ウルフウッドアーカイブ   作:タニシ・トニオ

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今回の話はウルフウッドの過去とか色々捏造話が出てきます。そもそもクロスオーバー二次創作で今さらって話ではあるんですが一応注意しておきます。


幕間03
絆ストーリー:ウルフウッド03_聖書の行方(前編)


 腹が減って死にそうやった。

 だから引ったくりをした。

 狙ったのは反撃をしてこなさそうな初老の牧師。

 奪った荷物の中には少しばかりの食糧と、良くわからん書類と……そして一冊の聖書が入っていた。

 食糧を平らげてからその他は捨ててしまおうかと思ったが、聖書は文字の勉強ぐらいにはなるかと思ってなんとなしに持っていた。

 書いてある内容を本当の意味で理解できたのは、孤児院に拾われておばちゃんや兄弟たちと過ごしてからやった。

 

――意味を理解して、自分は咎人なのだと知った。

 

◇ ◇ ◇

 

 

<先生、ウルフウッドさんが大変なことになってしまったのだ! 来て欲しいのだ!>

 

 山海経の生徒、薬子サヤからの急な連絡に焦りを覚える。

 

 ウルフウッドはネルとの戦いで使用した薬(彼曰く自分専用の回復薬らしい)の複製を依頼するため、薬師として非凡な才能を持つサヤの元へと出掛けていた。

 彼はリアリストだ。だから自分の関わるべきラインは引くし、それを越えそうな問題があればちゃんと連絡もしてくれる。

 だからこそ何の前触れもなくサヤから連絡が来たということが異常事態に他ならなかった。

 ウルフウッドに連絡するが繋がる様子も無く、焦りが強まる。サヤに再度連絡するも、

 

<兎に角早く来て……あ、待つのだ! 逃げようとしちゃ駄目なのだ!>

 

 そのままブツリと通信が途絶えてしまった。

 彼は私の知っている誰よりも強い。だというのに、一体彼に何があったというんだ……?

 兎に角急いで私は山海経へと向かった。

 練丹術研究会へと駆け込む。

 

“ サヤ、一体何があったの!? ”

 

「先生! よく来てくれたのだ!」

 

「なんや、そのにーちゃんが迎えの人なんか?」

 

 扉を開けるとそこにはサヤと……そして見知ったヘイローを浮かべている少年がいた。

 

“ き、君は……ウルフウッド……なのかい? ”

 

「せやで、ワイがニコラス・D・ウルフウッドや。まだ十二のガキやけどちゃんと働けるで。よろしゅうお願いします」

 

 少年の挨拶はまるで初対面の人物に向けるそれだった。

 

◇ ◇ ◇

 

 サヤに聞いた話をまとめると、

 

・ウルフウッドの薬の複製依頼を受ける代わりに例の若返り薬を改造した物の治験をウルフウッドにしてもらった

 

・若返り薬の改造内容は効果時間の延長。しかしそれの副作用か今回の薬は記憶まで戻してしまうものだったらしい

 

・効果さえ切れれば少なくとも服薬前の記憶までは戻る。ただしその効果時間は脅威の一週間(ちなみにウルフウッドには「一定時間」と言って飲ませたのだとか)

 

・解毒薬は混乱していた子供のウルフウッドがこぼしてしまって無くなってしまった。再生成には結局一週間ぐらいかかる

 

 ……とのことだった。思わず頭を抱えてしまう。いや、本当にどうしよう……?

 

 ちなみにウルフウッドに話を聞くと、孤児院を出てこれから教会建設とかの仕事に就くところだと言っていた。この辺りの話は彼の昔話を聞いていたのでなんとなくわかる。

 そしてサヤはウルフウッドに「君は健康診断を受けていて、その時の投薬で記憶が混濁してしまっていたのだ」と説明していたようだ。とっさによく思い付いたものだ。

 

 とにかく、そんな経緯によりウルフウッドは私の事を仕事場に案内する教会の人間だと思い込んでいるようで、彼を引き取って一週間過ごす必要があるが……どうするべきだろうか?

 素直にシャーレに連れて帰ることも考えたがそれは思いとどまった。シャーレには様々な生徒が訪ねに来るため、シャーレでウルフウッドを引き取った場合は彼が子供になってしまっていることが知れ渡ることになるだろう。それによってどんなハプニングが起きるか予想もつかない。この選択肢は無しだ。

 それならここから近い梅花園はどうだろう? ウルフウッドは孤児院で小さい子供の世話をしていたと聞いていた。なのでシュンとココナのお手伝いをしてもらうのだ。悪くない案ではなかろうか。うん、それがいい。

 その案を提案しようとするが、寸前で思いとどまる。

 

――やっぱり駄目だ。

 

 ここはキヴォトス、梅花園の園児達も軽い弾みで銃を抜く世界だ。幸い子供になったウルフウッドにもヘイローは残っているので大事にはならないだろうが、彼がいた世界は銃で人が死ぬ世界だ。そんな彼にとっては銃は死の象徴みたいなもので、目の前でそれを抜かれたりしたら怖くてたまらないだろう。

 あまり言いたくはないがキヴォトスの世界観は今のウルフウッドの教育に悪い。

 

 となるとウルフウッドを預けられる場所が限られてくる。キヴォトスの喧騒から離すことができて、かつ今のウルフウッドの状態を理解した上で保護してくれる場所。そんな所は一つしか思い浮かばなかった。

 

 私はホシノの電話番号をタップした。

 

◇ ◇ ◇

 

「到着しました〜、ここがニコラス君に働いてもらうことになるアビドス高等学校ですよ☆」

 

「お、おう……」

 

 ノノミちゃんに手を引かれてスゴスゴとニコラスが付いていく。どうも思春期の入り口にいるニコラス改めニコラス君にはノノミちゃんとのスキンシップは刺激が強いようだ。ノノミちゃんが近づくとニコラス君は借りてきたネコのように大人しくなってしまう。

 その光景に微笑ましさを感じつつも同時にチクリと胸の痛みを感じる。ノノミちゃんに嫉妬しちゃってるのかな、私。

 ちなみにニコラス君は初対面の時、私には元気に挨拶してくれていた。どうも私を同僚、つまりは自分と同じ境遇の子供だと思っていたらしい。私が一番お姉さんだと説明しても信じていないのか最初の印象が強いのか、その後も馴れ馴れしさは変わらず私だけ呼び捨てだ。

 まあ嫌われたりするよりはいいんだけど……ノノミちゃんへの態度を見るとなんか複雑だなぁ。

 

 それにしても先生から来た連絡には本当に驚いた。ニコラスが子供になっちゃったから一週間ほど預かって欲しいなんて普通はなんの冗談かと思うじゃん? 小さくなったニコラスの映像を見せられてもすぐには信じられなかったよ。

 パニッシャーとニコラスのバイクも回収しなきゃだしでみんなで山海経に向かったけど、みんなも直接子供になったニコラスを見るまで半信半疑だったぐらいだ。

 

 そんな事態に一番早く順応したのはノノミちゃんだった。小さくなったニコラスが可愛くてたまらないらしい。積極的にスキンシップしてくるノノミちゃんにニコラス君はたじたじになっているけど。だからといってノノミちゃんとの間に私を入れて盾にするのは複雑な気分になるのでやめて欲しいな。

 

 セリカちゃんやアヤネちゃんも擬似的な後輩ができた嬉しさがあったからか、すんなりと小さくなったニコラスを受け入れた。ただニコラス君がアヤネちゃんに対しては素直なのにセリカちゃんにはちょっと生意気な態度を取ることにセリカちゃんはツンツンしてたけど。そういうとこだよ、セリカちゃん。

 

 意外にもこの事態に一番戸惑っていたのはシロコちゃんだった。無理もないか。シロコちゃんにとってヒエラルキートップの兄が突然最弱の弟になったのだから。いつもみたいにニコ兄と呼ぶこともできず、さりとてニコラスと呼び捨てにすることにも抵抗があるみたいで思いあぐねているようだった。まあ、

 

「ニコ、私のことはシロ姉って言うこと」

 

 ……と、自分なりに納得のいく答えを見つけたみたいでアビドスに到着した頃にはすっかり後方姉貴面をするようになっていたけど。……シロコちゃん、その「ニコラスは私が育てた」みたいな顔はやめようね、ニコラスのおばちゃんに失礼だからさ。

 

 まあそんなこんなで山海経からアビドスまでの長い帰り道の間に、ニコラスはニコラス君としてアビドスに馴染むことができていた。

 

「教会……やなくて学校なんか? 学校にしてはえらい寂れとるな……?」

 

 子供の忌憚の無い意見が刺さる。

 

「ま、まあ学校っていってもピンキリだからさ、色々あるんだよ。正直、うちは貧乏でねぇ〜」

 

「ふーん……学校なんてデカイ街の金持ちが行くとこやと思っとったから意外やわ。まあワイとしては変に緊張せえへんで済むからええけど。それで、ワイは何すればええんや?」

 

「ニコラス君には学校の掃除を手伝ってもらおうと思っててね。見ての通りウチは砂だらけだからさ。今日はもう遅いからいいけど、早速明日から取りかかってもらうよ。大丈夫かな?」

 

「任せとけやホシノ。掃除やったら孤児院で慣れとるしな、綺麗にしたるで!」

 

「うへぇ〜、頼もしいね〜。明日からよろしくね、ニコラス君」

 

 こうして私たちとニコラス君との短い共同生活が始まった。

 

◇ ◇ ◇

 

 今日は私とアヤネちゃん、そしてニコラス君で学校の清掃を行うことにした。ちなみにシロコちゃんとノノミちゃんは出稼ぎ、セリカちゃんはバイトで不在だ。

 

 シロコちゃんとノノミちゃんは一緒にいたいとごねたけど、狙っていた賞金首を一網打尽にするために便利屋ちゃん達に依頼までしたのだから行かなきゃ駄目だよと説得した。二人とも直ぐに戻ると気合いを入れていたので賞金首達は御愁傷様だね。

 

 まずはニコラス君と一緒に学校案内を兼ねて校内を一回りする。

 

「うーん……見事なまでに砂まみれやなぁ。こんなんいくら掃除しても意味ないで。まずは隙間埋めからちゃうか?」

 

「確かにそうですね。色々あって後回しにしてしまっていましたが、いい機会かもしれません」

 

「そうだね〜。じゃあ窓が割れてるところとかシーリング切れてるところとかチェックしていこっか」

 

 ニコラス君の意見にアヤネちゃんが同意して、まずは校内の隙間チェックをすることにした。

 

 アヤネちゃんがタブレットを取り出して校舎の図面を表示する。これに問題のあった箇所を記入していくのだ。

 ニコラス君はそんな準備を進めるアヤネちゃんを見て目を輝かせていた。

 

「ロストテクノロジーやんそれ!? そんなん使いこなせるなんてアヤネ姉ちゃん、やっぱり頭ええんやな! 」

 

「い、いや、別にこれくらいは慣れれば誰でもできるよ。後で操作の仕方教えてあげるからニコラス君も操作してみる?」

 

「ええんか!? おおきにやで!」

 

 二人の微笑ましいやり取りを見ていて昔を思い出す。ニコラスがアビドスに来たばかりのころ、渡したスマホの操作をユメ先輩が付きっきりで教えていた時だ。数少ないユメ先輩が後輩に物を教えていた場面でもある。

 

「なあホシノ、ホシノもやっぱりタブレットっちうの使えるんか?」

 

 不意に話を振られ感傷から意識を戻す。

 

「アヤネちゃんほどじゃないけどね〜、さっきの操作ぐらいならお姉さんでもできるよ」

 

「そうなんか……やっぱり学校通ってる人間は出来がちゃうんやなぁ〜」

 

「そんなことないよ。ニコラス君だって学校に通えばできるようになるようなことだから。……なんならウチに入学してみる?」

 

「ええんか!?」

 

 私の提案にニコラス君はさっきみたいに目を輝かせるが、直ぐに伏し目がちになる。

 

「……あ、でもやっぱりアカンわ。ワイ学校なんて上等なもんに通える金なんて払えへん。孤児院にも仕送りせなアカンし……」

 

 そう言って残念そうに気落ちしていた。そんな彼を見ていて胸が少しきゅっとする。

 

「ニコラス君なら学費は気にしなくて大丈夫だよ。ここで働くための研修ってことにすればいいからさ。入学したら学びたいこととかある?」

 

「そないなことできるんか? せやったら……牧師になる方法学べへんかな?」

 

 意外な答えだった。ニコラスが牧師になったのはミカエルの眼の表向きの職として成り行きでなったものだと言っていたから。その割には牧師に拘っているなと少しばかり疑問には思っていたけど、まさか小さいころから夢だったからなのだろうか? でも、なんで牧師に? 色々興味が湧いてくる。

 

「なんで牧師になりたいの?」

 

「楽園を作るために必要やねん」

 

「「楽園?」」

 

 またしても意外な回答だった。一緒に話を聞いていたアヤネちゃんもその抽象的な回答に疑問を浮かべている。楽園を作ることと牧師になんの関係があるんだろう? そもそもニコラスの言う楽園ってなんだ?

 

「……楽園って? 牧師になることとそれは何か関係あるの? よかったらお姉さんに教えてくれないかな?」

 

「ええで。……まず牧師になれば教会任せてもらえるやろ? そしたらおばちゃん達と同じ事すんねん。ワイがいた教会は孤児院の真似事しとってな。ちうか実質孤児院そのものなんやけど……そこみたいにな、身寄りのない子供とかをぎょーさん集めて、子供たちが安心して過ごせる場所を作ったるねん。泥にまみれんでもええ暖かい場所にするんや、ええやろ?」

 

「……それがニコラスの夢?」

 

「せやで。だからまず牧師になりたいねん」

 

 太陽のようにまぶしい笑みを浮かべながらニコラスは言う。

 

 こんな小さい頃から本質が変わらないその意固地さがなんだか可笑しくて、素敵な夢を語る少年にこの後待ち受けていたことに胸が痛くなって、色々な感情がまぜこぜになって涙が出そうになってしまった。

 とっさにニコラス君を抱き寄せる。

 

 彼に今の私の顔を見られたくなかった。

 

「うへぇ〜、ニコラス君は偉いね〜、おねーさんナデナデしてあげるよぉ〜」

 

「ちょ、ええって! 力強っ!?」

 

 私の胸にニコラスの顔を埋めさせワシャワシャとその頭を撫でる。

 私は今どんな顔をしているだろうか? 私の心の中にはこの少年を愛しく思う気持ちと、そしてマスター・チャペルへの憎悪が渦巻いていた。

 

 ニコラスがマスター・チャペルを殺そうとした気持ちが今なら心から理解できる。なんでこんな少年を殺し屋なんかに仕立てることができるんだ? 理解できないし、したくもない。その邪悪さに吐き気すら催してくる。

 きっとこんなことを私が口にしたらニコラスも先生も怒るだろうが、こんなにも人を殺したいと思ったことは初めてかもしれない。

 

「いだだだだだ! ハゲてまうわホシノ! 」

 

「あ、ごめんごめん」

 

 無意識に撫でる力を強めていたようで、慌てて子供をあやすような力加減に切り替える。実際にあやしているのは自分の心だけど。

 

「撫でるのやめへんのかーい!?」

 

「いいじゃん、もうちょっとだけ、ね?」

 

 結局、校舎の検査を再開したのは私の気が落ち着くまでニコラス君を撫でた後だった。

 一緒にいたのがアヤネちゃんだけで本当に良かったよ。他の子だったらきっとこんな私をからかっただろうから。




 少し長文気味になってしまったので前編・後編に分けました。逆にちょっと短めになってしまったかもですがそこはご愛敬で。

 ウルフウッドはクリスチャンの人から見るとちゃんとクリスチャンぽいらしいです。じゃあ一体彼はどこでその信心深さを身に着けたんですかね?
 おばちゃんたちはシスターには見えないし、ミカエルの眼でそんなこと教えるとは思えないし。なのできっとどこかで聖書を入手して独学で学んだんじゃないかな?という妄想からできた絆ストーリーです。
 きっと最初は聖書に書かれていることが理解できなかったけど、孤児院でおばちゃんたちの暖かさに触れることで書かれていることと理解していったんじゃないんですかね。

 孤児院を作りたいというニコラス君の夢も捏造なんですが、彼の将来の夢を考えたらこれしか思いつきませんでした。ウルフウッドは小さいときから孤児院を楽園として見ていて、大人になってからもずっとそこの子供たちを気にかけているような人間なので、きっとまっとうに育っていたらおばちゃんの後釜になるか他の場所で子供たちの面倒を見るような人間になっていたんじゃないんでしょうか。後輩のジャスミンも子供たちの面倒みていましたしね。あの世界でほんと、ありえないぐらいウルフウッドは善性が強いので。

 まあこんなニコラス少年を殺し屋に仕立て上げたクソヤロウがいるらしいんですけどね。マスター・チャペルっていうんですが。
 会ったこと無いのにホシノの中でマスター・チャペルへのヘイトがどんどん溜まっていって、書いてる私自身ちょっと笑っちゃいました。
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