三人の大人が睨み合う。
初手を仕掛けたのはチャペル・ザ・
チャペルは自身の目の前で跪いている儀仗隊の一人を蹴りあげた。その子供の体はまるで砲弾のように弧を描きウルフウッドの目前へと飛来する。同時にチャペルは四丁のパニッシャーのうち二丁をそれに振り向けていた。
ウルフウッドの脳裏にある光景がチラつく。ラズロが目眩ましの為に部下を水風船の様に破裂させた、あの光景。
そして今――先生にも残された二丁のパニッシャーが向けられている。
「今度はどちらにする、ニコラス?」
「クソがぁっ‼」
ウルフウッドは蹴られた生徒に向けて跳ぶための力を足に込める。その刹那、確かめるように先生に視線を向けた。
(これでええな⁉)
(“ それでいい! ”)
瞬間、ウルフウッドは身体物理限界を超えた跳躍力で蹴られた子供の前へと躍り出る。そしてパニッシャーを盾にして構えた。チャペルはその選択に失望を露にする。
「どちらも不正解だ。無視できぬ愚か者め」
四門の銃口が一斉に火を噴く。ウルフウッドには二丁のパニッシャーによる銃弾の嵐が、先生には二つのロケット弾が飛来する。
先生は咄嗟に銃を構え直しロケットを撃ち落とそうと腕に全神経を集中させる――が、指が、腕が、まるで石のように動かない。
既に制限時間は過ぎていた。先生の体に刻まれている古傷が技の使用を許さない。
二つのロケット弾は空中でぶつかり合い近接信管ミサイルのように先生の目の前で炸裂する。先生が爆炎に包まれた。
「存外あっけなかったな。こんなもの――」
『次は耐えられませんよ⁉』
“ 大丈夫、助かったよユウカ ”
爆炎の中から電磁シールドに包まれた二つの人影が姿を表す。一人は当然先生、そしてもう一人は――この場にいるはずのない生徒の姿。
チャペルはその光景に目を細める。
「……貴様もミメシスを持っていたか」
(“ そんな便利なものじゃないけどね ”)
先生はもう一つの切り札を咄嗟に切っていた。
大人のカード、それが持つ機能の一つ。
『先生の時間』を代償に絆を結んだ生徒の『
『
先生は自分の中の
ユウカに続き、スズミ、ハスミ、チナツ、ワカモ、四人のメモリーが次々と実体化する。
(“ 状況を動かす! 合わせてくれウルフウッド! ”)
何かしでかすぞと、先生は動けずにいるウルフウッドに視線で告げる。しかしそれはチャペルも感づいていた。
「行け」
チャペルの指示により三人のチャペル儀仗隊が先生に向けて走り出す。その手にはサブウェポンのハンドガンが握られていた。
先生が身構えたその瞬間――チャペルのパニッシャーの銃声に紛れて別の銃声が響く。それはウルフウッドの後ろからだった。
「ガッ……⁉」
背中から血を流すウルフウッド。撃ったのはチャペルに蹴り飛ばされ体が不自然に折れ曲がっている儀仗隊の子供だった。壊れた人形の様に弾切れになった銃をガチガチと空撃ちし続けている。
“ ウルフウッドッ!! ”
先生の叫びが響く。しかしウルフウッドはそんな先生を怒鳴り付けた。
「ええからやれ!!」
“ ッ……スズミ‼ ”
先生の号令に呼応し、スズミのメモリーが閃光弾を放つ。視界が一瞬、真っ白に焼ける。
先生が作り出してくれたその僅かな隙をウルフウッドは逃さない。ロケット弾をチャペルへ叩き込み、それと同時に先生も全力疾走で動き出す。スズミ、ハスミ、ワカモの三人が、先生へ迫っていた儀仗隊三人を瞬時に気絶させ抱え込む。
チナツと先生はウルフウッドの方へ駆け寄り、アツコと負傷している儀仗隊の子供を抱え上げ後方へ脱出を図る。
“ ごめんッ ”
「はよ行け!」
すれ違い様、互いに一言だけ交わす。
ウルフウッドは懐から薬を一本取り出し、それを一気に飲み干した。
「――ほう、それをまだ持っていたのか? 残りは何本だ、ニコラス?」
ウルフウッドの放ったロケット弾の爆炎の中から、チャペルの巨躯が悠然と姿を現す。その体は焦げた表皮を落とし、その下から新しい皮膚を蠢かせていた。それはラズロの様な再生能力を有している証拠。
チャペルは何事もなかったかのように灰燼の中から数歩、ウルフウッドににじり寄る。
「……しかしいかんな。まだこの体に感覚が追い付かん。お陰で先生を取り逃がしてしまった」
「お前中身ジジイやもんな」
「否定はせんよ。お前達のセンスに比べればワシが劣っているのは事実だ。……だが、それはこれからすり合わせればよい。その程度の余裕があるのも事実だ」
薬の効果でウルフウッドの傷が塞がりきるのとほぼ同時に、二人はパニッシャーを構える。
今度はウルフウッドが先手を取る。高速で動き、予測不能な軌道を描きながら敵の射線を外し、攻撃を叩き込む。それは敵の火力で縫い付けられぬよう、かつて相対した雷泥やネルを参考にした戦法。ヘイローによる身体強化に加え、抱えるパニッシャーが一本だからこそできる芸当である。
「無駄な動きだ」
対してチャペルは二丁のパニッシャーでウルフウッドを狙い、もう二丁を盾として構えた。
「確かにこれ一つでも人一人
ウルフウッドの攻撃をパニッシャーの盾で防ぎつつ同時に攻撃を加える。攻防一体、極めてシンプルで極めて合理的なスタイル。
チャペルの攻撃を避けつつ盾の無い場所を狙うため動き回らなければいけないウルフウッドに対して、その軸にいるチャペルは最小限の動きで済む。似た戦法を使う相手は当然今までにもいたが、しかしチャペルが持つのは最強にして最高の矛と盾。いつものようにパニッシャーの火力で押し潰すこともできない。複数のパニッシャーとそれを扱える身体機能があるからこそ実現できる戦闘スタイル。
「おもんないわクソボケがぁ‼」
じり貧の状況を打破するため次の一手を取るウルフウッド。ロケット弾を放ち、同時にその弾よりも迅く跳ぶ。それにより一人の身で十字砲火を実現する。
「ほう、そうくるか。だがそれは見積もりを誤っているぞ」
四丁のパニッシャーを抱えながらもウルフウッドに匹敵する速度で跳躍し、ロケット弾を回避するチャペル。追い付けないとは言っていないぞ、まるでそう知らしめるようにそのままウルフウッドに追従し、二丁のパニッシャーを突き付けた。
「今度はこちらの番だ」
二人の戦いは機動戦へと移り変わる。
それでも最初は僅かながらウルフウッドの方が迅かった。しかし、なけなしのタイミングで放つ反撃はパニッシャーの盾に阻まれ、パニッシャー二門の火力は防ぐにも躱すにも限界があり、ジワジワとウルフウッドの四肢が削られていく。しかもそんなウルフウッドに対してチャペルは体を馴染ませ反応速度が上昇していく。ウルフウッドの旗色が徐々に、そして確実に悪くなっていった。
チャペルの戦闘能力に異能は無い。音界を支配する力もなければ催眠術で意識の空白を作る力もない。ただ単純に固く、迅く、そして重い、それだけだ。ただの基本能力でも極めれば異能に匹敵し、越えることすら可能というだけ。それはGUNG-HO-GUNS
「――趣向を変えるぞ。凌いでみせろ、ニコラス」
自らの力を試すようにチャペルは攻撃に使っているパニッシャーをラズロと同じ三丁に増やす。削られた四肢ではその圧力をまともに受けることは出来ない。ウルフウッドはそう判断し、全力でその弾丸の暴風を回避するが――しかしその先で信じられない物が目に入る。回避先にロケット弾が置かれていたのだ。
それはチャペルが余ったパニッシャーから放っていたもの。ウルフウッドの癖を読み、回避先へ放っていた攻撃。
「ッ⁉」
ウルフウッドは死を予見する。
普通であれば走馬灯が流れる圧縮された時の中、しかし彼は生存するための思考だけをフル回転させる。
悔しいがタイミングはドンピシャ。回避は不可能。防御したとてパニッシャーの後ろに回り込んでくる爆炎に炙られておしまい。ならば――
ほぼ反射的にウルフウッドは防御姿勢のままロケット弾を放った。パニッシャーの短身部は下を向いている。つまりは自爆。それが生きるための選択肢。
ウルフウッドはそのロケット弾に殺気を込めていなかった。故にそれにはヘイロー貫通能力がない。ヘイローのあるウルフウッドにとっては
その非殺傷の爆発で致命の爆発を防いでいた。そして爆風の勢いをそのまま利用し、超高速でチャペルへと迫る。接近戦での逆転を狙っていた。
「素晴らしいぞ、その戦闘センス。さらに練り上がっている。だが……ッ」
チャペルは感嘆していた。
確殺のタイミング、致命の刹那。そこで蜘蛛の糸よりも細い生存の道筋を嗅ぎとり反撃にまで繋げる戦闘センスはもはや異能の領域と言っても過言ではない。――なのになぜ、貴様はそれをドブに晒すのだ!
チャペルの声に怒気が滲む。
「
近接戦を仕掛けることは間違っていない。パニッシャーは一方的に相手を殺戮するための兵器。故に接近戦は本来想定されていない。懐に潜り込まれては四本のパニッシャーもただのデッドウェイトになりかねない。
チャペルは四丁のパニッシャーを全て防御に回し、構える。そしてその身体機能を十全に発揮しウルフウッドに向けて突撃した。四丁のパニッシャーという超質量、それを扱える膂力から発せられる爆発的な加速力。それはホッパード・ザ・ガントレットの全身弾丸にも匹敵する威力と化していた。それがウルフウッドにカウンター気味で直撃する。
――それは致命の一撃。
通常であれば、ヘイロー持ちなら戦車に轢かれようが電車に轢かれようが命を失うことはない。しかし彼らの殺意が籠った攻撃には『GUNG-HO-GUNS』というテクスチャが乗る。
それはキヴォトスという物語のジャンルを書き換える力。異常殺戮技能者という黒ずんだ血糊の絵具は、この透き通るキャンパスを容易に染め上げ世界のルールを変えてしまう。
故にその攻撃の全てが致命。それをウルフウッドは食らってしまったのだ。
チャペルの突撃は止まらず、ウルフウッドは四丁のパニッシャーに磔にされたまま至聖所の壁へとプレスされる。その衝撃で至聖所は揺れ、ウルフウッドがプレスされた壁が崩れさった。
「がっ、ゴボッ……」
ウルフウッドの至る所から鮮血が零れる。
血が逆流する。視界は白濁している。
耳鳴りが鼓膜をマヒさせ、鉄の味と匂いが口と鼻を満たす。
自分の体がまっすぐなのかどうかもわからない。
――だが、それでも動かなければ。
ウルフウッドは半分意識を失いながらも懐にある薬へ手を伸ばす。チャペルはそれを見下しながら足で彼の手を払いのけた。そしてその足で彼の礼服をめくる。
「……残りは一回分か」
キヴォトスに来た時に持っていた薬の本数は三本。一本は以前のネルとの戦闘時に使用し、もう一本は先ほどの奇襲を受けて使用。その懐に残っているのが最後の一本だった。
チャペルはその薬をウルフウッドのあばらごと踏みにじる。
「がああぁぁぁッ!」
「これで残りはゼロだな」
バキゴキと骨の砕ける音が鳴り、ウルフウッドが苦痛に悶える。チャペルはそれを楽しむかのようにさらに足に力を込めてウルフウッドを踏みにじった。
そして表情が読み取れない造形であるにも関わらず、怒りで顔を歪ませているように錯覚してしまう程の憎悪を撒き散らしながらチャペルは告げる。
「前も言ったな、ニコラス! 戦闘不能となった貴様に地獄を見せてやると! 貴様がこと切れる瞬間まで、大切な者たちを一人ひとり惨殺させてもらうと! それが……それがワシの『報復』だと‼ それを今、実行させてもらうぞ‼」
◇ ◇ ◇
“ はぁ、はぁ…… ”
先生は息を乱しながら抱えてたアツコをそっと降ろす。正直もう限界だった。
『
“ 大丈夫、もう大丈夫だよ ”
少しでも勇気づけようと負傷している儀仗隊の子供に寄り添う先生。その子供が先生に向けて手を伸ばす。チナツの邪魔にならない程度に握り返してあげよう、先生はそう思いその手を握ろうとして……凍りつく。それは握手の形ではない。その子の手は銃を握りしめる形をしていた。人差し指が何度もトリガーを引くように動いている。
その子供は、いまだにチャペルの命令に囚われていた。
“ ……いいんだ。もういいんだよッ! やめてくれッ‼ ”
震えた声で制止を促す。
しかしその子の指は止まらない。
視界が滲む。声にならない嗚咽が漏れた。
――悔しい、こんなに悔しいことがあるか。
こんなにも壊されてしまった子供に、僕はなにもしてあげられない。
こんなことをしでかす奴から、僕は友を置いて逃げ出すことしかできなかった。
こんなにも、僕は、無力だ。
「……せ、先生……?」
後ろから掠れた声がする。先生は涙をぬぐい『先生』のペルソナを被り直して振り返る。
“ ……アツコ、起きたんだね? 体は無事? 大丈夫? ”
「うん、大丈夫……」
“ あ、そうだ。えと……私は連邦捜査部シャーレ顧問の…… ”
「戸狩先生、でしょ? 知ってるよ。
アツコは血が滲んでる先生の腹に視線を向けていた。
「それ……」
“ ん? ああ、ちょっと動きすぎちゃって傷口が開いちゃったみたい。後でセリナに叱られちゃうな~、あはは ”
「……ごめんなさい。それは私が……」
“ 違うよ。やったのはマスター・チャペルだ。アツコじゃない ”
「でも私の体で!」
“ ちがうよ。アツコも被害者なんだ ”
「でも、でも……ッ」
アツコがポロポロと涙を零し始める。
「私の手がサっちゃんを撃った。ミサキもヒヨリも傷付けた。みんなも……リリィも……儀仗隊の子たちをあんな風にしてしまったのだって……」
“ ちがう‼ アツコは何も悪くないんだ‼ ”
先生はアツコの両肩を握り、アツコの罪を否定する。
“ 悪いのは全部あいつなんだ。あいつが……ッ……なんで……なんでこんなことができるんだ。大人が、それも教導する人間がッ‼ なんでこんな子供に……未来を奪うような真似を……できるんだ……ッ‼ ”
「先生……」
アツコの肩を握る手の力が強まる。先生は再び涙を零していた。
それはアツコが初めて目にする大人の姿。それを見て自身の涙が引っ込んでしまっていた。しかしそれは決して「情けなく見えたから」とかそういった幻滅からではない。
目の前の大人は私達のために泣いてくれているのだ。私達が未来を奪われたことに怒ってくれているのだ。私達のことを真剣に思ってくれている、だからこそ悔しくてこの人は泣いている。
……そんな大人がいてくれる。
その温かさが罪悪感でつぶれそうだった心を軽くしてくれた。
だから今は立とう。
この人の力が必要なところへ、この人が駆け出せるように。
「ありがとう、先生。私はもう大丈夫だから……だから、」
アツコは至聖所の方向を指さす。
「だから行って、先生。行きたいんでしょ? きっとウルフウッドさんにも先生の力が必要だと思うから」
“ アツコ、でも…… ”
「儀仗隊の子たちを見ておくことぐらいは今の私でもできるよ。だから、行って」
“ ――わかった。ありがとう。ちょっと行ってくるよ ”
先生はアツコの肩から手を離し、涙を拭う。拭った涙の跡が戸狩という男の素顔を覗かせていた。それを見てアツコは微笑む。
「行ってらっしゃい、先生」
“ うん、すぐに戻るから! ”
先生は至聖所に向けて駆けだした。限界を超えた身体駆動は古傷すら裂き、純白のコートを紅く染めていく。
それでも先生は止まらない。止まるわけにはいかない。先生として、一人の男としての矜持が止まることを許さない。
紅く染まったシャーレの顧問は、ただひたすらに友が戦っている血戦の渦中へ駆けていった。
チャペルの能力はゲームで出てくるとしたら、ツバキみたいにカッチカチのくせしてハナエのEXスキルが常時発動しつつ、ホシノ(臨戦)の防御力無視スキルがついたヒナのEXスキルを通常攻撃ブッパしてくる感じですかね。しかも時間が経つと回避力とか攻撃速度が上昇していくスキル持ち。その上で弱体化ギミックは一切なし。うーん、クソ。戦術対抗戦で出てきたら台パン不可避。
ちなみに前話の感想で「なんでクアトロじゃなくてフォース?」という質問を頂いていたんですが、単純にフォースの方が語感が好きなのと、某ノースリーブグラサンのせいでクアトロに情けないイメージを筆者が持っているせいです。
先生の『メモリアルロビー』はストーリー上で大人のカードを取り出してからの戦闘が自分のユニットを使うものなのでそこからのイメージです。ちなみにウルフウッドのメモロビはまだ使えません。メタ的な視点でいうとウルフウッドはEXスキルがまだ使えない≒実装化されてないのでウルフウッドのメモロビは現時点では使用不能って感じ。残念。
『GUNG-HO-GUNS』のテクスチャってのが何かって言うと、要はギャグマンガの世界でシリアスバトルマンガの表現を適応させちゃう能力みたいな感じです。なんでヘイロー貫通できちゃうわけですね。ヘイロー貫通弾はゲマトリアがこのテクスチャを弾丸に貼り付けて造り出したものです。ヘイロー貫通弾の説明もしたかったけど文がくどくなりそうだったので泣く泣くカットしました。
今更なんですがマスター・チャペルって『マスター』なんで先生と同じ人にモノを教える人なんですよね。だから自分のために生徒を使いつぶす教導者であるチャペルは先生にとってもやはり敵対者なのかなと。ウルフウッド繋がりで選んだヴィランだけど先生に対してもいい味だしてくるなこの爺さん。ゲロ味だけど。
見せしめに殺されたリリィに続いて悲惨なのがチャペル儀仗隊の子供たちなんですが、その悲惨さに先生も思わず涙。そのやるせなさが文章で上手く表現できているといいのですが……。
先生の不穏そうな過去もチラ見せしていますが、とりあえず次回はこの爺さんぶちのめす話の予定なので期待ただけると幸いです。