ウルフウッドアーカイブ   作:タニシ・トニオ

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09_鏡を求めて

「……やろう! 生徒会に潜入して『鏡』を取り戻す! 」

 

(“ やっぱりこうなっちゃうのか…… ”)

 

 先生は表面上はにっこりと笑みを保ちながら、モモイの宣言に内心では苦笑いを浮かべていた。予想していた結果とは言え、もうちょっと穏便に済む方法を探して欲しかった。まあ話の流れが流れだし、何かあれば銃が出てくるキヴォトスの住人としては一般的な思考なのかもしれないが……。

 

 彼女の発言の発端はゲーム開発部がG.Bibleの解析についてヴェリタスに呼び出されたところから始まる。ヴェリタスはミレニアム非公認の部活で、部長のヒマリ(別件の活動があるらしくヴェリタスの活動は休止中)、副部長のチヒロ、部員のコタマ、ハレ、マキで構成されているハッカー集団だ。そして現在ヴェリタス唯一の良心であるチヒロは用事があり不在だったりする。

 ……ちなみにチヒロがいない時は同じく三年生であるコタマがストッパーになるべきだろうが、彼女は以前シャーレに盗聴器を仕掛けまくった経歴を持つ一番の問題児である。つまり、この場には先生かウルフウッド以外にストッパーとなれる人間がいない。そしてその二人はリオ達との契約上、その役割を果たせない。それもあってか話はトントン拍子に進んでいく。

 

 ゲーム開発部からG.Bibleを預かっていたマキいわく、G.Bibleは本物で、しかし中身を見るには『鏡』が必要だと説明される。そしてそれは現在セミナーに没収されていることも。そこまでは先生達もヒマリから聞いていた。

 

「このままだと部長に怒られる! ……というわけで私達も『鏡』を取り戻したい。ミドモモもG.Bibleのパスワードを解くために『鏡』が必要……つまりはそういうことだよ」

 

 セミナー襲撃を提案したのはマキからだった。ヴェリタスには部長の発明を勝手に使って取り上げられたことを隠したいという動機があるらしい(既にヒマリにバレているが)。その提案に予想通りモモイが乗ってしまい、セミナー襲撃のパーティーが結成されてしまう。

 

 マキが「鏡」の具体的な保管場所を説明する。

 

「……それで『鏡』は生徒会の『差押保管所』に保管されてるんだけど、そこを守ってるのが実は……メイド部、なんだよね」

 

それを聞いてアリスを除いたゲーム開発部が顔を青ざめる。

 

「諦めよう‼ ゲーム開発部回れ右! 前進っ! 」

 

「待って待って待って! 諦めちゃダメだよモモ! G.Bibleが欲しいんでしょ!? 」

 

「そりゃ欲しいよ! でもだからってメイド部と戦うなんて冗談じゃない! 」

 

 モモイとマキが軽い口論を始める。その横でアリスがミドリに尋ねた。

 

「メイド部とは危険な存在なのですか? 」

 

「アリスちゃん、メイド部っていうのは通称でね、C&Cっていうミレニアムの武力集団がいるの。メイド服を着て、過激団体や武装サークルとかを綺麗さっぱり掃除する……絶対に敵に回しちゃいけない人たちなんだよ」

 

「……理解しました。すごい人たちなのですね。ウルフウッドとどちらが強いのでしょう? 」

 

 そのアリスの一言で場がシンと静まり返る。そして生徒たちの視線がウルフウッドに集中していた。

 

「……なんやねん」

 

「そうだ、ウルフウッドさんが居たじゃん!! ウルフウッドさーん! 無敵のパニッシャーでなんとかしてよぉ〜! 」

 

 ウルフウッドに泣きつくモモイ。当然答えはノーだ。

 

「駄目に決まってるやろドアホ。廃墟で暴れるのとはワケちゃうんやぞ」

 

「そんな事言わないでよ〜、私たちの経験値とかはいいからさぁ〜」

 

「そういうわけちゃうわ。そもそもワイはアビドスの生徒や。わかるか? ワイがセミナー襲撃したら普通に外交問題やろが」

 

 それを聞いてコタマが異を唱える。

 

「ですがシャーレの部員としてなら制度上問題ないのでは? 」

 

“ ……コタマ、確かにシャーレは部員を制約無しにどの自治区でも戦闘活動を行わせることができる権限があるけど、それには当然責任も伴うんだ。学校間の不和を招きかねないことにこの権限は使えないよ。だから彼を頼るのは今回は無しかな ”

 

「ちうわけでワイはここでおさらばや。ほなさいなら」

 

 先生がコタマを諭した時点で帰ろうとするウルフウッド。逃がすまいとモモイがすがり付く。

 

「ちょっと待ってぇぇ! 見捨てないでよぉ! 」

 

「服伸びるやろ! 離せっちうねん! センセがそっち手伝ったるからそれで我慢せえや! 」

 

 モモイをひっぺがし、逃げるように立ち去るウルフウッド。

 

「薄情者〜!! ビーム牧師〜!! 」

 

「ビーム牧師って……いや、それよりもお姉ちゃん、ウルフウッドさん抜きでどうするか考えないと……いくら先生が居てくれてもC&C相手は流石に……」

 

 コタマが眼鏡を上げる。

 

「いえ、私の盗ちょ……情報によると、現在のメイド部は完全な状態ではありません。つけ入る隙はあります」

 

 コタマからC&Cのリーダー、コールサイン・ダブルオーのネルが現在不在である情報がもたらされる。また勝利条件もあくまでC&Cに勝つのではなく正面衝突を避けて『鏡』だけを奪って逃げればいい。それであれば可能性があるか、という雰囲気が広がっていく。決め手はアリスの言葉だった。

 

「私達ならできます。アリスは計三十七個のRPGをやって……勇者たちが魔王を倒すのに必要な、そして絶望だらけの世界でも前に進める光となる、一番強力な力を知りました」

 

「一番強力な力……レベルアップ? あ、装備の強化? 」

 

「盗聴ですか? 」

 

「EMPショックとか!? 」

 

「ち、違います……」

 

” ……仲間だよね? ”

 

「その通りです先生! 一緒にいる、仲間です! 一人一人ではできないことがあっても、仲間と力を合わせれば道を切り開くことができます」

 

 アリスの言葉を聞いてモモイが決意する。

 

「アリス……。うん、よし、……やろう! 生徒会に潜入して『鏡』を取り戻す! 」

 

 一致団結して計画を練りだすメンバー。先生は彼女たちを見守りつつ、ウルフウッドにある連絡を入れていた。

 

◇ ◇ ◇

 

<” 予想通りセミナーに侵入することになったよ。やっぱりあれは必要になりそう。スイーツ部に入手はお願いしておいたから受け取りお願い ”>

 

「……わかっとるって。ワイらの命を救ってくれる大切なスイーツ様や。丁寧にお出迎えしたるわ」

 

 ゲーム開発部達からおさらばしていたウルフウッドは先生からのメッセージを受け取りトリニティへと向かっていた。理由はトリニティで美味しいと評判のドーナツ詰め合わせセットを入手するため。ゲーム開発部の襲撃後のユウカへの、ひいてはセミナーへのご機嫌取りの品である。

 

 いくら「リオから依頼された抜き打ちの演習」というオチを用意してあったとしてもセミナーの生徒達からしたら今回の襲撃はたまったものではないだろう。ましてや書類仕事が得意でない大人二人の手伝いをしにシャーレによく来てくれるユウカからしたら、恩を仇で返されたような気分になるかもしれない。また仮にユウカが許してくれたとしても、まだ面識の無い他のセミナー生徒の機嫌を損ね、ユウカをシャーレに行かせない様にされてもアウトだ。

 現状、何故か度々ある連邦生徒会財務室長アオイの総決算を捌ける事務能力はユウカ抜きのシャーレには無い。ユウカの機嫌を損ねるのはわりと致命的だった。

 そんなわけで女の子に対して無敵のスイーツ様になんとかしてもらおう、というのが今回の作戦である。情けないことは理解しているが背に腹は代えられないため、ウルフウッドもドーナツ回収には真面目だった。

 

 スイーツ部と待ち合わせの場所に着くと、ドーナツが入った箱を両手で抱えている一人の生徒を発見する。それはセリカと同じような黒い猫耳、しっぽを持つスイーツ部のカズサだった。ウルフウッドはバイクから降りカズサと対面する。

 

「お使いありがとさん。荷物受け取りに来たで」

 

「うっ、ウルフウッドさん!? ……ど、どうも。えっと、先生は? 」

 

「センセは別件対応中や。せやからワイが代理やで」

 

「そう、なんだ……」

 

「すまへんなぁ、愛しの先生やのうて」

 

「べっ、別にそんなんじゃないし! とにかくこれっ、早く受け取って……ください」

 

 頬を真っ赤にするカズサからドーナツが入った箱を受け取りサイドカーへと載せながらウルフウッドは思う。最近こんな生徒が増えたなぁ、と。

 

 

 アビドスでの事件解決の際に元カイザー理事逮捕の報道がされ、その立役者としてシャーレの名が広まったこともあってか、これまで結構な数の依頼がシャーレに舞い込んでいた。目の前のカズサもシャーレに相談してきた生徒の一人だ。

 そして、そうした数々の依頼のどれもに先生は真摯に向き合ってきた。ぶっちゃけやり過ぎていた。どんな依頼内容でも馬鹿にせず、肯定し、真剣に取り組んでくれる大人の男。ついでに言うと顔も結構いい。そんな存在、乙女の情緒を乱すには十分すぎた。それもありカズサのように先生に熱っぽい視線を向ける生徒がチラホラ現れ始めていたのだ。

 

 ちなみにウルフウッドもウルフウッドで結構な人数の情緒を乱したりしているのだが、賞金稼ぎしていた時の名残で怖がられることも少なくなく、そういった反応に隠れてしまうこともあってか当人は気づいていない。カズサのウルフウッドに対する少しギクシャクした態度も、中学のスケバン時代にウルフウッドに喧嘩を挑みコテンパンにされたことがあるからだったりする(ウルフウッドは覚えてなかった)。ただ逆を言えば賞金の為とはいえそれだけ人を助け治安維持に貢献していた訳であり、牙を持たない人や秩序側の人間には実は受けがいいのが彼だった。アルの様に助けられ、アメなんか差し出されたら情緒だって乱されるというものだ。

 そんなこともあり、ウルフウッドは先生を「女たらし」と揶揄ったりする時もあるが、お前も人のこと言えないだろクソボケとは某ピンク髪生徒談だったりする。

 

 閑話休題。兎に角、今回のことで機嫌を損ねたくない対象のユウカは、カズサと同じく先生を慕っている生徒の一人だ。ドーナツで武装した先生なら特攻決まってどうにかなるだろう、とウルフウッドは考えていた。問題はユウカ以外のセミナーの生徒だ。以前ユウカから聞いた内容では、やはりウルフウッドが雷泥を殺害した事件の情報をセミナーは持っているらしい。ユウカは何度かシャーレを訪れて交流するうちにウルフウッドの人となりを知ったので彼に対する嫌悪感は無いが、その他のメンバーからしたらユウカが度々殺人犯を有している組織に赴いているように見えているかもしれない。少なくともいい印象は持っていないだろう。だとしたらこれをキッカケにシャーレと縁を切れなんて言われたらたまったものでは無い。

 

(……まあ、ここはもうあの女たらしにまかせるか。適材適所っちうことで)

 

 今回の依頼、本当に自分の出番無いな、なんてことを考えつつドーナツをバイクに積み終えると、カズサに駄賃と飴ちゃんを渡してウルフウッドはミレニアムへと戻った。

 

◇ ◇ ◇

 

 ウルフウッドがミレニアムにまで戻ったころには日も沈んでいた。とはいえ侵入するといえば相場は夜であり、本格的な作戦の実行はこれからだと先生から連絡が入る。

 

<“ ネタバラシの段階になったら呼ぶから、それまで待機してて ”>

 

<それならミレニアム最高の清楚系美少女である私と一緒に観戦でもいかがですか? >

 

 さも当たり前のように先生とウルフウッドのモモトークに割り込むヒマリ。

 

「……こいつはホンマ……」

 

 ウルフウッドは呆れるが、他に丁度いい時間潰しも無いためヒマリの案に乗る。

 

<どこ行けばええ? >

 

<地図を送りますね。ちなみに地図はウルフウッドさんの到着後に自動的に消えますので悪しからず>

 

<ようやるわ>

 

 携帯を仕舞いヒマリの元へと向かうウルフウッド。これが終わったら先生と自分の携帯をチヒロに診て貰う必要あるなと考えつつ地図の場所へと向かった。

 

◇ ◇ ◇

 

 ヒマリに指示された場所に到着したウルフウッド。そこは何やら大層な機器やモニターがところ狭しと設置されている部屋だった。なんでもヒマリが今所属している部活の拠点の一つらしい。

 部屋の説明には興味なさげにウルフウッドが部屋の席に着くと、ヒマリがウルフウッドの持っている物に気付く。

 

「おや、ずいぶんと甘い匂いがしますね」

 

「セミナーへの労い品や、やらへんで」

 

「そんなにあるのですから場所代として一つくらいは良いのでは? 」

 

「そもそもお前らがなぁ……いや、ええわ」

 

 屁理屈をこねくりまわしてくる相手にはセンセの方がええやろ、とウルフウッドは先生にヒマリの指導を投げることにして彼女にドーナツを渡す。足りないよりは余らせた方がいいだろうと大量に買っていたため実際数に余裕はあったし、何よりヒマリとの問答が面倒だった。

 

「コーヒーあるか? 」

 

「レトルトで良ければそこのキッチンの棚の中に。あと紅茶もあるので私はそれでお願いします」

 

「チッ、ほんまええ性格しとるで自分」

 

 ウルフウッドはコーヒーと紅茶を淹れ席に戻るとヒマリに紅茶を渡す。そして自分もプレーンタイプのドーナツを一つ取り、部室に備え付けられている画面を観た。自分としては理屈は分からないが、どうもミレニアムタワーの監視カメラの映像が映し出されているらしい。そしてこれから「鏡」奪還作戦が開始されるようだ。ヒマリから作戦の簡単な解説がされる。

 

「まずゲーム開発部にはサポートでヴェリタスの他にエンジニア部も加わっています」

 

 どうやらエンジニア部まで「面白そうだから」「先生と仲良くなりたいから」という理由で仲間に加わったらしい。それで生徒会を襲うというのもどうかと思うが、あいつらはあいつらで頭おかしいとこあるからな、とウルフウッドは納得し、黙って耳を傾ける。

 

 作戦の概要だが、まずミレニアムタワーの最上階にあるセミナーのエリアに行くにはセミナー所属生徒しか開けられないエレベーターに乗って行くしかなく、正攻法ではまず侵入は無理だ。そのためまずアリスが昼間の内にスーパーノヴァでエレベーターを破壊し、修理せざるを得ない状況にする。それによりアリスは拘束されてしまうが、代わりにヴェリタス特製のプログラム入りの修理パーツをエレベーターに仕込むという事前準備がなされていた。

 

「……ってアリス捕まっとるやんけ。あいつ観察するのが本来の目的やろ? あかんやん」

 

「そうですねぇ、リオからしたら不服かもしれません。ですが私としてはその様な状況下でアリスがどう行動するかを知りたいので、何も問題はありません」

 

 ヒマリはそう言いきり、作戦の概要説明を続ける。

 

 ミレニアムタワーのセキュリティーには部外者が侵入するとシャッターが降りて閉じ込められてしまうシステムが組み込まれている。そしてそのシャッターはセミナーの生徒の生体認証でしか開錠できない仕組みだ。それを逆手に取り、エレベーター修理パーツに組み込んでおいたプログラムで開錠権を書き換え、ゲーム開発部達にその権限を移行しておく。そしてコトリ、マキがおとりになってメイド部をおびき寄せたところでモモイ、ミドリが侵入し、シャッターでメイド部たちを閉じ込める、というのが作戦の第一段階。

 そして、侵入したモモイ、ミドリが内部でエンジニア部特製の超小型EMPを起動。それによりミレニアムタワーのシステムを約六秒間ほど無効化できるため、その隙にハレがミレニアムタワーをハッキングし電子式の扉の開錠権限を奪取、差押保管所までの道を確保する、というのが作戦の第二段階だ。

 

 正直ここまでの話は電子関係に疎いウルフウッドにとってはチンプンカンプンの内容だったが、恐らく先生も知恵を出してよく練った作戦なのだろうな、ということは感じていた。

 

「……聞いとる感じ特に問題なく『鏡』ゲットできてしまいそうやな」

 

「ですがそうは問屋が卸しません。あそこにいるのはC&Cですし、なにより私がセミナーに『ゲーム開発部の子達が遊びに行きますよ』とお伝えしておきましたから」

 

「……お前、これ建前上は抜き打ちの演習なの分かっとるんか? 」

 

「ですが事前情報がなにも無しだとあまりにもセミナーの子達が不利でしたので。一般人から『不審者がいましたよ』と通報があったと思ってくだされば」

 

「物は言い様やな」

 

 モニターを眺めるウルフウッド。作戦はすでに開始しており、状況としては作戦通り事が進み、防災兼セキュリティー用のシャッターでセミナー側を閉じ込めることに成功していた。ゲーム開発部も順当に先に進んでいる。

 しかし、ヒマリの言っていた通り思い通りに事は進まず、C&Cが動き出す。

 

 窓の外からゲーム開発部へ、突如として大口径の弾丸が飛来する。それは以前ウルフウッドを監視していたC&Cのスナイパー、カリンから放たれたものだった。モモイ達は物陰に隠れるが、カリンはそれすら予測し壁を撃ち抜いてモモイ達を襲撃する。

 

(ほお、ええ腕しとるな……)

 

 純粋に高い狙撃能力を持つカリンを評価するウルフウッド。噂に名高いエージェント集団と言われるだけあると感心する。先生がいるにも関わらず狙撃を敢行できるだけの確かな実力をカリンは持っていた。

 それはすなわち双子の絶体絶命のピンチでもあるのだが。

 

 だがその狙撃をエンジニア部のウタハとヒビキが阻害する。その隙に先に進む双子と先生。EMPを起動し作戦の第二段階までが完了する。

 

 しかし差押保管所まであと少しというところで今度はC&Cのコールサインゼロワン、アスナが立ちふさがる。訳の分からない超直感でモモイ達が来るであろう進路上に待ち構えており、驚異の白兵戦能力で先生の指揮在りのモモイとミドリを追い詰めていた。しかもそこへウタハを押さえたカリンの狙撃が復活し、さらにシャッターから脱出したC&Cのアカネ、ユウカまでもが駆けつける。まさしく絶体絶命のピンチにモモイ達は陥っていた。

 

 ウルフウッドはそんな場面が映し出されているモニターではなく、別のモニターを見ていた。それはアリスが映し出されているモニターだ。

 

「……停電したあたりから動き出しとったな。モモイ達は囮でこっちが本命か?」

 

「そのようですが、しかし……この方向は……」

 

 ハレのハッキングにより電子錠の開錠権限はアリスにも与えられていた。故に反省部屋に閉じ込められていたアリスはそこから脱出し、モモイ達が暴れている隙に単独で差押保管所から「鏡」を奪取するのがアリスの本当のミッションだった。しかし、アリスが向かっているのは差押保管所ではない。

 

「……ターゲット確認。魔力充電、百パーセント。……光よ!! 」

 

 アリスが放った極光にアスナが飲み込まれる。アリスが向かったのは差押保管所ではなく仲間たちの元だった。

 

「モモイ! ミドリ! 先生! 今です!! 」

 

「アリスちゃん!? 」

 

「どうしてここに!? 」

 

 本来の作戦通りであればこの場にいないはずのアリスに驚くモモイとミドリ。互いに駆け寄り合流する。

 

「生徒会の差押保管所に向かう途中に、考えていました。あらゆるRPGの……『テイルズ・サガ・クロニクル』の主人公も……そして勇者ヴァッシュも、決して仲間のことを諦めたりしませんでした。なので、アリスもそうします。そうしたいと思いました! 試練は、共に突破しなくては! 」

 

「アリスちゃん……」

 

「うん、どうせこのまま捕まったら全部終わり。行こう、ゲーム開発部! 」

 

「うん! 」

 

” ゲーム開発部、ファイヤーッてやつだね! ”

 

 気づけばカリンの狙撃も止まっていた。どうやらヒビキが上手いこと対策してくれたらしい。アスナもアリスの不意打ちで行動不能であり、機運がゲーム開発部へ傾いていた。C&Cメンバーで唯一無事であるアカネもどちらかと言えば工兵寄りの能力なこともあり、先生の指揮も相まって何とかその場から逃げ切るゲーム開発部。

 

 その様子を眺めていたウルフウッドへヒマリが話しかける。

 

「……ずいぶんと嬉しそうですね、ウルフウッドさん」

 

「は? どこがやねん」

 

「気づいてないのですか? 顔、笑ってますよ」

 

「……チッ」

 

 言われて気が付いたのか、ばつが悪そうに舌打ちするウルフウッド。それに対してヒマリはニヤニヤと意地の悪そうな笑みを浮かべる。

 

「ええ、わかりますよ。アリスは本当に仲間思いの良い子になりました。……あの場面で仲間を選択する……なるほど、これがアリスという子なのですね」

 

「ええわけあるか、馬鹿の仲間入りやぞ」

 

 あえてヒマリの方を見ずにモニターに視線を向けるウルフウッド。確かにヒマリの言う通りここ数日の間でアリスは劇的に変化していた。最初出会った時の人形のような状態が信じられないほどだ。もしアリスを回収したのがゲーム開発部でなかったらどうなっていただろうか。少なくともリオやヒマリに回収されていたらこうはなっていないだろう。

 

(ホンマ、よう笑うようになったな)

 

 ふと思う。アリスは人間ではない。であれば、寿命もヴァッシュのように長く、これからずっと生き続けることになるのだろうか?

 もしそうだとしたら、やはりゲーム開発部がアリスを回収したのは正解だったかもしれない。ヴァッシュが言っていた。楽しく飲み明かした時に「僕は今夜のことをきっとしつこく思い出す」と。きっとそれがあいつの笑う秘訣なのだろう。

 アリスもヴァッシュのようにぐるぐるふらふら、たった一人ぎょうさん生かされることになるのであれば、笑える思い出は多い方が良い。

 仲間と一緒にメイド達から逃げおおせているアリスは笑顔だった。きっと今夜の作戦も楽しい冒険の書の記録として残されるだろう。そしてきっとしつこく思い出すのだ。

 ……それでええ。そう思う。

 

 ウルフウッドはまた無意識に笑みを浮かべていた。彼の様子を見て、ヒマリは自身が内心で下していたアリスへの評価が正しいものだと確信を強めていた。

 

 

 観察しているウルフウッドたちを他所に、ゲーム開発部はついに差押保管所にまでたどり着いていた。そして「鏡」を入手し帰還しようというところで、アリスが近づいてくる気配を察知する。

 

「接近対象を確認、ミレニアムの生徒名簿を検索……対象把握。身長百四十六センチ、ダブルSMG、メイド服の上から龍柄のスカジャン……」

 

 アリスの読み上げた情報に顔が青ざめるモモイとミドリ。

 

「え……? 」

 

「ま……まさか……!? 」

 

「隠れてッ!! 」

 

 急いで差押保管所内の机の下に隠れる面々。暫くするとC&Cのコールサインダブルオー、ネルが姿を現した。

 

 モニター越しで見ていたウルフウッドも少しばかり驚く。

 

「こいつおらんっちう話やなかったか? 」

 

「ふむ……彼女がいるとワンサイドゲームになってしまうからとリオが外していたはずですが……まさかリオ、データ欲しさに急遽彼女を投入しましたね? 」

 

「……ああ、どおりで」

 

「? 」

 

(あいつらがどこにいるかなんぞとっくに気づいとるやろうに、モタモタしとるのはそれでか……)

 

 ネルは差押保管所の机の下を()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()覗き込んで確認していた。ウルフウッドからするとそんなネルの様子は、嫌な仕事に中々手を付けられずダラダラしてしまう時の仕草をしているように見えていた。

 

 実際ウルフウッドの考えは的中していた。ネルはリオから急に「セントラルタワーに侵入者が現れたから様子を見てきて」と呼び出され、いざ侵入者がいるとされている部屋に立ち寄ると少し前まで観察対象だった奴らが身を潜めているという状況だった。

 

(……チッ、またなんか企んでやがるな、リオのやつ)

 

 絶対に正体を把握していたであろう襲撃者たちの情報が与えられなかったことといい、訳の分からないこの状況と言い、正直言って乗り気になれる要素なぞ皆無だ。しかも大して強くなさそうなゲーム開発部が相手というのも余計にやる気が削がれる。

 

(せめてあのエセ牧師が相手だったら面白そうだったんだけどなぁ~)

 

 そんなことを思いながら最後に残しておいたゲーム開発部が隠れている机の前に立つ。気が乗らねえけど終わらせるか、と意を決して机の下を覗き込もうとした、その時だった。

 

「あ、あの! ね、ネル先輩! 大変です! 」

 

 部室で待機しているはずのユズがその場に現れ、ネルに声をかける。

 

「あん? ……あんたは…… 」

 

「せ、生徒会『セミナー』所属の、()()()です。差し押さえていた戦闘ロボットが暴走したせいで今、あちこちがめちゃくちゃなんです! アカネ先輩とカリン先輩が制圧を試みていますが……」

 

(ユズキ? 確かこいつはアカネの報告書に載ってた……ゲーム開発部の部長のユズ……とかいう奴じゃなかったか? ははあ、そういうことか……)

 

「……はあ、仕方ねえな」

 

「こ、ここの整理は私がしますので……そ、その、戦闘は怖くて……経験も、あまり無いですし……」

 

「そうか、じゃあ頼む」

 

 ユズの嘘の情報に納得した素振りを見せ、ネルはユズの立っている部屋の出入り口へと向かう。そしてユズとすれ違う寸前で立ち止まりユズを見据えた。

 

「あんた、度胸あるな。自分がどう思われてるかくらい、あたしも分かってる。それにあんたが結構ビビリなのもまあ分かる。それなのにあたしに声かけるなんて相当勇気が必要だっただろ」

 

「は、は、はい!? あ、ありがとうございます!? 」

 

「じゃあな、またどっかで会おうぜ」

 

 ユズの背中を軽く叩き、その場から去っていくネル。

 実際のところユズの行動はネルにとっても渡りに船だった。あくまで自分は「見てこい」としか指示を受けていなかったので一応命令はこなしているし、なにか理由があればこの場から離れても問題は無かった。なによりユズの度胸を買っていた。だからいいかと身を引いた。

 

(ネルの奴、あえて見逃したか……こらユズがMVPかもな)

 

 その様子を確認しながらウルフウッドは椅子から立ち上がる。

 

「行かれるのですか? 」

 

「そろそろこのドーナツが必要になりそうやからな。ほれ見てみい」

 

 ウルフウッドが指さすモニターには、「鏡」を入手したゲーム開発部に気づいてセミナー側の戦力が差し迫っており、先生が ”私が囮になるから皆は逃げて!! ”とゲーム開発部に言い放つ陳腐なクライマックスシーンが繰り広げられていた。

 

「あれやあれ、『ワイらの戦いはこれからや』っちうやつや」

 

「そうですか、頑張って下さいね。ああ、先生にお会いしたら『私は満足のいく観測が出来ました。ご協力ありがとうございました』とお伝えしておいてもらえますか」

 

「そういうのは直接言えや。お前らの都合に乗ったせいでこれからユウカの説教一時間は確実なんやぞ。はぁ……」

 

 ウルフウッドがため息をつきながらドーナツを抱える後ろで、「鏡」を手に満面の笑み浮かべながらヴェリタスの元へと向かっていく勇者パーティーの姿が映し出されていた。




鏡奪取作戦は原作通りの内容でウルフウッドも関与してないのでサクッと終わらせます。
ちなみにネルがこの時点でゲーム開発部を知ってるのが原作との相違点ですが、アリスを工場から連れ出すところまで監視してたのはネルだからです。ユズのことはそれでゲーム開発部のメンバーを確認したから知っていた、という感じです。
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