主の導きによるものか、ひょんなことから調査対象であるメリィと接触することができたウルフウッド。しかしそこからが難航していた。というのもウルフウッドはメリィに明らかに避けられていたのだ。一応ヒナタの手前か挨拶や仕事の話といった最低限の話はしてくれるものの、それ以外は隠れてしまったりだんまりしてしまったりといった様子であった。
これではナギサの依頼をこなすどころか自分の聞きたい話もすることが出来なさそうなためウルフウッドはヒナタに相談をすることにする。
今日はメリィが救護騎士団への定期検診があるらしく不在なため、話すタイミングとしても丁度良い。『労働』の休憩時間にヒナタが用意してくれたお茶を乗せたテーブルを挟み二人は話を開始した。
「なあヒナタ。なんでワイ、メリィに避けられとるんやろか? 最初に怖がらせてしもうたんが悪かったんかなぁ? このままやと気まずくてしゃあないわ」
「う~ん……私も気になってメリィさんに聞いてみたんです。なんでみんなと同じようにウルフウッドさんに接せられないのですかって。そうしたら『理由は話せない』と言われてしまって……あ、ただ悪いのはニコラスさんではなく自分の問題だとは言ってましたね」
「あいつ自身の問題、か……。なあ、ヒナタが話せる範囲でええからメリィのこと教えてくれへん? もしかしたら改善のヒント見つかるかもしれへんし」
「そうですねぇ、確かに……」
ヒナタは紅茶を飲み、一息ついてからメリィについての話を開始した。
「メリィさんがシスターフッドに来たのは一年ほど前でしたね。サクラコ様が彼女を連れて来たんです」
「シスターサクラコが?」
「はい。それでメリィさんが銃恐怖症を患っていること、詳しく話すことはできないが辛い経験をしていて人間不信になってしまっていることなどをお話した上で、彼女を私たちの姉妹として迎え入れて欲しいと話してくれたのが最初でした」
(やっぱりメリィの入学を主導したのはシスターサクラコなんやな……)
「そうやったんか。……にしても、メリィもよくそんな状態でここに入学できたな」
「ああ、それは首長推薦制度を利用されたと伺っています」
「首長推薦制度?」
その言葉に疑問符を浮かべるウルフウッド。復学支援部でトリニティへの転校希望をする生徒がいたため入学に関する制度を調べたことがあったが、そんな制度に覚えがなかった。
「だいぶ特殊な制度ですから。私も聞いて初めて知った制度でした。なんでも他薦かつトリニティを構成する派閥の首長の署名を貰うことで利用できる制度だとか。試験や面接も免除できるみたいですが、何分首長の署名を貰う方が難しいですからねぇ。ちなみに署名してくださったのはミネさんだそうです」
「ミネ?」
「救護騎士団の団長さんです。ヨハネ分派の首長でもあるのでそれで」
「ちうとメリィはシスターサクラコが推薦して、そのミネっちうのが許可して入学させられたわけか。……なんでシスターサクラコはそこまでしてメリィを入れたんやろな?」
ウルフウッドは疑問に思う。恐らくその首長推薦制度はヘッドハンティング的な使い方が本来想定されていた利用方法だろう。しかし正直言ってメリィは優秀な生徒とは言えない。銃恐怖症を抱え、成績も補習授業部ギリギリ手前。むしろ落第生側の生徒だ。入学させるメリットは皆無である。
その疑問にヒナタは微笑みながら質問をし返す。
「……ニコラスさんだったら、メリィさんと同じような生徒を見かけたらどうしますか?」
「ん? そら一旦シャーレで保護して、場合によっては復学支援部に……ああ、そういうことか」
「はい……理由を尋ねたことはありませんが、きっとそういうことだと思います。キヴォトスで銃恐怖症というのは余りにも致命的ですから……。それに当時は復学支援部のような救済組織もありませんでしたし、それでサクラコ様はメリィさんをシスターフッドへ招いたんだと思います。ミネさんも救護対象として署名してくださったのかと」
「なるほどなぁ……」
ウルフウッドはナギサからの依頼を思い返す。内容は「不正入学の証拠、あるいは転入が正当なものであったかの確認」だ。ヒナタの話が本当であればメリィは正当な方法で、そしてシスターフッドと救護騎士団の両方の理念に則った正当な理由で入学したことになる。しかもギリギリとはいえ補習授業部入りせずに済む成績を残してもいる。つまりは『白』だ。
(……こっちの依頼については後でシスターサクラコとミネっちうのに裏取れば済みそうやな)
となれば残るは、やはりメリィがなぜパニッシャーを知っていたか、その疑問の解消である。
「とりあえずメリィの入学経緯はわかったわ。……にしてもなんで銃恐怖症なんて患ってしもたんやろな? ヒナタはなんか知っとるか?」
ヒナタは少し困った顔を浮かべる。
「……いえ、私も知りません。ただサクラコ様が『無理に聞き出したりしないでください』とおっしゃっていましたし、入学当時のメリィさんは、その……見ていて痛々しかったので……本当に辛いことがあったのだとは思います」
「そない酷かったんか?」
「銃を見ると体が固まってしまったり、酷い時はパニック症状を起こしてしまったり……。私達は事情を知っているので彼女と会うときは銃を隠したりして対策できたのですが、外ではそうもいかず……外出もろくにできなかったんです」
「……ああ、それでここの仕事しとるんか」
聖堂の荷物管理の仕事なら外部の人間と会うことは殆どない。ヒナタも面倒見のいい性格をしているし、それでメリィがここにあてがわれたのだとウルフウッドは察する。
「……ニコラスさん、メリィさんは本当に勤勉で良い子なんです」
「ん?」
ヒナタはうつむき気味になりながら再びしゃべり始める。
「体が小さいことを言い訳にせずに熱心に荷物の整理をしてくれますし、おっちょこちょいな私のフォローをよくしてくれます。学校の勉強だって学んできた範囲が全然違くて一から学び直さなければいけないような状態で、みんなに頭を下げて勉強を教えてもらってなんとか赤点も回避して……なにごとも、一生懸命なんです。銃恐怖症も克服しようとデリンジャーを持つようになって……いつか私とピクニックに行きたいって言ってくれたんです。………なんで、そんな彼女が心に深い傷を負うような目に会わなければいけなかったのでしょうか……?」
「……」
気付けば質問する側からされる側になっとるな、なんてことを思いつつウルフウッドは考える。ヒナタは善良なメリィになぜ罰があたえられたのかと憤っているように見えた。この質問には牧師として真剣に答えるべきだと思う。
そして、記憶に残っている聖書の一節を思い出す。
「――コヘレトは言う。
「それは?」
「ワイの故郷の聖書にあった言葉や。多分こっちの聖書にも似たようなことは書いてあるんちゃうかな? ……これは、どんなに知恵を着けても神様の考えをワイらに理解することはできへん。悪いやつが笑って、良いやつが泣いて、そないな理不尽が世界には溢れかえっとる。そんで最後に待っとるのはみんな等しく死や。だから全ては空しいっちう言葉やな。運命を知っとるのは神様だけで、ワイらには理解できへん。……せやからメリィがなんでそないな目にあってもうたんか、それになんの意味があったのか、それはワイらに知ることはできへんし、その過去を変えることもできへん」
「ではメリィさんが辛い目に会ったのも運命だと?」
「冷たい言い方すればそないなるな」
「それは……」
ヒナタが珍しく不満げな視線を向けてくるが、その反応は想定内だったウルフウッドは話を続ける。
「でもな、同じ章にはこないな言葉もある。――朝に種を蒔き、夕べに手を休めるな。うまくいくのはあれなのか、これなのか、あるいはそのいずれもなのか。あなたは知らないからである――これは、運命っちう神様の領域はワイらにはわからへん。わからへんからこそ、今を懸命に生きろっちうことを言うとる。……こないなことも書いてあったな。――若者よ、あなたの若さを喜べ。若き日にあなたの心を楽しませよ。心に適う道をあなたの目に映るとおりに歩め。だが、これらのすべてについて、神があなたを裁かれると知っておけ。あなたが心から悩みを取り去り、あなたの体から痛みを取り除け。若さも青春も空だからである。――若さも青春も、痛みも苦痛も、あっちうまのことや。せやから今を大切に楽しめ、納得の行く道を進めってな。つまりなにが言いたいかっちうとな、メリィがなんでトラウマ負うような運命をしょってしまったかはワイらに理解することは出来へん。でも、そないな過去に引きずられずに今を懸命に生きることが大切やっちう話や。どんな辛い過去があっても、笑って今を楽しんだってええねん。……そないな意味で言うならメリィは大丈夫やで。姉妹達のお陰で正しい方向に歩めとるよ」
「……私も役に立てているんでしょうか?」
「なにゆうてんねん、メリィがワイに会って一目散に隠れた先覚えとるか? お前の後ろやったやろ? ヒナタの傍やったらアイツは安心できるっちうことやんか。安心できるもんがあるのと無いことの差はデカイねんで。……ま、そもそも隠れんで済むようになるんが一番ええんやけどな」
「……ああっ、そうでした! なにか私の話で改善のヒントになりそうなことありましたか?」
メリィの話からウルフウッドへの態度を改善させるためのヒントを探すという話だったのに……と、自分がその本筋から脱線させてしまったことを恥ながらヒナタはウルフウッドに尋ねる。
ウルフウッドはニコリと笑みを浮かべて答えた。
「全然やな」
「すみませ〜ん!!」
「いやいや、ええって。とりあえずアイツを無理矢理問い詰めるのは悪手やっちうことはようわかったわ」
ヒナタの話通りであればメリィの銃恐怖症は思っていたより深刻である。下手に問い詰めトラウマを再発でもさせてしまえば姉妹たちがしてきてくれたことを踏みにじってしまうことになるだろう。故にこの手はとれないとウルフウッドは考える。
そして同時に、このキヴォトスでそこまで深刻な銃に対するトラウマを植え付けられる存在は何かとも考えていた。それにウルフウッドは心当たりがあったのだ。
――『ヘイロー貫通弾』
死が遠い存在であるキヴォトスにおいて死を突きつける忌まわしい凶弾。マスター・チャペルの一派が持っているあれならば、これほどのトラウマを刻み付けてもおかしくない。
無論、そこを結びつけるのはこじつけが過ぎるとウルフウッドの冷静な部分が告げている。しかし同時に彼の勘がメリィからなにかを嗅ぎとっていたのも事実だった。メリィの過去に何かがある、そう感じ取ってるが故に確かめなければ気が済まなかった。
(……もしかしたらシスターサクラコやったらもう少し突っ込んだ話を知っとるかもしれん。どちらにしろ依頼の件で裏取る必要あるし、今度話してみるか)
スマホのアラームが鳴る。
「っと、休憩時間は終いやな。それじゃあ教えの通り今ある仕事を一生懸命こなすとしよか」
「はい、そうですね」
二人は聖堂の裏手へと向かって行った。
◇ ◇ ◇
夜分遅く、人気のない聖堂に入り込む人影があった。それは聖堂の隅にただ一人座っているもう一つの人影に近づいていく。
「お待たせしました、パスターニコラス」
「ええよ。夜分遅くにすまへんなぁ、シスターサクラコ」
「そんなことはありません。この時間を指定席したのはそもそも私ですし……」
サクラコは少しばかり申し訳なさそうにしながらウルフウッドの隣に座る。
「……それで内密のご相談とは何でしょうか? 私でお力になれることであればよいのですが……」
「そない肩肘張らんと気軽く聞いてくれたらええで」
牧師からの相談事ということで緊張しているサクラコをほぐそうとおどけるウルフウッド。そのトーンのまま彼は話を続けた。
「相談事っちうのは二つあってな。一つは戦部メリィの入学についての確認や」
「シスターメリィの入学について……ですか?」
なんのことか要領を得ていない様子のサクラコに説明する。
「この際やから言うてまうが、ワイ、ナギサから依頼受けててな。『戦部メリィが不正入学の疑いがあるから調べて欲しい』と言われとる」
「ナギサさんがそんなことを!? 言っておきますがシスターメリィは……」
「わかっとるって。ヒナタから概ねの話は聞いとる。ワイかてここからメリィを引き離したいとは思わへん。これはあくまでメリィは『白』やって報告するための確認や。……入学当初、メリィは相当ひどい様子やったらしいな。放っておいたら野垂れ死んでまう思うてメリィをここへ入れたんやろ? そんでミネっちう首長に同意を貰った。そんで合ってるか?」
「……はい、概ねその通りです」
「そか。教えてくれてありがとな。ちうとこの件に関してはあとはミネに確認とれば完了やな」
「あ……それは難しいかと」
「ん、なんでや?」
急なサクラコの言葉に疑問を呈するウルフウッド。サクラコの返答は意外なものだった。
「実はしばらく前からミネ団長は行方が知れないのです。なので今は彼女と話をすることができません」
「なんやて? うわ、どないしよ。……ちうか仮にも首長が行方不明なんやろ? なんで騒ぎになってへんねん?」
「その騒ぎを起こさないために表沙汰にされていませんので」
「確かティーパーティーの一人も入院中なんやろ? んで救護騎士団の団長も不在。……ミカが『手が回らない』なんて言っとったけど、それはホンマそうやな」
「はい、実際そうですね……とはいえ、まさかナギサ様がメリィの調査をシャーレに依頼していたとは思いもしませんでした。血も涙も無いという噂は本当のようですね」
「それは言いすぎやて。組織の長ならそれなりに抱えとるもんもあるやろ。……まあ、とりあえず依頼の件はええわ。ミネが見つかったら確認取ってくれで終いの話やし、どうせ内密に探しとるんやろ。せやからもう一つの相談をさせてもろてええか? ワイ的にはこっちが本命の話やねん」
「本命の話、ですか……」
サクラコの顔が少しばかり強張る。
「だからそない肩ひじ張らんでええって。知っとったら教えて欲しいっちう程度の話や。……メリィがどこから来たか知らへんか?」
「……それもナギサ様からの依頼ですか?」
表情の強張りを解かぬまま尋ねるサクラコ。ウルフウッドはサクラコが何か知っているなと察しつつも、嘘偽りなく答える。
「いや、これはワイが個人的に知りたくて聞いとることや」
「パスターニコラス自身がですか? ……すみませんが理由をお聞きしても?」
「ええで、話すのが筋やろうし。……ワイはある人物を探しとる。そいつは人の命を何とも思うてない外道でな、探し出してとっちめなあかんねん。そんで、そいつがメリィが元居た場所にいる可能性があるから聞いとる」
「そんな人物が……。なぜ、その可能性に至ったのです?」
「理由は二つ。一つはメリィがワイのパニッシャー……あの十字架に異常に怯えとったこと。シスターサクラコは知らんやろうけど、あれ武器やねん。んで、ワイが追っとるやつも多分同じの持っててな。メリィはワイのあれを見てはっきりと『パニッシャー』って言っとった。……同じものをどこかで知っとるねん。んで、もう一つの理由が銃恐怖症。ワイが追っとるやつは『ヘイロー貫通弾』ちう危険なモンを持っとる」
「ヘイロー貫通弾……まさか……」
「せや、たった一発でも人の命を奪えるえげつない代物や。そんで追っとるそいつは訓練でも平然と人撃つサイコやからな。トラウマの一つ二つ植え付けられてもおかしない。……まあ、これに関してはこじつけみたいな理由やけど。でも可能性で充分やねん。ワイにとってはやっと見つけた手掛かりなんや。せやから知っとることあれば教えてくれへんか?」
サクラコはウルフウッドから告げられたことに衝撃を受けたのか口に手を当て黙ってしまう。しかし暫くして何か意を決したようにその手を離し、口を開く。
「……分かりました、私の知っていることをお伝えします。ただ……申し訳ないのですがパスターニコラスが欲しがっている情報……その場所までは存じ上げないことを先に詫びさせていただきます」
「ええって、現状からしたらそれでもありがたい」
サクラコは神妙な面持ちのまま、メリィが元居た場所の情報を話し始める。
「……彼女は『アリウス分校』の生徒でした」
「『アリウス分校』……? 聞いたことあらへんな」
「知らないのも当然のことかと。私もメリィに聞くまではアリウスが存続していることを知りませんでした。……パスターニコラスはトリニティの成り立ちについてはご存じですか?」
「ん? 確か昔色々な派閥が紛争しとって、そんで和解して総合学園になったっちう話やろ?」
「はい、その通りです。ですがその際、諸派の統合に反対し、連合を果たしたトリニティ総合学園から激しい弾圧を受け追放された派閥があったのです。それがアリウス……。ただそれも数百年前の出来事です」
「そら残っとるとは思わへんわな」
「ですから彼女の口からその名前が出てきたときは驚きました。……ただ彼女から聞き出せたのはこの名前だけです。彼女のように助けがいる生徒がいるかもと色々聞き出そうとしたのですが……彼女の症状が悪化し、ミネ団長からも『彼女の心の傷を広げないためにそのことについては触れないように』と念を押され……メリィから話してくれるまでは私達からそのことに触れないようにしてきました。ですので、その……」
「わかっとるって。ワイもメリィから無理やり聞き出そうとは思ってへん」
「ありがとうございます」
「ちうと地道にアリウスについて調べるしかないか。資料ありそうな場所とか知っとるか?」
「それであれば古書館になると思いますが……生憎私もアリウスについて色々調べていたのですが今のところ場所の手がかりは見つかっていません」
「シスターサクラコでそれならワイが探すのは現実的やないな……」
手掛かりっぽいものは見つかったものの、結局自分がやれそうなことといえばメリィと親交を深め、そのことについてメリィから話してくれるように促すしか無さそうであった。
(結局振り出し……いや、それ以上か。こらまたえらい難易度高いな。ワイ、こういうのあんま得意やないんやけどな……。どっちかいえばあの
いっそのこと先生にメリィの面談でもしてもらおうかな、なんてことを思案し始めるウルフウッド。成績不振なのは確かだし適当な理由付ければ案外できそうやな、なんてことを考えていたところでサクラコから話しかけられその思考を中断する。
「パスターニコラス。今までの話とは関係がないことで恐縮なのですが、私からもパスターニコラスにお願いがあるのです。聞いていただけますか?」
「なんや? 言うてみ」
「先日ヒナタさんからパスターニコラスからとても良い説教を聞かせていただいたとお聞きしまして。是非とも皆さんにもその説教を聞かせていただきたいのです」
ちなみにサクラコの言っている「説教」とは先生が生徒にする「お説教」とは違い、牧師が教会で聖書の内容を解説し伝える話のことである。
「は? 説教? ヒナタにそんな話しとらへ……あれのことか!?」
恐らくヒナタがサクラコに話したのはこの前休憩時間に話した「コヘレトの言葉」の事だろうとあたりを点けるウルフウッド。
「悪いが無理やで、シスターサクラコ。あれは説教なんてもんやないし、それを語るにはワイは未熟や。宗派もちゃうしなぁ……」
「そうでしょうか? 私はそうは思いません。シスターヒナタはその話に感銘を受けたとおっしゃっていましたし……それにパスターニコラス、未熟であるなら……いえ、お互い未熟であるからこそ主の教えについて語り合うべきだと思うのです。それこそこの留学の意義かと思うのですが」
「うっ……そう言われると断れへんやないか……」
今まで葬儀は沢山してきたものの説教はしたことがなかったウルフウッドにとってこのお願いは試練と言っても過言ではなかった。しかしサクラコから留学の意義とまで言われてしまった手前、断ることはできない。
(これはナギサの依頼よりも難問かもしれへん……)
ウルフウッドは今までない無い頭の悩ませ方をしつつ、帰路へとついた。
今回の章で、ウルフウッドは牧師だし「vanitas vanitatum et omnia vanitas」をテーマに据えてみようかなと思って聖書購入してコヘレトの言葉を読んでみたのですが、まあ難しい。
ただベアおばが言っていたような「全部虚しいことだ。だから希望を持つな」みたいな内容では決してなく、どんなに知恵を身に着けても、どんなに財を築いても、最終的には死に帰結し全ては虚しい。だからこそ今ある日々に喜びを見出すべきだ、みたいな内容のように作者としては感じました。まあニワカなのでホントに解釈合ってるの?といわれると、う~んって感じですが……
ただウルフウッドとは相性の良い言葉なのかなとも思ったり。
ウルフウッドのノーマンズランドでの日々は過酷で理不尽にあふれていました。そんな中でも彼は高いところに神を見ていて、自分の思う最善の行動をとり続けていたことを考えると、ウルフウッドがもし聖書を読んでいたら印象に残っていた章なんじゃないかなと。
あとはメタ的な理由ですが、ベアおばとの対比も書きたかったのでウルフウッドから「vanitas~」について軽く語ってもらいました。
ちょいちょいこの言葉については今後も触れていく予定ですが、なんか解釈間違ってたとしても、よくあるエンタメ作品で出てくる聖書ネタみたいなものだとして生暖かい目で見てもらえたらと思います。