ウルフウッドアーカイブ   作:タニシ・トニオ

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あけましておめでとうございます!
気付けばこれの連載をしてからもう一年近く経っていたのですね。
(第一話が2025年1月18日投稿)

構想していたストーリーからすると大体折り返しぐらいなので、今年中には完結できたらいいなぁ~なんて初詣で祈ってました。まあそれは神頼みすることじゃないだろって話なんですが……
ちなみに幕間の話を挟みつつ、エデン条約編→最終章→百花繚乱編→対策委員会編3章でウルフウッドアーカイブは終わらせる予定だったりします。……年内に終わるかぁ?

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誤字報告いただきました。報告してくださる方、本当にありがとうございます!
……名前のミスは本当に恥ずかしいのですが意外と思い込みで気づかないことも多く……
感謝しかありません。


02_もう一度手を取って

「奇しくもあの時と立ち位置が逆転しちゃったね、サオリちゃん」

 

「……そう、だな」

 

 ベッドで横たわるサオリにホシノが声をかける。

 マスター・チャペルとの戦闘の後、アリウススクワッドは治療を受けた後にこの第三病棟へと移送されていた。それは彼女たちを監視するためという理由もあるが、何より他の生徒からの報復を避けるためである。というのも、アリウススクワッドは万魔殿を乗せた飛行船を爆発炎上させていた際にその姿をクロノスに撮られ放送されてしまっていたからだ。そのためウルフウッドや先生から事情を聞かされている生徒ならいざ知らず、まだ情報を把握していない生徒たちからしたら彼女らはエデン条約襲撃の首謀者にしか見えない。しかも半分は事実であるので擁護も難しく、それゆえに私刑にさらされる危険性があったための処置だった。

 

 そして彼女らの病室にはウルフウッド以外のアビドス生徒とスバルが監視兼護衛として同室していた。なお他のアリウス生徒も別室ではあるが同じ病棟で待機している

 これには未だエデン条約襲撃の混乱が収まっておらず、トリニティ、ゲヘナ両陣営が事態の沈静化に駆け回っていてこの役目をする手が足りないという理由もあるが、何より「お前らが現場に残ってると色々面倒だから引っ込んでいてくれ」という意図も含まれていたりする。

 というのも、実はアビドス陣営は敵に情報が漏れるのを防ぐためにトリニティとゲヘナの両方に秘密でエデン条約にカチこんでいたのだ。アビドスの知名度が低いことや彼女らがフルフェイスヘルメットで顔を隠していたこともあって有耶無耶にできているが、その行動は完全な自治区協定違反であり、これがもしミレニアムなどの有名な学園であれば大問題に発展していた荒業である。

 アビドスの行動は事情はどうであれ、預かっているアリウス生徒と共に許可なくトリニティ自治区で大暴れしていたというのが事実であり、実のところ彼女達は牢屋にぶちこまれても文句が言えない立場だった。それを鑑みればこの役回りに抜擢し、アリウススクワッドと一緒にこの病棟に隔離してくれたのは大分温情がある処置といえる。彼女達はそれを理解しているのでここで大人しくしていた。

 

「――あの時の君たちテレビに思い切り映ってたもんね~。燃え盛るゲヘナの飛行船をバックにさ〜、すごかったね、あれ」

 

「ちなみにゲヘナの皆さん無事だったみたいですよ。先ほどあちらの会長が会見受けてました。……髪型がアフロになってましたけどピンピンしてましたね」

 

「あいつもアリウスと繋がってて裏切る気まんまんだったんでしょ? それぐらい自業自得よ」

 

 アリウススクワッドの横で談笑を続けるアビドス生徒達。

 そんな中、サオリは顔を横に向け、銃痕が刻まれているであろうホシノの足に視線を向ける。それは紛れもない自分たちの罪の一つ。だからこそ横で笑っている彼女たちが信じられなかった。

 

「……報復しないのか? お前にはその権利があるはずだ」

 

 サオリの言葉を受けアビドス生徒たちが静まる。ホシノは困った様に頬を掻いた。実のところ、エデン条約の会場でアリウススクワッドにリベンジするつもりはあったにはあった。装備している防弾製のフルフェイスヘルメットやボディアーマーも、元を辿れば対アリウススクワッドを想定してのものだ。

 だが現場に到着して目にしたものはマスター・チャペルに踏みにじられた彼女たちの姿だった。それを見て悟る。彼女たちもまた犠牲者だったのだと。それを知ってしまったらリベンジしようなどとはカケラも思えなかった。

 だからこそヘラヘラした笑みを浮かべホシノは告げる。

 

「ん〜、お姉さんが聞きたいのはそんな言葉じゃないんだけどなぁ〜。サオリちゃん、悪いことをしちゃった時はどうするの?」

 

「それは……いや、そうだな」

 

 ホシノの言わんとしていることを察したサオリはベッドから上半身を起こし、ホシノ達に向けて深々と頭を下げた。

 

「……あの時、お前に怪我を負わせたこと、お前達の命を脅かしたことを謝罪する。……本当に、済まなかった」

 

「……うん、じゃあ許してあげる。皆もそれでいいよね?」

 

「ん、ホシノ先輩がそれでいいならいいよ」

「そうですね〜、事情も知っちゃってますし」

「先輩達がそう言うなら……セリカちゃん?」

 先輩たちが許すと応じる中、アヤネがセリカを見ると彼女だけは不機嫌そうにそっぽを向いていた。

 

「……そこの二人がまだ謝ってない」

 

 正直、先輩達は甘すぎる。セリカはそう感じていた。しかし一番の被害を受けていたホシノ先輩が許すと言うなら仕方ない。……仕方ないが、やっぱり納得しきれない。こっちは大切な先輩が撃たれたんだ。ならばせめて、残りの奴らも謝罪するのがスジではないか? そんな思いが態度に現れていた。

 

 なんとなくそれを察したミサキが上半身を起こす。元より全く罪悪感が無いわけでもないし、自分の軽い頭を下げるだけで納得してくれるなら安いものだった。

 

「ごめん……なさい」

 

 ただ急に声を出したのが不味かったのかその声は小さく、自身でもちゃんとした謝罪ができているとは言いがたいものになってしまった。まずったな……そんな感情がミサキによぎる。言い直したほうがいいだろうか、そんなミサキの思考をヒヨリの声がかき消した。

 

「うわ〜ん! ごめんなさい〜! あれで撃たれるとこんなに痛いんですね、苦しいんですね。もう撃たないでくださ〜い!」

 

 傷が痛むからかヒヨリの姿勢は寝たままであった。正直誠意が感じられるようなものではない。ただヒヨリの泣き声には必死さが含まれており、一応彼女なりに反省しているということは読み取れる。謝罪を言い直すタイミングを失ったミサキはバツの悪そうな顔をしているが。

 二人のなんとも言えない謝罪に眉をひそめるセリカ。ただ一応反省はしてくれているようではあるし、なにより元々先輩たちが許していることもあってここが妥協点かと自分に言い聞かせる。

 

「ああもうわかったわよ! それで許して上げる!」

 

「本当ですか!? けじめだからって撃ったりしませんか!?」

 

 謝罪が済んだのに未だわめくヒヨリ。余程マスターに手足を撃たれたのが痛かったのか軽いトラウマになっているようだった。そんなヒヨリに笑顔のホシノが近づいていく。

 

「謝ってくれたからね、報復したりはしないよ」

 

「本当ですか? ……実はあの時ホシノさんの足の撃ったの私なんですが……」

 

「えっ!? あ……そうだったの? なんか空気的にサオリちゃんかと思ってた。……でも許してあげる。大丈夫だよぉ」

 

 やたらと報復に怯えていたのは自分が実行者だったからか……と、そう理解したホシノは震えるヒヨリの頭を優しく撫でる。

 ちなみにカイザーPMCの基地でホシノの頭を撃ち抜こうとしたのもヒヨリだが、それは知るよしもなかった。

 そんなやたらと甘い対応をする先輩の姿をジト目で見るセリカ。本当の後輩は私達なのに……ホシノのその姿になにかモヤモヤするものを感じていた。

 

「……なんかホシノ先輩、そいつに甘くない?」

 

 セリカの言葉を聞いてシロコがヒヨリを改めて眺める。そして理解した。

 

「ん、昔の女を重ねてるね」

「あ〜確かに彼女、ユメ先輩に似てますね☆」

「ユメ先輩?」

「えっと……この人です」

 

 ユメを知らないため頭に疑問符を浮かべるスバルにアヤネがタブレットに保存されていた写真を見せる。

 

「アビドスの卒業生でホシノ先輩がお世話になった人だそうです。私とセリカちゃんは直接の面識はありませんが素敵な人だったようで……」

 

「……確かに似てますね。見た目といい、なんというか、こう、緩そうな雰囲気とか」

 

 皆がセリカと同じようなジト目でホシノを見る。口火を切ったのはシロコだった。

 

「ホシノ先輩、ユメ先輩が恋しいからってその子を引き抜くのは流石に駄目だよ」

 

「しないよ!?」

 

「え……私アリウススクワッドから取られてしまうんですか?」

 

「なっ……た、頼む、ヒヨリも大切な家族なんだ。なんでもするッ、だからヒヨリを奪わないでくれ!」

 

「だからしないって!! サオリちゃんも本気にしないでよも〜」

 

「……なに見せられてるの、私……?」

 

 目の前で急に繰り広げられる茶番に戸惑うミサキ。その横にしれっと移動していたスバルが微笑む。

 

「悪くないでしょう? 陽だまりの下というのも」

 

「……わかんない」

 

「そのうち分かりますよ。……アツコも取り戻して、今度一緒に色々教えてあげます」

 

「……うん」

 

 ミサキは力が抜けたように再びベッドに横になった。

 横ではいまだにホシノをからかう談笑が聞こえる。こうした喧噪は余り好きじゃないはずなのに、今聞こえるこれは不思議とそんなに悪くないと思えた

 

◇ ◇ ◇

 

 アリウススクワッドがアビドスへ謝罪し、わだかまりが薄まったからか談笑する声が病室から聞こえる。それにドアをノックする音が差し込まれた。

 

「ワイや、入ってええか? センセもおるで」

 

「ニコラス? うん、大丈夫だよ、入って〜」

 

 ホシノの応答に誘われ、ウルフウッド、先生、そして二人を案内していたミカが病室へと入る。

 アビドス生徒はミカと面識が無いため「誰?」「案内の生徒さんかな?」という視線をミカに向ける中、ミカは強めな足並みで先生とウルフウッドを抜き去りサオリに向かっていく。

 

“ ミカ? ”

「どないしたん?」

 

 二人の声も無視して進むミカ。その進路にホシノが立ち塞がった。

 

「は〜い、ストップ。お嬢さんはどちら様?」

 

「私はティー……ああ、えと……『元』ティーパーティーの聖園ミカっていうの。そこにいるサオリのせいで『元』になっちゃったんだよね。だからサオリとお話したいんだ〜」

 

「……それ、本当にお話だけで済むの?」

 

「うーん、サオリ次第かな? てゆーか貴方こそだれ?」

 

「おねーさんはアビドス高等学校生徒会長の小鳥遊ホシノっていうんだ〜。そっちのナギサちゃんから直々にサオリちゃん達の護衛を頼まれてるの。君みたいな奴らから彼女たちを守るためにね」

 

 ホシノはショットガンをわざとらしくリロードしてミカを威嚇する。緩い口調とは裏腹にその目は笑っておらず、それ以上近づいたら撃つと態度で示していた。

 だがそんなホシノを後ろから制する声がする。

 

「すまないホシノ。ミカを通してくれないか」

 

「え!? いいの? サオリちゃん?」

 

「ああ。……私もミカに言いたいことがあるんだ」

 

「ふ〜ん……」

 

 ミカは戸惑っているホシノの横をするりと抜けてサオリの前に立つ。

 

「久しぶりだね、サオリ」

 

「久しぶりだな、ミカ。要件はなんだ?」

 

「そうだなぁ〜……いざ前にすると何を話そうか迷っちゃうなぁ。ああ、でも後もつかえてるし手短にしないとだよね」

 

 ミカはちらりと先生と、そしてスバルを見た後サオリに視線を戻す。

 

「……私が最初にアリウスに行った時の事、覚えてる? サオリはアリウスと仲直りしたいっていう私に協力してくれるって言ったよね。……でも、やっぱりさ……それは嘘だったのかな? あなたも裏では私のこと嗤ってたり恨んでたりしてたの?」

 

「それは……」

 

 目を伏せるサオリ。その様子は言葉を探して悩んでいるようにも見えた。そしてゆっくりと口を開く。

 

「……私達はトリニティへの憎しみを教えられてきた。だから、トリニティとの和解を望む者は少ないだろう。……アズサをトリニティに送り込んだのも和解するためではなくスパイをさせるためだ」

 

「……やっぱりサオリもそうだったんだね」

 

 わかっていたことだ。ナギサ襲撃のあの夜、スバルから聞かされた彼女たちの本音。私達が『仲良くしよう』と言ったところでアリウスには上から目線で馬鹿にしているようにしか見えない。あまりに違う立場の違い。だから、それはわかっていたことだ。

 ただ、それでも思い出す。アズサを自分に預けてくれたとき、あの時わずかではあったが確かにサオリは笑っていた。あの笑顔があったから、もしかしたらサオリならと心のどこかで思ってしまっていたのだろう。……そんなことないはずなのに。

 だからこいつらは友を殺そうとしたのだ。だからこいつらは先生を撃ったのだ。だからこいつらは……

 

「――ちがうんだ、ミカ」

 

「は? 違うってなにが?」

 

「私は……少なくとも私は、トリニティを、お前を……憎んではいない。むしろ感謝をしている」

 

「なにそれ皮肉? 頭お花畑で助かったとかそういうやつ?」

 

「違う、そうじゃないんだ!」

 

「じゃあ貴方たちのしたことはなんなの!?」

 

“ ミカ ”

 

 先生がミカを制止する。こういったことに口出しするのは自身の教育方針とは違うが、ここで止めなければまたすれ違ってしまう、そんな風に見えてしまったから。

 

“ ……大切なのは知ることだよ、ミカ。サオリの話をちゃんと聞こう。サオリもゆっくりでいいからね。落ち着いて、自分の思いをちゃんと伝えるんだ ”

 

「先生……」

 

「……すまない」

 

 二人から謝意を受ける先生。そんな先生にウルフウッドが「お前こんな話してる暇ちゃうねんぞ」という呆れた視線を向けるが、先生は誤魔化すような笑みでそれを返すだけだった。きっとこれは彼女たちに必要なことだから……先生が表情でそう語り、ウルフウッドはただため息をつくだけにとどめる。

 先生の一言により空気が落ち着いた中、サオリが再び口を開く。

 

「ミカ、私はお前に感謝している。これは本当のことだ」

 

「それはなんで?」

 

「それは……実はお前がアリウスに来たあの時、マスター達に反抗的だったアズサは『()()()()』にされることが検討されていたんだ」

 

「え?」

 

「なにそれリーダー!? 聞いてないんだけど!?」

「アズサちゃん、そんなことになってたんですか!?」

 

 事情を知らなかったらしいミサキとヒヨリも驚きの声をあげる。

 

「すまない、心配をかけたくなくて二人にも黙っていた」

 

「もしかしてリーダーがアズサに厳しくしてた時があったけど、それって……」

 

「ああ、あいつを矯正しようとしてたんだ。あいつは頑固でそれは叶わなかったが……」

 

 サオリはミサキに向けた視線をミカに戻す。

 

「だが、ミカがあの時来てくれたことでアズサをアリウスから離すという選択肢が取れたんだ。お前が来てくれたからアズサの……私の家族の命を救うことができた。私にとって、それはまさしく奇跡だった。だから……ありがとう。本当に、本当に……ありがとう。あの時来てくれて……手を差し伸べてくれて。……それを、ずっと伝えたいと思っていた」

 

 サオリは感謝の言葉を告げると、ミカへと頭を下げる。

 

「……そして、本当に済まなかった。生き残る為とはいえお前達の命を脅かした、差し伸べてくれたその手を踏みにじった。()()()()()()()()それを行ったんだ。だからお前の怒りを受ける責任は全て私にある。お前の怒りの矛先は私だけにしてくれないか……?」

 

 ――沈黙。静寂が病室を包んだ。サオリは恐る恐る頭を上げつつミカの顔色を伺う。何をされても仕方ないことをした。だから彼女が鬼の様な形相を浮かべていても仕方ない。氷の様な冷たい表情でいても仕方ない。

 だが見上げた先にあったのはスカートを握りしめ泣きそうな表情を浮かべたミカの顔だった。

 

「……なんでそんなこと言うの? そんなこと言われたら怒れるわけないじゃん……」

 

「な、いや……?」

 

 ミカの意外過ぎる反応に困惑するサオリ。ミカはかまわず言葉を続ける。

 

「私、本当に怒ってたんだよ! エデン条約のニュース見て、今度は本当の本当にナギちゃんが危ないって……。無事なはずのセイアちゃんも起きないし、先生も撃たれたって……それも私の襲撃計画を利用してって聞いて……。なにもかもあなたたちのせいで滅茶苦茶にされたって、本当に、本当に……ッ! なのにッ、スバルちゃんたちがナギちゃんを助けてくれて、あなた達の襲撃からみんなも守ってくれたって聞いて……もう、私が怒れるのはサオリしかいないって思ってたのに……」

 

「だ、だから私はそれで構わないと……」

 

「できないよ! だって、だって……先生が教えてくれたんだ。ずっと馬鹿なことをしてきた私だけど、最初の『貴方達と和解したい』って想いは間違いじゃないって。それは素敵なものなんだって。……それを今、サオリが証明してくれた。あなたが話してくれたことで、過去の馬鹿な私を少しは赦してもいいかなって、そう思えたの。思ってしまった。……だから、振り上げた拳を振り下ろすことはできないよ……」

 

“ じゃあその手を下ろして握手するっていうのはどうかな? ”

 

 先生がスカートを握りしめていたミカの手を軽く握り、ダンスのエスコートをするかのようにその手をサオリの前へといざなう。そしてサオリの手も優しく握り、二人を握手させた。そしてその二人の手を包むように触れながら、語り掛ける。

 

“ ……ミカの最初の一歩がアズサを助けるキッカケになった。サオリがアズサを選んだからセイアは無事だった。これはただの結果論かもしれない。でも、だからこそ二人はやり直せるんだ。さっきみたく謝って、こうやって握手もできる。だから、大丈夫だよ ”

 

 先生が手を離しても、二人は暫く無言のまま握手を続けていた。

 

◇ ◇ ◇

 

 満足したように二人は握手をほどき、ミカが先生へ振り返る。

 

「先生、ありがとう。あとごめんね、時間取っちゃって。……私はもう大丈夫だから」

 

 ミカはそう言うとサオリの前から体を移動させる。その空いたスペースへ先生が歩み寄り、サオリの前に立った。

 

“ 改めて、連邦捜査部シャーレ顧問の戸狩です。さっきのこともあって初めてって感じはしないけど、こうやって面と向かって話すのは初めてだよね? ”

 

「ああ、そうだな。改めて、アリウススクワッド、錠前サオリだ。先ほどは済まなかった。それと……」

 

 先生の体をじっと見つめるサオリ。先生は一瞬それを疑問に思うが、直ぐにサオリが何を気にしているのか感づく。

 

“ ああ、もしかして私が撃たれたこと気にしてる? ”

 

「あ、ああ……」

 

“ 大丈夫だよ、見た通り私はピンピンしてるし……それに撃ったのはマスター・チャペルなんでしょ? ”

 

「十中八九、そうだろうな。ベアトリーチェが重要任務を私達以外に振るとしたらマスター以外に考えられない。だが、その……」

 

“ 大丈夫だよ。アツコって生徒は取り憑かれているだけなんでしょ? それも理解してるつもりだよ。……だから、助けにいくんだ ”

 

 先生は先ほどまでの優しい目つきを鋭くする。

 

“ サオリ、シャーレはこれからアリウス自治区へ出動する。目標はマスター・チャペルとベアトリーチェの逮捕、並びにアツコ含め残っているアリウス生徒の保護だ。だから、教えてくれないかな? アリウス自治区への道を ”

 

 先生がサオリに告げる。先生の目は告げた言葉が本気であると語っていた。

 スバルから聞いた話によればこの大人がミメシスを機能不全にしてマスターを撤退まで追い込んだのだとか。なるほど、ベアトリーチェが警戒するわけだ。

そんな大人がウルフウッドと同じことを言ってくれている。希望が確かにそこにある。そのことに震えて声が詰まってしまった。

 それを見かねたのか二人の間にスバルが割り込んだ。

 

「横から失礼します、先生。アリウス自治区へのルートはすでに私がサオリから聞いているので私が案内できますよ」

 

“ そうだったの? 流石スバルだね。それなら案内お願いできるかな? アリウス生徒の指揮もお願いしようと思ってたから助かるよ ”

 

「アリウスの指揮も、ですか?」

 

“ うん。あっちに残っているアリウス生徒の説得の為に皆にも手伝って貰おうと思っててね。連戦になってしまって悪いのだけど…… ”

 

「いえ、そんなことは。確かにアリウス生徒の説得なら私達が行くのが一番ですからね。無駄な戦闘も回避できるでしょうし」

 

“ それにアリウス生徒の名簿も作ってくれてたんでしょ? 誰が合流できてるか確認するために ”

 

「はい、アヤネさんに名簿の作り方を教わって作りました。これがあれば取りこぼしはありません」

 

 色々と準備万端なスバルにサオリは驚愕の目を向ける。

 

「そんなことをしてたのか、スバル……」

 

「見限らないとニコラス先輩と約束しましたからね。この盾と一緒に色々準備してたんですよ」

 

 髑髏と太陽が刻まれた盾をコンコンと叩きながらウインクで返すスバル。

 それを受けたサオリは自身の不甲斐なさでフトンを握りしめていた。

スバルに対して自分はどうだ? 大切なものの為と色々見限り、恩人まで裏切って、挙げ句がこの様だ。アツコの奪還まで任せてしまっている。……本当に、それでいいのか?

 

――やり直せるんだ

 

 だとすればそれは、今、ここでだろう。

 

「――先生、私もその部隊に加えて欲しい。アリウス自治区への道はスバルに伝えたが、ベアトリーチェがいそうなところは私のほうが把握している」

 

“ え!? でもサオリは足を…… ”

 

「幸い骨は無事だし傷の手当ても済んでいる。痛み止めを服用すれば戦闘の一つや二つは問題無い」

 

 それを聞いて困った顔でスバルも反論する。

 

「何を言っているんですか貴方は!? 仮に戦闘ができるとしても長距離の移動はできないでしょ! 大人しく寝ててください!」

 

「しかし……お願いだ、頼む! お前達を信頼してない訳じゃない、ただ、それでも……」

 

 無茶苦茶を言っているのは自身でも分かっている。それでも……きっとアツコは私達を撃って、苦しんでいる。だからこそ私が行ってアツコを安心させたい。少しでもアツコの心を軽くしてやりたい。そうでもしないと、私は私自身を赦すことができない。

 そんな思いがサオリを突き動かす。スバルは頭を抱えた。

 

「あのですねぇ……」

 

「――だったら私がサオリをおぶって行くよ」

 

 サオリとスバルのやり取りに割って入る声がする。その声の主はミカだった。皆が思わずミカに注目する。

 

「あなた、本気ですか!?」

 

「本気だよ。こう見えても力が強いの、スバルちゃんも知ってるでしょ?」

 

 力こぶを作る真似をするミカ。それを見てあの時を思い出したウルフウッドが言葉を零してしまう。

 

「人間重機やもんな、お前」

 

「あぁ!?」

 

 ミカに睨みつけられウルフウッドはわざとらしく視線を逸らす。そこに失言への反省は無い。そんなやり取りを無視し、サオリがミカに尋ねる。

 

「なんで……お前がそこまでしてくれる? お前は関係ないことだろう」

 

「そんなことないよ。だってこれは私達二人で始めた話でもあるじゃん。だからさ、みんなを助けて、もう一度手を取って、仲直りしてハッピーエンド……そんな結末にできたら嬉しいから」

 

「ミカ……」

 

「お前ナギサにすぐ戻れ言われてへんかったか?」

 

 ツッコまなあかんとウルフウッドが指摘するがミカはドヤ顔で答える。

 

「今戻ろうが後で戻ろうが大して変わらないよ。それにナギちゃんたちにはちゃんと『行ってきます』って言ったから大丈夫!」

 

「そういう問題ちゃうやろ」

 

“ まあまあ、ウルフウッド。……ミカは本気なんだね? ”

 

 ウルフウッドをなだめながら先生はミカに問い直す。ミカは先生の目を真っ直ぐ見つめながら言った。

 

「本気だよ」

 

“ ……わかった。じゃあサオリと一緒に行こうか。それで帰ってきたら一緒にナギサたちに怒られよう ”

 

「先生! ありがとう!」

 

「お前なぁ、ほんまにええんか?」

 

“ 二人が本気なら止める理由は無いよ。それにアリウスの皆には残っている生徒の説得をしてもらうつもりだから戦闘も少ないだろうし…… ”

 

「マスター・チャペルらはワイらが相手するからってか……はぁ、もうええわ」

 

 ウルフウッドは頭を掻きながらサオリに向き直す。

 

「おいサオリ。マスター・チャペルのやつが撤退するときなにか企んでそうやったんやけど、それについては何か知っとるか?」

 

「……すまないが分からない。ただ、気になる事がある」

 

「気になる事?」

 

「実は数日後、ベアトリーチェから聞かされていた通りであれば……アツコは何かの儀式の生贄に捧げられてしまうんだ……」

 

「なんやて!? ――ん、ちょい待ち……」

 

「そう、アツコにはマスターが憑いている。だから混乱しているんだ。儀式のことはずっと前から決まっていたから、あの二人の間でなにか取り決めがあるのかもしれないが……」

 

「あの外道が素直に生贄にされるタマなわけないやろが。とはいえ、それがあってもマスター・チャペルがアリウス自治区へ撤退したのは確かに気になるな……」

 

「アツコにも知らされていることだから当然儀式のことはマスターも把握しているはずだが……」

 

「……分からんな。とりあえずそれについては保留や。口ぶりからしてその儀式とやらで何するかも知らんのやろ?」

 

「ああ……」

 

「ならそれについて考えても仕方あらへん。それにどうであれ、まだ時間はあるわけや。せやったらその儀式っちうのをやる前に防げば問題あらへんやろ」

 

「確かに、その通りだ」

 

“ じゃあ決まりだね ”

 

 先生がパンと手を叩き、皆の注目を集める。

 

“ 今からここにいるアリウスの生徒たちにはシャーレ部員として一緒にアリウス自治区へ行ってもらうよ。スバル、動ける子達で隊を編成してくれる? ”

 

「了解しました」

 

「あ~、お姉さんたちも当然同行するよ」

 

 スバルに続いてホシノも声を上げる。ここまで関わっているのだ。元よりアリウス自治区へのカチコミもするつもり満々だったから。

 

“ ホシノ……ありがとう、助かるよ。じゃあサオリとミカはアビドスの皆と一緒に行動しようか。もしなにかあればホシノたちは二人をサポートしてあげてくれるかな ”

 

「うへ~、了解」

 

“ それじゃあ準備開始。悪い大人たちから残されている生徒たちを取り戻しに行こう! ”

 

 

 連邦捜査部シャーレが動き出す。白紙の切符(残された子供たち)を取り戻すために。

 

 




すみません、告白します。
私、実はミカサオ派なんです。
なんで原作であんなに本音でぶつかり合った二人なのにその後の絡みがないの!?
いやタイミングとか立場的に会いづらいのも分かっているんですが、それでもね……二人の絡みが欲しいんすよ。二人が友達してる姿を見たいんすよ。だから書いちゃったんすよ。
もっとミカサオ流行れ。
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