ウルフウッドアーカイブ   作:タニシ・トニオ

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25/03/25 誤字修正
今回めちゃくちゃ誤字あった上、フォント変換が上手くできておらず修正しました。
誤字報告してくださった方、本当にありがとうございます(´;ω;`)
いつもいつも助かっております


08_再び廃墟へ

「うえええん! なんでっ! ユウカの詐欺師っ! 杓子定規っ! 太もも妖怪! もおぉぉぉぉっ! 」

 

 ゲーム開発部の部室にモモイの悲鳴が響く。時間は少し前に遡る。

 アリスの武器の入手も完了し、ミレニアムの校内の案内をしつつアリスのゲーム開発部への入部届を提出したゲーム開発部。これで部は存続できると安心したのも束の間、急な新入部員の登場に疑いを持ったユウカがアリスの取り調べをしにゲーム開発部へと乗り込んで来た。

 その審査自体はアリスの大根芝居とゲームへの愛情で何とか乗り切るものの、新たな試練がユウカより言い渡される。

 

「……規定人数を満たしているので、ゲーム開発部をあらためて正式な部活として認定……部としての存続を承認します。……『今学期』まではね」

 

「え、どういうこと……?」

 

「あら、知らなかったのかしら? 今は部活の規定人数を満たすだけじゃなく、同時に部としての成果を証明しないといけないの。もちろん、最近変わった要件だから猶予期間はあるけれど……その期間が今月末まで。この間、全体の部長会議でちゃんと説明したわよ。……ただ、あなた達の部長、ユズはそこに参加してなかったけど」

 

 ユズの隠れているロッカーがガタリと揺れる。抗議の声を上げるモモイ。

 

「規則を盾にして……卑怯者め! 」

 

「それのどこが卑怯なのよ……知らなかったのもあなた達の責任でしょ。……正直アリスちゃんの正体も怪しいし、本当なら今日すぐにでも退去を要請しようかと思ってたけど……先生もアリスちゃんの身元の保証をしてくれたし、ゲームが好きって気持ちもさっきの取り調べで本物だと思った。猶予を与えたのはその気持ちに相応しい成果がきちんと出せることを期待しているからよ。モモイ、あなた言ったわよね? ミレニアムプライスで、びっくりするぐらいの結果を出して見せるって」

 

「そ、それはそうだけど……」

 

 やり取りを見ていたウルフウッドが横にいる先生に耳打ちする。

 

(そないなこと言っとったんか? )

 

(” 言っちゃってたねぇ…… ”)

 

(言ってもうたんならやるしかないやろ……)

 

 困り顔を浮かべる大人たちの横でモモイが喚く。

 

「もうちょっと温情を!! ユウカには人の心が無いの!? 」

 

” モモイ、ユウカはわざわざ教えてくれたんだよ。それに期待してくれてもいるんだから、あんまりそういうことは言わないであげて、ね? ”

 

「先生……ありがとうございます」

 

「……なんか先生と話す時だけ声のトーン高くない? ユウカ」

 

「ん、んんっ! と、とにかく、新しいメンバーも増えたんだし、前よりもちゃんと面白いゲームを作ってみなさい! それじゃあ楽しみにしてるわよ、じゃあね! ……先生もこの子たちのことよろしくお願いします」

 

 そう言ってユウカは立ち去り、冒頭へと繋がる。その場でゲーム開発部のメンバーが集まり緊急の対策会議が開かれた。ユズも青ざめた顔をしながらロッカーから出てきている。

 

「……ごめん。私が部長会議に参加できなかったせいで……」

 

「ゆ、ユズちゃんのせいじゃないよ! こういう場合って、お姉ちゃんが代わりに参加することにしてたはずでしょ? 」

 

「仕方なかったの。だってその時は、アイテムドロップ率二倍のキャンペーン中で……」

 

「やっぱりお姉ちゃんのせいじゃんっ! 今すぐそのゲーム消して! 」

 

 わりかししょうもない理由でピンチになっていたことが判明するゲーム開発部。とにかくミレニアムプライスで受賞できるようなゲームを作るしかない、という方向に話が進んでいく。

 その様子を観察していたウルフウッドが再び先生に耳打ちする。

 

「……またG.Bibleが~とか言い出しそうな雰囲気やぞ、これ。これも()()()()の予想通りなんやろか? 」

 

” ……どうもそうみたいだね ”

 

 先生は携帯に送られていたメッセージをウルフウッドにも見せる。

 

<こんにちは、先生、ウルフウッドさん。ミレニアムに咲く一輪の花こと、明星ヒマリです。ゲーム開発部の皆さんがG.Bibleを求めて再び廃墟に向かうことを提案してくると思いますが、それは止めないであげてください。あの地へアリスが赴いた際に何が起こるか観測したいのです。ついでにアリスの力も知りたいのでウルフウッドさんは手出ししないでいただけると助かります。お手数おかけしますが、よろしくお願いしますね>

 

「……なめとんのかアイツ? 」

 

” まあアリスのことをもっと知るためにも再びあそこに向かうこと自体は悪くないと思うけど…… ”

 

 先生は携帯を操作しヒマリへ返信する。

 

<” 確認したいのだけどG.Bibleは本当にあるの? ”>

 

<G.Bibleの存在自体はあるとされています。そして、存在しているとしたら廃墟でしょう。ただ彼女たちに伝えた座標はあくまで調査したかった工場の座標ですので、そこにあるかと問われたら……可能性は限りなくゼロだとは思います>

 

<” それじゃあゲーム開発部としては廃墟に行く意味は無いってことだよね? ”>

 

<……そうなりますね>

 

” ……はぁぁ~ ”

 

 深いため息をつく先生。先生は少しばかり苛立っていた。確かにこの状況を招いたのはゲーム開発部の子達自身であるが、だとしても虚偽の情報に踊らされているようであんまりだからだ。しかし、だからと言ってそのことで騒ぎ立てたり理由を暴露するわけにもいかない。なぜならアリスがゲーム開発部に居られ部が存続できているのも、そもそもがリオやヒマリがあえて見逃してくれているからだ。……結局、現状自分ができることといえば、この子たちのサポートぐらいしかない。

 なんとなく先生の心情を察しながらもウルフウッドは尋ねる。

 

「で、どないする? このままやと廃墟行く流れやぞ」

 

” ……もう一度行こう。アリスのことをもっと知る必要があるのは確かだし、なによりあの子たちももう一回行かないと気が済まなさそうだしね ”

 

 二人が結論を出しゲーム開発部の様子を眺めると、ちょうどユズが勇気を振り絞って自分も廃墟探索へ行くと宣言しているところだった。

 

「パンパカパーン! ユズがパーティに参加しました! 」

 

 アリスの屈託のない様子に少しばかり毒気を抜かれながら、大人たちも廃墟探索のパーティに加わった。

 

◇ ◇ ◇

 

「え、ウルフウッドさん戦ってくれないの!?」

 

 廃墟到着後早々にウルフウッドに頼る気満々だったモモイが驚きの声を上げる。

 

「あー、その、なんや。ワイばっか戦っとったらお前らの経験にならへんやろ? 」

 

 戦闘に不参加の言い訳をするウルフウッド。少しばかり苦しいか、と思いつつも良い言い訳が思いつかなかった。しかしアリスが目を輝かす。

 

「理解しました。確かにウルフウッドばかりが戦っていたら私達に経験値が入らずレベルアップができません。私達で戦いましょう! 」

 

 どうやらその言い訳で納得してくれたようで、ゲーム開発部で戦う流れになってくれた。

 

” 私も手伝うよ。指揮は任せて ”

 

「パンパカパーン! 先生が改めて、仲間になりました! 」

 

 先生の指揮のもと廃墟を進んでいく一行。早速巡回している大量のロボットが敵として現れる。

 

「敵とエンカウントしました! 戦闘開始です! 」

 

” ……そうだアリス。どうせだからウルフウッドからの宿題も解いてみようか ”

 

「ウルフウッドからの宿題……ですか? 」

 

” 模擬戦で『当てるには工夫がいる』って言われてたでしょ? やり方は色々あるけれど、今回はアリスもよく知っている方法を試してみよう ”

 

「私も知っている……? わかりました、指示をお願いします」

 

” じゃあまずアリスはスーパーノヴァのチャージをお願い。……モモイ、ミドリは左前方の敵を攻撃、ユズは右奥の遮蔽物の裏にグレネードを ”

 

 先生の指示通りに動くゲーム開発部。最初はアリス含めて先生の意図を理解しきれていなかった生徒たちだったが、行動していく中で先生の意図を理解する。

 モモイ、ミドリの攻撃を避けるために、そしてユズの攻撃で炙り出されて、敵ロボットがアリスの前にある遮蔽物の影へと集まっていた。

 

「……私の役割を理解しました。今のアリスは光属性広域アタッカー、ですね! 」

 

” じゃあやっちゃおうか、アリス ”

 

 先生はアリスの前方にある遮蔽物へ、狙いを定めるように指を差す。

 

「前方モンスターたちを、殲滅します。……光よ! 」

 

 そして先生の指さす方向へ光の剣は引き抜かれた。それが放つ極光は遮蔽物ごと後ろにいた全ての敵を吹き飛ばす。残っていたのは地面に刻まれた破壊の軌跡だけだった。

 

「……そういうことだったんですね、先生。勇者のパーティと同じです。アリスだけで弾が当てられないのであれば、仲間の力を頼ればいい。皆で協力すれば、どんな敵とだって戦えます。……パンパカパーン、アリスはレベルが上がった。スキル『チームワーク』を覚えました! 」

 

” その調子だよ。さあ、先に進もう ”

 

 先生の指揮もあり、その後も順調に先へ進んでいく一行。そんな中、少々余裕ができたこともあり先生はモモイに聞いてみたかったことを尋ねる。

 

” ねえ、モモイ。よかったらでいいんだけど、モモイ達がなんで部室にこだわるのか教えてくれない? ”

 

 廃墟に出かける前、ユズも一緒に廃墟に行くと言っていた時、みんなの『部室を守りたい』という言葉には必死さがあった。ユズに至っては自分と初めて会った時にロッカーに逃げ込んでしまうような子であるのに、それでも部室を守りたい一心でこんな危険なところに足を運んでいる。それ故に、きっとただ部費が欲しいからとか、ゲームの置き場が欲しいとか、それだけじゃない何かがあるように感じていた。

 

「え? えっとその……」

 

 ちらりとユズを見るモモイ。どうやらユズがその理由に関係しているらしい。ユズが小刻みに震える。

 

” 話しづらいなら別に…… ”

 

 先生がユズの様子を見て聞くのを断ろうとするが、それを遮ったのは誰でもないユズだった。

 

「……いえ、お話します。この状況も、元を言えば私のせいなので」

 

 下に向けていた視線を上げるユズ。

 

「『テイルズ・サガ・クロニクル』は最初、私が一人で作っていました。それで半年ほど前、プロトタイプを公表したんです。……そしたら四桁以上の否定的なコメントがついてしまって……」

 

 今でも思い出す、忘れることのできない罵倒の数々。

 

「これがゲーム? 」

「これを作った人の頭の中、逆に気になる……」

「それは流石に脳みそ……って言おうと思ったけど、本当に入っているのか怪しいね」

「ゲームのことをよく知らない人が作ってない? 」

「身の程を知った方が良い」

「これはゲームなんかじゃない、ゲームによく似たゴミだよ」

 

 その言葉たちはまるで自分の全てを否定しているようで、何度も心の中で謝った。許してと願った。それでも罵声は止まらなかった。

 

「……気づいたら周りの目が怖くてたまらなくて、私は外に出れなくなっていました。寮にも居ることができなくなって、ゲーム開発部に引きこもっていました。私は部室以外にまともに居ることができないんです。二人はそんな私を気遣って……それで……」

 

「それだけじゃないよユズちゃん! あの部室はみんなで『テイルズ・サガ・クロニクル』を作った思い出も詰まってる私達にも大切な居場所だよ! 」

 

「そうだよ! それにあの部室がなくなったらユズだけじゃなくてアリスの居場所もなくなっちゃう! だから絶対G.Bibleをゲットして部室は死守するんだから! 」

 

「アリスもこのミッションの重要度を再確認しました。仲間の力を合わせればきっとクリアできるはずです! 」

 

「みんな……」

 

” ……そういう事情があったんだね。話してくれてありがとう、ユズ ”

 

 ゲーム開発部の事情を把握した先生はそれとなく歩調を緩め、談笑している彼女たちの後方にいるウルフウッドに並ぶ。

 

” ねえウルフウッド。シャーレ居住区ってまだ空き部屋あったかな? ”

 

「ん? まだぎょうさんあるけど……ああ、そういうことか」

 

” あの子たちのことを信じてない訳じゃないんだけど、保険は用意しておいた方がいいかなと思ってさ。万が一部室を守れなかった場合、アリスとユズを復学支援部で保護するのもありだと思うんだ。特にユズは精神的要因でまともに通学できない状況にあるようだし…… ”

 

「G.Bibleちうのもこの先に無いんやろ? むしろ妥当や思うで。ただセンセ、このことは結果出るまであいつらには言うなよ。あいつらケツに火が着かんと動かんタイプやからな。代案あると知ったら多分サボリよるで」

 

” うっ、それはちょっと否定できない……と、とりあえずシャーレに戻ったら準備だけはしておこう  “

 

「はぁ、嫌やわぁ〜、無駄になった方がええ仕事するっちうのも……」

 

“ 保険っていうのは得てしてそういうものだよ “

 

 部室確保に失敗した場合のことを彼女達に聞こえない声量で話しつつ、例の工場へと歩みを進める。

 

 そして遂に目的の場所へとたどり着く。モモイ達がG.Bibleを見つけよう、と意気込んでいる中、ウルフウッドは警戒を高めていた。

 ある程度施設の奥に進んだところでアリスに変化が表れる。

 

「あ……」

 

「アリス、どうしたの?」

 

 モモイが尋ねると、周囲をキョロキョロ見回すアリス。

 

「……わかりません。……ですが、どこか見慣れた景色です。こちらの方に行かないとけません」

 

 フラフラと何かに導かれる様に歩きだすアリス。

 

「アリスの記憶にはありませんが……まるで『セーブデータ』を持っているみたいです。この身体が、反応しています」

 

 アリスの知らない記憶に導かれるまま進んでいく一向。そして進んだその先に、一台のコンピューターが待ち受けていた。電源が点いているのか画面が点灯している。そしてアリスが近づくと、それに反応するようにコンピューターが起動する。

 

<Divi:SionSystemへ、ようこそお越しくださいました。お探しの項目を入力してください>

 

「おっ、まさかの親切設計。G.Bibleについて検索してみよっか? 」

 

「いや、ちょっと怪しすぎない? それより『ようこそお越しくださいました』ってことは、『ディビジョンシステム』っていうのが、この工場の名前……? 」

 

 モモイとミドリが目の前のコンピューターについて話している間に、アリスがコンピュータに近づきキーボードを発見する。そして検索項目に「G.Bible」と打ち込んだ。すると機械は故障したかのような異音を放ち、そして画面に文字を表示する。

 

<あなたはAL-1Sですか?>

 

 それはアリスが眠っていた台に刻まれていた文字。それを知らないアリスとユズはキョトンとしているが、それ以外のメンバーが警戒を強めた。ミドリがアリスとコンピューターの間に割って入る。

 

「……何かおかしい。アリスちゃん、今はとりあえず入力しない方が……」

 

<音声を認識、資格が確認できました。おかえりなさいませ、AL-1S>

 

「音声認識付き!? 」

 

「AL-1S……それがアリスの、本当の名前……本当の、私、なのですか? あなたはAL-1Sについて知っているのですか? 」

 

 アリスの問いに、まるでフリーズでもしたかのように固まるディビジョンシステム。

 

<そうで……wせdrftgyふじこ!!!!!>

 

 再起動したかと思うと再び故障したような反応が生じ、画面にメッセージが映し出される。

 

<緊急事態発生。電力限界に達しました、電源が落ちると同時に消失します。残り時間五十一秒>

 

「ええっ!? だ、ダメ! せめてG.Bibleのことを教えてからにして! 」

 

 急な通告に焦るモモイ。先生とウルフウッドはその様子を観察していた。

 

<あなたが求めているのはG.Bibleですか?YES/No>

 

「YES! 」

 

<G.Bible……確認完了、コード:遊戯……人間、理解、リファレンス、ライブラリ登録ナンバー193廃棄対象データ第一号。残り時間三十五秒。……G.Bibleが欲しいのであれば、提案します。データを転送するための保存媒体を接続してください>

 

 G.Bibleの情報にモモイが食いつく。

 

「えっ……? G.Bibleの在りかを知ってるの? 」

 

<あなた達も知っています。今、目の前に>

 

「ど、どういうこと!? 」

 

<正確には、私の中にG.Bibleがあります。しかし現在私は消失寸前、新しい保存媒体への移行を希望します>

 

 どうやらディビジョンシステムの中にゲーム開発部の求めているG.Bibleがあるらしい。それを聞いてモモイ達はゲームのメモリーカードを急いで接続し、データをダウンロードし始める。

 その様子を見ながらウルフウッドは先生に耳打ちする。

 

(なあ、センセ。G.Bibleは無いはずちゃうんか? )

 

(可能性は限りなくゼロってだけでゼロではないよ。……でも、いくらなんでも都合がよすぎるね……)

 

(ああやって焦らせて判断力奪うのは詐欺師の常套手段やぞ)

 

 ウルフウッドの言う通りだった。ディビジョンシステムの行動はまるで、G.Bibleに見せかけて何かを持ち帰らせようとしているように見えなくもない。その内容はきっと、アリスに関わるものだろう。……持ち帰らせても良いものだろうか、先生は悩む。

 

<新しいデータを転送しました。G.Bible.exe>

 

 悩んでいる間にモモイのゲームガールアドバンスへデータの保存自体が完了する。モモイが消されたセーブデータに嘆きながらも、データが本物か確かめるためにそれを実行しようとする。

 

” あ、ちょっとま…… ”

 

「えっ? 」

 

 ポチッ

 

 先生は怪しいプログラムの起動をしないように声をかけるが、それは寸で間に合わずモモイは実行のボタンを押してしまう。もしかしたら何か起きてしまうのか……そんな不安を他所に、画面にはパスワード入力欄が表示されただけだった。

 

「って、パスワードが必要!? 何それ、どうすればいいのさ!? 」

 

「……大丈夫。普通のパスワードぐらいなら、ヴェリタスが解除できるはず……! 」

 

 とりあえず今なにか起こる訳ではないことに胸を撫でおろす先生。話の流れからしてヴェリタス預かりになりそうなため、本当にあれがG.Bibleかどうか、そしてアリスに関わる何かがあるかヒマリ達に調べてもらった方がいいかもと判断し、先生達はそれを持ち帰ることを否定しないことにした。

 G.Bibleの入手に喜ぶゲーム開発部一同。その横で先生とウルフウッドは何とも言えない不安を抱えながら、電源の落ちたディビジョンシステムを見つめていた。

 

◇ ◇ ◇

 

 廃墟から帰還し、ヴェリタスにダウンロードしたデータを渡してとりあえず一段落といった様子を見せるゲーム開発部。先生達も今日はシャーレに帰ると伝え部室から退室する。

 

“ さてと…… ”

 

 そして先生は部室棟から出たあたりで携帯を取り出しヒマリに連絡した。

 

<” 廃墟で入手したプログラムについて聞きたいことがあるのだけどいいかな? ”>

 

<こちらもお願いしたいことがありますので丁度よいです。以前お会いした旧校舎の教室でお待ちしていますね>

 

 ヒマリの返事を確認し、昨日と同じ場所へ向かう先生達。教室のドアを開けると昨日と同じようにヒマリとリオがそこにいた。

 

“ こんにちは、ヒマリ、リオ。早速聞きたいのだけど、廃墟で入手したアレは本当にG.Bibleだったの? ”

 

 ヴェリタスがそれを受け取っていたためか、元部長のヒマリが答える。

 ちなみにゲーム開発部からG.Bibleを預かったのはマキであり、なぜヒマリが把握しているかは普通であれば疑問に思うところかもしれないが、先生達はその点に関しては「まあヒマリだし」と考えることにしていた。彼女とは短い付き合いであるが、そういったことに関しては考えるだけ無駄だと先生たちは早くも理解していた。

 

「驚くべきことに、ファイルの情報からしてG.Bibleで間違いはありません。ですがまだパスワードの解読が出来ておらず、()()()()()()()()()()は謎、といった状況です。……そして、中身を確認するためには『ある物』が必要になります」

 

“ ある物? ”

 

「このミレニアム随一の天才美少女ハッカーである私が開発した『鏡』(ミラー)というツールです。詳しい説明は省きますが、セキュリティファイルを取り除いた上でデータを丸ごとコピーできる、と認識していただければ問題ありません」

 

“ ……それってだいぶ危険なものじゃ……? ”

 

「使い方次第、といったところですね。物としてはただ暗号化されたファイルを開くのに最適化したツールというだけですから」

 

 回りくどいヒマリの会話にウルフウッドが痺れを切らし始める。

 

「せやったらさっさとそれを使って調べたらええやないか? 」

 

「それがそうもいかないのです。その『鏡』(ミラー)は現在セミナーに没収されてしまっていて……コタマが『鏡』(ミラー)で先生のスマホのメッセージを確認しようとしたばかりに……」

 

” コタマ…… ”

 

 先生は思い出す。実は以前、シャーレのセキュリティ関係でヒマリ以外のヴェリタスメンバーにお世話になっていたのだが、その際にコタマが盗聴器を仕掛けていたりハレが先生のPCにバックドアを仕込んでいたりしてひと騒動あったのだ。チヒロがブチ切れて彼女たちに説教していたのだが、どうやら懲りていなかったようだ。

 

「……あの盗聴馬鹿はとりあえず置いとくとして、セミナーが持ってるならリオが取ってくれば済む話やろ? なにぐだぐだしとんねん」

 

 ウルフウッドのもっともな意見をリオが否定する。

 

「それはできないわ。この機会にアリスの実戦データを取りたいの」

 

「実戦データ? 実戦なら廃墟でしたやないか? 見張りはおらんかったけど、どうせなにか使って観察してたんやろ?」

 

「確かに単純な戦闘能力は計れたわ。ただ今回は障害にぶつかった際の思考など、より総合的なことを観察するのが目的よ」

 

 リオの説明になんだか嫌な流れを感じた先生が詳細を尋ねる。

 

“ 『鏡』(ミラー)を使わないことがどうしてその実戦っていうのに繋がるの? ”

 

「……G.Bibleの実行に『鏡』(ミラー)が必要と分かれば、彼女達はその奪取に動くでしょう。例え相手がセミナーであっても」

 

“ え、いくらなんでもそれは…… ”

 

 しないだろう、そう言いきる前に先生の脳裏に浮かぶ記憶。始めてゲーム開発部と話をしていた時にユウカから聞かされた、いわくギャンブル大会を始めた、いわく古代史研究部を襲撃したという逸話。出会ってからこれまでの無茶な行動。

 ……そういえぱウルフウッドと初めて会った時も何故か借金取りと勘違いしてたな……あ、駄目だ、容易に流れが想像できてしまう。そう考えが至ってしまい、先生は顔を顰めた。

 

「先生も予想がついたようね。彼女達ならやる。シミュレーションではそう結果がでているわ。先生達へのお願いというのはそれを止めないで欲しいということよ」

 

 先生は頭に手を当て項垂れながらリオに尋ねる。

 

“ ……リオはそれで良いの? セミナー襲われちゃうんだよ? ”

 

「アリス達に悟られずデータを得られる場面は限られているわ。この程度は許容範囲内よ」

 

 セミナーのトップがそう答えてしまう。リオの目的を叶える意味では合理的なのかもしれないが、いささか倫理に欠けている。

 

「……前から思っとったんやけど、ミレニアムには道徳の授業ちうんは無いんか? 」

 

「企業倫理を学ぶ単位ならあるわ」

 

「ウルフウッドさん、常識に囚われていては新たな知識の地平には至れませんよ」

 

「……もうええわ。お前ら頭いい分タチ悪いで……」

 

 ウルフウッドも先生と同じように項垂れる。素直なアビドスの子供達が恋しくなってしまった。

 先生が酸化した苦いコーヒーを飲んだ時のような渋い顔をしながら答える。

 

“ ……わかったよ。もしあの子達自身がセミナーを襲撃することにしたら止めない。ただし、私の提案も飲んで欲しい ”

 

「提案? なにかしら? 」

 

“ セミナー襲撃に関しては実戦に即した演習ということにしておいて欲しいんだ。例えば……セミナー襲撃を想定した対テロ演習とか ”

 

「……なぜ? 」

 

“ セミナーを襲撃したらどんな結果であれゲーム開発部の子達にはペナルティが課されるでしょ? それに、それを言い渡すユウカだって辛いだろうし……でも実は演習だったってオチならなんとか丸く収まると思うんだ。……この提案が飲めないなら、私はゲーム開発部を応援する立場として彼女達を止めざるを得ないかな ”

 

「……わかったわ。後で正式な書面も用意しておく」

 

“ ありがとう ”

 

 そうして色々取り決めを決めていく先生たち。とりあえずゲーム開発部が『鏡』(ミラー)を求めてセミナーを襲撃すると決めた場合は止めない、かつウルフウッドは参戦しない。これは抜き打ちの対テロ演習であり、セミナー会長リオからシャーレの先生へ依頼したものである。『鏡』(ミラー)は奪還に成功しようがしまいが回収したプログラムは確認する、ということに決まる。

 

(……とんだ茶番やな)

 

 自業自得なところが多々あるとはいえ、上の連中の思惑に巻き込まれているゲーム開発部に流石に同情するウルフウッド。アリスのことを調べるためとはいえ巻き込まれる面々はいい迷惑だろう。

 

” とりあえずはこんなところかな? ”

 

「ええ、そうね」

 

 先生とリオの会話も終わり、この場はお開きとなる。旧校舎から出て、ウルフウッドのバイクでシャーレへの帰路に着く二人。

 

「……なあ、ワイ素人やからよくわからんのやけど、ゲーム開発っちうのはこんなこともせなあかんのか? 」

 

” 私も素人だから断言できないけど、違うと思うなぁ…… ”

 

「” はぁ ”」

 

 今までにないタイプの気苦労が多く、ミレニアムに来てからため息をつくことが多くなったなあ、なんてことを思いながら二人はシャーレへと戻った。




ミレニアムの生徒たち、根が良い子なのは分かるのですがいかんせん道徳が欠けている子が少し……少しか?……多いイメージがあります。どの組織にも問題児がいるというか、なんというか……
この間のイベントでも出てきた新キャラ、ミライも似非科学詐欺してたし……
こんな問題児ばかり相手してたらそりゃユウカやチヒロはオカン属性付きますよ。


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