ウルフウッドアーカイブ   作:タニシ・トニオ

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今回はサオリサイドでちょっと短め


03_奇跡の在りか

 カタコンベの奥にある古聖堂、その一角にマダムの自室の一つがある。限られた者しか尋ねることが許されていないその扉を私はノックする。

 

「マダム、錠前サオリです。トリニティ襲撃作戦のご報告を」

 

「……入りなさい」

 

 マダムの許可を得て扉を開くと、チャペル儀仗隊の二人に出迎えられる。彼女達は私を部屋の中に案内しつつも、いつでも私を撃てるようその手にハンドガンが握られていた。無論、それにはヘイロー貫通弾が装填されている。その弾を常に携帯することを許されているのは彼女達だけだ。

 そんな儀仗隊がマダムには常に二人以上護衛についている。故にマダムに何かするということは不可能に近い。

 

(……せめてヘイロー貫通弾があれば)

 

「サオリ、どうしました?」

 

「……いえ、なんでもありませんマダム」

 

 私は何を考えていた? 無駄なことを考えても意味は無い。全ては虚しいのだから……

 

「トリニティ襲撃作戦ですが帰還者がいません。作戦は失敗し、参加した者は皆トリニティに拿捕されたものかと。どうしますか?」

 

「どう、とは?」

 

 マダムが聞き返してくる。私の報告内容がどういう意味か分からない人でも無いだろうに、焦りも何も見受けられない。私がどういうことか聞きたいぐらいだ。

 

「恐らく……いえ、十中八九、拿捕された者達からカタコンベへの経路が聞き出されているかと。トリニティが攻めてきます。防衛体制を整える必要が……」

 

「不要です」

 

「は?」

 

「不要と言ったのですよ、サオリ。トリニティがここに攻めてくることはありません」

 

「な、なぜそう言いきれるのですか?」

 

「簡単な事ですよ。あの作戦に参加させた者達に渡していた帰還ルートは偽物です。故にいくら彼女達からルートを聞き出したところでトリニティがこの場所にたどり着くことはありません」

 

「……まさか最初から彼女たちを使い捨てるつもりで?」

 

 この女の余裕はそういうわけか。……ウルフウッドが居るにも関わらずアリウススクワッドがあの作戦に投入されなかった理由が判明した。しかし、だとして……私達の半分を切り捨てること前提であの作戦をした理由がわからない。一体何を考えている……?

 

「使い捨てとは人聞きの悪い。彼女達の『機能』を果たしてもらっただけです」

 

「『機能』を果たす? トリニティへの報復は失敗しているのにか?」

 

「彼女らに与えられた機能は『トリニティの警備を乱すこと』と『シャーレの先生とニコラス・D・ウルフウッドを引き離すこと』です。マスター・チャペルも珍しく褒めていましたよ。お陰で先生の排除は容易だったと」

 

「まさかあの作戦の目的は……」

 

「ええ、桐藤ナギサでもなく、聖園ミカでもなく、シャーレの先生です」

 

「それに私達の半分も切り捨てる価値があるのか!?」

 

 私が激昂するのと同時に護衛の儀仗隊が私を取り押さえ、頭に銃を突きつけてくる。マダムはそんな私を見下しながら言った。

 

「価値を判断するのは貴方達ではありません。貴方達はその『機能』が存在の全て。それ以外は不要だと教えたはずですよ」

 

 マダムが儀仗隊に合図を送ると、私は拘束から解放される。

 

 

「――他に報告もないでしょう、下がりなさい」

 

「……はい、失礼しました」

 

 私は歯を食い縛りながらすごすごとその場から去ることしかできなかった。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

――奇跡など起きるわけがない

 

――そんなことないよ。私たちの日常は奇跡で成り立ってたんだから。

 

 ……目が覚める。またあの夢だ。

 アビドス襲撃以来、よくあの時の夢を見るようになった。あの時の小鳥遊ホシノの言葉が、私の頭にこびり付いている。

 あの時、私は嘘をついていた。本当は、奇跡は起こるものだと知っていたから。

 

 リリィの『見せしめ』の後、皆がマスター達に大人しく従う中、アズサだけは反抗的な態度を続けていた。そのため私はマダムから「矯正できなければアレも『見せしめ』にします」と通告をされていたのだ。

 だからアズサに態度を改めるように必死に指導したが……アイツは頑固な上に表面上も取り繕えない不器用な奴だから……それは叶わなかった。

 このままではどうしようもなくて、しかしどうすればいいかも分からなくて……でも諦めたくなくて……そんな時だった。

 

 聖園ミカ、彼女がアリウスを訪れたのは。

 

 『アリウスと仲直りしたい』と夢物語を語る彼女をスバル達は嗤い、怒っていたが……私にはどうでもよかった。教わっていたトリニティへの憎しみすら忘れていた。

 たまたま、本当にたまたまこのタイミングでアリウスまでたどり着き、和解の提案してきた聖園ミカという存在は、私にとって奇跡に他ならなかったからだ。

 藁をもつかむような思いで私はアズサをトリニティへのスパイに推薦した。そしてアズサをここから……死から遠ざけることが叶った。

 定期連絡でアズサの声を聞くたびに、私は家族の無事を確認し胸を撫で下ろすことができていた。

 アリウススクワッド(家族)の無事だけが、たったひとつの私の拠り所なのだから。

 

(……いつか、聖園ミカには感謝を言えたらいいが……)

 

 だがしかし、それこそまた奇跡が起きない限り無理だろう。私達は今、最悪な形で聖園ミカの願いを裏切っているのだから。この前の作戦では彼女の命を奪っていてもおかしくなかったのだ。しかも次の作戦で彼女が前に立つことがあれば……私は彼女を撃たなければならない。

 アリウススクワッドが生き残るためにも。

 

 

 

――マスターチャペルからはワイが守ったる

 

――ワイは嫌がらせにな、あいつの犠牲者は全部取り返したろ思ってんねん

 

 

 

 ……もしもあの時、ウルフウッドの手を取っていたら……この奇跡も叶ったのだろうか。

 

(……なにを馬鹿な。叶いもしない希望を持つことに意味はない)

 

 マダムはきっと、本当は私達のことなどどうでもよいのだろう。しかしアツコだけは違う。アツコだけには明確に執着している。故に、仮にここから逃げだせたとしてもマダムはどこまでも追ってくるだろう。マダムとどんな契約をしているのかは知らないが、マスターもきっと追ってくる。あの二人から逃げ延びることは不可能だ。

 

(結局、答えは一つのみ……か)

 

 私達がとりもなおさず生き残るためには『機能』に徹するしかない。

 

(……捨てられた方が幸せかもな)

 

 アツコを捨て置くという選択肢が無い私には無縁のことだが、そうなってしまったスバル達の方がまだ救いがあるのかもしれない。

 もしもウルフウッドが本当にあの言葉を守る人間であれば……きっと悪いようにはなっていないはずだ。

 

(せめてどこか遠くへ行ってくれていれば……もう、失う同級生はリリィだけで十分だ)

 

 

 時計を見る。次の作戦会議の召集時間が迫っていた。私は重い足取りで指定の場所へと歩んで行く。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

「アリウススクワッドにはニコラス・D・ウルフウッドの抹殺を担当してもらいます」

 

「はい……ですが……」

 

 マダムから命令が下される。『機能』としてそれには応えねばならないが、しかし……私達ではウルフウッドに勝つことはできない。それはアビドスでの戦いで証明されてしまっている。それはマダムも分かってるはずだ。一体どういうつもりなんだ?

 

「ああ、貴方達だけでは無理なことは理解していますよ。ですので今回は儀仗隊も付けます」

 

「儀仗隊を!?」

 

「ええ、その通りです。マスター・チャペルからもそれが必要だと言われていますので。四人全員、かの男の抹殺に当たってもらいます」

 

 これには流石に驚きを隠せなかった。今までチャペル儀仗隊が作戦に参加することはなく、あくまで彼女達はマダムの護衛や私達の監視が主な任務だったからだ。それほどまでにウルフウッドの抹殺は本気だということか。

 確かにチャペル儀仗隊全員と私達アリウススクワッドで一斉にかかれば、いくらあの男でもひとたまりもないだろう。ヒヨリやミサキでウルフウッドの退路を塞ぎつつ、四つのパニッシャーの猛攻にダブルファングでの奇襲を差し込めば……勝ち筋が見えてくる。

 

 だがここでふと、魔が差したかのようにある考えが私の頭をよぎった。

 

 もしも……もしも私がこのタイミングで裏切ったら、チャペル儀仗隊を始末することができるのではなかろうか?

 チャペル儀仗隊一人一人であれば私は勝つことはできる。対ウルフウッドの訓練として儀仗隊との一対一の模擬戦をした時は私が勝利することができていた。

 常に彼女達は二人以上で行動している上に『ヘイロー貫通弾』を持っているからこそ普段はどうしようもないだけだ。だが今回はそのアドバンテージがなくなっている。

 ウルフウッドがいる。『ヘイロー貫通弾』もある。奇襲の矛先をウルフウッドではなく儀仗隊にすれば……彼女たちの鏖殺を一瞬にして完了させることは不可能ではない。

 ……そして儀仗隊さえいなければ、

 

 

――マダムを、暗殺することができる。

 

 

 漆黒の意志が私に芽生える。

 マダムさえいなければアツコを自由にしてやれる。マスター自身はアツコに興味はなさそうだった。だからあの女さえいなくなればマスターも追ってはこないだろう。

 マダムさえ、この女さえ殺せれば……アツコも、ミサキも、ヒヨリも……自由にしてやれる。アリウススクワッドという『機能』から解放してやることができる。その希望は確かにある。

 

 以前、二人の大人は私達に言っていた。

 

「奇跡など起こらない。それは幻想に過ぎない。『機能』には必要ない」

 

 だが私は知っている。思い出したんだ。奇跡は確かにあるのだと。

 アズサの時のように、降って湧いたこの奇跡を掴み取ってやる。

 

 

「――エデン条約襲撃作戦は以上です。各員、その『機能』を果たすことを期待していますよ」

 

「「「はい」」」

 

(……そして貴様を殺す)

 

 静かに決意を固める私を、横にいたアツコが静かに見つめていた。

 もう少しだ、アツコ。もう少しで自由にしてやれる。これが終わったら、みんなで遠くに行こう。アズサには……もう会えないかもしれないが、アイツは強いからきっと大丈夫だ。しがらみもなにもない遠くへ行って、みんなで一緒にやり直そう。

 

 奇跡は、確かに目の前にあるのだから。




サオリもウルフウッドの後輩らしくなってきました。

原作との大きな相違はトリニティへの憎しみの有無。ミカのお陰でアズサの命が助かったのでトリニティへの憎しみがどっか行っちゃったサオリ。
殺してやる、殺してやるぞベアトリーチェ

ミカとサオリ、実はミカの行動のお陰でアズサが助かって、アズサがスパイになったお陰でセイアを失わずにすんだという、お互いの知らないところでお互いが助けていたという関係性になってます。

個人的にミカとサオリに仲良くなって欲しいんじゃ〜という願望があるためその伏線だったり。この小説のルートだと二人のガチ喧嘩起きそうにないもんで絡みが薄くなっちゃいそうなんですよね。
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