ウルフウッドアーカイブ   作:タニシ・トニオ

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04_それでも手放さないために

 ここは便利屋68の事務所。社長のアルはため息をつきながら事務所の片づけをしていた。そんなアルを見かねてムツキが声をかける。

 

「アルちゃ~ん、さっきからため息ばっかりだよ。テキパキ荷物運ぼう? 」

 

「はぁぁ……」

 

「ああ、駄目だこりゃ」

 

 その様子を見てカヨコもアルを諭す。

 

「社長、気持ちはわかるけど仕方ないよ。風紀委員会にこの場所知られちゃったし引っ越さないと」

 

「分かってるわよ! でも……はぁ、せっかくの事務所が。……それに心機一転もできないで、こんな逃げるようにだなんて……」

 

 再びどんよりとしたオーラをアルが放ち始めようとするが、そこへ一本の電話がかかってくる。アルは不機嫌に受話器を取った。

 

「なによ、こんな時に……こちら便利屋68。悪いのだけれど今は……」

 

<“ シャーレ顧問の戸狩です。ごめん、もしかして今タイミング悪かったかな? ”>

 

「せ、先生!? 一体なんで先生が!? 」

 

<“ 君たちにどうしても頼みたい依頼があるんだ。話を聞いてもらうことはできないかな? ”>

 

「……ちょっと待ってもらえるかしら」

 

 以前会った時とは違う真剣さを先生の声色から感じ取り、アルは通話の設定を変えホログラムでの対面に切り替える。そして社員たちも会話に同席させた。

 

「これでいいわ、先生。依頼の内容を教えてもらえる? 」

 

<“ ……実は、ウルフウッドを除くアビドスの生徒がカイザーPMCに拉致された。私たちは彼女たちを救出する。君たちにはその手伝いをして欲しいんだ ”>

 

「は? 」

 

 突然の内容に素っ頓狂な声を上げるアル。短い依頼内容ながらも情報密度が高く処理が追い付かない。

 

 あのアビドスの子達が攫われた? ただでさえみんな強いのに? ヒナに匹敵するあの生徒会長もいて!?

 相手はカイザーPMC? そこらのチンピラなんかとは違うプロ中のプロなのよ!?

 む、無理よ……そんなの勝負になるはずがない……私達には荷が重すぎる……

 

「あ、あの……」

 

<“ 無茶を言っているのは承知してる。でも、あの子たちの命がかかってるんだ。本当に危なくなったら逃げてくれてもいい、依頼料も言い値で払うよ。どんなにかかっても私が必ず払う。だから、お願いだ。力を貸してくれないかな…… ”>

 

 ホログラム越しに深々と頭を下げる先生。その真剣さに出かかった断りの言葉を飲み込んでしまう。先生……どうしてあなたは……

 

「……頭を上げて、先生。一つ聞かせてくれないかしら? ……どうして、あなたはそこまでできるの? 」

 

 ホログラム越しに先生と視線が合う。力強い、真剣な眼差しをしている。

 

<“ 目の前で助けを必要としている子供がいる。理由はそれで十分だよ ”>

 

 恥ずかし気もなくそんなセリフを言い切る大人。でも、私はそんな先生を在り方を……こんな場で不謹慎かと思うけど、かっこいいと思ってしまった。

 先生のそれはアウトローとは全然違う。でも一本の芯が入っているようなその在り方はどんな立場であれ素敵だと思う。見てくれだけじゃない本物がそこにあるような気がした。

 

( え、仕事失敗しちゃったの!? それでこんなに……そうだ、これ柴関のサービス券! これあげるから元気出して)

 

( ここで便利屋ちゃんたちに手を出すのは許さないよ)

 

 アビドスの子たちに掛けられた恩を思い出す。この借りを返せず逃げ帰るのが私の目指す存在なの? 相手を選んで、勝てそうにないから逃げて……そんな不自由な存在に私は成りたいの!? 違う、私の目指すアウトローはそんな存在じゃない!! 

 目には目を、歯には歯を、無慈悲に、孤高に、我が道の如く魔境を行く! それならば……

 

「そう……もう一つ教えてもらえるかしら、先生。柴関ラーメンの大将は無事? 」

 

<“ え!? えと、無事だよ。壊れたお店の補填も風紀委員会がしてくれるって聞いてるけど…… ”>

 

「それは良かったわ。()()()()()()()()()()()()()()()

 

 先生を含む皆が驚いたような目線でアルを見る。

 

「先生、便利屋68はその依頼を受けるわ。報酬は、柴関ラーメン四人前。もちろんサイドメニューも遠慮なくつけるわ、高くつくわよ先生。……ふふ、あなたに払えるかしら? 」

 

<“ うん、払ってみせるよ……ありがとう、アル ”>

 

 先生とまずシャーレオフィスで合流することを決め、通信を切る。みんなの目線が痛い。早速カヨコが尋ねてくる。

 

「社長、本気? そんな報酬でPMCと戦うなんて。……メリットも何もないよ? 」

 

「……これはメリットデメリットの話じゃないわ。()()()()()()

 

「在り方って……」

 

 少しばかり呆れた表情を見せるカヨコ。それを見てアルは冷静になりかけるが、ハルカの言葉がそれを遮る。

 

「な、なるほど! さすがアル様です! 多くは語らず、一杯のラーメンで地獄へと赴くその在り方でハードボイルドを語る! 素敵です!! 」

 

「……ふふ、そうよハルカ。さあ、みんな。私と一緒に地獄の底までついてくる覚悟はできたかしら? 」

 

 腹を括り、渾身のドヤ顔で社員たちに問うアル。

 

「くふふっ! やっぱりアルちゃんはそうでないと! もちろんついていくよ♪ 」

 

「じ、地獄のそこまでお供します! 」

 

「はぁ、何だか損してばっかりだけど……仕方ないね。ついていくよ」

 

 便利屋68の面々は片付けていた荷物から装備を引っ張り出し、先生と合流しに向かった。

 

◇ ◇ ◇

 

「どうしてこんなことに……」

 

 白目を向きながらアルはぼやく。というのも無理はなかった。別行動するウルフウッドに代わり先生の護衛を任されて、先生と一緒にたどり着いた先が便利屋の大敵であるゲヘナの風紀委員会だからだ。これから風紀委員長のヒナに会いに行くのだと先生に告げられ、あれよあれよとゲヘナ学園の校舎まで案内する羽目になっていた。

 

「あっ、便利屋! どの面下げてノコノコとッ!! 」

 

 風紀委員会のイオリが一行に気づきヅカヅカと足音を立てながら便利屋に近付いてくる。そんなイオリの前に先生が立ち塞がった。

 

“ ごめん、彼女たちは今シャーレの依頼で私に同行してもらっているんだ。今は見逃してくれないかな? ”

 

「何言っているんだ先生!? そもそも便利屋なんて連れて何しに来た!? 」

 

“ ヒナに会わせて欲しいんだ どうしても頼みたいことがあってね ”

 

「はぁ? 風紀委員長に会いたい? ゲヘナの風紀委員長に、そんなに容易く会えるとでも思っているのか? 」

 

 シッシっと手を振りながら拒絶するイオリ。しかしなにか思いついたのか、意地悪そうな表情を顔に浮かべる。

 

「そうだな、どうしてもっていうなら土下座して私の足でも舐めたら……」

 

 ここまで言えば流石に諦めるだろう。イオリはそういう算段だった。だから自身の左足が空気に触れる感覚が、そしてヌメリとした感触が走った時、理解が追い付かなかった。

 先生はノータイムでイオリの左足のブーツを脱がし、そしてさらけ出された素足を舐めていたのだ。

 

「ひゃん!! ちょっ、ちょっと待っ……んっ、大人としてのプライドとか、人としての迷いとかは無いのか!? 」

 

“ きんきょうひふぁいなんふぁ、そんほのはふぁい(緊急事態なんだ、そんなものは無い) ”

 

 イオリの足を口に含めながら綺麗でまっすぐな目をイオリに向ける先生。その訳のわからなさ、そしてくすぐったさやら羞恥心やらでイオリは半泣きになりながら顔を真っ赤にさせる。

 

「おかしい! ヘンタイ! 歪んでる! こんなヘンタイの大人に――」

 

「なんだか楽しそうね? 」

 

 そんなトンチキな状況に陥っているイオリの後方からヒナが声をかける。その声にイオリは驚きながら振り向いてしまう。

 

「い、委員長……!? 」

 

「……自分の望みのために膝をつく姿なら、これまで何度も見てきた。でも、生徒のために跪く大人を見たのは初めて。顔を上げてちょうだい、先生。言ってみて、私に何をしてほしい? 」

 

 ヒナの位置からだとイオリの体が邪魔で先生が足を舐めている部分が見えていなかった。そのため先生はただ跪いているように見えていた。その認識を訂正するようにイオリは赤面のまま説明する。

 

「いや、その、委員長……先生は跪いているんじゃなくて、その、足を、舐め……」

 

“ ひふぁ! (ヒナ! ) ”

 

「ハァ……? ハァァァァァァァ!!!!??? 」

 

 足を口に含みながら先生はヒナに呼びかける。状況を真に理解したヒナの顔がみるみる茹で上がっていった。

 

(す、すごいわ、先生……そこまでの覚悟を示すなんて! )

 

(くひひ、まさか先生、そういう趣味? )

 

(生徒のためにここまでできるなんて、先生はすごい方なんですね……)

 

(……なに見せられてるんだろう、私達)

 

 横で一部始終を見ていた便利屋たちは各々思うことはありつつも、ただ黙って展開を見ているしかできなかった。

 

◇ ◇ ◇

 

「と、とりあえず要望は分かったわ、先生」

 

 ヒナに事情を説明し、助力を要請する先生。しかしヒナの返事は余り芳しいものではなかった。

 

「ただ申し訳ないのだけれど、前にも言った通り例の条約が控えている今、私達も下手に動くことはできない。風紀委員会が大々的にシャーレに助力した場合、トリニティとの軋轢が深まる可能性もある……」

 

 そこまで言うと、ヒナは何かを確認するように先生の周りを見回す。

 

「……そういえば先生、ウルフウッドは? 」

 

“ 彼とは別行動なんだ。彼にはヴァルキューレとトリニティに協力してもらえないか動いてもらってる ”

 

「そう、ゲヘナに来ない約束を守ってくれているのね。それで……」

 

 先生の横にいる便利屋たちを見ながら納得したような反応を見せるヒナ。そして少し考えた素振りを見せると、再び口を開く。

 

「さっきも言った通り、私達は大々的に協力してあげることはできない。でも、アビドスには色々と借りがあるのも事実。だから少数精鋭をそちらに送るわ。反省文を書かせるよりも合理的だろうし。そうよね、イオリ? 」

 

「え、どういうこと、委員長!? 」

 

 イオリの狼狽えを無視してヒナは話を続ける。

 

「先生、風紀委員が協力することをウルフウッドにも伝えてあげて。トリニティを説得する際にこのことを伝えれば、バランスを取ろうとトリニティもシャーレに協力してくれる可能性が上がるかもしれない」

 

“ わかった。本当にありがとう、ヒナ ”

 

「気にしないで。準備ができたらアビドス高校へ向かうわ」

 

“ うん、それじゃあまたアビドスで! ”

 

 ヒナとの約束を取り付け、先生は便利屋と共に去っていく。その姿を見届けながらヒナはつぶやく。

 

「……不思議な人ね」

 

 少々衝撃的な場面があったものの、生徒のために跪くことさえ厭わない大人。あのニコラス・D・ウルフウッドがアビドスを守るために頼る人。そして、ヘイローも無く、銃弾一発で命を落としかけない弱い存在であるにもかかわらず、どこか頼りたくなってしまいたくなる、そんな人。

 

(私が困っていたら、あなたは私にも手を差し伸べてくれる? 先生……)

 

 不謹慎なのはわかっているけど、少しだけアビドスの生徒たちをうらやましく思ってしまった。

 

◇ ◇ ◇

 

「姉御~、ウルフウッドの兄貴が呼んでますよ~」

 

 ヴァルキューレの公安局長、尾刃カンナがいる部屋に副局長のコノカが顔を出す。

 

「ウルフウッドさんが? ……分かった、行こう」

 

 カンナは書類を処理していたペンを置くと、コノカの後についていく。

 

 ウルフウッドさんが私を呼ぶとしたら、恐らくカイザーの件だろう。先日先生達からカイザーコーポレーションとその系列企業を捜査するという届けが来た。そして防衛室から我々に下った指示は「情報を精査中なのでカイザーには手を出すな」だった。恐らく防衛室とカイザーコーポレーションと契約の邪魔をするなということなのだろう。そのため我々はまだ令状を発行していない。ウルフウッドさんはその催促に来た可能性が高い。だとしたら……正直気が重い。現状私は断ることしかできない。

 足取りが重いまま窓口までたどり着くと、彼の前に立った。

 

「お待たせしました、ウルフウッドさん。私への要件とは? 」

 

「すまへんな局長、緊急事態や。ワイ以外のアビドス生徒がカイザーPMCに攫われてもうた。このままやとみんな殺されてまう。手を貸してくれへんか」

 

 想定外の状況に驚きが隠せない。「殺される」とは一体どういうことだ?

 

「……証拠は、ありますか? 」

 

「ない、犯人の情報はタレコミや。でもアビドスの生徒が行方不明になっとるのは事実やで。せやからシャーレで()()()()をかける。生徒の保護と犯人捕まえるのに力を借りたい。協力頼めへんか? 」

 

 私の中で嫌な仮説が組み立てられる。先生達からの捜査を恐れたカイザーは、その相手を消すという暴挙に出た。そして防衛室はそのための時間を稼ぐために私たちに「手を出すな」と指示していたのだ。

 

 ――私の正義が揺らぐ。私たちは法の番人であり、それを維持するための暴力装置だ。故にその運用は厳正にされなければならない。上の許可なく勝手に動くことなど以ての外だ。秩序維持のためにも私たちが規律を破るわけにはいかない。

 だが、それは私が目指した正義だろうか? ヴァルキューレの宣誓を思い出す。

 

(我々は、法律を忠実に擁護し、命令を遵守し、何ものにもとらわれず、何ものをも恐れず、何ものをも憎まず、良心のみに従い、不偏不党かつ公平中正に職務の遂行に当たることを固く誓います)

 

 よくあることだ。現実は公正ではない。命令を遵守すること、良心に従うこと、これらが矛盾を起こす。唇を噛みしめる。いつものように判断せざるを得ない。

 

「……すみません、ウルフウッドさん。我々公安局は動くことはできません」

 

 先ほどの私の仮説も、あくまで仮説でしかない。そのような状況で上からの命令も無しに動くことはできない。動いてしまったら秩序が乱れてしまう。だから公安局を動かすことはできない。

 

「なぜですかッ!? カンナ局長!! 」

「ウルフウッドさんが頼み込んで来てるんですよ!! よっぽどのことじゃないですか!!」

 

「うるさいッ!! 黙ってくれ!」

 

 抗議を上げた生徒を怒鳴る。わかっている、わかっているんだっ、そんなことは! 

 ウルフウッドさんを慕うヴァルキューレの生徒は多い。かつて数多くの凶悪犯を捕え、それが賞金目的だとしてもこの人はキヴォトスの治安維持に貢献してきた。それに百鬼夜行で起きた、あの痛ましい殺人事件。あの事件で犠牲になった同胞の敵を取ってくれたのもこの人だ。それもあってウルフウッドさんの処遇に疑問を呈する生徒も多い。この人が信用できる人なのは分かっている。それでも、ヴァルキューレの公安局長として命令に背くわけにはいかない。我々は法の番人だから。

 

「……わかった。お前ら落ち着け。……すまん、迷惑かけたな局長。板挟みも大変やな」

 

 ウルフウッドさんは抗議する生徒を落ち着かせあっさりと引き下がった。それどころか私への気遣いまでもしてくれている。……もしや、最初からあまり期待していなかった? 板挟みとは……まさか防衛室とカイザーの繋がりを知っている? だから協力を得られたら幸運と、その程度だったというのですか?

 拳を握り締める。こんなに悔しいことがあるか……ッ!

 

「少し、待っていただけますか」

 

 踵を返そうとするウルフウッドさんを止める。確かに公安局は動かすことはできない。それでも、我々ヴァルキューレにできることはある。視界の端に映っていた人物を呼ぶ。

 

「中務キリノ、合歓垣フブキ、こちらに来い」

 

「はい!? 」

 

「え、えぇ~? なんで私達ぃ? 」

 

 二人はウルフウッドさんに軽く会釈しつつ私の前にまで来て並び立つ。

 

「お前たち、今日のパトロールのルートをアビドスへ変更しろ。生活安全局長には私から言っておく」

 

 二人は驚いた顔を浮かべる。ウルフウッドさんも驚いた顔をしていた。

 

「ええんか局長? 上になにか言われとるんちゃうんか? 」

 

「パトロールのルートはヴァルキューレに一任されています。そしてパトロールの途中で犯罪に巻き込まれている市民が居れば保護し、犯罪者が居れば逮捕する。それは我々の職務のうちです。……わかったな、二人とも」

 

 キリノは満面の笑みを、フブキは凄まじく面倒くさそうな顔を浮かべながら了解の返事をする。

 

「ほな行こか、二人とも。あ、ワイ今バイクがアビドスやからパトカー乗せてくれへん?」

 

「ええ~、私達タクシーじゃないんだけど……」

 

「まあフブキ、そう言わずに。これで手柄を立てれば公安局への転科もチャンスもあるかもしれません! 」

 

「私は生活安全局好きなんだけどなぁ」

 

 二人がやいのやいの言いながら出口に向かう途中、ウルフウッドはカンナへ振り返る。

 

「ほんまおおきにな、局長。用事すんだら一杯おごったってもええで」

 

「すみませんがそういったものは受け取れません」

 

「なんや、一年の頃はアメちゃん受け取ってたやろ」

 

「あ、あれはッ!! と、とにかくもう行ってください!! 」

 

 ウルフウッドは出口側へ再び振り返ると、背中を見せながら手を振り感謝の意を済ます。彼らがヴァルキューレを出るのを見送ると、カンナは声を零した。

 

「全く、困った人だ……」

 

 それを見逃さなかったコノカがニヤニヤしながら話しかける。

 

「本当は姉御が行きたかったんじゃないんすか? 」

 

「そう簡単に動けたら苦労しない」

 

「行きたかったのは否定しないんすね? 」

 

「う、うるさいぞッ」

 

 カンナは顔を少し赤らめるが、すぐさま表情を真面目な顔に戻す。

 

「はぁ、安全局長にもすぐに伝えねば」

 

「まああの人も兄貴慕ってるから大丈夫だと思うっすけどね。むしろなんで自分を呼ばなかったか攻められるかも」

 

「かもな」

 

 生活安全局長は公安局から転科組だ。……あの痛ましい事件で友人を殺人鬼に殺害され、それがトラウマとなり公安局から転科した経歴を持つ。彼女たちの希望で殉職された生徒の葬儀を行ったのはウルフウッドさんだった。拘留中であったにも関わらずあの人は快諾してくれたこともあり、生活安全局の局長はウルフウッドさんに恩を感じている。

 

「……あの事件で我々の力不足を痛感したからこその()()()()だというのに、そのために市民を見捨てるとはとんだ矛盾だな」

 

「本当はこういう時のためのSRTだったはずなんすけどね」

 

「……」

 

「まーまー、そんな暗い顔しないでくださいよ、姉御。できることはやりました。後はウルフウッドの兄貴に任せましょう。あの人ならどうにかしますって」

 

 コノカがカンナの背中を軽く叩きながら明るく言う。

 

「そうだな……」

 

 カンナは力なく答えた。

 

◇ ◇ ◇

 

「うーん、トリニティのドーナツも格別だね~」

 

「何やってるんですかフブキ! 職務中ですよ」

 

「そうは言ったってさー、ティーパーティーだっけ? あの中私達入れないんだし仕方ないじゃん。午後はドンパチしなきゃいけないんでしょ? だったら今ぐらい休んでおかないと」

 

「そう言ってフブキはいつも休んでるじゃないですか……」

 

 そう言いながらキリノはパトカーの車内からトリニティ―の校舎を見上げた。アビドスに行く前にトリニティに寄るようにウルフウッドから要望を受け到着したのはいいものの、用のあるティーパーティーに入れるのはウルフウッドと案内に来た生徒だけだという。そのため自分たちは車内で待ちぼうけといった状況。確かにフブキの言う通り自分たちにできることは無い。

 

「ウルフウッドさんは大丈夫でしょうか……? 」

 

 暇そうに呟くキリノを他所に、ウルフウッドはヒフミに連れられティーパーティーの前へと案内されていた。ウルフウッドは警備の生徒に睨まれながらヒフミと共に入室する。中に入るとティーセットの置かれたテーブルにティーパーティーの一人、桐藤ナギサが佇んでいた。

 

「ナギサ様、ウルフウッドさんをお連れいたしました」

 

「ありがとうございます、ヒフミさん。そして……初めまして、ウルフウッドさん。ティーパーティーの一人、桐藤ナギサと申します」

 

「初めましてやな。知っとるみたいやし時間も無いから自己紹介は省略させてもらうで。単刀直入に言うわ。カイザーPMCにウチの生徒が拉致された。救出に協力してくれへんか」

 

「生徒を拉致、ですか。穏やかではありませんね」

 

 ウルフウッドが簡単ないきさつをナギサに説明する。そしてヒフミも頭を下げた。

 

「お願いです、ナギサ様。アビドスの方々には助けてもらったこともあるんです。協力いただけませんか? 」

 

「……なるほど、事情は把握いたしました。今説明いただいたことが事実だとすれば、無視は難しいでしょう。しかし例の条約も目前に迫っている今、下手に動けないのも事実で……」

 

ブー、ブーッ

 

 ナギサが話を言い終えるのと重なるようにウルフウッドの携帯からトーク受信の音が鳴る。「すまへんな」と言いながらウルフウッドは携帯を取り、内容を確認した。

 

「……今センセから連絡来たわ。ゲヘナは協力してくれるらしいで」

 

「ゲヘナが、ですか……」

 

 ウルフウッドの報告を受けナギサはしばし思案する素振りをすると、再び口を開く。

 

「……であれば、こちらもシャーレに恩を売っておいた方が良さそうですね。それに、そのPMCという企業の存在がわが校の生徒たちにもよくない影響を及ぼしそうなのも確かです。今回は例外ということで、トリニティも協力いたしましょう」

 

「ホンマか、おおきにやで」

 

 ナギサはウルフウッドに軽い会釈をすると、ヒフミへと振り返る。

 

「そうですね……確かちょうど、牽引式榴弾砲を扱う屋外授業の予定があったはずです。せっかくですし、ちょっとしたピクニックなどいかがでしょう」

 

「えっと、牽引式榴弾砲ということは……L118の……? 」

 

「はい。ヒフミさんはアビドスの方々と面識があるようですし、あちらでの指揮をお願いします。細かいことは私の方で処理しますので。……愛は巡り巡るもの……ヒフミさんがいつか私に愛をお返ししてくれる時を、楽しみにしてますね」

 

「あ、あぅ……」

 

 そしてナギサはウルフウッドへ向きを戻し、微笑む。

 

「ウルフウッドさん、貴方のお返しも楽しみにしています」

 

「しゃあないな。なんかあればシャーレに依頼くれたらええ。恩はきっちり返したる」

 

「はい」

 

 ナギサが含んだ笑みを浮かべる中、ウルフウッドはヒフミと共にその場を後にした。

 

「なんだか大変なことを任されてしまいましたぁ……」

 

「なに、銀行強盗できた度胸があればどないでもなるやろ。なあ、ファウスト」

 

「あうぅ、その名前で呼ばないでください~」

 

 そんな冗談を一言二言交えた後、ウルフウッドはヒフミと別れパトカーへと向かう。その最中、様々な視線がウルフウッドに突き刺ささっていた。ティーパーティーから出てきた見かけない男。その特異性からトリニティの様々な生徒から注目を集めていたからだ。ウルフウッドはそれを無視してヅカヅカ歩を進めるが、それ故にひと際警戒を向ける視線に気付かなかった。

 

「……あれがニコラス・D・ウルフウッド……」

 

 白洲アズサは確認するようにつぶやいた。

 

◇ ◇ ◇

 

 アビドス高等学校の校舎に協力を得た戦力が集合していた。各勢力の代表が対策委員会の部室に集まり、先生とウルフウッドが皆の前に立つ。

 

“ みんな、力を貸してくれて本当にありがとう。これから作戦の流れを説明するよ ”

 

 ホワイトボードに作戦領域が投影される。

 

“ 作戦目標は二つ。最優先事項は誘拐されたアビドス生徒の救出。そして第二目標はカイザーPMC理事の逮捕。特記事項として、ヘイロー貫通弾を持った危険な相手が存在している。万が一その特記戦力と当たってしまったらすぐに撤退すること ”

 

「まあそうならんようにまずはワイが先行してそいつらを引き受ける。お前らにはセンセと一緒にアビドスの奴らを救出するのを頼みたい。そっちが突入するタイミングは、ワイがカチこむ際にパニッシャーでデカい爆発起こしたるからそれが合図や」

 

“ ヒフミたちトリニティの援護を受けながら、残りのメンバーで基地内に突入する。風紀委員の皆はそこで退路確保のために敵を抑えてつけておいて欲しい。私と便利屋、ヴァルキューレの二人で施設内に侵入してアビドス生徒の保護とカイザーPMCの確保を行う。作戦の概要は以上。後は臨機応変かな ”

 

 先生が話し終えるとヒフミがおずおずと手を挙げる。

 

「あ、あの、ウルフウッドさんは大丈夫なんですか? ヘイロー貫通弾なんて危険なものを持っている人を相手にするんですよね? 」

 

 話を聞いていた他の生徒も心配そうにウルフウッドを見つめるが、ウルフウッドは事も無げに答える。

 

「心配してくれるんはありがたいけどな、問題あらへん。そういう相手はよう慣れとるし、むしろワイが相手せなアカン。誰かて死なせるわけにはいかへんのやからな」

 

 回答を終えたウルフウッドは先生に視線を向けると、先生は相槌して生徒たちを見る。

 

“ それじゃあアビドス生徒救出作戦を開始しよう!! ”

 

「「「はいッ」」」

 

 生徒たちは返事をすると各々の持ち場へ向かっていく。

 

“ それじゃあウルフウッド、頼んだよ ”

 

「わかっとるわ。ワイらに喧嘩売ったこと、カイザー共に後悔させたる」

 

(そんでその向こうにおるマスター・チャペル……おんどれにパニッシャー叩き込んだるわ)

 

 ウルフウッドは十字を掲げ、先行してアビドスを発った。




実際公安局は本当に動かせない物なんでしょうかね…?
とりあえずここら辺もゲームやってみた感じの印象から書いてるところもあり、キヴォトスルールだと思ってもらえると助かります。

あと蛇足ですが、生活安全課の局長は百鬼夜行でウルフウッドが頭を撫でて下げさせていた生徒という設定。あの事件がトラウマになってしまって公安から異動したけど、あの事件を繰り返さないためにも日々の業務をしっかりやっていたら生活安全課の局長になっていた、という感じ。
ウルフウッドに手錠をかけたのもこの子。「ごめんなさい、ごめんなさい」って泣きながらウルフウッドに手錠をかけていた。
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