ウルフウッドアーカイブ   作:タニシ・トニオ

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03_ネフティスのお嬢様

 アビドス高等学校生徒会。災害により衰退したアビドスの借金を背負い、今もなお抗い続けている人たちの会長が先日行方不明になったらしい。気になって様子を見に行ったら会長さんを探している副会長のホシノさんを見かけた。日に日にその顔の険しさは増していく。

 

(ああ……今日も見つけられなかったんですね……)

 

 私にできることはなく、でも無視することもできなくて、遠くから眺める歯がゆい日々。でもある日、その空気は一変していた。

 

(ホシノさんの隣にいるのは……会長さん? よかった! 見つかったんですね)

 

 先日までの険しい顔から打って変わって満面の笑みを浮かべているホシノさんと、その横で同じように笑っている会長さんを見て、私も胸を撫でおろす。本当に良かった。

 

「そないなとこで何しとるん、嬢ちゃん。何か用でもあるんか?」

 

「ぴえッ!! どちら様ですか!?」

 

「いや、それはこっちのセリフやけど?」

 

「なにやってるんですかニコラス? カツアゲですか? 」

 

「え、駄目だよニコラス君!? そんなお金の稼ぎ方は絶対ダメ!!」

 

「ホシノさんに会長さんまで!?」

 

 サングラスのお兄さんに声を掛けられて驚いている間に、気づけば私は先輩たちに囲まれてしまっていました。

 

「そないなことするか! どない見えてんねん!?」

 

「絵面が女の子に絡んでるヤクザにしか見えなかったので」

 

「だれがヤクザや! ワイは牧師やゆーとるやろが!」

 

「え? 牧師さんなんですか……?」

 

「ほら見てください。誰がどう見たってあなたは牧師には見えません」

 

「なんでや……けっこうショックなんやけど……」

 

 背も高くサングラスも付けているので怖い人なのかと思ってしまいましたが、どうやらこのお兄さんは牧師さんらしくそんなに悪い人ではないようです。どこの誰かは依然としてわかりませんが……

 

「それで、君は誰? 私の名前知ってるみたいだけど、どこの生徒? 所属と学年は?」

 

「あ、あの、えと……私は……アビドス自治区の中学生です……」

 

「あ! 君の校章、ネフティス中学校のだよね!? もしかして私達の学校の見学に来たのかな? 歓迎するよ! 入って入って!」

 

「ちょっと、先輩! また勝手に……」

 

 警戒した目で私を睨みつけていたホシノさんを尻目に、会長さんは私の手を取りアビドス校舎へと引っ張って行きました。とてもうれしそうな笑みを浮かべているので見学ではないとは言えず、なすがまま校舎の中へと案内されることに。

 

「じゃーん、ここが私達生徒会の部屋だよ。さあ、座って座って」

 

 会長さんに勧められるまま生徒会室のパイプ椅子に座りましたが、いったいどうなってしまうんでしょう……

 

「ちょっと待ってね~、確かここら辺に学校案内の資料が……」

 

「ユメ先輩、それよりもまず身元を明らかにすべきじゃないですか?」

 

「え……あ、そっか~自己紹介がまだだったよね。私はアビドス高等学校生徒会長、三年生の梔子ユメ、よろしくね」

 

「そういうつもりで言ったんじゃ……はぁ……もういいです。知っているみたいだけど、私は生徒会副会長、一年生の小鳥遊ホシノ。それでこっちが……」

 

「ん、ワイか? ワイはついこの間ここに入学させてもろたニコラス・D・ウルフウッドっちうねん。見えへんかもやけど牧師やねんで。学年は……入りたてやから一年生っちうのになるんか? 」

 

「あー、ニコラス君は学歴がないからそうなっちゃうかな……」

 

 キヴォトスで学歴が無いってどういうことなんでしょうか? ニコラスさんのような男性の生徒は見かけたことがないのでなにか特別な事情でもあるのかもしれません。

 

「……それで君は?」

 

「あ、えと私は、私立ネフティス中学校三年生の十六夜ノノミといいます」

 

「十六夜……ああ。私立ネフティス中学校。ネフティス企業傘下の、超エリート校。ネフティスの後継者が残っているとは聞いていたけど……君だったんだね」

 

「私が卒業したら廃校になっちゃいますけどね……」

 

「それで? かの高名な悪徳企業『ネフティス』のお嬢さんが、私たちの学校に何か用? まさか本当に見学しにきたってわけじゃないよね? 回答によっては……」

 

 ホシノさんから再び警戒の視線が向けられる。私よりも小柄なのに発せられる重圧がすごい。

 

「あの……えと……」

 

「ホシノちゃん! ノノミちゃんを怖がらせないの! ホシノちゃんは先輩なんだから後輩を怖がらせちゃ駄目だよ」

 

「後輩って、学校違うじゃないですか」

 

「学校なんて関係ないよ。ホシノちゃんの方がお姉さんなんだから」

 

「せやで、ホシノ。器だけでも大きくしとかな」

 

「ニコラスは一言余計です!!」

 

 ユメさんのおかげで緊張が和らぎました。同時に、目の前で広がる会話が楽しそうで……羨望、というのでしょうか。私もこの輪に入れたらな、と思ってしまいました。ここを無くしたくないと思いました。だから……

 

「わ、私は……私は確かに、ネフティスグループの者です。その事実を変えることはできません。でも、皆さんと同じくここを無くしたくないと思っています。なので提案があります。このゴールドカードで、学校の借金を全て返済するのはどうでしょうか!」

 

 ネフティスグループから持たされていたゴールドカードを取り出し、先輩たちへと提示する。

 

「え、えっと……何? ゴールドカード……?」

 

「あっ、その……これは私専用のクレジットカードで……これを使えば、ネフティスの資金を引き出せるんです。これで……」

 

「あのさ、ちゃんと考えて話してる?」

 

 ホシノさんの目が再び厳しくなる。

 

「そのカードで借金を返済するって意味、ちゃんと分かってるの?」

 

「い、意味、というのは……」

 

「善意から言っているのはわかる。でも、他の人はそれをどう受け取ると思う? そのカードはネフティスの物でしょ。つまり、学校の借金を返したのはネフティスってことになる、君じゃなくて」

 

 ユメさんも困った顔をしながらホシノさんに続く。

 

「……私もこれに関してはホシノちゃんと同じ意見かな。ノノミちゃんはそのカードのお金を使うことはできても、そのお金自体はネフティスの人たちが頑張って働いて稼いだお金で、ノノミちゃんが稼いだお金じゃないでしょう? こういうことに使うのはよくないと思うの……」

 

「それに、仮にそれでアビドスの借金を返したとしても、この学校は所有権がネフティスの物になるだけ」

 

「ああ、それやったらあんま意味ないっちうわけか」

 

「そういうこと」

 

「う、うう……」

 

 先輩たちの言う通りだ、自分の考えの甘さが嫌になる。

 

「の、ノノミちゃん! ホシノちゃんも言ってたけど、私たちのためを思って言ってくれてたんだよね!? その気持ちは本当にうれしいよ! だから……」

 

「ご、ごめんなさい! 私は……私、は……」

 

 ユメが慰めるも、いたたまれなくなったのかノノミは席を立ちあがり廊下へと駆け出して行く。

 

「あッ、ノノミちゃーん! いつでも遊びに来てくれていいからねー! ……行っちゃった」

 

「先輩、気を許し過ぎじゃないですか?」

 

「そんなことないよ。ノノミちゃん、いい子だったじゃない。中学卒業したらここに入学してくれないかなぁ」

 

「それはないでしょ。ネフティスのお嬢様ですよ?」

 

「やっぱりそうかなぁ……」

 

 急な来訪者が去り、とりあえず三人は生徒会室のパイプ椅子へ再び座りなおす。一息の静寂の後、最初に言葉を発したのはウルフウッドだった。

 

「で、ワイらはワイらでどないして借金返すんや?」

 

「普段はアルバイトしたり売れるもの探して売ったりして稼いでるんだけど……」

 

「儲かっとるんか? ……いや、聞かんでもわかるわ」

 

 二人しかいない現状、砂が入り荒れてしまっている校舎を見てウルフウッドはぼやく。

 

「実際アビドス周りは過疎が進んでる関係で碌な仕事ないですよ。無法地帯と化してますし」

 

「そこらにいるロクデナシとっ捕まえた方が稼げるんちゃうか? 賞金首の制度があればやけど……」

 

「その制度はありますが基本アビドスにいるのは木っ端、賞金付きは外ですよ」

 

「なんや、賞金首おるんやないか。せやったそいつらとっ捕まえて稼いだらええやん」

 

「え!? 危ないよニコラス君!」

 

「問題あらへん、これでも腕には覚えあんねん。チマチマ働くより性に合うとる。それにここに籠っとるより外出た方が元の世界に帰るための情報も見つかるかもしれんしな」

 

「……確かに悪くない案かもですね。ここを留守にできなかったので出稼ぎという手段が取れませんでしたが、ニコラスがやってくれれば助かります。ただ……」

 

 ホシノは愛銃を手に取り、ウルフウッドへ殺気を向ける。

 

「その実力があればですが」

 

「なんやホシノ、いっちょまえに喧嘩売っとるんか? ガキいじめるんは趣味ちゃうねんけど」

 

「減らず口を……」

 

「ちょ、ちょっとホシノちゃん! 喧嘩は駄目だよ~」

 

 ユメの注意を無視しホシノは生徒会室のドアへと歩みを進めた。

 

「ユメ先輩、私はまだその男を信用したわけではありません。なので何かあっても助けるつもりもありませんよ。お守は先輩だけで充分です」

 

「ひぃぃん」

 

「だからニコラス、私に証明してください。あなたの実力を」

 

 ウルフウッドを睨みつけるホシノ。その眼差しは真剣なものだった。それに観念したのか、ウルフウッドは肩をすくめつつ歩み寄る。

 

「しゃーないな、まあ入学試験みたいなもんか。ええで、受けたる。ただ……模擬弾なんて手持ちあらへんねん。わけてくれへんか?」

 

 ウルフウッドの発言に場が静まり返る。

 

「……なんや、ワイなんかおかしなこと言うたか?」

 

「模擬……弾? なに言ってるんですか、ニコラス? 」

 

「いやいやいや、さすがに実弾はアカンやろ? ユメもなんかゆうたれや」

 

「えと……ごめんニコラス君、模擬弾ってなに?」

 

「はあ!?」

 

 何か致命的な齟齬があると感じ取ったウルフウッドは二人に説明を要求した。返ってきた回答は「キヴォトスにはそんなもの必要ないから存在しない」といったぶっ飛んだ内容。

 

(ワイ、こっち来てからなんか驚いてばっかりやなぁ……)

 

 少しばかりここでやっていけるか不安を感じてしまったウルフウッドだった。

 

 




正直トライガンの世界にも模擬弾があるのか微妙なところ。一応あると信じたいけどパニッシャーだと模擬弾でも大けがしそう……
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