01_新たな力?
早朝、シャーレの地下にある訓練場でウルフウッドはパニッシャーを構えていた。彼を中心にドローンが展開されていく。そしてウルフウッドは手に力を込めると、パニッシャーをまるでバトン棒のごとく素早く振り回しながら次々にドローンを撃ち落としていった。
彼はその場から動かずパニッシャーの銃身の向きだけで全方位に展開しているドローンに対応していた。全てのドローンを撃墜すると彼は一息つく。
(……アカンな、もっと反応速度上げな。ラズロとの戦闘時、戦闘経験や勘で総合的には奴を越えられたが……反応速度は奴の方が上やった。ヘイローのお陰でフィジカルもあいつに匹敵する今のワイなら、もっとやれるはずや)
ウルフウッドはマスター・チャペルがキヴォトスに居ることを知ってからシャーレで訓練をするようになっていた。目下の目標は迎撃能力の強化。ミカエルの眼は殺し屋の集団であり、その戦い方の本質は最大効率で死を与え続ける一方的な攻めにある。故にあらゆる攻撃に備え迎撃するという守りの戦い方は教わっていない。散々ヴァッシュとの旅でそんな戦い方を強要されてきたが、ここには背中を任せれる友はいない。だから強くなる必要があった。
これ以上マスター・チャペルから奪わせない為に。
(パニッシャーも調子悪いな……)
パニッシャーの銃身を開閉させると僅かに鈍さを感じる。思えば戦い続きだった。雷泥との戦闘後、仮釈放されてからアビドスでのいざこざまで使い倒しだ。ヴァルキューレが押収していた間パニッシャーの整備を許してくれる訳も無く、アビドスでもそんな暇は無かった。最後にちゃんとしたメンテナンスをしたのはいつだったろうか? 雷泥に付けられた刀傷もいまだに残っている。
(近いうちにエンジニア部に見て貰わな……)
ウルフウッドは今後の予定を考えながらシャワー室へと向かって行った。
◇ ◇ ◇
“ ねえウルフウッド。ミレニアムには行ったことある? ”
「なんやねん急に」
シャーレ勤務開始早々、ウルフウッドが朝のコーヒーを嗜んでいると先生から声をかけられる。なんかこのパターン覚えあるな、と感じていると案の定だった。
“ 実はさ、ミレニアムのゲーム開発部の生徒から便りがあってね ”
先生はその便りの内容を読み上げる。
ゲーム開発部は今、存続の危機に陥ってます。生徒会から廃部命令により破滅が目前に迫っている今、助けを求められる相手はあなただけです。勇者よ、どうか私達を助けてください!
ウルフウッドは目頭を押さえながら言う。
「……センセ、そういうイタズラの手紙はゴミ箱やで」
” いやいや、ゲーム開発部の廃部を救ってくれって便りでしょ? ”
「ワイにはふざけとるようにしか見えへんけどな……。まあええわ、百歩譲ってセンセの言う通りとして、廃部を救えって何すればええねん。こないな手紙じゃ状況もわからへんし…… 」
“ ゲーム開発部っていうんだし、アイディアが思い付かないとか人手が足りないとかそういう相談なんじゃないかな? ”
「じゃあ今回ワイは出番無いな。ゲームなんてしたことあらへんしサッパリや」
“ え……ゲームやったことないの? ”
「トランプとかならわかるけどな、ミレニアムのゲーム言うならそんなんちゃうやろ? あれやろ、あれ……なんかこう、ピコピコするやつ? 」
“ ピコピコって……君が本当にゲーム知らないのはよくわかったよ ”
まさかお婆ちゃんみたいな表現が出てくるとは思っておらず先生は苦笑いを浮かべる。
「まあワイもミレニアムに用事あるし、送迎ぐらいはしたるで」
“ あっ、ミレニアムに行ったことはあるんだ? じゃあお願いしようかな。ちなみに君の用事って? ”
「パニッシャーのフルメンテや。あそこのエンジニア部に腕のええのがおんねん」
◇ ◇ ◇
ミレニアムの校舎にまで先生を送り届けたウルフウッドはそのままエンジニア部へと赴いていた。開けっ放しになっている部室の扉をゴンゴンと鳴らす。
「ウタハ、おるか〜?」
すると部室の奥から紫色の長髪をした生徒が顔を覗かせた。
「……!? ウルフウッドさんか! 久しぶりだね! 脱獄してきたのかい? 」
「ちゃうわ、特例で仮釈放されたんや。……ワイ知り合いに会うたびにこのやり取りせなアカンのか? 」
「はは、冗談だよ。あなたの状況は何となくだが分かっている。さあ、中へどうぞ」
ため息を付いているウルフウッドにウタハは微笑を向け入室を促した。
「……にしても意外やな。あれは報道されとらへんし、お前らこの手の情報は疎そうやから知らん思うとったわ。ここまでの道中でワイを見て通報しようとする奴もおらへんかったしな。監視はされとるみたいやけど……」
チラリと部室の外を見ながらウルフウッドは部室の中に入る。
「監視? ……ああ、彼女達か……。ウルフウッドさんの言うことは否定しないよ。報道もされてない他校の事件を調べる人は少ないし、警備もシステム任せだしね。監視カメラに搭載されている顔認証システムで指名手配犯がいれば自動で通報されるようになっているんだ。……私が知ってるのはあの事件の事情聴取をされたからだよ」
ウルフウッドは作業台にパニッシャーを置きながら訊ねた。
「……なんでお前が事情聴取受けんねん? 」
「
作業台に置かれたパニッシャーを指差すウタハ。
「ヴァルキューレから言われたんだ。押収した武器で……人が殺せるのか? その確認を。結論は
ウルフウッドはバツの悪そうな顔をする。
「……怖ないんか、ワイのこと?」
「私は好奇心を優先するタイプだからね。それに……」
ウタハはパニッシャーに付けられた刀傷を指でなぞりながら続きを話す。
「事件のことを説明された時、貴方ほどの人がなぜ?と思ってはいたんだ。でもこの傷を見て
ウルフウッドは疑わしそうにウタハを見る。
「傷なんかで分かるもんなんか? 」
「これほど分かり易ければね。パニッシャーの堅牢さは私も理解している。材質を解析し、新素材研究部と共同で再現したこの特殊合金は本来刀なんかで貫けるものではない」
説明に熱が入り始めるウタハ。
「装甲の薄い銃身部分とはいえそれを可能にするなら……弾丸のような速度で、全体重を乗せて、正しい角度で、芯を捉えきって……と、幾つもの条件を重ねて可能かどうかというものだ。ハッキリ言って実戦で実現するのはまず不可能だよ。だが、この使い手はそれを可能にしている。机上の空論を実現するその技巧はもはや神業……いや、魔技と言われる領域のものだ。
ウタハはウルフウッドに視線を移す。
「あなたが
「……んなもんワイが聞きたいわ」
「うーむ……刀と違って銃は技量で威力が変わるものでもないはずだが……一体なぜ……? 」
ウタハが顎に手を当て悩む素振りをするのを尻目に、今度はウルフウッドが刀傷をなぞりながら答える。
「わからんもんはわからんねん。実際お前が魔技の使い手と言った生徒は……普段刀どころか包丁も握らへんような奴だったらしいで。わからんことばかりや、あの事件は……」
ウルフウッドが殺害した生徒のことを語った時点でウタハは好奇心が先走ってしまったことに気付く。
「……すまない、不躾なことを聞いてしまったね」
「かまへん。で、もうそろそろ本題移ってもええか? 」
「ああ、パニッシャーの整備だろう? 」
◇ ◇ ◇
「二週間以上!? なんでそんなかかんねん!? 」
エンジニア部の部室にウルフウッドの声が響く。
「説明しましょう! 」
先ほどウタハから紹介されたヒビキ、コトリの二人の新入生のうち、説明や解説が好きなコトリがイキイキと喋り出す。
「まずウルフウッドさんのパニッシャーの状態ですが、この刀傷や爆発を防いだ際のフレームの歪みにより射撃などの反動を逃す流れにも歪みが生じ、歪みが歪みを呼ぶような悪循環ができてしまっています。ウルフウッドさんが感じていた開閉時の違和感はフレームが歪んでしまっていたからですね。なのでそのフレームの歪みを直す必要があるのですが、この特殊合金は性質上降伏応力が……」
「ちょいちょいちょいちょい、かいつまんで教えてくれへんか? 」
「ですがそれだと正確に情報が……」
「なんで二週間以上修理にかかるのかだけ教えてくれ」
ションボリするコトリを横にヒビキが答える。
「要するにパニッシャーを修理するにはパーツを新しく作る必要があるんだよ」
「それでも二週間はかかりすぎちゃうか? 前頼んだ時は三日やったで? 」
「材料の特殊合金が無くてそれの生成からする必要があるからだね」
「……一応聞くがパニッシャー本体のリサイクルは…」
「説明しましょう! 先ほど……ムグッ」
コトリの口を押さえヒビキが再び答える。
「材質上物理的に歪みを直そうとすると精度が出せないし、溶かして利用するなら一から生成するのとあまり変わらないの…」
「だから無理と……」
ウルフウッドは深いため息をつく。追い討ちするようにウタハが補足を加える。
「すまないが私たちが持っていた特殊合金は別の発明で使いきってしまったし、新素材研究部が所有していた分も以前盗難にあって無いらしい。新しく再精製しているとは聞いているけど、今は材料が本当に無いんだ。しかも丁度二週間後にミレニアムプライスがあるからね……だから二週間
「ミレニアムプライス? 」
「ミレニアムサイエンススクールで行う各部活の成果物を競い合うコンテストさ。ここでの評価は部の査定にも関わるからね、だからこちらの力を抜くわけにもいかないんだ。パニッシャーの整備となるとこれの片手間でできるものでも無いし……」
頭を掻くウルフウッド。
「ホンマにタイミング悪かった訳やな、まあ納得したで。しかしどないするか……」
現状は必要な状況でもないが、しかし二週間以上パニッシャーを使った訓練もできないのは痛い。いっそパニッシャーは一旦持ち帰ろうかと考えていた時だった。ウタハが不敵に笑い始める。
「ふっふっふっふっ……なに、問題はないさ。代わりの武器はちゃんとある。あなたにおあつらえ向きの物がね」
「部長、
「やっと実地試験ができるね」
「さあ、ついて来たまえ」
意気揚々と部室の奥へと向かうエンジニア部。ウルフウッドは半信半疑で着いていくと、布が被されているオブジェのような何かの前でウタハは足を止めた。
「これをウルフウッドさんに使って欲しいんだ! 」
バッ!
ウタハが被せていた布を取る。
「こっ、これは……!? 」
ウルフウッドは驚愕した。無理もない。姿を表したのは黒いパニッシャーだったからだ。多少造形は違うものの、特徴的な十字の形状、独特の持ち手はまさにそれだった。
「最強にして最高の個人兵装、そのロマンを私たちも作ってみたくなってね! もちろんただ真似て作っただけではないよ。ロケットランチャーの代わりに最新鋭のレーザービームを搭載したんだ! これぞエンジニア部の技術の粋を集結して造り出した、最強にして最高の個人兵装、『スタンピード・パニッシャー』だ!! 」
ババーン、という効果音が聞こえそうなほどドヤるウタハ。その横でヒビキが苦笑いを浮かべながら話す。
「まあ作ってみたのはいいものの使える人がいなくて倉庫の肥やしになってたんだけどね」
「そらそやろ……お前ら頭いいけどアホなとこあるよな。……ん、ちょい待て、まさかこれ作ったから材料無くなってもうたんか? 」
ウタハは顔を反らす。ウルフウッドは追及しようとしたが横からコトリがニュッと現れ阻まれてしまう。
「それでですね! 是非ともウルフウッドさんにこの『スタンピード・パニッシャー』の実地運用をして欲しいんです! やはり実戦で使ってみないと分からないこともありますから! 」
「いや、いきなり実戦ゆうてもなぁ……」
ウルフウッドは少し悩んだ。今回シャーレに舞い込んできた依頼はゲーム開発部の廃部回避。アビドスの時のように特定の勢力から襲撃を受けている訳でもないため戦闘の予定は無い。
仕方なく訓練用のドローンでも提供して貰おうかと提案しようとした時だった。
プルルルル……
ウルフウッドのスマートフォンが鳴る。急に嫌な予感がしつつもウルフウッドは応答する。
「……なんやねん、センセ」
“ ああ、ウルフウッド。実はゲーム部の子たちと廃墟っていう所に行くことになってね。危ない所らしいから君にも来て欲しいんだ ”
「今回はドンパチ無い言うてたよな? 」
“ えと、あはははは……宜しく! ”
プツッ
先生との通信が切れる。横を見るとエンジニア部が揃ってサムズアップしていた。ウルフウッドは本日何度目かわからないため息をつく。
「なんでいつもこうなってしまうん? なあ、トンガリ……これはお前のせいか? センセのせいか? 」
ウルフウッドは友人と同じ名を持つパニッシャーに力無く問いかけた。
スタンピード版パニッシャー登場
もしウルフウッドがプレイアブルキャラクターだったら爆発タイプから貫通タイプに代わるんでしょうね。
ちなみにウルフウッドの事件をまともに知っているのはミレニアムだとセミナーとウタハ程度のつもりです。警備システムが反応してなかったので「脱獄してきたのかい?」はウルフウッドの状況をなんとなくわかった上でのウタハのちょっとした冗談のつもり。
ウタハは察しがいいので状況理解していればそんなにウルフウッドへの嫌悪感は無いんじゃないかな? と思ってこんな反応にしています。
なんでウタハが「スタンピード」なんて名付けたのかは謎。
メタ的な理由としては「あのビーム付きのパニッシャー」って分かりやすくするためです。
追記
さっそく誤字報告いただきました。報告くださる方いつも本当にありがとうございます!
なんど読み返しても誤字が無くならない(´;ω;`)