ウルフウッドアーカイブ   作:タニシ・トニオ

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今朝方内容の矛盾に気付いてウルフウッドとマリーの会話の一ヶ所内容修正しました……すみません。


02_シスターフッド

 ナギサの依頼の元、シスターフッドへ留学することとなったウルフウッド。件の生徒、戦部メリィを探るといっても自分は探偵ではないし、思い浮かぶ方法としては順当にシスターフッドと親交を深めて話を聞き出すぐらいしか思い浮かばなかった。

 

(こら長期戦になりそうやなぁ……)

 

 先生にその旨を連絡するとどうやら先生が出向してる補習授業部も状況は芳しくないらしく、あちらはあちらで合宿をするとの返信がくる。どうやらお互い長期戦になりそうな気配だ。

 

(まあそれならそれでええわ。ワイはワイで勉強しながら適当に依頼こなすとしよか)

 

 依頼もあるが、またとない本物の教会での活動である。宗派は違うが学べることもあるだろう。そう思ってかウルフウッドは珍しく学習意欲を高めていた。

 

◇ ◇ ◇

 

 ウルフウッドは先生とは違い寝床はあくまでもシャーレであったため、トリニティへ通学する形を取っていた。

 朝一に教会へ赴き祈りを捧げる。祈りを終えると、あるシスターから声をかけられる。

 

「おはようございます、ニコラスさん」

 

「おう、マリー。おはようさん」

 

 大きな獣耳が特徴の伊落マリー、彼女はサクラコの計らいでウルフウッドの補佐に付いてくれた生徒である。普段と違う生活にウルフウッドも戸惑うことが多いだろうというサクラコの気遣いだ。

 

 ちなみに最初はお互い「シスター」「パスター」を付けて呼んでいたのだが、マリーは自身がまだ未熟でシスターではないとして「シスターとは呼ばないで欲しい」とウルフウッドに伝えたところ、彼も「それならワイも同じや」と答えたことでお互い普通に名前呼びすることに落ち着いた経緯があったりする。

 

「あ、せや。マリー、今日の『労働』の時間やけど何か力仕事とかあったりするか?」

 

「力仕事ですか? それなら手伝いをお願いしたいところがありますが……なにかあったのですか?」

 

「いや……どうもワイ、ここの生徒に避けられてしもうとるみたいでな。生徒の相談事受けるには向いてないみたいやわ」

 

「それは……はい……」

 

 シスターフッドではトリニティの通常の学業を終えた後に『労働』という名の奉仕活動をしている。マリーはその時によく生徒の悩みを聞くことが多かったため、ウルフウッドにも同じ事をしてみてはと勧めたのだが……結果は散々であった。

 接しやすいよう気安いお兄ちゃんスマイルで頭に被せるザンゲ箱MarkⅡを片手に移動懺悔室をしていたのだが、相談件数は今日にいたるまで驚異のゼロ件。流石のマリーも苦笑いである。

 

「やっぱお嬢様校やからワイみたいな男に慣れへんのやろな」

 

「そう、ですね……」

(主よ、申し訳ありません。ニコラスさんに真実を話せませんでした……)

 

 正直ウルフウッドは胡散臭さ過ぎた。独特な訛りの気安い兄ちゃんがヘンテコな箱を持ちながら、まるで客引きみたいに移動懺悔室を謳うのだ。ゲヘナだったら「面白そうだし受けてみようぜ」なんて言ってコンビニ強盗した話でもしてくるかもだが、あいにくここは気品溢れるトリニティである。ちょっと……いや、かなりウルフウッドの雰囲気が合っていなかった。そもそも移動懺悔室なるものがマリー達からしても意味不明である。

 

 マリーは事実を話せなかった贖罪とでもいうようにウルフウッドの力が生かせそうな場へと彼を案内していった。

 

◇ ◇ ◇

 

 マリーは聖堂の裏手にウルフウッドを案内すると声を上げる。

 

「ヒナタさーん、いらっしゃいますかー?」

 

 すると「ドスン」と何か重い物を置く音がしてから、パタパタとマリー達に近づいてくる足音が聞こえてきた。

 

「はい〜どうなされました〜?」

 

 そうして姿を表したのは「その姿でシスターは無理でしょ」というほどセクシーな修道服を着た生徒だった。だがその姿に慣れているのかマリーはさも当たり前のように彼女をウルフウッドに紹介する。

 

「彼女はシスターヒナタといって、聖堂の備品管理をしてくださっている生徒です」

 

「こんにちは、パスターニコラス。ご紹介いただきました若葉ヒナタと申します」

 

「よろしゅうな。あ、ワイはまだ牧師として修行中の身やから普通にニコラスでええで」

 

「それでしたら私のことも気軽にヒナタとお呼びください。……ところでマリーさん、今日は一体どのようなご用件で? 何か必要な備品でもありますか?」

 

「いえ、今日は別件でお願いしたいことがありまして。ニコラスさんにここのお手伝いをさせていただけないかと……」

 

「え、よろしいのですか!?」

 

 ヒナタとしては予想していなかった内容だったのか驚いた様子でウルフウッドを見やる。

 

「ホンマ情けない話なんやけどな、マリーの真似して生徒の相談受けたろ思うたら全然うまくいかなくて……せやから力仕事があれはそっちした方が良いかと思うてな。ワイ、こんなん背負ってるから力はそれなりにあるで」

 

 ウルフウッドはパニッシャーを軽く持ち上げ自身の力を軽くアピールした。ヒナタはパッと顔を明るくする。

 

「それでしたら助かります! 実は普段の備品の出し入れに加えてエデン条約の準備も相まって手が足りないところだったんです。……これもきっと主の導き……よろしくお願いしますね、ニコラスさん」

 

「改めてよろしゅうな、ヒナタ」

 

 二人は握手を交わす。その手が離れた時にヒナタは何かを思い出したかのように口を開いた。

 

「そうだ、彼女も紹介しなければいけませんね」

 

「彼女? 他に誰かいるんか?」

 

「はい。いつも私と一緒にここの整理をしてくれている生徒がいるんです」

 

 ヒナタは笑みを浮かべながら後ろを振り向き声を上げる。

 

「メリィさーん、こっちに来てもらえますかー」

 

 ヒナタが呼んだ名前にウルフウッドは内心驚いていた。その生徒こそ今回の依頼の調査対象だからである。

 

(まさかここで接点持てるとはな。……神さまよう、これはちゃっちゃと仕事を終わらせろっちうことですか?)

 

 ウルフウッドが神に問うていると件の生徒が姿を表した。黒髪のショートでマリーよりも小柄な身長。ウルフウッドが受け取っていた情報通りの特徴をしており、彼女こそが戦部メリィで間違いなさそうである。

 

 メリィは手に持っている書類——恐らく備品のチェックリストだろうか——に視線を落としながらゆっくりウルフウッド達の元へと近づいてくる。

 

「ちょっと待ってください……えと、これはヨシ、これもヨシ……と。……はい、シスターヒナタ、ご用件はなんで……」

 

 リスト用紙から視線を上げるメリィ。その先でウルフウッドと目線が重なった途端に彼女は固まり、再起動した瞬間にヒナタの後ろに隠れてしまう。

 

「な、なんであなたがここに!?」

 

「こら、メリィさん失礼ですよ。ニコラスさんは私達を手伝いに来てくれたのです」

 

 ヒナタに優しく叱られ、恐る恐るといった様子でヒナタの体の後からウルフウッドを覗きこむメリィ。

 ウルフウッドはユズと初めて会った時を思い出しながら彼女の前でしゃがみこみ、飴ちゃんを差し出す。

 

「驚かせてしもうたみたいですまへんなぁ。これはお詫びの印や」

 

「ひっ!!」

 

 しかしメリィは再びヒナタの後に引っ込んでしまう。そして泣き声で叫んだ。

 

「お願いですからそれ以上パニッシャーを近づけないでください!! お願いですっ、お願いですから……」

 

 ヒナタはメリィの失礼な態度をたしためようとするが、自身の修道服を掴むその手が恐怖で震えていることに気付き言葉に詰まる。マリーも突然のことにどうすればいいかおどおどするなか、ウルフウッドは優しい笑顔を張り付けたまま立ち上がった。

 

「これが怖がらせてしもうたんやな。ホンマにすまへん。……マリー、これ置いといても大丈夫な場所教えてくれへんか? ちょっと置いてくるわ」

 

「あ、はい。案内します」

 

 ウルフウッドはヒナタに「この間に慰めておいてくれ」と目配りすると、マリーと共にこの場から立ち去った。

 

◇ ◇ ◇

 

「……ニコラスさんのそれ、パニッシャーという名前だったんですか? 知りませんでした」

 

 聖堂から出た後、マリーが巨大な十字架に視線を向けながらウルフウッドに尋ねる。

 

「……なぜメリィさんはそれを怖がっていたのでしょう……?」

 

「ワイもわからんわ。色々いわくつきのモンやからなんか感じ取ったのかもな。それとも中に武装仕込んどるからやろか?」

 

「そうなんですか? 確かにそれなら……」

 

 半ば冗談じみたウルフウッドの返答に対し、なにか含みがあるような反応をするマリー。その意外な反応にウルフウッドが尋ねる。

 

「なんかメリィのことで心当たりあるんか?」

 

「……はい。その……メリィさんは『銃恐怖症』を患っていると聞いていまして……」

 

「ホンマか? キヴォトスでそれは難儀やろ?」

 

「そうだと思います。といっても今は重機関銃の類いでなければ何とかと伺っていたので……すみませんお伝えするのを忘れていました……」

 

「そら悪いことしてもうた。仕込んであるのはまさしくそれや」

 

「それで……あれ、でも、だとしたらなんでメリィさんはそれに重機関銃が入っていることを知ってたんでしょうか? それの名前も……」

 

 マリーの疑問。それはまさしくウルフウッドが先ほどから考えていたことだった。ウルフウッドはトリニティでこれの名前を言った記憶が無かったのだ。当然拘束具を外したこともない。なので他のシスター達はこれを「ニコラスさんの十字架」としか言わないし、武器であることすら知らない。

 一応少し調べればこれが武器だということは分かるにはわかるが……

 

「シャーレのドンパチをクロノスに撮られたこともあったからな、それで知っとったのかもしれん」

 

「ああ、それなら確かに。形状も特徴的で印象に残りますし……」

 

(まあ、違うやろうけど……)

 

 マリーにはそう答えつつ、内心では自身の回答を否定するウルフウッド。確かにそれならパニッシャーに怯える理由は説明できるかもしれない。しかし、その名称まで知っている理由にはならないからだ。

 

 ウルフウッドはパニッシャーの名称を知っているメンバーを思い返す。

 

 アビドス、先生、復学支援部の一部、カンナ含むヴァルキューレの一部、ゲーム開発部、エンジニア部……自身がパニッシャーという名前を伝えたことがあるのは精々このぐらいか……?

 クロノスにテロ牧師と書かれたことはあったが、パニッシャーの名称を書かれた記憶は無い。

 

 パニッシャーは普通の生徒の銃と比べれば確かに圧倒的な知名度を誇ってはいるが、しかし思い付いた面々がシスターフッドに繋がりがあるとは思えなかった。事実、ウルフウッドがシスターフッドに留学した際、彼が賞金稼ぎをしていたことすら彼女達は知らなかったのである。

 故に、やはりおかしいのだ。戦部メリィが『パニッシャー』を知っているのは。

 

「パニッシャー……『断罪者』、ですか……」

 

 再びパニッシャーに視線を向けて放ったマリーの言葉に、ウルフウッドは一旦思案を止めて反応する。

 

「おこがましい名前やろ?」

 

「それは……なぜ、そのような名称が?」

 

「さっきいわくつき言ったやろ……これ作った奴らはな、自分らが崇敬する『奴』のために、そいつの望む『罰』を実行する組織でな。それでこんな大層な名前つけとるんやろな」

 

 マリーは少しばかり顔をしかめる。

 

「人が人を罰するのですか……なぜニコラスさんがそんなものを?」

 

「なんの因果かワイの手に転がり込んできてな。重たくてしゃあないんやけど、まあ、捨てる訳にもいかへんねん……」

 

 ウルフウッドのニュアンスから深入りできなさそうな雰囲気を感じとり、マリーはそれ以上の言及をしなかった。そんなマリーを尻目にウルフウッドは再び疑念を深めていた。

 

(そういやパニッシャーを知っとる奴ら、まだおったな……)

 

 マスター・チャペルとその一派……アビドスの生徒たちを攫ったダブルファングの担い手。流石にその繋がりは無いかと思いつつも、メリィがパニッシャーを見た時の態度、そして経歴不明という点が引っかかってしまう。

 

(……こら調べることが増えてもうたな)

 

 ウルフウッドは頭の中で一人ごちた。




ヘンテコな箱ことザンゲ箱MarkⅡの元ネタは無印トライガン3巻のあれ。
デッカイ十字架背負って妙な箱持ってうろついてたら、そりゃ誰だって声かけてこないよニコ兄。正義実現委員会が職務質問してきそうだけど……

シスターフッドで『労働』っていうのがあるかどうかはぶっちゃけ知りません。ここら辺はまあこの小説のシスターフッドはこんな活動してるよってかるーく考えておいてもらえると助かります。実際のシスターの一日とか調べてみたんですけど、そもそもシスターフッドがミッション系の学校レベルなのかガチでシスターの活動してるのかよくわからんのですよね。

戦部メリィはアニメスタンピード版のメリルがマリーと同じ修道福を着ているようなイメージです。見た目的にはヒナタがミリィ、メリィがメリル、みたいなコンビ。ただ性格は違っているし、ヒナタが先輩なので関係性も違いますが。

メリィはなんでパニッシャーを知っているか不思議ですね(棒読み)
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