ウルフウッドアーカイブ   作:タニシ・トニオ

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10_明日を見据えて

 ウルフウッド達とアビドス校舎で合流し、臨時の対策委員会会議が開かれる事になった。もちろん議題はウルフウッドからもたらされた情報についてだ。

 

「それじゃあ会議を始めようか。とりあえずアヤネちゃん、便利屋についてわかったことを。ニコラスとセリカちゃんは知らないだろうけど、二人が帰ってくる前に襲撃されて大変だったんだよー」

 

「ああ、そいつらならワイらも会ったで。赤髪の女いた四人組やろ。お前らに返り討ちにされてスゴスゴ帰っとるところをバッタリな」

 

「うへ、そんなことあったんだ?」

 

「ホシノ先輩! 柴関で空気おかしかった時に本当は分かってたんでしょ!? 教えてくれても良かったじゃないっ」

 

「店員さんがお客さんに突っかかるわけにもいかないでしょ〜、セリカちゃんに教えなかったのは状況判断だよ」

 

「た、確かにそうかもだけど……うう〜、あいつらに柴関のサービス券まで渡しちゃって……」

 

「それはセリカが鈍いだけやろ。んで、あいつら結局どないな奴らやねん? 」

 

 先輩らに未熟さを指摘され萎れているセリカをスルーして、アヤネが便利屋について調べた情報を読み上げる。

 

「便利屋68はゲヘナ学園の部活で、報酬さえもらえれば何でもこなすサービス業をしています。襲撃時の名乗りの通り、構成員は社長を自称するリーダーのアルさん、室長のムツキさん、課長のカヨコさん、平社員のハルカさんで、ゲヘナではかなり危険で素行の悪い生徒たちとして知られているそうです……情報上は、ですが」

 

 少し困惑した表情を見せるアヤネ。多分彼女達との柴関でのやり取りや、襲撃の際に律儀に社員の紹介をしていた姿を思い浮かべて情報とのギャップを感じてるんだろうな。私もあの子たちが悪い子だとはどうして思えなかった。

 

「そういえばゲヘナだと起業がゆるされているんですかね? 流石自由を校風に吟っているだけのことはありますね☆」

 

「いえ、ノノミ先輩。ゲヘナでは起業は校則違反だそうです。それで便利屋の人たちは指名手配されているようで……」

 

「ん、それなら捕まえておけばよかったね。賞金逃しちゃった」

 

「いや〜シロコちゃん、それは難しいかな〜」

 

 ホシノの発言にシロコが若干驚いた表情を見せた。ホシノの強さはアビドスの皆が、ウルフウッドですら信頼を寄せている。私も何度か彼女の戦いぶりを見ているので他の生徒とは隔絶した実力があることを知っている。そんなホシノのが「難しい」と言えば確かに驚きもする。

 

「なんやホシノ、便利屋のやつらそないやり手なんか? 」

 

「実力だけならシロコちゃんやノノミちゃん達と同じぐらいあるかも。一対四でやりあったけど手加減はできなかったかな。その上逃げ足も早いし、捕まえるのは一苦労だね〜」

 

「す、凄い人たちだったんですね……そんな人たちが今後も狙ってくるなんて、大丈夫なんでしょうか…」

 

 アヤネが顔を曇らせる。確かにヘルメット団よりも厄介な相手そうだ。でも……

 

“ 大丈夫だよアヤネ。私やウルフウッドもいるしね ”

 

「うへ、お姉さんが言おうとしたのに……まあ仮に私やニコラス抜きでも先生がいてくれれば勝ち確って塩梅の相手だから、そんなに悲観しなくても大丈夫だよアヤネちゃん。それにあれだけの傭兵も退けたし、暫くは襲ってくることもないでしょ。このまま諦めてくれたら一番いいけどね」

 

「せやな。それより問題は黒幕のほうや」

 

“ ……カイザーコーポレーション ”

 

 数多くの系列会社を持ちあらゆる分野に展開している、その看板を町中で見かけないことはないぐらいの大企業だ。そしてアビドスの抱える借金の返済先でもある。

 

「ニコラス、一応確認するけどカタカタヘルメット団のウソって可能性は? 」

 

「嘘言っとる感じはせえへんかったな。現に便利屋の情報は合っとったし。あいつらが騙されとる可能性も捨て切れへんが……ただカイザーが黒幕やとしたら相手の資金力とか色々納得いくところもあんねん」

 

 ウルフウッドの考えにノノミが疑問を呈する。

 

「でも理解できません。学校が破産したら貸し付けたお金も回収できないでしょうに……どうしてそのようなことを? 」

 

「確かにそこがわからん」

 

 確かにノノミの言うことにも一理ある。お金が目的ならアビドスを襲撃するメリットはない。しかし……

 

“ ……仮にカイザーコーポレーションが黒幕だとしたら、目的はお金じゃなくて別にあるのかも。例えば担保になっている学校そのものとか…… ”

 

「なんで企業が学校を欲しがるのよ!? 」

 

“ そ、そこまではわからないけど…… ”

 

 セリカに盛大に突っ込まれる。やっぱりそんなことないかなぁと思っていると、私の話を聞いてホシノが何か考え込んでいた。

 

「……いや、でも、だとしたら……それなら確かに、あの誘いも……」

 

「なにブツブツ言っとんねん、ホシノ? 」

 

「……実はさ、ニコラス。昔ニコラスが受けたあの勧誘、私も受けてたんだよね。しかも何度か。先生たちが来る少し前にもね」

 

「勧誘……? 黒服か!? 」

 

” 黒服……? ”

 

「私たちをカイザーPMCに勧誘してきた黒ずくめの男がいるんだよ。アビドスの借金半分を負担するっていう破格の条件でね」

 

” そんなことが……? ”

 

「まさかホシノ先輩、その話受けたりしてないわよね!? 」

 

「してるわけないでしょー。怪しさ満点だし、学校退学も条件だったしね」

 

” 退学も条件……まさか……? ”

 

「そう、学校が目的だったらこの破格の条件にも合点がいくんだよねー」

 

 アビドス高等学校を手に入れることが目的なら破産させればいい。本来であれば莫大な借金と法外な利子で生徒は全て去り、易々と学校を手中に収められたはずだった。だが学校に残り法外な利子すらものともせず返済をする生徒がいた。

 

「カイザーからしたらニコラスは邪魔でしかたなかったんじゃないかな? だからニコラスを退学させようとした。ただニコラスは例の事件で捕まっちゃったから次に邪魔な私を退学させたかったんだろうね。確かに私が条件につられて退学してたら下手すると先生たちが来る前に詰んでたんじゃないかな? 」

 

「なんでそんな重要な話だまってたのよ、ホシノ先輩!! 」

 

「怒らないでよーセリカちゃーん。元々受けるつもりもさらさら無かったし、話すことでもないと思ってたんだよー。まさかこんな繋がり方するなんて思ってもみないじゃん」

 

「確かにそうだけど……でも……」

 

「それってやっぱり、私たちの敵はカイザーコーポレーションってこと? 」

 

 シロコの言葉に皆が口をつぐむ。ホシノの話はカイザーが黒幕という説を補強するものだった。つまりアビドスの真の敵は有数の大企業というとてつもなく巨大なものということになる。そのつらい現実が空気を重くしていた。

 

“ ……ホシノ、予定していた通りブラックマーケットであの戦車の流通経路を探ろう ”

 

「うへ……まあ確かに情報の裏どりは大切だしね」

 

“ それもあるけど、本当にカイザーが黒幕だったらその証拠も掴みたい。それを足掛かりにしてカイザーに強制捜査をかける。シャーレなら、それができる。反社会勢力との繋がりが確認できればセリカの誘拐で立件して、カイザーコーポレーションを法廷に引きずり出せると思う ”

 

 そこからは大人の戦いだ。カイザーの本当の目的は今だ分からないけれど、例えそれがどんな目的であれ大人が子供の大切なものを奪っていい理由になんかならない。確かにカイザーコーポレーションは強大な相手だ、が企業という法に縛られている存在でもある。やりようはあるはずだ。

 

「先生、それって……」

 

“ そうだよホシノ、勝ち筋はちゃんとある。みんなの頑張りを踏みにじらせはしない ”

 

 先ほどまでの重苦しい雰囲気が晴れていく。まだ未来の切符は残っている、それがわかって皆前向きになれたようだ。私の仕事が増えたことも確定したがそんなことは些細なことだ。

 

「ずいぶん啖呵切るやないか、センセ」

 

“ 当たり前だよ、先生だからね。無論、君には色々手伝ってもらうから。()()()も含めてね ”

 

「あの件? 」

 

「アビドスには関係ない話や、ホシノ。全くセンセは人使い荒いで」

 

“ ははは、じゃあさっそくお願いしようかな。リンちゃんたちにも事前に話を通しておきたいしシャーレオフィスに一旦帰ろう。あの件の準備とか、あと着替えもいるしね……安全運転でお願い ”

 

「しゃーないな。バイク出してくる」

 

 バイクのカギを指で回しながらウルフウッドが一足先に対策委員会の部室の後にする。私は改めて皆を見据えた。

 

“ 明日、私たちが戻ってきたらみんなでブラックマーケットに行こう。証拠を掴んで襲撃をやめさせるんだ ”

 

「「「「「はいッ」」」」」

 

 みんなが元気に返事をしてくれる。

 

「絶対証拠見つけてギャフンっていわせてやるんだから! 」

 

「どういう場所か調べないと……」

 

「どんなものがあるか楽しみですね☆」

 

「ん、準備しなきゃ」

 

「うへぇ、みんな元気だねぇ。お姉さん、今日は色々あって疲れちゃったよ」

 

 それぞれが抱える感情は様々だけど、その目は皆同じく明日を見据えてた。まっすぐで光が宿っている。これは私のエゴかもしれないけど、やっぱり子供にはこんな目をしていて欲しい。

 

“ じゃあみんな、また明日 ”

 

 未来の切符を、取り戻しに行こう。

 

◇ ◇ ◇

 

「……センセ、すまんかったな」

 

 シャーレオフィスへの帰り道の途中、サイドカーに乗っとるセンセに謝罪する。あれは確かにワイの勝手やったからな。

 

“ えと、なんのこと? ”

 

「は? 」

 

 センセを見るとホンマに何のことを言っとるのか分からんちう顔をしとった。うそやろ?

 

()()()のことや」

 

“ ……ああ、カタカタヘルメット団の子たちの……でもなんで君が謝るのさ? ”

 

「いや、勝手に仕事増やしてもうたやないか。しかもワイの領分外で」

 

“ そういうこと? 別に怒ってないよ。むしろ嬉しいぐらいだ ”

 

「は? なんでやねん」

 

 普通勝手に仕事増やされたら怒るとこやろ? なんやこいつ、マゾなんか?

 

“ 君、今なんか失礼なこと考えてなかった? ”

 

「そら意味わからんこと言われたらな」

 

“ おかしなこと言ってるつもりはないんだけどなぁ…… ”

 

「じゃあなにが嬉しいねん? 」

 

 センセは少し言葉を溜め、どこか遠くを眺めながら語る。

 

“……元々、私が先生になったのはさ、あの子たちみたいな子に白紙の切符を渡せる大人になりたかったからなんだ ”

 

 そういやこいつ自身のことはまだ聞いたことなかったな。そない暇無かったっちうのもあるが。それにしても……

 

「白紙の切符か……」

 

“ そ、子供たちの手には行き先を自由に書き込める切符がある。でもそれを失くしてしまったり、そもそも手にすることもできなかった子供たちだって存在する。そんな子たちにもう一度……それが僕の原点だ。だから同じ想いを持ってる仲間がいて嬉しいんだよ ”

 

「……は? 仲間ってもしかしてワイのことか? 」

 

“ 君以外誰がいるのさ。そう思ったからあの子たちに手を差し伸べたんじゃないの? ”

 

「ちゃうわ。そんな大層なもんやない。ただ、あいつらを見捨ててもうたらワイの恩人に顔向けできなくなる思うただけや」

 

 ゆうても、とっくに顔向けできへんような人間になってもうとるけどな。ただそれでも、ワイが血まみれの化け物に成り果てても、おばちゃんだけじゃなくてチビたちまで最後のあの時ワイに手を差し伸べてくれとった。それなのにワイが自分と似たようなガキ見捨ててもうたら流石に恥ずかしいやんけ。

 

“ ……君も、僕と同じだったんだな ”

 

「はぁ?」

 

 なに言うてんねん、こいつ。

 

“ 僕にも恩人がいたんだ。どぶ泥の底に居た時に『どこにでも行けるんだ。今いるそこがたとえ暗闇でも、あの陽だまりにだって君は行ける』そう言って切符をくれた人が。その人に憧れて、僕は先生になった。いつかその人に会った時に胸を張れるように、そんな大人に僕はなりたくてね。いやぁ驚いたなぁ、君と僕、結構似てるんだね ”

 

 なに満面の笑み浮かべてんねん、トンガリみたいに笑うなや。

 

「……なんかむかつくわ。前も言うたやろ、お前のそないなとこ嫌いやて」

 

 まだ砂漠なのをいいことに思いっきりハンドルを切る。

 

“ わっ、わあああ!? ちょっ、ウルフウッド!! 安全運転だって!! ”

 

「うっさいわボケ!! 少しだまっとけ! 」

 

“ 待って! これ以上やったらまた……ウッ… ”

 

「はぁ!? ちょ、おま、またか!? やめーや!! フリやないぞ、ホンマやめーや!! やめてー」

 

 アビドス砂漠にバカな男たちの悲鳴が響き渡った。




先生の過去は完全な独自設定です。
ただウルフウッドの相棒としてどう振る舞っていくか考える上で必要な肉付けだったので加えました。

戸狩先生にはレムみたいな恩師がいたんですって程度ですけど。

2025/2/6
早速誤字報告いただきました。うう、誤字が失くせない……。
いつも報告いただきとても感謝しています。
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