ウルフウッドアーカイブ   作:タニシ・トニオ

22 / 88
12_一難去ってまた一難

 シャーレのオフィスにて先生とウルフウッドはカイザーコーポレーションに捜査を仕掛ける為の準備を進めていた。

 

” ……まさか連邦生徒会とカイザーがつながってるかもとはね ”

 

「あくまで疑いがある程度やけどな。ただこんだけキヴォトスに食い込んで好き勝手やってる企業や、本当だとしてもなんらおかしない。どないする?」

 

“ ……予定通り事を進めよう。逆に足踏みするほどあちらに猶予を与えてしまうからね ”

 

「せやな。それにもし連邦生徒会が邪魔して来たらまとめて突き上げればええか」

 

“ そうならないことを祈るよ ”

 

 二人が引き続き作業を進めていると、そこへシャーレのドアホンの音が鳴り響く。

 

「なんやこないな時に? 」

 

“ 誰だろう? 来客の予定はないはずだけど…… ”

 

 先生が応答のスイッチを押すと来客の顔がモニターに映る。そこには意外な人物が映し出されていた。

 

「ゲヘナ学園風紀委員長の空崎ヒナよ。アポイント無しに申し訳ないけれど、先生とニコラス・D・ウルフウッドに話がある」

 

◇ ◇ ◇

 

 柴関ラーメンの一角を便利屋68が占有していた。アルが席に座ったまま神妙な面持ちで皆に告げる。

 

「皆には謝らなければいけないことがあるわ。便利屋68は……今の仕事を降りる。情けないように見えるかもしれないけど、今の私たちじゃアビドスに敵わないのは事実。……でもへこたれないわ! 私たちが征くのは魔境、この経験を糧にして便利屋68は更なる躍進をしてみせる! だから付いてきてくれないかしら!! 」

 

「も、もちろんですアル様!! 例え火の中水の中でも付いていきます! 」

 

「いや、私は元々この仕事降りようって言ってたし……社長が無事ならいいよ」

 

「くひひっ、面白かったらどこでもいいよ♪ 今回もなんだかんだ楽しめたしね〜。チリチリになったアルちゃんも撮れたし」

 

 ハルカ、カヨコ、ムツキがアルの宣言に各々の反応をする。元々彼女たちはアルから離れるつもりはなかったためアルの宣言は半ば茶番じみたことになっていたが、そうしたことを含めて彼女たちはアルを慕っていた。

 

「ムツキ、写真は消しなさい! まったく……おほん、と、とにかく今日は美味しい物を食べて心機一転しましょ。私の奢りよ、好きなものを注文していいわ! 」

 

「サービス券無事だったんだね」

 

「カヨコも一言多いわよ! 奢りには変わらないでしょ!? 」

 

 アルの手には柴関ラーメンのサービス券が握られていた。それはアビドス校舎襲撃の帰りにセリカから貰ったサービス券だった。アルはサービス券を大事に財布に入れていたためウルフウッドのロケットランチャーを食らっても奇跡的にそれは無事だった。アルの髪はチリチリになってしまったが。

 各々の頼んだメニューがテーブルに並ぶ。空腹も相まって光輝いて見えるそれらを前にアルは両手を合わせた。

 

「いただきましょう!」

 

――その瞬間だった。

 

ドカンッ!!

 

 突如としてその場が爆発し、アルたちの意識を断ち切った。

 

「……な、なんなのよーー!!?」

 

 少しして意識を取り戻したアルは自身に覆いかぶさっている瓦礫を押しのけガバッと起き上がった。その視界には瓦礫の山と化した柴関ラーメンが映り込む。

 

「な……あ……」

 

 状況が飲み込めず呆然と立ちすくむアル。同じくして意識を取り戻した便利屋の仲間たちも同じような状態だった。そんなアルたちに大きな声が浴びせられる。

 

「あんたたちがやったの!!? 」

 

 声をかけたのはセリカだった。全身から怒気を滲ませ爆発寸前といった様子である。その後ろにはホシノ、シロコ、ノノミの姿もあった。アヤネは離れたところにいるらしく通信機のホログラムから皆に柴関の大将の無事を伝えている。大将の無事を聞いてとりあえずアルも安心するがそれも束の間、目の前のアビドス生から発せられている剣呑な雰囲気を察知し弁明を行う。

 

「ち、違うわ!! 本当よ!! 私たちはここでただ食事を取ろうとしてただけで、そしたら急に店が爆発して……」

 

 身ぶり手振りで説明するアルの手から焼け焦げたサービス券が零れ落ちる。それをホシノが拾い上げ、セリカの前に差し出す。

 

「……セリカちゃん、どうやら便利屋ちゃんたちは本当にただのお客さんだったみたいだよ」

 

「それ、あの時の……じゃあ一体誰がこんな酷いことを……」

 

ドゴゴゴゴーーーーン!!

 

ズガガガガガーン!! 

 

ドッカーーーーーーン!

 

 急遽その場にいる全員を巻き込む勢いで砲撃が降りそそぐ。ホシノは盾を展開して皆を直撃から防いでいた。アヤネから焦った声で分析の連絡が入る。

 

<皆さん砲撃です!! 三キロの距離に多数の擲弾兵を確認! 五十ミリの迫撃砲です! >

 

「さっきからなんなのよ~~~!! 」

 

 さきほどから状況が飲み込めないままのアルの絶叫がその場に響き渡った。

 

◇ ◇ ◇

 

 アルの絶叫から少し時間はさかのぼる。

 

 カイザーローンと悪徳銀行が繋がっている証拠を先生達に渡し、私たちは久々にゆったりとした時間を過ごしていた。

 思い返せばカタカタヘルメット団の襲撃、セリカちゃん誘拐事件、ニコラスと後輩二人の和解、便利屋襲撃、そしてブラックマーケットでの銀行強盗……たった数日の出来事とは思えない濃密な日々。ここらで少しお休みさせてもらっても文句は言われないとは思う。

 シャーレオフィスでアビドスの為に動いてくれているであろう先生やニコラスには悪いけど今私たちが気を張っていても仕方ない。鋭気を養わせて貰う方が効率的だ。

 

 そういえば最近オープンしたアクアリウムが気になっていたし皆を誘って行くのも良いかもしれない。本音を言わせてもらえれば海を見たことがないニコラスも一緒がよかったけど、まあその時の下見も兼ねてということで。

 

 そう考えて皆に声をかけようとした時だった。対策委員会の部室に警報が鳴り響く。

 

「前方十キロ圏内で爆発を検知! 近いです、詳細な場所は……柴関ラーメン!? 」

 

「はあ!? どういうこと!? なんであの店が狙われるのよ!? 」

 

 アヤネちゃんの報告に皆が驚く。私もだ。なんで戦略拠点でもなんでも無いあそこが?……もしかして、狙いは私たちだろうか? 考えられることとしてはニコラスや先生の居ない間に私たちを誘い出す罠の線だ。しかし、だからといって私たちに行かないという選択肢は無い。

 

「皆、行くよ! 準備は万全にね! 」

 

 私も愛用のチョッキを着込み髪を後ろで結んだ。

 

 現場に着くとそこにいたのは便利屋ちゃん達だった。まさか彼女達が? と思ったけど、むしろ巻き込まれた側のようだ。じゃあ誰が……? そう思うのも束の間、砲撃と共にまさかのゲヘナ風紀委員会が現れる。しかも相当の戦力を携えて。

 先頭にいるリーダーと思しき銀髪の生徒に話しかける。

 

「こんにちは、ゲヘナの風紀委員さん。一応聞くけど、ラーメン屋吹き飛ばしたのもさっきの砲撃もあなたたちで合ってる? 」

 

「そうだけど? 」

 

 銀髪の子は全く悪びれる様子もなく肯定した。その態度に怒りがグツグツと沸いてくるのを実感するが、まずは話し合いだと自分に言い聞かせる。

 

「理由は? 」

 

「そこにいる便利屋たちをとっ捕まえるためだ。言っておくが邪魔するなら部外者といえ問答無用でまとめて叩きのめす」

 

 押さえろ。冷静になれ。そう自分に言い聞かせる。私が爆発したら後ろの皆も止まらない。今は私が話しているからギリギリ踏みとどまってくれているだけだ。セリカちゃんなんか髪を逆立てて限界寸前だし。だから私は冷静でないと。

 

「ふぅ……あのさ~あなたたち、自分たちが何しているか分かってる? チンピラの小競合いとは違うんだよ? ここで風紀委員会が戦術的行動をとる意味、ちゃんと理解してる? 便利屋ちゃんたち捕まえるにしてもさ、前もってこちらに話を通しておくのが筋なんじゃないの? 」

 

「お前たちにそんなことをする必要なんかない」

 

「ちょっと、イオリ!? さっきからその言い方は……」

 

 うん、駄目だ。話が通じない。彼女の横にいるアヤネちゃんみたいな眼鏡をかけた子が諫めているけど、銀髪の子は聞く耳持ってないみたいだし。だったら、もう仕方ないよね。

 

「……私達アビドス廃校対策委員会は、これをゲヘナ風紀委員会の侵略行為とみなし迎撃させてもらうよ」

 

 皆が待ってましたとばかりに銃を構える。便利屋ちゃんたちも吹き飛ばされたラーメンの恨みか一緒に構えてくれていた。うへ、じゃあ協力してもらおうかな。

 相手が例えマンモス校でも関係ない。私たちに喧嘩を売ったこと、後悔させてやる。

 

◇ ◇ ◇

 

「アビドスの生徒たち、臨戦体勢に突入しました」

 

「たかだか数人のくせに生意気な。だけど売られた喧嘩を買わないなんてことは風紀委員会としてできない。総員、戦闘準備! 」

 

 イオリの号令で戦闘へと移行してしまう。ああ、どうしてこんなことに。あれはイオリの言い方も悪いです。もう少し言い方があったでしょうに。こんなの無駄な戦闘です。……ですが始まってしまったものは仕方ありません。便利屋もアビドスの方々に加わるようですが、それでもたかだか九人。対してこちらは中隊、その戦力差は明らか。こんなのただの弱いモノいじめです。

 

 そう、思っていました。目の前の光景を目にするまでは。

 

「ちょっ、速ッ……ぎゃん!! 」

 

 早々にイオリがピンク髪のアビドス生徒にやられ、その生徒はそのまま隊の中に突撃。それによって分断された部隊が金髪の生徒のミニガンによってさらに散り散りになり、それが犬耳と猫耳の生徒、そして便利屋たちに狩られる。そんな光景が繰り広げられていました。どうにか反撃しようにもこちらの狙撃手は便利屋のリーダーによって返り討ちに合い、弾切れを狙ってもアビドスのオペレーターから適切なタイミングで弾が補充されているといった状況で対応のしようがなく、気づけば私たちの中隊はほぼ全滅しています。

 

「そこの眼鏡の子、まだやる? 」

 

 ピンク髪の生徒に銃を突きつけられホールドアップすると、あちらのオペレーターの生徒が通信越しに語り掛けてきました。

 

<アビドス対策委員会の奥空アヤネです。こちらは生徒会長の小鳥遊ホシノ>

 

「どうもね」

 

 このピンク髪の方は他の方よりも頭二つ抜けて強いと思っていましたが、まさかアビドスの生徒会長だったとは。

 

<貴方の所属をお願いします>

 

「……ゲヘナ学園風紀委員会救護担当の火宮チナツです」

 

<では私も答えさせていただきます>

 

 私たちの会話に声が割り込んでくる。この声は……アコ行政官? どこからともなく飛んできたドローンがアコ行政官のホログラムを投影する。

 

<こんにちは、アビドスの皆さま。私はゲヘナ学園所属の行政官、アコと申します。今の状況について少し説明させていただきたいと思いますが、よろしいでしょうか? >

 

 これは……助け船なのでしょうか? とりあえずアビドスの方たちは話を聞いてくれるようです。

 

<ホシノ生徒会長。まず先ほどまでの愚行、私の方から謝罪させていただきます。そこで寝ているイオリ……ここの指揮をさせていたものにも後程きつく言っておきます>

 

「謝罪はいいけどさ、こっちは実際に被害が生じてるんだけど。町の被害に吹き飛ばされたラーメン屋、住人だって怪我してる。その点はどうなの? 」

 

<それについては自治区付近の出来事、違法行為と言い切れないでしょう。それをご理解ください>

 

「……? 」

 

 ホシノさんが怪訝な顔をされています。これは……駄目かもしれません。イオリもそうですがアコ行政官も言葉が足りてません。なんでそういう言い方をしてしまうんですか? 

 

<私たちはあくまで学園の校則違反をした方々を逮捕するために来ただけです。そこの便利屋の捕縛にご協力をお願いできませんか? >

 

「悪いけど断らせてもらうよ。こっちの敷地内であなたたちが無許可に戦闘行為をするのは自治権の観点からして違反だし、それを堂々と行うあなたたちに許可は出せない。ここで便利屋ちゃんたちに手を出すのは許さないよ」

 

 ああ、やっぱり。反感を買って協力を断られてしまいました。

 

<……ふふ、やはりこういう展開になりますか。では仕方ありません>

 

 アコ行政官がそう言うとアビドスの方々の周辺にさらにこちらの戦力が集まりだします。私達にも知らされていない追加戦力、一体なぜこんなことを……?

 

<本当は穏便に済ませたかったんですよ。ですが仕方ありませんね>

 

「嘘つかないで、天雨アコ。あんた最初からこの状況にするのが狙いだったんでしょ」

 

<……カヨコさん>

 

 話を遮ったのは便利屋68の鬼方カヨコさんだった。口ぶりからしてアコ行政官とお知り合いなのでしょうか? いや、それよりもアコ行政官がこの状況を狙っていたとは……?

 

<私がこの状況を狙っていたと……面白い話をされますね、カヨコさん? >

 

「最初はどうして風紀委員会がここに現れたのか理解できなかった。風紀委員会が他の自治区まで追ってくる理由、それも私達を狙って? そんな非効率的な運用、風紀委員長のやり方じゃない。だからアコ、これはあんたの独断的な行動に違いない」

 

<……>

 

「それに、私達の相手をするにしては余りにも多すぎるこの兵力。他の戦力との戦闘を想定していたとすれば、説明がつく。アビドスの生徒会長の力が知られてないことを考えれば自ずと結論は出る。アコ、あんたの目的はシャーレの先生、そしてこの戦力は葬儀屋を警戒してのものでしょ」

 

 カヨコさんの推理に驚いてしまう。アビドスの方々も困惑している様子。ですが、確かにアコ行政官のアビドスの方々への挑発的な物言いもこれなら説明がつきます。便利屋引き渡しをあえて断らせ、武力衝突へと持っていく。ですが……ですがアコ行政官、そういう重要なことはちゃんと事前にお伝えいただきたいです!!

 

<……なるほど、カヨコさんがいるのにのんきに雑談なんてしている場合ではありませんでしたね、流石です。カヨコさんのおっしゃる通り、私達の狙いはシャーレの先生です。ただこの状況はあくまで最悪のシチュエーションとして想定していただけで、狙っていたわけではないことは言っておきます。信じてはいただけないでしょうが>

 

 それを聞いホシノさんが尋ねてきます。

 

「アコちゃんっていったっけ? なんで先生を狙ってるの? 」

 

<……そうですね、お話ししましょう。きっかけはティーパーティーでした。ご存じとは思いますが、ゲヘナ学園と長きにわたって敵対関係にあるトリニティ総合学園の生徒会のことです。そのティーパーティーがシャーレに関する報告書を手にしていると……そんな話がうちの情報部に上がってきまして>

 

 私が先生と初めてお会いした時の事でしょうか? トリニティの正義実現委員会の方がいらっしゃったのでシャーレのことはティーパーティーにも伝わっているはずだと報告書には記載しましたが……

 

<当初は私も『シャーレ』とは一体何なのか、全く知りませんでしたが……ティーパーティーが知っているとなれば私達も知る必要があります。それで、チナツさんが書いた報告書を確認しました>

 

 え、ちょっと待ってください。そこでなんですか? 私、当日には報告書を上げていたはずなんですけど……確認するの遅くないですか? 

 

<連邦生徒会長が残した正体不明の組織……大人の先生が担当している、超法規的な部活。しかもあの葬儀屋が仮釈放を条件に所属しているというではありませんか。ヒナ委員長には届かないでしょうが、それでもキヴォトス最高峰の戦力とそれを自由に振るえる権力がセットになっている組織となれば、これからのトリニティとの条約にもどのような影響を及ぼすのか分かったものではありません。ですからせめて条約が無事締結されるまでは、私達風紀委員会の庇護下に先生をお迎えさせていただきたいのです。ついでに居合わせた不良生徒たちも処理したうえで……といった形で>

 

 アコ行政官が理由を言い切ると再びホシノさんが喋りだす。

 

「……なるほどね。でも悪いけどさ、先生には今色々と動いててもらっててそっちには渡せないかな~。それに先生の護衛ならもう間に合ってるよ。うちの最高戦力が先生についてくれてるからね」

 

<間に合っている? 冗談でしょう? むしろ()()()()()()を横に置いていることが一番の危険ではありませんか? ……ああ、そういうことですか。あの葬儀屋を使って先生を脅しつけているんですね? これはますます我々が先生を保護しなければいけなくなりました>

 

「あ゛? 」

 

 アコ行政官の言葉を聞いてホシノさんの空気が急変しました……怖いっ! アコ行政官は通信機越しで分からないのかもしれませんが、ホシノさんがとても怖いです!! 尋常じゃなく殺気立っています!! 

 

「……あのさ、君、今なんて言った? 事情も知らない癖に……今なんて言ったァ!!!! 」

 

 ホシノさんの圧力に腰が抜けてへたり込んでしまいました。アビドス生徒を囲っていた風紀委員たちも思わず逃げ出してしまっています。駄目だ、無理です。アレと戦うなんて無理です! 助けてください、ヒナ委員長!!

 

(ザザッ)

 

<アコ、今のは言い過ぎよ。撤回しなさい>

 

<ホシノもあの程度の挑発になんか乗るなや。聞き流しとけばええっちうに>

 

< “ みんな、落ち着いて ” >

 

 別の通信機から、これこそまさに助け船といえるヒナ委員長の声が聞こえてきました。それと聞いたことのある男の人の声も一緒に……え、なぜ先生とヒナ委員長が一緒にいるんですか!?

 

<ひ、ひ、ヒナ委員長!? >

 

「ニコラス!? それに先生も!? 」

 

 お三方の声がする通信機を持ちながら金髪のアビドス生の方が前に出てくる。

 

「先生に場を収めてもらおうと連絡したのですが……そちらの委員長さんもシャーレにお邪魔していたみたいですね。驚いちゃいました☆ 」

 

 ヒナ委員長がシャーレを訪れていた? ……そういえば肝心の先生が今だ姿を現していない。え、まさか先生は今アビドスにいらっしゃらない!? それじゃあ私たちの行為は……

 

<アコ、なにか弁明は?>

 

<それは、その……、素行の悪い生徒たちを捕まえようと……>

 

<便利屋68のこと? どこにいるの? >

 

<え、便利屋ならそこに……>

 

 アコ行政官の視線の先には誰も居ませんでした。どうやら便利屋の方たちはすでに逃げ出している様子。

 

<い、いつの間に!? さっきまでそこにいたはず……! ひ、ヒナ委員長、事情を説明させてください! >

 

<いい、事情は把握してる。ゲヘナにとっての不安要素の確認及び排除。そういう政治的な活動の一環のつもりだったんでしょう? ニコラス・D・ウルフウッドはゲヘナに強い影響力を持っている。風紀委員の中にも彼を慕う生徒は少なくない>

 

 葬儀屋を慕う……? 確かにヒナ委員長が風紀委員長になる前にゲヘナの治安維持に貢献していたという話を聞いてはいましたが……彼の活躍最盛期にまだ入学していなかった私にはよくわかりません。後でイオリに聞いてみましょうか。

 

<確かに例の条約を控えた今、彼に変に活躍されては困るのも事実。『万魔殿』が何を言ってくるかもわからない。だから私がシャーレに話をしに行ったの。アコ、勝手なことをして状況を拗らせないで>

 

 ヒナ委員長に叱責され崩れ落ちるアコ行政官。

 

<アコ、通信を切って校舎で謹慎してなさい>

 

<……はい>

 

 アコ行政官の通信が切れると、ヒナ委員長は通信機のホログラム越しにホシノさんと対面する。

 

<改めて、初めまして。ゲヘナ風紀委員長の空崎ヒナよ>

 

「……初めまして。アビドス生徒会長の小鳥遊ホシノだよ」

 

<……一年の頃よりも随分変わったと思ったけど、相変わらずなのね>

 

「ん? 私のこと知ってるの? 」

 

<情報部にいた頃、各自治区の要注意生徒たちをある程度把握していてね。ニコラス・D・ウルフウッドの存在に隠れがちだけど、貴方もリストに上がっていたから……百鬼夜行の事件のことも把握している>

 

「ふ~ん、まあいいや。それで、あなた達が何したのかわかってるの?」

 

<わかっているわ>

 

……スッ

 

 そう言うとヒナ委員長はアビドスの方々に向けて頭を下げました。

 

<事前通達なしでの無断兵力運用、そして他校の自治区で騒ぎを起こしたこと。このことについては私、空崎ヒナより、ゲヘナ風紀委員会の委員長として、アビドス対策員会に対して公式に謝罪する。この戦闘によって生じた被害についても、こちらで補填することを約束するわ>

 

「「「!?」」」

 

 ヒナ委員長の謝罪にさすがのアビドスの方々も驚いていました。ただ一人を除いて。

 

「……後ろの二人に謝罪は? 」

 

 顔を上げたヒナ委員長にホシノさんが言い放ちます。ああ、やっぱりまだ怒ってるんですね。ヒナ委員長が後ろを振り返り、先生とウルフウッドさんに向かって頭を下げました。

 

<戸狩先生、ニコラス・D・ウルフウッド、アコからあなた達への侮辱的な発言について、あの子の上司として、友人として、謝罪する……ごめんなさい。アコにはよく言っておくわ>

 

<別にどうでもええわ、あの程度……それよりもさっきから言おう思うとったんやけど、なんでフルネームなん? 長いやろ? ウルフウッドでええで>

 

<“ ウルフウッドもこう言っているし、私自身が何か言われたわけじゃないからね。大丈夫だよ。顔を上げて ”>

 

 先生たちが大人な対応をしてくれて助かりました。ホシノさんもようやく留飲が下がったのか、少しばかり雰囲気が柔らかになっていました。

 

<……チナツ、イオリを起こして>

 

 ヒナ委員長に指示を出され、急いでイオリの元へ駆け寄ります。イオリを起こすと「よくもやってくれたな!! 」とアビドスの方々に突っかかろうとしましたが、ヒナ委員長がそんなイオリを視線で制してくれました。

 

<イオリ、チナツと一緒に撤収準備。帰ってきなさい>

 

「えっ、でも!! 」

 

<イオリ、二度も言わせないで>

 

「あ、う……わかり、ました」

 

 いまいち納得のいっていなさそうなイオリをなだめながら、私たちは急いで他の風紀委員に号令を送る。

 

「……あの威力のショットガンを連射された上に盾で押しつぶされて……気が付いたら委員長に睨まれるしわけわかんない……今日はついてない」

 

「……イオリ、帰ったら反省文もありますよ、きっと」

 

「ほんっと最悪なんだけど……」

 

 重い足取りを懸命に動かし、私たちはアビドス自治区()()を後にしました。

 

◇ ◇ ◇

 

 すごい速さで撤退していく風紀委員会を見送った風紀委員長ちゃんが、私の方へ振り返る。

 

「どうしたの? 風紀委員長ちゃん。まだなにかあるの? 」

 

<……ええ、先生たちには先ほど伝えたのだけど、小鳥遊ホシノ、あなたにも言っておいた方が良いと思って>

 

 委員長ちゃんが直々に? 一体何だろう?

 

<これはまだ 「万魔殿」もティーパーティーも知らない情報だけど……アビドスの捨てられた砂漠……あそこで、カイザーコーポレーションが何か企んでいる>

 

「カイザーが!? 一体何を!?」

 

<詳しくは知らない。私も偶然に入手した情報だから。ただそこへカイザーコーポレーションの戦力や物資が集まっていることを掴んだ>

 

「……そう、教えてくれてありがとね、風紀委員長ちゃん」

 

<ええ、それじゃあ。補填と……怪我を負わせてしまった住人への謝罪については、また後で連絡させてもらうわ>

 

 そう言うと風紀委員長ちゃんはホログラムから姿を消し、先生たちが代わりに映し出される。

 

<“ ホシノ、ヒナの話はもしかしたらカイザーがアビドスを狙う目的に繋がる話かもしれない。私達も一旦アビドスに戻るよ ”>

 

「……大丈夫だよ先生。先生たちはそのままカイザーを捜査するための手配を進めてて。それについては私達で調べてみるからさ」

 

 先生たちも先生たちで時間が惜しいだろうし、ここは私達主体で調べるべきだろう。それにあのヨコ乳女が言っていた「自治区付近」という言葉も引っかかる。もしかしたらこれも何か関係あるのかな?

 

「うへぇ、一難去ってまた一難かぁ、落ち着く暇がないな~」

 

 少なくともアクアリウムに行くのはまだお預けになりそうだ。




アコのヘイトを高めてしまったけど別にアコのことが嫌いなわけではないです。でもアコだったらこんなこと言っちゃいそう。
あとウルフウッドとよくケンカするけど他校の生徒がウルフウッドをけなすとブチ切れるホシノ概念が好きです。

2025/2/8
ウルフウッドの口調で「〇〇やっちうに」などの「ちうに」は「ちゅうに」じゃないかとご指摘がいただいたのですが、これ筆者も最初そうだと思って書いてたんですが、原作みると「ちうに」だったのでとりあえず敢えてそっちにしています。
漫画の吹き出しと小説の文だとまた違うのでそれが本当にいいことかどうかは今だに悩んでいたりするのですが……とりあえずはこちらで。
……こういうの今だに正解がわからないですね
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。