ウルフウッドアーカイブ   作:タニシ・トニオ

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02_守るべきライン

 リオからの依頼でミレニアムへと向かうことになり、バイクを走らせる。アリス達の様子を見たいから、と言ってセンセもサイドカーに乗り込んでいた。

 

 ミレニアムの駐車場でセンセと別れ、リオから連絡のあった合流地点へと向かう。送られてきた地図を見ると、どうも以前に使っていた旧校舎のようだった。

 あまり大っぴらにしたくない話をするときはここを使うルールでもあるんかと、そんなどうでもいい疑問を浮かべつつ中に入る。

 

「邪魔するで」

 

 教室の中に入ると既にC&Cの四人とリオが揃っていた。着席を促されたので席に着くと、リオが説明を開始する。

 

「任務のメンバーが揃ったので依頼内容を説明するわ。現在、廃墟から正体不明の機械がミレニアムへ侵攻してきているの。あなた達の任務は、それの排除よ」

 

 リオが一つ目の球体に触手の生えたような機械のホログラムを映し出す。

 

「あはは〜タコみたーい」

 

 アスナが笑う。確かにシルエットは似とる……か? まあ気色悪いのは確かや。

 

「これが目標よ。一体一体の力は大したことはないけれど、数が多い。それと、ある程度ダメージを受けると自爆する性質もあるわ。今は私のAMASで抑えているけれど……状況は芳しくないわね」

 

「つまりそいつらを片っ端からブッとばせばいいわけだなッ!! 」

 

「……ネル、片っ端からではないわ。数が多いといったでしょ。あなた達にはAMASの防衛ラインが崩れそうになっている場所に向かって対処して欲しいの。場所は私が随時指示するわ」

 

 リオから任務用の通信デバイスが渡される。耳を塞がない骨伝導のインカムタイプで、ホログラムでマップなどの情報を映し出す機能もあるらしい。ハンズフリーで視覚情報も見れるのは便利やな。流石ミレニアムっちうわけか。これシャーレでも欲しいな、言ったらもらえへんやろか?

 

 デバイスを渡し終えたリオが再び前に立つ。

 

「ではこれより『そおっと作戦』を開始するわ」

 

「なんやねん、その作戦名は? 」

 

「……秘密裏に行う掃討作戦だから……そうとう……そおっと……」

 

「……まさかギャグか? ギャグのつもりなんか? 」

 

「……私は真面目よ……」

 

「嘘やろ……? 」

 

 真面目に考えてそれか? こいつのセンスがワイには理解できへん。誰もつっこまへんし、まさかミレニアムやとこれが普通なんか?

 困惑しとるワイをネルが小突く。

 

「言っとくが()()はリオだけだからな。誤解すんじゃねーぞ」

 

 どうやらワイがおかしいわけちゃうらしい。誰もつっこまへんかったのは諦めとるからか。

 

「おらっ、行くぞお前ら‼ ……おっ、そうだ葬儀屋、どっちが多く敵を倒すか競争しようぜ! 」

 

「メンドクサ、やる意味ないやろ」

 

「なんだぁ、負けるの怖いのかぁ? 」

 

「……あ? おまえに気使って言っとるんやぞ」

 

「お、やるってことでいいよな? なんか賭けよーぜ! あたしが勝ったら……そうだな、そのグラサンくれよ。イカしてると思ってたんだ」

 

「リオと違ってセンスはええみたいやな。()()()()()()()()()()()()()。ワイが勝ったら葬儀屋言うの止めてもらうで。ワイは牧師やからな」

 

「はっ、ぬかせ」

 

「……持ち場に着いてもらっていいかしら……? 」

 

 勝手に盛り上がる二人の間にリオが割って入る。「そおっと作戦」がその名の通り秘密裏に開始された。

 

◇ ◇ ◇

 

「……凄まじい速度ね……」

 

 作戦の指揮を執っているリオは驚愕していた。

 

 作戦領域のマップを広げながらAMASとC&C、そしてウルフウッドに指示を出しているが……やはりネルとウルフウッドの撃破速度が段違いに早い。たまにこちらの指示が追いつかなくなる時がなるほどだ。

 

 ネルは持ち前の敏捷性を存分に発揮し敵を次々に撃破していく。しかも自身の撃破スコアを伸ばすために敵の取捨選択をしながら。

 ネルの武器はサブマシンガンのため間合いは短めだ。故に遠くにいる数の少ない敵はあえて見逃し、仲間に処理を任せていた。元々スナイパーのカリンにはそうした取りこぼしの処理を頼んでいるし、合理的な判断と言えるだろう。……とはいえ、言うほど容易なことではないが。仲間に任せると言うと簡単そうに聞こえるが、仲間や敵の位置、仲間の処理能力を十分に理解していなければできない行動だ。C&Cのリーダーという肩書きは伊達ではない。

 ネルはすぐ感情的になるところがあるが、同時にこうした非常に冷静な面を兼ね備えている。この点は味方であれば頼もしく……そして、敵に回した場合は厄介だと言わざるを得ない。

 

 そして……ニコラス・D・ウルフウッド。やはりこの男も驚異的だ。

 敏捷性においては流石にネルに劣るものの……いや、あの兵装を抱えながらこれだけ動けるのがそもそも異常であるが……真に恐ろしいのはその戦闘センス。パニッシャーという兵器の破壊力に目が行きがちになってしまうが、彼はこちらが目標の位置を伝えると最速最短で最適な位置取りをする。パニッシャーによって相手を一方的に蹂躙できる位置に、だ。そして敵の処理を瞬く間に完了させる。

 この視点になって初めて、パニッシャーの破壊力は彼だからこそ十全に発揮できているのだということが見えてくる。恐らく彼がその気になれば、大抵の相手は知覚する暇も与えずに倒すことが可能だろう。

 なぜそんな位置取りを瞬間的に選べるのかは分からない。アスナの様に直感が優れているのか、豊富な経験則によるものか、その両方か。

 とにかく事実として、現状敵の撃破スコアはネルよりも彼の方が上回っている。今回のような敵に対してネルのサブマシンガンより彼のパニッシャーのほうが相性が良いのは確かだが、それを差し引いたとしてもこの事実は彼の実力の高さを裏付けていた。……ウルフウッドの戦力データを更新しなければならない。

 

 アリスを観察する際にウルフウッドには戦闘から外れてもらったが、やはりそれは正解だったようだ。

 

「……作戦は終了よ。周囲を警戒しつつこちらに帰投してちょうだい」

 

<なあ、勝負の結果はどうだったんだよ>

 

「……それは戻ってきてから伝えるわ」

 

 二人の活躍もあり作戦は危なげなく完了した。ネルの持ち出した賭け事は、結局ネルが差を縮めることが出来ずに負けるという結果に終わっていたことを伝える。

 

「おいっ、リオ!! 数え間違えてんじゃねぇのか!? 」

 

「それは無いわ。貴女の負けよ、ネル」

 

「ふっざけんな! おい葬儀屋! もう一度勝負だッ! 」

 

 予想通り彼女はごねた。あの場で結果を伝えていたら全滅させた敵を延々と探させられていたかもしれない。先にこちらに戻したのも正解だったようだ。

 

「葬儀屋ちゃうやろ? 約束違えたらあかんでチビすけ」

 

「チビ言うんじゃねぇ!! ぶっ殺すッ!! 」

 

「……アカネ、お願い」

 

 勝手にヒートアップするネルをアカネ達に任せ彼から離す。まあ、他のC&Cのメンバーもこうなった時の対処は手慣れているので問題は無いだろう。

 それに今回に限り都合がよかった。彼女達がネルを連れて離れてくれたため自然に彼と二人きりになれたのだから。

 

「ほんじゃまぁ、ワイも帰るわ」

 

 作戦室に使っていた教室から出ようとする彼を呼び止める。

 

「貴方に……大切な話があるの」

 

◇ ◇ ◇

 

 リオに呼び止められ、そないなことを言われる。放課後の教室、男と女が二人きり……シチュエーションだけ見ればノノミがこの前読んどった漫画みたいな場面だが、相手はリオや。どうせろくでもない話なんやろなぁ……

 

「……なんやねん、言うてみ? 」

 

「アリスのことで相談があるの」

 

「!? ……なんかわかったんか? 」

 

「ええ……少し長い話になるわ。こちらへ」

 

 リオに促され教室の席に座る。

 

「センセも呼ぶか? あいつ今ミレニアムにおんねん。呼べばすぐ来るで」

 

「それは……まず貴方にだけ、話を聞いて欲しい」

 

 リオが視線を右下にずらしながら告げる。センセには言いにくい内容っちうことか。

 

「わかった、ええで。まずワイが話聞いたる」

 

「感謝するわ。……そうね、まず貴方たちがアリスと呼ぶ『アレ』がなんであるか、その正体を伝えるわ」

 

 どうやらアリスの正体が判明したらしい。リオの反応から察するに、やはり厄ネタなのは確定か。黙ってリオの話を聞く。

 

「結論から言うと……未知から侵略してくる『不可解な軍隊(Divi:Sion)』の指揮官であり、『名もなき神』を信仰する無名の司祭が崇拝した『オーパーツ』であり……古の民が残した遺産、『名もなき神々の王女』。キヴォトスを終焉に導く『兵器』……それがアレの正体よ」

 

「……なんやそのオカルト記事の見出しみたいな内容は? 月刊ムーか? 」

 

「ま、まずは結論と言ったでしょ……! 」

 

 そうしてリオは資料を展開し、その根拠に至った経緯の説明を開始した。正直専門用語が多過ぎて半分も理解できひんかったけど。

 

「……任務で撃破を依頼したあの機械達が『不可解な軍隊(Divi:Sion)』よ。……あれが今、アリスを目指して侵攻してきている。何よりその事実が……『アレ』が兵器である証明よ」

 

「……なるほどな」

 

 リオの言っていることは恐らく事実だろう。こいつはこんな趣味悪い冗談言うタイプちゃうし、資料も半分も理解できなかったが本気の内容であることはわかる。

 

――妙な組織に信仰されてて世界を滅ぼす存在て……なんやナイブズみたいやな。……いや、アリスがそないな悪意を持っとるとは思えへんし、どっちか言うとトンガリ寄りか。どないにしてもトンデモない厄ネタには変りあらへん。

 

 何だか無性にタバコが吸いたくなった。聞いたこと全部を煙と一緒に吐き出したかった。とは言え、この話が終わるまではお預けかと思い直す。

 

「……取り敢えずお前の言ったことは信じたる。ワイもアリスには思うところあるしな。……で、なんやねん? 」

 

「なに、とは? 」

 

「本題はなんやっちうことや。ワイだけに話したい言うとったやろ? つまり、ワイになんかさせたいことがあるん違うか? 」

 

 リオは右下に目をそらす。

 

「……違うわ。その……貴方ならどうするかを聞きたかったのよ……」

 

 多分、半分は嘘やろな。恐らくだがリオは結論を出しとって、それをワイにやって欲しいんやろ。センセやったら反対するあの結論を。せやからワイだけを呼んだ。……まあ気持ちはわかる。言いにくいし、やりたないやろ、そないなことは。

 

「せやな……安全で確実に危機を回避する方法はある。……アリスを殺したらええ」

 

 リオが逸らしていた目線をこちらに戻す。その視線に少しばかりの期待がこもっているのがわかる。

 こいつ、こんな分かりやすい顔する奴やったんやな。ずっと仏頂面なのかと思うとったわ。

 

「それなら……」

 

「ただ、シャーレとして()()その方法は無しや。……実はこれについてはセンセと以前話したことあってな。まあここまでの厄ネタとは思うてへんかったが……ガキの切符を奪い取るんは無し、そう答えが出とる」

 

 リオの視線が裏切られたように恨みがましいものへと変わる。ほんま分かりやすいな、こいつ。

 

「切符とは、未来の比喩かしら? だとすれば、アリスを放置していたら……それこそ数多の生徒の切符を奪うことになるわよ」

 

「だから『今は』言ったやないか。その時が来てもうたらアリスを撃つ……少なくともワイはな。ワイかて守りたいモンはあんねん。……でもな、それは土壇場での話や」

 

「敵が攻めてきてるこの状況が土壇場ではないと?」

 

「土壇場ちゃうやろ実際。現状はワイらで処理できる程度やし、世界の破滅言うには程遠いわ。それにあの機械程度ならC&Cやなくても自警団組めば十分やろ。ウタハなんかは嬉々として参加する思うで。解体して解析だとか抜かしてな。多分ミレニアムならそんなやつらゴロゴロおるんちゃうか? 」

 

「でもそれでは根本的な解決にはならないわ」

 

「あのキモい機械を根絶したいなら工場壊したらええやないか。あいつら無から沸いてくるわけちゃうやろ? 廃墟のどこかに工場があるに決まっとる。見つけさえすれば後はぶっ壊して終いや。シャーレ部員の腕利き集めればあっちうまやで」

 

「……そう、簡単にはいかないわ」

 

 なんや、やたらと食い下がるやないか。

 

「……そこまでしてワイにアリスを殺して欲しいんか? 」

 

「っ!? それは…………」

 

 またリオは視線を右下に下げる。多分、都合悪くなったり考え事する時の癖なんやろな、こいつの。

 

「否定はせんのやな。まあ気持ちは分かるつもりや。ワイも似たような存在連れて旅しとったことあるからな」

 

「似た存在? 」

 

「話すと長くなるからどんな奴かは割愛するで。ただそいつと旅しとった時にな、ここで引き金引けば脅威は無くなる思うて何度そいつを撃とうと思ったかわからへん。そないなことがあったんや」

 

「……撃ったの? 」

 

「結局撃たへんかった。そんでそれが正解やった」

 

「今回も正解とは限らないわ」

 

「不正解とも限らへん。そこら辺は神様の領域や。……とにかくシャーレとしてはアリスを今撃つのは無し、あいつも生徒の一人やっちうことで結論が出とる」

 

「……」

 

 リオが不満たらたらな目線を向けてくる。

 やめてーな、気持ちは分かるゆーとるやんか。それにこれはお前の為でもあるんやで。

 

「……あんなぁ、リオ。()()()()()()()()()先輩として教えといたる。一度ラインを引いたらな、そこが基準になってまうねん。自分で撃ったかどうかは関係ない。命を見限った時点でそれは決まってまう」

 

「『アレ』は生命体ではないわ」

 

「でもあのガキどもの友達や。そないな言葉で逃げるなこのボケ。……とにかくワイが言いたいのはな、線引きはまだやっちう話や。今ここでアリスを見捨ててみ? お前、この先どんだけのモン見限らないかんか分かったもんやないで。……辛いぞ、その茨道は。確かに、誰かて選ばないかん時はくる。でもな、お前のその時はまだや」

 

「……」

 

 リオがまた視線を右下に下げ黙る。考え直してくれとるんやろか? わかっとるんか? ちょっと不安やな。

 

「……取り敢えずこの件はワイからセンセに伝えとく。聞けばセンセも力貸してくれるやろ。あのキモい機械の工場見つけるにはお前の力も必要や。あ……せや、ヒマリも手伝わせたらええ。あいつに仕事振れば人の携帯に勝手にハッキング仕掛ける暇もなくなるやろ。我ながら名案やな」

 

「……そう、ね」

 

 ヒマリの名前が上がるとリオは更に不機嫌そうになる。そんな嫌か、ヒマリに頼るのは?

 

「お前があいつに頼み事するのが嫌ならセンセを挟んだらええ。できるやつで事に当たればどないかなるやろ」

 

「……考えておくわ。……取り敢えず、話すことは話したし聞きたいことも聞けた。もう帰ってもらって大丈夫よ」

 

「そんならええが……」

 

 リオから打ち切られるように話の終了を告げられる。納得できてないって顔のままやな、まあ良く考えたらええわ。視線を机に落としたままのリオを背に、ワイは教室を後にした。

 

◇ ◇ ◇

 

 ウルフウッドも居なくなり、教室には私一人となってしまった。私一人だけだ、状況を理解しているのは。

 

「……ウルフウッド、貴方は一つ勘違いしているわ。私はこれから選ぶのではなくて、すでに選んでいるのよ。線引きは済んでいるの」

 

 ただ一人、決意を口にする。懐に入れていたボイスレコーダーを取り出し、確かめる様に再生ボタンを押した。

 

<……安全で確実に危機を回避する方法はある。……アリスを殺したらええ>

 

「……加工しないで使えるのは助かるわ。ネルは、勘が鋭いから……」

 

 残念だがプランAは諦め、プランBへと移行することが決定した。

 




 正直ウルフウッドがどういう判断するかは非常に悩みました。下手すればウルフウッドがアリス撃つ側に回るルートもあったかもしれません。ただトライガン原作終盤でのウルフウッドは孤児院襲ってきたサイボーグたちも殺さなかったし、なによりヴァッシュのことも信じて彼に引き金を引くことがなかったのもあり、ウルフッドはアリスを撃たない、少なくとも現時点では、と思っての話になりました。
 そもそもウルフウッド的には世界の破滅レベルの脅威=ナイブズみたいな認識があるので、変なのが襲ってきたぐらいじゃまだまだ、という認識があるんじゃないかと。

 ただリオの判断も一概に間違っているとは個人的には思っていなくて、二章の話は簡単に白黒つけられない話だと思います。現時点のリオからしたらどこで爆発するかわからない核爆弾が闊歩しているような状況でしょうし、それを説明しても同意が得られないのはかなり内心焦ると思います。

 結局のところ、誰が正しいとかではなくて各々がどこで線を引くか、その位置の違いで生じるイザコザが2章なのかな、と私は思います。ゲーム本編の結果はたまたまいい方向に転んだだけで、それが正しいというのであればリオが行動を起こしてなかったら最終章で詰んでいたことを考えるとリオも正しかったと言えてしまえると思いますし。

 「そこら辺は神様の領域」というセリフはそうしたことを現しています。ウルフウッドがそう言っているのは、一神教の方は願いが叶わなかったときにそれが神に届いていないのではなくその願いが神様の計画に沿えていない、と考えるからだとかなんとか。
 キリスト教徒じゃないんで知らんけど。
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