「ここがゲーム開発部か。……邪魔するで」
先生から呼び出されたウルフウッドが部室の扉を開けると目の前に二人の子供がいた。その子供は瓜二つの容姿をしており服や装飾が桃色と緑色で違っていなければ見分けがつかないほどだ。
(こいつらがゲーム開発部か? )
ウルフウッドはとりあえず挨拶しようとするが、こちらに気付いた桃色の子供が悲鳴をあげる。
「うわー!! 借金取りだぁぁ!!? 」
「そんな!? 今回はまだ借金してないのに!? まさかお姉ちゃん……」
「違うよミドリ!! 私はまだ何もしてないよ〜」
「だれが借金取りや」
「ひぃっ! あ、あのヤクザの方がなんでここへ……? 」
「ヤクザでもないわ! 失礼な奴らやなぁ〜」
ウルフウッドは苦笑いを浮かべながら傍観している先生を指差す。
「ワイがそこのアホに呼び出されたニコラス・D・ウルフウッドや! ちなみにワイは牧師や、覚えとけ」
「え、牧師……? 」
「見えない……」
「こいつらホンマ……」
第一印象ですでに彼女たちが手のかかりそうな相手だと察し、ウルフウッドは気を重くした。
◇ ◇ ◇
「改めて自己紹介するね! 私は才羽モモイ! ゲーム開発部のシナリオライターなんだ! 」
「私は才羽ミドリっていいます。見ての通り私たちは双子で、こっちのチャランポランなのがお姉ちゃんです」
「チャランポラン!? ひどいよミドリ! 」
「お姉ちゃんは黙ってて! あ、私はイラストレーターでゲームのビジュアル全般を担当してます。本当はもう一人部員がいるんですが今は不在で……」
二人の騒がしい自己紹介を受けた後、ウルフウッドは事情を聞いてずっと思っていた疑問を口にする。
「廃部を免れる為には実績がいる。実績を得る為にミレニアムプライスでゲームを出す。……ここまではわかる。でもそれでなんで廃墟っちう所に行くことになるのかがわからん」
モモイがやれやれといった仕草をしながら答える。
「だからゲームを作るために廃墟にあるG.bibleが必要なんだよ! 」
「G.bibleってなんやねん? 」
「G.bibleは昔のキヴォトスにいた伝説のゲームクリエイターが作ったとされる神ゲーマニュアルのことだよ。これがあればミレニアムプライスに入賞できるような神ゲーが作れるってわけ」
「そんな都合の良いもんあるんか? そんなの探すより地道にゲーム作った方がええんちゃう? 」
「でもヴェリタスがここにG.bibleがあるって!! ……それにウルフウッドさん、ゲームは時間を掛ければいいものができる訳じゃないんだよ〜」
ヨヨヨと泣き顔になるモモイ。
「なんやねん、急にショボくれて」
落ち込むモモイを見かねたのか先生がウルフウッドに耳打ちする。
(“ どうも以前作った彼女達の作品、別のコンテストでワースト一位だったみたいでね ”)
(……それで藁にもすがりたいっちうわけか)
何となく察したウルフウッドは大きくため息をつく。
「まあええわ。ワイもこれの試射をエンジニア部に頼まれとるし、ついでや。その廃墟の探索付き合うたる」
ゴンゴンとスタンピード・パニッシャーを叩くウルフウッド。先生は興味深そうにそれを眺めながら尋ねる。
“ パニッシャー変わってたから気になってたんだけど、もしかしてパワーアップでもしたのかい? ”
「ちゃうって。これはワイのパニッシャー修理しとる間の代替品や。エンジニア部がパニッシャー真似て造ったらしい。ロケットランチャーの代わりにレーザービームちうんが組み込まれとる」
“ レーザービーム!? ”
その単語を聞いて先生は少年の様に目を輝かせる。
“ 早速廃墟に出発しようウルフウッド! レーザービーム楽しみだなぁ ”
急に乗り気で廃墟へと向かい出す先生。
「あ、ちょっと先生! 目的はG.bibleだからね、忘れないでよ〜」
「ちょっと待ってよ、お姉ちゃん! 」
バタバタとその後を追う双子。
「ホンマ大丈夫なんかな……? 」
ウルフウッドは不安を抱きながら三人の後を追った。
◇ ◇ ◇
G.bibleがあるとされる廃墟にまでたどり着いた四人。今まで廃墟への出入りは連邦生徒会長によって制限されていたらしいが、その会長が失踪したことにより封鎖していた兵力も撤収し侵入できるようになったことをモモイが説明する。
そしてミレニアム史上三人しかいない「全知」の学位を持つヒマリという生徒。それを有するハッカー集団、ヴェリタスによりもたらされた「G.bibleが最後に稼働が確認された座標」はこの廃墟の中を指し示していた。故に、その座標にたどり着けばG.bibleを入手できる、はずであるが……
「うわ〜、なんかロボットがうじゃうじゃいる」
廃墟の物陰から目的の座標までの道を覗き込むモモイ。そこには大量の人型のロボットがまるで警備をしているかの様に巡回していた。
「どうしよう、迂回していくしかないかな……?」
同じく覗き込んでいたミドリが弱音を溢すが、ウルフウッドはそれを無視してロボットの大群に向けて歩きだす。
「迂回なんて面倒やろ、正面から行くで」
ジャカッ!
スタンピード・パニッシャーの機関砲を解放しロボットに向けるウルフウッド。
「えっ、無茶だよウルフ……」
ドガガガガガガガ!!!
ミドリが制止の言葉を言い終えるよりも先にスタンピード・パニッシャーの砲身が火を吹く。その機関砲の威力はオリジナルと遜色無い破壊力でロボットを粉砕していった。
ミドリとモモイはその威力に呆気にとられる。
「凄い威力……」
「見なよミドリ、ロボがゴミのようだ」
「お姉ちゃん、それ悪役のセリフ……」
“ ハッハッハッハッ、ウルフウッドと戦うつもりか!? ”
「あ、先生も知ってるんですね」
並み居るロボを次々と粉砕していくウルフウッドの後方でコントじみたやり取りをする三人。そんな後方を他所にウルフウッドはスタンピード・パニッシャーの使用感を確かめていた。
(機関砲はオリジナルと遜色無いな。逆に違和感無さ過ぎて気味悪いぐらいや。なんやかんやエンジニア部は腕がええ)
そして敵を半分程度破壊した時点でもうひとつの機能「レーザービーム」を試すため、スタンピード・パニッシャーの銃身の向きを反転させるウルフウッド。持ち手部分を中央近くにスライドさせるとパニッシャーの短辺側の装甲が割れ、中からレーザービームの銃身が姿を表す。
先生はその変形ギミックに興奮していた。
(フルチャージで撃つとどうなるか、見ものやな)
ウルフウッドが機能の説明を受けた際の試射では二十%程度の威力でしか放っていなかった。いわく「これ以上は設備が壊れるから」。だがここでなら周りを気にする必要は無い。
「ほな、行くで」
“ くらえ! パニッシャーの雷を! ”
先生ノリノリのセリフと共に、スタンピード・パニッシャーからレーザービームが放たれる。その光はロボどころか軌道上のあらゆるものを貫通していき、そしてウルフウッドがパニッシャーを横薙ぎに動かすとその軌跡にあるもの全てを両断した。
“ ……『薙ぎ払え』の方が合ってたかな? ”
「先生、さっきからそれ悪役のセリフですよ? 」
「でも先生の言いたいこともわかるよ、威力エグいもん」
三人は改めてウルフウッドの攻撃した先を見る。ウルフウッドを中心とした扇状の範囲全てが両断され、ロボットも全滅していた。
ウルフウッドが振り返り三人に近づいていく。
「ロボは片付いたで、先行こか。……にしてもセンセ、さっきから何言っとるん? 」
“ いや、テンション上がっちゃって…… ”
ゴゴゴゴ……
会話を邪魔するように異音が聞こえ、四人は一旦口を閉じる。足元を見ると砂利が舞っていた。
「……何か地面が揺れとるな?」
“ 地震かな? ”
「それにしては何か違和感が……」
「……あのビル、傾いて来てない?」
モモイが指を差す方向を皆が見る。すると先ほどウルフウッドがレーザービームを放った先にあるビルが目に入った。そして、それは確かにそれは傾き始めていた。しかも自分たちの方へ。
「……ヤバい! 走れっ!! 」
ウルフウッドの叫びと共に皆が一斉に倒壊するビルの反対側へ駆け出す。
ゴゴゴゴゴゴゴッッ!!!
必死に逃げながらモモイが叫ぶ。
「何で!? どうして〜!? 」
“ 多分さっきのレーザービームで後ろのビルも両断しちゃったんだ! ”
「喋る暇あったら走らんかい! 」
四人はビルが倒壊しきる前に、なんとかその範囲外まで走りきる。
スゴゴゴゴ……
息を整えてる四人の後方でビルは大きな土埃を巻き上げながら瓦礫と化した。
「し、死ぬかと思ったー」
「……どんな威力してんねん!? あいつらやっぱりアホやろ!! 威力高すぎて逆に使いにくいわこんなん!! あの頭の良いアホどもがぁ!! 」
モモイが安堵している横でウルフウッドがエンジニア部への文句を怒鳴りちらす。そんなウルフウッドをなだめようと先生は声をかける。
“ まあまあ、ウルフウッド。さっきのレーザービーム凄いかっこよかったよ! パニッシャーの変形機構も! だからそんなに怒らないで、ね? ”
的外れなことをいつもより高いテンションで口走る先生。その様子を見てウルフウッドは冷め、呆れた表情を先生に向ける。
「……センセならあいつらと気が合いそうやな……」
何か色々と馬鹿らしくなってきたウルフウッドは気を取り直すようにモモイに尋ねる。
「回り道させてすまへんな。目的地どっちかわかるか? 」
「えっとねえ、ちょっと待って……」
ヴェリタスから教わったG.bibleがあるであろう座標をマップで確認するモモイ。「ん?」と口走ると顔を見上げた。
「……たまたま逃げた方向と進路が合ってたみたい。目的地はあそこだよ」
モモイが指差す先には工場があった。
◇ ◇ ◇
目的の座標があるとされる工場の中へ入る一行。恐る恐る奥へと進んでいくと、急に謎のアナウンスが聞こえてくる。
<接近を確認>
「えっ、な、なに? 」
「部屋全体に、音が響いてる……? 」
モモイとミドリが慌てふためくが、無機質な声はそれを無視するかのように淡々とアナウンスを続ける。
<対象の身元を確認します。才羽モモイ、資格がありません>
「え、え!? なんで私のこと知ってるの? 」
<対象の身元を確認します。才羽ミドリ、資格がありません>
「私のことも……一体どういう……?」
<対象を確認します。ニコラス・D・ウルフウッド、資格がありません>
「……」
ウルフウッドは警戒を強める。
<対象を確認します……戸狩先生……資格を確認しました、入室権限を付与します>
” !? ”
「えぇっ!?」
「え、どういうこと!? 先生はいつこの建物と仲良しになったの!?」
「当の先生も戸惑っているみたいだけど……」
ミドリの言う通り全く覚えのない資格に困惑する先生。
<才羽モモイ、才羽ミドリ、ニコラス・D・ウルフウッドの三名を、先生の『生徒』として認定、同行者である『生徒』にも資格を与えます。承認しました。下部の扉を解放します>
「ッ! 下がれ! 」
ウルフウッドがパニッシャーを手放し、先生とモモイ、ミドリを抱きかかえて後方へと跳躍する。すると先ほどまでいた通路の床がスライドして無くなり、下層の別の通路が姿を現す。手放したパニッシャーはその下層の通路へと落下していた。ウルフウッドが三人を抱えて跳躍した場所の目の前にはその下層へ続く階段が存在している。
「あのままあそこにいたら私達も落下してたかもね」
「ありがとうございます、ウルフウッドさん」
安堵するモモイと感謝するミドリ。ウルフウッドは三人を放しながら下層の通路を観察する。
「……とりあえず直近の罠とかはなさそうやな。どうする? 」
「ここまできて引き返すなんてありえないよ! 行こう! 」
「あ、ちょっと待ってよ、お姉ちゃん! 」
意気揚々と下層の通路へ降りていくモモイと、それに続くミドリ。先生もアイコンタクトで「行こう」とウルフウッドに伝えると、大人二人も下層へと降りていく。
階段を下りた通路の先は曲がり角になっており、そこから通路へ光が漏れていた。いかにも何かありそうなその先へ四人は向かっていく。そしてその曲がり角を抜けると、部屋があった。中央にある何かにモモイとミドリが気づき、驚きの言葉を放つ。
「……えっ!?」
「ん、どうしたのどうしたのお姉……えっ!?」
「……お、女の子? 」
玉座のような機械の椅子の上に、一人の少女が眠っていた。
スタンピートでデッカイワムズ両断してたんでビルぐらいはぶった切れるでしょ。その威力には先生もニッコリ!