ウルフウッドアーカイブ   作:タニシ・トニオ

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リアルが忙しくて間空いてしまってすみません……
生存報告かねての話投稿です。

アリウス新章、楽しみですね! まあこの小説だとそのルートのフラグ折れる予定なのですが。早くアリウスの新しい生徒実装して欲しいなぁ。

9/6私自身でも誤字見つけたので修正。
いつも誤字報告してくださる方もありがとうございます


エデン条約編2章:太陽の下へ
01_繋がる点と点


 ナギサからの依頼で私は補習授業部の顧問になることになった。最初は普通に教師らしい仕事だなぐらいにしか考えていなかったが、それは甘かったようだ。一次試験にヒフミを除くメンバーが落ちてしまったことで合宿をすることになり、その際にヒフミが言っていた「三次試験まで落ちてしまったら……」という言葉。それが気になってナギサに確認しに行った時のことだ。

 

「そもそも補習授業部は……生徒を退学させるために作ったものですから」

「……先生、補習授業部にいる裏切者を、探していただけませんか?」

 

 ナギサの本当の目的はエデン条約締結を妨害する裏切者の排除で、補習授業部はその容疑者を集めたものだということを知る。そして容疑者をまとめて退学させるためにシャーレの権限を利用したことへの謝罪と、私に裏切者を探して欲しいという本当の依頼が話された。

 恐らく、ウルフウッドに不正入学の調査を依頼した戦部メリィという生徒も疑われているのだろう。しかし補習授業部に入部させることができなかったため彼に依頼したんだ。

 

” ……私は私のやり方で、その問題に対処させてもらうね ”

 

 私はナギサにそう答えた。生徒を疑うような真似はしたくないし、ヒフミ、アズサ、ハナコ、コハル……彼女たちがそんなことをするような生徒だとは思えなかったからだ。

 合宿の合間にも色々なことがあった。ミカが突然来訪してきて、アリウス分校というトリニティを憎んでいる学校があること、アズサがそこの生徒だということ、そしてアズサに和解の象徴になって欲しいとの願いがあることを聞いた。エデン条約を進めるナギサへの不信も……。他にも、美食研究会の騒動に巻き込まれ、そこで再会したヒナと意見を交換することもあった。ナギサに探りを入れられ、彼女が疑心暗鬼の闇の中にとらわれていることもわかった。そこで少し意固地になってしまって二次試験を妨害されたりもしてしまった。

 色々なことがあったけれど、補習授業部の皆は協力しあって学んでいった。複雑怪奇な状況の中、それでも諦めず最後のチャンスになってしまった三次試験に向けて彼女たちは今もひたむきに頑張ってきている。

 

 ……この子たちの中にナギサの言う裏切り者はいないだろう。

 

 きっとこの状況はナギサやミカがもう少し他人を信じられれば起こることは無かったんだ。ただ仕方ないとも思える。ミカから聞いた、セイアという生徒が本当は入院ではなく殺害されたこと。おそらくエデン条約締結を阻む存在が行った蛮行、その犯人が見つかっていないことを考えるとナギサが疑心暗鬼に陥ることも分からなくはない。

 

(……補習授業部の件が済んだらこっちの件も解決しないと)

 

 だからこそまずは補習授業部の生徒たちを合格させなければならない。そう思いながら明後日の第三次試験に向けて模試を作成している時だった。ウルフウッドから連絡が来る。

 

<センセのとこにアズサっちう生徒おったやろ? 少しばかり話させてくれへん?>

 

<” かまわないけど……何を話すつもりなの? ”>

 

<……情報元は話せへんが、そいつがマスターチャペルの居場所知ってるかもしれんと聞いてな>

 

<マスター・チャペルの!?>

 

――マスター・チャペル

 

 ウルフウッドを殺し屋に仕立て上げ、そしてアビドスでホシノ達を拐った部隊のトップと目されている危険人物だ。ヘイロー貫通弾という危険極まりないものを子供に与え、あまつさえ殺人をさせようとした度し難い相手。

 シャーレでも情報を集めていたがその足取りを掴むことができなかったのに、アズサがその人物の居場所を知っている。それはまるで、アズサがチャペルの仲間と言っているようにも聞こえた。

 ……イメージに合わない。アズサは確かに過激なところもあるが素直で勉学にも精力的な仲間思いの優しい子だ。とてもチャペル側の人間とは思えなかった。

 とはいえウルフウッドの言っていることも無視はできない。それに嫌な想像が浮かんでしまった。……チャペルとアズサが仮に繋がっていたとして、アリウスはトリニティを恨んでいる。……ヘイロー持ちを殺害するのは容易ではないが、セイアの殺害にヘイロー貫通弾が使用されていたら?

 点と点が結びついてしまう感覚を振り払う。私が生徒を疑ってどうするんだ

 

<……明後日に試験がある。それに影響の無い範囲でお願いね>

 

<それはそいつ次第やな>

 

 一抹の不安を胸に彼に合宿先の案内を送る。彼との通話の後アズサにウルフウッドが来ることを伝えると驚いた反応を見せ、不安げに「わかった」と言うのみだった。

 

◇ ◇ ◇

 

「ワイはアビドス高校三年でシャーレでセンセの世話もしとるニコラス・D・ウルフウッドっちうねん、よろしゅうな。ヒフミは久しぶりやな、なんか今回もやらかしたらしいやんか」

 

「私はそんな……こともありますがっ、違います!」

 

「何がちゃうねん」

 

 ウルフウッドは合宿先に来ると明るく挨拶をしてくれた。ヒフミとは和気あいあいな雰囲気だ。

 

 順々に補習授業部のメンバーに挨拶を交わしていく。コハルは人見知りが発動して大人しく、ハナコは……警戒している、のかな? 表面をいつも以上に取り繕っているように見える。……無理もない。隣にいるアズサがさっきからうつむいたまま一言も言葉を発していないからだ。聡いハナコのことだ、何かを感じとっているのだろう。

 

 ウルフウッドが三人に挨拶を終え、アズサの前に立つ。

 

「……お前がアズサやったんか。久しぶりやな、アビドス以来か」

 

「………」

 

「え? ウルフウッドさん、アズサちゃんはあの()()()()には出席してませんよ」

 

「そらそやろ、そっちやないからな。……なかなかの手際やったで。ダブルファングを連れ去った時の動きは。あの時閃光弾投げてきたガキやろお前」

 

“ それって…… ”

 

 ウルフウッドの言うことが本当のことなら、アズサはチャペル側の人間だということになる。 ……正直信じられないが、ウルフウッドも嘘を言う人間でないことはよく知っている。やはりそういうことなのだろうか……? アズサはうつ向いて黙ったままだ。

 そんなアズサとウルフウッドの間にハナコが入る。

 

「ウルフウッドさん、私達は事情をよく把握していません。お二人になにがあったのか、よろしければ説明していただくことはできませんか?」

 

「お前らには関係無い話や」

 

「そんなことはありません。私達補習授業部は一蓮托生の身、つまりアズサちゃんとはくんずほぐれずの仲なのです! ……アズサちゃんに何かあれば私達は無視することはできません」

 

 ウルフウッドは少しばかり呆れた視線をハナコに向けた後、私に目配りしてきた。

 

“ 私からも頼むよウルフウッド。話してあげてくれないかな? ”

 

 ウルフウッドはため息をつくと、かいつまんでではあるがアビドスでの事件のことを話し始める。

 

 そして『ヘイロー貫通弾』が用いられアビドスの生徒が誘拐されたこと、その誘拐犯を追い詰めた際にアズサが邪魔をして誘拐犯達を連れ去ったことが話された。

 それを聞いても信じられないのか、ヒフミは狼狽えながらも反論する。

 

「あ、アズサちゃんはそんなことをする人間じゃありません! 話を聞くに一瞬の出来事だったんですよね? きっと見間違いで……」

 

 だがヒフミのその言葉を否定するようにウルフウッドはアズサに言い放つ。

 

「そのドクロのマーク、アリウスちうとこの校章らしいな? 思い出してきたで、確かにダブルファングともう一人の女も身に付けとったな、それ。……いい加減黙っとるのも限界やろ? お前はアリウスの生徒で間違いないな?」

 

 それを聞いてアズサはついに顔を上げてウルフウッドと目線を合わせた。

 

「……その通りだ。私はアリウスの生徒で間違い無い。アビドスを襲撃したアリウススクワッドの一員だ」

 

「あ、アズサちゃん……」

 

 アズサの言葉にヒフミは驚きを隠せない様子だった。他のメンバーも一緒だ。私だってミカからアズサがアリウスという学校の生徒だと聞いてはいたが、それがアビドス襲撃犯の……チャペルの仲間だとは思っていなかった。思いたくなかった。

 

 そんな中、アズサはウルフウッドに向けて頭を下げる。

 

「どんな報復でも私は甘んじて受ける。だがお願いだ、少しばかり時間が欲しい。やらなければいけないことがあるんだ」

 

「……どんだけや?」

 

「二日……いや、一週間待ってくれ。その後は私のことをどうしても構わない」

 

「一週間? 試験は明後日やろ?」

 

 ウルフウッドの言う通りだ。二日後は確かに最終試験の日である。試験を受けられなければ皆に迷惑をかけてしまうからという理由はわかる。……しかし一週間後に延ばした理由はなんだ? 一週間後になにがあるんだ?

 

「待ってくださいウルフウッドさん! きっと理由があったんです! じゃなきゃアズサちゃんがそんなことするわけありません!」

 

「そ、そもそもアズサがやったっていう証拠が無いじゃない! た、確かにアズサは自供してるかもだけど……えっと、と、とにかく証拠もないのにアズサに手を出すとか死刑なんだから!」

 

 ヒフミとコハルがアズサの前に割って入る。ハナコもアズサの隣に立って微笑んでいた。きっとみんなはアズサが理由も無くそんなことをする人間じゃないと信じているんだ。……情けない、動揺して何も言えていない自分を恥じる。

 

“ ウルフウッド、アズサに何かする前に話を聞いてあげてくれないかな? きっと何かあるはずだよ ”

 

「あんなぁ……せやったらまずワイの話を聞け! 早とちりで勝手に人を悪役にすんなこのボケどもが!! ワイはマスター・チャペルの居場所を聞きに来ただけやっちうねん!」

 

“ え……あ、そういえばそうだったっけ。なんか殺気立ってたからつい…… ”

 

「お・ま・え・なぁ〜」

 

 ウルフウッドに胸ぐらを掴まれてシェイクされる。ごめん、ごめんって。剣呑な雰囲気だったからついね、ごめんって。

 

「……報復しないのか?」

 

「あん? お前がアイツの居場所を素直に話してくれればそれで終いや。なにかしでかすつもりでもなければな」

 

 アズサは少し黙ってから再びウルフウッドに尋ねる。

 

「……なぜだ? あなたには私に報復する動機も権利もあるはずだ。それなのに、なぜ?」

 

「お前らはワイの後輩や。せやからあの程度のオイタなんぞに目くじら立てへんて。お前らの先輩のリヴィオっちう奴なんかもっと酷かったんやで? あれと比べたらカワイイもんやでお前らは」

 

「私達が後輩? あなたはアリウスの生徒ではないはずだが……?」

 

「チャペルがワイのことお前らに『兄弟子』ゆうとったんやろ? 『妹弟子』なら後輩も同然やないか」

 

「そう言うものなのか?」

 

「せやで。せやからマスター・チャペルの居場所教えてくれへんか? お前らをあの外道と、あとベアトリーチェっちう奴らから解放させてやりたいねん。話ぶりからしてお前もチャペルに嫌々従っとるクチやろ。頼むでホンマ」

 

「……サオリたちも、いいのか?」

 

「元よりそのつもりや。『vanitas…』の本当の意味をお前ら全員に説教してくれと頼まれとるしな。……全員や。全員やつらから奪い返したる。見限りは無しや」

 

「そう……か」

 

 ウルフウッドが「見限らない」と口にする。……珍しい。彼がそれを口にするということは、それが彼にとってどうしても譲れない一線だということだ。……ちょっと不謹慎かもしれないけれど、彼からその言葉が出てきたことを喜んでいる自分がいた。

 アズサを見ると、その目にはうっすらと涙が溜まっている。そして直後、本当に申し訳なさそうにウルフウッドに答えた。

 

「……教えたいのは山々なんだ。だが私は二人の居場所を知らない」

 

「別にアリウス自治区の行き方だけでかまへんで」

 

「すまない、それもわからない。私は帰り道を知らされていない」

 

「はぁ!? なんやて!? お前任務かなんかでトリニティにいるんちゃうんか? なんで知らへんねん!?」

 

「機密保持の為に任務終了後に部隊と合流して帰投することになっていたから。……でも知ることができる機会がある。これは皆が補習授業部に入れられてしまったことにも関係する、私が謝らなければいけない話だ。……私が、トリニティの裏切り者だという話だ……」

 

“ アズサ…… ”

 

 アズサが自身に与えられている任務について話始める。

 

「……私はティーパーティー首長らの暗殺を目的にトリニティへ入れられた。だから私のせいなんだ……皆が補習授業部に入れられたのは……」

 

 その言葉を聞いて皆が動揺する。そんな中、微妙に状況が飲み込めていないウルフウッドだけ首を傾げていた。

 

「お前の任務は……まぁとりあえず置いとくとして、なんでそれがこいつらに関係あんねん?」

 

“ ウルフウッド、実は…… ”

 

 彼に補習授業部ができた本当の理由を説明すると、彼は呆れた顔を浮かべる。

「……ワイの依頼もそういうことやったんやな、合点がいったわ」

 

「ウルフウッドさんへの依頼とは?」

 

 ハナコが確認してくる。その顔はいつもと違い真剣な顔つきだ。きっとハナコにとって必要な情報なのだろう。

 

“ ウルフウッドはナギサからシスターフッドの戦部メリィって生徒の調査を依頼されてたんだよ。ハナコはマリーとも顔見知りだったけど、彼女のことは知ってる? ”

 

「……はい、知っています。そうですね、確かに彼女なら候補に上がっていてもおかしくありません。なるほど……それでウルフウッドさんがシスターフッドに短期留学されてたんですね」

 

「なんでお前そこまで知ってんねん?」

 

「……あ、あの……続きを話しても良いのだろうか?」

 

 アズサがおずおずと会話に割って入ってきた。せっかくアズサが本当のことを話してくれているのに脱線してしまっていた。申し訳ない。アズサに会話の主導権を戻す。

 

「すまない先生。えっと……私の入学手続きをしてくれたのは聖園ミカだ。恐らくアリウスがミカに和平などを持ちかけて騙したんだと思う。そして最初のターゲットは百合園セイアだった」

 

「セイア……確かそいつ入院しとる奴やろ? まさかあえて失敗したんか?」

 

 本当に、そうであったらよかったと思う。

 

“ 違うんだウルフウッド。それは偽の情報でセイアは本当は…… ”

 

「先生、それも違う。それもブラフなんだ。セイアは生きている。彼女は現在、救護騎士団団長ミネの手で死を偽装して隠されている」

 

「……ああ、なるほど。そこでミネが出てくるんか」

 

“ え、ちょっとまってどういうこと? 話についていけないんだけど…… ”

 

 アズサの話やウルフウッドが聞いていたことを擦り合わせると、以前からミネという生徒が行方不明になっていたらしく、その理由がセイアを暗殺の手から逃すために死を偽装して潜伏しているからだとか。

 先ほどからの急な情報の洪水で溺れかけてしまうが……でも、本当に良かった。セイアは無事だしアズサもその手を汚していない。

 

「……なんで殺らへんかったんや? 結構危ない橋渡ったやろ」

 

「それは……」

 

 ウルフウッドがアズサに尋ねると、アズサはうつ向いて一呼吸置いてからその理由を話し始めた。

 

「……セイア殺害の為にヘイロー貫通弾を持たされた。先生とウルフウッドはヘイロー貫通弾を知っていると思うけど……私達はマスターからそれの威力を見せつけられたことがある」

 

 見せつけられた……? どういうことだ?

 アズサは握り拳を固めその身を震わしていた。顔を上げ表れた表情は、私たちが見たこともない怒りと悲しみに歪んだものだった。

 

「……見せしめに一人の生徒が殺された…………あれは、人の死に方じゃない!! あんなものがっ、人の死に方であってたまるか!! ……それを人に押し付ける蛮行を、私は行えなかった……引き金を引くことができなかったんだ……」

 

 アズサの目から大粒の涙が零れる。

 

「……見せしめに殺された生徒は……戦部リリィとは、知り合いだった。サオリと一緒に、私を庇ってくれたことがあったんだ。……そんな彼女が、()()()()()()()()()()()()()()()()。リリィだった肉片が、用水路にボチャボチャと……お墓も、何もない……。それが人のする行為なのか!? マスター達は『教えを守れない悪い生徒だから』と言ったが、私は納得できない! あんな行為が正しいわけがない!!…………だから、私はアリウスを裏切ったんだ」

 

 アズサの話に息が詰まる。皆が絶句していた。そんな中ウルフウッドがアズサの頭を撫でながら言う。

 

「……それで正解や。間違ってへんよ、花丸やるで」

 

 そう言って彼はアズサにアメを差し出した。アズサはそれを受け取りながら彼に尋ねる。

 

「……戦部メリィは元気だろうか? 一番辛いのは彼女のはずだ……。ウルフウッド、彼女があなたへの情報提供者なのだろう?」

 

「なんや、やっぱり知っとったんか。アイツは大丈夫やで、シスターたちが仲良くしてくれとるよ」

 

「そうか、よかった。私を見たとき酷く怯えていたから……。生きてくれて嬉しいと伝えてくれないか」

 

「それは自分の口から言ったれ。機会はつくったる」

 

「そうか……そうだな……」

 

 戦部という同じ名字からもしくはと思っていたけど、ウルフウッドが調査を依頼されていた生徒は殺害されたというリリィという生徒の姉妹のようだ。……メリィもアリウスの生徒だったのか。話の感じからするとメリィはアズサと違って保護されてトリニティに入学したのだろう 。

 アズサの独白から色々な点の情報が線として繋がっていく。横で考え込んでいたハナコが口を開いた。

 

「……なるほど、つまりアズサちゃんは二重スパイだったんですね。自分の考えに従って、表面上はアリウスのスパイとして振る舞いつつセイアさん達を守るために行動していた。……そして先ほどウルフウッドさんに言っていた『一週間』という言葉……今度はナギサさんが一週間後に襲撃される、というところでしょうか」

 

「すごいなハナコ、探偵みたいだ。ハナコの言う通り、ナギサ襲撃が一週間後に控えている。それを阻止するために学園の至る所に罠や塹壕を設置済みだ」

 

「待て待て、色々ツッコミたいがそもそもナギサに事情話して警備固めた方が確実ちゃうんか?」

 

「いえ、それはできません。恐らくアズサちゃんとは別のトリニティの裏切り者……アリウスへの内通者がいます。そうですよね、アズサちゃん?」

 

「本当にすごいな……それもハナコの言う通りだ」

 

「そんな、人より持っている情報が多いだけですよ」

 

 ハナコが含み笑いを浮かべていた。どんなことを知ってるのかも気になるけど、今はそれよりも確かめるべきことがある。

 

“ アズサは何か知ってるの? ”

 

「うん。私はアリウススクワッドのサオリと定期連絡をしているのだけど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。万が一ウルフウッドに勘づかれて後を付けれることがないように、直接会う方法から指定の場所に設置された通信機を利用するようになった」

 

“ それが本当なら…… ”

 

 そのスパイはトリニティの相当深いところに食い込んでいることになる。少なくともティーパーティーの情報は筒抜けだろう。それなら確かにナギサに情報を伝えるのも不味い。下手したら裏をかかれてしまう。

 

「だから私一人でどうにかするつもりだった。でも……」

 

 アズサがウルフウッドを見る。

 

「わかっとるって、手伝ったる。そもそもお前が言ってた『知る機会』っちうのはそれなんやろ? アリウス自治区の場所は襲ってきた奴らから聞くしかないっちうわけやな」

 

「その通りだ。……あなたがいてくれるなら心強い」

 

“ 微力だけど私も手伝うよ ”

 

「先生も、本当にいいの?」

 

“ 当然だよ。……ずっとこんなことを抱えてきて大変だったでしょ? もう一人で背負わなくていいんだよ、アズサ ”

 

「……ありがとう、先生」

 

「私も手伝います!!」

「わ、私も!! そんな話聞いて黙ってなんかいられないもん!」

「私も微力ながら。このタイプの放置プレイは趣味ではありませんので」

 

 補習授業部の皆も声をあげる。確かに三人ともアズサのことは放ってはおけないだろう。でも……

 

「みんなは駄目だ! きっと襲撃にはヘイロー貫通弾が持ち出されるだろう、危険過ぎる」

 

「でもっ……」

 

 アズサが皆の協力を断るが、ヒフミ含め三人は引く様子がなかった。しかしアズサの言う通りでもある。どうすれば……

 

「ええやんか、アズサ。ヒフミ達にも手伝ってもらえば」

 

「ウルフウッド!?」

 

“ 手伝ってもらうって……どうするの? ”

 

 ウルフウッドはニヤリと笑う。

 

「襲撃してくるアリウス生徒はワイらがとっちめたる。せやからそのとっちめた生徒を保護して欲しいねん。流石にワイらだけやとそこまでは手が回らへんからな。襲ってきた奴らだけでも奪い返したるんや」

 

 無力化したアリウス生徒の確保、確かにそれなら比較的安全だし人手も必要だ。良い案だと思う。

 そう考えている横でハナコが思い付いた様に手を上げた。

 

「それならシスターフッドの皆さんにも協力してもらうのはどうでしょう?」

 

「ちょい待ち、誰かに話すんは不味いっちう話やろ?」

 

「恐らく内通者はティーパーティーの中です。ですからティーパーティーから距離を置いているシスターフッドなら大丈夫ですよ。それは戦部メリィさんの無事が証明しています」

 

「……確かに。内通者にメリィのことがバレていたらとっくに粛清されているはずだ」

 

「ほーん、なるほど……せやったらワイからシスターサクラコに相談してみるわ」

 

 やるべきことが見えてきて話が纏まる。時計を見ると結構いい時間になっていた。

 

“ ……もう遅いし今日はこれくらいにしておこう。色々なことがあって落ち着かないかもしれないけど、まずは試験に受からないとだしね ”

 

「「「「はい」」」」

 

 補習授業部の皆はアズサを中心に取り囲みながら部屋から出ていく。多分彼女達の部屋に戻ったらアズサは質問攻めにあうのだろう。ほどほどにね。

 

 彼女達の足音が遠くなってから、部屋に残っていたウルフウッドに向き直る。

 

“ ……とりあえず情報交換しない? 君もそのつもりで残ってくれてたんでしょ? ”

 

「まあな」

 

◇ ◇ ◇

 

“ ……マスター・チャペルだけじゃなく、ベアトリーチェか…… ”

 

「そいつについては大した情報は得られんかったが……まあチャペルと組んどるような奴や、()()()()()()()()()()やできっと」

 

“ 確かに話の限りじゃ好きになれそうにないかな ”

 

 冗談じみた口調で答える。そうでもしないと汚い言葉が出てきそうだった。

 子供たちを騙し、支配し、尊厳を踏みにじり、そして命すら平然と奪う相手。

 絶対に放置することはできない……だからこそ、今は冷静になるべきだ。そう自分に言い聞かせ、思考する。

 

” ……にしても気になるな、彼女の目的はなんなんだろう? ” 

 

「トリニティとゲヘナを潰すことやないんか? チャペルは大方その状況がワイへの復讐に丁度ええから協力してるとかそんな感じやろ」

 

“ チャペルに関しては私もそうだと思う。ただベアトリーチェに関しては微妙にしっくりこないんだよなぁ……なにか違和感があるというか…… ”

 

「なにがやねん?」

 

 ウルフウッドが訝しんでくる。私は抱えている違和感の言語化を試みた。

 

“ なんていうか……多分、ベアトリーチェは狡猾である種の理性を持っている人物だ ”

 

「理性ぇ?」

 

“ うん。……アリウスの支配に手際の良さを感じるんだよね。やり方がカルトそのものだ。生徒達のことも本当に道具としか見てないし、()()()()()()()()()()感じがする。……彼女自身、トリニティやゲヘナに怨恨は無いんじゃないかな? なんていうか、そういった熱を感じられない。……だからこそトリニティやゲヘナを敵に回す理由が分からないんだよ。支配するにも排除するにも二校は巨大過ぎる。理性的に考えればむしろ避ける筈なのに…… ”

 

「そう言われるとそないな気もしてくるが……なんか理由あってエデン条約が潰せればええっちう線もあるやろ。どちらにしろ今ある情報だけじゃ妄想の域は出えへんで。答え合わせはとっちめてからすればええ」

 

“ ……そうだね。ウルフウッドの言う通りだ。二人は必ず捕まえよう ”

 

 ベアトリーチェが何を企んでいるにしろ、それは既定事項だ。絶対に野放しにはできない。

 

「……センセ、それについてやけど……悪い情報がある」

 

“ 悪い情報? ”

 

 ウルフウッドがバツの悪そうな顔をしながらその情報について話始める。

 

「前に話した雷泥のこと覚えとるか? ……どうもマスター・チャペルは同じタイプらしい」

 

“ まさか…… ”

 

「せや、ガキが取り憑かれとるみたいやねん。せやから一応、ワイも確保するつもりで動く……が、相手はマスター・チャペルや。……言いたいこと、わかるやろ?」

 

“ それは駄目だ、ウルフウッド ”

 

「そうも言ってられへん相手や。十中八九、奴はワイと同じ力を持っとる。取り逃がしたりしてもうたらまたガキが殺される。……せやからアカン思うたらワイは躊躇なく引き金引くからな。こればかりは見限らせてくれ、止めてくれるなや」

 

“ それは…… ”

 

 その続きを口にできなかった。アリスの時とは違う、底知れぬ悪意を持つ相手。こちらが躊躇えばそれを利用し、自身の体すら人質にしてくるだろう。……でも「わかった」と口にすることもできない。

 返事に困っているとウルフウッドは呆れた表情を浮かべながら笑う。

 

「まあ情報共有で言っただけや。お前に返事は期待してへんわ。アリスの時みたく邪魔されたら今回ばかりはシャレにならへんぞっちうだけやで。ただ……結果によってはワイはまたブタ箱行きになってまう。そんときは後輩達の面倒頼むで、()()

 

――それについての返事も、()はすることができなかった。

 




アリウスの事情を知ったウルフウッドにとって、彼女たちはリヴィオみたいな存在に見えると思うんですよね。マスター・チャペルの手の中に子供たちがいることに絶対に我慢ならないと思います。だから今回ばかりは見限らない。
とはいえ、そんな中でも一つだけ見限らせてくれというのがある意味ウルフウッドらしいかなとも思っています。多分口先だけでギリギリまで粘ると思いますが。

本物の「殺人」を見せられて、それはいけないことだと真っ向から否定したアズサ。
ウルフウッドからしたら、それが状況的にできなかったとはいえ自分ができなかった選択肢を取れたアズサは眩しく見えたんじゃないでしょうか。なので花丸判定。アメちゃんあげちゃいます。

先生もマスターとベアオバには内心ブチギレ中。実際二人のやらかしが分かっているだけでも、
・アビドスでの子供への殺人教唆(間接的な殺人未遂)
・子供たちを洗脳、人格破壊(チャペル儀仗隊)
・子供を見せしめのためだけに殺害、脅迫
・アズサへの殺人教唆
そのほかetc
普通に最悪だよコイツら。マスター加わることで最悪度が増してます。
先生の逆鱗に触れるどころかブチブチ引っこ抜いてるような所業には、先生もさすがに我慢できませんよ。
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