ウルフウッドアーカイブ   作:タニシ・トニオ

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05_決別

 ウルフウッドのバイクに乗せてもらい再びゲーム開発部に訪れる。道中でミドリからアリスがあの事件から部室に引きこもってしまっていると連絡がきた。目を覚ました時のアリスは何も覚えていないような様子だったが、それでも何か感じ取っていたのかもしれない。

 

 部室に到着して、ドアをノックする。

 

” ……アリス、入るよ ”

 

 返事はない。申し訳ないがドアを開け、部室の中に入る。部室の中は明かりが点いていないため薄暗ぐ、その部屋の片隅でアリスは静かにうずくまっていた。彼女の隣でしゃがみ、声をかける。

 

” ご飯も食べてないんだって? みんなが心配しているよ。行こう……? ”

 

「……アリスにはできません」

 

” ……どうしてかな? ”

 

「アリスは……アリスのせいで……モモイが怪我をしました」

 

” それは…… ”

 

「全部アリスがやったことです。どうしてあんなことをしてしまったのか……アリスにもわかりません。あの時……何かが……まるで……まるでアリスの知らない『セーブデータ』が、アリスの中にあるかのような……」

 

 やはりアリスはおぼろげながらも何かを感じ取っていたようだ。リオの言う通りであれば、その「セーブデータ」が「不可解な軍隊(Divi:Sion)の指揮官 」、「名もなき神々の王女 」のことなのだろう。……アリスが作られた、本来の役割としての機能。それがあの機械に触れたことで表に出てきたのだと思う。

――でも、それはアリス自身のことじゃない。

 

” ……アリス、モモイが怪我をしたのは君のせいじゃない ”

 

「でも!! ……あの時、アリスの体が、反応しました、動きました。あの時、アリスが何をしたのか……何も、思い出せませんが……それでも、アリスが……アリスがモモイを……! 」

 

” アリス、落ち着いて ”

 

「先生、アリスは、アリスは一体どうすれば! 」

 

 アリスが目に涙を溜めながら私に縋ってくる。ショックで混乱しているようだ、無理もない。自分の中に得体のしれない何かがあり、それが大切な友人を傷つけてしまったとあれば不安で仕方ないだろう。

 アリスの背中を摩り、まず彼女を落ち着かせようとする。こんな精神状態で真実を話しても、余計にアリスが自分自身を責めてしまうだけだ。

 

” 大丈夫だよアリス、まずはおちつ…… ”

 

「——そう、貴方が怪我をさせた。それは逃れられない真実」

 

 後ろから、アリスを責め立てるような言葉がする。この声は――

 

” リオ……なんで…… ”

 

「それは私のセリフよ、先生。なんで真実を伝えないのかしら? 」

 

” それは……ッ ”

 

「待ってください、あなたは……? あなたはアリスのことを、知っているのですか? 」

 

 アリスがリオを見上げる。

 

「ええ知っているわ。……直接会うのは初めてだったわね。私は調月リオ。ミレニアムサイエンススクールの中枢、セミナーを率いる者、そして『千年難題』の解決を望み、星を追う者。……アリス、今日は貴方に真実を伝えに来たのよ」

 

「アリスの、真実……」

 

「か、会長! い、いきなり来て真実とか、一体何なんですか!? 」

 

 部室の入り口から覗き込むようにミドリが顔を出し、口を挟む。リオは振り返り、ミドリを見据えた。

 

「貴方たちは数日前の事件で一つの考えに到達したのではなくて? 今まで友人だと思っていた彼女が見せた、異なる姿。そして、同時に生じた破壊と混乱。それを通して、貴方たちは思わなかったかしら? 『今まで友人だと思っていたものは、そうではないのかもしれない』……と」

 

” リオ……! ”

 

「先生、今は彼女に聞いているのよ。……それで、どうかしら? 」

 

 リオが再びミドリを見据える。

 

「そ、そんなことは……」

 

「本当に、そうかしら? 見ていたはずよ、あなたの姉を傷つけた機械を指揮する、彼女の姿を」

 

「そ、それは……ッ」

 

 ミドリが視線を落とす。その様子を見て、アリスが悟る。

 

「ッ!! ミドリ……そう、なのですか? モモイを傷つけたのは、やはり、アリス、だったのですか……!? 」

 

” 違うッ! ”

 

「違わないわ! いい加減なことは言わないでちょうだい、先生! ……はっきり言わせてもらうわ。少女の外見を備えた『ソレ』は、普通の生徒ではない。貴方たちがアリスと名付けたそれは……未知から侵略してくる『不可解な軍隊(Divi:Sion)』であり、『名もなき神』を信仰する無名の司祭が崇拝した『オーパーツ』であり、古の民が残した遺産、『名もなき神々の王女』、キヴォトスに災厄をもたらす存在なのよ」

 

 アリスが目を見開く。

 

「アリスが……災厄……アリスには、理解できません……」

 

「そ、そうですよ! オカルト雑誌の見出しみたいな設定をアリスちゃんに押し付けないでください! 」

 

 ミドリがリオに反論すると、リオは再びミドリに視線を向ける。

 

「……ウルフウッドにも同じようなことを言われたわね。ごめんなさい、理解しやすいようにあなたたちの好きなゲームに例えましょう。……つまり貴方たちが『アリス』と呼ぶ『ソレ』は、この世界を滅ぼすために生まれてきた『魔王』なのよ」

 

「アリスちゃんが……魔王? ……どうして、そんなこと言うんですか!? そんなこと言って、いったい何を企んでいるんですか!? 」

 

 理解を拒むかのようにミドリが否定する。しかしリオは淡々した口調で答えた。

 

「企んではいないわ。……むしろ逆に聞きたいのだけど、貴方たちは直接見たのではなくて? ヴェリタスが拾ってきた機械……あれこそが『廃墟』から溢れ出した『災禍』、『 不可解な軍隊(Divi:Sion)』。それとアリスが接触した事で何が起きたのかを。その結果、誰が傷ついたのかを」

 

「うっ……」

 

 ミドリが言葉を詰まらせる。今までの話を聞いていたアリスもただ狼狽するだけだった。

 

「……あれらのミレニアムへの侵入を許してしまったのは私の不手際によるものよ。……それについては本当に申し訳ないと思うわ。……謝罪を、ここに。……でも、奇しくもあの事故が証明してしまった。アリスの存在が、『廃墟』からヤツらを呼び寄せているということが。……今回接触したのは壊れかけの個体だったけど、もし万全の個体と接触した場合は……被害はこんなものでは済まないでしょうね」

 

 リオの言葉にビクリと反応し、体を震わすアリス。先生はそんなアリスを優しく抱きしめながらリオに反論する。

 

” リオ、それを起こさないために協力していこうって、そういう話だったはずだよ? ”

 

「そうね、でもやはりそれは確実とは言えないわ。その過程で才羽モモイのような犠牲がまた出てしまうかもしれない。この脅威を安全で確実に解決する方法は一つだけよ。貴方も理解しているでしょう? 」

 

” 違うよ、リオ、その方法は駄目だ! ”

 

 リオの言おうとすることを否定する先生。その先生の横からアリスが恐る恐るとした様子で顔を出し、リオに問う。

 

「解決する方法が、あるの、ですか……? 」

 

 アリスに問われ、リオは視線をアリスに合わせる。

 

「……ええ、あるわ」

 

” 駄目だリオ ”

 

 先生の言葉を無視し、リオは後に続く言葉を放つ。

 

「アリス、それは貴方が消えること。この世界に、貴方は存在してはいけない」

 

 その言葉を受け、アリスの体から力が抜けるのを先生が感じ取る。

 

「……そ……んな……」

 

” アリス、そんなことはない、君は存在していていいんだ ”

 

「まだそんなことを言うの、先生? 事実から目を背けるのは止めてちょうだい。貴方のそれは思いやりではなくて、ただの『現実逃避』よ。向き合う問題から逃げる、極めて非合理的な行動よ」

 

” リオ、それは違う。見限っちゃいけないものまで切ることを、合理的とは言わないよ ”

 

「……やはり、理解してはくれないのね……」

 

 リオは諦めたかのように先生から視線を外し、アリスを見る。

 

「アリス、さっきも言った通り……すべての元凶はあなたよ。貴方がここにいれば、また災禍が起きる」

 

「あ、アリスはどうすれば……? 」

 

「簡単よ、爆弾は安全な場所で解体すればいい」

 

「爆弾を……解体……? 」

 

「つまり、貴方のヘイローを破壊すれば解決する、という事よ」

 

 リオがタブレットを操作し、ゲーム開発部の部室をAMASが取り囲む。そのうちの数体が入口付近にいたミドリやユズを押しのけて部室の中へと侵入してきた。

 

” リオ、それ以上は許せないよ…… ”

 

「……先生、約束を違えてしまったことについては謝罪するわ。でも、私も皆を守りたいだけなの」

 

” その『皆』に、なんでアリスも…… ”

 

「いつまでそんな寝言を吐き続けるつもりなの! 」

 

 リオが先生を怒鳴りつける。

 

「……勘違いしないでちょうだい、先生。『ソレ』は生命体ではないの」

 

 リオが先生の後ろにいるアリスを指さす。

 

「貴方が背負うべき生徒ではない。もし、そう感じるのであれば、それは『エライザ効果』に過ぎない。『ソレ』はこの世界を終焉へと至らさせる恐るべき兵器。『ソレ』とキヴォトスの全生徒を秤にかけろと問われたら、答えは明確でしょう? ……それでも貴方が動かないというのなら、『ソレ』のヘイローは私の手で破壊する。準備は、もう出来ているわ」

 

 リオのその一言を聞いて、動かずにはいられなかった。アリスが殺されることも、リオがその手にかけることも、そのどちらも許容できなかった。

 懐のベレッタを引き抜き、アリスに迫るAMASを撃ち抜く。

 

 先生の銃弾を食らったAMASに突如として雷が走る。それを食らったAMASは煙を吹き出し、その機能を停止してしまった。

 

「なっ……なにをしたの、先生……!? 」

 

 突然の先生の攻撃に狼狽えるリオ。先生はリオの疑問を無視して諭しだす。

 

” リオ、アリスが生命体かどうかは関係ないよ。兵器かどうかも関係ない。アリスは、アリスなんだ。大切な、ミレニアムの生徒だよ。……ウルフウッドも言っていたはずだ。確かにリオの言う通り全生徒と秤になんてかけられない。でも、まだその天秤にアリスは乗っていない。そんなにあっさり見限っちゃ駄目だ。アリスのことも、君自身のことも…… ”

 

「……私が、自分の何を見限っているというの? 」

 

” ……今の君は心が悲鳴をあげているのに、アリスのことを必死にモノ扱いして鬼になろうとしているように見える。自分の心まで殺そうとしちゃ駄目だ。リオ、他の道はきっとある。可能性を諦めちゃ…… ”

 

「そんな非合理的なことは言わないで! 」

 

 後ろで控えていたAMASがリオの声に反応し、先生に襲い掛かろうとする。先生はそれを再び迎撃しようとするが、そのAMASの後ろから人影が現れ先生を取り押さえてしまう。

 

” ぐっ!? ”

 

「……トキ、ありがとう。そのまま先生を拘束しておいて」

 

” ト…キ……? ”

 

「初めまして先生。このような姿勢で申し訳ありませんが……C&C所属、コールサインゼロフォー、ご挨拶申し上げます」

 

「え……五番目の……」

 

「C&C……? 」

 

 ミドリとユズが小さく驚きの声を上げる。そんな周囲の反応を無視し、リオは冷静さを取り戻したように淡々とした口調で命令を出す。

 

「さあ、AMAS。アリスを回収なさい」

 

「だ、ダメ! 」

 

「ちょ、ちょっと待っ……! 」

 

 ミドリとユズが駆け寄ろうとするがAMASが立ちふさがり、装備されている武装の銃口を二人に向ける。

 

「下手に動かない方が良い。無関係な子を傷つけたくはない。さあ、行くわよアリ……」

 

「無関係なんかじゃない! 」

 

 ミドリがなりふり構わずAMASを押しのけてアリスの前に出る。

 

「アリスちゃんは私たちの仲間で……勇者なんだ! 魔王なんかじゃ、兵器なんかじゃない! 」

 

 AMASが下されていた指令通りにミドリを追い払おうと迫るが、リオはそれを制止しミドリに問う。

 

「……その証明はあるのかしら? 」

 

「えと、その……光の剣ッ……アリスちゃんは勇者の証である『スーパーノヴァ』を持ってる! 」

 

「光の剣……エンジニア部が作ったあのおもちゃ? それが何の証明になるかは分からないのだけど……そうね」

 

 リオがタブレットを操作し、「スーパーノヴァ」へハッキングを仕掛ける。そして「スーパーノヴァ」の電源が消えた。

 

「これでいいかしら? 光の剣はもうないわ。証明は終わりよ」

 

 リオが冷たく言い放つ。アリスは勇者などではないと、突きつける。

 

「あ……アリスの、剣が……ゆうしゃの、あかしが……」

 

 アリスが光の失われた剣を見る。

 

「ミドリ……ユズ……」

 

 もはや何も反論もできず、AMASによって身動きの取れない友を見る。

 

「先生……」

 

” アリス、ぐっ……! ”

 

「先生、お願いです、動かないでください。体を痛めてしまいます」

 

 抵抗し、トキに押さえつけられている先生を見る。

 

 皆が、悲痛な顔をしていた。

 頭から血を流し、シャーレへ搬送されていったモモイの姿がフラッシュバックする。

 これらの光景は……

 

「ぜんぶ……アリスが、いるから……? アリスが『魔王』だから……起きたこと、ですか……? 」

 

「……そうよ」

 

 リオが視線を右下に下げながら肯定する。

 

「アリスが……ここにいたら、同じことが……アリスが、勇者じゃないから…………そう、ですね。アリスは、全て理解しました」

 

 アリスは決断する。

 

「……アリスが、消えるとします」

 

 アリスは笑った。全てを諦めて、力なく笑うことしかできなかった。

 

「ッ! ダメ! アリスちゃん! 」

 

「アリ、ス……ちゃん……」

 

 ミドリとユズがそれを否定する。

 

” 駄目だアリス! その必要は無いんだ! ”

 

 先生も必死にその決断を止めようとする。

 

――違うんだ、アリス。君が自分の可能性を、その手にある白紙の切符を、手放す必要は無いんだ。なんとしてでもアリスを引き留めないと。

 

” ぐっ、ううっ、ううぅっ!! ”

 

「やめてください先生、無理に動いたら手が折れてしまいます! 」

 

――構うものか。ここでアリスを止めなければ、取り返しのつかないことになってしまう。

 

” ア、リス…… ”

 

「ッ、すみません、先生」

 

 トキに何かを押し当てれ、同時に体に電流が走る。

 

” がぁッ! ”

 

「「「先生!!」」」

 

 ゲーム開発部の子たちが何か叫んでいるが、なんと言っているかわからない。私は意識を手放した。

 

◇ ◇ ◇

 

 私が目を覚ますと、アリス、リオ、トキの姿はもうなく、泣いているミドリとユズがいるだけだった。

 アリスとリオからモモトークが届いていることに気づく。

 

<先生、今までありがとうございました。みんなにも、アリスと一緒に冒険してくれて、ありがとうとお伝えください。アリスは、今まで、本当に幸せでした。みんなのことが大好きです。大好きだから、傷つけたくないから、アリスはいなくなることにします。気にしないでください、アリスは生命体ではありませんから、大丈夫です。本当に、ありがとうございました>

 

<先生、貴方に加えてしまった危害については申し訳なく思うわ。全てが終わった後、改めて謝罪をさせてちょうだい。それでは、また>

 

 それを見た時はただ、自らの無力さを噛みしめるしかできなかった。




 先生の対応が原作と違いますが、原作先生はこの場でいきなりアリスの真相を聞かされたのに対して、戸狩先生は事前に聞かされた上で対応も決めていた状態だったのでその違いみたいなものです。
 改めて二章見返してみて思ったんですけど、原作はこの場面で初めてアリスの真実聞かされた状態ですからね、そら先生も混乱しますよ。言っちゃ悪いけどリオも説明下手すぎです。

 トキのスタンガン押し当てに関して「アロナバリアはどうした」って思う方いらっしゃると思いますが、個人的にアロナバリアって接触攻撃に弱いかな?ってイメージがあって、それで先生取り押さえられてしまっていますし、スタンガンも食らってしまっています。
 なんというか攻撃判定じゃない状態で触れられてから何かされるのに弱いんじゃないかなーというイメージ。
 あそこで先生の口封じておかないと最後のシーンでアリスに言うべきことをこの場で言っちゃいそうだったので、というのがメタ的な理由だったり。

 ちょいちょい変更点ありましたがほぼ原作と内容変らないので、戸狩先生の大人のカードとは別の、もう一つの切り札の片鱗のちょい見せもしてます。
 実際にちゃんと使うのはもっと後の話になりますが。
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