ウルフウッドアーカイブ   作:タニシ・トニオ

75 / 88
エデン条約編4章:並び立つ聖職者たちのクレド
01_謝ること


 独房の中、テレビを眺める。私がエデン条約の様子を見れるようにして欲しいと要望を言ったら直ぐに用意されたものだ。きっとナギちゃんが配慮してくれたのだろう。ホント、なんだかんだいってナギちゃんは甘い。

 その画面にはエデン条約の報道映像が流れている。今は会場に首脳陣が向かっている様子などが映されているところだ。ゲヘナの万魔殿(パンデモニウム・ソサエティ)なんかは権威でも見せつけたいのか飛行船で来るらしい。馬鹿は高いところが好きっていうのは本当なんだね。やっぱりこんな奴らと条約が結べるとは思えない。……ナギちゃんは大丈夫かな?

 次に写されたのはウルフウッドさんだった。先生の代理という立場で出席するらしい。クロノスの記者が捲し立て気味に取材していた。

 

「――ところで襲撃を受けた戸狩先生のご容態はいかがでしょうか? また襲撃の犯人は⁉ 各地で不安の声が上がっていますが⁉」

 

「センセはまだ昏睡しとるが命に別状は無い。犯人についてはワイの口からは言えん。トリニティからの正式発表を待て。以上や」

 

「あ、ちょっと待ってください⁉ まだ他にも色々お聞きしたいことが〜」

 

 ……先生はまだ目を覚ましてないんだ。その事実が私に重くのしかかる。

 私が捕まった後直ぐ、先生が狙撃されたと聞かされた。あの襲撃騒動の本当の狙いは先生だったらしい。私はまんまとピエロ役として一役買ってしまっていた。……私のせいだ。バカな私がナギちゃんを襲撃しようとしたから、それが利用されて先生を命の危機に晒してしまった。

 ……なんで、なんで先生なの? 憎んでたのはトリニティじゃないの? 私達なんじゃないの? 先生は無関係なんだよ? それどころか悪いことをした私の味方でいてくれると言ってくれた。貴方達にも手を差し伸べようとしてくれてたんだよ? そんな優しい人なのに、なんで撃ったの?

 私の後悔を燃料に変えて、アリウスへの怒りが再燃していく。同時に不安も強くなる。相手はまともな理屈が通用する相手じゃない。エデン条約締結日を狙ってまた襲撃に来てもおかしくはない。ティーパーティーだって馬鹿じゃないから対策はしているだろうけど、それでも不安は拭い切れない。

 セイアちゃんはなぜだか未だに昏睡している。先生も撃たれてしまった。この上ナギちゃんにまで何かあったら……想像するだけでもゾッとする。お願いだからナギちゃんだけでも無事でいてほしい。

 だけどそんな願いは見るも無惨に打ち砕かれた。テレビの映像に炎が映し出される。会場もゲヘナの飛行船も、あらゆるものが燃えていた。私の頭が真っ白になる。何が起きてるの? 混乱している私の視界にある人物が映りこむ。

 

「……サオリ」

 

 その姿を見て確信する。アリウスが来たんだ。だとしたら……ナギちゃんが危ない。そう思い至った時、私は独房の壁を突き破り会場へと駆け出していた。

 

「……ナギちゃん‼ ナギちゃんッ‼」

 

 瓦礫と喧噪ばかりの光景の中、声を張って呼び掛ける。ナギちゃん、どこにいるの? こんなことなら私の携帯を取り戻してからくればよかったかも。でも体が動いちゃったのだから仕方ない。

 

「ミカ様⁉ なぜここへ⁉」

「ゲヘナが襲撃をかけてきました‼」

「はぁ⁉ 仕掛けてきたのはお前らだろうが⁉」

「なにをふざけたことをッ‼」

「ふざけてるのはそっちだろ⁉」

 

 モブ達が騒いでる。ああ、うるさい。……うるさいうるさいうるさいうるさい。

今は貴方達に構ってる暇ないの‼ ナギちゃんを探さなきゃいけないの‼ ねえ、黙ってくれる? どうしたら黙ってくれる? 叩いたら黙ってくれるかな?

 武器もないので握り拳に力を込める。とりあえず殴り倒せば静かになるかなと思った時だった。

 有象無象たちと一緒に銃撃される。痛い。でも痛いで済むってことはヘイロー貫通弾じゃない。今度はなんなの? 攻撃が来た方を見るとエグイ格好をしたシスターの幽霊がロケットランチャーを構えていた。

 

(え? ロケットランチャー? シスターフッドとも違う? 耐えられるかな?)

 

 頭の中に情報が溢れ、私は固まってしまっていた。もう相手は発射体制に入っている。

 

「あっ……」

 

 

“ミカッ‼ ”

 

 

 その声が聞こえた時、幻聴かと思った。だって都合が良すぎるもん。でもハンドガンの発砲音とともに幽霊が祓われて、それが幻でないと知る。

 

“マイア達は銃撃された子達の手当てを ”

 

「はい!」

 

 先生が盾を持ったアリウス生徒に指示を出していた。待って、アリウスは敵じゃないの? 私の中で情報が完結しない。

 

“ ミカッ、大丈夫⁉ ”

 

「せ、先生。えっと……あの子達は?」

 

“ ん? ああ、彼女達は味方だよ。スバル達と一緒に保護されてたアリウスの生徒なんだ。彼女達は今、襲撃に来たアリウス生徒を止めるために駆け回ってくれている。マイア達とはさっき合流してね、私の護衛についてくれたんだ。それよりもミカはなんでここに? ”

 

 先生の言葉で私の目的を思い出す。

 

「ナギちゃんを探してるの‼ 先生はナギちゃんを見なかった⁉ ナギちゃんにまで何かあったら、わたし……わたしッ……!」

 

“ 大丈夫、落ち着いて、ミカ。ナギサなら無事だよ。怪我で意識を失っていたみたいだけどスバル達が見つけて救護騎士団にあずけてくれたって聞いてる。もう病棟に着いてる頃じゃないかな ”

 

「ほん……とう……?」

 

“ うん、本当。だからミカは今手当てをした子達を連れて病棟に避難してくれないかな? それでナギサを安心させて欲しい ”

 

「……わかった。あれ……でも先生は?」

 

“ 私はしないといけないことがあるからミカとは一旦ここでお別れだね。……大丈夫だよ、ミカ。この悪意は私達で止めてみせる。君たち三人が仲直りできる未来を掴んでみせるから。ナギサにもそう伝えておいてくれるかな? ”

 

「……うん、ナギちゃんも伝えておくね。先生、ありがとう」

 

 先生はアリウスの生徒を連れて駆けていく。その背中が小さくなっていく反面、私の中で先生のその姿が、その存在が大きくなっていく。先生はすごいなぁ。あんなに不安で一杯だった心の中が、今では暖かいもので溢れている。きっともう大丈夫なのだという確信を胸に、私はナギちゃんの元へと向かった。

 

◇ ◇ ◇

 

「大丈夫ではないんですけどね」

 

 ナギちゃんが紙の束の前で頭を抱えていた。エデン条約での事件は先生達がとりあえず収めてくれたものの、各所から次々と上がってくる被害報告に辟易としているみたいだ。

 

「と、とりあえず落ち着こ? ほら紅茶」

 

 ナギちゃんは私をジト目で見ながら差し出した紅茶を手に取る。

 

「……ミカさんが脱獄中なのも頭を痛めている原因の一つなのですが?」

 

「あ、あはは、ごめん……。ニュース見てたらいてもたってもいられなくなっちゃって……」

 

「はぁ……、それで御自分の立場が悪くなることがわかっているのですか? まったく……。でも、目が覚めた時ミカさんがいてくれたことに安心したのも確かです。それはありがとうございました」

 

「先生が配慮してくれたお陰だね」

 

 ナギちゃんが紅茶のカップをそっと置く。

 

「……そうですね。先生達にはお世話になりっぱなしです。先生やウルフウッドさん、そしてスバルさん達アリウス生徒のお陰で奇跡的に死者は出ませんでしたから。本当に感謝してもしきれません」

 

「……そういえば先生は? まだゲヘナのとこにいるの?」

 

「仕方ありませんよ。いまだ犯人の公表がされていないこともあって皆が疑心暗鬼になっているのが現状です。そのような中で状況のすり合わせができるのは中立な立場にいるシャーレだけですから。病み上がりの先生に負担をかけてばかりで胸が痛みますが……」

 

「本当は連邦生徒会の仕事なのにね、それ」

 

「その通りですが今の連邦生徒会には何を言っても無駄ですよ、ミカさん」

 

 毒づくナギちゃん。元々エデン条約は連邦生徒会長が主導してたのに、会長が失踪した挙げ句連邦生徒会はエデン条約に関与しないと梯子を外したものだからほとほと愛想尽きてるんだろうな。先生が入院してる間もトリニティとゲヘナの間を取り持ってくれていたのはウルフウッドさんだったらしいし。

 

「……結局、どうなっちゃうのかな?」

 

「……残念ですがエデン条約は破談せざるを得ないでしょう。その上でトリニティ、ゲヘナ双方が納得できる落とし所を設けるとするならばやはりこのテロの犯人を公表し、互いに向けあっているヘイトをコントロールするのが一番かと。ただ……」

 

「……アリウスを槍玉にあげるの?」

 

「それは……したくありません。政治的な理由もありますが、なにより彼女達にこれ以上の犠牲を強いたくはないのです」

 

 ナギちゃんが私の前に書類を差し出す。これは……襲撃犯側のアリウス生徒の調書だ。

 

「ほとんどのアリウス生徒がスバルさん達からの投降の呼び掛けに素直に応じてくれたようです。確かに彼女達は私達を憎んではいますが……ただそれでも、殺したいほどではなかった。しかしヘイロー貫通弾という凶器を持たされ、手を汚すことを強要されていた。……だから、しないで済む道があればと投降してくれたのです。彼女たちもいわば被害者。それなのにまた弾圧する歴史を繰り返したくありません」

 

 

「それについては私も同意見だよ、ナギサ」

“ そうしないためにも黒幕を捕まえにいくよ ”

 

 

「「セイアさん(ちゃん)!? それに先生⁉」」

 

 いつからいたのかセイアちゃんと先生が部屋の入り口に立っていた。よかった、本当によかった。セイアちゃんも目を覚まさしてくれたんだ。……ただ、なんかセイアちゃん先生と距離近くない? え、先生とは面識無かったよね?

 

「どうしたんだい、ミカ。そんな鳩が豆鉄砲でも食らったような顔をして」

 

「……色々言いたいことあるけどセイアちゃんも無事で良かったよ。本当によかった。……ていうか無事だったのに戻ってくるの遅すぎじゃない? ナギちゃん一人で大変だったんだよ?」

 

「それに関しては事情があったとはいえすまないと思ってはいる。が……そもそも原因を作ったミカにだけは言われたくないな」

 

「うっ、それはそうかもだけど……」

 

「かも、じゃなくてそうだろう?」

 

「うぅ〜」

 

 このネチネチ具合、間違いなくセイアちゃんだ。

 

“ ごめん、二人とも。再会して色々話したいことがあると思うけど、先に報告をしてもいいかな? ”

 

 そう言いながら先生が私達の前に一枚の書類を差し出す。これは……シャーレの令状? アリウス自治区捜査を告げるものだ。

 

“ ゲヘナ側とも話がついてね。ウルフウッドが根回ししてくれてたのとスバル達の活躍もあってアリウスの裏に黒幕がいると信じてもらえたよ。それで勝手を言ってしまって申し訳ないんだけど、犯人の捕縛はシャーレ主導でやらせてもらうことにした。余計な混乱を防ぐためと……マスター・チャペルは最悪の事態もあり得る相手だから、アレの相手だけは君らにさせたくはないんだ。……ごめんね、わがまま言っちゃって。これはそのための令状だよ ”

 

 先生が本当に申し訳なさそうに告げる。……そんな顔、しないで欲しいな。先生が私達の為を思って動いてくれていることはここに居る皆は痛いほどわかってる。

 

「わがままなんてことはないさ、先生。それに現状、トリニティもゲヘナもこの混乱を静めるのに手一杯だ。しかし急がなければならないのだろう? であればこれは最適解だよ」

 

 セイアちゃんがしたり顔でいう。……それはその通りなんだけどさ、その「わかってる」って顔はなに? だからなんで先生とそんな距離近いの? 

 それを言及しようとするも真剣な顔付きのナギちゃんに遮られてしまった。

 

「……アリウス自治区の捜査令状、確かに受領しました。先生、病み上がりであるにも関わらず頼りきりになっていることを心苦しく思いますが……どうぞ、宜しくお願いします」

 

“気にしないで、ナギサ。……マスター・チャペル、ベアトリーチェ、あれらは私達大人が対処すべき相手だから ”

 

 深々と頭を下げるナギちゃんとそれに応える先生。セイアちゃんのことを聞く空気じゃなくなってしまった。

 

“それでアリウス自治区のルートをアリウススクワッドの子達に聞きたいのだけど、彼女達がどこにいるのか教えてくれる? ”

 

「ああ、それでしたら……」

 

「第三病棟っちうとこに居るらしいわ。といってもそれがどこかわからんのやけど」

 

 先生達の後ろからウルフウッドさんが姿を現した。さっきまでどこにいたんだろ?

 

“なんでウルフウッドが知ってるの? もしかしてホシノ達もそこにいる? ”

 

「おう、さっき通話ついでにそう聞いたわ。スバル達もまとめてそこにおるらしい」

 

 ホシノ……アビドスの子かな? アビドスの子達もエデン条約会場に来てなんか手伝ってくれてたんだっけ? ウルフウッドさんが不在だったのはその子達に連絡してたからっぽい。

 ナギちゃんが先生とウルフウッドさんの会話に補足するように口を挟む。

 

「スバルさん達アリウス生徒や武装されたアビドスの方々は表にいると要らぬ誤解をされかねませんでしたので、治療と補給ついでにそこに匿っています。恩人の方々を押し込めるようで心苦しいのですが……」

 

「ええって。むしろ補給までありがたいくらいやで。それにあいつらかて事情が分からんほどガキやない。気にせんでええわ。で、その第三病棟っちうのはどこにあるんや?」

 

「そうでしたね、今案内の者を……」

 

「はい! 私が案内する!」

 

 思い切り手を上げて案内役に立候補する。もうちょっと先生と一緒にいたいし……なによりサオリに話したいことがあるから。

 

「なにを言ってるんですか⁉ ミカさんは独房に戻らないとでしょうッ」

 

「お願いナギちゃん」

 

「ですがこれ以上は貴方の立場が……」

 

「……ここは行かせてあげたまえ、ナギサ」

 

「「セイアさん(ちゃん)⁉」」

 

 それは意外な一言だった。いつものセイアちゃんなら絶対に止めるのに。

 

「……それは何か予知があってのことですか?」

 

「いいや違う。これはただの勘だよ。ここはミカを行かせたほうがいい、そう感じただけさ」

 

「……はぁ、わかりました。わかりましたよ、もう……。ミカさん、事が済んだら直ぐに戻ってくださいね」

 

「ありがとう! ナギちゃん! セイアちゃんも!」

 

 案内しようと先生に近づく。すると先生と私の間にセイアちゃんがすっと入ってきた。

 

「ただその前に、ミカは私に言うことがあるんじゃないかな?」

 

「あ」

 

 確かに、本当だったら最初に言うべきだったことを言えていなかった。驚くことが多過ぎて忘れてたよ。

 セイアちゃんの正面に体を向け直して彼女の目を見つめる。

 

「……馬鹿なことしちゃってごめんね、セイアちゃん」

 

「……確かに謝罪は受け取った。許すよ、ミカ。そして私からも謝罪を。……今まですまなかったね。私達はきっと、もっと話すべきだったんだ。色々なことの掛け違いがこの騒動の発端だったのだから」

 

「そう……だね。うん」

 

「ミカ、君は変なところで自罰的なところがあるからね……間違えてはいけないよ。後日に控えている聴聞会にも私は出るつもりだ。君の罪状で一番重いのは私に危害を加えたことだろうから、その当事者である私もいれば多少罪は軽くなるだろう。だからサボらないようにするんだよ」

 

「そこまでお膳立てされたら流石にサボらないよ。私をなんだと思ってるの?」

 

「どうだか。君のことだから念を押しているんだよ、私は」

 

「相変わらず嫌みったらしいよね、セイアちゃんは。そんなのだから話すの疲れちゃうんだよ」

 

“あの、えと、ミカ? セイア? ”

 

 先生が心配そうに声をかけてきてくれる。大丈夫だよ、この程度は口喧嘩でもなんでもないから。

 

「じゃあ行こっ! せーんせい!」

 

 私は先生の手を取って歩みはじめる。そして部屋の出入口で二人に振り返った。

 

「行ってきます、ナギちゃん、セイアちゃん」

 

 二人はやれやれって顔で私を送り出してくれていた。

 

 

 

 




 原作と違ってエデン条約当日の騒動からそんなに経っていません。まだ事後処理に追われてバタバタしている状態で、それもあってミカはまだ嫌がらせを受けていたり魔女呼ばわりされてないのでメンタルも安定中。脱獄中なのもそんなところじゃねーって感じでスルーされている状況です
 先生は起きて騒動の中駆け回っていたところをマイア達の班と合流して、マイア達は先生の護衛として行動してくれていたって感じです。マイア達の通信機でスバルと連絡が取れていて事情を知ることができたって状態。
 スバル達は各地で襲撃側のアリウス生徒たちを止めつつウルフウッドの元へ向かってて、んじゃあ自分は自分でできることをしようと先生は行動することにして、その結果が前話という流れです。

 トリニティとゲヘナの仲介は連邦生徒会の仕事、と作中で書いてますが実際はどうかはわかりません。ただエデン条約は連邦生徒会長が立案したはずなので、やっぱり本当なら先生と一緒に締結日に出席して何かあったら対処するのが筋じゃないかなぁとは思っています。多分こういうことの積み重ねがあって最終章の時の先生不在時のギスギス会議になってしまったんじゃないかなぁ、と。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。