ユズが落ち着きを取り戻し、話題がアリスの次にやるゲームに移ったゲーム開発部。アリスがRPGを気に入っている様子から次もRPGにすることまでは決まったものの、そこから難航していた。
「RPGといえばまず、『英雄神話』と『ファイナル・ファンタジア』と『アイズ・エターナル』と……」
「何言ってるの、アリスちゃんはゲーム初心者だよ!? 『ゼルナの伝説・夢見るアイランド』から始めるのが一番だって! 」
「これだけは譲れない、次にやるべきは『ロマンシング物語』だよ。あ、でも第三弾だけはちょっと、個人的には、やらなくても良いかなって……」
各々の推しRPGをプレイさせようと議論を白熱させる少女たち。アリスはその様子を「次は何が来るのか?」という様な期待の眼差しで眺めていたが、対してその喧噪にあまり興味を持てないウルフウッドは適当に部室の棚を眺めていた。そして陳列されているゲームソフトから帯の部分が出ていた一本のソフトを手に取る。
「『ブレスオブガイア4』……これもRPGっちう奴なんか? 」
ウルフウッドが読み上げたタイトルに、ソフトの持ち主でシリーズファンでもあるユズが反応する。
「そうです。そのシリーズは主人公が大いなるドラゴンの力を持っていて、その力をどう使うか、旅を通して問われていくのが共通のテーマになっています。特に4は主人公がラスボスの半身で、旅の中で様々な人間と出会って人の可能性を信じられるかどうかといった壮大なテーマを描いていて……あ……」
ついオタク特有の早口をしてしまいユズは顔を真っ赤にさせる。しかしウルフウッドは大して気にもせず、そのまま「ブレスオブガイア4」の箱を眺めていた。
「……なんや、このゲームの主人公、ワイのダチに似とるんやな」
人間に絶望しているラスボスと、その半身でありながら旅の中で人間を知っていく主人公。それが、人を見限り滅ぼそうとするナイブズと、その弟でありながら人を愛し平和を唄うヴァッシュに重なっていた。
彼が思わず零した言葉を聞いてゲーム開発部達が彼に尋ねる。
「……さっきからずっと思ってたんだけど、ウルフウッドさん、昔何してたの? 」
「私も気になりました。やたらと主人公への理解が深いし……」
「……滅茶苦茶な旅が懐かしかったとも……」
「いや別に……ダチと旅してただけやで? 」
三人の視線を受けそう答えるウルフウッド。そんな彼の回答をアリスはゲームプレイで得た経験で解釈する。
「……勇者とウルフウッドのダチは似ている……そのダチとウルフウッドは旅をしていた……推察、ウルフウッドは勇者の仲間で、世界を救う冒険をしていたんか? 」
「なんでそうなんねん。そんなんちゃう……ん? ことも、ないんか……? 」
言い淀むウルフウッド。確かに人を滅ぼそうとするナイブズに同じ力を持つヴァッシュをぶつけて倒そうとしていたあの旅は、言い換えれば世界を救う冒険と言えなくもない。自分にはそこまで大それた思いは無かったが、あながちアリスの表現は間違いとは言い切れないものだった。
「え!? どういうこと!? すごい気になるんだけど!!? 」
「私も気になります! ウルフウッドさんの旅のお話聞きたいです! 」
「あ、あの、せっかくなので『ブレスオブガイア4』をやりながら色々話して、もらえたら……」
「肯定、アリスもウルフウッドの冒険に興味あるやんけ」
あれよあれよとゲーム開発部は「ブレスオブガイア4」をプレイするための準備を進め、ウルフウッドにコントローラーを持たせていた。気づけば次のプレイヤーはアリスではなくウルフウッドだ。「ちょいちょいちょいちょいっ」とウルフウッドが少女達を制止しようとするが、彼女達は聞く耳を持たず彼を取り囲むように座り込む。ゲームのアドバイスも彼の話も聞けるポジショニングがちゃっかり形成されていた。ウルフウッドは観念し、ゲーム開始のボタンを押す。
「ブレスオブガイア4」はユズいわく、主人公の「リョウ」だけでなくラスボスの「ファウル」を操作するパートもあるらしく、その両方を操作しながらそれぞれの視点で人間を見ていくというのが特徴、らしい。最初は主人公のリョウのパートからだ。
ちなみにリョウというのはデフォルトネームで、名前の変更は可能である。名前入力の場面でモモイが提案する。
「せっかくだし主人公の名前をその友達の名前にしたら? 」
「嫌やっちうねん。なんでワイがあいつの名前でプレイせなあかんねん」
デフォルトネームのままで進めるウルフウッド。そんな彼をアリスは見つめながら尋ねた。
「……疑問、その友人の名称はなんちうん? 」
「ん? ……ああ、ヴァッシュや。ヴァッシュ・ザ・スタンピード。それがダチの名前や」
「ヴァッシュ……それがウルフウッドの友であり、勇者の名前なのですね。登録したやんけ」
「勇者なんて大それた奴ちゃうけどな。……あとアリス、ワイの口調真似るのやめろや。さっきからおかしなっとるやんけ」
「理解したわ。……言語学習領域からウルフウッド訛りを削除します」
「なんやねんウルフウッド訛りって」
そんなことを言いながらゲームを進めるウルフウッド。名前の入力が完了し、ゲームの冒頭が始まる。主人公のリョウは記憶喪失の状態で砂漠で見つかり、そこで出会った仲間の目的に巻き込まれる形で一緒の旅が始まった。
「なんや、砂漠が舞台っちうのも似とるな……」
「ヴァッシュと出会ったのも砂漠だったの? 」
「せやで。ちうかワイの故郷はどこかしこも砂漠でな。最初に出会った時にこの主人公みたく遭難して砂に埋まっとったのがワイで、それを見つけてくれたのがあいつやったな」
モモイの質問に答えるウルフウッド。「テイルズ・サガ・クロニクル」で思考能力にダメージを負っていたせいか、それともプレイしている「ブレスオブガイア4」に思考のリソースを取られているせいか、その口は軽くなっていた。冒険の書と一緒に、彼の記憶のアルバムも開かれていく。そのページを読み聞かせながら——流石に血生臭いところはぼかしながらだが——ゲームも進めていく。
ファウルが目覚め、それに同調してリョウのドラゴンの力が覚醒するシーンに差し掛かる。その力で敵を吹き飛ばし、化け物のように見られるリョウ。それがミッドバレイとホッパードとの戦いで力を暴発しかけたヴァッシュに重なる。
「……ホンマ、こんなところまでよう似とるな」
ユズが尋ねる。
「似てるって、ヴァッシュさんが、ですか? ……ヴァッシュさんって、どんな人だったんです? 」
「……あいつは人間とは違う存在でな。このゲームでいうと……ドラゴンか? 人間なんぞあいつらからしたら虫けらみたいな、そんなデカい存在やねん。ちなみにラスボスの弟や」
「ラスボスの弟……よ、よくそんな人と旅ができましたね……」
思っていたよりもヴァッシュという人物がとんでもない存在であることに驚くユズ。ウルフウッドはユズの反応を見てやはりそれが普通の反応だよなと思う。自分だってヴァッシュのことを恐怖し、その在り方が理解できず気持ち悪いと何度思ったことか。ただそれでもヴァッシュと離れるわけにはいかなかった。
「……ワイも目的があったからな。逃げ出すわけにはいかんかった」
「目的……ですか? 」
「せやで。ラスボス……ヴァッシュの兄貴はナイブズいうんやけどな、そいつとヴァッシュをぶつけて相打ちさせる、ワイはそのための案内役やった。ナイブズまでヴァッシュを連れて行ったのがワイの旅や」
「……」
言葉を飲み込むユズ。まるでヴァッシュを利用するような言い方に、それは仲間とは言えないのでは? と思ってしまった。それを友達と言えるのかと、そう思ってしまった。
そして、モモイはそのようなことを飲み込まず言ってしまうタイプだ。
「それって仲間って言えなくない? なんかひどいよ……」
「まあ、お前らみたいな仲良しこよしっちうわけやなかったしな。ただトンガ……ヴァッシュもナイブズに用があったし、せやかて一人じゃおっ死んでたやろうし、そこらへんは持ちつ持たれつって感じや」
「一人じゃ死んでたって……ヴァッシュさん、すごい力持ってたんじゃ……? 」
ミドリが疑問を持つが、ウルフウッドはあきれ顔で答える。
「ワイかて何べん同じこと思うたことか。でもな、そいつは大馬鹿やねん。お人好し過ぎて人にその力を振るえへんし、それどころか自分の命を危険にさらしてまで他人を助けようとするアホやねん。ワイがおらんかったら何べん死んどったか分からへんわ。……ほら、丁度こんな感じにな」
ウルフウッドが画面を指さす。ゲームでは自らの力に怯え敵に捕らえられてしまっていたリョウが、仲間に救出されるシーンが映っていた。
それを見ながらウルフウッドはクックックと笑う。
「その気になればどないにもできたやろうに、こいつもトンガリもホンマにアホやな」
そう語るウルフウッドの表情を見てユズは考えを改める。確かに最初は彼の言った通りのドライな関係だったかもしれないが、きっと色々あって友達になれたのだと。
……でなければこんな顔はできないから。
モモイとミドリも同じことを思い、そしてその過程を知りたくなっていた。自分たちとは違う、ビジネスライクとも言える関係からどのように絆が紡がれていったのか、それをゲームを交えながらウルフウッドに尋ねていく。
——ゲーム内のミニゲームが始まった時。
「クレーン操作とかあるんか」
「他にも色々なミニゲームがあるよ。ウルフウッドさんの旅でも何かなかったの? 」
「あー、路銀稼ぐためとかで色々したな。親父が出稼ぎで出てってしもうた定食屋で働いたり、祭りでガンマンの大会に出たり、賞金首捕えたり……戦闘で壊してもうた施設の片づけさせられたりもしたか。今思うとホンマ寄り道ばっかやったな……」
——ゲームのアイテムを作った時。
「この蕎麦美味そうやな」
「蕎麦好きなんですか? 」
「麺類は好きやで。蕎麦とかうどんとか、街ごとで出汁やコシがちごうてな、食べ比べもおもろかったで。ただいっつもそういう時に限ってトンガリがハプニング起こしおってな、ゆっくり食えへんかったわ。あいつと飯食うとオカズの取り合いになったりもしてな。何度いい加減にせえと思ったことか……」
——そしてラスボス、ファウルの操作パートに差し掛かった時。このパートはファウルが人間を滅ぼすことを決める道程が描かれており、ひたすらに人間の悪意にさらされる陰鬱な内容が続く。ファウルが人に絶望するシーンをユズは悲しそうに眺める。
「何度見てもこのシーンはつらいです……」
「……やっぱり普通はこう考えるよな? 」
「? どういうことですか? 」
「トンガリ……ヴァッシュは人間ちゃうから長生きしとってな。その長い人生でこのファウルっちうのみたく酷い目に会い続けとった。いや、下手すればこいつより酷い目にあっとったかもしれん」
「え、ファウルより酷いって、それは流石に……」
モモイが信じられないといった声を上げるが、ウルフウッドは目に焼き付いてるヴァッシュの姿を思い出す。
「傷が無い場所を探すのが大変なくらい、あいつの体は傷だらけやった。何度裏切られ、傷つけられてきたか想像もできひん。恐らく思いつく限りの悪意は身に受けてきたやろうな……」
皆が息をのむ。ウルフウッドから嘘を言っている空気は無かった。このラスボスが受けた以上の悪意なんて想像もできなかった、想像したくもなかった。それをヴァッシュという人物は経験してきたのだという。ウルフウッドの言葉は続く。
「……それでもあいつは人に絶望せんかった。人の可能性を奪うことを怒った。愛と平和を唄い続けた。……いくら鈍感でいいことばかりしか覚えてなくても、限度っちうもんがあるやろ? 何が違うんやろな、
画面のファウルを見つめるウルフウッド。正直ファウルの方が理解はできた。普通はそこまでの悪意を受けたら人に絶望してしまうものだろう。しかしヴァッシュはその選択を取らなかった。
——なぜそうでいられたのかは、今でも分からない。
「……なんで笑えたんやろ、あいつ。見てるこっちが胸痛なるような目に会っといて……」
「……多分、きっと……ウルフウッドさんがいたからじゃないですか? 」
ユズが絞り出すような声で答える。
「『ブレスオブガイア4』で主人公とファウルの大きな違いは仲間の有無です。主人公のリョウは仲間がいたから人間に絶望しませんでした。きっとヴァッシュさんも……」
「……ちゃう思うで。あいつは出会った時からそんなんやったからな。そもそもあいつにとってワイは……」
そこまで言って言葉が詰まる。
確かに自分にとってヴァッシュは友達だ。いつそうだと自覚したのかはわからない。孤児院での血戦の時だったかもしれないし、方舟で「間違ってないぜ」と声をかけてくれた時かもしれない。しかしどうであれ、ヴァッシュ・ザ・スタンピードという男は自分の中では友人なのだ。
状況が許されるなら兄貴との対立も手伝ってやりたかったし、あいつが勝ち取るであろう明日を一緒に見てみたかった。
だが、あいつの中ではどうだっただろうか。笑い方がカラッポだとか色々酷いことを言ってきた。現実を見ろと何度も対立した。そんな自分を、あいつはどう見ていたのだろうか?
「……ワイは……友達やったんやろか? 」
「何言ってるのウルフウッドさん、そんなの親友に決まってるじゃん!! 」
ウルフウッドが溢した言葉に、モモイが身を乗り出し自信満々に答える。
「……なんでお前が言いきれんねん? 」
「だってウルフウッドさんの旅の話、聞いてて超楽しそうだったもん! そんな冒険を共有して友達じゃないなんてあり得ないよ! 」
ウルフウッドは呆気にとられた顔をする。
「……ワイ、そんなおもろそうに話しとったか? 」
皆が頷く。情緒の幼いアリスすら頷いていた。どうやら自分はそれほどまでに、あの苦難に満ちた旅を楽しげに語っていたらしい。
「……く、くく、そうか……ワイもアホやなぁ……」
馬鹿らしくて笑いが込み上げてくる。そういえばあの血戦の時も笑っていたことを思い出す。自分たちの旅はいつもこうだったと。
(今さら気付くなんて、ほんまニブイで。……ワイはあの旅、楽しかったんやな……)
ウルフウッドの様子を見てユズは確信する。
「……やっぱりヴァッシュさんにとってウルフウッドさんが居てくれたことは大きかったと思うんです。……私も、モモイやミドリがいてくれたから『テイルズ・サガ・クロニクル』を作りきることができたので……その、ヴァッシュさんと比べるとおこがましいかも知れませんが……」
「せやなぁ……確かにトンガリがメソメソしてた時にケツ叩いてやったのもワイやしな、そう思うことにするわ」
ヴァッシュが本当の所どう思っていたのかは実際のところ分からない。しかしいっつも迷惑かけられていた自分が実は楽しさを感じていたというのに、アイツの笑顔が嘘だとしたらそれはそれでムカつくのでそう思うことにする。
二人旅の中で見たヴァッシュの笑い顔を、ウルフウッドは信じることにした。
(ファウルみたいな辛気臭い顔はお前には似合わんしな、精々あの旅思い出して少しでも笑っとけ、トンガリ)
ゲームもファウルの陰鬱なパートが終わり、再び仲間と共に進むリョウのパートに切り替わった。そしてゲームは進んでいき、ついに最終局面へと至る。
「……そういえばウルフウッドさんのピンチにヴァッシュが駆けつけてくれたところまでは聞いたけど、その先はどうなったの? ヴァッシュとナイブズの決着は? 」
興味津々といった感じで話の続きをせがむモモイ。他のメンバーも爛々と目を輝かせていた。ウルフウッドは困ったように頭を掻く。
「あー、ぶっちゃけ知らん。ワイはさっき話したところでリタイアしとるからな」
「えー!!? リタイアってどういうこと!? 」
なんと説明したらいいか分からないウルフウッドはとりあえずケガでリタイアしたと伝える。そしてキヴォトスに来たが、いかんせん今までのは外の話なのでここでは結末を知る由もないことを話した。
そしていつか見た、羽が舞っていたあの夢を思い出す。
「まあワイの弟分も残っとったし、どないかなっとるやろ」
ウルフウッドの話が終わった頃には、彼の操作するリョウがラスボスのファウルを倒していた。最後のイベントが始まる。
『ブレスオブガイア4』の結末は、ファウルと一体になったリョウが人の可能性を信じてドラゴンはもう不要だと空にその力を還すというものだった。空を巡るドラゴンの絵が、夢で見た景色に重なる。
リヴィオが手助けし、ヴァッシュがナイブズを連れて羽を広げ彼方へ飛び去っていったあの光景。
お前結局ナイブズ撃たなかったんかいという呆れと共に、お前やったらそうするか……と妙に納得してしまっていた。あれが本当にあの旅の結末だったのなら、トンガリにはお似合いのオチやと思う。
「ブレスオブガイア4」のエンディングも終わり、ユズが尋ねる。
「……ウルフウッドさん、『ブレスオブガイア4』面白かったですか? 」
ウルフウッドは微笑を浮かべた。
「せやな……楽しい冒険やったと思うで」
そしてコントローラーをアリスに渡す。
「ほれ、ワイの冒険は終いや。今度はお前の番やでアリス」
受け取ったコントローラーを握りしめ、アリスは新しい冒険の書を開いた。
◇ ◇ ◇
コントローラーを受け取り、ゲーム開発部オススメのゲームをクリアし続けるアリス。夜も更け、アドバイスをしていた部員たちも一人一人と寝落ちしていき、今起きているのはアリスとウルフウッドだけとなっていた。
アリスは画面に目を向けつつもウルフウッドに話しかける。
「今の選択肢は勇者ヴァッシュなら何を選んでいましたか?」
「悩んで決められないからワイが下選んどったな。そんで喧嘩すんねん」
「下の選択の方が合理的です」
「でもアイツは見限れんアホやからな、ダダこねるで」
アリスは一瞬だけ手を止めるがゲームを再開する。
ピッピッピッピ……
再びアリスはウルフウッドに問う。今度は手を止めウルフウッドを見ていた。
「汝に問う。アリスは勇者ヴァッシュのようになれますか? 」
「……アイツの生き方はオススメせえへん。そもそもなんでそないなこと聞く? 」
ウルフウッドが問い返す。アリスは言葉を探しているのか、視線を下げてポツリポツリと喋り出す。
「……ユズとモモイ、ミドリが抱き合っている光景に……光を、見ました。辛苦に満ちた旅路でも、笑い合える仲間がいる……そんな勇者ヴァッシュを、眩しいと感じました。この感情を言葉にするなら……『憧れ』……彼女たちのように、ヴァッシュのように、共に苦難に立ち向かえるような仲間を……アリスは勇者になれば、得られるのでしょうか? 」
気付けばアリスの情緒はずいぶんと成長していた。そんな驚きを感じつつ、ウルフウッドは答える。
「なんや、仲間が欲しかったんか? 勇者になればええかは知らんけど、それやったら簡単やで」
「先導者よ、どうすれば!? 」
「さっきのゲームでもあったやろ。こいつら起きたら『仲間にする』コマンド使えばええやないか」
「……友好度は足りてるでしょうか? 」
「モモイが言っとったやんけ。『冒険を共有したら親友』やて」
「!! ……確かに、モモイ達とは七つの世界を共に救いました……ウルフウッドのアドバイスを実行してみます! 」
そしてなぜだかアリスはウルフウッドに向き直す。
「僧侶ウルフウッドよ、アリスと共に冒険へと旅立ちませんか? 」
「ワイはお断りや」
「んあー、ウルフウッドの説得に失敗しました! なぜですか? 一緒に冒険した数ならモモイたちより多いのに……なんのパラメーターが足らないのですか? 」
「そういう問題ちゃうわ。ワイはもう別のパーティーに入ってんねん。……アビドスやろ、復学支援部に……センセのお守りもせなアカン。悪いがこれ以上は流石に無理や」
「……理解しました。僧侶ウルフウッドは通常の仲間枠ではなく特殊イベント時のお助けキャラなのですね」
「……もうそれでええわ」
横でゲームをずっと見ていた疲労からツッコミを放棄するウルフウッド。アリスも納得しゲームプレイに戻った。
そしてそのまま朝を迎える。部室のカーテンの隙間から差し込む朝日で最初に目を覚ましたのはモモイだった。
「ふあぁぁ……おはよう……あれ? まさかアリスずっとゲームしてたの? これ全部クリアしたやつ? 」
モモイはアリスが積み上げていたゲームソフトを見て驚きの声を上げる。
「肯定しよう、奏者よ。それこそアリスが救った世界の記録だ」
「わっ、話し方もずいぶん変わってる! 凄いよアリス!! 」
アリスの変わり様にはしゃぐモモイ。アリスはそんなモモイに例のコマンドを実行しようとする。
「……奏者モモイよ、アリスと共……」
「あっ、もうこんな時間だったの!? ごめんアリス、ちょっと行かなきゃ! 」
しかしモモイはアリスのコマンドをキャンセルし、慌てて部室から出ていってしまった。
「……モモイは逃走した」
「なんやあいつ? 急にバタバタして……」
眠たそうにしながらモモイが出ていったドアを見るウルフウッド。視線を横に戻すとアリスがしょんぼりしていた。
「……まあ、あと二人残っとるし、モモイもすぐ戻ってくるやろ。とりあえず眠気覚ましになんかしよか? 」
アリスがゲームしている横で対戦型のゲームがあることを調べて知っていたウルフウッドは、棚から適当に選んだスクールファイターをセットする。
「……おい、待ちカイルは反則やろ!?」
「がっこうにかえるんだな。おまえにもクラスメイトがいるだろう……」
対戦が白熱し眠気も飛んできたあたりで今度はミドリが目を覚ます。
「うーーーん……えっ、もう朝!? しまった、準備しなきゃ……! 」
ミドリの起床に気づいたアリスはコントローラーを置いた。
「ようやく気付いたか……無事に目を覚ましたようで何よりだ、君は運がいいな」
「え!? あ、アリスちゃんか……調子はどう? 色々と覚えられた? 」
「君の言葉を肯定しよう、必滅者よ」
「な、何か偏ったセリフばかり覚えてない……!? ウルフウッドさん、どういうこと……? 」
「そらゲームばっかやってたらそないなるわ」
「ふぁ……みんな、おはよう……」
みんなの会話がやっと耳に届き始めたのかユズも目覚める。それと同じタイミングで部室のドアが開かれた。
「おはよう! あ、みんなもう起きてたんだ」
“ おはよう、みんな ”
現れたのはモモイと、そして先生だった。その手には差し入れの朝食が詰まったコンビニ袋がある。
「なんやセンセやないか。書類は間に合ったんか? 」
“ まあね。それで部室に来る途中でモモイと出くわして一緒に来たんだ。……ところで知らない子がいるけど…… ”
「ひうっ!? 」
先生に視線を向けられたユズはさっきまでの眠気まなこを吹き飛ばしロッカーへと逃げ込んでしまう。
「……あ〜、ゲーム開発部部長のユズっちうねん。おいユズ、センセはレベル1でも倒せるような雑魚や、怖がらんでええでー」
“ 相変わらず例えが酷い……えっと、朝御飯買ってきたんだ。沢山あるからみんなで食べない? ”
まるで野良猫を呼び寄せる様にユズに構う大人二人。それの横でモモイはアリスへ近寄る。
「はいアリス、これ!」
そしてストラップの付いたカードを差し出した。
「……? アリスは『正体不明の書類』を獲得しました」
「おっ、またさらに口調が洗練されてるね。これは『学生証』だよ」
「洗練っていうか、レトロゲームの会話調そのものだけどね……」
ミドリがツッコミをいれる横で渡されたものをまじまじと眺めるアリス。
「学生証……? 」
「この学生証は、私達が学校の生徒だっていう証明書。生徒名簿にもヴェリタスがハッキ……いや、登録してくれたから、もうアリスも正式に私達の仲間だよ! 」
「仲間……アリスが、モモイ達と仲間に……パンパカパーン!! アリスが『仲間』として合流しました!! 」
満面の笑みを浮かべるアリス。なんとかユズをロッカーから出すことに成功していた大人達はその光景を優しく見守っていた。
そんな大人達の一人にミドリがチョンチョンと指を突っつく。
「あの、先生……今お姉ちゃんが『ハッキング』って……」
流石にヤバいだろう、というか先生の前で言っちゃ駄目じゃん、と思いつつ、探りを入れるように尋ねる。先生の対応次第で全ておじゃんになるからだ。
“ ……ミドリ、私はユズと話してたからそっちの会話は聞こえてないよ ”
先生は大人のスキル「聞こえてない」を発動した。ミドリはセコいと感じたが、都合が良いので黙ることにした。ミドリは少し大人になった。
ちなみに本当は良くないことを先生は理解している。ただ今回の件に関してはミレニアムのトップであるリオも把握していることであり、あちらがスルーしている以上問題ないと判断した上での対応だ。ミドリに大人のスキルを使ったのはただの茶目っ気である。
ミドリを他所に、モモイが学生証を装備したアリスを上から下まで眺める。
「さて服装と学生証、それに話し方。 この辺は全部解決できたから……あとは……武器、だね。よし! アリス、せっかくだし案内するよ! 」
「案内……ですか? 」
「私たちの学校、ミレニアムを!」
モモイの提案でミレニアム探索のパーティーが結成される。ユズは部室に待機して、モモイ、ミドリ、そしてアリスの三人で武器を入手しにエンジニア部に行くことにしたようだ。
先生はその様子をどこか安心したように眺めながら、隣にいるウルフウッドに尋ねる。
“ そういえばどうだった? ゲームは楽しめた? ”
「……まあ、ボチボチってところやな」
ウルフウッドは差し入れのコーヒーを啜った。
ヴァッシュがあの旅で折れないでいられたのはやっぱりウルフウッドが居てくれたことも大きいと思います。石投げられて街から追い出された時も、一緒にいて軽口言い合える人がいてくれたのはヴァッシュにとって救いだったかと……
それだけ過酷な冒険を一緒に乗り越えて、本気でどつき合えて、サシで飲み明かせて……それで友人じゃないなんてことあるわけないじゃん、ニコ兄。
ちなみに「ブレスオブガイア4」の元ネタは「ブレスオブファイアⅣ」。
ウルフウッドに思い出を語らせるのになにがあるかなーと考えて思い出した作品です。
実は私、このシリーズはⅣしかやったことないニワカなのですが、今でも記憶に残っているくらいには名作でした。