部室に留守番するユズを除き、アリスの武器を入手するためエンジニア部に向かったゲーム開発部一向。ウルフウッドが昨日と同じように部室のドアをノックすると、昨日と同じようにウタハが顔を出した。
「こんにちはウルフウッドさん、昨日ぶりだね。さっそくスタンピード・パニッシャーの使い心地を報告しに来てくれたのかな? 」
「それもあるが、客連れてきたで」
彼の背負うパニッシャーの影から体を出す先生。さらにその後ろから双子達が顔を出した。
“ 初めまして、シャーレ顧問の戸狩です ”
「ウタハ先輩、こんにちは! 」
「これはこれは、噂の先生に……ゲーム開発部かな? 面白い組み合わせだね」
ウタハは先生とは初対面だったため、コトリとヒビキも呼び寄せ改めて挨拶をする。それが済むとモモイよりアリスの装備を探しに来た旨がエンジニア部に説明された。
「……なるほど、大体把握できたよ。新しい仲間により良い武器をプレゼントしたい……と。そういうことであればこのエンジニア部に来たのは素晴らしい選択だね。ミレニアムにおける勝敗というのは優れた技術者の有無に大きく左右されてしまうものだ。そっちの方に私達がこれまで作ってきた試作品が色々と置いてある。そこに置いてあるものであれば、どれを持って行っても構わないよ」
「やった! ありがとう、先輩! 」
「ヒビキ、コトリ、彼女達に色々教えてあげてくれないか」
ウタハのお願いによりヒビキとコトリがモモイ、ミドリ、そしてアリスを武器置き場へ案内していく。そしてウタハはウルフウッドへと振り返った。
「さて、ウルフウッドさん。スタンピード・パニッシャーの使い心地はどうだったかな? 」
「……まず機関砲については問題ない。威力、精度ともにオリジナルと遜色あらへん。そこは流石ってとこや」
まずはジャブを放つウルフウッド。ウタハは満足そうな笑みを浮かべながらウンウンと頷いている。そんなウタハへ本命の議題をぶつける。
「……ただレーザービームが問題や。なんやねんあの威力は? 」
「……もしかして威力不足だったかな……? 」
不安げな顔になるウタハ。「これだからこいつは……」と呆れながらウルフウッドは不満をぶちまける。
「逆や逆! 威力ありすぎや言うてんねん! 敵どころかその後ろのビルまでぶった切ってしもたんやぞ! そのビルが倒壊してこっちはお陀仏しかけたんやからな! 」
「それは良かった! ちゃんと威力が出ていたようでなによりだ」
「だ・か・ら、威力ありすぎ言うとるやろが!! 危なっかしくて使えへんわ! 何を想定したらこんなもんできんねん!? 」
何を? と問われたら答えねばなるまい。そんな表情を浮かべウタハは不敵に笑う。
「宇宙だよ」
「……は? 」
「そのレーザービームは宇宙空間での使用を想定した兵器の二作目さ。本来は宇宙戦艦の武装なんだよ」
「……なんでそんなもんをパニッシャーに積んでもうたんや? あくまで個人兵装やぞこれは……」
「なぜかと言われると……ロマンかな!! 」
ロマンという単語に横にいた大きな子供が反応する。
“ 分かる! レーザービームはロマンだよね! 凄くかっこ良かったよ! 特にあの変形機構はたまらないね! ”
「流石先生、分かってるね! 」
ピシガシグッグッと手を合わせるウタハと先生。一徹の疲れもありウルフウッドは最早怒りさえ沸いてこなかった。
「……もうええわ。せめてリミッター設けるか何かしてくれ……」
「まあ
「おい、あんまおかしな機能はつけ……」
瞬間、ウルフウッドの言葉を爆音が掻き消す。何事だとウタハ、ウルフウッド、先生の三名が音がした所へ駆け寄ると、部室の天井に大穴が空いていた。そして穴から差し込む光の下に居たのは、銃と呼ぶには余りにも大きすぎる何かを持ったアリスだった。
それを見てウタハは驚きの表情を浮かべる。
「あれは……『光の剣:スーパーノヴァ』……アリス、君が撃ったのか……? 」
「はい! この勇者の剣を抜いたのはアリスです! 」
満面の笑みで答えるアリス。双子がウタハに駆け寄る。
「ご、ごめんなさいウタハ先輩! アリスちゃんがつい発射ボタン押しちゃったみたいで……」
「そしたらウルフウッドさんのみたく光がバァーって……」
「天井のことなら大丈夫だよミドリ。モモイも怪我が無くてよかった。しかし、一体何故こんなことに……? 」
エンジニア部含めた一年生組から説明を受けるウタハ+大人二人。
どうやらアリスが試作品置場から『光の剣:スーパーノヴァ』という宇宙戦艦搭載用レールガンを発見し、それをいたく気に入ったので欲しがったのだが、ヒビキとコトリに断られてしまったらしい。理由はシンプルに「大きくて重すぎる」から。個人兵装として扱えるのはウルフウッドぐらいで、アリスには無理であると。そう説明を受けたアリスが「ではこの剣が抜ければ良いのですね? 」とスーパーノヴァを持ち上げ、つい弾も発射してしまった……というのが事の経緯だった。
アリスが興奮覚めやまぬ様子でコトリに詰め寄る。
「アリスは装備可能ステータスを満たしています。この光の剣を譲って下さい! 」
「ほ、本当に使えるなんて……で、ですがそれだけは、その……! エンジニア部の下半期半分の予算が掛かっているので……あ、あの部長。できれば部長からもなにか……」
コトリからアリスの説得をお願いされるウタハ。ウタハはアリスをマジマジと眺めると、何かに納得したように答える。
「……いや、構わないさ、持っていってくれ」
「えっ、良いのですか、部長!? 」
「ああ。これはウルフウッドさんかこの子以外には使えないだろうからね。スタンピード・パニッシャーと同じで倉庫の肥やしになるより良いだろう。……ヒビキ、後でアリスが持ち運びやすいように、肩紐と取っ手の部分を作ってあげてくれ。」
「分かった。……前向きに考えると、実践データを取れるようなったのはありがたいかも……」
「あ、ありがとうございます! 」
エンジニア部に会釈するアリス。ウタハはアリスに抱かれるスーパーノヴァをじっと見つめる。
「……しかし、何だか奇妙な縁を感じるね。倉庫の肥やしになっていた姉妹兵器に使い手がほぼ同時に現れるなんて……」
「姉妹兵器……? 」
「アリスはまだ見ていないのかな? ウルフウッドさんが持っている『スタンピード・パニッシャー』にはレーザービームが搭載されているんだ。これは『光の剣:スーパーノヴァ』の技術を応用して作ったものでね。フレームも同じ特殊合金が使用されているんだよ」
ウタハの説明にウルフウッドも反応する。
「お前らそれにも材料使っとったんか……」
「まあね。そもそも全てはパニッシャーから始まったんだよ」
「どういう意味や? 」
その疑問に説明大好きコトリが目を光らせた。
「説明しましょう! エンジニア部は今、ヘリコプターや汎用作業ロボットに続いて宇宙戦艦の開発を目標としているのですが……当初の設計段階では機体の強度、耐熱性、重量など様々な課題がありました。しかしその問題を解決してくれたのがパニッシャーに使用されている特殊合金だったのです! 」
ウタハが感慨深いように目をつむる。
「あの発見をした時はみんなで感動したね。まるで元々宇宙戦艦の装甲に使われていたんじゃないかと思うぐらい、特殊合金と宇宙戦艦の相性が良かったんだ」
「凄まじい強度、耐熱性を持ちながらアルミの様に軽量と、正に宇宙戦艦にうってつけの素材でした。そして開発計画は前に進み、その最初の一歩としてスーパーノヴァが作られたのです! ……まあ調子に乗ってレーザービームも作った段階で使える予算が尽きてしまったのですが……新素材研究部からの融資含めても足らず……」
「ちなみに『スタンピード・パニッシャー』にレーザービームを搭載したのはロマンもあるけど、フレームの性質上搭載できるのがそれだけだったという事情もあるんだ。……そういった訳で『スタンピード・パニッシャー』と『光の剣:スーパーノヴァ』は深い関係にあるのさ」
ウタハ達の説明を受けアリスは目を輝かせながらウルフウッドに向かい合う。
「ウルフウッドも光の剣を装備していたのですね! しかもアリスより先に! ……つまり、ウルフウッドは師匠ポジションのお助けキャラだったのですか!?」
「は? 」
疑問の顔を浮かべるウルフウッド。師匠という単語のせいで若干声のトーンが低くなる。恐らく「マスター」という単語だったらキレていた。
「なんでワイが師匠になるんや? 」
「前作主人公のパーティーが最新作に出るときのお決まりです! 」
「なんに対しての前作やっちうねん……」
相変わらずのアリスのゲーム的発想に呆れるウルフウッド。しかし少し思案する素振りを見せた後、アリスに提案する。
「……まあええわ。せっかくやしデカイ得物の扱い方を教えたる。ウタハ、試験場借りるで」
「修行イベントの発生ですね!? 」
RPGのような突発イベントにアリスは心を踊らせながらウルフウッドについていった。
◇ ◇ ◇
エンジニア部の試験場へ移動する面々。
アリスには手始めにエンジニア部が処分要請を受けたドローンを的にスーパーノヴァの基本操作が教えられた。それが済み、いよいよアリスとウルフウッドが相対する。
「じゃあ開始や」
ウルフウッドが模擬戦の開始を伝えると同時に、アリスへ向けて無防備に歩きだす。
「??」
「なにボサッとしてんねん、ワイは敵やぞ? 」
ウルフウッドの言葉を受け急いで射撃の準備をするアリス。
「スーパーノヴァ速射モード。目標、ウルフウッド……行きます! 」
スーパーノヴァから連射重視の単発弾が発射される。そしてウルフウッドに直撃した。それに皆が驚くが、着弾の衝撃で舞う土埃の中から姿を表したウルフウッドはパニッシャーを盾にして当然のように無傷だ。
「こないな使い方もできるっちう例やな」
防御の構えを解き、アリスに再び無防備に近づいていくウルフウッド。再度スーパーノヴァから弾が発射されるが、今度は最小限の動きでそれをかわしていく。
「あ、あたりませんっ! 」
「得物がデカイせいで銃身の向きも撃つタイミングもバレバレや。マシンガンみたいに連射もできへん。人に当てるには工夫せんとな。それは今後の課題やな」
そう指導を述べながら余裕綽々でアリスに接近していくウルフウッド。
そうやって紙一重でかわすなんてアンタ位しかできないよと心の中でつっこむオーディエンス達をよそに、彼はアリスの眼前までたどり着く。
距離としては約二メートル。互いの得物なら銃身を延ばせば体に触れるような位置だ。
「さあ、どないする? 」
アリスはこの距離なら外さないと判断したのか、後退せずにスーパーノヴァをウルフウッドに突きつける。そして射撃しようとした瞬間、スーパーノヴァが弾き飛ばされた。
「あっ!? 」
ウルフウッドがパニッシャーを鈍器のように振るいスーパーノヴァを弾いていた。そしてそのままパニッシャーの機関砲がアリスの顔面に向けられる。
瞬間、アリスにある感情が発生する。その感情は「恐怖」。――アリスの予測演算領域が自身がバラバラに破壊されるビジョンを描いた。
一発の弾丸が放たれ、アリスの頬に朱色の線が走る。
「……ゲームオーバーっちうやつやな。勉強になったか? 」
「……は、はい……」
「ならええ。……すまんが誰か絆創膏持ってきてくれへんか? 」
ウルフウッドが場外の生徒たちに呼び掛けると、生徒達は未だに唖然とした様子のアリスの元へ駆け寄って行く。そしてウルフウッドが彼女らと入れ違いのように試験場から離れると、その先には険しい顔をした先生が待ち構えていた。
“ ……なんであんなことをしたんだ、ウルフウッド ”
「なに怒っとんねん、センセ? 」
“
「アリス見つけた時にも言ったやろ。何かあればワイが対処するって。それができるか試しただけやないか」
“ 朝の様子を見てただろ? あの子は無害だ。ゲーム開発部の子達と笑い合えるただの子供だった。それはウルフウッドの方が分かってるんじゃないのか? それなのになんで…… ”
「……ええこと教えたるわセンセ。ワイのダチはアリスと同じ人外やった。そいつも人畜無害な奴でな。でもある時そいつは暴走して……どないなったと思う? 」
“ …… ”
「そいつは街一つきれいさっぱり消し去った。そこにいた人の命もろともな」
“ !? ”
先生は息を飲む。
「流石にアリスがそこまでのもんやとは思わへんけどな、ワケわからん存在なのも確かや。万が一があれば、止めてやらなアカンやろ」
“ だからって君が…… ”
「ワイしかできへんやろが。見とったやろ、ドローンの攻撃受けてもアイツはピンピンしとった。他のヘイロー持ちと同じや。……センセの言いたいこともわかるけどな、土壇場で一番最低なのは夢みたいな解法を待って何も選択せえへんことやぞ」
ウルフウッドが先生を睨み付ける。先生もその視線から目をそらさず、睨み合う形となる。
“ ……君の言いたいこともわかる。でも、その土壇場は今じゃない。危険かもしれない可能性だけでアリスの……子供の可能性を奪うことを、
(途中で殺して全てのチャンスを奪うよりかはずっとましだ!! )
自分と対立する先生に、ヴァッシュが重なる。
「……ハッ、分かっとるって」
昨日から本当に友の姿を思い出すことが多い。言われなくたって分かっている。自分だってあの旅から何も学んで無い訳じゃないのだから。
(なんでもかんでもあっさり見限るな言いたいんやろ?
ウルフウッドは笑い出し、先生の肩をバンバンと叩く。
「
そして視線を横に流す。先生も釣られて視線を横に向けると、そこには何か近寄りがたい空気を感じ取ったのか遠巻きにこちらを見ている生徒たちの姿があった。
“ ……はぁ、不安がらせるなんて先生失格だな…… ”
先生は「なんでもないよ」とアピールするように彼女達に手を振り、少しばかりのわだかまりを抱えたまま彼女達の元へと歩み寄っていった。
ウルフウッドの方が厄ネタとの付き合いが長いので、こういうところはシビアです。
なので先生とこういったことでは喧嘩に……
ただ個人的にずっと一人で決断をし続けている本編先生には、根本は子供たちのために動いてくれて考え方の違う大人が居てくれるべきなんじゃないかなぁ、なんて思っています。
>まるで元々宇宙戦艦の装甲に使われていたんじゃないかと思うぐらい、特殊合金と宇宙戦艦の相性が良かったんだ
これについては、パニッシャーのフレームには実はトライガンの宇宙戦艦の材料が使われていたんじゃないかという妄想からでたネタです。公式アンソロジーで墜落した宇宙戦艦の装甲を切り売りしている描写があったのと、その装甲がめちゃくちゃ硬かったのでそこから。
そりゃ宇宙戦艦にピッタリの材料だよ。