ウルフウッドアーカイブ   作:タニシ・トニオ

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04_急転

 エデン条約締結日当日……そう、当日になってもうた。延期は結局出来ず、アリウス自治区も見つけられずに当日や。

 

 万魔殿との交渉はそない雰囲気悪なかったはずなんやけどなぁ……? 特にイブキっちうガキにアメちゃんあげて肩車もしてやったらめっちゃ懐いてくれてたのに、遅れてきたマコト(あのアホ)が開口一番に「帰れっ!!」っちうんはどういう了見やっつうねん。取り付く島もなかったわ。

 

 とりあえず正義実現委員会には勿論、風紀委員会にもアリウスの情報は共有して『何か起きても応戦するな。避難誘導に徹底しろ』ちう指示を徹底してもらうように話はしたが……話を信じきってないティーパーティーの生徒や、そもそも事情を知らへんやろう万魔殿の生徒もおる。場が混乱してもうたらどないしようも無くなる可能性は捨て切れへん。

 

(ヒナがあの後、万魔殿に話をつけてくれてればまだマシやろが……あの様子じゃ無理やろな)

 

 アリウス襲撃の可能性の話をした時、アイツは心が折れてしまったようやった。死んだ目で無表情のまま涙をこぼし始め、風紀委員会の奴らに仮眠室に運ばれとったからな。ワイ、鬱で似たような状態になってた奴見たことあるわ。まあ、しゃあないといえばしゃあない。

 ヒナは元々ワーカーホリック気味で『休息できるように』とかいうワケわからん理由でシャーレ当番にぶちこまれたような奴やった。そんでセンセも色々察してか、仕事を手伝ってもらいつつ色々ヒナのケアしとったからな。せやからヒナはセンセによう懐いとった。

 そんなセンセが撃たれて意識不明。エデン条約が最後の仕事やと頑張っとった最中にこれや。その上でアリウス襲撃でゲヘナ崩壊の可能性まで示唆されるダブルパンチを食らっては、折れてまうんも仕方ない。……そう考えるとあいつも可愛そうなやっちゃなぁ。

 一応アコが色々引き継いで動いてくれとるみたいやけど、あのヒス女が万魔殿と連携取れるとも思えへん。

 

(なんもかんも準備不足……しんどいでホンマ。はよ起きろっちうねん、あのドアホ)

 

 式典のゲスト席に座りながら頭の中で愚痴る。とりあえず『あっち』の準備はどないなもんか聞こうと携帯を取り出した時だった。ホシノから着信がかかる。

 

「おお、ホシノ。ちょうど……」

 

<ニコラスッ、逃げて!! そっちに何か飛んでいった!!>

 

「はあ? 何かってなん……」

 

 ワイが言葉を言いきる前に何かが着弾し、その凄まじい衝撃でワイは意識を手放してもうた。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

「っがあ!!」

 

 瓦礫をはねのける。

 アカン! ワイはどんだけ意識を失っとった!?

 

「とにかくナギサらに連絡を……クソッ、携帯オシャカになっとる! 」

 

 辺りを見回す。恐らくミサイルでも撃ち込まれたんやろか、式典会場の建物は完全に瓦礫と化しとった。瓦礫に埋もれて意識を失っとる生徒もぎょうさんおる。このままやとあかんのは確かや。

 

(とりあえず何人か起こして避難誘導させるか? 携帯生きとる生徒がおれば貸してもらうとして……)

 

 そんなことを考えとると何かヒヤリとした感覚が走る。勘に従って回避行動をするとワイのいた場所が銃弾で爆ぜた。

 

「……なんやねん一体、堪忍してーな……」

 

 攻撃が来た先を見ると、際どい格好をしたシスター……でええんか? そんな幽霊がワイに銃を向けていた。つくづくワイは幽霊に縁があるらしい。

 効くかはわからんがパニッシャーで反撃すると、とりあえず祓うことはできた。しかし祓っても祓っても倒した先から次々と幽霊が沸いてくる。

 

「ワイはエクソシストちゃうねんぞ!!」

 

 それでも祓う。ひたすら祓う。

 横で瓦礫に埋もれたままのガキどもをどうにかしてやらないかん。せやからさっさとこの幽霊どもをどないかせな。でないと――

 

 

「――やはりミメシスでは時間稼ぎが限界か」

 

 

 覚えのある声が聞こえる。アカン、タイムオーバーや。

 振り向くと八人の集団がいた。アリウススクワッドに……チャペル儀仗隊か。

 

「かけるんやったら声やのうて奇襲やろッ」

 

 間髪入れずにパニッシャーを放つが、当たり前のように四つのパニッシャーが壁を成し防がれる。

 

「その必要はないからな」

 

 四丁のパニッシャーの後ろからダブルファング……サオリが言い放つ。

 ハッ、ホンマに余裕そうで羨ましいわ。こっちはこれから地獄やぞ。

 

 

 儀仗隊のパニッシャーが縦に割れ、銃身が露になる。それらが一斉にウルフウッドに向けられた。

 

(アカンッ!!)

 

 咄嗟にパニッシャーを盾の様に構え銃弾を防ぐウルフウッド。しかしその弾丸密度はすさまじく、僅かにパニッシャーの影から出ていた肢体の一部が抉られる。

 

(クソッ、やっぱヘイロー貫通弾か。当たり前やな。しかしこの『場』は不味いッ)

 

 ウルフウッドの後ろの瓦礫が流れ弾で粉砕される。

 四丁のパニッシャーの攻撃をまともに防げるものは、ウルフウッドのパニッシャーを除いてここには無い。それは瓦礫に埋もれている生徒達も例外ではなかった。

 

(最悪やクソッタレ!!)

 

 ミッドバレイとホッパードを相手した龍津城での戦いが頭を過る。自分はあの時『腹くくれや』とヴァッシュに言い放った。それでも周囲を気にするアイツに苛立ったが、その状況が自分に振りかかるのはどんな皮肉だ。……だが、折れるわけにはいかない。

 

「上等やクソガキどもッ!! ワイがみっちり指導したらぁ!!」

 

 ウルフウッドは吠えた。自分を奮い立たせるように。

 そして弾幕を掻い潜り、肉体の限界を越えた跳躍力で儀仗隊の一人の懐へ一気に潜り込む。

 

「さあどうする?」

 

 自身のパニッシャーであちらのパニッシャーをかちあげつつハンドガンを相手に向ける。近接された儀仗隊員はそれに反応できていない。

 先ずは一人、そう思った瞬間だった。ウルフウッドは急遽攻撃を蹴りに変え、相手を吹き飛ばしつつ自分も反動で下がる。目の前を銃弾が走った。

 

(こいつら仲間ごと殺る気かッ!?)

 

 チャペル儀仗隊は同士討ちを考慮する思考を持っていなかった。マスター・チャペルによって『使命を完遂する機能』と化した彼女達にとって、ウルフウッド抹殺という使命に自分らの命の保護は含まれていない。チャンスがあれば仲間ごとでも使命を完遂する。彼女達はそう作られていた。

 

(クソッたれ!! あのジジイ、分かってて『こう』仕込んだな!!)

 

 ウルフウッドはマスター・チャペルの悪辣さを嫌悪した。ミカエルの眼であれば自身が生き残ることも徹底される。しかしチャペル儀仗隊にはそれが当てはまらない。それはきっと、対自分を想定されているからだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

(守るもんが増えてもうた!! こらしんどいで。トンガリ、お前いつもこんなエグいことしとったんか!?)

 

 周囲も、相手も、全て守ろうとするのはこんなにも神経をすり減らすのか。

 見限らないことはこんなにも大変なのか。

 トンガリ、お前だったらこの状況をどうする?

 

 先ほどの相手を蹴り飛ばしたことで間合いは仕切り直し。儀仗隊の後ろにはまだ動いていないがアリウススクワッドが控えている。周囲には気を失ったままの生徒が多数。制限時間は不明。

 

(これはなかなかヘビーな難問やな)

 

 ウルフウッドは正解を信じて再び動き出した。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

「リーダー、私達はこのままでいいんでしょうか?」

 

 ヒヨリがサオリに尋ねる。ヒヨリとミサキはサオリからウルフウッドが逃走しようとしたらそれを阻止しろと指示されていた。つまりは現状、後ろから儀仗隊とウルフウッドの戦いを眺めているだけである。

 

「いや、あの戦いに混ざるのは無理でしょ。リーダーならまだしも私達が不用意に近づいたらひき肉になるだけだよ」

 

「ミサキの言う通りだ。儀仗隊は私達に配慮しないからな。私達はここでウルフウッドに圧をかけるのが正解だ。問題はない」

 

 そう、私達に問題は無い。問題があるとすればウルフウッドだ。あわよくばウルフウッドだけで儀仗隊を始末できるかと期待していたが、あの様子では無理そうだ。

 ウルフウッドはチャペル儀仗隊が同士討ちしないようにしながら攻撃を捌きつつ、周囲の生徒達から離れるように動いている。しかもこちらにも意識を向けながらだ。それができる戦闘能力は驚異的と言わざるを得ないが、マスターがこの戦いを見ていたらあきれ果てていただろう。

 周囲を気にしなければ、チャペル儀仗隊の命に気遣わなければ、貴方なら全ての敵を鏖殺することなど容易いだろうに。

 

――ワイは嫌がらせにな、あいつの犠牲者は全部取り返したろ思ってんねん

 

 あの言葉はやはり本気だったのだと理解する。同時に、それは間違いだとも。人の手には限界がある。一人で全てを抱えることは不可能だ。だからこそ、選ばなければならない。

 

(……私は、選ぶぞ)

 

 私の手は小さい。抱えられるモノは一握りだ。その一握りの為なら、私は自身の手を仲間の血で染めても構わない。

 

 アツコを見る。

 お前を必ず自由にしてやる。これからするのはその為の一歩だ。

 

 足に力を込める。

 

——身体物理限界を越えた跳躍力

——前後左右同時発射可能なダブルファング

——死角の無い殺戮戦闘術

 

 マスターに叩き込まれたこの力で、先ずはチャペル儀仗隊を始末する。ウルフウッドに集中している今なら容易い。

 決意を固め、込めた力を解放しようとした……その瞬間だった。

 

 

 銃声が響く。

 

 

 足に走った痛みで私は崩れ落ちた。

 何が起きた? 状況が理解できない。

 

――なぜ私の足から血が流れている?

――なぜ、アツコのハンドガンから硝煙が上がっている?

 

 

 

「……その眼、よく知っているぞ。裏切り者の眼だ。ワシが気づいていないと思ったのか、サオリ?」

 

 

 

――なぜ、アツコの口からマスターの言葉が聞こえてくる? なぜ? なぜだ?

 

「まだわからんか。……いや、理解したくないと見える。愚鈍な貴様らに教えてやろう。ワシはずっとアツコの中に居たのだよ」

 

「アツコの、中に……?」

 

 思えばマスターの指導にアツコは参加していなかった。アツコは特別だから、そういうものだと思っていた。一体、いつから……

 

 アツコが……いや、マスターが未だ唖然としているミサキとヒヨリの四肢を撃ち抜く。

 

「ぐうっ!!」

 

「ぎゃあッ、痛いぃ!! どうしてっ、姫ちゃん!?」

 

「愚図め。まだわからんか?」

 

 マスターが道端の石ころを蹴るように倒れているヒヨリの頭を蹴り飛ばす。

 やめろ、やめてくれ。アツコの体でそんなことをしないでくれ。

 

「……なんだその顔は? ……ああ、そうか。サオリ、良いことを教えてやろう。アツコの意識は無事だぞ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「マッ……マスタァァァァァッ!!」

 

 怒りで叫ぶ私の顔を、マスターはアツコの足で踏みつける。

 

「うるさいわ。舞台を整える為とはいえ、貴様には本当に苛立たされたぞ」

 

 まるで害虫を踏みにじるように、マスターは私の頭を踏みつける。

 

「……ダブルファングを扱える程の才がありながらッ!」

 

 何度も何度も、マスターは私を踏みつける。

 

「惰弱な精神性で全てを台無しにしているその無様さにッ!!」

 

 何度も、何度も、何度も、何度も、私の心を踏みにじる。

 

「教えを守らず希望を抱き!」

 

 ごめんなさい、許してください

 

「ワシを裏切ろうとしたその態度にッ!!」

 

 私が間違ってました

 

()()()鹿()()のような貴様をッ!! 何度我慢出来ずに壊そうと思ったことかッ!!」

 

 ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい

 

 ……誰か、助けてください……

 

「あ、ああ……」

 

「……ふふ……いいぞ、その顔だ。それでこそ貴様に与えた『機能』を全うできるというものよ」

 

 瞬間、サオリを覗き込むマスターもといアツコの仮面を一発の弾丸が弾き飛ばす。

 

「……その状況下で攻撃してくるとは流石だニコラス……と言いたいところだが、相変わらず手ぬるすぎる。あの時よりひどくなっている。今のでワシを殺さなかったこと、後悔することになるぞ」

 

「うっさいわドブカスッ!! その汚い足どけ……うおっ!!」

 

 チャペル儀仗隊の猛攻がウルフウッドの叫びを阻む。

 儀仗隊と交戦を余儀なくされているウルフウッドに向けて、マスター・チャペルはサオリの顎を踏みつけ血と涙でぐしゃぐしゃになったその顔をウルフウッドに見せつける。

 

 そしてウルフウッドにしっかり聞こえるよう、大きな声で言い放った。

 

「さぁ、ニコラス!! あの時の続きだ!! 今回はヴァッシュ・ザ・スタンピードはいないぞ!? 選べ!! ダブルファングか、後ろの生徒か! ()()()()()()()()()()!!」

 

 マスター・チャペルはサオリに銃口を向ける。同時にウルフウッドと交戦していたチャペル儀仗隊もパニッシャーの銃口を彼から瓦礫に埋もれ動けない生徒達に変更した。

 

「ッ!? やめろぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 ウルフウッドが叫ぶ。それをマスター・チャペルは嘲笑った。

 

「その間合いでは一方だけだ。……選んで折れろ、愚か者め」

 

 

 この状況は絶え間なく連続した問題集の様なものだ。

 揃って複雑。

 選択肢は酷薄。

 その制限時間は刹那しかない。

 最低なのは何一つ選ばないこと。

 

――だから選ぶしかない。

 

 

 刻限のベルが鳴るように、銃撃音が響き渡った。




マスター・チャペルの今までの動きを描写しきれるか分からないので、日記みたくまとめると以下みたいな感じ。


チャペカス日記
※本編のシリアスな雰囲気壊れるかもなのでちょっぴり注意

◯月✕日
 なんか変なババアに呼ばれた。契約で従わないといかんらしい。体もガキだし『あの方』もいないしテンション爆下げ。

△月□日
 え、ニコラスいるの!? 早く言ってよも〜
 テンション爆上げ、絶対にぶち殺すぞ♡

✕月△日
 ぶち殺すには最高のシチュエーションにこだわりたいけど、それには孤児院の子供達が必須だ。でもここにはいない、どうしよう。
 ……ん? 丁度いい子供ならここに一杯いるじゃん。みんなリヴィオにすればいいじゃん。ワシ天才。これならつまんない仕事も楽しめて一石二鳥だ!! 頑張れワシ!!

□月◯日
 サオリとか言うガキ、ニコラスに似た眼をしててチョベリバ。絶対裏切る奴じゃん。才能あるのがまたムカつく。丁度いいからこいつダブルファングにしたろ。

△月✕日
 報告にあった先生とか言う男、ヴァッシュ・ザ・スタンピードにクリソツ、特に眼が。また邪魔されたらマヂ病む。とりま排除対象ねってババアに言っとこ。

✕月◯日
 アズサとかいう駄作に狙撃を邪魔されたんだけど。ウッザ、先生殺りきれなかったじゃん。
 だから処分しとけって言ったのに見逃したあのババアのせいだ。プンプン。
 まあ急所には当たったから先生は再起不能でしょ。切り替えてこ。

✕月□日
 ババアがやることやったら好きにして良いって。やったぜ。サオリも予想通り裏切る気満々だし順調順調。
 にしてもサオリのアツコを見る眼、マジ受けるwww 全部ワシの手のひらの上だよーんっていったらどんな顔するやら。
 これが終わればムカつくガキどもの指導もアツコの夜泣きも聞かないで済むって思えば気が楽になる。頑張れワシ。頑張るぞい。

✕月△日
 エデン条約当日。うっひょー、テンション上がってキター!! 待ってろよ〜ニコラス!!
 ワシが丹精込めて作った舞台、楽しんで貰うぞ♡

 ↑今ここ。チャペカス、現在テンション爆上げ中

 それにしてもサオリは心折られる描写がよく似合う。絶対にここから幸せにしてやるぞ〜
 ちなみにチャペカスがアツコに憑く案は一度ボツにしていたのですが、アツコ(マスター)がサオリを踏みにじってぐちゃぐちゃにする描写が見たくて復活しました。
 ウルフウッドを苦しめるためならなんでもしそうなマスターは外道ムーヴ書きやすくて最高。「選んで折れろ 夢見る聖者よ」のパロディもできました。やったぜ。
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