ウルフウッドアーカイブ   作:タニシ・トニオ

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10_切符の行き先

 

「ここがアリスの心の中……?」

 

 周囲を見渡すモモイ。そこにはミレニアムの廃墟と酷似した風景が広がっていた。

 目の前に広がる風景を見てユズが呟く。

 

「アリスちゃん、一体どこにいるんだろう……」

 

“ 多分、アリスが最初に眠ってた場所に居るんじゃないかな? ”

 

 廃墟に酷似した風景から当たりをつける先生。記憶を頼りに散策すると、アリスの居た工場を発見する。その中に入り奥に進むと、アリスの眠っていた部屋に続く階段が存在していた。

 

「ここだ、アリスはきっと奥に居るよ!」

 

 モモイが確信を持って駆け出して行く。皆もモモイに釣られて奥へと進むが、現実世界と違いその奥は行き止まりとなっていた。アリスが眠っていた部屋のドアが閉まっていたのだ。

 

「そんな……最初に来たときはこんな扉無かったのに……」

 

“ ……諦めちゃ駄目だモモイ。きっとアリスはこの奥にいるよ。開けてくれるようにみんなで声をかけるんだ ”

 

 先生の言葉に皆がうなずく。

 

「アリス!! 私は無事だよ! この通り元気も一杯だし、怒ってもない。それよりもアリスに会いたいよ!! お願いだから扉を開けて!!」

 

「アリスちゃん、このままお別れなんて絶対嫌だよ! みんなで帰って一緒にゲームを作ろう!」

 

「アリスちゃんが来てくれて私たちは色々変われた、前に進むことができた。だから、アリスちゃんが前に進めなくなっちゃったなら、今度は私たちが手を貸したい……友達だから! お願い、扉を開けて!」

 

“ アリス、自分を諦めないで。ウルフウッドも言っていたよ、『ヴァッシュなら諦めてない』って。こんなにも君を待ってる人がいる。だから一緒に帰ろう! ”

 

◇ ◇ ◇

 

 扉の奥から、みんなの声が聞こえます。

 

 モモイが無事で本当に良かったです。

 ミドリが言うようにまたみんなとゲームを作りたいです。

 アリスが前に進みたくなるような世界を教えてくれたのはユズ達なんです。

 ……みんなのことが大好きです。今すぐにでもみんなの元へ駆け寄りたいです。

 

 でも、みんなのことが大好きだから……だからアリスは消えなければいけません……

 だってアリスは、魔王だから……

 

 

“ アリス、自分を諦めないで。ウルフウッドも言っていたよ、『ヴァッシュなら諦めてない』って ”

 

 

――ヴァッシュ……ヴァッシュ・ザ・スタンピード……

 

……それは、魔王ナイブズの半身でありながら愛と平和を唄い続けた、アリスの憧れた勇者の名前。あの人なら、いったいどうしていたのでしょうか……?

 

「……ヴァッシュ・ザ・スタンピード……」

 

「呼んだかい? 」

 

 顔を見上げるとそこには男の人がいました。赤いコートに身を包み、胡散臭い丸眼鏡をかけ、先生に似た顔で優しい笑みを浮かべる人。金髪ではなく黒髪ですが、それ以外はウルフウッドから聞いた通りの姿の人が、アリスの前にいました。

 

 keyが叫びます。

 

「なんなんですか貴方は! 王女の生み出した虚像ごときがなんでこんなところに!?」

 

「ええ〜、人を呼んでおいて虚像だなんて酷くない? ていうか君たちそっくりだね、もしかして双子? 」

 

 おどけたようにヴァッシュは答えます。ウルフウッドから聞いて想像した通りの人物像です。

 だからきっと、目の前のヴァッシュはkeyの言う通りアリスが生み出した妄想のヴァッシュなのでしょう。

 ……それでも、それでも……聞かずにはいられませんでした。

 

「……私はアリスと言います。勇者ヴァッシュよ、教えて下さい。……アリスは、友達を傷つけてしまいました。アリスは魔王だから、存在していたら大切な人達を傷つけてしまいます。……アリスはどうすれば、良いのでしょうか? やはり……消えるべきなのでしょうか……」

 

「王女よ、あなたが見てきた光景を忘れた訳ではないでしょう?」

 

 keyが映像を映し出します。モモイを傷つけてしまった時、先生がアリスを引き留めようとして取り押さえられてしまった時、アリスのせいで大切な人達が傷ついていく光景を。……やはりアリスは……

 

「…………なんとなくだけどさ、まあ、事情はわかったよ」

 

 よっこいしょと、泣き崩れているアリスの横にヴァッシュが座り込みました。

 

「……僕もさ、大切な人たちを傷つけちゃったことがあるんだ。それも数え切れないほど沢山。だから君の気持ちもよくわかる。……自分が許せなくて、自分に価値を感じられなくて、消えた方がいいだなんて僕も何度も思ったことがあるよ」

 

「……でも、あなたは折れなかったと聞いています」

 

「やらなきゃいけないことがあったからね」

 

「ナイブズとの決着ですか? 」

 

「えっ、なんで知ってるの!? ……あ、これ夢だからか……」

 

「?」

 

 ヴァッシュは狼狽えた後、なにか一人で納得した様子を見せながら続きを話してくれます。

 

「まあそれもあったんだけどさ……大切な人に言われてたこともあってね」

 

「言われたこと?」

 

「……『白紙の切符を決して手放さないで、死ぬなんて言わないでよ』ってね。この言葉があったから、ボクは何度も踏みとどまれた。……アリスって言ったけ? さっき君は自分が消えるべきって言ってたけどさ、そんな簡単に全部手放しちゃ駄目だよ」

 

「ですが、アリスがいたら……」

 

 アリスがいたら、みんなを傷つけてしまいます。……殺してしまいます。その光景を想像しただけで、私の思考はエラーで埋め尽くされて、めちゃくちゃになってしまいます。リオが必死にそれを避けようとした気持ちも、わかります……。だからやっぱり、アリスは、消えるべき……

 

「君は世界を、人間を舐め過ぎだ。君は凄い力を持ってるみたいだけど、そんな簡単に世界は滅びはしないよ。君が思っている以上に、人は強かで、タフで、素敵なんだから。……ほら」

 

 ヴァッシュが部屋のドアを指差します。

 

「あそこでアリスを呼んでる人たちが大切な友人達なんだろ? こんなところにまで君を迎えに来てくれるなんて素敵な人達じゃないか」

 

「はい、みんな素敵な……アリスの大好きな人達です。でも、だからこそ……」

 

「自分を軽く見すぎだよ。……辛いんだぜ、友達がいなくなるのは。心にぽっかり穴が空いたみたいに胸が冷えるんだ。友達にそんな思いをさせちゃ駄目だよ……」

 

「……」

 

 ヴァッシュの目は、ウルフウッドがヴァッシュの体の傷のことを語ってくれていた時のように悲しそうでした。「胸が痛くなる」……あの時、そうウルフウッドは言っていました。そんな思いを、みんなにさせたくありません。

 

「僕と違って、君はまだ大切な人達に会える。傷つけちゃったら『ごめんなさい』だって言える。仕切り直せるじゃないか」

 

「アリスは、生きていていいのですか……?」

 

「そりゃそうだよ。……君はどこにでも行ける。消えた方がいいだなんて言っちゃ駄目だ。彼らと一緒に色々見るんだ、歩くんだ。その先に、君がまだ知らない素敵な世界が沢山待ってるはずだからさ」

 

「……はい」

 

「決まりだね!」

 

 ヴァッシュはニカリと笑うと立ち上がり、銃を取り出しました。

 

「ヒァ・ウィー、ゴォッ!!」

 

 ズドンッ

 

 彼の放った弾丸がドアのスイッチを押し、扉が開かれます。急にドアが開いたせいでみんなが雪崩れ込むように倒れこんでいました。

 アリス達のいた部屋に、そのドアから光が差します。

 

「さあ行くんだアリス。友達を裏切るな。幸せを掴め。夢を語れ。未来への切符は……いつも白紙なんだ」

 

 ヴァッシュが、光を指差して言いました。私は立ち上がり、その光に向かって駆け出します。

 

◇ ◇ ◇

 

 魔王は問う。

 自分はここに居てよいのかと。

 

 友は答える。

 当然だと。

 アリスがいたから自分たちは前に進めたのだと。

 アリスは、自分がなりたいものになってよいのだと。

 

 『魔王』は『アリス』となり、『勇者』という道を選択する。

 『勇者』の前に『光の剣』が現れた。

 

「それは……!? 王女よ、あなたのその力は、その存在は、世界を滅ぼすためのものなのですよ……!」

 

「違います! アリスの手にある切符の行き先は、アリスが決めます! アリスは勇者になって、モモイ、ミドリ、ユズ、それに先生、ウルフウッド……他にもこれから出会う素敵な仲間達と冒険を続けるんです!」

 

 『勇者』は『仲間』を手に入れ『光の剣』が用意された。新しい冒険の書が開かれる。

 

「光よ―――!!!!」

 

 世界が光で包まれる。その片隅で、赤いコートの男がエールを送るように新たな勇者へと手を振っていた。

 

◇ ◇ ◇

 

 追従者(Divi:Sion)が機能を停止し、エリドゥへのハッキングが止まる。それはヒマリの提案した作戦が上手くいったことの証だった。先生達がアリスを引き戻すことに成功したのだ。そのことにリオは驚きを隠せなかった。

 

「……本当に、こんなことが可能だなんて……」

 

「だから言ったやろ、しでかすのはあいつらみたいな一途な馬鹿やて。まあ真面目なワイらからしたらやってられへん話やけどな」

 

” 成功したのにそんな言い方はひどくない? ”

 

 皆より先に起き上がり、何事も無かったかのように会話に加わってきたのは先生だった。

 モモイ、ミドリ、ユズも体を起こし、一緒に目を覚ましたアリスへと駆け寄っていく。ゲーム開発部が抱き合っている光景を眺めながら先生は言う。

 

” あの子たちは勇者とそのパーティーメンバーだからね。不可能は無いよ ”

 

「お前、ついさっきまでギリギリやったの忘れたんか。どの口が言いよんねん、ホンマ調子のいい奴やな」

 

” まあそんなこと言わずにさ、ウルフウッドもアリスにお帰りって言いに行こう ”

 

 そう言ってアリスの元へと歩いていく先生。ウルフウッドも付いていこうとするが、下を向き立ち止まったままのリオを見やる。

 

「おい、いつまでそこで突っ立ってるねん。行くぞ」

 

「でも……」

 

「ええから来い言うとるやんか」

 

「……」

 

 リオは気まずそうにしながらもトボトボとウルフウッドと共にアリスの元へと歩き始めた。

 ゲーム開発部の皆にもみくちゃにされているアリスへまず先生が声をかける。

 

” 改めてお帰り、アリス ”

 

「先生……本当に、ありがとうございました。アリスが自分を諦めても、先生がアリスを諦めないで迎えに来てくれて。おかげで、アリスはここにいれます」

 

” 私は大したことはしてないよ。みんながアリスのために動いてくれて、そしてアリスが自分自身でこの未来を選択したからこの結果を得られたんだ ”

 

 先生の言葉の後、ウルフウッドが一歩前に進みアリスに対面する。

 

「とりあえずお疲れさん。……にしてもアリス、お前諦めるの早すぎやぞ。なんでトンガリの話を知っとるのにリオに言われた程度であっさり折れてまうねん。おかげでいらん手間食ってもうたやないか」

 

「う、うう……それについては本当にすみません」

 

「ちょっとウルフウッドさん! そんな言い方ひどいよ!」

 

「アリスちゃんだって辛かったんですよ!」

 

「わ、私達もあの場で引き留めることができなかったんです。悪いのはアリスちゃんだけじゃ……」

 

 ゲーム開発部から非難轟々、言葉の洪水を浴びせられるウルフウッド。

 

「すまへん、すまへんって! ちょい、続き喋らせてーな。アリスに謝らないかんことあんねん!」

 

「私に謝ること、ですか?」

 

 ウルフウッドは少しだけリオを見てからアリスに向き直る。

 

「……お前があのkeyっていうのに乗っ取られかけた時、ワイはお前のこと諦めて殺そうとした。すまんかったな、堪忍やで」

 

 そう言ってウルフウッドはアリスへ頭を下げる。アリスはそれに驚き目を見開いたが、すぐに優しい笑みを浮かべた。

 

「許すも何も、アリスは怒っていません。……ウルフウッドはみんなを守るために、アリスがこれ以上誰かを傷つけないために、辛い役割を引き受けてくれる優しい人だとアリスは知っています。いつも大事にならないように私達を見守ってくれてありがとうございます」

 

「……おおきにな」

 

 そしてウルフウッドは一呼吸置くと、もう一度リオを見る。

 

「おい、お前の番やぞ」

 

「え……?」

 

「なに意外そうな顔してんねん。手本見せてやったやろが、ちゃんと謝れ言うとんねん」

 

「……ッ、その……」

 

「ええから来い!」

 

 ウルフウッドに一喝されておどおどしながらゆっくりとアリスの前まで歩いていくリオ。最後の一歩がなかなか踏み出せずに足を止めてしまうが、ウルフウッドに背中を押され転びそうになりながらもアリスの前に立つ。

 リオは自身のスカートを握りしめながら緊張した面持ちで口を開いた。

 

「……その、ごめん……なさい……。私は貴女を、貴女の命を……」

 

「リオ、私はリオのことも怒っていません」

 

 アリスはウルフウッドに向けた笑みのまま答える。

 

「でも……」

 

「アリスは想像しました。アリスのせいでみんなが……死んでしまう光景を。立っていられないほどつらくて、苦しくて、絶対に嫌だと思いました。……だからリオが必死にその景色を避けようとした気持ちも分かるんです。なので、アリスはリオを責められません」

 

「……どうして、自分の命を奪おうとした相手にそう言えるの?」

 

 リオは視線を右下に下げながらアリスに尋ねる。自分が許されないことをした自覚はある。少なくともアリスには自分にどんな暴言を吐いてもいい権利ぐらいはある。それでもアリスは許すことを選択した。それをリオは理解できなかった。

 アリスは一度目をつむり、あの男に言われたことを反芻する。

 

「……生きているからです。勇者ヴァッシュは言っていました。生きているなら謝って、それで仕切りなおせると。私は、リオと仲直りして仲間になれる可能性を捨てたくありません」

 

「私を……仲間……? 」

 

「はい。リオはウルフウッドと同じで、みんなの為に自分を犠牲にできてしまう優しい人です。たった一人でこんな都市を作って、最悪の未来を回避しようとしたすごい人です。だからリオが仲間になれば、きっと冒険の可能性が広がります。アリスは知っていますよ、仲間になったボスキャラは強力なユニットが多いんです!」

 

「私には、そんな資格は……」

 

 アリスが許してくれたのに未だにウジウジしているリオにしびれを切らし、ウルフウッドが口を挟む。

 

「資格も何も、まだ根本的な問題が解決したわけちゃうねんぞ。あのキショイ機械生み出す工場も見つけなあかんし、お前の力が必要やっちう話や」

 

” 連携してミレニアムを、キヴォトスを守ろう……そういう約束だったよね、リオ。私は忘れてないよ。これからは君一人だけじゃない、みんなで力を合わせていけばいいんだから ”

 

 先生もウルフウッドに続いてリオに声をかけた。穏やかな声で。

 

 敵とみなして傷つけてしまったはずなのに。騙して裏切って、ひどいことをしてしまったはずなのに。そんな自分に、そんな優しさを向けるのは非合理的だ。

 ——でも、そんな非合理に救われている自分がいるのも確かだった。

 

(ああ……これが経験則というものなのね)

 

 ウルフウッドの言っていたことが今やっと、少しばかり理解できた気がした。合理だけではたどり着けない景色がある。少なくとも、今目の前にある景色は自分の計算結果には無かったものだ。これがウルフウッドの言っていた『一途な馬鹿のしでかすこと』で、アリスの言っていた『冒険の可能性』なのだろうと、理解できた気がした。

 ウルフウッドが信じているものは、きっとこれなのだろう。私にはまだ理解することができない。でも、理解したいと今なら思える。

 だったら、理解している彼に相談しよう。話を聞いてくれると彼は言っていたし、理解している人物に相談する方が合理的だ。

 リオは先生達に向けて初めて笑みを浮かべる。

 

「ありがとう……アリス、先生、ウルフウッド……私を、許してくれて」

 

「ちょっと、なにいい感じにまとめようとしているのですか! リオ、あなた他にも謝らないといけない方々がいるの忘れてませんよね!?」

 

 みんなで仲直りしてハッピーエンドな空気を醸し出すリオ。しかし、それに待ったをかけたのはヒマリだった。そしてヒマリのツッコミを皮切りに静観を決めていたメンバーが口火を切り始める。

 

「そうですよ会長! アリスちゃんが許してもアリスちゃんを連れて行っちゃった時のこと私たちは怒ってるんですから!」

 

<リオ! テメー嘘ついてあたしをエセ牧師にぶつけたろ! 趣味の悪い嘘つきやがって、さすがにライン超えてっぞ!!>

 

<会長!! エリドゥ建設費の件、きっっっっちり話してもらいますからね!!>

 

 次々と浴びせられる怒号に狼狽え、ショボショボし始めるリオ。それを見たウルフウッドはいつもだったら「お前がまいた種や、お前でどうにかせい」というところだが、自身もアリスを手にかけようとした負い目からか、それとも先ほど感じたリアリストとしてのシンパシーからか、珍しくリオに優しい声をかける。

 

「あ~……まあ、帰ったらまず謝罪して回ろか。ワイらも一緒に頭下げたるから、なっ?」

 

” あれ、私も? いや、もちろん付き合うんだけど……なんか君から言われると釈然としないんだよな ”

 

「あ”あ”? はったおすぞ!? いつもお前がワイを巻き込む側やろが!!」

 

 来た時とは真逆のやかましい雰囲気のまま、みんなでミレニアムの校舎へと向かっていく。

 それはまさしく勇者パーティーの凱旋だった。

 

◇ ◇ ◇

 

 変わった夢を見た。友達を傷つけてしまったと泣いている女の子に会う夢だ。

 

 その夢の中の女の子は自分がいてはいけない存在だと思い込んで可能性を閉ざそうとしてた。その姿が不思議と、昔の自分に重なって見えた。

 テスラのことを知り、取り乱してレムを刺してしまったあの時の小さな自分だ。

 

 アリスと名乗った少女が言っていたことも分かる。詳しい事情は分からないけど、彼女が生きていると周りを傷つけてしまうらしい。だから自分が居なくなったほうがいいと、そう思ってしまう気持ちは痛いほどわかる。

 

 でも目の前まで友達が迎えに来てくれているのに、それはちょっともったいないんじゃないかと思った。

 

 あの子の友達たちは必死で叫んでいた。「アリスに会いたい」と。「一緒に歩んでいきたい」と。優しそうな人たちで、正直ちょっとうらやましかった。僕の友達は手厳しいし、もう会うことができないから。だから同時に、彼女たちに同じ思いをして欲しくないとも思った。

 

 アリスに前を向いてみんなの元へ向かってほしくて……思いついたのがレムの真似だ。あの時僕を救ってくれたレムの言葉なら、僕と同じようにあの子を救えるかなと思ったんだ。

 

 そしてアリスは立ち上がって、友達の元へと駆けていった。その姿を見てなんだかこっちも嬉しくなってしまう。なんだろう、妹がいたらこんな感じなのかな? ついさっき会ったばかりなのに、ズルしてお兄ちゃんをしているみたいだった。

 

「本当に不思議な夢だったなぁ……」

 

 朝食のサーモンサンドを頬張りながら未だに今朝見た夢のことを考えている。あり得ないシチュエーションで夢には間違いないことなのに、変な現実感があるのだ。アリスは夢の世界の住人のはずなのに、彼女の未来の先に幸せがあって欲しいと願ってしまう。

 

「……ま、いいか」

 

 悪い夢ではなかった。希望溢れる青春の物語、きっとジャンルに分けるとしたらそんな感じだろうか。不思議と、今日は何かいいことがありそうな晴れ晴れとした気分になれる。

 

「今度はカルカサスにでもいこうかな」

 

 アリスと話していてウルフウッドに会いたくなってしまった。ナイブズとの決着がついた後もなんだかんだドタバタ続きでウルフウッドの墓参りができていなかったし、丁度いいかな。

 

「土産話がいっぱいあるんだ」

 

 地球との交流が始まって、この星に未来ができた。君が守り抜いた子供達に明日ができた。これを伝えたら、アイツはきっと喜ぶだろうな。決着はついたけど、ナイブズを結局撃てなかったと言ったら君は怒るだろうか? 呆れるだろうか? メリルとミリィも元気だよ。

 ……今朝見た夢の話をしたら、君はどんな顔をしただろうか?

 

 サーモンサンドを食べ終えて食卓から立つ。僕の切符の新たな行き先は決まった。

 

――後は前に進んで歩いて行くだけだ。

 




 最初リオは原作通りに家出する予定でしたが、「家出しなさそう」と感想をいた抱いた際に「確かに先生もウルフウッドも大分リオに理解があるように書いてるこの流れでリオが家出するのもおかしいな。というかウルフウッドが居たら絶対リオに謝らせるよな?」というように考えを改めまして、リオの家出はキャンセルしました。
 リオが家出しないオリチャー程度ならいくらでも挽回できそうだし、むしろリオがいてくれた方が話が広げやすそうだったので……

 アリスがヴァッシュと繋がったのはきっとアリスの力でなんかうまくいったんです。
 アリスとヴァッシュの邂逅はTSC2渡来銃のネタを書いていた時点で決めていました。アリスのバッドエンドに近い経験をしているヴァッシュに、ある意味似た存在の先輩としてアリスにアドバイスをしてくれるシーンをどうしても書きたかったので。
 アリスが小さい頃のヴァッシュで、ヴァッシュが今度はレムの立場になってもらいました。
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