ウルフウッドアーカイブ   作:タニシ・トニオ

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10_渡来銃(トライガン)

 先生達はリオからの演習依頼書とドーナツを装備し、ユウカ説得バトルに無事勝利していた。それにより今回のセミナー襲撃に関わったメンバーは無罪放免となり、またセミナーとしても今回のことでセキュリティーの弱点を身を持って知ることができたとして丸く収まってくれた。代わりに先生がユウカにディナーをご馳走する約束が取り付けられてしまったが、その程度は仕方ない出費だろう。

 実は大量のドーナツと合わせるとそこそこの出費になってくるのだが、先生はその現実から目を背けた。

 

 とにかく「鏡」奪還作戦は成功に終わり「鏡」は無事ヴェリタスに届けられた。そして翌日、先生達は再びヒマリ達に呼び出され旧校舎に集まる。

 

「先生、昨日の演習お疲れさまでした。ヴェリタスとしてもセミナーとしても大変実入りのある内容でしたよ」

 

「勝手にセミナー側の評価もしないで欲しいのだけど」

 

「あら、ユウカやノアは『ミレニアムタワーのセキュリティーの弱点を自覚できました』と言っていたではありませんか。リオ、気に入らない観測結果だったからといって不機嫌になるのはいただけませんよ」

 

「……私は不機嫌ではないし、あなたがセミナーの評価を代弁する理由になってないわ」

 

“ あの、とりあえずその辺で…… ”

 

 冒頭いつもの言い争いが始まりそうだったので先生が二人を収める。

 

「んで、結局G.Bibleと一緒になんか変なもんは入ってたんか? 」

 

「……<key>というデータが入っていました。ただそれが私たちの使用するコンピューター言語とは全く違った言語で構成されており、現状は手が出せないと言ったところですね」

 

「そか。まぁそういうの門外漢やからなんも言えへんわ」

 

“ 引き続き調べはするんだよね。何か分かったら私たちにも教えてくれるかな? ”

 

「ええ、何か判明したらお伝えしますね。よろしくお願いします」

 

 結局アリス関連についてはあまり進展は無かったもののG.Bibleについての報告は済み、リオがまとめに入る。

 

「とりあえずアリス自身の観察は現状危険性は無しと判断して終了するわ。先生達はゲーム開発部の依頼に専念してもらって結構よ」

 

「結構も何も、ワイらは巻き込まれただけで最初からそのつもりやで」

 

「……」

 

“ ま、まあお互いお疲れ様ってことで、ね ”

 

 またしても空気が悪くなりそうだったので早々に切り上げるように動く先生。こうやって間に入るのは何度目だろうと思いつつ、話を終え会合の場から去っていく。

 

” ウルフウッド、なんでそう喧嘩腰になっちゃうの? ”

 

「逆に聞きたいわセンセ。あんだけ色々振り回されて大した成果も無し、その上あんな態度取られてなんで腹立たへんねん」

 

” 彼女たちも彼女たちで色々抱えてるんだよ、多分。元々調べてた『あるもの』とか、私達にも話せないことをさ ”

 

「お人好しが過ぎるで。センセがそないな態度やから、あいつらそれに甘えてあんな態度やねんぞ」

 

” 子供が大人に甘えるのは普通のことだよ。それができない方がどうかしてる ”

 

「そうやって何でもかんでもしょい込もうとするのもどうかしとんで。尻ぬぐいするワイのことも考えてくれ」

 

” 君も大人だろ、悪いけど一緒にしょい込んでもらうよ。というわけでこれからあの子たちの差し入れを一緒にしょってもらうからヨロシク ”

 

「チッ、仕事やなかったら断っとるでホンマ」

 

 先生とウルフウッドは一緒に近くのスーパーへと立ち寄る。差し入れをするあの子達とは無論ゲーム開発部の生徒たちのことだ。

 アリスについてのいざこざを知らない彼女達からしたら、念願のG.Bibleを片手にこれから本当の勝負、つまりゲーム制作が始まるわけである。先生はゲーム制作のことはよく知らないがミレニアムプライスの締め切りまでの約一週間はきっと修羅場になるだろうと予想がついていた。よく書類仕事で修羅場を経験する身としてはそのつらさはよくわかる。ゲーム制作の段階に入ると自分達にできることは無いため、せめて修羅場の際にあると助かったものなどを買い込んで差し入れようとしていた。

 

 そして作業の片手間に摂取できる食事やエナジードリンク「妖怪MAX」などを両手に抱え、二人はゲーム開発部の部室を訪れる。

 

「終わりだあああああ!!! 」

 

「これが現実……これがトゥルーエンド……」

 

「うう……」

 

 扉を開けて広がる光景にウルフウッドは顔を顰めた。モモイは泣きわめき、ミドリは目のハイライトを消しながら座り込み、ユズはロッカーに籠っている。まるで葬式でも来たかのような光景が広がっていた。

 仲間たちの状態にオロオロしていたアリスがウルフウッド達に気づく。

 

「ウルフウッド! 先生! 助けてください、みんなの正気がログアウトしてしまいました! 」

 

「仕方ないじゃん! 最後の手段だったのに! それがあんな誰でも知ってる文章一つだけなんて! 釣りにもほどがある! 」

 

「一体何がどないなっとんねん!? 」

 

 モモイが叫ぶが、その内容だけでは何が何だか分からないためウルフウッドはモモイ、ミドリ、ユズを掴み上げて目の前に並べ座らせる。そして改めて事情を聞きだした。

 そして判明した事実。あんなに苦労して手に入れたG.Bibleの中身が、神ゲー制作の秘訣が、なんと「ゲームを愛しなさい」の一言が入っていただけだというのだ。真理と言えば真理かもしれないが、確かにこれは彼女たちが荒れるのも分かる。

 

「ま、世の中そない美味い話は無いっちう話やな。一つ勉強になったやんけ」

 

「今勉強しても遅いんだってばああああ‼ 」

 

「どうしよう……G.Bible無しじゃ受賞できるようなゲームなんて作れない……」

 

「うう……部室追い出されたら、私どうすれば……」

 

 三人が再び葬式の様な空気を纏いだす。そんな彼女たちに先生はしゃがみ込んで目線を合わせた。

 

” ……君たちの白紙の切符はまだ無くなってないよ。でも行き先を書かなくちゃ、どこにも行けないんだ。もしかしたら目的の場所にはたどり着けないかもしれない。それでも、行き先を決めないと先へは進めない。……君たちはどこへ行きたい? なにをしたいのかな? ”

 

 いつまでも答えを待つかのように、優しい口調でゆっくりと先生は問いかける。少しの間の後、それに応えたのはユズだった。

 

「……わたしの夢は……わたしが作ったゲームを、みんなに面白いって言ってもらうこと、です。モモイとミドリと一緒に完成させた『テイルズ・サガ・クロニクル』は……今年のクソゲーランキング一位になっちゃったけど……アリスちゃんやウルフウッドさんが面白いって、思い出になるって言ってくれて、それで、私の夢は叶いました……」

 

「ユズ……」

 

「ユズちゃん……」

 

「心の通じ合う大事な仲間たちと、一緒にゲームを作って、それを面白いって言ってもらう……。ずっと一人で思い描いているだけだった、その夢が。……これ以上は、欲張りかもだけど、それでも私はこの夢が……この先も、終わらないでほしい。またみんなと一緒に、今度はアリスちゃんも交えて、面白いって言ってもらえるゲームを作りたい。……それが私の、切符の行き先です」

 

 ユズの目に光が戻る。アリスも仲間の復活に喜びを露わにした。

 

「ユズ、アリスも同じです。『テイルズ・サガ・クロニクル』をやるたびに思うのです。ユズが、モモイが、ミドリが、あのゲームをどれだけ愛しているか……それが感じられるあの世界の冒険は、胸が高鳴ります。あのゲームはアリスに新しい世界を冒険する、その夢を教えてくれました。今度はアリスも、夢を与える世界を創造する冒険に出てみたいと、そう思いました。……冒険には仲間が必要です。ユズ、アリスとパーティーを組んでくれませんか? 」

 

「……うん、もちろんだよ! 」

 

 互いに手を取り合った二人は、モモイとミドリに手を差し出す。

 

「モモイ、ミドリ、二人にもパーティー申請を出します。私達と一緒に、ゲームを……新しい世界の創造する冒険へと挑みませんか? 」

 

 モモイは目にたまっていた涙をぬぐい去り、ミドリと共にその手を取った。

 

「……あったり前じゃん! こうなったらユウカにだって文句を言わせない超面白いもの作っちゃうんだから! 」

 

「ゲームを作ろう! みんなで! 」

 

 ゲーム開発部一同が立ち上がる。もう大丈夫だ、そう確信する先生の横でウルフウッドは目をつむり悩ましい表情を浮かべていた。いつも現実を突きつけるのが自分の役回りだからだ。本当に損な立ち位置だと思いつつ、言わなければならないことを言う。

 

「……やる気が出たのはええけど、どんなゲーム作るんや? 」

 

 その一言で燃え盛る炎が一気に鎮火するようにゲーム開発部が固まった。やる気だけではゲームは作れない。だからこそ彼女たちはG.Bibleを求めたのだから。

 

「う……うわーん! どうしよぉぉぉ!! ゲームのシナリオなんてそんなすぐに思いつかないよぉぉぉぉ!!! 」

 

 シナリオライターであるモモイが発狂する。「テイルズ・サガ・クロニクル」の時でさえプロトタイプがあったにも関わらず悪戦苦闘していたのだ。残り時間を考えるともう世界観を仲間と共有したうえでシナリオを書き始めなければ間に合わないが、そんな簡単に話が思いつくのであればこんな苦労はしていない。

 だがそんな中でも光明が差し込む。

 

「大丈夫ですモモイ。私たちは超面白そうな冒険を知っています。心に深く残る、愛と平和を唄う勇者の物語を、私たちは知っています! 」

 

「……もしかしてウルフウッドさんが聞かせてくれた、ヴァッシュさんとの旅の話? 」

 

” ヴァッシュさん? ”

 

「ウルフウッドの故郷の友人で、魔王である兄を止めるための旅をした勇者です! 」

 

” えっ、すごい気になるその話!! ”

 

「おいおいおいおい、ちょい待てや。なに勝手に人の話使おうとしとんねん」

 

 さすがに小っ恥ずかしくて止めようとするウルフウッド。しかしゲーム開発部は動き出していた。ユズがブツブツと呟きながら企画を練り始める。

 

「……確かにウルフウッドさんの旅の話ならボリューム自体は少な目だから作業量も現実的かもしれない。世界観もすでにある程度共有されているし、モモイがシナリオを書いている間でもキャラクターは作りこめる……。大元のシステムはテイルズ・サガ・クロニクルを流用して、ゲームシステム的な面白さは……そうだ、あえて主人公たちを強めにして、代わりに敵を倒し切っちゃ駄目とかにすれば戦略性を持たせられるし、ヴァッシュさんぽさも出る。主人公と仲間で得意な攻撃属性を変えたりすれば……いける、システムが見えてきた……」

 

” ウルフウッド、あれ見ても駄目って言える? 私たちの仕事はゲーム開発部が廃部にならないようにするための支援だよ? 役に立ててよかったじゃない ”

 

「クソッ、なんでワイ、こいつらに話してもうたんや……」

 

 昔話をしてしまったことを後悔するウルフウッドには目もくれず、ユズが部長らしくメンバーに指示を出し始める。

 

「モモイはウルフウッドさんに話を聞いて、それをゲームのシナリオに落とし込んで。ミドリはヴァッシュさんとウルフウッドさんのデザインを」

 

「おい、せめてワイのことやてわからんようにせえよ! あとトンガリはセンセに似とるで」

 

「じゃあ先生! モデルになってください! 」

 

” あ、え、いいけど……私もキャラクターになるの? ”

 

「お前も道連れじゃボケ! 」

 

「ゲームシステムは私とアリスちゃんで組むとして……どうしよう、音響素材とかデバッカーとか……グラフィッカーもミドリだけじゃ足りないかも……」

 

「ユズ、それならアリスにいい考えがあります! 戦力が不足しているなら仲間を募りましょう! 今ユズが挙げたジョブならヴェリタスの皆さんが力になってくれるはずです! 」

 

「確かにマキちゃん達なら……うん、手伝ってもらえないか声を掛けよう」

 

 ゲーム制作という一大クエストを前に攻略体制が整い始める。ヴェリタスのメンバーも乗り気で手を貸してくれることになり、製作はスタートを切った。

 

◇ ◇ ◇

 

 テイルズ・サガ・クロニクル2の製作が進んでいく。

 

 

「ヴァッシュさんの武器は大型リボルバーの拳銃……先生、そのタイプの武器を持ってポーズ取ってもらえませんか? 」

 

” ……えっと、これでいいかな? ”

 

「シャーレマーク入りのベレッタ…… 」

 

「なんやセンセ、銃持ってたんか? 」

 

” ……使う予定はないけどね。念のためというか……どっちかっていうと戒めかな…… ”

 

「ふーん……まあそないな豆鉄砲、確かに使うことは無いわな」

 

「ウルフウッドさん……じゃなかった、ヴォルフの武器は何にしよう? 」

 

「言うとくがパニッシャーは出すなよ。特徴在りすぎてワイのことやて一発で分かるからな」

 

「わかってるって……そうだ、代わりに棺桶背負ってるっていうのはどうかな? それで棺桶の中にいっぱい武器が入ってるの! それならリボルバー一本で戦うヴァッシュ……じゃなかった、ブイと対比も取れてるし、いいんじゃないかな? 」

 

「……うん、確かにゲームシステム的にも精密なダメージコントロールができるブイと、固い敵にもダメージが通せるヴォルフで使い分けができるし、いいかも。それでいこう」

 

――キャラクターのデザインも決まり、

 

 

「ハレ先輩、戦闘のテストプレイはどんな感じ? 」

 

「う~ん、敵を倒し切らないで瀕死を狙うゲームシステムは面白いけど、もう一声欲しいかな? 戦闘後半になるとヴォルフの攻撃力が高すぎて待機しかできなくなっちゃうのがちょっと……」

 

「……ではヴォルフには盾役もしてもらうのはどうでしょうか? アリスとの模擬戦の時にウルフウッドはパニッシャーを盾の代わりにもしていました。同じようにヴォルフは棺桶で敵の攻撃を防ぐのはどうでしょう? 」

 

「その案は結構いいかも。敵の攻撃力を今よりも少し高めにして防御の使用頻度を高めれば、戦闘に緊張感も生まれるし。多分ここのパラメーターを高くして調整すれば……」

 

――ゲームシステムも煮詰まっていき、

 

 

「えっと、ロケットランチャーの効果音は……」

 

「それならこれをどうぞ」

 

「ダメージ受けた時の声は……」

 

「それならこの先生ボイス0235がおすすめです」

 

「すごい! コタマ先輩なんでも持ってる! 」

 

「私の音コレクションはvol.108までありますよ」

 

” コタマ……すごいけど、後でプライバシーについての授業をしようか ”

 

――ちょっとしたハプニングもありつつ、完成へと近づいていく。そして――

 

 

「……うーん、このままでいいのかなぁ……? 」

 

「ちょっとお姉ちゃん! シナリオはもういじらないでって言ったじゃん! 」

 

「いや、それはもうしないって! そうじゃなくてタイトルだよタイトル! 」

 

「タイトルって……『テイルズ・サガ・クロニクル2』じゃないの? まさか変えるつもり!? 」

 

「いや、だってギャグ調の1に比べて今回の話はめっちゃシリアスじゃん!? このシリーズのナンバリングタイトルでいいのかなって……」

 

「アリスは問題ないと思います。確かに雰囲気は違いますが、骨子は王道RPGのままです。魔王の元へ向かう勇者の話に変わりはありません。このゲームはまさしく『テイルズ・サガ・クロニクル』です」

 

「ん~……モモ、部外者のあたしが口出しする話じゃないかもだけどさ、あたしもタイトル変えるのは反対かな。気持ちのいい話じゃないだろうけど、このタイトルはクソゲーとして有名だからね。2が出たら絶対に手を出すクソゲーハンターがいる。悪評は無名に勝るってやつ。ゲームだったら一般人のレビューもミレニアムプライスの評価対象になると思うからさ、プレイヤーは多い方が良いよ。……大丈夫、このゲームはあたしも面白いと思う。クソゲーハンターの鼻を明かせてやろうよ」

 

「マキもそう言うなら……う~ん」

 

「……モモイ、それならサブタイトルを入れるのはどうかな? ウルフウッドさんが話をしてくれたきっかけになった『ブレスオブガイア4』にも『うつろわざるもの』ってサブタイトルがあったし……」

 

「確かに……うん、いいね! ユズの言う通り、サブタイトルを入れよう! 実は代わりのタイトルを考えてたんだけど、それをサブタイトルにしてみない? 」

 

「お姉ちゃんそんなの考えてたの? 全く……。それでどんなタイトルなの? 」

 

「よくぞ聞いてくれました! 主人公のブイは外からの渡来者だから、武器が銃なことも合わせて『渡来銃(トライガン)』っていうの! どう、かっこいいでしょ!? 」

 

「なんで銃だけ横文字なの? おかしくない? 」

 

「そう? ミド、あたしは結構良いと思うけど。なんかこうグッとくる感じがする。……タイトルあたしがデザインしてもいい? 」

 

「マキちゃんがしてくれるならむしろありがたいけど……『テイルズ・サガ・クロニクル2 渡来銃(トライガン)』か……言われてみるとなんかいいかもって感じがしてくる、かな」

 

「わ、私も良いと思うよ」

 

「では満場一致ですね! パンパカパーン! タイトルが『テイルズ・サガ・クロニクル2 渡来銃(トライガン)』に決定しました! 」

 

 ――ついに、愛と平和を唄うRPGは完成を迎えた。




実際一週間でゲーム作りなんて無理でしょ? という訳で製作メンバー追加して原作とも製作したゲームを変更しました。
原作読み直すとテイルズ・サガ・クロニクル2はスマホでマルチプレイが楽しめるゲームでしたが、『テイルズ・サガ・クロニクル2 渡来銃(トライガン)』は王道RPGです。
主人公ブイとその相棒ヴォルフが人類を憎む魔王でありブイの兄でもあるナインを止める、きっとそんなお話。
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