先生の「よい考え」によりアリス観察のためゲーム開発部に居座ることになったウルフウッド。
プレイするゲームはウルフウッドもいるからと複数人用のゲームが双子から提案されたが、「アリスの話し方の改善が目的ちゃうんか?」という彼の一言により、当初の予定通りゲーム開発部が作った「テイルズ・サガ・クロニクル」に決定された。
「テイルズ・サガ・クロニクル」はRPGのため、アリスをプレイヤーとして皆でワイワイしながらプレイするスタイルとなる。ウルフウッドは直接操作をするわけではないが、アリスの横で色々コメントしながら物語を一緒に読み進めていくポジションだ。
そして準備も完了し、いざプレイ開始といったところでウルフウッドが待ったをかけた。
「……ずっと気になっとったんやけど……ロッカーにいるのは誰なん? 」
部室の隅にあるロッカーを指差すウルフウッド。牧師のコメントに霊的ななにかと勘違いする双子。
「ろ、ロッカーに、ですか? 」
「そ、そんな所に人がいるわけないじゃん! そういうのはホラーゲームの……」
ガタンッ!
「「ギャーーッ!! 」」
ロッカーからの物音を霊障と勘違いし抱き合いながら後ずさる双子。ウルフウッドは二人を無視してロッカーへスタスタ近づき扉を開ける。
「ひうっ!?」
ロッカーの中には少女がいた。小柄で赤色の癖毛をしており、生まれたての小鹿のようにプルプル振るえている。ウルフウッドはしゃがんで少女の目線よりも下から自己紹介する。
「ワイはニコラス・D・ウルフウッドっちうねん。シャーレの部員で今からあいつらとゲームすることになってな。お嬢ちゃんは? 」
「は、は……花岡……ユズ、です」
「「ユズ(ちゃん)!! 」」
後ろから声を上げるモモイとミドリ。二人の知り合いの様な態度からウルフウッドは推測する。
「もしかしてこいつがミドリの言ってた残りの部員か? 」
「はい、彼女がゲーム開発部の部長のユズちゃんです。……にしてもユズちゃん、なんでロッカーなんかに? 」
ミドリの疑問にユズはしどろもどろしながら答える。
「その、部室に居たら、知らない人達が来たから……怖く、なっちゃって……」
それでロッカーに隠れていたのかと把握したウルフウッドは懐から棒付きの飴を取り出した。
「大丈夫や、ワイは怖ないで。ほら、飴ちゃんやるわ。そないなところやなくてこっち来て座ったらええ」
まるで猫をあやすような態度でユズにロッカーから出るように促すウルフウッド。その横からモモイが顔を出す。
「ズルい、私も飴欲しい! 」
「わかったわかった」
モモイ、ミドリにも飴を渡すウルフウッド。そうしている間にユズは双子の影に隠れるように二人の横へ座っていた。そして定位置へと戻ったウルフウッドはアリスにも飴を差し出す。
「お前にもやるわ。……食えるんか? 」
「肯定、アリスは飲食可能です」
「それやったらええ。機械齧るよりはマシなはずや」
アリスは飴を受け取り頬張る。
「……旨いか? 」
「肯定。美味という感情を検知しました」
「そら良かった」
ウルフウッドもタバコを吸えないので飴を口に入れる。そうしている間にモモイがゲームを起動させ、冒険の書は開かれた。
◇ ◇ ◇
「テイルズ・サガ・クロニクル」が起動し、ミドリが軽く解説をする。
「タイトルからわかるかもしれないけど、このゲームは童話テイストで、色彩豊かな王道ファンタジーRPGなの」
<コスモス世紀2354年、人類は却火の炎に包まれた……>
「……?」
「いきなり人類終わっとるやんけ……」
「え、えっと、王道とは言っても色々な要素を混ぜてたりするんするんです。トレンドそのままでもダメだけど、王道に括りすぎても古くなるからってことで……」
アリスは疑問を浮かべながらもゲームを進めていく。
<チュートリアルを開始します。まずはBボタンを押して、目の前の武器を装着してみてください>
「Bボタン……」
<ドカーン! GAME OVER>
「「!?!?」」
いきなりの展開に理解が追い付かないアリスとウルフウッド。横でモモイがケタケタと笑い出す。
「予想できる展開ほどつまらないものはないよね! 本当はここで指示通りじゃなくて、Aボタンを押さなきゃいけないの! 」
「分かるかボケェ! 」
「お姉ちゃん、やっぱりここの部分はちょっと酷いよ。アリスちゃんまだ固まってるよ」
アリスは再起動し、ゲームをコンティニューする。
「……再開、テキストでは説明不可能な感情が発生しています」
「あっ、私それ分かるかも! きっと『興味』とか『期待』とか、そういう感情だと思う!」
「どう考えても『怒り』か『困惑』だと思うけど……」
「少なくともワイはミドリの言った感情やで」
アリスの反応を都合よく解釈するモモイと、それを否定するミドリとウルフウッド。ちなみにユズもミドリと同じことを思っていた。
アリスはゲームを進め、ゲーム内で武器を装備する。そして初めての敵との戦闘へと突入した。
<野生のプニプニが現れた!>
「……緊張、高揚、興味」
手に汗を握り始めたアリスにモモイがアドバイスを送る。
「Aボタンを押して! 今度は嘘じゃないから! 」
「Aボタン……『秘剣つばめ返し:敵に対して二回攻撃をする』。行きます、プニプニに対して……」
<ダーン! 敵の攻撃が命中し即死した。GAME OVER>
「「!?!?!」」
<プニプニ:どれだけ剣術を鍛えたところで、我が銃の前には無力、ふっ>
「……うーん、やっぱりプニプニが『ふっ』って言うのは不自然かな」
「待て待て待て待て、ツッコミが追い付かんわっ!!」
「思考停止、電算処理が追いつきません」
キレかけるウルフウッドに頭から煙が上がるアリス。ミドリが心配そうにアリスに話しかけ、アリスは再起動する。
「リブート、再開します」
「あ、あれやアリス。剣で銃に勝つんやったらランダム回避しつつ間合いを詰めてやな……」
「理解しました。スキルで回避を上げ、間合いを意識しプニプニを排除します」
攻略方法を考察しながらプレイする二人の姿に感動するモモイ。
「そう、まさにそれ! あきらめずに繰り返し挑戦して、試行錯誤の末に答えを見つける! それがレトロチックなゲームのロマンだよ! 」
「ちゃ、ちゃんとプレイされてる……嬉しい……」
段々と熱中してく二人のプレイヤーの姿を見てユズも胸が熱くなる。
そうしてウルフウッドと共に頭から煙を上げつつ物語を進めていくアリス。しかしあるところでその手が止まる。それはRPGでよくあるサブイベントに差し掛かった時だった。
「疑問。なぜ主人公は村人を助けに? 魔王の討伐には関係なし。非効率です」
「え……それは、えと、少しネタバレになっちゃうけどこの後に入手するアイテムが先に進むためには必要で……」
モモイがしどろもどろに答えるが、アリスの疑問は止まらない。
「主人公は現時点でその情報は不所持。それなのになぜ? 」
「あ〜、えと、その……」
ゲームのシナリオ的に、と言う身も蓋もないような回答を言う訳にはいかず、答えに悩むモモイ。しかし意外な所から回答が提示された。
「それはこいつが馬鹿やからや」
ウルフウッドが主人公を指差しながら言う。
「馬鹿……? 」
「せやで。この手の人間はな、効率とか関係あらへんねん。見限ることを知らん、大切なもんは何一つ手放せへん駄々っ子みたいな奴やねん。馬鹿としか言えへんやろ?」
「……愚者の選択。先にあるのは破綻」
「せやろ? ワイもそう思うで」
笑いながらそうだと答えるウルフウッド。何か楽しい思い出を語るような、そんな表情を浮かべながら彼は「……でもな」とその続きを語る。
「このゲームみたく魔王倒して世界を救おうなんて大それたことができるのはな、そないな馬鹿しかおらへんねん。鉄板か大穴かは知らんけどな、何かしでかすのはいつだってそないな大馬鹿や」
ウルフウッドの言葉を受け新たな感情が沸き、固まるアリス。モモイが続く。
「う、ウルフウッドさんの言う通り! そういうことなんだよ、アリス! 」
「嘘だッ! お姉ちゃん絶対そこまで考えてなくてウルフウッドさんに便乗したでしょ! なんでシナリオライターのお姉ちゃんよりウルフウッドさんのほうが主人公の解像度高いの!? 」
言い争いを始める双子を他所にアリスは思ったことを口にする。
「……理解不能。ですが、理解したいという感情が発生しています」
そんなアリスへユズがおどおどしながら声をかける。
「つ、続きをプレイしてみたら、その、何かわからない……かな? 」
「確かにそうかもな。この主人公がどうするのかワイ少しも気になってきたわ」
ユズとウルフウッドの催促を受け「テイルズ・サガ・クロニクル」のプレイをアリスは再開した。
冒険を進めていく。
「……電算処理系統、および意思表示システムに致命的なエラーが発生」
「……ワイの頭悪いんか? 内容が理解できへん……」
「二人とも悪くないよ! これ『草食系』って言葉が思い出せないから『植物人間』なんて書いたお姉ちゃんのせいでしょ!? 『ごめんなさい。私は植物人間ですので、女性に対して気軽に声をかけることはできません』ってテキスト読んだ瞬間に二人とも固まっちゃったじゃん! 」
――時にエラーを吐きながら
「……質問。どうして母親がヒロインで、それでいて実は前世の妻で、子供のころに別れたきりの腹違いの友人がタイムリープしてきているのか……いえ、そもそも『腹違いの友人』という表現はキヴォトスの辞書データに登載されていな――エラー発生、エラー発生! 」
「輪廻転生は宗派違いや。せやから知らんッ! ワイはもうなんも分からんッ! 」
「が、頑張って二人とも! クライマックスまでもう少しだから!」
――時に価値観の違いに悩みながら
「ゲームオーバーです。 敵行動パターンの予測がガガガガガガガガガ…… 」
「今のおかしいやろがッ! 前触れもなくボスの行動パターン変えんなっちうねんッ!」
――時に理不尽な敵に苛まれながら
「仲間がイベントでロスト……」
「おい待て、装備までなくなっとるやんけ! 回収ぐらいさせろやボケ! 」
――時に別れを経験しながら
それでも絶え間ない問題集を解いていくかのように物語を進めていく。そして……
「こ、ろ、し、て……」
「スゥ~…………」
「すごいよアリス! それにウルフウッドさんも! 開発者が一緒とは言え、三時間でトゥルーエンドなんて! 」
若干目が虚ろなアリスを抱きしめるモモイ。ミドリもアリスに注目する。
「そ、それもそうだけど……もしかして本当にゲームをやればやるほど……アリスちゃんの喋り方のパターンが、どんどん多彩になってきてる……!? 」
「勇者よ、汝が同意を求めるならば、ワイはそれを肯定するやんけ」
「うん!? なんか今おかしくなかった? 」
「ゲームの言葉とウルフウッドさんの口調がちょっと混ざってカオスに……でも言葉を羅列してただけの時よりはかなり良くなったと思う、多分……」
今のアリスになら「あること」を聞ける、そう判断したのかミドリはもじもじし始める。ユズはミドリがしようとしていること感じ取り、アイコンタクトで「聞くんだな!? 今…! ここで! 」と尋ねた。もちろん答えは「ああ!! 勝負は今!! ここで決める!! 」だ。
「と、ところでその……こういうことを面と向かって聞くのは緊張するんだけど……わ、私達のゲーム、どうだった? 面白かった!? 」
ゲーム開発部に緊張が走る。アリスは暫く黙ってから、口を開いた。
「……説明不可」
「え、ええッ!? なんで!? 」
驚くモモイを無視してアリスは思案する。何とか感想を言語化しようとしていた。
「……類似表現を検索、ロード中……」
「も、もしかして、悪口を探している……? そんなこと無いよね? 」
ミドリは判決が下るのを待つ囚人のような気分だった。実際、クリエイターにとって感想は判決のようなものだ。その判決が下る。
「……面白さ、それは、明確に存在……。プレイを進めれば進めるほど……まるで、別の世界を旅しているような……夢を見ているような、そんな気分……もう一度……もう一度……」
そこで言葉がつまり、涙を零すアリス。
「あ、アリスちゃん!? どうして泣いているの!? 」
急なアリスの反応に驚くミドリ。その横でモモイはドヤ顔になっていた。
「決まってるじゃん! それぐらい、私達のゲームが感動的だったってことでしょ! 」
「い、いくらなんでもそれは……というかこのゲーム、ギャグ寄りのRPGのはずだし……。え、えと……ウルフウッドさんはどうでした? 」
今までに経験したことのないタイプの疲労を感じてぐったりしていたウルフウッドは力なく答える。
「……もう一回プレイせいっちうなら、ワイはパスや……」
否定的な彼の感想を受け、横で寂しげな表情を浮かべるユズ。勇気を振り絞り、ユズは改めて尋ねる。
「う、う、ウルフウッドさんは『テイルズ・サガ・クロニクル』……面白くなかったですか……?」
ウルフウッドは目頭を押さえながら悩む素振りを見せる。
「うーん……アリスと同じで感想に困るなぁ。とりあえずしんどかったのは確かやで……」
「そうで…「ただ」…えっ?」
「……ただ、なんちうか……あの滅茶苦茶さに少し懐かしさはあったな……」
プレイを思い返すウルフウッド。
何かある度に躓く主人公、難易度調整バグってるような強敵、理不尽に次ぐ理不尽の連続、それでも一歩一歩仲間と協力して進んでいく冒険。
辛いことの方が多く、二度とやりたくないのは確かだ。ただそれでも……
「まあ、笑い話にはできるんちゃう? 」
フフッと笑いながら、改めてゲームの感想を述べるウルフウッド。
その言葉を貰えてユズの目に涙が込み上げてくる。アリスとウルフウッドへ向き直し、ユズは込み上げてきた思いを言葉として紡ぐ。
「あ、あ……ありがとう、ございます。ゲーム面白いって言ってくれて……思い出になるって言ってくれて……。泣いてくれて……笑ってくれて……本当に、ありがとう……ございます。そういう感想を、ずっと聞きたかったの……」
ポロポロと涙を零し始めるユズ。
「ユズちゃん……」
「ユズ……」
そんなユズをミドリとモモイがやさしく抱きしめる。ウルフウッドは微笑みながらその光景を眺めていた。アリスもそれを眺めながら、自身がある感情を抱いていることに気付く。
その感情の名は「羨望」だった。
どんなクソゲーでも、仲間と一緒なら笑って楽しめる。
その時はしんどくても、時が立てば笑い話にできる。
ウルフウッドの旅は、きっとそんな旅だったんじゃないかな。
という訳で次回はウルフウッドのゲームプレイです。