先生達がアバンギャルド君を倒し中央タワーに向かう少し前。エリドゥのビルの中を駆け巡りながらウルフウッドとトキが戦闘を繰り広げていた。
(おかしい、あんなデカイ図体しとるのに攻撃が当たらへん……どないなカラクリや?)
ウルフウッドが侵入したビルの窓からトキの死角を取ってパニッシャーを放つが、それすらあっさりかわされてしまう。
(……ただ速いっちう訳でもないな。速さだけならネルの方が上や。とりあえず色々試してみるか)
アビ・エシュフの両腕にあるガトリングがビルの外装ごとウルフウッドを撃ち抜こうと攻撃する。
ウルフウッドはそれを避けつつ窓から飛び出し、高速道路らしき陸橋へと降り立つ。トキも跳躍しウルフウッドのいる陸橋へと降り立った。
「なんや見た目の割に軽快やんけ。普通デカイ奴は鈍重やと相場が決まっとるもんやけどな」
「そんな兵装を抱えて飛び回るあなたが言いますか」
「ワイ、こう見えて結構やんちゃやねん。せやからじっとしてるの苦手でな」
ウルフウッドは不敵に笑うとトキの前から姿を消した。身体物理限界を越えた跳躍力でトキの真上へと跳んでいたのだ。彼の手にあるスタンピード・パニッシャーもビーム発射形態へと変形していた。
「こいつはどうや? 」
スタンピード・パニッシャーから放たれた光線がトキの周りをぐるりとなぞる。陸橋がそのライン通りに切断され、トキを巻き込む形で崩落する。
「!? 」
「それだけやないで」
落下しているトキを陸橋の上からウルフウッドが容赦なく追撃する。落下中であれば動くことができないため攻撃のかわしようがない、ウルフウッドはそう考えていた。
しかし放った弾丸がトキに届くことはなかった。
アビ・エシュフのアクティブ防護システムが起動し、機体から放たれた極細のレーザーがパニッシャーの弾丸を次々に迎撃していく。
「は、はぁぁぁぁ!? なんやねんそれ!? ズルやぞそれ……うおっ! 」
地面に着地したトキがお返しとばかりにガトリングガンをウルフウッドへと放つ。ウルフウッドはたまらずその場から逃げ身を隠した。そしてビルの物陰に隠れながらタバコを取り出し一息つく。
(銃弾撃ち落とすってなんやねんあれ? 反則やろあんなん……)
いっそ無視してアリスのとこ向かうのも手かと考えるが、ヴェリタスの通信が繋がらない現状ではそれも難しいか……と考え直す。やはり憂いを断つ為にも自分がトキを倒すしかない。
(……とはいえ、どないしたもんかな? まともに攻撃しても予知しとるみたいに避けられてまうし、無理やり当てにいっても銃弾は撃ち落とされる。ビームは乱射できへんし……ん? 待てよ……)
今までの戦闘を振り返り違和感を覚える。ウルフウッドはあることを思い出していた。
(そういや最初にあっちがビーム撃ってきた時に反撃した時は当たっとったな……なんで撃ち落とされへんかった? ……そもそもや、なんであんな便利なもんあるのにわざわざあいつは攻撃を避ける? ワイの攻撃を撃ち落としながら突っ込んで来る方が簡単やろ? なんでそれをせえへん? )
ウルフウッドの積み重ねてきた経験とたぐいまれなる闘争への嗅覚が、その答えを嗅ぎとる。
(……あの迎撃機能、攻撃と併用できへんのと違うか? それにビームを撃った直後は硬直して動くこともできへんのやろ)
弱点というにはあまりにも小さい弱点。しかしウルフウッドにはこれで十分だった。
(攻略思い付いたのはええが……これ、しくじったらもう一本あれ飲む羽目になりそやな〜、嫌やな〜……)
トキに勝つ方法を思い付いたウルフウッドは、タバコを咥えたままトキの前へと姿を現した。
「……どうなされましたか? 観念され…」
「タイムや」
「は? 」
トキの言葉を遮り、ウルフウッドがタイムを申し出る。そのあまりの突拍子の無さにトキは動きを止めてしまった。
「……一体なんのおつもりですか? 」
「まあそう急かすな。話をしようや」
ウルフウッドが紫煙を吐き出す。
「ふぅ〜……でな、相談なんやけど……次の一手でワイが王手をかける。せやから投了せえへんか? ワイにガキいじめる趣味ないねん」
「その冗談は笑えません。どれだけ笑えないかというとリオ様の作戦名より笑えません」
「は? おま、あれよりおもんないっておま……言って良いことと悪いことがあるやろが! ………って違うわ!! 冗談やのうてホンマのことや! 」
「ウルフウッド様、今のツッコミもおもんないです。Mー1だったら初戦敗退ですね」
「……お前、実は結構おもろい奴やろ……」
ウルフウッドはそう言いながらタバコを携帯灰皿へと捨てる。次の瞬間、トキがウルフウッドへガトリングガンを放った。
しかしウルフウッドはそれを予見していたのか難なくかわしつつ、スタンピード・パニッシャーをビームモードへ変形させる。
そしてビームを発射しながらパニッシャーを振り回してトキの追撃を防いだ。
「……一体何がしたかったんですか? 」
トキからしたらウルフウッドが明後日の方向にビームを放っている様にしか見えなかった。しかしウルフウッドは不敵な笑みのまま、上空を指差す。
「見てみ」
(……ブラフですね)
そう思いウルフウッドから視線を外すつもりはなかったトキだが、上から生じた異音に気付き思わず見上げてしまう。そしてその目に、細切れにされ崩落してくるビルの瓦礫が映った。
(まさかさっきのビームはこれを狙って!? )
瓦礫に押し潰されればアビ・エシュフといえども無事では済まない。トキはアビ・エシュフの演算機能をフル稼働させる。
アビ・エシュフという兵装はエリドゥと繋がっており、エリドゥの持つ演算能力を利用する事で予知に等しい回避や弾丸すら撃ち落とすアクティブ防衛システムの使用を可能にしていた。
その演算機能が危機的状況を回避するための計算を開始する。
――瓦礫の質量をアクティブ防衛システムで迎撃することは不可能。回避経路演算開始。
アビ・エシュフが瓦礫から逃れるためのルートを割り出す。後はそのルートをなぞって機体を動かせばいいだけだった。しかし、それをパニッシャーから放たれた弾丸が遮る。
(正気ですか!? このままだとあなたも無事では済まないのですよ!? )
なりふり構わず脱出しなければいけない場面、その最中に関わらず自分だけを見据えて攻撃を加えてくる男に、トキは戦慄する。
そしてアビ・エシュフはトキの動揺が伝わったかのように動きを鈍らせ、その弾丸を避けることができなかった。
これがアビ・エシュフの弱点だった。いくらエリドゥの演算能力が優れていても、その力には限りがある。故に演算に多大な負荷が加わる場合、例えばアクティブ防衛システムでパニッシャーの攻撃を防いでいた時などは防御に演算処理が集中し、反撃するためのリソースが不足してしまったりする。
そして現状の様に回避しなければいけない瓦礫が数多くある場合も同様に、回避ルートを割り出す処理でアビ・エシュフの演算機能はパンクし避難経路に差し込まれたパニッシャーの弾丸まで回避することはできなかった。
トキが追い詰められる。上方は瓦礫の雨、前方には行く手を阻む戦鬼、許される時間は刹那。
だがトキは優秀だった。伊達にリオの側近を任されてはいない。このギリギリの場面から突破口を開こうと動く。
「ランチャー展開」
アビ・エシュフのビームランチャーの砲身を上空に向ける。
「ファイヤー」
そして光線を放ち自身に降ってくる瓦礫を消し飛ばした。上空の脅威は無くなり避難経路が確保される。
だが、その隙を戦鬼が逃すはずもなかった。ウルフウッドが王手をかける。
アビ・エシュフのビーム・ランチャーは凄まじい威力を誇るものの、その威力と高い電力消費の反動で発射中は動けず、発射後にもコンマ秒の硬直が生じてしまう。
アビ・エシュフの演算限界まで(そもそも計算して回避していること自体)ウルフウッドは知らなかったが、物理的に回避不可能な攻撃でビームランチャーを使わざるをえない状況にまで追い込みトキの硬直を誘う。これこそがウルフウッドの策だった。
「な? 王手言うたやろ」
パニッシャーがトキに突きつけられる。しかしトキは動く事が叶わない。
激しい銃撃音が鳴り、アビ・エシュフは破壊されトキは意識を手放した。
◇ ◇ ◇
ウルフウッドが破壊したアビ・エシュフからトキを取り出し瓦礫から離れた場所まで運び終えた当たりで通信が回復する。
<そっちも終わったみたいだね>
「チヒロやないか。お前が通信回復してくれたんか? 」
<まあね。今はヴェリタスのみんなが通信を維持してくれてる。ナビは私がするよ>
「すまん、助かるわ。あっ、せや、センセ達無事かわかるか? こいつがセンセとC&C分断した言うとってな」
<分断はされちゃってたけど二組とも無事だよ。中央タワーで合流できるようナビしてる>
「ならええわ。それじゃあワイも遅れんように急がないかんな。道案内よろしゅう頼むで」
チヒロのナビの元、ウルフウッドもリオとアリスのいる中央タワーへと駆け出した。
アビ・エシュフの迎撃機能が本当にこんなものかはわかりませんが、フロントミッションの漫画に弾すら撃ち落とすビーム持った機体があり、個人的にそんなイメージで書いています。
トキVSウルフウッド、さっくりと終わってしまいましたが、やっぱりニコ兄がアビ・エシュフに対して苦戦する姿が思い浮かばなかったんですよね。勝手なイメージですけどニコ兄的には呼吸というか間というか、そういうのが安定している相手の方が読みやすくてすぐ対応してしまいそう。多分ネルのほうがやりずらかったんじゃないんですかね。
それにしても書いてて思ったんですがトライパニッシャー全弾防いだヴァッシュの羽ってやっぱおかしい……