個人的にはとっても好きな話でした。続きが気になる……
まだこの話投稿している時点ではアリウス編の話は完結していないのでリスキーなんですがアリウス編のネタも少し混ぜていこうと思います。
補習授業部の廊下に足音が響く。それはアズサが皆がいる部屋に向けて駆けている音だった。バタンと扉が開かれる。先生を含む補習授業部の面々の視線がアズサを迎えた。
「すまないみんな! 緊急事態だ!」
「どうしたんですかアズサちゃん!? まだなにかあるんですか!?」
「まだ?」
ヒフミの言葉に軽い違和感を覚えつつもアズサは自身の持つ情報を皆に伝えることを優先する。
「先ほどの定期連絡でナギサ襲撃が明日に変更になったことを告げられた。時間は午前五時……試験日と重なってしまう」
「そんな……!?」
「嘘でしょ!?」
“ …… ”
「……なるほど、そうきましたか」
アズサの報告に絶句するヒフミとコハル。対して先生とハナコは何か考え込む素振りを見せる。アズサは先日の会話の経験と今の態度からハナコが何かを理解していることを察し、尋ねた。
「ハナコ、何がなるほどなんだ?」
「実は先ほどアズサちゃんが席を外している時に私が掴んだ情報を皆さんに話していたんです。……あ、決してアズサちゃんを仲間外れにするつもりはなかったんですよ。ただ緊急性が高かったので先に相談を、アズサちゃんにはちゃんと大事なところを突き合わせて……」
「その情報がなにか関係あるのか?」
「……そうですね……まず私が掴んだ情報ですが……明日、私たちが試験を受ける予定の第十九分館にかなりの数の正義実現委員が派遣されて建物全体が隔離される、というものだったんです」
「なんだって!?」
「『エデン条約に必要な重要書類を保護する』という名目でティーパーティーから要請があり、建物全体を正義実現委員会で守る厳戒態勢に入ったようです。しかも本館の方にも戒厳令が出ているみたいでして。エデン条約が締結されるまで、恐らく誰一人として分館への出入りは許されません。……理由の半分は本当のことなのでしょうが、もう半分は私達を落とす為のものでしょうね。試験を受けるなら正義実現委員会を敵に回せと……ナギサさんの考えそうなことです」
「……まさかその情報がスパイから漏れて……」
「ナギサさんの襲撃が明日になった、という流れでしょう。確かに正義実現委員会が本館を離れ、戒厳令により人も少ないという状況は襲撃してくれと言っているようなもの。このタイミングを逃す理由がありません。ある意味ナギサさんの自業自得ともいえるのですが……」
「ハナコ、それは見限る理由にはならない。ナギサは守る。ただ……」
それをすれば試験には間に合わず自分だけでなく皆も退学になってしまう。それの回避方法が思い浮かばずアズサは口をつぐむ。
コハルが黙っていられないとばかりにハナコに案を投げる。
「は、ハスミ先輩に事情を説明して動いてもらえば……」
「いえ、それはあまり良い案とは言えません。仮に協力いただけたとしても命令に背いたとしてハスミさんに何らかの処罰が下されてしまうでしょう。何より正義実現委員会が動いたらスパイに察知される恐れが高いです」
「それじゃあどうしろって言うのよ!!」
絶望的な状況に涙目になるコハル。部屋が重苦しい雰囲気に包まれそうになる中、先生はあっけらかんとした雰囲気で答える。
“ 大丈夫だよコハル。ナギサも守る、試験も受ける、両方こなせばいいだけさ ”
「あら、先生に先に言われてしまいましたね」
「先生もハナコも、一体どうしろって言うのよ!?」
「コハルちゃん、落ち着いてください。でも二人ともどうするつもりなんですか?」
顔を真っ赤にさせるコハルをなだめつつヒフミが確認を取ると、ハナコはニコリと笑みを浮かべた。
「今まで私達は受け身の状況でした。なので今回は『ネコちゃん』に対して『タチ』に回ればいい、ということですよ」
「「?」」
「た、タチって……エッチなのは死刑!!」
「あらコハルちゃん、なにがエッチなんですか!? 詳しく! 教え下さい!」
「えっ、え、えっと……」
“ ハナコ、その話は私としても興味深いけど明日にしよう。……ようは今回は私達から動くってことだよ。ただ問題もあって、ナギサに連絡がつかないんだ。ミカとも……だから彼女達の居場所がわからない ”
「……ミカさんは大丈夫ですよ。それに肝心のナギサさんの居場所も検討がついています」
“ す、すごいね。それなら元々予定していたプランを前倒しにすればいけそうだ ”
「それが良いと思います。アズサちゃんに襲撃日の変更連絡が来たということは、私達の動きはまだ相手に察知されていないということ。これは大きなアドバンテージです」
“ それに人払いがされてるってことはポジティブに考えればヘイロー貫通弾の流れ弾をあまり気にしないでいいってことだからね。ウルフウッドもやりやすいはずだよ。……早期に決着を着けて試験も受ける、完全勝利は不可能じゃない ”
「ほ、本当に私達でやれるんでしょうか……」
先生の言葉を聞いても不安がぬぐえないヒフミ。そんな彼女にハナコが再び微笑みかける。
「大丈夫ですよ、ヒフミさん。ここには正義実現委員会のメンバーと、ゲリラ戦の達人と、ティーパーティーの偏愛をうける自称平凡な人と、トリニティのほぼ全てに精通した人がいます。その上、ちょっとしたマスターキーのようなシャーレの戸狩先生にキヴォトス最強との噂もあるウルフウッドさん、シスターフッドもきっと協力してくれます。トリニティの転覆だって容易なすごいメンバーですよ。先生の言う通り、不可能はありません」
「と、トリニティ転覆なんてしませんが……そう、ですね……やるしかありません! 覚悟を決めました! ナギサ様を助けて、試験も受かって、私達のハッピーエンドを掴み取りましょう!」
「ああ」
「やってやるんだから!」
「はい、一緒に頑張りましょう」
部長の号令の元、補習授業部は立ち上がった。
◇ ◇ ◇
「ふぁ〜、……急に呼びだされたこっちの身にもなれっちうねん。シスター達にも頭下げて回らないかんかったんやぞ」
“ ごめん、ごめん。状況が状況だったものだから ”
深夜のトリニティに大人二人が佇む。戒厳令が敷かれていることもあり周囲に人の気配は無い。これからここが戦場になるとは思えないほどの静けさであった。
そこへ通信が入る。
<こちらブラボー、目標を確保した>
“ 了解、アズサ ”
<先生、ブラボーだ。コードネームを守って>
“ わかったよアズサ。所定の位置に向かうね ”
<わかってない! まったく……待ってる>
アズサとの通信が切れると、ウルフウッドが呆れた顔をしながら言う。
「にしても安全確保するためとはいえナギサを先に襲撃するとか、あいつらぶっ飛んどるな。よーやるわ。まあ嫌いやないが」
“ ナギサを説得するのは時間がかかりそうだし今回は仕方ないよ。後で私も一緒に謝るさ ”
そんなことを喋りながら二人は指示された所定の場所へと向かっていく。所定の場所とはアズサがゲリラ戦をしかけるためにトラップがしかけられているキルゾーンである。
作戦としてはウルフウッドとアズサでナギサ襲撃の準備をしているアリウスの部隊に奇襲をしかけゲリラ的に各戦力を撃破、無力化したアリウス生徒の回収はシスターフッド、シスター達がいるのでヒフミ達はナギサを拉致……もとい保護して防衛、先生は各員がスムーズに動ける様に指揮する、といった内容だ。
アリウス生徒の侵入予想経路の先にあるキルゾーンに二人が着くと、すでにアズサが待機していた。
「各員配置完了」
“ じゃあ作戦開始だね ”
「とりあえずワイがアリウスの奴ら釣ってくればええんやろ?」
「ああ、危険な役割だが頼む」
「せやからワイしかできへんのやろが。まあ任せとき」
そう言いながらウルフウッドはアリウス生徒が潜伏している場所へと歩んでいった。
◇ ◇ ◇
<こちらチームⅠ、所定の位置に着きました>
<こちらチームⅡ、了解。間もなくこちらも……うぁああ!!>
けたたましい銃撃音が通信機越しに鳴り響く。
<どうしましたチームⅡ!? 応答してください! なにがありました!?>
アリウスの襲撃部隊リーダーが呼び掛けるがチームⅡ分隊長からの応答はない。代わりに聞き覚えの無い男の声が聞こえてくる。
<あ〜、聞こえとるか? 壊れてへんかな? なんか返事もらえへん?>
<……何者ですか、あなたは?>
<お、繋がった。なんとなく予想ついとるんやないか、兄妹? お前らの先輩、ニコラス兄さんやで>
<やはり邪魔しに来ましたね、ニコラス・D・ウルフウッド!!>
<おう、邪魔させてもらうで。お前らの標的、ナギサはワイの手の内や。言ってる意味は分かるな? ナギサ襲うならワイを倒してからっちうわけや。先輩直々に稽古つけたる。どや、嬉しいやろ?>
<抜かしなさい!! 各員通達、第二目標がポイント2に現れました! 奴を殺せ! >
ブツンと通信が切られる。
「……殺せ、か。やっぱ気分のええもんちゃうな、胸が冷えるわ。……ホンマ、心底冷えるで………」
ウルフウッドは愚痴をこぼしながらタバコを咥え紫煙を吐き出す。
「……ほな、反撃開始といこか。首を洗って待っとるんやな、マスター・チャペル」
後輩の口から「殺せ」なんて言われたらホントいい気分じゃないよなぁ、ニコ兄。
通信先の生徒が誰かは次話で判明します。