ウルフウッドアーカイブ   作:タニシ・トニオ

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リアルの多忙と重なってしまい中々書けていないのですが、ずっと更新ないのもよくないかなと思って生存報告かねての話アップです。ついにエデン条約編に入りました。


エデン条約編1章:留学、シスターフッド
01_ティーパーティー


「これからシスターフッドに短期留学することになりましたパスターニコラスです」

 

「シスターサクラコの言う通りしばらくの間、世話なるで。アビドス高等学校三年のニコラス・D・ウルフウッドや。シスター達とは宗派はちゃうけど、同じ主に仕える者同士仲良く学んでいけたら思うとる。よろしゅうな」

 

 突然の牧師の留学にざわつくシスターフッドの生徒たち。サクラコが鎮めつつ質問のある方は挙手をするようにと告げるといくつもの手が挙がった。

 

「パスターニコラス、その大きな十字架はなんでしょうか? 修行の一環か何かですか?」

 

「そんなんちゃうよ。ワイは故郷で巡回牧師をしとってな。旅先やと教会無いとこもあったりするから、そないな時にこれを立てて代わりにしたり……まあ、そないな商売道具や」

 

「巡回牧師を……伝道師として実績を積まれてきたのですね。素敵です、パスターニコラス」

 

「お、おう……」

 

「パスターニコラスは何を学びに?」

 

「あ〜、情けない話なんやけど牧師としては浅学の身でな。ちゃんとした学校で神学を学べへんかったから、そこら辺を……」

 

「まさか今まで独学で……一人で主の教えを実践されてきたのですか……?」

 

「ま、まあな……」

 

「な、なんという信心深さでしょう! パスターニコラス、共に学びを深めていきましょう!」

 

「せ、せやな。よろしゅうな……」

 

(なんでこいつらこない好意的やねん? やりづらくて敵わへんわ……。なんでこないなことになってもうたんや……)

 

 ウルフウッドはシスターフッド達からの質問責めに答えながらも、この状況に至った経緯を思い出していた。

 

◇ ◇ ◇

 

 ——時は少しばかり遡る。

 

 トリニティのティーパーティー、すなわちトリニティの生徒会から直々に先生とウルフウッドに向けて依頼が来ていた。内容については直接会って話がしたいという要望があり、二人揃ってトリニティへと向かう。

 

 二人が校舎の奥へと通され荘厳な扉をくぐりぬけると、その先にプラチナブロンドの髪色で上品に紅茶を飲んでいる生徒と、少し退屈そうに足をブラブラさせているピンク髪の生徒が茶菓子の置かれたテーブルを挟み座っていた。まさしくティーパーティー、といった様相だ。

 プラチナブロンドの生徒が入室してきた先生達に顔を向ける。

 

「こんにちは、先生。こうしてお会いするのは初めまして、ですね。ティーパーティーのホスト、桐藤ナギサと申します。ウルフウッドさんにおかれましてはアビドスの一件ぶりですね」

 

“ 初めまして。シャーレの戸狩です。アビドスの一件ではヒフミを通して力を貸してくれたって聞いてるよ。ありがとう、ナギサ ”

 

「お気になさらないで下さい。あのカイザーコーポレーションの暴挙は看過できるものではありませんでしたので。それにあの一件の貸しがあったからこそお二人にお越しいただけたわけですから」

 

「わ〜、ナギちゃん恩着せがまし〜」

 

 ナギサの隣に座っていたピンク髪の生徒が茶々を入れる。

 

“ そういえば君は? ”

 

「私はナギちゃんと同じティーパーティーの聖園ミカ。よろしくね、先生♪ あとそこの不良牧師さん」

 

「誰が不良牧師や」

 

「え〜、私誰がなんて言ってないよ〜。そうやって反応しちゃう辺り不良の自覚あるんじゃない?」

 

「こ、このガキ……ッ」

 

“ う、ウルフウッド、落ち着いて ”

 

「ミカさんもなんでそんなことを言うのですか!?」

 

「え〜、だってナギちゃん、この人牧師のクセになんかゲヘナ臭いんだもん。なんていうか、()()かなって」

 

「奇遇やな、ワイも同じ気分や。こっから大人の仕事の話やからお子様の出番は無いで。出口はあっちや。迷子にならないで帰れるか?」

 

「はぁ?」

 

「なんやねん?」

 

 なだめようと間に入っていた先生越しにメンチを切り合うウルフウッドとミカ。どういうわけだか二人の相性は最悪なようで空気がどんどん険悪になっていく。

 しかしそんな空気を断ち切ったのはナギサだった。

 

「いい加減にしてください、ミカさん!! ホストは私なんですよ!? これ以上話の邪魔するようならロールケーキをその小さい口にぶち込みますからねっ!?」

 

「ご、ごめん……」

 

 ナギサのガチギレを受け流石に引っ込むミカ。ウルフウッドもナギサの豹変ぶりに驚き、先程までの苛立ちがどこかに行ってしまう。

 

「こ、こほん……失礼しました。あの、えと……」

 

“ な、ナギサ、さっき言ってたホストってどういうこと? ”

 

 気まずくなってしまった空気を変えるべく先生が無理やりながらも話題を反らす。

 

「おお~流石先生、空気を読んで話題を変えてくれた! これが大人のわじゅ「ミカさん」……はい」

 

 ナギサに睨みつけられ口にチャックするミカ。それを確認し、ナギサは先生に向き直す。

 

「で、では……ホストとは何かを説明するにはまずトリニティの歴史と体制を説明しなければなりませんので、まずはそこから。……トリニティは他校と違い生徒会長が複数人います。これは昔、『トリニティ総合学園』が生まれる前、各分派の代表たちが紛争を解決するために『ティーパーティー』を開いたことからこの歴史が始まりました。……パテル、フィリウス、サンクトゥス……それらの三つの学園の代表を筆頭にティーパーティーを開き、和解の流れが生み出され、それが今に至るトリニティの原型となったのです」

 

「ああ、それで『総合学園』っちうわけか」

 

「はい、その通りです。そしてその名残でトリニティの生徒会は『ティーパーティー』という通称で呼ばれるようになり、各派閥の代表者たちが順番に生徒会の進行役を任されることを『ホストになる』というようになったのです」

 

” なるほど。つまり今はナギサが「ホスト」……生徒会を代表して取り仕切っている立場にあるってことなんだね ”

 

「仰る通りです、先生」

 

 ナギサは多くを語った口をいったん休ませるように紅茶を一口飲み、喉を潤す。

 

「……では私の立ち位置の説明も済んだことですし、そろそろ本題に入りましょうか。私達が先生にお願いしたいのは簡単なことです」

 

「あ、簡単だけども重要なことだよ」

 

 ミカが補足するように口を挟む。また話の邪魔をするつもりか確認するようにナギサはミカを見るが、ミカはただニコニコ笑みを浮かべるだけだった。とりあえずミカにその気はないことを確認したナギサは話を再開する。

 

「……そうですね。先生には補習授業部の顧問になっていただきたいのです」

 

” 補習授業部? ”

 

「はい。つまり、落第の危機に陥っている生徒たちを救っていただきたいのです。トリニティ総合学園は昔からキヴォトスにおいて『文武両道』を掲げる、歴史と伝統が息づく学園です。それなのにあろうことか、よりにもよってこの時期に成績の振るわない方がなんと四名もいらっしゃいまして……」

 

” 『この時期』って? ”

 

 先生が気になったことを尋ねると、ミカがそれに応じる。

 

「先生は聞いたことないかな? 『エデン条約』……今、私たちはその件でバタバタしててね」

 

” エデン条約……うん、概要は聞いたことがあるよ ”

 

 『エデン条約』という言葉を聞いて、先生はヒナから聞いていた話を思い出す。

 エデン条約とは根深い対立関係にあったトリニティ総合学園とゲヘナ学園が共に構成員を供出し合って『エデン条約機構(ETO)』を成立し、その機構によって両自治区の紛争解決を行っていこうという条約である。アビドスでのごたごたの最中、ヒナがシャーレに尋ねて来た理由がこれに関することだった。

 

 百鬼夜行での事件で投獄される前のウルフウッドは賞金稼ぎで名を轟かせていたのだが、その名が一番響いていたのが数多の犯罪者、テロ組織がいるゲヘナだったのだ。なにせテロ活動が部活として認められている自由過ぎる学園である。ウルフウッドからすれば石を投げたら賞金首に当たるような絶好な狩場だった。そんなわけでゲヘナで八面六臂の活躍をしていたウルフウッドはそれなりの影響力を持ってしまっていたのだ。

 さらに悪いことにゲヘナではパニッシャーの形状からウルフウッドはトリニティ所属だというデマも広がっていた。ちょっと調べればすぐ嘘だとわかるものであるが、それすらしないおバカな生徒もゲヘナには多い。

 その様な背景があるためウルフウッドがゲヘナに来るとエデン条約へ影響があると判断したヒナはシャーレに赴き、条約が結ばれるまではウルフウッドに極力ゲヘナに来ないで欲しいとお願いをしていたのだった。

 

 閑話休題。ともかくそんな事情があり、先生はエデン条約のことを知っていた。先生の返事を受けてミカは笑みを浮かべながら話を続ける。

 

「それなら話は早いね! それでさっき言った子たちの件も解決してあげたいのはやまやまなんだけど、とにかく人手も時間も足りなくってさ……」

 

「そのような中、シャーレでは『復学支援部』なるものを設立して、学校を退学してしまった生徒や何らかの事情で学校に通学できなくなってしまった生徒を対象に支援活動を行っていると伺いまして……先生にピッタリの依頼だと判断した次第です」

 

” そういうことだったんだね、事情は分かったよ。喜んで引き受けさせてもらうね ”

 

「やったー、ありがとう先生!」

 

「もう少々説明しますと、この『補習授業部』は常設されているものではなく、特殊な事態に応じて創設し、救済が必要な生徒たちを加入させるためものです。そのため特殊な形の部となり本来は複雑な手順を踏む必要があるのですが……急ぎということもありシャーレの超法的な権限をお借りする必要がありました……なのでお断りされてしまったらどうしようかと思っていたのですが、どうやら杞憂でしたね」

 

 ナギサは微笑みながら先生へ書類を渡す。それは補習授業部のメンバーが記載されている名簿だった。ウルフウッドもそれを覗き込み、記載されている名前に少しばかり驚く。

 

(なんでヒフミがおんねん!? まさか強盗の件が……)

 

(う、ウルフウッド! し~、し~ッ!)

 

「ん~? 知り合いでもいたの? まあ不良同士だからいてもそんなに不思議じゃないけど」

 

「ミカさん、その言い方は愛が足りませんよ。それにその知り合いは……」

 

” ま、まあとにかく補習授業部の顧問は引き受けるよ! 後でこの子達に会いに行けばいいんだね? ”

 

 先生がヒフミへの追及が及ぶ前に会話を断ち切る。ミカは怪訝な表情を浮かべるが、ヒフミへの悪口は余り聞きたくないナギサがそれに便乗する。

 

「はい、それでお願いします。他に何か聞きたいことはありますか?」

 

 ナギサの質問にウルフウッドが手を上げて質問を投げかける。

 

「二つあるんやけどええか?」

 

「はい、どうぞ」

 

「一つは……話からするに派閥は三つ、生徒会長も三人なんやろ? もう一人はどこにおるんや?」

 

「不良のくせにそういうところは鋭いんだね?」

 

「お前に聞いてへんわ」

 

「は?」

 

「あ?」

 

「ミカさん!」

 

 再び険悪になった空気をナギサが止める。そしてため息をついてからその問いに答えた。

 

「百合園セイアという生徒がいるのですが……現在は入院中でして……。本来であれば今のホストはそのセイアさんだったのですが、そういった事情で不在のため私がホストを務めているところです」

 

「そか」

 

” 早くよくなるといいね ”

 

 一つ目の疑問が解決し、一番聞きたかった二つ目の疑問をウルフウッドは話し出す。

 

「二つ目なんやけど……この依頼、ワイ要るか? 呼び出しの連絡にはワイも来るように記載あったけど、補習授業部の顧問なんてセンセだけで充分やろ。ワイを呼んだ理由が分からん」

 

「それについてですが……ウルフウッドさんも呼んだのは先生とは別の依頼があるからです」

 

「別の依頼?」

 

「はい。ウルフウッドさんにはシスターフッドに留学という名目で潜入いただき、ある生徒について調査して欲しいのです」

 

「生徒の調査? そんなん生徒会の権限でその生徒呼び出せばええ話ちゃうんか?」

 

「それがそうもいかないのです。シスターフッドは独立した派閥でもあり、ティーパーティーとて迂闊に手出しができないのです。その生徒を召集しようにも『正当な理由も無しに応じる理由はない』と突っぱねられてしまい……」

 

「? そいつがなんか悪いことしたわけちゃうんか? なんでその生徒を調査したいねん?」

 

「それは……その生徒が不正入学の疑いがあるからです」

 

「不正入学ぅ? なんで今さらそないな話が?」

 

 普通に考えればそういった精査は入学時にされるものである。それが今さら行われることに疑問を持つのは当然のことだった。

 

「発見できたのはたまたまだったんです。その生徒も成績が芳しくなく補習授業部の候補者でした。それでその生徒の精査がなされたのですが、そうしたら不可解な点がいくつか見つかりまして……」

 

「それは?」

 

「……その生徒はトリニティ入学前の学歴が存在していなかったのです。そしてシスターフッドのトップ、歌住サクラコが転入処理をしていました。実はその生徒も補習授業部に入れるように通達したのですが、規定の点数は超えているはずだとシスターフッドから断られてしまい……」

 

「そう言われれば怪しそうではあるが……」

 

 黙ってナギサの話を聞いていた先生が質問する。

 

“ 確かにそんな印象はあるけど、その子の転入処理に不正な点は無かったんでしょ? 不正があればルールに則って処理すれば良いわけだし、それができないってことはそういうことだよね? なのに疑うのはちょっとかわいそうじゃないかな? ”

 

 先生の言葉を受けて何か思うところがあるのか伏し目になるナギサ。

 

「確かに先生のおっしゃる通りではあります。しかしルールの隙間を通り、解釈をねじ曲げ自らの都合の良いように持っていくやり方があるのも先生はよくご存じですよね。それがまかり通り、勝手に生徒を入れられるようでは学園が滅茶苦茶になってしまいます。ですからティーパーティーとしては看過できない問題なのです」

 

 そこまで言うとナギサはウルフウッドに向き直り、改めて依頼を伝える。

 

「ですので、シスターフッドに違和感無く潜り込める貴方にお願いしたいのです。秘密主義の彼女たちでも牧師の貴方になら話してくれる情報があるでしょう。件の生徒の不正入学の証拠、あるいは転入が正当なものであったかの確認をしていただきたいのです」

 

 ウルフウッドはユメの温情でアビドスにいる自分には耳が痛い話だと思いながらも「わかった」と頷く。

 

「正直気乗りはせん話やけど、お前にデカイ借りがあるのも確かやし引き受けたる。これで貸し借りは無しやで」

 

「ありがとうございます、ウルフウッドさん」

 

 ナギサは件の生徒の情報が記載された紙を差し出した。ウルフウッドはそれを受け取り、目を通す。

 

「……戦部メリィ、か」

 

 トリニティ総合学園二年生シスターフッド所属、戦部メリィ。それが件の生徒だった。

 




というわけでやっと始まりましたエデン条約編。

初手ウルフウッドの留学ですが、実際のところミッション系の学校ならまだしもシスターフッドみたいなところに留学ってできるのかどうかは知らないのですが、まあそういったところは「ここはキヴォトスなので」と考えてください。

ウルフウッドがミカのこと苦手なのはまあ、ミカの元ネタがあれなので……
ただそんなの関係無しに、なんとなくウルフウッドってミカみたいなタイプの女性は余り好きではなさそうなイメージなんですよね。ミカも先生と違って手厳しいタイプというか、ウルフウッドのことは(少なくとも初期段階では)好きになれなさそうなイメージがあります。

戦部メリィはオリジナル生徒ですが、名前の由来はメリル・ストライフから。
今回の章でウルフウッド側の補習授業部の生徒の一人みたいな立ち位置の生徒になります。
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