「これより対策委員会定例会議を始めたいと思います」
アヤネの宣言により対策委員会会長がまたしても不在のまま会議が始まる。
「それでは小鳥遊副会長……生徒会長と言った方がいいんでしょうか? 」
「そもそもアヤネちゃん、なんで名字呼びなの?」
「え!? こ、今回は先生もいらっしゃいますし、いつもよりちゃんとしたほうがいいかなと……」
「アヤネちゃんは真面目だねー。でも肝心の会長がサボりだし、いつも通りでいいよ。先生もいいよね? 」
“ 私は構わないよ。あと、ウルフウッドが帰ってきたら私からも言っておくよ ”
「ありがとね、先生」
「先生もそう仰るなら……」
「んん」とアヤネは喉をならし、会議の進行を再会する。
「ではホシノ先輩、今日の議題の説明をお願いします」
「うへ〜、そうだね。まずはカタカタヘルメット団に指示を出してたやつらについて、現時点での情報纏めて探り方決めよっか。ニコラスが今聞き出しに行ってるけど裏取りは大切だしね。後は今月の借金の返済どうするか、かな?」
ホシノが議題を言い終えるとアヤネに目配りする。アヤネはそれを受けて頷くと、端末を操作しホワイトボートに資料を投影した。
「手掛かりは主に二つ。シリアルナンバーが削り取られた武器に、戦車のパーツがあります。またこれらの装備がカタカタヘルメット団に行き届いていたことを考えると、相手は相当の資金を有していることが予想されます」
「説明ありがとね、アヤネちゃん。シロコちゃん、ノノミちゃん、武器のほうは何か心当たりあったりする?」
ホシノが二人に訊ねる。二人はウルフウッドに連れられて賞金稼ぎをしていたこともあり、他の部員よりはこうしたことに見識があった。シロコが先に意見を述べる。
「これだけの数の銃が全部同じ物なことを考えると、多分PMCとかから流れて来たものだと思う。装備の更新とかで不要になった古い武器を利用してるんじゃないかな。相手の資金力を考えると十分考えられるよ」
「ただその手の武器はブラックマーケットにも溢れていますから、これらの銃器から黒幕を探すのは難しいかと」
「シロコちゃんとノノミちゃんがそう言うならこっちは望み薄だね〜。追うならやっぱり戦車かな? 」
その言葉を待っていたと言わんばかりにアヤネが挙手をする。ホシノが発言を促すとアヤネは再び端末を操作してホワイトボートに投影されていた画面を切り替えた。
「実は戦車に関しては追加の情報があります」
「おお!? 仕事がはやいね〜」
「ありがとうございます、ホシノ先輩。皆さん、こちらを見てください」
アヤネが写し出した画像を指差す。
「この戦車のパーツですが、調べたところ現在取引がされていない型番だということが判明しました。生産が中止された型番を手に入れる方法はブラックマーケットしかありません」
「うへー、またブラックマーケットかぁ。」
“ 話の腰を折るようで悪いけど、そのブラックマーケットってどんなところなの? ”
先生はブラックマーケットを名前の通り闇市だろうと思っていたが、戦車まで購入できるとなると自分の想像通りの場所ではないのでは? と感じていた。
先生の疑問にシロコが答える。
「そっか、先生はまだキヴォトスに来て浅いから知らないよね。ブラックマーケットは規制品とかプレミア品、ガラクタ問わず、あらゆるものが取引されてる場所だよ。色んな不良やゴロツキ、マフィアとかも集まってて連邦生徒会も手が出せない一種の自治区みたいになってる危険な場所」
“ そ、そんな場所なんだ…… ”
「うん。ただそれでも戦車みたいな大物なら銃器と違って入手ルートは限られてると思う。調べてみる価値はあるんじゃないかな」
「じゃあ今度はブラックマーケット散策かな。ニコラスが持ち帰ってくる情報によっては状況が変わるかもだけど、現状はその方針で。皆、それでいい?」
ホシノは皆に尋ねると、部員達は各々肯定の相づちをうった。
「んじゃあ次は今月の返済についてだね」
「はい! 」
セリカが元気良く手を上げる。その表情は自信に満ちていた。
「今月は特にヘルメット団の襲撃が多くて賞金首を捕らえることもできなかったわ。今から捕まえに行くには時間も足りないし、バイトやボランティアじゃ利息にも届かない。でっかく一発狙う必要があるわ! そこでこれよ! 」
セリカがチラシを机にたたきつける。皆がそれを覗き込み、ホシノが書かれている内容を読み上げた。
「『ゲルマニウム麦飯石ブレスレットであなたも一攫千金』……ねえ……」
「そう! これでガッポガッポ稼ごうよ! 」
「……セリカちゃん、借金返済のために動いてくれてたのはお姉さんとっても嬉しいんだけどね、これは却下かな」
「えーッ!? なんで? どうして! 」
ホシノの意見を皮切りに皆がセリカに突っ込みを続ける。
「セリカちゃん……これ、マルチ商法のやつだよ……」
「ん、儲かるわけない」
「セリカちゃん、騙されちゃいましたね。可愛いです☆」
「そ、そんなぁ……そんな風には見えなかったのに……せっかくお昼抜いて溜めたお金で買ったのに……」
「まあ取り返しのつかないことにはならなくてよかったよ。これも社会勉強と思って、ね? 」
「セリカちゃん、お昼、一緒に食べましょう? 私がご馳走しますから」
泣きついてくるセリカをノノミが「よしよし」とあやす。ホシノはそれを眺めながら他の案を募ると、次に挙手をしたのはシロコだった。
「お、シロコちゃん、なにか稼げるいい案あるの? 」
「確実かつ簡単な方法だよ。銀行を襲う」
「え!? 」
皆がシロコの突然の案に衝撃を受けている間にシロコは次々とその内容を述べていく。
「ターゲットは市街地にある第一中央銀行。金庫の位置、警備員の動線、現金輸送車の走行ルートも把握済み。これなら五分で一億は稼げる。覆面も準備しておいた」
シロコはバックから0~4までの番号が振られた覆面を自慢げに取り出し、2の番号が振られた覆面をかぶりだす。
「うわー、これシロコちゃん手作りしたの? 」
「わあ、見てください! レスラーみたいです! 」
ノノミがシロコにならい3の番号が振られた緑色の覆面をノリノリでかぶるが、他のメンバーは苦笑いをすることしかできなかった。シロコが覆面のまま先生に振り向く。
「ごめん先生。先生とニコ兄の分は準備してなかった。何で隠そう? 」
“ 申し訳ないけど私は要らないかな。あと強盗はちょっと…… ”
「そうよ! 却下! 却下ー!! 」
「そ、そうですっ! 犯罪はいけませんっ! 」
先生と後輩たちから却下をくらい、ふくれっ面をしながら覆面を外すシロコ。合わせて覆面を外していたノノミが今度は挙手をしていた。
「……ノノミちゃん。おねーさん、ちょーっと嫌な予感がするんだけど。前に言ってたアイドルの案なら今回は却下かなー、時間も無いしね」
「今回どころかずっと却下よっ!! 『水着少女団』ってユニット名もださかったし!! 」
(“ アイドル? ちょっと気になるな…… ”)
ホシノとセリカの言葉を聞いてもノノミは不敵な笑みを崩さない。ちなみに先生は後で詳しく話を聞こうと心に決める。
「ふふふ、安心してください。確かに今からアイドル活動をしても知名度もなく無理でしょう。ですが状況は変わりました! ニコ先輩のブロマイドを売ります! 」
ドンッ! という効果音がしそうな勢いで言い切るノノミ。だがそれを聞いたホシノは顔を顰めていた。
「却下だよ」
「ニコ先輩なら知名度も十分、話題性もあります! SNSでもきっとバズっちゃいますねー☆ 」
「却下」
「安心してください! ニコ先輩は確かに恨みもたくさん買っていますが、隠れファンの方もたくさんいます。きっと……」
「……」
ホシノの目が据わり始める。
「ノノミ、ストップ。それ以上はホシノ先輩が本気で怒るよ」
「そうですね、冗談はここまでにしておきましょうか」
ホシノの手は懐にあるハンドガンに伸びかけていた。後輩たちはホシノから発せられていた圧力に怯えていたが、二年生組は慣れているのか飄々としたままである。ウルフウッドの悪影響だ。ホシノは呆れながら圧力を解く。
「……はあぁ~、それで、冗談じゃなくてちゃんとした案はあるの? 二人とも」
シロコとノノミは互いに目を合わせ、シロコが軽く頷く。アイコンタクトでシロコが話すことにしたようだ。
「とりあえず今月分の返済なら私たちのヘソクリで賄えるよ」
「え、そんなことしてたの二人とも? ていうか何か目的あって貯めてたお金なんでしょ? 流石にそれは……」
「大丈夫、状況変わって要らなくなったお金だから」
「どういうこと? 」
「ニコ兄の脱獄用資金。身を隠したりとか色々入用になると思って貯めてたんだ。でもニコ兄は仮釈放になったからいらなくなった。先生のおかげだね」
“ そ、そうなのかな? ”
「どうしようシロコちゃん、ノノミちゃん。お姉さん、素直に褒められないんだけど……」
「ん、そんなことない。二人とも私達をほめるべき」
「頑張りました☆」
「う、う~ん……」
“ じゃあ今度は私が柴関ラーメンをご馳走するっていうのはどうかな? ”
先生がご褒美を提案する。気づけば時計は昼近くを指していた。
「流石先生。チャーシュー付けてもいい?」
「いっぱい話したのでお腹すいちゃいましたね☆」
「あ、私午後からシフト入ってた!! 」
「まあ議題も一応片付いたし、先生のお言葉に甘えてみんなで柴関行こうか」
「え、私もご馳走になっていいんですか? 」
“ 大丈夫だよ、みんなで食べに行こう ”
先生とアビドス一同は会議を終わらせ柴関へと向かっていった。
◇ ◇ ◇
アビドスの町中に馴染んでいない三人の生徒が並んで歩いている。
「ねえアルちゃん、本当にこの依頼受けて良かったのぉ?」
くひひ、と笑いながら自らの上司に問いかける便利屋68室長、浅黄ムツキ。それに答えるは社長、陸八魔アルである。
「も、もちろんよ! 私はこれを試練と受け取ったわ! 憧れを越えるための、これは試練なのよッ!」
「社長、そう言ってるけどアビドスがあの葬儀屋の学校だって知ったの依頼受けてからだよね?」
アルに指摘を入れる課長、鬼方カヨコ。彼女がそう言うのは便利屋68はカイザーPMCからアビドス襲撃の依頼を受けた時の一幕があったからだ。
アルは依頼を受けた当初「大口の依頼よ!」と得意気に皆に告げたが、襲撃先を聞いた情報通であるカヨコから「社長、それ社長が憧れてるっていう葬儀屋の学校だよ? わかってる? 」と言われ、「な、なんですってー!? 」と自らのポンコツぶりを披露したばかりである。
ちなみにアルはそれまでウルフウッドの所属がトリニティのシスターフッドだというデマを信じていた。ウルフウッドの職業と武器の形状から一時期広まった噂であり、少し調べれば嘘だとわかるものだ。
「と、とにかく、相手がウルフウッドさんだろうと関係無いわ! 私たちはお金次第で何でも請け負う冷酷非道のアウトロー! それにウルフウッドさん対策で無理して傭兵を沢山雇ったんだもの、後には引けないわ! 」
それを聞いて再びカヨコがため息をつく。
「……もしかして社長、葬儀屋が捕まってることも知らないんだね。だからあんなに……」
「え、そうなの!? た、確かに最近めっきり活躍の話を聞かないけど……」
「うわ〜アルちゃん、傭兵雇ったの無駄になっちゃったね」
ムツキがアルに追い討ちをかける。「あわわわ」とアルが白目になるが、流石に哀れになってきたのかカヨコがフォローを入れた。
「まあ無駄にはならないと思うよ。アビドスの二年生は賞金稼ぎとして一部に名前が通ってる実力者だし、あの葬儀屋の弟子だってね。それにアビドスの生徒会長も葬儀屋への報復を単身はね除けてる猛者って噂もある。新入生は流石に知らないけどアビドスが油断ならない相手なのは違いないから」
「そ、そうよね! ほらムツキ、無駄にはならなかったでしょ!? 」
カヨコのフォローにアルは持ち直すがムツキはそれをスルーする。
「カヨコちゃん詳しいね〜、もしかしてカヨコちゃんも葬儀屋って人のファン? 」
「違うよ。要注意人物だから調べてただけ。社長はアウトローって言ってるけど葬儀屋はどっちかと言えばロー側の人間だから。仕事で会ったら敵になると思ってね」
「そうなんだ〜。あれ、でもおかしくない? その人、ロー側の人なんでしょ? 何で捕まってるの? 」
「そう言えばそうね。ウルフウッドさん、何があったのかしら? 」
二人が素朴な疑問をカヨコに投げ掛ける。
「ムツキはともかく何で社長が知らないの……? あのね、あの人は……」
「アル様〜! 六百円以下のお店見つかりました〜」
カヨコの言葉が便利屋68の平社員、井草ハルカの声に上書きされる。
ハルカはアルが傭兵を雇ったことにより寂しくなった財布でも食事がとれるところを探していた。そして見つけた柴石ラーメン一杯五百八十円の情報を皆に伝えようと駆けつけて来たのだ。
「でかしたわっ、流石ハルカね! やはり何事にも解決策というのはあるのよ。ふふ、全部想定内だわ」
アルはキメ顔をしながら早歩きで柴関ラーメンへと歩み始める。実は今朝もまともな食事を取れていなかったため実際お腹が限界だった。ムツキもそんなアルをからかいながらついていく。
「……まあいいか」
話を遮られてしまったカヨコだったが「あえて社長の憧れを貶めることもないか……」と判断し、黙って三人の後についていった。
実際にウルフウッドのブロマイドは売れそうだと思うのは私だけですかね?