01_アビドス砂漠へ
<“ アビドスの土地がカイザーの物になってる!? ”>
<なんやて!? >
通信越しにホシノたちから知らされた事実に先生達は驚きを隠せなかった。
その情報を知る切っ掛けとなったのは柴大将からの話だった。セリカとアヤネがこの前の襲撃で怪我を逐った柴大将のお見舞いに行った際に、大将から「カイザーから店の立ち退きを勧告されていた」という話を聞かされたのだ。それを疑問に思ったアヤネが土地の利権を調べてみた結果がそれだった。
アヤネが報告を続ける。
「カイザーに所有権が渡っていないのは、今は本館として使っているこの校舎と、周辺の一部の地域だけでした……」
<“ なんでそんなことに……ウルフウッドは何か知ってる? ”>
<知っとるわけないやろ。わかっとったらとっくに言っとる。どないなってんねん……>
ホシノが重苦しそうに口を開く。
「……私も知らなかったよ。多分、私たちよりも前の代の生徒会がアビドスの土地をカイザーに売ってたんだ」
「なんでそんなことっ!? 」
セリカが怒りを露にして机を叩く。ホシノはそれをたしなめるように説明した。
「あくまで推測だけど、ちゃんと学校の為を思って頑張ってたんだとは思うよ。借金を返すために仕方なく……でもこんな土地に高値なんて付かないから借金は減らせず、それでまた土地を売っての繰り返し……多分そんなところじゃないかな」
先生がホシノの話を補足するように話す。
<“ ……多分、アビドスは罠に嵌められたんだ。カイザー系列のカイザーローンが学校の手に負えないお金を貸して、返済の代わりに土地を売るように仕向ける。そうやって徐々にアビドスの土地を侵食していく。そういう手口は確かにあるよ ”>
「多分先生の言う通りだと思う。……きっと何年も前からなんだ。下手したら何十年も前からカイザーはアビドスの土地を狙ってたんだよ」
<そーいうことか。それでワイらが借金を返済し始めたからその手が使えなくなって、最後の土地を手に入れるためにヘルメット団をけしかけてワイらを追い出そうとしたと。けったくそ悪いやり口やなぁ>
導き出される結論にノノミが疑問を呈する。
「しかし、それならなぜ土地を狙うのでしょうか? アビドス自治区はもうほとんどが荒れ地と砂漠、砂まみれの廃墟になっているのに。……石油といったお金になりそうな資源ももう残ってないと調査結果も出ていたはずです。それなのに一体なぜ……?」
「ん、もしかしたらその理由がアビドス砂漠にあるのかもしれない」
シロコがヒナからアビドスへ伝えられた情報から推測する。何もないはずの捨てられた砂漠。しかしそこへカイザーから様々な物が送り込まれているという。であれば、そこには何かがある。
ホシノが髪を後ろに束ねながら皆に告げる。
「カイザーが土地を狙う目的が分かれば捜査を有利に進めることが出来るかもしれない。皆、アビドス砂漠に調査に行こう」
◇ ◇ ◇
後日回収する予定だったバギーはまだシャーレオフィスにあるため、ホシノたちは徒歩でアビドス砂漠へと向かう。先生とウルフウッドはアヤネのドローンからの中継で彼女たちを見守っていた。
ホシノたちがアビドスのオアシス跡地を超えさらに奥へと進んでいく最中、砂埃の中にアヤネのドローンが何かを捕える。
「……ッ!? 皆さん、前方に何かあります! これは……巨大な町……いえ、工場、あるいは駐屯地……? もう少し接近してみてください」
アヤネの指示に従いさらに先へと進む面々。すると目の前に城壁のようなものが目に入る。
「何これ……? 」
その巨大さにセリカが驚嘆する。そして施設に刻まれているマークを見てホシノが言葉を零した。
「カイザーPMC……」
ホシノの言う通り、目の前にある施設はカイザーPMCの基地であった。あちらもアビドスの面々を補足したのか基地から警報が鳴り響き、ホシノたちの前に武装したオートマタが展開する。
「うへ〜、ちょっと面倒な感じかな……」
出てきた兵士達を見て愚痴るホシノ。相手はチンピラとは違い軍人だ。それでも負ける気はしないが面倒であるのは確かだった。その上現状は自分たちが侵入者のため、仮に彼らを倒しても別の面倒が生じる。故にとれる手段はただ一つ。
「みんな、残念だけど撤退しよっか」
兵士達が展開しきる前に踵を返そうとするホシノ。しかしそれを「待ってください」とノノミが止める。
「あれを……」
ノノミが指を指した先を皆が見つめると、基地の正面ゲートが動きだしていた。扉が開ききると中には黒塗りの車が待機しており、兵士たちはその車の進行上を空けるように隊列を組み直す。
車は動き出してホシノたちの前にわざとらしく止まると中から大柄のオートマタが現れた。
「侵入者が現れたと聞いていたが、アビドスだったとはな」
「……貴方は誰ですか?」
ノノミが険しい顔でそのオートマタに尋ねる。
「おやおや、まさか私のことを知らないとは。アビドス、君たちならよく知っている相手だと思うが……まあ教えてやろう。私はカイザーコーポレーションの理事を務めているものだ。そして君たち、アビドス高等學校が借金をしている相手でもある」
皆が目を見開く。無理もない。目の前にいる人物こそがアビドスを陥れた黒幕なのだから。
「貴方がカイザーコーポレーションの……」
「正確に紹介すると、カイザーコーポレーション、カイザーローン、カイザーコンストラクションの理事だ。今はカイザーPMCの代表取締役も勤めている」
「つまりあんたが私達を……アビドスを苦しめてきた犯人ってことでしょ!! アビドスの土地を奪ってどうするつもりなのよ!! 」
セリカが怒りに任せて吠えるが、カイザーPMC理事はどこ吹く風といった態度を崩さない。
「口の聞き方には気を付けたほうがいい。まるで私達が不法な行為でもしているかのような言い方は止めてもらおうか。アビドスの土地はあくまで合法的に得たものだ。記録も全てしっかりと存在している」
「ぐっ……」
セリカは黙るしかなかった。どんなに悔しくてもカイザーPMCの言うとおり取引自体は合法的なものであったからだ。
「ふん、どうしてアビドスの土地を? だったか。……まあいい、それを知りたくてここまで来たのだろう? 教えてやる。私たちはアビドスのどこかに埋められているという宝物を探しているのだ」
「宝……? なにそれ!? ふざけてるの!? 」
セリカが再び吠える。そんな与太話の為にアビドスが、自分たちの故郷が脅かされていたことが我慢ならなかった。しかしカイザーPMCは否定する。
「ふざけてなどいないさ。それよりも口の利き方には気を付けろと言っているだろう。自分たちが置かれている立場を理解しているのか? 君たちは今、企業の私有地に対して不法侵入しているのだということを理解するべきだ」
<なにケツの穴の小さいこと言ってんねん、ドアホ>
カイザーPMCとアビドス生徒たちの間にウルフウッドがホログラム越しで割って入る。
<ワイらはただの会社見学やっちうねん。ワイやホシノを誘ってきたのはそっちやろが>
「……ニコラス・D・ウルフウッド」
理事が恨みがましくウルフウッドを睨みつける。しかしウルフウッドはどこ吹く風という態度で話を続ける。
<ま、入社しなくて正解やったな。こんなしょーもない戦力しか揃えられんとこなんぞこっちから願い下げや。なんや? こないな戦力でワイらをどないかできると思っとったんか? 見る目もないんちゃうか? >
「……別にこの基地はお前らごときの為に用意した物ではない。どこかの集団に宝探しを妨害されたときのためのものだ」
<ああ、そか、納得やで。こないしょぼい戦力しか無いからワイらを引き抜こうとしてたんか。かわいそ>
「ッ!! ……さっきからなんだッ、貴様は!? 私がその気になればなァッ! 」
<……なったらなんや? >
ゾクリ
理事は自分の体が十字架によって引き裂かれるのを幻視する。通信越しとは思えないウルフウッドからの殺気に当てられ、無意識にその場から後ずさっていた。
「クッ……ハァ、ハァ、ハァッ……」
<……ワイからも言わせてもらうで。ワイがその気になれば、おどれらなんぞすぐにスクラップやぞ>
「グッ……何が言いたいッ!? 」
<“ ウルフウッド、それじゃ脅しになっちゃうよ ”>
今度はウルフウッドと理事の間に先生が割って入る。淡々とした態度の先生のホログラムが理事と対面になる。
<“ 初めまして、カイザー理事。私はシャーレ顧問……そして彼女たちアビドス対策委員会の顧問でもある戸狩と言います ”>
「シャーレ……」
今度は理事と先生がお互いににらみ合う。
<“ 理事、貴方は先ほど『合法的に』と言っていましたね。私も合法的に物事を進めることには同意します。私達大人は、子供たちの規範としてルールを守って行動すべきだ。だからルールを破り不法行為によって子供たちを傷つける行為を、私は許すつもりはありません。
<なんや、センセも結構言うやんけ。わかったか、理事? 『ルールはお互い守ろうや』っちうことやで>
「……チッ、クソッ!! 」
理事は踵を返して車に近づくと、苛立ちを隠せないように扉をバタンと開閉し車に乗り込む。そしてそのまま車で走り去っていった。展開していた兵士たちも困惑ながら基地へとスゴスゴ退却していく。
<……ホンマ、センセもよう言うな。結構グレーな手を使っとる癖に>
<“ ははは……それを言われるとちょっと痛いけど、まあそれはお互いさまってことで…… ”>
「ん、でも少し溜飲が下がったよ」
「ざまあみなさいよ! 理事の奴!! 」
シロコとセリカが先生たちの舌戦の感想を述べる。
<あんなぁ、別にあれで何か状況が好転したわけでもないんやで>
<“ でも朗報はあるよ。さっきヴァルキューレにカイザーコーポレーションへの強制捜査を取り付けてきたからね ”>
先生はヴァルキューレの上がカイザーと繋がっているかも、という情報は流石に伏せていた。アビドスの皆を変に不安にさせたくは無いし、仮にそうであってカイザーを庇う動きを見せたらそこにもメスを入れていくつもりだったからだ。
<“ このままカイザーの捜査を進められればアビドスへの襲撃は止めさせられるはずだよ ”>
<それだけやないで。借金の金利も違法なもんやったからな、そこも指摘すれば金利の是正もできそうや。さすがに土地を取り返すのは無理そうやけどな。それは我慢してくれ>
先生たちの報告を受け、皆の顔に笑顔が宿る。
「十分だよニコラス。先生も、本当にありがとう……やっぱり大人ってすごいんだね」
<“ そんなことないよ。私は少しだけ力を貸しただけだ。ここまでこれたのは君たちみんなが頑張ってきてくれたからだよ。後は朗報を持ってこれるよう、私たちがもうちょっと頑張るだけだ ”>
<別に借金かてなくなるわけやないしな。お前らにはこれからも頑張ってもらわなあかん。せやから、今日はもうゆっくり休んどけ>
「うへ、そうだね。果報は寝て待てっていうし、お言葉に甘えさせてもらおうかな。みんな、帰ろうか」
ここまでの道は決して楽なものでなくそれなりに疲労があったはずなのに、皆の足取りは不思議と軽いものだった。
◇ ◇ ◇
「クソッ!!! 」
車に乗り込んだ理事は座席シートを叩いた。
「クソックソックソックソックソックソッ!! 」
アビドス生徒の前で不遜な態度を取っていた理事だが、実のところ追い詰められていたのは彼だった。
先生達がカイザーコーポレーションに強制捜査をする寸前という情報は連邦生徒会の協力者より上がっていた。協力者いわく、シャーレを押さえつけるにも限度があるとの忠告つきで。シャーレは独立権力であるため下手をすれば自分達が突き上げを食らうからだ。
そしてそれは理事の上にあたるプレジデントという人物の耳にも入っていた。その人物はアビドスに眠るお宝よりもキヴォトスを掌握しているサンクトゥムタワーに関心があり、それを手に入れる為に連邦生徒会に近づいていた。その為先生達にカイザーコーポレーションを探り回られると全てが水泡に帰す恐れがあった。
故に、理事はプレジデントから警告されていた。捜査が入る前に決着を着けろと。それはすなわち、決着をつけられなければ切られるのは理事であることを意味していた。
「ふざけるなよ……」
理事は自らがトカゲのしっぽになることを許容できなかった。携帯を取り出す。
「……マダムか。例の作戦を実行しろ。決行は、今夜だ」
人は追い詰められるとなんでもする。理事は悪意という牙を剥き出しにした。
牙つながりで次回は『アレ』が出ます