「スバル先輩っ、投入部隊との通信が次々に途絶えていきます!」
「不味いですね、スクワッドが敗北するわけです。まさかここまで力の差があるとは……。アズサを探して下さい。合流して体制を立て直します」
「了解!」
ナギサ襲撃のリーダー、梯スバルは考える。ウルフウッドの奇襲にいいようにやられている現状を打破するにはゲリラ戦のスペシャリスト、アズサの力が必要だと。彼女にもこの作戦への参加要請が出ているため、すぐ近くにいるはずだと。
奇襲への焦りと怒りにより、なぜそのアズサと未だに合流できていないか、そもそもなぜウルフウッドに今回の襲撃が察知されていたか、その考察を後回しにしてしまっていた。そのツケが今払わされる。
「見つけた! おいアズサっ、こっちだ! 手伝え!」
「……」
アリウス分隊の一員に声を掛けられるアズサ。しかし彼女は無視して反対方向へと駆けていく。
「おいっ、そっちじゃ……」
アズサを追うアリウス生徒。しかし足に何かが引っ掛かる。
「ワイヤー……まさかっ!?」
瞬間、仕掛けられていた爆弾が起動しアズサを追っていたアリウス生徒達の意識が刈り取られた。
<リーダー、スパイが裏切った! 繰り返す、スパイがっ……うわあああっ!>
「チームⅣっ! ……クッ、まさかアズサが裏切るとは」
<……そうだ、私は裏切り者だ>
「アズサ!?」
倒したチームⅣの通信機からアズサがスバルに話しかける。
<その声は……スバルか>
「……なぜ裏切ったのですか、アズサ」
<……スバル、確かに私は裏切り者だ。だが、アリウスの本当の裏切り者は誰だ?>
「なにを言って……」
<戦部リリィを殺したのは誰だ?>
「っ、それは……」
<私達を恐怖で支配しているのは誰だ? 私達に人殺しを強要しているのは誰だ? 答えろスバル。
――ブツンッ
スバルが通信を切る。
「す、スバル先輩……」
「……仕方ありません、協力者に連絡を。ニコラスには
「了解!」
隊員達が駆けていく中、スバルは一人握り拳を震わせていた
「……誰だって、あなたみたいにいられないんですよッ、アズサ……」
◇ ◇ ◇
<ウルフウッド、私の裏切りがバレた。ただ収穫もある。敵にスクワッドはいない>
「なんでわかる?」
<敵のリーダーはスバルという生徒だが、彼女はサオリとは相性が悪いから二人が組まされることはないんだ。スバルは指揮能力こそサオリに匹敵するが白兵戦能力は劣る>
「ワイがおること予想しとった割には舐めた采配やんけ」
<恐らくスクワッドだとウルフウッドに呼吸が読まれているからだろう>
「なるほど。せやったらどうする? 予定やとスクワッドが出てきたらワイが相手する予定やったやろ。合流するか?」
<……いや、敵が特記戦力を用意していないとは考えにくい。スクワッドの代わりが用意されているはずだ。チャペル儀仗隊が出てくることはありえないけど、注意して>
「そか、じゃあまだしばらくは……」
ドゴンッ!!
ウルフウッドの言葉を遮る様に轟音が響く。彼の寄り掛かっていた建物の壁が爆ぜた。
「……アズサ、その特記戦力とやらのお出ましみたいや」
<!?>
ぽっかりと空いた壁の穴から、ピンクの髪をなびかせながら一人の少女が姿を表す。
「ショートカット開通〜! ……ん、あれ? 不良牧師発見! あはははっ、ラッキーだね☆」
「……おんどれがホンマの裏切り者やったんか、聖園ミカ。なるほど、確かに情報が筒抜けな訳や」
「あれれ〜、なんのこと?」
「あんなぁ、嘘つくならその殺気を引っ込めてから言えやドアホ」
「あはは、ホントに勘だけは鋭いね。……そう、私が本当の裏切り者。アリウスの子達が不甲斐ないから黒幕登場ってわけ」
ウルフウッドは情報を共有するため通信機のスイッチを入れたままミカに話しかける。
「焼き入れたる前に一つ聞かせ。なんでアリウスと組んどるんや、お前」
「アハッ☆ 気になる?」
ミカは笑顔のまま――目は笑っていないが――話を続ける。
「アリウスと組んでる理由は単純だよ。たまたまアリウスのこと知って、仲良くなれないかな〜って会いにいったら会えて、秘密裏に支援してたんだ。それで目的も一緒だったから組むしかないよねってなったの。ね、単純でしょ?」
「目的っちうんは?」
「エデン条約の阻止。ナギちゃんもさ〜わかってないよね〜。あんな角付きの連中なんかと組めるわけないじゃん、気持ち悪い。……私は本当に嫌なの。生理的に無理。なのにナギちゃん頑なにやめてくれないんだもん」
「だからゆうてセイア殺したんはやりすぎやぞ、ドアホ」
「……さっきからアホアホうるさいな〜。それしか語彙無いの? あなたの声、本当に耳障り」
ミカは態度を豹変させウルフウッドに襲いかかる。地面に足跡が残る程の脚力で一気に踏み込み、刺突するように銃を突き出した。常人であれば回避不能なゼロ距離射撃。
――しかし、ウルフウッドは常人ではない。
自分とミカの間にパニッシャーを素早く挟み、ミカの攻撃をマタドールの様にいなしつつハンドガンで攻撃も加える。彼のハンドガンは特別性で、故郷の戦闘サイボーグの装甲すら貫ける威力がある。故にこれで決着がつくはずだった。
「いたたっ! ひどーい!!」
「いたたって、嘘やろ……お前もデタラメーズの仲間か?」
「はぁっ? あなたに言われたくないんだけど?」
再びウルフウッドへ攻撃を再開するミカ。ウルフウッドもそれを再びかわしつつ、今度はパニッシャーで攻撃を加える。
「痛ーい!! やめてよそれー!!」
そんなことを言いながらミカは弾幕の中を突き進んで接近してくる。傍から見ると恐怖映像以外の何物でもないそれに、流石のウルフウッドも引いていた。
(フィジカルだけならナインライブズ越えとるんやないかこいつ!? せやけど……)
ミカは弾幕から逃れる様に跳躍し、着地先の建物を殴り壊す。その瓦礫が隕石のようにウルフウッドに降り注いだ。銃での攻撃が当たらないためミカは瓦礫による面での攻撃に切り替えたのだ。
しかしウルフウッドはその攻撃に対し逃げるどころか足を止め、パニッシャーをミカに向ける。パニッシャーの威力ならこの程度粉砕可能だと判断していた。自身に降り注ぐ最低限の瓦礫を勘で粉砕しつつ、ミカを迎撃する。
「キャアッ!」
その銃撃を食らいミカはハントされた鳥のように建物の下へと落下した。
「イタタ……」
「そのタフさは誉めたるが、それだけやな。それじゃあワイには届かへん。まともな戦闘経験無いやろ、お前」
未だ地面から起き上がらないミカにパニッシャーを突き付ける。
「流石にこの距離で食らえば無事では済まんはずや。馬鹿な真似はやめて投降せえ」
それに対しミカは地面に這いつくばりながらも睨み付けるようにウルフウッドを見上げた。
「……さっきから本当にうるさいんだけど。馬鹿なことしてるなんてわかってるよ」
ミカは突き付けられているパニッシャーの銃先を握りしめながら立ち上がる。ウルフウッドはその手をどかすためにパニッシャーを動かそうとするが、それが叶わないことに気づく。まるで万力で固定されているかの様にびくともしなかった。
(はぁっ!? この細腕のどこにそないな馬鹿力あんねん!?)
「……でもっ、今さら引けないの!!」
その怪力に本気で引いているウルフウッドに向かって、ミカが全力で拳を振り抜く。パンッと空気の壁を越える音がした。
「あっっぶな!!」
その身の毛もよだつ威力に体が反応し寸でかわすウルフウッド。カウンター気味にミカを蹴り飛ばしていたが、その感触は人を蹴ったそれではなかった。
「うっぐぐ……女の子を蹴るとかほんっとサイテーなんだけど……」
「フツー重機かなにかを女の子なんて言わへんねん。こっちの足がイカれるかと思うたわ」
「人を重機扱いとかあり得ないんだけど……ぐすっ、ずず……サイアク……もうほんとヤダ……」
ミカが再び起き上がると、蹴りが直撃した鼻から血が滴り落ちていた。ミカは手で拭うがそれが止まる気配がない。その目に涙も滲み始める。
「なんでこうなっちゃうかなぁ……」
(……はぁ、ホンマ調子狂うわ)
まるで自分が弱いものイジメしているようなその絵面にいたたまれなくなり、ウルフウッドは頭をかきむしりながらミカに近づき自身のハンカチをその鼻に押し当てる。
「お前ホンマなんやねん。チグハグ過ぎて意味わからんぞ」
「……うるさいよ。あと乱暴すぎ」
そうは言いながらも敵わないと観念したのか大人しく厚意を受けるミカ。ウルフウッドはとりあえず安全だと判断し話を続ける。
「一体なにが『引けへん』ねん?」
「……ズズ、だって……セイアちゃんが襲った時の事故で、死んじゃって……そんなつもり……ぐすっ、無かったのに……」
「ん、事故?」
「セイアちゃん、体が弱かったから……それで……」
「あ〜、お前にはそう説明されとった訳か。アズサの予想通りやっぱり騙されとったんやな」
「…………ちょっと待って、どういうこと?」
「お前は黒幕気取ったピエロやったっちうわけや」
「いちいち人をコケにしないと気が済まないの!? いいから教えてよ!」
ウルフウッドの襟を掴んで揺するミカ。その仕草は可愛らしい女の子のそれであるにも関わらず、ウルフウッドには転圧機が押し付けられているような衝撃が襲いかかっていた。
「やめろっ! やめーい!! 話すっ、話したるから離してくれっ」
ミカから解放されたウルフウッドは軽く咳き込みながらも、かいつまんで事情を説明する。それを聞いてミカは次第にその顔を青ざめさせていった。
「……じゃあセイアちゃんは実は生きてて、アリウスはナギちゃんを殺しに来てるってこと……?」
「せやで。ついでに言えば
パニッシャーを傾けその影にミカを隠すと銃弾が弾かれる音が響く。ウルフウッドは間髪いれずにパニッシャーで近場の植栽を吹き飛ばすと気絶したアリウスの生徒が姿を表した。
「大方弱った所を撃て言われとったんやろ。あのジジイの教えそうなことやで」
自身が狙われたことにウルフウッドが言っていたことが事実だと確信するミカ。
(……本当はちょっと痛めつける程度のつもりだったのに、少なくとも、私はそのつもりだったのに……)
ナギサがまさしく命の危機だということを理解し、背筋が凍る。
「どうしよう、私のせいでナギちゃんが……」
ボロボロと涙をこぼし始めるミカ。
――そんな彼女に拳骨が落とされた。
「いっったああああっい!!」
「グズグズするなアホんだら! ナギサは無事や! それよりもお前に時間とられてセンセたちの方が押されとるみたいや。ほら、さっさと行くで!」
「ほんっとサイテー!! さっきはちょっとカッコいいと思ったけどナシナシ!! ありえないんだけど!」
「お前の評価なんぞどうでもええわ」
二人は口喧嘩をしながら先生たちの元へと駆けていく。もうミカの涙と鼻血は止まっていた。
というわけでスバル登場。しばらく彼女に活躍してもらう予定です。
現時点ではアリウス編完結していないのでスバルを出すのは原作との乖離がヤバくなりそうでリスキーなんですが、まあ今更の話だし条件も違うしええやろ、の精神で登場させました。
プロットでは名無しのアリウス生徒リーダーで話を進める予定だったんですが、アリウス編でスバルが後輩のために殺し屋もどきの仕事をしているのを見て「お前もニコ兄の後輩になるんだよぉ!」が決定しました。というかアリウスの子たち全般的にウルフウッドの後輩適正が高すぎる。ウルフウッドなら良い「しくじり先輩」になれるよ。
ミカVSウルフウッドがやたらとあっさりしてしまいましたが、これはミカ相手にウルフウッドが苦戦するイメージがどうしても湧かなかったので……。この小説を書いている上での戦闘力のイメージですが、個人的には下のように考えています。
ウルフウッド>ホシノ≧ヒナ、ネル、ツルギ、サオリ(ダブルファング)>ミカ
この小説のホシノはメンタルデバフ無し+ウルフウッドとの訓練で原作よりも強め。サオリ(ダブルファング)は強そうなシーン無いんですがウルフウッドとの相性が悪かっただけで各学園のトップ層に食い込む強さしています。ミカはフィジカルだけは最強クラスだけどお嬢様ゆえに戦闘経験が他の並んでいるメンバーに比べて少なすぎるので、雑魚には滅法強いけど格上相手になると途端に完封されてしまうようなイメージ。
まあここらへんは色んな二次創作や原作ですら場面によってはガラッと変わってくるものなので、この小説ではこんな感じだよって程度の認識でいてくれればと思います。