セリカちゃんの誘拐事件を解決した翌日、正確にはゴタゴタが解決した時には日を跨いでいたから今日のことになるのだけど、学校に泊まった私達は一旦身だしなみを整えに自宅へ戻っていた。
学校に着いた時には眠気が限界でそのまま寝ちゃったけど、砂まみれだし汗もかいてベタベタだしで乙女がしていていい状態じゃなかった。ニコラスはきっと気にしないって言うだろうけど、私はそんな姿を見られたくはない。
自宅に戻ってシャワーを浴び、着替えて学校へと向かう。ホントはお風呂にゆっくり浸かりたかったけど、私のボリュームのある髪を乾かす時間を考えると断念せざるを得なかった。
こういう時昔みたく短髪だったらと思ってしまうが、この長髪は体が平均よりもだいぶ平坦な私が少しでも女らしさを出す為の苦肉の策なので仕方ない。
(髪だけじゃなくて体もユメ先輩みたく成長してくれたらよかったんだけどね〜)
そんな叶わないことを思いながら、廊下のガラスを鏡代わりにして部室に入る前の身だしなみをチェックする。
(……ホント、いちばん居て欲しい時にはちゃんと来てくれるんだから……)
いつも勝手に出かけたりするくせにニコラスのこういう所はずるいと思う。物質が尽きかけた時だって表面上は取り繕っていたけれど、実は不安で仕方なかった。
だからニコラスが来てくれた時、本当は泣きそうな位嬉しかったんだよ。
(うへ、浮かれてるな、私)
まあ仕方ないよね。念願の、フルメンバーでの定例会議なんだから。身だしなみの確認も終え、部室のドアを開ける。
「うへー、おはよ〜」
“ おはよう、ホシノ ”
「おはようございますー」
「おはようございます、ホシノ先輩」
返ってきた挨拶は三つ。先生、ノノミちゃん、アヤネちゃんだ。まだセリカちゃんは来ておらず、シロコちゃんは攫われたときのケガで本調子でないセリカちゃんを迎えに行くと連絡があったのでセリカちゃんと一緒に来るのだろう。
となると、先生と一緒に学校に泊まっていたはずの男が何故不在なのか気にかかる。
「あれ、ニコラスは? タバコ? 」
「それなんですが……」
アヤネちゃんがなぜか申し訳なさそうにしている。嫌な予感がする。
「ニコラス先輩から伝言を預かっていまして……『ワイはカタカタのリーダー締めに行くから例のパーツの調査は頼むで。あとセンセの護衛もよろしゅうな』と……」
「は? 」
……いや、うん、確かにそっちの方が効率良いよ。でもさあ、やっと全員が揃ったんだよ!? 対策委員会会長の自覚あるの!?
「……んもう!! ニコラスはぁ!! 」
思わず声を上げてしまうが、それが伝わって欲しい相手はいなかった。
ノノミちゃんに「まあいつものことですし、落ち着いて下さい」と出されたお茶を啜っていると、セリカちゃんとシロコちゃんも部室に到着する。
「あれ、ニコラス先輩は? タバコ? 」
セリカちゃん、私と同じこと言ってる。
「……ん、把握した。勝手にどこか行っちゃったんだね、ニコ兄」
「正解。良くわかったねシロコちゃん」
「ホシノ先輩がそうやって不機嫌になってる時は大体ニコ兄絡みだから。セリカとアヤネも覚えておいた方がいい。テストに出るよ」
「いや出ないからね」
「と、とりあえずニコラス先輩が不在なのは分かったけど、どこに行っちゃったの? 」
さっき聞かされた内容を私が話す。
「カタカタヘルメット団のリーダーを締めるためにヘルメット団がたむろしてる所にカチコミしに行ったみたい。『カタカタの頭出せ』って脅して引き摺り出すって。ホント、ヤクザなのは見た目だけにして欲しいよ。セリカちゃんは真似しちゃ駄目だよ」
「真似できないわよ! え、ていうかそれ危なくない? 敵の総本山に単身乗り込んでるってことよね!? 応援しに行かないと!! 」
うへ、セリカちゃんは優しいね。でもお願いを秒で破ろうとするのはお姉さんちょっと心配だな。
「ん、ニコ兄なら大丈夫だよセリカ。伊達に葬儀屋って言われてない」
「そうは言っても……」
「大丈夫だよ〜セリカちゃーん。セリカちゃんもあいつの戦いぶりは何回か見たでしょ。心配するだけ損だよ」
「う、うーん……」
微妙に納得がいってなさそうな顔をするセリカちゃん。まあもうちょっと付き合い長くなれば理解できるようになるよ。
「そういえばなんでニコラス先輩は葬儀屋なんて呼ばれているんですか?」
アヤネちゃんから素朴な疑問がくる。ちょくちょくそのワードが出てきていたので気になってたんだろうね。
「ニコラスのパニッシャー……あのデッカイ十字架って墓石にも見えるでしょ? それで賞金首を軒並み矯正局っていう墓場送りにしてたから付いた渾名だよ。本人は『ワイは牧師や』って言って否定してるけどね」
それを聞いてアヤネちゃんとセリカちゃんが声を重ねる。
「「え、ニコラス先輩って牧師なんですか(なの)!? 」」
「やっぱ見えないよね〜」
牧師名乗るならもうちょっと牧師らしくしなよ、あのバカ。
◇ ◇ ◇
「ハクションッッ! んんッ……なんや、ワイの悪口言っとる奴おるんかな? 」
「あったりめーだろーがッ!! 」
「てめえこの惨状が見えてねえのか!? 」
「このクソテロ牧師!! 」
ワイに返り討ちにあって地面に転がされとるヘルメット団がなんか叫んどる。何人かは髪型をアフロにしてもうたが、中指立てる元気があるなら大丈夫やな。
「あんなぁ、ワイは『カタカタのリーダーを呼び出してくれへんか』ってあ願いしただけやんか。襲いかかって来たんはそっちやろ? 」
さっきクソテロ牧師ゆうた奴の頭にパニッシャーを突き付ける。
「ヒッ!! 」
「で、どないやねん? カタカタのリーダーは? 」
「い、今発見して連れてきてるそうです! ほら、モモトークで連絡が! もう少々お待ち下さい!! 」
「そか、おおきにな」
パニッシャーを下げて周りを見渡す。ワイに転がされた奴ら以外は関わるだけ損やと分かったのか、遠巻きに見とるだけやった。丁度ええ椅子が転がっとったのでそれを起こして腰掛ける。
(……にしても、ほんまけったいな場所やなぁ)
足を運んだのはブラックマーケットの郊外部。ヘルメット団はどこにでもおるが学籍無い奴でも受けれる仕事や違反品の購入ができる関係上、このあたりは特にこういった奴らが集まりやすい。カタカタヘルメット団への補給品も恐らくここ経由やろうから、あいつらのリーダーが付近にいる可能性も高いやろうし。
ここらへんは矯正局に入れられる前のワイもよく利用しとった。賞金首の情報集めと、なにより未成年で煙草と酒を買うにはここしかあらへんかった。
ただそれでも正直ここはあまり好きにはなれへん。教会に入る前の、おばちゃんたちに会う前の、どぶ泥にまみれとったガキの頃を思い出せる空気がここにはあった。
(とはゆうても、あそこよりはだいぶマシやけどな)
社会からつまみ出され、誰からも必要とされない奴ら。ヘルメット団やスケバンどもはそないな奴らの受け皿になっとるところがある。そのおかげか本当になんも無いちう奴は少ない。そういう点でワイが生まれた場所よりはだいぶマシとは言える。とはいえ、健全とも言えへんけど。
(まあ、こいつらに銃向けとるワイが言える義理やあらへんか……)
ワイは神様ちゃうから全部に救いの手を差し伸べることはできひん。今のワイはアビドスの奴らとセンセを守るので手いっぱいや。こいつらの世話焼いたる余裕はない。
……トンガリやったらどうしとったやろ? いつもみたくガキどもにプロレス技かけられて、そんでこいつら笑わせとるんかな?
(……アカンな。なにセンチになっとんねん、アホらし。さっさと聞き出すもん聞き出して帰ろ)
しばらくすると簀巻きにされたヘルメット頭が担がれてくる。恐らくあいつがカタカタのリーダーか。カタカタリーダーを担いできた奴がワイの前にそいつを投げ出す。
「ぐえッ」
「っす。そいつがカタカタのリーダーっす。じゃああたしらはこれで! 」
担いできた奴らは床に転がっとった奴らを連れて共にそそくさと立ち去っていく。気づけばカタカタリーダーとサシの状況になっとった。
「随分世話になったな。ワイがお前呼んだ理由、分かるやろ? 」
「……」
「だんまりか? ワイかて手荒なマネすんのは趣味やないねん。話すこと話してくれれば……」
「……グスッ、うえ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛……」
は? ちょッ、ガチ泣きか!?
「いや、なに泣いてんねん!? 被害者はこっちやねんぞ? 絵面最悪やんけ! 泣くのやめーや。ホンマやめて」
「ふぅ、グスッ、もう終わりだぁぁぁ! 」
こらあかん。とりあえず落ち着かせな。カタカタリーダーの簀巻きをほどいてやって適当に座らせる。よく見るとすでにこいつはボロボロやった。ヘルメットのバイザーも割れとる。
「ほら、アメちゃんやるわ。なんやボロボロやんけ。捕まった時にやられたんか? 」
棒付きのアメを口で転がして少し落ち着いたのか、カタカタリーダーが泣きじゃくりながらも語りだす。
「……ちげえよぉ…グスッ……依頼主に切られたんだよぉ。しかも代わりに雇われた奴らにボコされて……あたしらが何したってんだよぉ……」
「アビドス襲ってセリカの誘拐までしたやろが。なにゆうてんねん」
「誘拐は仕方ねぇだろぉ! そもそもあんたが居ねえからってこの依頼引き受けたのに、あんた出張ってくるしさぁ! 依頼主に聞いてねえって愚痴ったら生徒誘拐しろって言われて……それしかなくて……」
「んで、それも失敗して切られたと。別によくある話やんけ。そない泣くほどのことやないやろ」
「依頼主がカイザーなのが問題なんだよ!! 大口の依頼主に泥塗って、カタカタの地位は地の底だ! 」
カタカタリーダーの口から信じられんビックネームが出てくる。
「ちょい待て、カイザーやと? お前らの依頼主はカイザーコーポレーションいうんか? 」
「そうだよ、そのカイザーだよ! そのグループ企業のカイザーPMCからの依頼であんたら襲ってたんだ! 」
どういうこっちゃ? カイザーゆうたら、ワイらの借金先やんけ。なんでそこがワイらを襲う? 返済が滞ったら損するのは自分らちゃうんか? だが同時にカイザーやったらこいつらが潤沢な装備をしとったことにも納得がいく。金とは違う目的でアビドスを襲う理由があるっちうんか?
「なんか証拠あったりするか? 」
「取引のか? 残してるわけないだろ! でもホントなんだよ! 」
(嘘ついとる感じでもあらへんな。こら一人で考えても埒明かへん。情報持ち帰って相談するか)
聞くこと聞けたし帰ろうかとしたところで、カタカタのリーダーが再び泣き言を喋りだす。
「……カイザーにも切られて、葬儀屋にも目を付けられて、もうカタカタに居場所はねえ……」
「別にワイは依頼主聞きたかっただけやで」
「他の奴らからしたら違うんだよ! カタカタが葬儀屋に喧嘩売ってここに呼び込んだって言われてる! ヘルメット団を危機にさらした! だから簀巻きにされて捨てられた……ヘルメット団にも切られたんだよ! あたしらは! 」
カタカタリーダーが再び泣き出す。「そない泣いたかて、お前が選んだ結果やろ」、その一言が出んかった。実際こいつの自業自得や。ヘルメット団に入ったのも、カイザーの依頼受けたのも、全部こいつの選択やんけ。一言言って、さっさと行かな。自分でどぶ泥に堕ちるガキの世話なんぞお前に焼く暇あらへんやろが、ウルフウッド。
(ニコラス、何も無いなんてことないよ。あんたには誰かに差し伸ばせる手がついてるじゃないか)
やめてーなおばちゃん、ガキの頃を蒸し返すんは。ワイの手はいっぱいいっぱいなの、おばちゃんも知っとるやんけ。
(ばかだね、ニコラス。あんた、また独りでやろうとしただろ)
ホンマ堪忍やでおばちゃん。わかってんねん、そないなことは。……はぁ……恨むんやったらおばちゃん恨んでくれよ、センセ。
「落ち着けこのアホ」
「イテッ」
カタカタリーダーを小突く。
「なにすんだよぉ! 」
「えーからよく聞け。お前が本当に行く当てもなんも無いっちうんやったらな、シャーレに来たらええ」
「シャーレ?」
「この間始動したばかりの連邦生徒会直轄組織や。連邦捜査部シャーレ。捜査部なんて大層な名前がついとるけどな、まあ連邦生徒会の雑用係みたいなとこや。そこのセンセなら進路相談ぐらい乗ってくれるやろ。ワイも少しは手を貸したる」
「……助けてくれるのか? 」
「すまへんけど今すぐは無理や。今はアビドスの問題がある。お前らが事の発端や、それは我慢せい。それにお前にはやってもらいたいこともあんねん」
「な、なんだよ?」
「カタカタまるごと切られたんやろ? 同じ境遇の奴を集めてまとめとけ。 リーダーやってたんやからそれくらいはできるやろ。こっちの問題片付いたら連絡したるわ」
カタカタリーダーと連絡先を交換する。
「片岡メイ……カタカタってもしかしてお前の苗字からとっとるんか? 」
「そ、そうだけど……ワリーかよ」
「聞いただけやろ。まあ悪態付けるぐらいの元気は出たか。言っとくが、犯罪行為はもうすなよ。困窮するようやったら連絡寄こせ。ええな? 」
「……わかった」
「よし、それならええ」
メイに棒付きアメをもう一本渡して立ち上がる。アビドスの問題さっさと片付けないかん理由が増えてもうた。とりあえず黒幕のことをアビドスの奴らに伝えてやらな。
スマホを取り出してメッセージを送ろうとしたところであることを思い出す。
「おい、メイ。お前らの代わりに雇われたやつらのこと、なんか知っとるか? 」
「あたしらボコした奴らか? あんたほどじゃないけど凄腕の四人組だったな。角付きも居たし、制服的に多分ゲヘナだ。そういやなんか名乗ってたな……」
思い出そうとメイが頭を悩ませる。ゲヘナの四人組……ワイもゲヘナにはよく出稼ぎに行っとったが四人組っちうのに心当たりがあらへんかった。美食のアホ共に新入生でも入ったかと思うたが、そもそもあいつらはこないなことに手は出さへんし……
「ああそうだ、思い出した。便利屋68だ」
「便利屋68……」
……やっぱり聞いたことあらへんな。ワイが捕まっとった時にできた組織なんやろか? まあ、こいつらのことも連絡しとくか。
アビドスへの連絡に、カイザーと便利屋68の名を打ち込んだ。
オリジナル生徒登場。名前の由来は、カタカタ→片岡、メイはトライガンの外伝「FREED BIRD」に登場するメイリーンから。
外伝でウルフウッドが世話を焼く子としてのポジションです。
>(ニコラス、何も無いなんてことないよ。あんたには誰かに差し伸ばせる手がついてるじゃないか)
このセリフはトライガン原作に無い捏造のセリフ。孤児院に入りたてのウルフウッドにおばちゃんが言いそうなセリフとして考えました。自分に何の価値も無いと思っていたウルフウッドに「そんなことはないよ」とおばちゃんは言ってあげていたと思います。