旧校舎の入口に待機していたドローンに付いていく二人。するとある教室の入口でドローンは停止した。中に入れという意図を汲み取り先生は教室のドアを開ける。教室の中には二人の生徒が待機していた。
一人は黒髪ロングに黒いスーツ、凹凸のある肢体。対してもう一人は白髪ロングに白い服、車椅子に乗り線の薄い体型をしている。まさしく対照的とも言える二人組がそこに佇んでいた。
そして白い身なりの生徒が口を開く。
「わざわざご足労いただき感謝します、先生、ウルフウッドさん。私がメッセージを送付いたしましたヴェリタスの元部長でありミレニアム最高峰の病弱美少女、明星ヒマリと申します」
もう一人も続く。
「初めまして、先生、ニコラス・D・ウルフウッド。私はセミナー会長の調月リオよ」
“ 初めまして、二人とも。シャーレ顧問の戸狩です ”
「……一応言っとくか。ニコラス・D・ウルフウッドや、よろしゅうな。……後リオ言ったか? フルだと長いやろ、ウルフウッドでええで」
「……そうさせて貰うわ」
互いに自己紹介を終えるとヒマリが車椅子を動かし先生側に体を向き直した。
「では私から先生達をお呼びした経緯をお話しします。元々、我々は『あるもの』について調べていたのですが……ああ、『あるもの』が何か気になると思いますが、そこの女に喋るなと言われているため割愛させて下さい」
「……まだ調査中のものよ。話す必要は無いわ」
「これです。私は話してしまっても問題ないと思うのですが……」
「確定していない情報を迂闊に流すべきではないと言っているの」
“ まあまあ、そのへんで。とりあえず話せることだけでいいからね ”
先生は何だか言い争いに発展しそうな空気を感じとり言葉を挟む。心なしか二人の関係性が見え隠れしているように感じた。
ヒマリはコホンと咳払いをして話を再開する。
「すみません、先生。……それで、『あるもの』についての何かが廃墟にあることまでは掴んでいたのですが、今までは連邦生徒会により廃墟が封鎖されていたため詳しい調査が出来ませんでした。しかし連邦生徒会長が失踪されると同時に封鎖が解除されたため、私達は廃墟の調査に乗り出すことにしたのです。ですが……」
「例の部屋か? 」
ウルフウッドが先生しか資格がないとアナウンスされた部屋のことかと尋ねる。ヒマリは頷いた。
「ウルフウッドさんの仰る通り、私達はあそこまでたどり着いたものの資格無しとして内部に入ることができませんでした。そこできっかけとなった連邦生徒会長の失踪、その同時期に着任されたキヴォトス唯一の存在である先生ならあるいは……と推論を立て、ゲーム開発部の子達に情報を流してあの場所に向かってもらったわけです」
「ちょい待ち、なんでそんな回りくどいことしたんや? 素直に調査の依頼出せばよかったやないか」
ウルフウッドの当然の疑問にリオが答えた。
「シャーレという不確定要素をこの問題に関係させたくなかったの。だからこのような手段を取ったわ」
ヒマリが補足する
「言葉が足りませんよ、リオ。元々の想定は例の場所の道さえ拓ければ僥倖というものでした。もし何か持ち帰りいただければ適当な理由を付けて回収、先生達には何も伝えず無関係でいてもらい、あくまでゲーム開発部の依頼に終始していて頂きたかったんです。しかし想定外の事態が重なってしまったため先生たちにご足労いただき、事情を説明することに方針を転換しました。これが先生達をお呼びした経緯となります」
“ 想定外ってやっぱりアリスのこと? ”
オーパーツ的な何かを予想していたら少女が眠っていたとなれば確かに想定外だろうと先生は思う。
「それもあるのですがどちらかというと……」
しかしどうも先生の予想とは違うらしい反応を見せるヒマリ。ヒマリはウルフウッドをチラリと見た。
「なんや? ワイが何かしたんか? 」
「いえ、何かしたという訳ではないのですが……」
なんと言ったらいいものか……そんな様子のヒマリを見かねたのか、代わりにリオが答えてしまう。
「端的に言って、これから行うアリスの調査においてあなたの戦闘力が邪魔になるの。だからこれからのことについてあなたは手を出さないで欲しい。これがこちらの要望よ」
ウルフウッドが邪魔だと言いきるリオ。彼女の歯に衣を着せぬ言い方にヒマリはため息をつく。
「だからリオ、言い方と言うものがですね……こちらが先生達を巻き込んだ上にお願いしている立場なのですよ、全く」
そしてウルフウッドに向き直すように車椅子を回転させる。
「……ですがリオの言う通りなのです。廃墟で見せていただいた戦闘……ウルフウッドさんの能力はこちらの想定以上でした。そのため下手に介入されるとこれからの調査が破綻しかねないと結論に至り、事情を説明してご協力いただこうと思い至った次第です」
要望を伝えたリオとヒマリはウルフウッドを見つめる。ウルフウッドは少しばかり困った表情を浮かべた。
「ワイが手を出すな言うならそれはかまへん。元々戦闘する予定も無かったし、このパニッシャーの試射も済んだしな。ただ……」
ウルフウッドは隣にいた先生に視線を移す。先生は二人に問いただした。
“ ……二人の言い方だとまるでまた戦闘の危険があるように聞こえるけど、そうなのかな? それにゲーム開発部の子達を巻き込むの? ”
ヒマリは罪悪感があるのか視線を下に移す。
「……そうなりますね。アリス自身や第三者に悟られないように調査を進めるのにはゲーム開発部は隠れ蓑として最適ですので」
“ それは…… ”
何も事情を知らない子達を巻き込むやり方に異を唱えようとする先生。しかしそれはリオによって遮られる。
「先生、誤解しないで欲しいのだけど、ゲーム開発部が廃部になりそうなのも彼女達が廃墟でアリスを回収したのも、全て彼女達の行動の結果よ。私達はあくまで彼女たちの行動を予想して情報を与えただけ。強制はしていないわ。ただ私達は観測していただけよ。これからの調査もその方針は変えないわ」
リオの話を聞き先生は黙る。確かに廃墟に行くことにしたのもアリスを起動させ連れて行こうと提案したのもあの子達の意思だ。アリスを部員にしようとしているのも、その原因を作ったのもあの子たちで、リオ達はあくまでその状況に便乗しているだけ。それはまぎれもない事実だった。
多少誘導されている感覚はあるものの、意志決定をしているのはゲーム開発部であることに一応の納得を見せる先生。
“ ……わかった。ただ二つ確認させて貰っていい? ”
「構わないわ」
“ まず一つ、ゲーム開発部の活動の手伝いは問題ないよね? ”
「ええ、先生達には元々それに終始して貰う予定だったし、問題は無いわ」
“ わかった。じゃあもう一つ。アリスのことについて……危険だと判断したらシャーレとして介入させて貰うよ。それもいいかな? ”
「それについては……そもそも私達に拒否権はないわ。シャーレとはそういう組織でしょう? ……だから知られたくなかったのよ」
“ わかった。うん、確認ありがとう ”
「そう。他に何かあるかしら? 無ければ話は以上よ」
先生は「ウルフウッドは何かある?」と尋ねるような目配りを彼にするが、彼は首を横に振り話は無いことを伝えた。先生はリオとヒマリに別れの挨拶をする。
“ それじゃあまた。私達はゲーム開発部の手伝いに戻るよ。もし何かあれば連絡ちょうだい ”
「……ええ」
「はい。それではあの子達を宜しくお願いしますね、先生、ウルフウッドさん」
先生とウルフウッドは旧校舎を後にした。
◇ ◇ ◇
「で、どないすんねんセンセ? 」
ゲーム開発部の部室へ向かう道中、ウルフウッドが先生に尋ねる。先生は困ったように頭を掻いた。
“ 現状はゲーム開発部のお手伝いしつつアリス含めて見守る……しかないかなぁ〜 ”
「ま、そうなるか。とは言え、ワイらもずっと面倒見ることはできへんぞ。他の仕事もあるんやで」
“ うっ、そうだ……明日締め切りの書類もあったんだ…… ”
「アカンやんけ。まぁあいつらもアリスの監視しとるやろうしシャーレに戻っても大丈夫やとは思うが……」
“ う〜ん……でもちょっと不安があるんだよね ”
先生は部室でのアリスの行動を思い返す。ゲーム機を噛ったりとまるで赤子のような行動を見せていたアリスが純粋に心配だった。
“ ……とりあえず今日だけでいいからさ、ウルフウッドだけでもゲーム開発部に残ってあの子達の様子見ておいてくれない? ”
それを聞いてウルフウッドは嫌そうな顔を浮かべるも、先生と同じくアリスに不安を感じていたこともあり「しゃあないか」と渋々了承する。
「ただセンセ。ワイはどないな理由で残ったらええ? ゲームなんぞ全く知らない人間やぞ、ワイは」
対外的に見てゲームについてはド素人の自分をゲーム開発部に残す理由がない。その事についてウルフウッドは先生に尋ねると、先生は不敵な笑みを浮かべた。
“ 大丈夫、私にいい考えがあるよ ”
どう聞いても嫌なフラグにしか聞こえない先生の言葉に不安を感じつつ、二人はゲーム開発部の部室へと戻った。
二人が部室に入ると、なにやらモモイとミドリがバタバタと何かを準備している。
“ ただいま。二人とも何してるの? ”
先生に声を掛けられ二人が戻ったことにモモイが気づく。
「アリスに私達のゲームをプレイしてもらうの! 」
「お姉ちゃん、それだけじゃ分からないよ。あの、アリスちゃんを部員にする上で話し方を改善しようということになりまして、それでゲームをプレイしながら会話していけばという話になって……」
“ それでゲームの準備をしてるんだね ”
状況を把握した先生は何か思い付いたかのような素振りを見せ、モモイとミドリに提案する。
“ 丁度良かった。もし良かったらそれにウルフウッドを混ぜて貰えないかな? ”
「は? 」
「? 別に良いけどなんで? 」
いきなりの提案に疑問の声をあげるウルフウッドとモモイ。
“ 実はウルフウッド、今までゲームしたことがないんだよ。だから二人にゲームがどんなものか教えて貰いたかったんだ ”
これが先生の「いい考え」だった。オタクというものは同士を欲している。新人がいれば沼に沈めたがる。
「え、嘘でしょ? 怪物ハンターぐらいは経験あるよね? 」
「ゲームでは無いな……」
「逆にリアルで体験することあるの!? 」
「あ、あの、ウルトラマリンシスターズは? 」
「ウルトラ……マリン? 」
「嘘でしょ……マリン知らない人なんて存在するの? 」
信じられないものを目にしたような反応を見せるモモイとミドリ。
「ウルフウッドさん、子供の時何してたの……? 」
「う、うっさいわ、色々あんねん」
モモイの何気ない一言に軽く傷つくウルフウッド。殺しの訓練してました、なんて言えるわけがない。
そんなウルフウッドの様子を見て「もしかしてゲーム買えないくらい貧乏だったのかな? 」と微妙に合ってるんだか間違ってるんだか分からない勘違いをした双子はウルフウッドに生暖かい視線を向ける。
「ウルフウッドさん、ゲームしたことないなんて人生損してるよ! でも大丈夫! 今から楽しめばいいんだから! 」
「さあ、ウルフウッドさんも一緒にゲームしましょう! 」
満面の笑みを浮かべるモモイと、アリスの横の座布団に座るように進めるミドリ。予定通りアリス観察のためにゲーム開発部に居座ることに成功したものの、どうにも釈然としないウルフウッドは先生を見る。
“ じゃあ後は宜しく ”
しかし先生はその一言を残し、そそくさとシャーレへ帰ってしまった。朝イチで出さないとリンちゃんに怒られる書類があるからだ。
「……ウルフウッドもゲームをするのですか? 」
「……どうやらそうらしいわ。よろしゅうな」
ウルフウッドは力なくアリスの横に座った。
原作より一足先にヒマリとリオ登場。
実際この後の戦闘でウルフウッドが出しゃばるとアリスの力を測れないので釘を刺してもらいました。あとパヴァーヌ編一章で先生が出しゃばらない理由づけでもあります。
>「ウルフウッドさん、子供の時何してたの……? 」
この小説のウルフッドは孤児院を出た時を12歳と仮定して、アビドス入学時を18歳の設定にしています。すると無印トライガンの時点で16歳……15歳の時には確実にミカエルの眼の仕事はしているだろうし、下手すると子供たちのためにマスター・チャペル撃ってるかも。……改めて思うと過酷な人生過ぎじゃない?ニコラス君。
まあそんなウルフウッドに青春送って欲しい、そんな姿を見たくてブルアカの世界にぶっこんだんですけどね。今度はゲームの時間だオラァ!