ウルフウッドアーカイブ   作:タニシ・トニオ

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09_便利屋68の災難

「うへぇ、やっぱりここのラーメンはいつ来てもおいしいね~」

 

 お昼時から少し遅れて柴関へと着いた私たちは――セリカちゃんはバイトのため先に到着していたが――各自思い思いの注文に舌鼓を打っていた。客足のピークも過ぎていて余裕のあったセリカちゃんと軽く話をしているとお店のドアが開く音がする。

 

「いらっしゃいませー」

 

 セリカちゃんはすぐに反応し入って来た客へと駆け寄っていく。そちらを見ると先ほどラーメンの値段を聞いていた子と、恐らくその連れ……あの制服はゲヘナかな? 四人組の姿があった。

 

「四名様ですね、席にご案内します」

 

「いやいやー、どうせ一杯しか頼まないんだし、テイクアウトでいいよー」

 

「一杯だけ……? でもどうせならごゆっくりお席へどうぞ。今ちょうど席空いてるので」

 

「おー、親切な店員さんだね! それじゃあお言葉に甘えて。あ、我儘ついでに箸は四膳でよろしく。優しいバイトちゃん」

 

 四人組が私達の隣の席に案内される。セリカちゃんと応対していた小柄な子との会話から察するに、どうやら彼女たちは手持ちがないのか一杯のラーメンを四人でシェアして食べるつもりみたい。

 

「ご、ご、ごめんなさいっ。貧乏ですみません!! お金が無くてすみません!! 」

 

「あ、い、いや……! その、別にそう謝らなくても……」

 

 ラーメンの値段を聞いていた子が急に大声で謝りだす。やはり彼女たちも貧乏なようだ。「虫けら以下で済みません」とまで言い出し始めるのは流石に卑下が過ぎると思うけど。その子の隣に座っている子もたしなめようとしていたけれど、同情したセリカちゃんが「お金が無いのは罪じゃないよ! 胸を張って! すぐラーメン持ってくるから! 」とヒートアップしていた。大丈夫かな?

 

「はい、お待たせいたしました! お熱いのでお気お付けて! 」

 

 少し気になって様子を見ていると、ドンッという音がこちらにも聞こえてくるほどの大盛りラーメンをセリカちゃんがあの四人へと配膳した。どうも大将の親切心によるものらしい。

 

「なんだかちょっと懐かしいな」

 

 隣に座っていたシロコちゃんがその様子を見ながらつぶやく。その顔は微笑んでいた。

 

「なにが懐かしいの? シロコちゃん」

 

「実は最初にニコ兄にここのラーメンおごってもらった時も似たようなことがあってね。ニコ兄の手持ちがなくてラーメン一杯だけ頼んだら同じように山盛りのラーメンを大将が出してくれたんだ」

 

「シロコちゃんが言ってた思い出の味ってそのことだったんだね」

 

「うん、空腹も相まってすごく美味しかった。あの時の味は忘れない」

 

 先ほどの四人組に視線を戻すと彼女たちもラーメンの味を大絶賛していた。自分たちの好きなものが褒められるのは存外嬉しいものだと実感する。

 

「でしょう、でしょう? 美味しいでしょう? 」

 

 気づくとノノミちゃんが立ち上がりその四人組に話しかけていた。続くようにシロコちゃんとアヤネちゃんも加わり柴関ラーメンについての談笑をしている。楽しそうだし私も加わろうかな? と思った矢先、携帯からメッセージ受信の効果音が聞こえてきた。ニコラスからのものだ。慌ててメッセージを開く。

 

(……うへ、これまたすごい名前が出てきたね)

 

 前に座っていた先生を見ると、先生もメッセージに気づいて内容を確認していた。記載されていた企業名を調べていたようで、どんな相手か分かったのかみるみる顔を険しくさせていく。

 

「先生、とりあえずこれについてはニコラスが戻ってきてから話そう。ここで話すような内容じゃないしね」

 

“ そうだね。それに新しく雇われたっていう相手の対策もしないとだし……ん、四人組? ”

 

「……あれ、これもしかして……」

 

 ニコラスからのメッセージにはカイザーコーポレーションが黒幕という情報に付随して次の刺客の情報も記載されていた。便利屋68という、ゲヘナの四人組の生徒らしい。そして丁度私たちの横に四人組の生徒がいる。ここでは見かけないゲヘナの制服の四人組だ。え、そんなことある?

 できる限り自然な足取りで談笑の輪へと入り、不意打ちを仕掛けてみる。

 

「うへ~、君たちもしかして便利屋68? 」

 

 私の言葉に黒髪の子はポカンとしているが、小柄な子とキリっとした顔の子がビクリと反応する。これは確定かな? 赤髪のリーダーっぽい子は……

 

「あら、よくわかったわね! まさかわが社の名前がここまで広まっていたなんて……そう、私たちが金さえもらえばなんでもする、クールでダーティーな便利屋68よ! 」

 

「わ~、流石ですアル様~」

 

 パチパチと拍手する黒髪の子。え? この反応はお姉さん流石に予想外だよ。これから襲撃する相手に普通そんな名乗り入れる? 私たちのこと煽ってるのかな? さっき反応を見せた二人を再び見ると「あちゃ~」って表情をしていた。まさか、そういうこと? この赤髪の子、私たちがアビドスの生徒ってわかってないんだね。天然さんってやつかな?

 

「うへ~、それでアビドス襲撃の依頼を受けたんだねぇ? ニコラスも戻ってきたのによく受けたね? お姉さん関心しちゃうな~」

 

 わざとらしく学生証を手に持ってヒラヒラさせながら伝えると、さっきまでの和気あいあいとした雰囲気が一転し、場が固まる。セリカちゃんが不審がって近づいてきた。

 

「あれ、どうしたの? 」

 

「なんでもないよセリカちゃーん。セリカちゃんはバイトに集中しててねー」

 

 とりあえずセリカちゃんをやんわりと返す。セリカちゃんが聞くと暴れちゃいそうだからこうしておく方が無難かな。大将にも迷惑かけたくないし、一応この場は穏便に済ませたい。

 

「ど、どういうことですか、ホシノ先輩? 」

 

「アヤネちゃん、あと二人も、ニコラスからメッセージ来てるから見てみて」

 

 セリカちゃん以外の皆がメッセージを確認している間に話を進める。

 

「で、私としては無駄な争いなんてしたくないし、その依頼キャンセルして欲しいんだけど無理かな? 」

 

「え、えと……」

 

「答える前に確認してもいい? なんで私たちがアビドス襲撃の依頼受けたこと知ってるの? 」

 

 赤髪の子が狼狽えていると、さっき反応を示していたキリっとした顔の子が代理のように話しかけてくる。

 

「ニコラスがカタカタヘルメット団のリーダーに聞き込みしてくれてね。ついさっき連絡が来たんだ」

 

 携帯に送られてきたメッセージの画面を見せる。質問してきた子は顔を顰めた。

 

「……葬儀屋が復帰してるのも本当なんだ。脱獄したなんて情報無かったのに……」

 

「脱獄じゃなくて仮釈放だよ。連邦生徒会の特例でね。それで、どうするのかな? あと数時間もしないうちにニコラス帰ってくるよ。お姉さんとしてはさっきも言った通り依頼キャンセルすることをお勧めするな~。せっかくできた柴関ファンを痛めつけたくもないしね」

 

 質問した子は伺うように赤髪の子を見る。やっぱりその子がリーダーなんだね。ただその子は「あわわわ……」と完全にフリーズしていた。どうやら情報が処理しきれていないみたいだ。

 

「ま、ラーメン食べながらゆっくり考えてよ。言っておくけど私達も相当強いからね、来るなら覚悟して欲しいな。それじゃあみんな行こうか。セリカちゃーん、お会計お願ーい」

 

 まだ戸惑っているみんなを押し出すように会計へ向かう。先生を見ると便利屋たちに話しかけていた。どうやら「なにか困ったことがあったら連絡してね」と名刺を渡しているようだ。うへ、先生は優しいんだね。悪くない提案だと思う。彼女たちが何か依頼を断れない事情があったとしても、先生っていう逃げ道があれば自棄にならないで済むかもしれない。まあ先生はそこまで考えずにただの親切心で動いているんだろうけど。

 

「じゃあみんな、帰ったら迎撃の準備しておこっか。もしかしたら食後の運動があるかもだからね」

 

◇ ◇ ◇

 

「ど、どど、どうしましょーーーーーッ!!!??? 」

 

「あ、アルちゃんが再起動した」

 

 まさかあのいい人たちがアビドスなんて……何という運命のいたずらなの!? え、学校の復興頑張っているって言ってたあの子たちを襲わなきゃいけないの? 私復興応援してるって言っちゃったわよ!? ……ていうかウルフウッドさん来るって言ってなかった!? 今は居ないって聞いて少し安心してたのに?

 

「駄目だ、まだ参ってる。社長、今回は相手が悪いよ、依頼はキャンセルしよう」

 

「えー、カヨコちゃんも弱気過ぎない? そんなに葬儀屋さんってヤバイ人なの? 」

 

「……さっき言いそびれた葬儀屋が捕まってた理由だけど……殺人だよ」

 

「……マジ? 」

 

 カヨコから聞き捨てならない情報が出てくる。思わず私は前のめりになって聞く。

 

「嘘でしょ!? ウルフウッドさんが、そんな……何か訳があったんじゃないの!? 」

 

 確かにあの人は人質がいても構わず発砲するような人だったけど、それでもそんなことをするような人にはどうしても思えない。殺人はアウトローではなく外道だもの!

 カヨコが私の勢いに若干引きながら答えてくれる。

 

「ま、まあ相手も相手だったからね……」

 

「どんな相手だったのよ? 」

 

「……十二人殺しの連続殺人犯」

 

「じゅ、じゅう……だ、大事件じゃないの!? なんでニュースになってないのよ!? 」

 

「報道規制がかかってたんだよ、連邦生徒会から。でも内容が内容だからその筋じゃ有名な話だよ」

 

 カヨコはそのまま事件のあらましを教えてくれた。一体どこでこんな情報を仕入れてきたのかは疑問だったけど、それ以上に思うところがあった。

 

「たった四発でって……事故みたいなものじゃないの!? なんでウルフウッドさん捕まってるのよ!? 」

 

「流石にそこまでは分からないよ。それよりも社長、私が言いたいのはあの人の罪がどうかじゃない。どうやったのかは分からないけど……あの人は命を奪える手段を持ってるかもしれないってこと」

 

「そ、それは……」

 

 もしそうだとして、あの人が私たちの命を奪うようなことをするかしら……? 始めて会ったあの時、アメをくれた時の笑顔の主がそんなことをするとは思えない。あ、でもこれから私達、アビドスを襲うのよね? そ、その場合は流石にアウトかしら!? もしウルフウッドさんの琴線に触れてしまったら……

 

「まーたアルちゃんフリーズしちゃった。……でさ、実際のところどーなわけ? 葬儀屋さんの実力は? そんなことができたとして、だから強いって訳でもないじゃん」

 

 ムツキの疑問にカヨコはため息をつきながら答える。

 

「ヒナが風紀委員長になる前、荒れに荒れてたゲヘナで賞金稼ぎとして荒稼ぎしてたぐらいの実力者だよ。噂じゃヒナに匹敵する実力の持ち主なんて言われてる。さすがに盛り過ぎだと思うけど……社長は見たことあるんでしょ?」

 

「え!?」

 

 カヨコに声を掛けられて慌てて思考を打ち切る。えと、ウルフウッドさんの実力よね?

 あの光景を思い出す。私がゲヘナ入学当初に巻き込まれた立てこもり事件。その犯人たちを建物ごと打ち抜いて殲滅したあの力……

 

「……少なくとも火力だけで言えばヒナ以上だったわね」

 

「あ、アルちゃん復活した」

 

「だったわねって社長……余計に不味いじゃん」

 

 カヨコが呆れながら私の前に紙を差し出す。これは……名刺?

 

「シャーレの先生だって。今アビドスにはシャーレも付いてるみたい」

 

「シャーレ? 」

 

 そういえば優しそうな大人の人が声をかけていてくれたわね。もらった名刺を見ると確かにシャーレと記載がされている。カヨコが不味そうにしているけど、なにかあるのかしら。

 

「連邦捜査部シャーレ、さっき調べてみたんだけど最近発足されたばかりの超法規的機関だって。調べたことが本当なら連邦生徒会長に匹敵する権限があるよ、ここ。もし本当にそうなら思いつく限り最悪の組み合わせだよ。今のアビドスにはキヴォトス最高峰の権力と暴力が揃ってるってことになる。カタカタヘルメット団が相手にならないわけだ……」

 

 それを聞いて再び意識が飛びかける。そんなのどうやって相手にしろっていうのよ……

 

「あ、アル様……」

 

 ハルカが不安げにしている……そ、そうよ、こんなことでへこたれては駄目! 社員にこんな顔をさせるなんて社長失格よ! 立ち向かうのよ、アル。相手を選んで引いたりするのは真のアウトローなんかじゃないわ!! それに傭兵だって元々ウルフウッドさんを想定していたものだったじゃないッ、今更後には引けないわよ!!

 

「……大丈夫よハルカ、私にいい考えがあるわ。ようは生徒を学校から追い出せばいいのよ。まずバイトを集めて速攻でアビドス校舎を占拠、彼女達を人質にするわ。それで、その、あれよ……ウルフウッドさんと交渉して、その、うまいこと学校から出ていってもらいましょ!! 」

 

(多分これならラインは越えないはず、多分……)

 

「すごい知略ですアル様!! 」

 

「あはははは、別の意味ですごいねアルちゃん! 肝心なところスッカスカ〜」

 

「うるさいわね!! とにかくこの作戦は速度が命よ! 行くわよ! 」

 

「まあ、社長がそう決めたならいいけどさ……今回は無茶しちゃ駄目だよ」

 

 そうと決まれば決意が鈍らないうちに、と勇み足で店を後にする。お会計の時に何も知らないバイトのアビドス生から「お仕事頑張ってね! 」と応援されて速効で決意が揺らぎかけたのは内緒よ。

 

 ムツキ、そんな目で見ないで、内緒なんだから!!

 

 

◇ ◇ ◇

 

 もうそろそろ戻ると連絡を入れるとホシノからセリカを拾ってきてくれと返信が来る。ちょうどセリカのバイトが終わる時間らしい。ワイも昼飯食い損ねてたから丁度ええと思って柴関へと向かう。

 

 バイト空けのセリカと一緒にラーメンをすすっていると、セリカが「そういえば今日ゲヘナの生徒が来てたの。こんなところまで何しに来てたのかしらね? 」なんてぬかしおった。ああ、バイト真面目にやっててワイの送ったメッセージまだ見てへんのやな、こいつ。

 

 ちなみにホシノたちもそいつらと話をしとったらしい。まあそれやったら問題ないか。急いでラーメン掻っ込む必要も無さそうや。十分にラーメンを堪能してからセリカと一緒に店を後にした。

 

 セリカをサイドカーに乗せて学校へと向かっているとセリカが何か見つけたらしい。

 

「ニコラス先輩! ちょっとあの人たちに近づける? 」

 

 セリカの指さす方を見ると四人の人影が見える。ああ、そういうことか。様子から察するに、もう事は済んどるようやな。

 

「やっぱりあなたたちラーメン屋の! ちょっと大丈夫!? ボロボロじゃないっ」

 

「あ、あなたはさっきの……!? 」

 

 セリカがサイドカーから降りて奴らに駆け寄ると相手はなんや気まずそうにしとった。まあそらそうか。ゲヘナの生徒の四人組。間違いなくこいつらが便利屋68やろ。アビドス襲って返り討ちに合った帰りっちうところか。

 

「その様子やとお仕事失敗したみたいやな。ちっこいクセにやたら狂暴な奴にでもやられたか? 」

 

「う、ウルフウッドさんっ!!?? 」

 

「お、ワイのこと知っとるんか? 」

 

 赤髪の女がワイをみてめっちゃ狼狽えとった。もしかしたらワイが以前どこかでとっ捕まえた奴なんやろか? あかんな、ゲヘナは捕まえた奴が多すぎて覚えとらんわ。

 

「え、仕事失敗しちゃったの!? それでこんなに……そうだ、これ柴関のサービス券! これあげるから元気出して」

 

 セリカがこいつら慰めとる。こいつはねっかえり強いけどええ奴やなぁ。ホシノたちがかわいがるのもよくわかるわ。でもセリカ、そいつらワイらの敵やで。でもなんか言いにくいわぁ……

 

「あー、お前ら。後輩の親切に免じてここは見逃したる。こない割合わん仕事はやめて別の仕事探すことをお勧めするで。ほら、ワイもアメちゃんやるから今日は帰れ」

 

 残っていた棒付きアメがちょうど四つだったので渡してやる。赤髪の女はなんとも言えん顔で飴を握りしめ走り去っていった。残りの三人もそいつを追うように去っていく。赤髪の奴、少し泣いとったな。まあしゃあないか。コテンパンにされた相手からこんな情けをかけられたら誰かて悔しくてたまらんやろ。やっぱりまた襲ってくるんかなぁ……

 

「あ、行っちゃった……それにしてもニコラス先輩、あの人たち知り合いだったの? 」

 

「いや、そういうわけやないんやけど……セリカ、あいつらが便利屋68やで」

 

「え? 」

 

 セリカが変なもん嗅いだ野良猫みたいな顔をする。一応来る途中でメッセージの内容教えとったけど、やっぱりあいつらがそれだとは気づいてなかったみたいやな。

 

「え、ええええ!? なによあいつらっ、仕事ってうちの襲撃ってこと!? ラーメンサービスした恩を仇で返すだなんてなんて奴らなの!! ニコラス先輩っ、あいつら追って懲らしめないと!! 」

 

「ええって。もうホシノたちが十分懲らしめとったみたいやしな。それよりも優先するのはカイザーのことや。学校戻ってどうするか考えな」

 

「うう、確かにそうだけど……納得いかない~」

 

「ええから行くで。あとセリカ、お前もう少し観察力を身に着けた方がええぞ」

 

「うう~」

 

 不機嫌なセリカをサイドカーに再び乗せて、ワイらは学校へと向かった。

 

 

◇ ◇ ◇

 

「うう、無様すぎる……なんて情けないの、私は……」

 

 涙目になりながら逃げかえった事務所で、アルは悲しみに暮れていた。

 

「私が肉盾になることもできず……すみません、すみません、すみません……」

 

 アルを守ることもできず速攻で倒されてしまったハルカがいつものように自虐を始めるが、カヨコが「そこまで」とハルカの肩を持ってそれを止める。

 

「今回は仕方ないよ二人とも。まさかアビドスの生徒会長がヒナと同レベルの実力者だったなんて……」

 

「いやー強かったねぇ~、私達が四人がかりでやられちゃうなんて。それにせっかく雇った傭兵も他の子たちがあっという間に倒しちゃってるし」

 

「連携が異常に上手かった。あれ、もしかして先生が指揮してたのかな? どうであれ葬儀屋抜きでもあんなにアビドスが強いだなんて想定外だよ。葬儀屋が言ってた通り、この仕事割に合わなすぎる。これなら風紀委員会相手にする方がまだマシ」

 

(プルルルルル……プルルルルル……)

 

 カヨコとムツキがアビドス戦について述べていると、不意に事務所の電話が鳴り響いた。アルがビクリと反応する。

 

「アルちゃん、電話でないの? 」

 

「表情がさらに暗くなった……もしかしてクライアントの着信……?」

 

「あ、アル様……」

 

「……くっ、出るわよ! 」

 

 半ばやけっぱちに受話器をとるアル。相手はクライアントであるカイザーPMCの理事だった。少々しどろもどろになりつつも理事に結果を伝えるアル。

 

「……ふむ、興味深い報告だ。偵察は十分だろう。それで、実戦はいつだ? 」

 

「うえっ!? あ、あれが実戦だったんです……が……」

 

「ふむ、冗談が上手いのだな。だが心配しなくてもお前たちの実力は買っている。それで……実戦はいつかね? 」

 

「え、あの……はい、も、もちろん冗談ですよ! 実戦はすぐにでも……という感じで……あ、えっと、一週間以内には……はい」

 

「え、社長本気!?」

 

「アルちゃん!!? 」

 

「ふふっ、はい、そうです……お任せください」

 

 ガチャン

 

 アルが通話を切ると同時に社員たちから突っ込みが入る。

 

「社長、まさかまだ依頼続ける気? 」

 

「あのクライアントは超大物なのよ! この依頼失敗するわけにはいかないの! 」

 

「でもアルちゃん、あの葬儀屋さんも親切なバイトちゃんもいないアビドスにすら私達負けちゃったじゃん。お金も使い果たしちゃったしどうしようもなくない? 」

 

「ぐっ、お金はその……」

 

「あ、アル様、私がバイトでもしてきましょうか? 」

 

「ハルカ、その稼ぎで傭兵雇うには全員あと一年は働かないと……それに雇えたとしても同じ目に会うだけだよ。いっそシャーレの先生に相談でもしてみる? 」

 

 カヨコが柴関で先生から名刺を受け取っていたことを指摘する。しかしアルはあまり乗り気ではなかった。

 

「これ以上情けないマネするわけにはいかないわ!! 私たちは泣く子も黙るアウトローなのよ! なんとしても敗北の汚名はそそがないと! 」

 

「アルちゃん、やる気があるのはいいけど実際どうするのー? 」

 

「うるさい! ちょっと待って! えと……そう、融資を受けるわ。まずはそれで活動資金の調達よ! 」

 

「は? アルちゃんブラックリスト入りしてるでしょ? 」

 

「違うわよ! 私は指名手配されて口座が凍結されただけ! くっ、風紀委員会め…… 」

 

 ゲヘナでは起業が禁止されていたため便利屋を立ち上げたアルは風紀委員会によって口座が凍結されていた。ちなみに起業による校則違反さえしなければそんなことはされず、起業にこだわったアルの落ち度でもある。

 

「そーいえばそうだったね。でも中央銀行に融資受けに行っても門前払いじゃない? 」

 

「うるさいってば! 他にも方法はあるんだから! 」

 

「……まさか社長」

 

「そう、ブラックマーケットに行くわよ! 」

 

◇ ◇ ◇

 

「……期待してはいなかったが、やはり便利屋では駄目か。……しかしニコラス・D・ウルフウッド抜きにしてもこれほどまでの力を持っているとは……クソ、あの男がアビドスに戻ってから計算が狂いっぱなしだ! 」

 

 カイザーPMC理事の机を叩く音が薄暗いオフィスに響く。それを聞いていたのは一人の女だった。

 

「ふふ、だからお伝えしたではありませんか、理事。黒服なんて当てになりません。必要になるのは私達の戦力だと」

 

「……どうやら頼むことになりそうだ、マダム。準備をしておけ」

 

「では契約成立です。注文した兵器をそろえておいてくださいね」

 

 マダムと呼ばれた女は闇の中へと消えていった。

 




全力ホシノとニコ兄強化入っているシロコとノノミ+先生相手じゃ流石の便利屋もタジタジです。

それにしてもマダム……いったいなにオバなんだ……

2025/2/13誤字修正
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