先生達がチヒロのナビでエリドゥ中央タワーへとたどり着く。するとその入り口で巨大な十字架を背負った男が煙草を取り出そうとしている姿が目に入った。
「なんや、もうちょい遅くてもよかったんやで」
” ウルフウッド、生徒の前で喫煙は駄目って言ってるじゃないか ”
「まだ吸ってへんやろ」
そう言いながら渋々煙草を懐へしまうウルフウッド。そして中央タワーを見上げる。
「ほな行こか」
エリドゥへの侵入組メンバーが揃い、いよいよアリスとリオがいると思われる中央タワーへと侵入しようとする。アカネがその先頭へと立った。
「ここからは私達C&Cが先陣を切らせていただきます。早々にご主人様と分断させられてしまい、道中はお役に立つことはできませんでしたが……ここから先は私達が、」
<その必要はないわ>
アカネがC&Cの活躍を約束しようとするが、それをリオの通信が遮ってしまう。
<アヴァンギャルド君とトキ、その二つが敗れた時点で私が持っている手札は全て消えた。貴方たちを止められる戦力はもうない、私の負けよ。……そこのエレベーターから私の居る最上階まで来ることができるわ>
リオの通信に合わせて前方にあるエレベーターの扉が開く。
「……罠、でしょうか?」
” いや、リオはそんなことしないよ ”
「あ、ちょっと、ご主人様!?」
訝しむアカネの横を素通りして先生はエレベーターへと乗り込む。先生が乗り込んでしまったので他のメンバーも慌ててエレベーターへ乗り込むと、エレベーターが起動し最上階目指して動き出した。
そして最上階へとたどり着きエレベーターの扉が開くと、メンバーを出迎えるようにリオがその場に佇んでいた。
” リオ…… ”
「……先生、ウルフウッド……ここまで来てしまったのね。近い将来、キヴォトスの脅威になることが確定しているあの子を救うために。それを分かっていて、それでもなぜ……」
「その土壇場はまだやて何べんも言うとるやろが。なんでお前ら頭良いのにそないバカやねん」
” リオ、アリスも生徒の一人だよ。彼女を魔王にしないためにみんなで協力しようって約束してたじゃないか? アリスと一緒に帰ろう? ”
「……アリスはあちらに眠らせているわ」
リオが案内した先へ向かうと、そこにはいくつものケーブルに接続されて機械の寝台に寝かしつけられているアリスの姿があった。ユズとミドリがアリスへと駆け寄る。
「アリスちゃん!」
「アリスちゃん……」
二人がアリスに呼びかけるがアリスは目を覚まさない。その代わりとでもいうかの様に周囲の機械から異音が鳴り、不穏な空気が走る。
そしてアリスの横にあるモニターに――それだけでなく中央タワーのモニター全てに、ある文字が表示される。
――『Divi:Sion』
” これは……? ”
<ぃま……急に……な…が……!? 通信が……>
チヒロからの通信が突如として断絶してしまう。その場にいた皆が何が起きているのかわからないが、しかし「なにかよからぬことが起きている」ということだけは感じ取っていた。
リオが状況を把握するため管制室のコンソールを叩く。
「……これは……エリドゥのシステム全体がハッキングされている……? いえ、ただのハッキングではない……都市全体が『何か』に変質していっている……?」
「とりあえずアリス絡みなんやろ!? ミドリ、ユズ、そのケーブル引っこ抜いてさっさとアリス起こせ!」
「――その行動は推奨しません」
アリスが……いや、アリスの声をした何かがウルフウッドの指示を制止する。その声に釣られ皆の視線がアリスに集まった。その何かがアリスの体を起こし、目を開く。
「現在『王女』の表層人格は内部データーベースの深層部に隔離されています。強制的に接続を解除すると、取り返しのつかない損傷が起こるでしょう」
感情の伴わない無機質な瞳。それを見て、先生はモモイが怪我をしたあの事故を思い出す。
” ……まさかあの時の……君は、誰なんだ? ”
「私の個体名は『key』。王女を助ける無名の司祭たちが残した修行僧であり、彼女が戴冠する王座を継ぐ『鍵』、<key>です」
” key…… ”
「彼女が『王女』であり、私は『鍵』。それが私たちの存在であり目的。只今よりエラーを修正し、本来あるべき玉座に『王女』を導かせていただきます」
「Divi:Sion」と表示されていたモニターにあらゆるコンピューター言語とは違う未知の言語が羅列されていく。
「AL-1Sに接続された利用可能リソースを確保するため、全体検索を実行。……リソース名、要塞都市『エリドゥ』の全体リソース……一万エクサバイトのデータを確認。現時刻をもって、プロトコルATRAHASIS稼働。コード名『アトラ・ハシースの箱舟』起動プロセスを開始します。プロセスサポートのため
「エリドゥの各地で
keyの告げた言葉にリオが反応する。
” リオ、いったいこれは何が起きてるの? ”
「いえ、そんなはずが……私の計算は……でも、現状は……すべてを集めたのが、仇になった……? このままでは……ここが終焉の発端に……」
「おいコラッ!! ブツブツ言わんとちゃんと説明せい!!」
ウルフウッドが怒鳴りつけ、先生の言葉が届かないほど思考に没頭していたリオの意識を引き上げる。
「とりあえずこのままやとどうなるか、お前の知っとることをちゃんと話せ!」
「え、えと……私が調べた通りなら、今『名もなき神々の王女』は『鍵』を手に入れ『箱舟』が用意されたことになるわ。それにより無名の司祭の要請が実行され、エリドゥを変形させ『新しいサンクトゥム』がここに建立される。そしてすべての神秘はアーカイブ化されて……世界が、滅びる」
「……相変わらず何言っとるのかわからん……」
「……『アトラ・ハシースの箱舟』の基本概念は周囲のデータを『収集』し、『変形』させるというものなの。このままではありとあらゆるものが『記録』へと再構成されて簒奪されてしまう。世界そのものが書き換えられてしまうのよ……!」
それを聞いてゴクリと唾を飲むウルフウッド。正直今のリオの説明でも半分も内容を理解できていなかったが、自分達ではどうしようもない災厄が起きようとしていることだけは理解することができた。なにより終末一歩手前までの空気を知っている彼の経験が警告を発していた。リオの言葉に嘘は無いと。このままでは本当に破滅が訪れると。
何かを決心したかのようにリオが再び口を開く。
「……みんなは逃げてちょうだい。……私のせいよ。私がこの都市を作らなかったら……私がアリスを連れ去らなかったら……だから、私が止めないと。私の命に代えてでも……」
ゴチンッ
げんこつが落ちる鈍い音がする。それが落ちたリオは痛さで涙目になりながら頭をさすり、プルプルと震えつつしゃがみ込んでいた。
げんこつを落とした男が吠える。
「一人で暴走すんなドアホ!! なんべん同じミスするつもりや! ……ようはアリスを殺せば止まるんやろ?
ウルフウッドは振り返りつつ懐からハンドガンを取り出す。そしてアリスへ近付こうとする。そんな彼の前に先生が立ち塞がった。
「……どけ。前もゆうたやろ。土壇場が来たらアリスはワイが撃つ。今がその土壇場や」
” 違う、まだその時じゃない。可能性はまだ残されてる ”
「リソース確保、四十九%……」
睨み合う大人たちの後ろでkeyがカウントをとる。ウルフウッドはkeyを一瞥すると先生へと視線を戻す。
「……可能性ってなんやねん? それはアリス以外の生徒の命を賭けれるもんなんか?」
” ……まだ子供たちが諦めてない ”
「大概にせえよこのボケ!! これも言うたよな!? 最低なのは夢みたいな解法を待って何も選択せえへんことやぞと。なにが違うねんこの駄々っ子がッ!」
” でもッ ”
「もうええ、どけ!」
先生を押しのけウルフウッドが前に進もうとする。しかしそんな彼にミドリとユズが駆け寄り、その小さな体でウルフウッドを必死に抑え込む。
「お願いです! 待ってください!」
「アリスちゃんを……撃たないで……」
涙を零しながら縋りつく二人。その力はウルフウッドにとっては余りにも非力で、しかしその足を重くするには十分すぎるものだった。
「リソース確保、八十%……」
その後ろで無慈悲にkeyが滅亡までのカウントを告げる。
「……堪忍してーな。ワイかて撃ちたないねん。でもな、アリス撃てるんはこの場ではワイしかおらへんねん。アリスかてこれ以上誰かを傷つけたくないはずや、頼むからどいてくれ……」
「リソース確保、九十%……」
ウルフウッドが二人に願う。しかし二人はウルフウッドへのしがみつきを緩めることはなかった。ウルフウッドは苦虫を噛みつぶしたような顔をしながら、説得を諦めて引き離そうと二人に手を伸ばそうする、その時だった。
<ノア! 今よ! 電力という電力を全部落としちゃって!>
<は~い、ユウカちゃん。その言葉を待ってました♪>
二人からの通信の直後、中央タワーが停電する。すぐさま非常用の電源が稼働し最低限のシステムだけが稼働するが、エリドゥを満足に稼働させるだけの電力が無いのかkeyがカウントを停止する。
「……リソース確保失敗。システムシャットダウン」
<みんな、大丈夫!?>
” うん、大丈夫だよ。間に合ってくれて本当によかった。ありがとう、ユウカ、ノア ”
まだ痛むのか頭を摩りながらも、リオが二人の通信に驚く。
「……まさかエリドゥに繋がる全電源をカットしたの……? 容易なことではないはずなのに……」
<本当ですよ、電源経路を紐解いて把握するためにここまで時間がかかってしまいました。……本当はここの位置を伝えるだけで手を引くつもりだったんですが、ユウカちゃんがそれだけじゃダメだって言いましてね>
<会長!! セミナーの予算を横領してこんな都市を作るだなんて……しかもアリスちゃんまで連れ去って! 後でお説教ですよ! 覚悟しておいてください!>
「ノア……ユウカ……」
そのやり取りを見てウルフウッドが先生を睨む。
「……まさかセンセ、この二人が動いとったの知っとったんか?」
” だから言ったろ? 『子供たちが諦めてない』って ”
「知っとったんやったらちゃんと言えやぁッ!!!」
ウルフウッドは青筋を浮かべながら先生の襟をつかみ上げる。
” ぐ、ぐぇ、し、仕方ないじゃん、連絡見たのついさっきだったし、ユウカたちの動きを把握してた訳じゃ……ぐ、ギブギブギブギブ! ”
そんなやり取りが繰り広げられる傍ら、keyは現状の復旧に勤しむ。
「リソース確保プロセスエラー。緊急状況発生、Divi:Sionを電源及びプロトコル実行者を保護するためエリドゥ中央タワーに集……邪魔者? 状況確認のため画面表示」
keyはプロトコル再開のために
「なんやなんや?」
ウルフウッドや先生達もモニターに映し出された映像を見る。するとそこには改造されたアヴァンギャルド君(デザインはマキ監修)と、それに乗って
” アヴァンギャルド君とエンジニア部! ”
「なんやあの変なの……?」
玩具みたいな人型戦車に宇宙戦艦の武装が取り付けられ怪物相手に戦っている。質の悪いB級映画のワンシーンの様な光景が映し出される。ウルフウッドは先ほどまでのシリアスな空気が(ユウカたちの乱入で変わりかけていたものの)今完全に瓦解したことを感じ取った。
凄惨で救いのない物語が青春コメディへと書き換わる。
keyも映し出された光景に理解が及ばないのか、初めてTSCに触れたアリスの様に困惑していた。
「理解不能。状況判断不可。命令修正および再実行。追従者は想定外兵力と戦闘を避け、エリドゥ中央タワーに集結……」
「残念だけどそれはできないよ!!」
「モモイの言う通りです。タワーの入口はエイミとネルが塞いでいますので」
指示を修正するkey。だがそんな彼女をあざ笑うかのような二人の声が管制室に響く。
” モモイ!! それにヒマリまで!? ”
ミドリとユズがウルフウッドのそばから駆け出し、モモイを抱きしめた。
「お姉ちゃん!!」
「よかった……無事で本当によかった……」
「おいてっちゃうなんてひどいよみんな~。目を覚ましたら誰も居なくてビックリしたんだから!」
「お姉ちゃんが寝坊するからだよぉ。でもどうやってここに?」
「それがネル先輩が拾ってくれてね……」
モモイの言葉に合わせるように、先ほどから空気になっていたC&Cのメンバーに怒号じみた通信が入る。
<おい、さっさと来いお前ら! 途中で拾ったトキから聞いたぜ、お前ら全然活躍できなかったらしいな? ここで暴れねーでどうすんだ!?>
「リ、リーダー!? 怪我はどうしたんですか!?」
<左手が動かねーだけだよ、雑魚相手なら十分だ。おら、つべこべ言わずに早く来いよ>
「もう!!」
「いや~元気だね~リーダー」
「……あの怪我でなんであんなに動けるんだろう……?」
「とにかく行きましょう! ……ご主人様、私たちはリーダーの元へ行きます。C&Cの名に懸けて敵の侵入はさせません」
アカネ、アスナ、カリンがネルの元へと駆け出していく。
ウルフウッドは完全に書き換わった空気に呆れたような気が抜けたような深いため息をつく。そしてまだハンドガンを手に持っていたことを思い出し、それを懐にしまった。
「はぁ……とりあえず制限時間は延長できたわけやな。でもこれからどないすんねん? まだ根本的な問題が解決できたわけちゃうぞ」
「無論それについてもこのミレニアム最高の天才清楚系病弱美少女ハッカーである私に考えがあります」
全知を自称する美少女がどや顔でウルフウッドの前に躍り出る。それに対して当然の疑問を先生が投げかけた。
” そもそもなんでヒマリがここに? 全然連絡つかなかったのに…… ”
「お二人の優しい説得にも応じないそこのお馬鹿さんに捕まっていたんですよ。まあ少し前にエイミが助けてくれたのですが」
「貴方をあそこから出したのはエイミだったの?」
自らが選出した者がヒマリを助けていたことに驚くリオ。それを見てヒマリは意地悪そうに笑う。
「私と一緒にプリンを食べたかったからだそうですよ。私と。人徳の差が出てしまいましたね、リオ」
「……別に、少し想定外だっただけよ」
いつものようなギスギスした空気を醸し出すヒマリとリオ。こいつらよく飽きひんな、とウルフウッドは呆れながらも話を前に進めるために間に入る。
「で、解決方法ってのはなんや?」
「おっと、そうでしたね」
ヒマリはわざとらしいリアクションを取りつつ車椅子を走らせkeyへと近づいた。
「これが『key』……無名の司祭の『オーパーツ』を稼働させるためのトリガーAIですか。このまま放っておけば、きっとアリスの人格はこの『key』に置き換えられ……無名の司祭が望む通り『名もなき神々の王女』として覚醒することになるでしょう」
” ……そうしないためにはどうすればいいのかな? ”
先生が尋ねる。皆も固唾を飲んで耳を傾けていた。
「……『key』の起動でデータベースの深部に隔離されてしまったアリスを起こすのです。『名もなき神々の王女』のトリガーはあくまで『key』、ですからアリスを表層意識まで呼び起こすことができればモモイが怪我をしたあの事故の時のように、この事態を止めることができるでしょう」
「……またパニッシャーでぶん殴ればええんか?」
パニッシャーを担ぐウルフウッド。それを見てヒマリは慌てて制止する。
「ちょっと待ってくださいウルフウッドさん!? 古びたテレビじゃないんですから駄目に決まっています! 今回はその方法は通用しません!」
「じゃあ、どないな方法やねん?」
「それはですね……リオ、ダイブ設備ぐらいここにはありますよね?」
リオへと向き直り、話を振るヒマリ。
「……ええ、あるわ。元々その装置を応用してアリスのソフトウェアを破壊するつもりだったから。……でも、あなたがしようとしている運用は想定していない。そんな事、現実的にできるわけない……」
” えっと、ダイブ装置ってどういうこと……? ”
先生の疑問にリオが狼狽えながらも答える。
「ヒマリはダイブ装置を使ってアリスの精神世界に入りアリスを連れ戻そうとしているのよ。でも、それは危険すぎる。例えアリスの精神世界にうまく侵入できたとしても、下手をすれば二度と戻って来れなくなってしまうのよ。そもそも、そんなこと一体誰が……まさか……?」
「あら、あなたにしては勘が良いですね。お察しの通りですよ、リオ。現状、アリスを連れ戻せるのはアリスが精神世界に招いてくれるであろう絆を紡いでいるゲーム開発部と先生、ウルフウッドさんしかおりません。……それ以外に方法はないんです」
ヒマリはゲーム開発部に少しばかり申し訳なさそうに視線を向ける。それに最初に応えたのはユズだった。
「……やります……アリスちゃんを、連れ戻せるのなら」
ユズに続いてミドリも応じる。
「私も、行きます。ここでアリスちゃんとお別れだなんて、絶対に嫌だから」
「当然私も行くよ! アリスを連れ戻すために急いで駆けつけたんだから、当たり前だよ!」
モモイも間髪入れずに応える。ゲーム開発部は誰一人として、例え自らの危険があろうともアリスを諦めるという選択肢を持っていなかった。
先生も彼女たちの決意を汲む。例え危険があってもそれが彼女達が真剣に考えた選択であれば……何より、アリスを助けるハッピーエンドには彼女達が不可欠だから。
” ……分かった。みんなで行こう! アリスを迎えに! ”
「いや、ワイは行かへんぞ」
その言葉にゲーム開発部の面々が信じられないものを見るような視線をウルフウッドに向ける。しかしウルフウッドはばつが悪そうな顔をしながらも「冗談や」と言う気配はない。
モモイが叫ぶ。
「なんで!? 今のはどう考えてもみんなで行く流れじゃん!!」
「よく考えろやこの向こう見ずのアホ共! これしくじったら誰がアリス止めないかんねん? 物理的に止めれるのはワイだけやねんぞ」
「でも……」
「でももクソもあるか! 分の悪い賭けには違いあらへんねん。かかってるもの考えたら保険はいるやろが!」
確かにウルフウッドの言う通りである。自分たちが失敗してしまったらいよいよアリスを止める手段がなくなってしまう。それはすなわちキヴォトスの終焉と同意義だ。ゲーム開発部の心情的には納得できないが、しかし必要な保険であることは確かだった。
” わかったよウルフウッド。留守番よろしく。なにかアリスに伝言はある? ”
まだモヤモヤしているゲーム開発部とは別に、大人としてウルフウッドの言っていることも理解している先生がウルフウッドに尋ねる。彼が同行しないなら、せめて言葉だけでもアリスに伝えてあげたかった。
ウルフウッドは少しばかり思案すると、先生に一言伝言を頼む。
「せやな……『ヴァッシュやったら諦めてへんぞ』、そう言っといてくれへんか?」
” 了解 ”
「みなさん準備が整いましたよ。こちらに来てください」
ヒマリの呼び声に反応し、ゲーム開発部と先生がダイブ装置へと向かう。
四人はアリスの精神世界へと飛び立った。
◇ ◇ ◇
「……随分と落ち着いているのね」
「焦ったってどうにもならへんしな」
ダイブ装置でアリスの精神世界へと旅立った先生たちを眺めながら、リオはウルフウッドへ声をかける。
「……やはり私は……間違っていたのかしら……」
それはリオの独白のような物だった。そんな彼女の様子を見て、ウルフウッドはある言葉を思い出す。
「……バカやなお前。一人で全部やろうとして、ホンマ損なやっちゃで。どうせお前も理想高いくせに融通きかなくて傷つきやすいタイプやろ。そんで一人で突っ走った結果がこれや」
「……お前『も』……?」
「……今のはワイが昔……言うても二年ちょい前ぐらいか……親代わりの人に言われた言葉や。今のお前にぴったりや思うてな」
「……」
「あんな、リオ。ワイはお前の考えがそこまで間違ってるとは思うてへん。センセ達がしとるのも分の悪い賭けやし、そもそもユウカ達が間に合ったのもギリギリやったしな。あんなんがいつまでたっても続くとは思えへん。……でもな、一人だけやと限界あるのも確かやねん。言いたないけど、ワイも一人やったら大切なもん守り切れへんことが何べんもあった。今回、お前の悪いとこ挙げるとしたらそこやろな」
「…………」
リオはしばらく黙ってから、ウルフウッドに問いかける。
「……貴方は何故、非合理的な選択を信頼できるの? 貴方は合理的な……私に近い考えを持っている人間よ。それなのに、なぜ?」
「ただの経験則や」
「経験則……」
「人生の先輩として教えといたる。こんな時に何かしでかすのは、決まってあいつらみたいな一途な馬鹿や」
「……理解できないわ」
「経験則や言うたやろ、ワイかて未だに納得できてるわけちゃう。ただそれでも、今はそういう空気っちうことや」
「……やはり、わからないわ」
「まあその気持ちはわかるで。いつだって振り回されるんは、ワイらみたいなバカになりきれへん奴らやからな。……悩んで悩んで、自分の答えを出せばええ。なんやったら悩みでも懺悔でもワイが聞いたるで。ワイは牧師やからな」
ウルフウッドはくつくつと笑いながら自分に相談することを提案する。それは同じリアリストとしてのシンパシーをリオに感じたが故の、彼なりのサービスだった。
「……無事に事が済んだら、考えさせて貰うわ」
リオは先生達に視線を反らしだんまりしてしまう。その頬は少しばかり赤く染まっていた。
ウルフウッド、リオにゲンコツ落としてますが、個人的には殴ったりはしないけど叱る感じでゲンコツ落とすことはあるかな? って思ってます。
ラズロいわく「ものすげえ痛え!!」
トライガン原作やアビドス編の後なのでこの小説のウルフッドは他人に頼ることも意識していますが、それでもどこまで行ってもヴァッシュや先生のように一途な馬鹿にはなりきれないんじゃないかと思います。そこはリオと似ているところだけれど、そういう馬鹿がいること、やらかすことをグチグチ言いながらも飲み込むことができるのがリオと違ってウルフウッドの大人なところかなと思ったりしました。