がその少女から流れてくる。

 

「なんでや、なんでお前がここにおる……? 」

 

 あり得ない。あり得ないはずなのに、ワイの感覚が目の前の人間を()だと判断しとる。

 

「その答えは某とてわからん。気づけばこの体に憑依していた。お主は自分の体でここに来たようだな。うらやましい限りだ」

 

「なんでこないなことをした? 」

 

「お主には以前話したはずだが? 某は、人以外のものを斬ってみたいと」

 

 空気がチリつく。

 

「お主が現れたのは幸運といえる。最初は某も戸惑ったが……外に出てみれば人ならざる者があふれ、一時歓喜に震えたものよ。しかしこの体も人ならざる者だったということか、銃は玩具となり下がり全ては児戯となった。某の望む()()()はもう望めぬかと悲観していたところだ」

 

 ウルフウッドと犯人の距離はおよそ五メートルほど。剣の間合いとしては離れすぎている。にもかかわらず犯人はまるで居合のような構えを取る。

 

「そのまま黄昏ててくれたら嬉しかったんやけどな、雷泥・ザ・ブレード!! 」

 

「そのヘイロー! 条件は五分! 行くぞ、チャペル!! 」

 

 狭い店内、逃げ場は無い。このままパニッシャーでハチの巣や。そう思って忘れとった。この男は弾丸がものいう社会で生き抜いてきた剣鬼だということを。

 

 店内にパニッシャーの銃声が響き渡り雷泥の居た空間が銃弾で埋め尽くされる。雷泥は足に取り付けているローラーを加速させ横に移動することでそれを回避するが、店内は狭く壁が間近に迫る。しかしそのまま壁に衝突するかと思いきや、雷泥はその勢いを生かし、壁、そして天井をバレルロールするかのように疾走する。

 

「次元斬一刀流奥義『衛星斬(サテライトザン)』」

 

 ヴァッシュとの立ち合いでは立地上使用されなかった室内用の奥義。室内という限られた空間内でも三次元軌道を実現することで、弾丸を躱しながら間合いを詰め相手を斬殺する技。ウルフウッドは初見だったこともあり一瞬反応が遅れる。

 

(まずい!! )

 

 首に刃が掛かりかけた時だった。ウルフウッドは反射的に後ろに飛びのく。銃は撃ったままその反動を利用することでその斬撃をギリギリ躱し、店の外へと転がり出る。

 

「逃さん! 」

 

 体制を崩したウルフウッドを追撃しようと迫る雷泥。

 

「させないよ! 」

 

 しかしそれは店の外で待ち構えていたホシノのショットガンによって阻まられる。雷泥は不意により初撃を受けてしまったもののそれ以外のホシノの銃弾を躱し、ホシノを睨みつける。

 

「邪魔をするでない! 小娘!! 」

 

 ホシノは雷泥に気圧され固まってしまう。

 

 手足が冷たい。体が動かせない。息が苦しい。体が震える。あいつが、怖い。殺気だけで動けなくなる、そんな相手がいるなんて。

 

「あ……」

 

「次元斬一刀流奥義『二重星雲(ふたえネビュラ)』」

 

 目の前にいた犯人が消える。しかし重圧は以前そのまま、強くなってすらいる。私に死が迫る。

 

「構えろホシノ!! 」

 

 ニコラスの声に反射するように手に持っていた盾を構える。瞬間、凄まじい衝撃が盾にぶつかり、同時にヌルリと自身の腹を何かが通った感触がする。

 

「ふむ、勘のいいことだ。しかしその傷では動けまい」

 

 腹から暖かいものが垂れてくる。私の血だ。腹を斬られた。手で押さえるが隙間から血が零れてしたたり落ちていく。痛い。脂汗が噴き出る。

 

「ン゛~~~ッッ! 」

 

「痛かろう、今介錯を……」

 

ダンッ、ダンッ、ダンッ

 

 数発の弾丸が雷泥の頭を掠める。雷泥は足のローラーを駆動させホシノから離れると、ウルフウッドへと体制を向けなおしていた。

 

「ふむ、そうだった。お主は目を離せられるような相手ではなかったな」

 

「ええ加減にせえよ、おんどれ。もっかい冥府に送ったる」

 

 再びパニッシャーを構えるウルフウッド。

 

(とはいえ、不利なんはワイか……)

 

 ホシノを斬られた怒りはあるもののウルフウッドは冷静さを失っていなかった。ホシノが動けない今、退いて体制を立て直すといった手は打てない。あの雷泥に正面から立ち会う必要がある。しかし相手は銃というものを知り尽くした剣鬼。まともに銃弾を当てるは難しいだろう。

 

(ワイも覚悟せないかんな)

 

 ウルフウッドが雷泥に向けてパニッシャーの銃撃を放つ。ただその射線は通常よりも下向きにされており、雷泥の足元を穿った。地面が削られたことによる大量の土煙が雷泥の視界を遮る。

 

(味な真似を。しかしこれではお主も某を……うぬ!? )

 

 パニッシャーの銃弾を数発斬り伏せる雷泥。しかしその威力は尋常ではなく刀を握りしめる手にはしびれが残る。雷泥はたまらずローラーでのランダム移動でその場から離れた。

 

(なるほど、そちらは砂埃の動きと当て勘で某を捕えるつもりか。奴の獲物は機関砲。ヴァッシュ・ザ・スタンピートの隠し銃のマシンガンとは比べ物にならないほどの威力と連射力を持つ。あれならば精密射撃をする必要もない。理にかなっている。しかし……)

 

 雷泥はランダム移動でパニッシャーの弾丸を躱しながらも、確実にある一点へと間合いを詰めていく。

 

(某とて弾丸の軌道と殺気から貴様の位置を捕えることなど造作もない! これで終いだ!! )

 

 ウルフウッドの周囲を舞う土煙の間から雷泥が姿を現す。その構えは一閃を繰り出す寸前であった。ウルフウッドは予期していたようにパニッシャーを盾のように構える。

 

「遅い! 次元斬一刀流奥義『二重星雲(ふたえネビュラ)

 

 雷泥のローラーが仕込まれたシューズから地面に杭が穿たれ、そこを起点に雷泥は急旋回する。そしてパニッシャーの隙間からウルフウッドへ己が刃を突き立てようとした時だった。雷泥は時が圧縮される刹那の感覚でウルフウッドが自分たちの足元に向けて何かを放っていることを捕える。

 

(あれは……ロケット弾? ッ、まさかこやつッ!? )

 

 二人が爆炎に包まれる。ウルフウッドは理解していた。自らの武装と技量ではヴァッシュと同じ方法で雷泥に対処することは無理であることを。それ故に取った方法がこの自爆まがいの攻撃だった。自らも痛い思いをする覚悟せねばならないが、確実にあの剣鬼に致命傷を与えられるが故に取った選択だ。

 

「っつぅ~ッ!! パニッシャー盾にしてもこれか……二度とやりたないな」

 

 煙に包まれる中、立ち上がるウルフウッド。自爆まがいのやり方ではあったがウルフウッドはパニッシャーを盾にし、かつ発射と同時に跳ぶことで可能な限りダメージを減らしていた。そのため彼は立ち上がることが出来ていた。

 対しては雷泥は無防備な体制で、しかも自らの技で地面に縫い付けられた状態であった。まさしく直撃。故にもう立ち上がることもできないだろうと、そうウルフウッドは思っていた。

 

「今のうちにあいつふん縛って……エクソシストも探さな。おるか知らんけど……」

 

 そんなことを口にしながら雷泥の方へ視線を向けると、煙の中に立ち上がっている人影が見える。

 

「……なんで今ので立て…」

 

「ふざけているのかッ、チャペル!! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!! それを貴様はッ……貴様まで児戯に堕ちたか!!! 」

 

 雷泥の怒号が響き、煙が晴れていく。姿を現した雷泥は血まみれであったが、その圧力はさらに増していた。

 

「いい加減寝とれや! 」

 

 パニッシャーの銃弾を撃ち込むウルフウッド。雷泥は先ほどとは打って変わって仁王立ちでその弾丸を受け止める。倒れる気配はなかった。

 

「痛みでは止まらぬッ、死に届かなければ全て児戯よ!! 」

 

 パニッシャーの弾丸を無視して雷泥は剣を構える。血と怒りにまみれたその形相はまさしく鬼そのものであった。

 

「次元斬一刀流闇奥義……」

 

(アカン!! )

 

 死の予感がウルフウッドに走る。雷泥から放たれる圧力が彼を極限まで追い込んでいた。

 

(避け……却下や、ホシノがおる)

 

 状況がさらにウルフウッドを追い詰める。その死の軌跡の先、自分の後ろにホシノがいた。避けるという選択肢は選べない。

 

(選択肢は酷薄、制限時間は刹那、こいつは殺さな止まらへん……せやったら、選択するしかあらへんやないか)

 

 

――銃で撃てば人は死ぬ

 

 

 キヴォトスに来てから忘れていた感覚がウルフウッドに蘇る。

 

 

「『彗・星・突!!』」

 

 雷泥が突きを放つ。それは弾丸のような勢いでウルフウッドへ差し迫る。ウルフウッドはその死の流星をパニッシャーで正面から受け止めた。しかしその威力はすさまじく、刃がパニッシャーの銃身を貫通してウルフウッドにまで食い込んでいく。

 

「うおおおおおおお!!」

 

 だがウルフウッドはそれを気にも留めずパニッシャーを支える手に力を込め、突き刺さった刀ごと銃身を横へと傾けた。それにより雷泥は体制を崩す。ウルフウッドはその隙を逃さず雷泥の額にハンドガンを突きつけた。

 

――なぜだか確信があった。殺せるという確信が。

 

 ウルフウッドは祈りながらその引き金を絞る。頭に二発、胸に二発。その弾丸はヘイローの加護を貫通し、皮膚から肉へ、肉から骨へ、そして骨から脳と心臓へと食い込んでいく。それは雷泥の命にまで届き、彼は絶命した。

 ウルフウッドの前にヘイローを消失させた少女の死体が転がった。

 

◇ ◇ ◇

 

「ほんでワイは犯人殺害の容疑で捕まって、そのまま殺人罪で矯正局入り。それがこの事件の顛末や」 

 

<ちょっと待って、ニコラス先輩本当に何も悪くないじゃない!? なんで捕まっちゃったの!? >

 

 セリカが声を上げる。ウルフウッドが引き金を引かなければ彼自身もホシノも命はなかった。だからホシノの言っていた通り正当防衛だとセリカは感じていた。

 そのセリカの疑問にホシノが答える。

 

<裁判で犯人の体勢を崩した時点で無力化できてたんじゃないかってところが議論になってね。無力化した犯人にさらに追い打ちかけて殺害したって判断されたんだ。ニコラスも殺意認めちゃったしね>

 

<でも……>

 

「セリカ、そない言ってくれるんは嬉しいで。でもな、お前らが判断せないかんのはワイが無罪かどうかやない。ワイがどないな奴かやろ。」

 

 ウルフウッドは諭すように言葉を続ける。

 

「それにな、ワイを矯正局に送った奴らの気持ちもわかんねん。傍から見たらワイは犯人と同じ、人殺しの化け物(フリークス)やからな」

 

 それを聞いてアヤネが言いづらそうに尋ねる。

 

<あの、ニコラス先輩は本当に、その、犯人と同じことができるんですか? >

 

「……できるで。検討するわけにもいかへんけどな、不思議と確信はある。殺す決めて引き金引けば、ワイはヘイローを貫通できる……怖いやろ? 」

 

<それは……>

 

<怖くなんてない>

 

<セリカちゃん? >

 

 セリカがウルフウッドの問いを否定する。

 

<だって、殺そうと思って人を殺せるのは誰だって一緒だもん。誘拐された時、私、どこかの砂漠に埋められて殺されちゃうかと思った……すごく、怖かった。ニコラス先輩はそういう手段が人よりちょっと多いだけじゃない。そんなの全然怖くない>

 

 皆がセリカの言葉に耳を傾ける。

 

<私、噂を信じてニコラス先輩のこと誤解してた……ごめんなさい。大将に言われたわ。自分で見聞きすることが大切だって。私が直接知った先輩は、アビドスにすぐ駆けつけてくれて、私も助けてくれて……ホシノ先輩のために引き金を引ける人だった。だから、ニコラス先輩。これからも私たちに力を貸して! >

 

<私からもお願いします。ニコラス先輩、力を貸していただけませんか>

 

 セリカに続けてアヤネもウルフウッドに助力を申し付ける。ウルフウッドは彼女たちに頼れる先輩だと認められていた。

 

 ウルフウッドはサングラスを深くかけ直す。サイドカーからウルフウッドの表情を覗き込んだシロコは微笑んだ。

 

「そか……まあ、言われんでも力貸したるわ、仕事でもあるしな。……おおきにやで」

 

「ニコ兄、面会でも言ったけど二人ともいい子たちでしょ? 私も先輩として鼻が高いんだ」

 

「ほんまやな、お前らよりも将来有望やで」

 

「ん、それどういうこと? 」

 

<説明を要求しますー>

 

「言わんでも分かれや。特にシロコ、お前やぞ」

 

「納得いかない」

 

<“ あ、ところで私が対策委員会の顧問になる件はいいのかな? ”>

 

「あー、そういえばそれも有耶無耶になっとったな」

 

 思い出したかのような先生の発言に話をそらすため便乗するウルフウッド。そして皆の視線がセリカに向く。

 

<え、なんでみんな私を見るの!? >

 

<いやー、あの場で反対な空気してたのセリカちゃんだけだったしねー。あ、ちなみに誘拐されたセリカちゃん見つけてくれたの先生だから。始末書覚悟で連邦生徒会のネットワークにアクセスしてねー>

 

<ちょっとホシノ先輩!? そんなこと言われたら断れるわけないじゃない! あ~もう、認めるわよ! 先生もこれからよろしくねっ>

 

<“ うん、よろしくね。改めてアビドスの問題解決に向けて、みんなで頑張っていこう ”>

 

 この日、アビドス廃校対策委員会は新たに顧問の先生と最強の先輩を迎え再結成された。

 

◇ ◇ ◇

 

 夜も遅かったので皆で学校に泊まることになり生徒たちを保健室へと連れていく。やはり眠気が溜まっていたのか、みんなはベッドに横になるとすぐに寝息を立て始めた。

 私とウルフウッドは昨日泊った部屋と同じ部屋へと向かう。ちなみにこの部屋がそのまま顧問の部屋に宛がわれた。部屋のソファーをベッド代わりにしブランケットをかけて横になる。

 先ほどまでの姦しさが嘘みたいに静かだ。そんなことを思っていると、隣のソファーで横になっているウルフウッドから話しかけられる。

 

「なあ、センセ。センセはワイの話聞いてなんか言うことないんか? 」

 

“ 言うことって? ”

 

「話聞いとって感づいてるやろ。ワイがカタギや無いっちうんは」

 

 確かにそれは気づいていた。生徒に憑りついていた犯人、人斬りの幽霊とは顔見知りだったと彼は言っていたが普通はそんな人間と知り合いになんかならない。なによりホシノが動けなくなるほどの殺気を平然と耐え、殺人という手段を取れたこと。それらの事実は、彼の人殺しが今回が初めてではないことを示していた。

 

「言っとくけどな、ワイはあの事件の選択を後悔はしてへん。ワイは死ぬわけにはいかへんかった。せやから殺した。何べん同じ事があっても、ワイは同じ選択をする。()()()()()やねん、ワイは」

 

“ ……事件の時、ホシノを助けてくれてありがとう。君のおかげで犠牲者が増えずにすんだよ ”

 

「なんでそんな言葉が出てくる? お前は先生やろ? ワイは憑りつかれとったガキ見捨てたんやで? 」

 

“ 確かにその場に私が居たら違うことを言っていたかもしれない。でも私はいなかった。とやかく言う資格なんかないさ ”

 

 それに引き金を引いた時のことを話している時、君はまるで懺悔をしているようだった。そんな人間を攻め立てることなんかできるわけないじゃないか。

 

“ だからありがとうって言うよ。生徒たちを助けてくれて、つらい選択をしてくれてありがとうって…… ”

 

「……お前もあいつと似たようなこというんやな」

 

“ あいつ? ”

 

「なんでもあらへん。すまんな、つまらんこと聞いて」

 

 そう言うと彼は目をつぶる。私も寝ようかと思ったが、彼に聞いてみたかったことを思い出す。

 

“ ごめん、ウルフウッド。私からも一つ聞いていいかな? ”

 

「なんやねん? 」

 

“ なんで君や犯人がヘイローを貫通することができるか、なにか心当たりはある? ”

 

「知らんわ。んなもんワイが聞きたいっちうねん」

 

“ そうだよね…「ただ、」…ん? ”

 

「ただ、ワイに関しては()()やと思っとる」

 

” 警告? ”

 

「神様が言ってんねん。『お前はどこまで行っても人殺しやねんぞ』ってな。忘れることは赦されへん。問い続けないかんねん、この引き金を引くかどうか」

 

“ ……本当にそうだとしたら神様は意地悪だね ”

 

「言っとくけどな、お前も他人事やあらへんのやで? シャーレっちう絶大な力を持っとる。しかもワイという弾丸入りでな。いつか選ぶ日が来たら、お前は選択できるんか? 引き金引けるんか? 」

 

 ウルフウッドから重い問いを投げられる。昨日もあったけど、君はたまにそうやって意地の悪い質問をしてくるよな。まるで自分自身に問うように。だからこそ上っ面の答えはしたくなかった。

 

“ ……わからないよ。後悔しない選択をしたい、そう言葉にするのは簡単だけど……そんな選択を取れたことは少ないから。きっと際の際まで、()は悩むんだと思う ”

 

「そか……」

 

 彼は僕の回答を肯定も否定もせず、ただ「もう遅いし寝るで」と言って眠りについた。

 




GUNG-HO-GUNSというテクスチャは、容赦なく優しい世界を上書きする

ちなみにニアが百花繚乱ではなくウルフウッドに連絡したのは百花繚乱がアヤメがいなくなってバタバタしていた時期だったから。幽霊を撃つことができる白蓮があれば憑りつかれていた子も救えていたかもしれないので、本当にタイミングが悪かったウルフウッド。

あと以前感想いただいた中で「GUNG-HO-GUNSにしては被害が少ない」とコメントがありましたが、作者的にはまあ雷泥が生徒に憑りついて、ローラーブレード自作して、試し切りしたら相手に拍子抜けして蕎麦食ってた、って感じならこんなもんかな?と……
……すんません、半分嘘です。正直死体の山築く話も考えてたんですが斬られた子がかわいそうになってきて日和った部分もあります……
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