「……はい、確かに確認しました。今月の返済ありがとうございます。来月もよろしくお願いいたします」
シロコから渡された現金をカイザーローンの銀行員がアタッシュケースにしまい込む。そしてそのまま現金輸送車で校門の前から去っていった。
「はあ、シロコちゃんたちのヘソクリのおかげで今月は乗り切ったねー」
「それにしても、なんでカイザーローンは現金でしか受け付けないのでしょうね? わざわざ現金輸送車まで手配して……」
「さあ? でもとりあえず支払いは済んだし、さっそくブラックマーケットに出発しようか」
荷物を取りに校舎へ戻る面々。それをよそにシロコは現金輸送車を眺め続けていた。気になったウルフウッドが足を止める。
「……おいシロコ、あれを襲うとか言うなよ。盗みはアカンからな」
「わかってるよニコ兄」
「計画もすんなよ」
「……」
目をそらすシロコ。
「ホンマわかっとるんかお前? 」
やはりどこか危なっかしい妹分を校舎に引っ張りながらウルフウッドも校舎へと向かっていった。
◇ ◇ ◇
「うへ~ここがブラックマーケットかぁ、初めてきたよ」
「ん、私達もすごい久しぶり」
「半年以上前ですかねー、ニコ先輩と一緒に犯罪組織の人たちを捕まえた時以来でしたか」
「ワイは昨日来たばっかやけどな」
ワイらブラックマーケットへと――アヤネは学校で待機、ドローンでのサポートやけど――足を運んどった。セリカの誘拐で使用された戦車のパーツの流通経路を探るためや。
ここからどうするか、そう相談しようした矢先に早速銃声が聞こえてくる。ホンマに騒動には事欠かかん場所やなここは。
「う、うわああああ! ついてこないでくださいー!! 」
「待てやコラー!! 」
その騒動はどうもワイらに近づいとるらしく、声をのする方を見ると目を疑ってしまう。
「嘘やろ、なんであいつまたおんねん……?」
◇ ◇ ◇
「なあ、ワイ前もゆうたよな? お前みたいなんがこないな場所に来んなって」
「うう~すみません~、でもどうしても欲しいものがあって……」
「えーっと、ニコラス、この子知り合い? トリニティの生徒だよね? 」
身代金目当てでチンピラに拉致されかけていた顔見知りを助ける。これ三度目か? たまたま三回居合わせたっちうのも考えづらいから、こいつ懲りずに何べんもここに来とったんやろな……
「こいつはヒフミ言うてな。モモフレンズのグッズ目当てにブラックマーケットに来とるトリニティの不良や」
「ふ、不良じゃありませんよー!? 」
「ああ? こないなところに来るトリニティの生徒なんてお前しかおらんやろが? ホンマ懲りずによう来るで」
「あ~、今回みたいなことが何回かあったんだね」
ほれ見い、ホシノかて呆れとるやんけ。
「ヒフミちゃんもモモフレンズ好きなんですね☆ 私も大好きなんですよ! 今日は何を探してたんですか? 」
そういやノノミも好きやったな、モモフレンズ。こいつらのせいで興味もないのに名前だけは憶えてもうた。
「これです! ペロロ様とアイス屋さんがコラボした限定ぬいぐるみ! 限定生産で百体しか作られてないグッズなんですよ! ね? かわいいでしょ? 」
「わ~、かわいいです! 」
かわいいゆうてるのはノノミだけやった。アイス突っ込まれているキモイ鳥をどう見たらそう思えるのか分からへん。そういやこいつもお嬢様やったな。なんや? 育ちがええとあんな訳の分からんもの好きになるんか?
「ところでウルフウッドさんたちはなぜこちらへ? また賞金首を捕えにですか? 」
「いや、今回はワイらも探し物しとってな……あ、せや、丁度ええわ。ヒフミ、頼まれごとしてくれへんか? 」
「え、なんでしょうか? 」
現状この場におる中で一番ブラックマーケットに詳しいんはこいつや。ちゃっかり目的のモンはゲットしとる強かさもある。
「ワイらの探し物に協力してくれへんか? こいつらと一緒にブラックマーケット回って欲しいねん」
「私がですか!? えと、みなさんにはお世話になりましたし喜んで引き受けますけど……」
「ちょっと待ってニコラス、どういうこと!? 」
「なんやホシノ? こいつブラックマーケットに入り浸っとるからな、道案内に丁度ええと思ってな」
「いや、それもそうなんだけど、そうじゃなくて……なんかニコラスは別行動するような言い方だったけど? 」
「ん? 当たり前やろ。ワイがここだとどんだけ目立つか分かっとるんか? しかも昨日、郊外部とはいえここで暴れたばかりやぞ。目を付けられ取るに決まっとるやんけ。ワイはワイで情報探るからお前らとは別行動や」
「またぁ? 」
なんかえらい渋るな、ホシノのやつ。こればっかりはしゃーないやんけ。
「ちうわけでセンセ、こいつらの引率頼んだで。お前らはセンセの護衛よろしゅうな」
ホシノが小言を言いだす前にそそくさとその場を立ち去った。
◇ ◇ ◇
「おっちゃん、五番頼むわ」
「はいよ……にしても旦那が脱獄してたって情報は本当だったか」
「それは嘘やで。脱獄やのうて仮釈放や。シャーレっちうところで働くのが条件でな」
捕まる前によく利用しとった情報屋を訪ねる。大分時間が空いてもうたから同じ場所に残っとるか不安やったが、依然変わらりなくパグのおっちゃんはそこにおった。ぱっと見はただの売店なのも、ワイの好きな銘柄に振られとる番号も変っとらへん。
「連邦捜査部シャーレ……またえらいところに勤めることなったな、旦那」
「まあな。にしても、ワイの情報なんて売れるんか? 」
「そりゃ売れるさ。あんた、昨日も郊外部で暴れてたろ。みんな戦々恐々してるぜ、葬儀屋が復活したってな。あんたはここじゃ人間台風さ。天気予報は誰だって見るだろ? 」
「人間台風か……そない大層なもんやないで。過大評価や」
「周りはそうは思ってないのさ。無論俺もね。で、情報も買いに来たんだろ? 旦那に目を付けられた被災者は一体誰だい? 出所祝いだ、サービスするぜ」
ワイはおっちゃんに戦車の情報を伝えた。変なバイアスはかからんよう敢えてカイザーのことは伏せてやけど。おっちゃんはコンソールを広げてガタガタと調べだす。
「……これはまたえらいのが出てきたな、旦那。この戦車の流通元、恐らくカイザーPMCだぜ」
情報を渡してまもなくおっちゃんが告げる。こっちからもカイザーの名前が出てくるっちうことは、ほぼカイザーが黒幕で確定やな。
「ようわかるな? 」
「分かりやすいからな。ほとんど情報がねえのさ、その戦車」
「情報が無い? それでなんでわかるんや? 」
「旦那も知ってるだろ。ここじゃみんな大っぴらに悪さしてる。違法な取引も平然とな。だけどこの戦車の情報は販売ルートも補完記録も隠されているのかさっぱり見つからねえ。だからだよ、カイザーコーポレーションが盗品として処理した武器を流すときの手口だ」
「有名なんか? 」
「情報屋の間ではな。といっても集まってくる情報を組み合わせるとそういう結論になるって類の情報さ。だから
「取引の証拠自体は無いっちうことか……」
「残念だがね。もし取引の証拠を押さえたいなら取引現場を直接押さえるとかしねえと。だが当然競りなんてされてないからな、あまり現実的じゃねえな」
「そか」
こら一筋縄ではいかんな。少なくともまっとうな方法じゃ無理かもしれん。
「すまねえな、旦那。あんまり力になれなかったみたいだ。反応からして相手がカイザーなの、もう知ってたろ? 」
「半信半疑やったけどな。裏取りできただけで充分や」
タバコと情報の代金を置いて去ろうとするが、おっちゃんに呼び止められる。
「少し待ってくれ、旦那。お詫びになるか分からねえがあんたの耳に入れておきたい情報がある」
「どないな話や? 」
「あくまで噂程度の信憑性だけどな……連邦生徒会とカイザーコーポレーションが繋がっているっていう情報がある」
「なんやて……? 」
「もしそれが本当なら繋がっているのは防衛室か人材資源室あたりだろう。あんたがカイザーコーポレーションから何か掴みたいならそこらへんを突いてみて反応を見るのも手かもしれないぜ。まあ取引現場を押さえるよりはマシ程度の話だが……」
「いや、助かったで。おおきにやで、おっちゃん」
「おう、今後とも御贔屓に頼むぜ、旦那」
情報屋を後にする。にしてもまたえらい情報が出てきたな。もし本当やったら昨日連邦生徒会にカイザー訴える準備しとるの伝えたのは不味かったかもしれん。いや、これでカイザーがアクション起こしたらそれを足掛かりにするのもありか?
(……もし防衛室が関係しとるなら局長が何か知っとるやろか? 後で聞いてみるか。……とりあえずはこっちの収穫を連絡せな)
そう思ってスマホを取り出すと丁度アヤネから通信のコールがかかってきた。あっちも何か進展あったらしい。
「どないした、アヤネ。何か見つかったか?」
「いえ、その……時間が無いので単刀直入に言います。今ホシノ先輩たちのグループはマーケットガードに追われています!」
「なんやて!? 何があった! 」
「えと、その、話すと長くなってしまって……とにかくニコラス先輩はバギーで先輩たちを回収してもらえませんか! バギーのカギは先生が持っていますので、まずは先生と合流してください。案内します」
「なんやセンセは別行動か? まあそっちの方が安全か……わかった、すぐ向かう」
「ありがとうございます! ニコラス先輩! 」
どうやらあっちは何かヘマやらかしたみたいやな。それともまさか、カイザーの息がここにもかかってて嵌められたか……?
(どないしても急いだ方が良さそうやな)
バギーの元へと駆け出す。ただ同時にどうでもええ疑問が頭をよぎった。通信に写ってたアヤネの姿を思い出す。
(……なんであいつ覆面なんか被ってたんや? )
◇ ◇ ◇
ウルフウッドと別行動をとっていたホシノ達は覆面を被りながらマーケットガードと逃走劇を繰り広げていた。それには訳があった。
ヒフミの案内を頼りにブラックマーケットを巡る一行。しかし戦車の出所に関する情報は全く見つからず途方に暮れていた。そんなおり今朝自分たちの返済金を回収した集金車が犯罪者にも資金を流している闇銀行にお金を卸しているのを発見する。それはカイザーローンと闇銀行、すなわちアビドスを襲撃してきた反社会組織がつながっていることの証明だった。
「さっきの集金確認の書類……それが取引の証拠になりませんか?」
そのヒフミの一言でアビドスの面々は集金記録を入手することを決意する。
「銀行を襲う」とシロコは対策委員会の会議で披露した覆面を取り出し、ヒフミにはオヤツとして購入していたタイ焼きが入っていた紙袋を被せ即席で強盗団を結成。そして見事な手際で強盗を完遂し現在逃走中という状況である。
ちなみに先生は危ないので少し離れた場所から皆の逃走ルートを指示していた。
マーケットガードをある程度撒けたのか追撃が収まってきた頃合いにホシノがシロコに声をかける。
「シロ……2号ちゃん、集金記録の書類はちゃんと持ってるよね?」
「うん。ただ問題が生じた」
「え!? 」
ホシノ含めた強盗メンバーがシロコの元に駆け寄る。シロコは集金記録を入れたバックを皆の前で広げた。
「このお金どうしよう? 」
バックの中には集金記録の書類と共に札束が詰め込まれていた。パッと見ても一億以上の金額がある。
「やったあ! これだけあれば借金かなり減らせるわね! 」
「ちょ、ちょっとまってセリカちゃん! そのお金使うつもり!? 犯罪だよ! 」
着服する気マンマンのセリカを通信越しにアヤネが嗜めるが、セリカが反論する。
「は、犯罪だからなに!? このお金はそもそも私たちが汗水流して稼いだお金なんだよ! それにそのまま流れてたらまた犯罪に、アビドスの襲撃に使われるかもしれないじゃん! なにが悪いの!? 」
「それは……」
それを聞いてアヤネも黙ってしまう。実際アヤネも思う所があった。その様子を見てシロコは決意する。
「……ん、やっぱりこのお金は捨てていこう」
バックから集金記録の書類だけを取り出し懐に仕舞うとお金の入ったバックをそのまま地面へと置くシロコ。
「え!? なんでシロコ先輩!? 」
「今は2号だよ、4号。それでお金だけど……」
「……待ってくださいシ……2号先輩! 何者かがそちらに接近しています! 」
シロコがセリカたちを諭そうとするが、そこへ横やりが入った。
「あ、貴女達!! ちょっと待って!!」
(あ、あれは……便利屋!? )
「あ、落ち着いて。私は敵じゃないから……ただ、その……」
声をかけてきたのは便利屋68の社長、アルだった。というのも、実は彼女もアビドスのメンバーが強盗を仕掛けた銀行に偶然にも居合わせていたのだ。
アルはアビドス襲撃の融資を受けるためブラックマーケットの銀行を訪れていた。しかし中々審査が通らず待ちぼうけを食らっていると、なんと目の前で銀行強盗が発生したのだ。覆面をかぶった強盗団のあまりの手際の良さ、そしてブラックマーケットを敵に回すこともいとわないイカレ具合に「あれこそ真のアウトローよ! 」と感激し、アルはその強盗団を追って声をかけてきたというのが事の顛末である。
「銀行の襲撃、見せてもらったわ……ものの五分で攻略して見事に撤収……その手際の良さ、あなたたち、稀に見るアウトローっぷりだったわ。正直、感動した……法律や規律に縛られない、本当の意味での自由な魂があった! そんなアウトローに私もなりたいから……だからその雄姿を私に刻むために、あなたたちの名前を教えて欲しいの!! 」
(一体、何の話? )
(うへぇ、なんか盛大に勘違いしてるみたいだね~)
アルの情熱的なお願いに困惑する面々。そんな中、緑の覆面をした3号がノリノリで答える。
「……はいっ! おっしゃることはよーくわかりました! 私たちは人呼んで……覆面水着団! 」
「や、ヤバイ! 超クール!! かっこよすぎるわ!! 」
3号の悪ノリにいつもの感じで青覆面の2号もつい乗っかってしまう。
「ん、残念ながら今日は緊急で覆面だけだけど。悪を倒す正義の義賊として活動してるんだ」
(なんかシロコ先輩が設定盛ってる!? )
青と緑から視線で「決めて」と催促され、ピンクの覆面1号がやけくそ気味に言う。
「うへ、目には目を、歯には歯を。無慈悲に、孤高に、我が道の如く魔境を行く。これが私らのモットーだよ!! 」
「な、なんですってー!! 」
アルが感動に打ち震えていると、後ろから無粋な音が近づいて来る。覆面水着団を追ってマーケットガードが来たのだ。
「やばい、逃げないと! 」
「アディオス☆ 」
逃走を再開する覆面水着団。そんな彼女たちの進行上に一台のバギーが現れた。運転席に先生が、そして車の屋根にウルフウッドが乗っている。
「伏せろアホども!! 」
「え、ウルフウッドさん!? なんで……? 」
アルの目には身を屈める覆面水着団と、その先にいるウルフウッドの姿が映っていた。ウルフウッドは十字の短辺側の砲身をこちらに向けて構えている。
アルが状況を認識した刹那、ウルフウッドから放たれたロケット弾頭が覆面水着団の頭上を越えてアルとマーケットガードへ迫った。
「あっ、ちょっ……」
アルの悲鳴とマーケットガードたちの阿鼻叫喚は爆音に飲み込まれた。
◇ ◇ ◇
助手席へと乗り込んだウルフウッドはバギーに飛び乗ってきたメンバーをルームミラーで眺めながら疑問を口にする。
「……なんでお前ら覆面しとるんや? 」
その質問に何と言おうか皆が悩む中、シロコが堂々とした態度で回答する。
「ん、銀行強盗をした」
「……なんやて? すまん、耳おかしくなってしもうたかもしれん。もう一度言ってくれへん? 」
「ん、銀行強盗をした」
「……なにやってんねん、このドアホ!! おお、神よ、ワイは銀行強盗に加担してしまいました!!」
「今更じゃない、ニコ兄? 」
「なにゆうてんねん、ワイは牧師やぞ! やり取りするんは人の生き死にだけ、盗みはせえへん誓っとるのに……ちうかセンセかて一応聖職者やろ! お前が居てなんでこないなことになってんねん!? 」
ウルフウッドの怒りが横で運転している先生にまで飛び火する。しかしその怒りは至極まっとうなものであったため、先生も回答に詰まってしまう。
“ い、いや、ウルフウッド、これには深い深い訳がね…… ”
「そうなんだよニコラス、カイザーの証拠を掴むために仕方なかったんだよ」
先生とホシノはウルフウッドに成り行きを説明する。今朝方返済金を渡した集金車がブラックマーケットにあるカイザーローンにお金を卸していたこと。そこでは犯罪者への資金提供が行われていること。自分たちの返済金が犯罪へ、更には自分たちへの襲撃に利用されている情報を掴むために銀行強盗をしたこと。
「……まあ事情は分かったわ。ただ強盗で得た証拠って使えるんか? 」
先生は渋い顔をしながら答える。
“ 本来は使えないよ。ただあっちも闇金だしヴァルキューレに通報はできないからね。だから入手した資料は匿名でシャーレに渡されたものとして、シャーレは真偽を確かめるためにカイザーローンに強制捜査をするって筋書きで進めようと思う。叩けば埃が出るところだ、少なくともアビドスの襲撃どころじゃなくなるはずだよ ”
「それを足掛かりにしようっちうわけか……まあそれなら強盗じゃなしに捜査の一環と考えれば……ええんかなぁ? 」
一応納得しようとするウルフウッド。ただ懸念事項がもう一つあった。
「確認するが……金はびた一文盗ってへんやろな?」
一番不安だったのかルームミラー越しにシロコを見つめながら問うウルフウッド。シロコはそれが不服そうにしながらも答える。
「盗ってないよ。書類と一緒に渡されたけどお金はさっきの場所に置いてきた。多分ニコ兄のロケットランチャーで今は灰になってるんじゃないかな? 」
「嘘っ!? う〜、勿体ない! 燃やしちゃうならやっぱり持ってくればよかった~!」
シロコの灰になってる発言にセリカが悔しがる。それを聞いてウルフウッドは呆れながらセリカを諭す。
「良いわけないやろ。ええかセリカ。一度したことはな、それが選択肢に入ってまうねん。例えそれが手を汚すことやとしてもな。しかもその手の汚れは頑固で落ちひん。薄汚れてくのはあっという間やで」
ウルフウッドの言葉にセリカだけでなく皆が静かになる。それは彼の実体験が伴った重い言葉だった。それを聞きセリカは素直に「……ごめんなさい」と謝る。
「分かればええ……まあ実際せんかった分、お前らは上出来や。ホンマやで? それよりもここまでしたんやから例の書類はちゃんと無事なんやろな? 」
少し湿っぽくなってしまった空気を換えるように、ウルフウッドは集金記録の書類について話を移す。
「ん、ばっちり」
シロコが懐から紙の束を取り出す。少し皺がついてしまっているが書類はしっかりと確保されていた。シロコはそのままパラパラと書類をめくり中身を確認する。
「……あった。アビドスで集金したお金が、その後すぐにカタカタヘルメット団に対して『任務補助金五百万円』って名目で流れてる記録がある。カイザーPMCが指示して、カイザーローンが資金の提供……っていうことはカイザーコーポレーション本社の息もかかっているって見るのが妥当かな」
「せやろな。ホンマ、こないな学校狙ってなにが目的なのかはさっぱりやけど……」
“ やっぱりカイザーローンだけじゃなくて系列会社にも捜査が必要そうだね。……でもとりあえず、みんなお疲れ様。ヒフミも大変なことに巻き込んでごめんね ”
「あ、あはは……えと、刺激的な体験でした。……先生、私もこの情報とアビドスのみなさんの状況についてティーパーティーに報告しようと思います。きっと力になってくれると……」
「あ~、気持ちは嬉しいけどさ、ヒフミちゃん。多分ティーパーティーはもう知ってるよ」
ヒフミの意気込みに水を差すようで悪いと思いながらもホシノが話を遮る。
「は、はいっ!? 」
「あれほどの規模を持つ学園の首脳部なら、私達の現状もカイザーコーポレーションの動きも把握してると思うよ。みんな遊んでばかりじゃないだろうしさ。助けてくれるならもう動いてくれてるよ、きっと」
「そ、そんな……知ってるのに、みなさんのことを放置していたと……」
「まあしかたないよ。アビドスは弱小過ぎてトリニティみたいなマンモス校にアクションされたらコントロールする力はないからね。だから仮に善意で力を貸してくれても、下手したら別の火種が生じる可能性もある。色々と顔が広いニコラスもいるから余計にね」
「なんや、ワイが悪いんか? 」
「違うって、政治は難しいって話だよ~」
「あ、あははは……」
ウルフウッドとホシノのおどけた会話にヒフミは少しだけこわばりが解ける。ホシノは再びヒフミを見据えた。
「ヒフミちゃんの気持ちが嬉しいのは本当だよ、だから気にしないで。それに今の私達にはシャーレがついてくれてるからさ、大丈夫だよ。問題解決したら今度遊びに行くね。その時はよろしく」
「……はい、お待ちしてますね! 」
そうこう会話をしているうちに皆を乗せたバギーはアビドス校舎へとたどり着く。アヤネは校門の前で待機しており皆を迎え入れた。
「じゃあワイらはヒフミを送ってそのままシャーレオフィスに戻る。アヤネ、バギー借りてくで」
「はい、大丈夫です。ヒフミさんも今日は本当にお世話になりました」
「いえ、少しでもお力になれたなら幸いです。本当に……色々ありましたね」
「そうだね、すごく楽しかった」
「……それお前だけちゃうか? 」
目を輝かせるシロコにウルフウッドが怪訝な目を向ける。お金を盗ってはいなかったもののやはりどこかシロコには危なげなところがると感じていたウルフウッドは、いつか先生と一緒にシロコの面談をしようと心に決めた。
「と、とにかく……これからも大変かもしれませんが頑張ってくださいね。応援してます! 」
アビドスの面々に手を振るヒフミを乗せ、バギーはアビドスを出立する。先生はウルフウッドに運転を任せ、助手席でシロコから預かっていた集金記録の書類に目を通していた。
「……どや、センセ。行けそうか? 」
” うん。内容の精査は必要だけど、シャーレがカイザーに乗り込む足掛かりとしては十分だと思うよ。今度はこっちから仕掛けよう ”
「ええやん、楽しみやな」
実際に先生の提案した捜査に踏み切る方法が可能かどうかは知りませんが、ここはアビドス編3章でも出てきた「実際の法解釈とはちがいます」という言い訳でどうにか……
まじで分からないんですよ、キヴォトスの法関係……
銀行強盗しないとヒフミのフラグも立たないし、原作先生、アンサートーカーか何かとしか思えないフラグ管理能力過ぎる。