ウルフウッドアーカイブ   作:タニシ・トニオ

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04_太陽の下へ

 体育館と思われる建物の中、アズサと先生はアリウスの生徒達と対面していた。

 

「……やっと追い詰めましたよ、アズサ。それに……初めましてですかね? シャーレの先生」

 

 スバルが二人の正面に立ち、話しかける。その後ろでアリウス生徒たちは銃を構え二人に向けていた。

 

 少し前までアズサは善戦していた。先生と合流しその指揮の元、トラップを駆使しアリウスの生徒達を蹴散らしていた。しかしアリウスの援軍も投入され、トラップも尽き、この現状に至る。まともに銃弾を受けてはならないという条件下で数に押されてはどうしようもなかったのだ。

 

「ナギサを匿っている場所を教えてくれれば命だけは助けてあげます」

 

「嘘だな。マスターは裏切り者を許さない」

 

「……あなたが裏切った事実は伏せてあげますよ。ですから教えて下さい、ナギサはどこですか?」

 

「……」

 

 答える様子の無いアズサにスバルの顔が険しくなる。気が進まないがまずは足でも撃ってやろうか、と銃をアズサに向けようとした時だった。先生が少し困ったような笑顔を浮かべながら二人の間に割って入る。

 

「……なんのつもりですか、シャーレの先生?」

 

“ 君たちと少し話をしたいと思ってね ”

 

「あなたと話すことはありません。それともなんですか? あなたがアズサの代わりに撃たれてくれるとでも?」

 

“ 他の皆を撃たないと約束してくれるならやぶさかでもないかな ”

 

「……狂人を相手にしている暇は無いんです。退いてくだ……」

 

“ ウルフウッドの言ってた通りだった。君たちは引き金を引くのがワンテンポ遅い。……本当はこんなことしたくないんじゃないの? ”

 

「……黙ってくれますか」

 

“ アズサから聞いたよ。マスター・チャペルにその弾で人を撃つとどうなるか見せられたって。自分たちが同じ事をするのが怖くないの? ”

 

「黙れ!!」

 

 スバルが脅しつける様に先生の足元を銃撃する。しかし先生は引くどころかさらに一歩前に出た。そして懐のベレッタを取り出す。

 

“ ……私は怖いよ。未だに銃を人に向けるのが怖い。見ての通り、私はヘイローの無い外の人間だ。私の故郷じゃ銃で撃てば人は死ぬのが当然だった。だから、その引き金を引く怖さは理解してるつもりだよ ”

 

「それが何だと言うんです?」

 

“ その弾、捨てられない? 当たり前の事だけどさ、人殺しは駄目だよ。その一線を越えたらやり直せ無くなるとは言わないけど、その十字架は一生背負わないといけなくなる。……辛いよ、凄く辛いんだ ”

 

「まるで経験者みたいな言い方ですね」

 

“ ……そうだね。そんな人間を毎日見てるからかな ”

 

「だったらマスターへの恐怖も分かるでしょう? マスターは裏切り者を許さない。……殺らないと殺られるんですっ、私達が!!」

 

 スバルが先生に銃を向ける。周囲のアリウス生達も合わせて銃を向けた。空気が張りつめる。何かが起きればトリガーが引かれる、そんな空気の中その何かが起きた。

 突然天井が崩落し『何か』が落下してくる。

 

「ッ!? 撃てッ!!」

 

 スバルの合図と共に斉射が始まる。彼女たちはその何かに怯えるかのようにマガジンが空になる勢いで弾丸を放った。殺らなきゃ殺られる、そんな強迫観念に近いものをその何かに感じていたからだ。そう思うのも無理はない。なぜなら硝煙が晴れ姿を表したのは、彼女達にとっては恐怖の象徴であるパニッシャーだったからだ。

 

「……なんでおんどれはいっっつもギリギリやねん!! ええ加減にせえよホンマ!!」

 

“ でもなんだかんだ間に合ってくれるじゃん ”

 

「こっちの苦労を理解しろってなんべん言わせんねん! このボケ!」

 

ゴチンッ

 

“ いったあぁぁ!! 暴力反対! ラブ&ピースでいこうよ! ”

 

「お前が言うなぁぁ!」

 

 急に空気が弛緩する。目の前で繰り広げられるバカ二人のやり取りに生徒達は困惑していた。アリウスの生徒達がどうすると顔を見合わせる中、スバルが意を決してその間に割り込む。

 

「ん、んん……随分と余裕がありますね、ニコラス()()?」

 

「あん? ……お前がスバルっちう奴か? 実際ヨユーやったで。お前ら真面目過ぎやぞ、なに律儀にあのアホの教え守っとんねん。おかげで動きが読みやすーてたまらんかったわ」

 

「そうですか……しかし、これでもまだその減らず口が言えますか?」

 

 スバルが合図を出し、アリウスの生徒達がマガジンを込め直した銃を構える。ウルフウッドはただ呆れた様にため息をつく中、パニッシャーの影からミカが顔を出した。

 

「ねえ、スバルちゃんだっけ? セイアちゃんを殺そうとしたのもナギちゃんをこれから殺そうとしてるのも本当なの?」

 

「ああ、これはこれは聖園ミカさん。ええ、本当ですよ。そうとも知らずに協力してくださるあなたは実に滑稽でした」

 

「……なんでそんなことするの? 私そこまでしてなんて言ってないよね?」

 

 ミカが「私怒ってるよ」とでも言いたげに圧を飛ばす。しかしスバルはそれを受けてなお、いやむしろ受けたからこそミカに圧を返した。その顔が怒りに歪む。

 

「……憎いからですよ、あなた達トリニティが。私達を地下へと追いやっておきながらのうのうと……あなたを見かける度に私がどんな思いをしてたか分かりますか? 『機能』として人殺しの技術だけを学ばされ、死がいつも隣にあった私達に向けて、優雅に暮らしてるお嬢様が『仲良くしよう』? 馬鹿にしてるんですか!? 腹が立って仕方ありませんでしたよっ!」

 

 スバルが堰を切った様に吠え始める。

 

「わかるものですかっ! 全ては虚しいと教えられ、機能だけを追及されてっ! 人として扱われなくて、仲間の死を悲しむことすら許されない私達のことが!! 『人殺しは駄目』? そんなの分かってるんですよ!! でもそんな考えは許されない! 要らないと判断されれば処分される! わからないでしょう! あなた達にこの苦しみはッ!!」

 

 

 

「――いや、わかるけどな?」

 

 

 

 いつの間にかタバコを取り出し吸っていたウルフウッドが呟く。スバルは目を見開いて彼を見ていた。

 

「なに驚いた顔しとんねん。ワイはお前らの先輩やぞ。お前らの経験したことなんぞワイかてあらかた経験済みやっちうねん」

 

「で、デタラメを……」

 

「ネズミに混じって残飯漁ったこともある。リンゴ一個盗んで殺されかけたこともあるやろ。隣で寝てた奴が次の朝冷たくなってたこともある。訓練中あのアホにいきなり撃たれたこともや。弟弟子と殺し合いを強要させられたこともあったな。あとはなにがあったか……あ〜言うてみ? お前らのやられたこと」

 

 アリウスの生徒達に動揺が広がっていた。ウルフウッドの経験を聞いて「私達より酷くない?」と呟く生徒すらいた。

 

「……あなたが本当に『先輩』だということはわかりました。だったらわかるでしょう? なんで邪魔をするんですか!?」

 

 スバルの叫びにウルフウッドは紫煙を吐きながら答える。

 

「あんなぁ、分かっとるから邪魔しとんねん。少なくともお前らはまだ一線越えてへんやろ? 教えといたる、その線の向こうにあるのは地獄やぞ」

 

 瞬間、ウルフウッドはアリウス生徒に向けて殺気を叩きつける。自身がバラバラにされるのを幻視するほどの殺気にスバルは思わず崩れ落ちそうになった。マスターを連想させるそれに尻餅をつき恐怖で震える生徒も少なくなかった。ウルフウッドはその光景に胸を冷やしつつ、話を再開する。

 

「……わかるか? これが線を超えたロクデナシの成れの果てや。こないな化け物(フリークス)になんぞになって欲しいわけあらへんやんか。……おいスバル。お前、後輩大切か?」

 

「……大切、ですが……」

 

 辛い日々の中、慰めに吹いていたハーモニカを喜んでくれていた後輩達の顔が浮かぶ。

 

「せやったら想像しろ。……手が血で汚れるとな、その後輩を抱きしめてやることもできなくなんねんぞ。そない大切な後輩が『ヘイロー貫通弾(そないなもん)』持たされて外道に墜とされるのを、お前我慢できるか? ワイは我慢ならへん。……ワイの言っとること、お前達ならわかるやろ? ……頼むで、後生や……救いたいんは本当やねんか……そんな弾捨てて投降してくれ」

 

 ウルフウッドがそれを言い終えた時には、もはや誰も彼に銃を向けてはいなかった。少なくともニコラス先輩は敵ではないと理解していた。しかしマスターを裏切ることへの恐怖で弾を捨てることもできずアリウスの生徒はただ立ち尽くすのみ。

 そんな膠着しかけた状況の中、新たに二人の人物が顔を出した。

 

「……スバル先輩、みんなも……私からもお願いします。ニコラスさんを信じて投降してくれませんか?」

 

「あなたは……メリィ? 生きて、いたんですか……?」

 

「はい、隣にいるサクラコ様に保護していただき今はシスターフッドに身を寄せています」

 

 メリィが紹介するようにサクラコに手を向ける。

 

「メリィよりご紹介にあずかりました、シスターフッド代表の歌住サクラコと申します。無力化した貴方達のお仲間は現在、私達シスターフッドが保護しています。決して無体なことはいたしません。銃を収めていただけませんか?」

 

 サクラコの「人質がいるぞ」とも取れなくもない発言にスバルは再び態度を硬化させる。

 

「それを信じろと? 私たちはトリニティのクーデーターの片棒を担ぎ、桐藤ナギサや聖園ミカを殺害しようとした重犯罪者達です。なにもされないとは到底思えませんが?」

 

「……確かになにもペナルティが無い、とはいかないかもしれません。しかし私たちは貴方達が被害者であることも知っています。トリニティの負の歴史、そして奥に潜む真に邪悪な者たちの……。そのような罰を受けてしまっている貴方達をどう責められましょうか。私たちはあなたたちの救済を祈ります。貴方達が陽だまりの中を歩けるようになることを願っています。……それを今信じていただくことは難しいかもしれません。ですが、少なくともメリィのことは信じてくださいませんか?」

 

 サクラコに後押しされメリィが一歩、震える足でスバルたちに近づく。

 ここには彼女のトラウマを引き起こすものが沢山あった。足に力が入らなくて崩れ落ちそうになる。ここから一目散に逃げ出したくもある。それでも、あの時のような思いをもうしたくないと勇気を振り絞っていた。

 

――vanitas vanitatum et omnia vanitas

 

 全ては虚しく束の間のことである。だから()()()()()()()()()()()()。今を懸命に生きない理由にはならないから。

 

「vanitas vanitatum et omnia vanitas……ニコラスさんからこれの本当の意味を教わりました。……確かに全ては虚しい、束の間のことである。でも、だからこそ今を大切に生きるのだと、その中に幸せがあるのだと。これは理不尽で空虚な世界の中で、幸せと希望を見出すための知恵の言葉なのだと……そう聞きました。どんな辛いことがあっても、今に幸せを見つけて笑っていいんです。……スバル先輩のハーモニカを聴いていた時みたく……」

 

「メリィ……」

 

「ここに来て知りました。トリニティの人達と私達に境界線なんてなかった。確かに意地悪な人もいました。でも優しい人も沢山いました。放課後のカフェでケーキを食べたり、部活動で汗を流したり……私達には想像のつかないようなことでも根本は同じなんです。ただ束の間の中に幸せを見出だして過ごしている、それだけなんです。私達と変わらない、みんな同じ人間だった。憎む必要なんてなかったんです。……お姉ちゃんが殺される理由も、なかった……なかったはずなのに……ッ」

 

 メリィの瞳から大粒の涙がボロボロと溢れ出す。

 

「……みんなに、あんな奴らのとこになんかいてほしくない。デタラメで私達を縛って、お姉ちゃんを殺したあんな奴らの言うことをなんか聞いちゃ駄目です! 言うことを聞いてたって、きっといつかお姉ちゃんみたいに捨てられる……そんなの絶対にイヤです! ……だから、こんなこともうやめてください…………」

 

 言葉を絞り出し泣き崩れそうになるメリィをサクラコが優しく抱き止める。その光景と自身の銃をスバルは見比べていた。

 

 

――手が血で汚れるとな、その後輩を抱きしめてやることもできなくなんねんぞ

 

 

(……確かに、その通りですね)

 

 スバルは銃からマガジンを抜き捨て、アリウスの生徒達に告げた。

 

「各員に通達、武装を解除し投降してください」

 

「で、でも、スバル先輩ッ」

 

「大丈夫ですよ。メリィが生きているんです、私達だって生き残れますよ。そうですよね、()()()()()()?」

 

「ハッ、当たり前やんけ。少なくともあの外道共からは守ったる」

 

 ウルフウッドのその言葉が後押しになったのかアリウス生徒達は次々にマガジンを抜き捨て始めた。

 スバルはサクラコに向き直る。

 

「一応尋問の訓練は受けていますが嫌なものは嫌ですので……」

 

「大丈夫です。シスターフッドの名に懸けて貴方達にそのようなことはさせません」

 

「そうですか、少し安心しました。……シスターサクラコ、メリィを助けてくれてありがとうございます。貴方達のことをとりあえず信じてみることにしました」

 

「……ありがとうございます。貴方達に主の御加護があらんことを」

 

 その様子を眺めながらウルフウッドはぼやく。

 

「とりあえずは一件落着ってとこか。なんや最後はメリィに持ってかれてもうたなぁ」

 

「――あなたはまだマシだよ。私なんか首謀者で命も狙われたのに蚊帳の外じゃん……」

 

 ミカが不貞腐れた様子でウルフウッドのぼやきに口出す。

 

「だから言ったやろ、お前ピエロやぞって」

 

「………」

 

「?」

 

 予想していたミカの減らず口が返ってこないのをいぶかしみ、ウルフウッドは横を向く。すると涙を浮かべながらプルプルと震えているミカが目に入った。

 

「……確かにあなたの言う通りだよね。やることなすこと全部裏目に出てて……私、本当に馬鹿だったなぁ……うっ、グスっ……」

 

(うわ面倒くさ……)

 

 メソメソと泣き始めるミカ。どうしたもんかと考えあぐねているウルフウッドへ先生怒りのチョップが繰り出された。

 

「いたっ、何すんねん!?」

 

“ なんでミカにそんなこと言うの!? ”

 

「こいつがアホやらかしとったのは事実やんけ! センセも通信で聞いとったやろ!」

 

“ それでも言い方ってものがあるでしょッ、まったく! あとタバコも駄目だよっ! ”

 

 先生はウルフウッドの口からタバコを取り上げ携帯灰皿に捨てつつ、ミカに向き直る。

 

“ ……ねえ、ミカ。一つ聞かせてくれない? アリウスと仲直りしたかったって話してくれてたけど、それは本当のこと? ”

 

 先生は合宿の最中に交わしたミカとの話について尋ねる。

 

「……確かに、そう言ってたね。……信じてもらえないかもだけどそれは本当のことだったよ。結局騙されて利用されて、ただ私が馬鹿なだけだったけど……」

 

“ ……信じるよ、ミカ。それに、その想いは決して馬鹿なものなんかじゃないよ ”

 

「え……?」

 

“ 確かにミカは悪いことをしてしまったし、その償いはしないといけない。それは事実だ。でもね、ミカ。前を見てごらん ”

 

 先生に言われて顔を上げるミカ。彼女の目には武装を放棄し投降しているアリウス生徒達が映る。ガスマスクを外した彼女達の表情はどこか安堵しているように見えた。

 

“ ミカの優しさがあったから、その最初の一歩があったから、私達は彼女達に手が届いたんだ。彼女達が『ヘイロー貫通弾(あんなもの)』を手放せるキッカケを作れたのはミカの『和解したい』っていう想いがあったからなんだよ。それも紛れもない事実なんだ ”

 

「せん、せい……」

 

“ 私もみんなが仲直りできるならそれが一番いいと思ってる。だからその想いは卑下しないで欲しいな。……私も手伝うよ、ミカがナギサやセイア、みんなと仲直りできるようにね ”

 

「私、悪いことをしちゃったのに……いいの……?」

 

“ 言ったでしょ? 『私は生徒の味方だよ』って。だからもちろん、私はミカの味方だよ ”

 

「……ありがとう先生。その言葉でちょっとだけ……ちょっとだけだけど、馬鹿な私を許せた気がする。……でも、そっか、えへへ、先生は私の味方なんだ……」

 

(……うわ、またやらかしよったなセンセ)

 

 先生を見る目が色付きはじめたミカを見て、また一人面倒臭い女が増えたとウルフウッドは頭の中で愚痴った。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 正義実現委員会がやっと動き出し、ミカを丁重に連れていく。色々抱えていた物を下ろせたからか連行されるミカの顔は穏やかなものだった。

 正実の副委員長であるハスミはその場に残りつつミカを見送ると、サクラコへ向き直る。

 

「ではサクラコさん。捕縛したアリウス生徒を引き受けますので彼女達の元に案内してくれませんか?」

 

「すみませんがそれはできません」

 

「……はい?」

 

「それはできませんと申し上げたのです」

 

「ど、どういうつもりですか!? 彼女達はテロリストなんですよ!?」

 

「無体なことはしないと約束して彼女達は投降してくれたのです。貴方達に引き渡してはそれを反故することになります。……彼女達に今必要なのは心の安寧なのです。故に、我々シスターフッドはアリウス生徒の引き渡しを断固として拒否します」

 

「……それがどういう意味か、分かって言っているのですか?」

 

「無論です」

 

 二人の間の空気が張りつめていく。それに呼応するようにシスターフッドと正義実現委員会の生徒達が二人の後ろに集まりだした。

 ――まさしく一触即発、そんな空気に十字架の楔が打ち込まれる。

 

「ほい、ストップ。あいつらはワイのとこで預かるっちうことで手打ちにしてもらえへん?」

 

「パスターニコラス?」

「ウルフウッドさん?」

 

 二人の間にパニッシャーを突き立てたウルフウッドに皆の視線が集まる。

 

「……ウルフウッドさんの所とは、どの立場での話でしょうか?」

 

 ハスミが尋ねる。アビドスの一生徒としてか、それとも……

 

「シャーレ復学支援部部長としてって言えばええか? あいつらが逃げたり何かあればシャーレが責任とったる。それにあいつらかて色々思うところがあるトリニティにおるより、関係あらへんところの方が気が楽やろ。どや? ええ案やと思わへん?」

 

「……パスターニコラスの元であれば彼女達も安心できるでしょう。シスターフッドはその提案を支持します」

 

 ウルフウッドの提案にサクラコは快諾する。対してハスミは険しい表情をしていた。

 

「……我々正義実現委員会はいわば暴力装置、そこまでの判断を下す権限を持っていません……」

 

 

 

「――でしたらティーパーティーホストである私が判断を下します」

 

 

 

 その声の元に皆が視線を向けると、ヒフミ達を連れてナギサがそこに立っていた。

 

「ナギサ様!?」

 

 驚くハスミの横までナギサは歩いてくると、ウルフウッドに向き直る。

 

「事情はヒフミさん達から聞かせてもらいました。……このような言い方はよろしくないですが、今の彼女達は未だ燻っている火種そのもの。まずはお互い冷静になるためにもウルフウッドさんの提案に甘えさせていただくのが最適だと私は思います。……お願いしてもよろしいでしょうか?」

 

「ええで、元よりそのつもりや。なに、ちゃんと聞き出した情報も共有したる。()()()()()()()()()()()()()()

 

「そうですか。……今回の事件の解決も含めて、重ね重ねありがとうございます」

 

 ナギサが頭を下げ、正式にアリウス生徒がシャーレ預かりになるとハスミを含めた正義実現委員会の面々も下がっていった。

 

「ほな、そうと決まればシスターサクラコにお願いあんねん。あいつら連れてける車両貸してくれへん?」

 

「ええ、構いませんよ。直ぐに手配いたしますね」

 

 サクラコがシスター達に指示を出し始める。その横で先生がウルフウッドに話しかけていた。

 

“ ところでアリウスの子達はどこに連れていくつもりなの? あの人数を入れられる空きはシャーレにはなかったよね? ”

 

「なにゆうてんねん。教室がいつも閑古鳥鳴いとるちょうどええ学校があるやろ」

 

“ まさか……え、ホシノ達には言ってあるの? ”

 

「……これから言わないかんから顧問としてセンセも付き合ってーな」

 

“ ……ダメでーす。私は補習授業部の顧問としてこれからテスト見ないとなので行けませーん。ニコラス君一人で怒られてくださーい ”

 

「なっ、事件解決したんやからテストなんて受けんでもええやないか!?」

 

“ それとこれとは話が違うからね。ケジメは大事なんだよウルフウッド。大丈夫、ホシノ達なら受け入れてくれるよ! ……しこたま怒られるだろうけど ”

 

「こ、こんの薄情モンがぁ!」

 

“ ほらほら、車来たよ。先輩らしく笑顔で案内してあげなくちゃ ”

 

 先生が指差した先にはアリウス生徒達を乗せた数台のバスが到着していた。シスターの運転手付きである。

 

「後で覚えとけよ、センセ!」

 

“ わかったわかった、行ってらっしゃーい ”

 

 ウルフウッドは先生への文句をわめき散らしながら先頭車両へと乗り込んでいった。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

「どうしたんですか、ニコラス先輩? 険しい顔して」

 

 ウルフウッドの隣に座っていたスバルが尋ねる。

 

「いや、アビドスの生徒会長様になんて言うか考えとっただけや。お前は気にせんでええよ」

 

「は、はあ……」

 

 スバルは少しばかり困惑しながらも再び疑問を投げかける。

 

「これから向かうアビドスとはどんなところなんです?」

 

「ん、ああ、せやなぁ……砂漠地帯で砂ばっか、なんもないとこでなぁ。物も痛みやすいし……」

 

「……流刑地か何かなんですか?」

 

「ちゃ、ちゃうねん! ちゃうねんけど………アカン、改めて言葉にしようとするとええとこ出てこおへん……」

 

「ええぇ……」

 

「いや、ええとこやねんで!? ほら、住めば都言うやんか?」

 

「あの、余計に不安になってくるのですが……」

 

 軽い言い争いを始める二人。そんな二人の後ろから不満を漏らす声が聞こえてくる。

 

「……スバル先輩、ズルいです。私達もニコラス先輩の話聞きたいです」

 

「あの、楽しい話ではありませんよ……?」

 

 スバルがたしなめるが不満の声は大きくなっていく。

 そんな中、運転手のシスターが助け船を出すようにウルフウッドに声をかけた。

 

「パスターニコラス、よろしければそちらのマイクをお使いになられては?」

 

「おおきに……ってバスガイドのやつやんけ! これでなに話せっちうねん!? ワイはガイドちゃうねんぞ!?」

 

「……ですが皆さん期待されているみたいですよ?」

 

 シスターに釣られて車内のミラーを見ると、椅子の横から顔を出し期待の視線をウルフウッドに向ける生徒たちの顔が写っていた。

 

「あ〜……」

 

「アビドスまでの道は長いですし、私からもお願いします」

 

 シスターからもお願いされ頭を抱えるウルフウッド。少しして意を決したようにアリウス生徒たちに向き返る。

 運転手のシスターはさりげなく話が後続のバスにも聞こえるようにマイクのチャンネルを合わせていた。

 

「わかった! ええわ、話したる。お前らにも練習に付き合ってもらうからな! ……今から話すんはメリィにもした説教や。

 

 

――コヘレトは言う。vanitas vanitatum et omnia vanitas……

これはこれは理不尽で空虚な世界の中で、幸せと希望を見出すための知恵の言葉や

 

 

 

――そこで、私は喜びをたたえる。

太陽の下では食べ、飲み、楽しむことより他に人の幸せはない。

これは、太陽の下で神が与える人生の日々の労苦に伴うものである。

(コヘレトの言葉 8ー15)

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

” じゃあみんな、試験会場に向かおうか! ”

 

「やっぱり試験受けないと駄目なのぉ?」

 

” 約束は約束だからね。大丈夫だよコハル、模試では合格できてたじゃない ”

 

「そうだぞコハル。試験は二時間後、今なら会場まで十分間に合うしノートを見返す時間もある」

 

「アズサちゃんはこの中では一番大変だったのに元気ですね♡」

 

「みなさん、徹夜明けで大変ですがもうひと踏ん張りです! アズサちゃんの元気を見習って試験もクリアしましょう! 」

 

 補習授業部の皆が試験会場に向けて駆けていく。朝焼けと相まってその姿はとても眩しく見えた。

 

――きっと、大丈夫だろう。なんとなくそう思う。

 

 今のナギサなら相談すればどうにかしてくれるかもしれないけど、ここまで頑張ってきたのだしやっぱり試験も合格して綺麗に締めくくりたいものだ。

 

「先生~、おいてっちゃいますよ~」

 

” 今行くよー ”

 

 ヒフミに呼ばれ彼女たちの元へ駆け出そうとした時だった。

 

 

 

――バスンッ

 

 

 

 何かが貫ける音がする。

 地面に一つの銃痕が出来ていた。

 お腹が、熱い。

 ……撃たれた? どこから!? 

 

” あ…ガッ…… ”

 

「――ッ!!」

 

 口から血が零れる。みんなが何か叫んでいるみたいだけど、うまく聞き取れない。

 銃弾が飛んできた方向を見ると彼方の時計塔が目に入る。その頂上に、見えるはずのない髑髏の仮面をつけた人間を幻視した。

 

(マスター・チャペル……)

 

 謎の確信があった。私を撃ったのは、あいつだ。

 血流操作で止血を……いや、それもよりも……

 

” みんな……来ちゃ、だめだ……次弾が来る…ッ ”

 

 アズサが私の言葉を無視して私を突き飛ばす。肩に銃弾が走る感覚がした。

 突き飛ばされなかったらそれはきっと私の心臓を貫いていただろう。

 アズサが何か言いながら私を建物の影にまで運んでいく。

 

” ありが、とう、アズサ……怪我は、ない? ”

 

「先生はも――しゃべ――で!」

 

 アズサの声がよく聞こえない。

 

<先生! しっかりしてください先生! どうしてッ!? 私の力を貫通して……>

 

 アロナの声が聞こえる。どうやらシッテムの箱は無事の様だ。

 

(私は大丈夫だよアロナ。一応止血はできてるから……だから泣かないで……)

 

 その言葉を伝えることもできず、私は意識を手放した。

 




エデン条約編2章完!

まさかの先生狙撃エンド
メタ的な理由を言えばウルフウッドが傍にいると先生への銃撃防いじゃうためこの時点で先生に撃たれてもらいました。
スバル達の襲撃は先生とウルフウッドを引き離すための囮だったんだよ!

アロナバリアはどーしたって話ですが、アレはアロナの神秘ってことでヘイロー貫通弾であれば貫けれるという解釈で進めています。でないと先生盾にしちゃえばマスター・チャペルの攻撃防げちゃうのでそれも味気ないなってことで。

……この後書きを書いている時点で気づいたんですが、スバルの年齢、現時点でまだ不明なんですよね。勝手にサオリと同じ17歳の留年組2年生かと思い込んでしまっていたのですが、もし16歳だったら2年生のメリィが先輩って言っているのがおかしくなってしまう……
 こ、この世界線のスバルは17歳なんです。そいういうことでお願いします。
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