ウルフウッドアーカイブ   作:タニシ・トニオ

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02_ダブルファング

 アビドスの面々がカイザーPMC基地から校舎に戻った頃には日が暮れていた。

 

「皆さん、お疲れ様です」

 

 アヤネが部室に帰ってきた皆を優しく迎え入れ、人数分のお茶を出す。それで一息着くと談笑に花を咲かし始めた。

 

「そういえばカイザーの探してるお宝って何だったんだろうね? 」

 

「そうですね〜、何かの資源の線は薄そうですし……あ、もしかしたら太古の古代遺跡とかかもしれません! 漫画で見たことがあります。ビームを放つ水晶髑髏とか……」

 

「馬鹿みたい。フィクションでしょそれ。大体ビームなんか出してどうするのよ……? 」

 

 シロコの疑問にノノミが想像を膨らませる。しかしそれをセリカが不機嫌そうに否定した。ビームを放つ髑髏なんかのためにアビドスが苦しめられていたのだとしたらやっていられない。

 

「わかんないよ〜セリカちゃん。アビドスは歴史が長いからね。もしかしたらノノミちゃんの予想が当たってたりするかもよ。まあ何にしても、お宝が危険なものなら壊しちゃえばいいよ」

 

「そうしたらカイザーコーポレーションもアビドスから撤退してくれますかね? 」

 

「あ、確かにアヤネちゃんの言うとおりかも。私たちが先にお宝見つけちゃおっか? 」

 

「そんなすぐ見つかるわけ無いでしょ、あるのかどうかもわからないんだし。来月の返済も失くなった訳じゃないのに時間の無駄よ! 」

 

 ホシノのお気楽発言に再びカッカするセリカ。嗜めるアヤネ、それを見て笑ったり茶化したりするシロコとノノミ。いつもの日常を彼女たちは取り戻していた。

 

 

バンッ

 

 

 部室の外から一発の凶弾が放たれ、その日常は終わりを告げる。

 

 銃弾により割られた窓ガラスの破片と共に、一人の侵入者が部室の中に舞い降りた。襲撃者は勢いそのまま部室の中央にあったテーブルを蹴り飛ばし、皆の中央を陣取る。そして前後に銃身が付いた特異な二丁のサブマシンガンを構えて言い放った。

 

「動くな、動けば撃つ」

 

 奇妙な光景だった。アビドスの生徒達は即座に反応し全員が懐に入れているハンドガンを侵入者に向けていた。端から見れば四方から銃を向けられ襲撃者が不利な側であるはずなのに、侵入者は自身の絶対的有利を確信しているように堂々としている。

 

 襲撃者は口に硬質のマスクを着けており、くぐもった声で再び言い放つ。

 

「……もう一度言う、動くな。私のダブルファングに死角は無い。その気になればお前達の鏖殺は一瞬にして完了する」

 

「なにふざけたことを……ッ」

 

「駄目だ!! セリカちゃん!! 」

 

 セリカが襲撃者を撃とうとするのをホシノが声を荒げながら制した。その額には脂汗が滲んでいる。

 

「何よ!? ホシノせんぱ……」

 

 セリカがホシノを見て異常に気づく。ホシノは太ももから流血していた。ホシノは最初の銃弾で足を撃ち抜かれていたのだ。

 

「このダブルファングにはヘイロー貫通弾が装填されている。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()? ……武器を捨てて手を上げろ」

 

 襲撃者の言葉が嘘でないことをホシノの負傷が証明していた。観念したのか最初にホシノが指示に従い、他のメンバーもホシノに倣ってホールドアップしていく。

 

「……こちらファング、目標を無力化した。拘束を開始してくれ」

 

<了解>

 

 アビドス勢が武器を捨てたことを確認すると襲撃者は皆に銃身を向けたまま仲間に連絡する。しばらくしないうちに襲撃者の仲間と思われる二名の人物が部室へと入ってきた。

 

 片方はショートの黒髪に黒の布マスクを着けており、もう片方はサイドテールの緑髪にマフラーで口元を隠している。そして最初の襲撃者含め全員が、白を基調とし髑髏のマークが付いたコートを身に付けていた。

 

 布マスクをつけた侵入者がハンドガンを構える。

 

「分かってると思うけど、これもヘイロー貫通弾入りだから」

 

 新しく入ってきた二人は銃を突きつけながらアビドス勢の体からマガジンや携帯を取り出し、手を後ろに組ませて手錠を掛けていく。

 

「痛いですよね、苦しいですよね……」

 

 怪我で動けないホシノを緑髪の侵入者が抱えると、そのまま移動を開始した。

 

「ほら、あなたたちも歩いて」

 

 他の襲撃者に銃を突きつけられ残りのアビドスメンバーも渋々歩き出す。

 

 もぬけの殻になった部室を月明かりが照らしていた。

 

◇ ◇ ◇

 

 侵入者達の装甲車に乗せられると足にも錠を掛けられ身動きが取れなくなるアビドス面々。シロコがホシノを痛々しそうな目で見る。

 

「ホシノ先輩、足……大丈夫? 」

 

「弾は貫通してるし、止血もしてくれたから大丈夫……って言いたいけど、正直しんどいかな」

 

 ホシノは笑ってみせるが脂汗は収まっていなかった。襲撃者は「可能な限り生け捕りと言われている」といって最低限の処置をホシノに施していたが、あくまでも最低限であり痛み止めも施されていないその負傷はホシノを苛んでいた。

 

「もうッ、あいつら一体何なの!? 」

 

 車内の窓越しに侵入者たちを睨みつけながら言うセリカ。それにシロコが答える。

 

「わからない。でも依頼主は想像がつく。……カイザーPMCの理事」

 

 タイミング的にそれしかありえなかった。その答え合わせと言わんばかりに車の小さな窓から今日見知ったばかりの施設が見えてくる。基地に刻まれたマークを見てホシノが愚痴る。

 

「……まさかまたここに来る羽目になるとはね」

 

 アビドスの生徒たちを乗せた車はアビドス砂漠にあるカイザーPMC基地の奥深くへと進んでいった。

 

◇ ◇ ◇

 

「お前たちはここだ。依頼主が来るまでここで大人しくしていろ」

 

 アビドスの生徒たちは基地内の居房へと押し込められる。居房の柵越しにダブルファングを携えた襲撃者へホシノが質問する。

 

「ねえ誘拐犯さん。私達どうなっちゃうのかなー? 」

 

「答える義務はない」

 

「うへ、取り付く島もないなぁ」

 

「……」

 

 何か思うことがあるのか、襲撃者はしばらくホシノを見つめる。そして疑問を呈した。

 

「なぜそんな目ができる? ……Vanitas vanitatum et omnia vanitas……全ては空しい、諦めた方が楽になれるぞ」

 

「確かにそうかもね……でもおねーさん、色々奇跡を見せられてきたからさ、最後まで諦められないかな~」

 

「奇跡など起きるわけがない」

 

「そんなことないよ。私たちの日常は奇跡で成り立ってたんだから」

 

「……」

 

 ダブルファングを携えた襲撃者はそっぽを向くように振り向き、その場から去る。

 

「ホシノ先輩、私達どうなっちゃうんでしょうか……? 」

 

 心配そうに尋ねてくるアヤネ。

 

「大丈夫だよ。ニコラスと先生がいる。依頼主の理事はまだ戻って来てないみたいだし、時間はある。諦めるのはまだ早いよ」

 

「そうですよー、それに私たちはきっと理事が先生たちと交渉するための人質です。逆を言えばそれまでは命の保証はあるはずです。チャンスを待ちましょう」

 

 ホシノとノノミが慰める。彼女たちはまだ諦めていなかった。

 

◇ ◇ ◇

 

 カイザーPMC基地の一室で黒服と、そして花のつぼみのような頭に複数の目、赤い肌に白いドレスを着た女が対峙していた。

 

「ベアトリーチェ、他メンバーの研究の邪魔は協定違反だと思いますが? 」

 

「シャーレの先生、そしてニコラス・D・ウルフウッド。両名は私の研究の妨げになる可能性が高い。ゆえに排除する。これは自衛の範疇です。そもそもあなたの計画が上手くいっていれば私が手を出す必要もなかったはずですが? 」

 

「……()()()()が警戒するほどのことでしょうか? 」

 

「それはあなたが証明しているではありませんか。私の研究成果を使ってニコラス・D・ウルフウッドを孤立させ、アビドスを追い詰めるところまではできたようですが……それをシャーレの先生という存在がひっくり返した。()()()も言っていましたよ。あの手の男は危険だと。……摘み取るのは当然のことです」

 

「ですがホルスまで犠牲にするのはいささか過剰では?」

 

「ホルス……ああ、貴方の研究対象の生徒ですか。残念ながら例外はありません。ニコラス・D・ウルフウッドを確殺するには希望を欠片も残してはならないと()()()からの助言です。アビドスの生徒は例外なく彼の目の前で殺害します。そして動揺している隙に彼も殺す。彼さえいなければシャーレの先生などどうとでもできます」

 

「……」

 

「もういいですか? では私はこれで」

 

 ベアトリーチェは部屋から退室する。部屋に残っているのは黒服だけだった。

 

「フム……研究のための自衛はやむなし。ええ、確かにその通りです、ベアトリーチェ……」

 

 黒服は何かを決めたように彼女とは別の場所へと歩み始めた。

 

◇ ◇ ◇

 

 アビドス生徒たちが入れられている居房の前に黒ずくめの男が佇んでいた。

 

「お久しぶりです、小鳥遊ホシノさん」

 

「うわッ、出てきた。一体何の用、黒服? お姉さん、足が痛くてあんまり無駄な話はしたくないんだけど」

 

「いえいえ、これは無駄な話ではありませんよ。今回の商談は気に入っていただけると思います。……こちらの要求はいつもと同じ、ホシノさんには学校を退学いただき私どもの会社へ来ていただく。そしてその対価は……あなた達全員をこの居房から出して差し上げます。いかがですか? 」

 

「悪いけど話にならないね。出してすぐ捕まえるのがオチでしょ? 」

 

「ふむ、なにか誤解があるようだ……言葉が足りませんでしたか? もう少し具体的に言いましょう。貴方たちの拘束を解いた上でこの居房から脱出できるようにし、先生とウルフウッドさんへ救助の連絡もして差し上げます。そしてあなた方が先生に保護された時点で契約履行を完遂とする。いかがですか? 」

 

「……いったい何が目的だ? お前はカイザーの仲間だろ? 」

 

 鋭い目で黒服を睨みつけるホシノ。黒服はクックックと笑いながら話を続ける。

 

「こちらも色々と事情があるのですよ」

 

「信用できないね」

 

「信用……信用ですか。ふむ……ではウルフウッドさんに以前いただいた忠告を参考にしましょう。本当のことをお話します」

 

「本当のこと? 」

 

 ホシノも皆も黒服に注目する。

 

「あまり時間がありませんので掻い摘んでではありますが……まず私の目的はキヴォトス最高の神秘を持つホシノさん、そしてキヴォトスとは起源の異なる神秘をもつウルフウッドさんの研究です」

 

「まさか私やニコラスを誘ってたのは……」

 

「ええ、私の研究のためです。アビドスの借金と引き換えにあなたたちの身柄が欲しかった。その点でカイザーとは利害が一致していたため私たちは協力関係にありましたが……しかし、状況が変わりました。カイザーはあなた達の殺害へと舵を切ったのです。そしてそのための協力者も得た。このままではあなた達もウルフウッドさんも殺されてしまうことでしょう」

 

「どういうこと!? 」

 

 ホシノが声を荒げる。他の生徒たちも動揺を隠せなかった。

 

「まずカイザーとしてはあなたたちが一斉に居なくなってしまえばいいわけですからね。そうすれば残ったアビドスもどうにでもできます」

 

「そんなこと許されるわけないでしょ! 」

 

「ですが訴える人がいなければどうにもなりません。カイザーにはそれで押し通せる力がある。そして協力者の目的もあなた達の殺害……正確に言えばウルフウッドさんの殺害が目的です。あなた達をウルフウッドさんの目の前で殺害して彼の動揺を誘う。そして彼を殺害する。これがこの後のシナリオです」

 

「どうしてそこまでしてニコラスを……? 協力者って一体何者なの? 」

 

「詳細は言えません。そういう契約でしてね。ただ……彼に因縁があり、あなた達を攫った襲撃者たちに人殺しの技術とヘイロー貫通弾を与えた人物といえばその危険度は理解いただけますか? 」

 

「……ホシノ先輩、その男の話を聞いて思い出したことがある」

 

 シロコが口を開く。

 

「ダブルファング……長髪の襲撃者が自身の武器をそう呼んでた。昔ニコ兄から聞いたことがあるんだ。ニコ兄の故郷で弟分だった人が持ってた武器だって……」

 

「思い出しました! 私たちのハンドガンを一緒に買った時の話ですよね? 確かその方が洗脳されていて敵対してしまったと……」

 

「ん、それでその人が洗脳した人に渡された武器の名前が……ダブルファング」

 

 シロコとノノミの話を聞いてホシノが推測を立てる。

 

「……まさか、カイザーの協力者っていうのがシロコちゃんたちの話の人物……? 」

 

「……」

 

 黒服は口を閉ざす。詳細は言えない。つまり、それは無言の肯定であった。ホシノはアビドスの生徒たちの中では唯一ウルフウッドの故郷が違う世界だということを知っている。しかし百鬼夜行の事件の犯人のこともあり、ましてやウルフウッド自体の存在もあり、それがあり得ない話であるとも思えなかった。

 黒服が再び口を開く。

 

「……件の協力者は一筋縄ではいきません。このままでは筋書き通りになってしまうでしょう。故に、この商談を持ち掛けたのです。ご理解いただけましたか? 」

 

 ホシノは思案し、答えを出す。

 

「……分かった。契約するよ、黒服」

 

「では退学届けとこの契約書にサインを。先ほども言った通り貴方たちが先生に保護された時点でこの契約は有効になります」

 

「駄目です! ホシノ先輩!! 」

 

 ノノミがホシノを引き留めようとするがホシノは言葉を続ける。

 

「ノノミちゃん、生徒会長をお願いね。私が居なくなっちゃったら退学届けの提出先がなくなっちゃうから」

 

「駄目です!! やめてください、こんなこと!! ホシノ先輩を犠牲にする選択肢なんて誰も望んでいません!! 」

 

 ノノミだけでなく皆がホシノを心配する目で見つめる。それを受けてホシノは笑みを零した。

 

「うへぇ、こんなにもみんなに想われておねーさん嬉しいよ~。でも、皆が生き残るにはこれしか選択肢はなさそうだしね。……大丈夫、生きていればまだ可能性はあるから。だからお願い……」

 

 黒服が居房の扉をこともなげに開け、中に入る。そしてホシノとノノミの手錠を開錠し、二人の間に書類とペンを置いた。ホシノがそれに必要な部分を記入し、退学届けをノノミに差し出す。

 

「はい、ノノミ生徒会長。サインを」

 

「……ッ! ダメです……」

 

「ノノミちゃん、お願い。みんなを守りたいんだ」

 

「~~~ッ!!」

 

 ノノミは唇を噛みしめながら退学届けにサインする。黒服はわざとらしく手を叩いた。

 

「クックックック……これで契約は成立です。ここの扉も、あなた達の手錠の鍵も開けておきましょう。ここの監視カメラやセンサーの類も欺瞞済みです。ここでの出来事は当然カイザー側には伝わっていません」

 

「だったらさっさとこんなところ出ましょッ!! 」

 

「それはお待ちください」

 

 セリカが苛立ちを限界にしながらここからの脱出を言うが、それを黒服が制する。

 

「なによ!! なんだかんだ言って邪魔する気!? ぶっ飛ばすわよ!!! 」

 

「今あなたたちがここから出ても件の襲撃者に再び捕まってしまうのがオチです。そうなっては私にもどうすることはできません。まずは私が先生たちに事情を話してきます。そして先生たちが救助に来たタイミングを見計らって脱出したほうがよいでしょう。カイザー理事がここへ到着するまでにはまだ時間があります。なので今はまだお待ちください」

 

「タイミングを見計らえって、どうすればいいのよ!? 」

 

「問題ないよ、セリカちゃん」

 

 ホシノが居房の小さな窓に視線を向ける。

 

「ニコラスなら、きっとわかりやすい狼煙を上げてくれるから」

 




章タイトルの内容回収。チャペルの鐘の音が聞こえてきました。
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