ウルフウッドアーカイブ   作:タニシ・トニオ

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03_手をすり抜けたもの

 夜分遅い時間帯にも関わらずシャーレのオフィスには明かりが付いていた。そこへドアホンの音が鳴り響く。

 

「なんやねんこんな時間に……」

 

 ウルフウッドは苛立ちながら応対しようとするが、受話器のモニターに写し出された人物を見てぎょっとする。

 

「……久しぶりやな黒服。こないな時間に営業とは、常識ないんかおんどれは?」

 

「それはすみません、なにぶん緊急事態なものでして」

 

「緊急事態?」

 

「ええ。アビドスの生徒達がカイザーPMCに拉致されました」

 

◇ ◇ ◇

 

 シャーレオフィスの応接間のソファーに黒服が座っていた。そこへ先生を連れてウルフウッドが入室する。黒服は立ち上がり彼らに一歩近づく。

 

「これはこれは、お初にお目にかかります、先生。あなたとの出会いがこのような形になってしまい大変心苦しく思います」

 

“ 初めまして。あなたが黒服? ”

 

「はい、ここではそう名乗らせていただいています。早速ですが本題に入りましょう」

 

 黒服と先生達が向かい合う形でソファーへ着座する。ウルフウッドはハンドガンを手に持っていた。

 

「ウルフウッドさんにはお伝えしましたが、アビドスの生徒……ウルフウッドさんを除く五名が、カイザーPMCが新しく雇った協力者により拉致されました」

 

“ うん、彼からも聞いてるよ……本当、みたいだね ”

 

 この部屋に入る前に先生は事の真偽を確かめていた。結果としてはアビドス生徒の面々に連絡するも反応は無く、アロナの力で生徒の携帯の位置を特定しても全て対策委員会の部室に反応があるという状況。それは皆が部室で拐われたことを意味していた。

 

 ウルフウッドが黒服にメンチを切る。

 

()()の間違えちゃうんか? 」

 

“ ウルフウッド、落ち着いて ”

 

 先生が前のめりになったウルフウッドを手で制した。

 

「……そうですね、まず私の目的と立ち位置をお伝えしましょうか。私はアビドス生徒達の救出をお願いしに来ました」

 

「はあ? お前カイザーの人間やろ? 何言ってんねん? 」

 

「それは誤解です。私はカイザーコーポレーションに協力していましたが、所属しているわけではありません。『ゲマトリア』という組織に所属しています」

 

“ ゲマトリア……? ”

 

「ククッ、興味がおありですか、先生? 私達ゲマトリアはあなた達と同じ、キヴォトスの外部の者です。あなた達とは違った領域の存在ですがね。そして、我々は観察者であり、探究者であり、研究者です。このキヴォトスに秘められている神秘を各々のテーマで解明し、解剖し、崇高を目指す!! ……それが我々ゲマトリアです」

 

 まるで演説じみたように語る黒服。イラついたウルフウッドがわざとらしくハンドガンのハンマーを起こす。

 

「……話を戻しましょうか。そのゲマトリアで私が研究している内容の対象がホシノさんとウルフウッドさんなのですよ」

 

「もしかしてワイらを勧誘しとったのはお前の研究の為か?」

 

「そんなところです。ですのであなた達に死なれると困る。故にあなた達に彼女達の救出をお願いしに来ました。私がここにいる理由については納得いただけましたか? 」

 

“ ちょっと待って黒服、死なれると困るって……それじゃまるでカイザーがウルフウッド達を殺そうとしているように聞こえるんだけど……? ”

 

「その通りですよ先生。カイザーは方針を切り替えたのです」

 

 黒服は組んでいた手を組み換え、話を続ける。

 

「先生たちの行いによりカイザーPMC理事は追い詰められていました。だからこそアビドスの生徒を皆殺しにするという選択肢を彼は選んだ。そして、それができる協力者が彼に付いてます」

 

 それを聞いてウルフウッドが殺気を滲ませる。

 

「なんや、そいつらならワイも殺せるいうんか? ずいぶんと舐められたもんやな」

 

「……ウルフウッドさん、あなたこそ油断されない方がいい。アビドスの生徒を誘拐したのはその協力者たちです。そして誘拐の実行者たちの裏に無視できない人物がいます」

 

「もったいぶった言い方やな。誰やねん? さっさと言えや」

 

「すみません、契約による縛りで私からその人物の詳細を喋ることができないのです。しかし、こう言えばあなたには分かるはずだ。……その人物は誘拐の実行者達にヘイロー貫通弾と人殺しの技術、そして……ダブルファングを与えた人物だと」

 

 それを聞いた瞬間、ウルフウッドは立ち上がり黒服の胸ぐらを掴み上げる。

 

「あいつがッ!! マスター・チャペルがおる言うんか!!?」

 

「……」

 

 黒服は無言で肯定をする。

 

「言えや! 黒服!! 」

 

 それが察せられないほどウルフウッドは動揺していた。彼のハンドガンが黒服に突きつけられる。

 

“ ウルフウッド!! ”

 

 先生の強い呼び掛けにウルフウッドは銃を下ろし黒服の襟から手を離した。黒服は襟を正しながら再び口を開く。

 

「……あなたを殺すためにアビドスの生徒を目の前で殺害し、あなたの動揺を誘う。希望は欠片も残さない。その人物はそう言っていたそうです」

 

「チッ、あいつが言いそうなことや。雷泥の例もある……クソッ、ホンマか……」

 

 項垂れるウルフウッドに先生が訪ねる。

 

“ 君がそこまで動揺するマスター・チャペルって、一体……? ”

 

「……ワイの師匠や。そんで裏切ったワイのことを苦しめて殺すことに執着しとるイカれたジジイや」

 

 黒服とウルフウッドの話を聞いて先生もある程度理解する。マスター・チャペルがどれ程危険な人物かを。

 ウルフウッドは苛立ちを隠せない様子で黒服に尋ねる。

 

「おい、黒服。ホシノ達は何処に捕まっとる? 」

 

「アビドス砂漠のカイザーPMC基地です」

 

「そか」

 

 それを聞いてウルフウッドはパニッシャーを担ぎ上げた。

 

“ 待って、ウルフウッド!! まさか君一人で行くつもり!? ”

 

「当たり前やろ。あいつが相手におる以上、悪いがセンセを守る余裕はない」

 

 部屋を出ていこうとするウルフウッドを腕を先生が掴む。

 

“ 駄目だ、君一人では行かせない ”

 

「離せや、お前のワガママに付き合うたる時間はないねん」

 

“ 駄目だ! 冷静さを欠いてる君を行かせられない! ワガママを言ってるのは君だろ!? ”

 

「あ゛あ゛? 」

 

 その言葉を聞いて先生を睨み付けるウルフウッド。しかし先生はそれよりも強い視線でウルフウッドを睨み返す。

 

“ あの子たちは私の生徒でもあるんだ! 皆を確実に助けるためにも協力し合わなきゃ!! ”

 

 必死な先生の姿に、いつかの友が重なって見えた。自分一人では子供達を救えなかったこと、友が助けてくれたこと、その記憶がウルフウッドの足を止める。

 

 手離したくない存在を守るために、あの時と同じ過ちを繰り返す訳にはいかなかった。ウルフウッドはそう自分に言い聞かせて頭を冷やす。

 

「……スマン、ちと焦ったわ……」

 

 パニッシャーを肩から降ろすウルフウッド。先生は胸を撫でおろした。その様子を伺っていた黒服が口を挟む。

 

「私も先生の意見に賛成です。ウルフウッドさんが基地に向かえば必ず件の協力者が立ち塞がるでしょう。危険な相手です。戦力を整えて行くことをオススメします」

 

「おい、黒服。その時間は実際有るんか? 」

 

「生徒誘拐の依頼者はあくまでカイザーPMC理事です。少なくとも何かアクションを起こすとしたら彼が基地に戻ってからでしょう。そして、彼が基地に戻るのは明日の昼頃の予定です」

 

“ そこがギリギリのラインだね ”

 

 先生がタイムリミットを定める。

 

“ ウルフウッド、手分けして協力者を募ろう。頼めそうなのは……便利屋と、ゲヘナの風紀委員の子達に…… ”

 

「便利屋? ホシノが実力認めとったが使えそうなんか?」

 

" 悪い子達には見えなかったし頼める余地はあるよ "

 

「センセがそう言うならええわ。……あとはそやな、賭けになるがヴァルキューレか。あいつらがおれば理事を現行犯逮捕できる。それと……ヒフミ介してトリニティにも協力取り付けられるかもしれん。便利屋は良く知らんし、風紀委員長にこの前ワイはゲヘナに来るな言われたばっかやからそっちは任すで。ワイは今言ったところに声かけてみる。そんでアビドス校舎に一旦集合や」

 

“ それで行こう。……ウルフウッド、君にはアビドス生徒の救出時に先行してもらって例の誘拐犯たちの相手をしてほしい。ヘイロー貫通弾を持つ危険な相手だ。悪いけど、君にしか任せられない ”

 

「分かっとるわ。ワイが相手しとる間にセンセ達でアイツらの救出頼んだで」

 

「話は纏まりましたか? 」

 

 黒服が再び二人の会話に割って入る。そして追加情報を述べた。

 

「ああ、ちなみにですが彼女達の手枷と閉じ込められている部屋の扉の鍵は私が解錠しておきました。分かりやすい合図をしてあげれば彼女達も自力で動けるでしょう。ホシノさんがおっしゃっていましたよ、貴方が狼煙を上げてくれると」

 

「なんや、気が利くやないか黒服。それやったらあいつらが人質に使われるリスクも減らせる。ホシノの言う通り、ワイが狼煙あげたるわ」

 

 パニッシャーを握りしめるウルフウッド。それを見て黒服は二人に一歩近づく。

 

「……では先生、ウルフウッドさん、私に出来ることはもうありませんので、ここで失礼させて頂きます。微力ながら幸運を祈りますよ」

 

 そして黒服は応接間の扉に手を掛けると、思い出したかのように先生の方へ振り返る。

 

「……ああ、それと先生。ゲマトリアはあなたのことをずっと見ていますので。それでは」

 

 黒服はそう告げると今度こそ部屋から出ていく。そして廊下の闇の中へと溶け込むように姿を消した。それを見ながらウルフウッドが感想をこぼす。

 

「相変わらず気持ち悪い奴やな、あいつ」

 

“ ……正直私は好きになれないタイプかな ”

 

「意外やな、お人好しのセンセがそない言うなんて」

 

“ 私だって人間なんだから人の好き嫌いぐらいあるよ ”

 

「そらそうか」

 

 ウルフウッドはタバコを取り出し一本を先生に渡す。シャーレ室内は禁煙だが先生はそれを咎めず受けとると、ウルフウッドが火を着けた。続けてウルフウッドは自身のタバコに火を着ける。そして二人揃って紫煙を吐いた。

 

「ほな、気張っていこか」

 

“ そうだね ”

 

 二人も応接間を後にした。

 




なんか黒服が同じこと説明している……

ウルフウッドは孤児院での経験もあって人に助力を得ることを意識していっています。
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