シャーレ復学支援部の奴らのシフトの確認をしてオフィスに戻ると、センセが電話対応をしとった。
”
先生の受話器越しに聞こえてくる声……あれはシズコ……やったか? あいつにはアビドス砂祭りの相談をしてもろうたな。とすると、今連絡が来とるのは……百鬼夜行からか。
ピロン
センセが通話を終えて携帯に届いた写真を眺めとる。後ろから覗き込むとそこには祭りのポスターが表示されとった。
「なんや、今度は百鬼夜行か? 」
” え、ああ……うん。この桜花祭っていうのに是非招待したいってね、お祭り運営委員会の子から。なにか相談事もあるみたいだけど…… ”
「そこやったら場所も知っとるし送ったるで」
” それはありがたいんだけど……いいのかい? 今回は私だけでも…… ”
「なにいっちょ前に気遣っとんねん。なんも問題あらへんわ」
以前話した百鬼夜行での事件、それを気にしてセンセはいらん気を遣ってきた。そこで気を回せるなら普段からもっと遠慮とかせえよ、全く。
「……それに百鬼夜行に行くことあったらやろう思っとったことあってな、ええ機会や」
” やることって? ”
「ケジメみたいなもんや」
◇ ◇ ◇
「なにかあれば連絡するんやぞ」
バイクから降りるセンセにそう告げる。センセを下ろした後、ワイは近場の駐車場にバイクを止めてから陰陽部へと歩いて行った。にしても流石百鬼夜行ちうべきか、道中いい匂いが漂ってきとる。昼には少し早いが腹になにか入れとくか、そう思って周りを見渡すとある店が目に入った。それはあの時、雷泥が押し入って飯食ってた蕎麦屋やった。店長無事やったんか? 普通に営業しとるようやし、入ってみるか。
ガラガラガラ……
「いらっしゃいませー」
「一人なんやけど」
「それでしたらカウンターまでどうぞー」
カウンターに座り店の中を軽く見回す。普通に客が入って蕎麦を啜っとる。ちゃんと営業再開出来とるようでなによりや。そう思っていると不意に店主らしき柴犬のおっちゃんから声を掛けられる。
「……あんた、ウルフウッドさんじゃないか!? 」
「せ、せやけど」
「そうだよなぁ? そうだよなぁ!? いやあ、あの化け物退治の英雄が来てくれるなんて嬉しいねぇ! 」
「英雄て、大げさやで」
英雄てなんやねん? そんなガラやないやろ。堪忍してくれ。
「そんなことないさ! あの化け物がこの店に押し入ってきた時は本当に生きた心地がしなかったぜ。情けねぇがあいつが蕎麦食ってる間、ずっと奥でガタガタ震えてたよ。あんたにゃ感謝してもし足りねえ」
「あー……客席吹き飛ばしてもうてすまんかったな」
「いいってことよ、命あっての物種だしな。それにあいつが退治されなきゃここら一帯寂れたままだったろうし気にすんなって。でもよかったよ、あんたあの後ヴァルキューレに捕まったって聞いてさ、心配だったんだ」
おっちゃん、ええ人やな。店穴だらけにしたワイを心配してくれるんか。でもワイな、おっちゃんが化け物言う奴と同類なんやで。
「最近になってヴァルキューレが出してくれてな、野暮用もあって百鬼夜行に来たんや」
「そうだったのかい、そりゃ丁度いい。今は桜花祭の最中だからな。しかも今年はあの葬式みてえな雰囲気を吹っ飛ばそうと特に力が入ってるからね、楽しんでいってくれよ! 」
「そうさせてもらうわ」
悪いけど、楽しむのは難しいかもしれん。流石にそれはおこがましいやろ。
「今日は俺のおごりだ、好きなモン注文していってくれ!」
「そらおおきに、感謝するで」
おっちゃん……ホンマにありがたいんやで、褒めてくれるんは嬉しいんやで。でも、化け物言うのも英雄言うのも、できたらやめてくれへんか?
そないなことは結局言えず、ワイはただ愛想笑いを浮かべるしかない。
おっちゃんの親切でもらった天ぷら蕎麦は美味いはずなのに、あまり味がせえへんかった。おっちゃんには悪いが、入る店間違えてもうたかもしれん。
◇ ◇ ◇
腹ごなしを済ませて陰陽部へとたどり着く。入れてもらえるか少し心配やったが、名前を告げるとすんなり奥へと通してもらえた。案内されるまま陰陽部の部室の奥へ進むと、目的の人物であるニヤがおった。こいつと会うのは事件後の面会以来か。
「邪魔するで。連絡もなしにすまへんな」
「いえいえ~、お久しぶりですね、ウルフウッドさん。今日はどの様なご用件です? シャーレのお仕事ですか? 」
「なんや、ワイがシャーレに所属しとることまで知っとるんか? 」
「ええ、流石に存じていますよ。うちの諜報は優秀な子が多いですから」
「そらええな、説明の手間が省ける。……で、用件なんやけどな、百鬼夜行に来たのは確かにシャーレの仕事なんやけど、そっちの用事はセンセに任せとる。今から言うんはワイの個人的な頼みや」
「個人的な……? はて、なんでしょう? 」
「あの事件の犠牲者の墓がどこにあるか教えてくれへん? 葬儀済んどることはわかっとるんやけどな、祈っときたくて……」
ニヤは少しだけ驚いた表情を浮かべてから、部室の隅でボケーっとしとった奴を呼び寄せ指示をする。
「今部員に調べてもらっています。少しお待ちになってもらっていいですか? 」
「かまへんよ、おおきにな」
待つことになったので陰陽部の部室から百鬼夜行の光景を何気なしに眺めていると、ニヤから話しかけられる。
「そういえばウルフウッドさん、シャーレとしては何故こちらに? ああ、言えないことであれば別にいいですが……」
「かまへんよ、言えんような内容ちゃうし。お祭り運営委員会からセンセにこのお祭りの招待があってな。ついでになんか相談したいこともあるらしいが……ワイは御覧の通り別行動やから相談内容までは知らん」
「……ふむ、お祭り運営委委員会が……ああ、あの件ですかねぇ? 」
「ん、なんか知っとるんか? 」
「心当たりが少し。別団体からですが、なんでもお祭りを邪魔しているチンピラがいるとかなんとか。多分そのことかな、と」
「……大事なんか? 」
「いえ、そこまでのものでは。シャーレの先生も対応してくださるようですし……」
確かにセンセからの呼び出しは無いし、その程度なんやろなと納得する。そうこう話していると、さっきニヤに言われて墓の位置を調べていた青髪の生徒が近寄ってきた。
「部長ー、言われたお墓の情報持ってきたよー」
「ありがとう、チセ」
ニヤは情報が書かれた書類を受け取ると、軽く一読してからワイに渡そうとする。が、途中でその手を止め「にゃは」っと笑みを浮かべた。なんか悪だくみしてそうな顔やな。
「……チセ、すみませんが私はウルフウッドさんをお墓まで案内するので今日はもう帰ります。それで伝言頼めます? 」
「伝言? 誰に? 」
「恐らく桜花祭を邪魔する騒ぎの件で、カワイイ大人の先生とたぬきさんが陰陽部に来るでしょう。そしたら修行部に行けば何とかなるはずと伝えてください。一つで駄目なら、同じ悩みを抱える二つの部活が力を合わせれば問題ないでしょう」
「わかったー」
チセと呼ばれた独特な雰囲気の生徒が了承する。いや、生徒会の対応としてそれでええんか?
そんなワイの視線を感じ取ったのか、ニヤは答える。
「にゃはははは、大丈夫ですよ。そもそも私達陰陽部は百鬼夜行のバランスを保つ舵取りのようなものでして、荒事向きではありませんし。それに本当にどうしようもなくなれば先生からウルフウッドさんに連絡が行くのでしょう? であれば私の出番はありませんよ~。という訳でお墓参りに行きましょうか」
そう言ってヘラヘラしながらニヤは墓の場所が書かれた紙を見る。そして部室の出口に向かって歩いていった。ワイも特に異議はないのでその後ろをついていく。
あ、要望は言っとかな。
「すまへんけど人込み少ないルートで頼めるか? 」
「……ええ、かしこまりました」
ニヤは察してくれたのか裏道のような人を避けたルートで案内してくれた。
◇ ◇ ◇
十字を取り出し、主に祈る。あなたのみもとにある魂をお守りくださいと、もうこちらへ迷い出ることなどないようにと。
「……次が最後やな」
雷泥の犠牲者たちの墓石に祈りを捧げ、最後にワイが撃った生徒の墓へと向かう。道中ニヤが気不味そうな顔をしとったが、到着してその理由を知る。
「……こら酷いな」
「人殺し」「化け物」……そういった誹謗中傷の落書きがその生徒の墓石にされとった。ニヤが重苦しそうに口を開く。
「……定期的に、この生徒の友人が掃除に来るらしいのですが……消しても消してもこの有様でして。あれだけのことをやらかしてしまっているので仕方ないのかもしれませんが……」
「んなわけあるか、こいつも犠牲者やぞ」
桶に入れていた水にハンカチを浸し、落書きを掃除する。
「……追加の水と、ブラシを持ってきます」
ニヤも追加の掃除道具を持ってきてくれて、一緒に墓石の清掃をしてくれる。手を動かしながらワイに尋ねてきた。
「先ほどウルフウッドさんがこの生徒のことも犠牲者とおっしゃいましたが、それは一体どういうことでしょうか? なにかご存じなのですか? 」
「……信じられへんかもしれへんがな、あの時、こいつには鬼が憑いとった。お前らみたいなただ角ある奴やなくて、ホンマもんの……人を辞めた剣鬼がな。あの事件はこいつの意思やない」
「……そうですか……信じますよ。陰陽部でもこの生徒のことはよく調べたんです。交霊研究会所属の、内気な大人しい生徒。刃物の扱いについては、刀どころか料理も苦手で包丁すら握ることも少なかったそうです。こんなことをする理由も、技量も、ありませんでした。ですから今話してくれた理由でしか説明がつかないのですよ。……お遊びの活動で、本物を呼び寄せてしまったのかもしれませんね~。しかし、 それでしたらなおさら百花繚乱紛争調停委員会を投入できなかったことが悔やまれます」
「なんや、そこにはエクソシストでもおったんか? 」
「エク……えと、退魔士がいるわけではないのですが、百花繚乱の委員長には代々幽霊を捕えることができる『百蓮』という銃が引き継がれていると聞いていたので……」
「……銃やったら結果は変わらへん。あいつに当てられなくて斬られて終い、死体が増えただけや。まともな戦闘であれに対応できるのはワイだけやったやろうし、お前がワイに依頼してきたのがあの場では最善やった思うで。報酬もちゃんともろたしな、お前はお前の責任果たしとったで」
「……そう言っていただけますと胸が軽くなりますよ。にゃははは……」
二人で墓石の掃除を終え、祈りを済ませた頃には日が暮れ始めていた。
「すまへんな、掃除まで手伝ってもろうて」
「いえ、お構いなく。……しかしこうしてみるとウルフウッドさん、やっぱり牧師なんですね~」
「やっぱりってなんやねん、どない見ても牧師やろが」
「にゃは、そういうことにしておきましょうか」
「今鼻で笑ったやろ? 」
ニヤを問いただそうとするが、それを邪魔するように携帯が鳴る。この着信はセンセからのメッセージか。帰宅の連絡か、それとも……
<” 今から誘拐される予定だから遅くなる前に助けてくれる? 私の携帯の位置情報送るからよろしくね ”>
「……案の定か。ちうか予定ってなんや予定って? ホンマにワイ必要なんか? 」
「どうやらあちらの物語も佳境のようですね、一応向かったらどうです? 」
ワイの携帯を覗き込んでニヤが笑いながら言う。しゃあない、渋々やけど行くしかないか。センセの護衛は仕事やしな。
「お気をつけて~」
全く心配している素振りの無いニヤの挨拶を背に、ワイはセンセの元へと向かった。
◇ ◇ ◇
路地裏の廃墟にて、騒動の黒幕と先生たちが相対していた。
騒動の黒幕、ニャン天丸ことニャテ・マサムニェは
ニャテ・マサムニェが吠える。
「ええいっ! もういい、この状況も計画の範疇だ! 最初からおぬしらがここにたどり着く可能性くらい、予想してなかったとでも思うか! 良いものを見せてやろう! 」
そしてマサムニェが指を鳴らすと魑魅一座の生徒がぞろぞろとその場に集結する。
「ふははは、覚悟しろ!!」
「うーん……どう考えても負けフラグな台詞」
マサムニェに対してシズコが辛辣な台詞を言うと同時に、銃撃音がそのフラグを回収する。
ズドドドドド!!
「うわああああっ! 」
「ぎゃあああああっ! 」
パニッシャーの弾丸が廃墟のカベを貫き、そのまま集結した魑魅一座を穿つ。撃ち抜かれた廃墟の風穴から十字を背負った男が姿を現した。
「邪魔するで。おお、センセ。それっぽい相手撃ったけど合ってるか? 」
” 合っているよウルフウッド ”
「ウルフウッドさん!? 」
先生と、彼と面識のあったシズコが彼の名前を呼ぶ。その名前にマサムニェたちはおののく。
「ウルフウッド……あのニコラス・D・ウルフウッドか!!? 」
「え、あの化け物倒したウルフウッドさん!!? 」
「え、ほんとに!? 」
「おお、そやで。そのニコラス・D・ウルフウッドや」
ウルフウッドはパニッシャーをマサムニェと
「で、どないする? 」
「……あ~、これは駄目っすね」
「ウルフウッドさんに勝てるわけないじゃん、相手悪すぎ……」
「ま、待て! 儂の資金を全て使ったんだぞ! まだ街にも大量の
そうマサムニェが騒ぐが、
「あー、その件なんだけど……実は元々は来るはずだった子たちが、『やっぱり桜花祭楽しみたい』って言って遊びに行っちゃって……ここに居る戦力が全部っす」
あんまりにもしょうもない状況にマサムニェどころがその場の全員がだんまりする。
「え~と、これって……」
「やっぱ駄目っすね」
「……うん、よし! 解散! 」
ダバダバと逃げ出す
ポカンとした表情のままそれを眺めていたマサムニェは眼帯を外し、ニャン天丸へと戻る。
「えっと、その、だな……諸君、全部水に流すというのは……どうだろう? 」
「んなことできるかあぁぁぁっっ! シズコ
シズコ怒りの鉄拳により、きりもみ回転で吹き飛ぶニャン天丸。ウルフウッドはその光景を眺めながら先生に尋ねた。
「……ようわからんけど、これワイ必要やったか? 」
” まあ保険ってことで…… ”
「しょーもな」
◇ ◇ ◇
なんやかんやニャン天丸の野望を阻止し、お祭り運営委員会のシズコとフィーナは桜花祭のフィナーレの準備のため先生達へのお礼をほどほどにしながらその場を去っていく。
「……で、タイミング逃したまま挨拶できてへんかったけど、センセの後ろにいる嬢ちゃんはどちらさん? 」
ウルフウッドが問いかけると、先生の後ろから可愛らしい狐耳をぴょこんと出してイズナがウルフウッドと顔を合わせる。
「イズナですか? イズナは百鬼夜行一年生、久田イズナと言います! キヴォトス最高の忍者を目指して、主殿にお仕えする忍者です! 」
「……主、殿? 」
ウルフウッドは怪訝な目で先生を見る。
” 違うよウルフウッド。君は今誤解をしている ”
「そんなことはありません主殿! 先生は私の夢を応援してくださる方! だから先生はイズナの主殿です! 」
「……まあ、人の趣味にとやかく言うつもりはあらへんわ」
” ウルフウッド! ウルフウッド!? ”
先生の悲痛な叫びを無視し、ウルフウッドはイズナに視線を合わせる。
「イズナ言ったか? ワイはニコラス・D・ウルフウッド言うてな、シャーレの部員や。仕事はセンセの護衛と、まあその他色々ってところか」
「主殿の護衛……? もしかしてウルフウッド殿も忍者なのですか!?」
「いや、ちゃうって、ワイは牧師や。……で、これからイズナはどないすんねん? 」
「イズナは主殿と一緒にフィナーレの花火を観に行きます! ウルフウッド殿も行きますか? 」
それを聞いてウルフウッドは花火を観に行く人込みを一瞥すると、再びイズナに視線を戻し答える。
「……ワイは遠慮しとくわ。せっかくやしワイの代わりにセンセの護衛依頼してもええか? 依頼料はこれで頼む」
報酬としてイズナに飴を差し出すウルフウッド。
「……ッ!! はいっ! イズナはこの人込みから主殿をお守りして見せます! 」
ウルフウッドからの依頼に目を輝かせるイズナ。落ち着きを取り戻した先生はウルフウッドに尋ねる。
” ウルフウッドは行かないの? ”
「ワイはパスや。あの人込みやと煙草吸えへんやろ。駐車場で待っとるわ」
そう告げるとウルフウッドは人込みとは逆方向へと歩んでいった。
バイクを止めている駐車場までウルフウッドはたどり着くと、バイクに寄りかかり煙草を口にくわえた。ジッポーで煙草に火を付け、一息つく。
(今年はあの葬式みてえな雰囲気を吹っ飛ばそうと特に力が入ってるからね、楽しんでいってくれよ! )
(え、あの化け物倒したウルフウッドさん!!? )
(交霊研究会所属の、内気な大人しい生徒。刃物の扱いについては、刀どころか料理も苦手で包丁すら握ることも少なかったそうです)
駐車場からかすかに花火が見える。悲しみを照らし、そして隠そうとするその光を、ウルフウッドは素直に楽しむことができなかった。
元々書く予定の無かったイベントストーリーだったのですが、色々感想をいただいた中でウルフウッドに対する百鬼夜行の空気を書いておいた方が良いな、と思い急遽執筆しました。百鬼夜行的にはウルフウッドよりもやはり事件の張本人である雷泥にヘイトが行っている感じなのと、陰陽部とウルフウッド(アビドス)は別に険悪という訳でもないことを表現できていればと思います。
百花繚乱は……原作よりも無力感を部員が感じてそうですね……
ちなみに先生サイドの話は原作とほぼ一緒です。