ウルフウッドアーカイブ   作:タニシ・トニオ

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08_黒服の男

 ゲヘナのビルの一角で立てこもり事件が発生していた。ゲヘナ新入生数名を人質にした身代金目的の犯行である。

 

(ど、どうしてこんなことにー!! )

 

 陸八魔アルは自身の不幸を呪った。今朝のニュースの占いでは「運命の出会いがあるかも」なんてかなりハッピーなことが告げられていたはずだったが、しかし実際は通学バスがジャックされ、挙句縛り上げられ人質の仲間入りである。ある意味運命の出会いかもしれないがそんな出会いは是非ともお断りしたかった。

 横にいた同じく不幸な人質が声を上げる。

 

「こ、こんなことしてもすぐに風紀委員会が乗り込んでくるわよ!」

 

「うるせぇ!」

 

ズダダダダッ!!

 

 それの返答と言わんばかりに犯人の放った弾丸がその人質とアルの足元を掠める。

 

「へ、このビルにはトラップもたんまり仕掛けてある。そう易々と侵入なんかできねーさ。それよりも人質らしく大人しくしてな!!」

 

「ひぃぃッ」

 

 横の人質のおかげで犯人たちの銃口が自分や他の人質たちに向けられる。ああ、本当についてない。実際しばらくすれば風紀委員会がどうにかするかもしれないが、犯人たちもヒートアップしてきている。恐らく私達も無傷では済まないだろう。アルは黄昏ながら空を眺めようと――なんとなく絵になりそうだからという理由であったが――フロアの窓に顔をむけ……何かに気づく。

 

(ん? ……反射光? 向かいのビルから――)

 

 それに気づいた瞬間、その向かいのビルから突如として銃弾の嵐が降りそそぐ。それはカベに風穴をあけながら自分たちの頭上をかすめ、このフロアを一掃し始めた。

 

「ひ、ひいいいいい!!!!」

 

「うぎゃあぁあああああああ!!」

 

「なんだ!! なんなんだ一体!!?」

 

 犯人たちも人質たちもパニックに陥る。そして弾丸の嵐が止むと、犯人たちのいるフロアはすっかり風通しがよくなっていた。その風穴を通り抜け、十字を背負った黒服の男が生き残っていた犯人たちの前へ降り立つ。

 

「そのバカでかい十字架……てめえ葬儀屋かぁ!? 人質いんのに機銃掃射とかイカれてんのかッ!?」

 

「人質に当てるような腕はしてへんて。実際無事やろ?」

 

 妖しく光るサングラス。タバコをふかしながらニヒルに語る姿。人質に構わず犯人たちを銃撃する異常性――、映画で観た……いえ、それ以上のアウトローだわ!!

 

 陸八魔アルが感動に打ち震えている間に葬儀屋と呼ばれる男は犯人たちの制圧を一瞬にして完了していた。しかも息すら上がっておらずまだ余裕しゃくしゃくといった様子だ。その男の実力の底が見えない。そして男はさっさと犯人たちを縛り上げ、人質たちを解放するためにアルの元へと近づいてきた。

 

 ――このチャンスを逃がすわけにはいかない。

 

「あ、あの!! お名前をお伺いしても!?」

 

「ん、ワイのか? ワイはニコラス・D・ウルフウッドっちうねん。賞金稼ぎの真似事しとってな、もし金になる仕事あれば紹介頼むで、お嬢ちゃん」

 

 ウルフウッドは冗談を交えながら棒付きの飴をアルに差し出す。

 

「ウルフウッドさん……」

 

 差し出されたアメの味と、あの時のニコラスさんの雄姿を私は生涯忘れないだろう。あれこそ正に理想のアウトローの姿だった。

 

◇ ◇ ◇

 

「今回のはなかなか当たりやな」

 

 ウルフウッドは仕事の報酬額を眺めていた。先ほどの立てこもり犯たちは賞金首という訳ではなかったが、名が売れてきたウルフウッドには各自治区の治安組織からたまにこうした応援の仕事がまわってくることがあった。実際どこの治安組織も人材不足気味であり、信用できる外部委託先があれば猫の手ならぬ牧師の手も借りたいというのが実情だったからだ。ウルフウッドとしても公的機関であれば報酬の未払いなどは無いのでわりかしありがたい収入源になっていた。

 

 棒付きアメを取り出し――キヴォトスでは禁煙の場所が多いため――口にくわえる。息を吐いても紫煙が出ないのが寂しいが、仕方ない。口に広がる甘さを洗い流すためブラックコーヒーを自販機で買い、近くのベンチに座り込んだ。

 

「で、おんどれは何者や。その黒服、ワイと被っとるんやけど」

 

 先ほどまで確かに空席だったウルフウッドの隣にいつの間にか全身真っ黒の男が座っていた。その男は顔まで真っ黒な上、まるでマネキンの顔に入ったヒビが口や目を表現しているような人間離れした風貌をしてる。

 

「クックックック……それは申し訳ありません。しかしこの格好は私のアイデンティティのようなものでして……ああ、そうですね、ここでは『黒服』と名乗りましょうか」

 

「そんで、何の用やねん?」

 

「クックック、私はカイザーコーポレーションと提携をしている者でして……ああ、あなた方アビドスが借金をしているカイザーローンの同系列の会社です。ククッ、それでですね……ウルフウッドさん、あなたに交渉があります」

 

「交渉ねぇ……悪徳セールスならお断りやで」

 

「とんでもない……私共はあなたを高く評価しています。アビドス高校を退学し、カイザーPMCに所属いたしませんか? 契約いただければアビドスの借金の半分近くをこちらで負担いたしましょう。いかがですか?」

 

「断る」

 

「……なぜですか?」

 

「……なあ、それボケか? ボケとんのかおのれ? 怪しすぎや思わへんのか? 突っ込み待ちか思うたわ」

 

「ククッ、人を見た目だけで判断されるとは……もったいない、機会の損失ですよ」

 

「まあ、その点に関しては同意したる」

 

「では――」

 

「でも断る」

 

「……ふむ。察っせられていると思いますが、私はあなたと同じキヴォトスの外から来ました。あなたとは違う領域から、違う方法でですが……あなたが元の世界へ帰る方法も私達側のほうが見つかりやすいと思いますよ」

 

「……なんでそないなことまで知っとんねん、キショいで」

 

「これを聞いてもまだお考えは変わりありませんか? あなたは何をお望みなのです?」

 

「金も情報も欲しいんは確かやで。ただ、一つ聞いてもええか?」

 

「なんでしょう? 」

 

「仮にそっちに入ったとして、気に入らん仕事は蹴ったりできるんか?」

 

「……なぜ、そのようなことを?」

 

「別に、簡単な話やで。昔仕事選ばんで受けたせいで、それはもぉエライ目におうた事あってな。せやから仕事は選ぶ、そう決めてん。で、どないなん?」

 

「……」

 

「嘘は言わんが本当のことも言わんタイプやろ、おまえ。そないな奴とは手組めへんで」

 

「……お気持ちは変わりないようだ。非常に残念ですが、今回の交渉は決裂ですね」

 

「こないな調子なら次回もあらへんっちうねん」

 

「……では、失礼いたします」

 

 そう言うと黒服は路地の闇へと消えていく。

 

(なんやったんや、あいつ。きっしょ)

 

 ウルフウッドはそんなことを思いながら残っていたコーヒーを飲み干し帰路に着いた。ちなみに帰ってからホシノに「怪しい黒服の男に気を付けろ」と伝えると「何それ自己紹介?」と返され軽い喧嘩になった。

 

◇ ◇ ◇

 

「……キヴォトスとは起源の異なる神秘。万物を創造し、滅ぼす、根源へ繋がる門……それを前にして少々焦ってしまいましたか。しかし、あの様子ではまともに取り合ってはいただけないようだ。……ふむ、であればアプローチを変えてみるとしましょうか。クックックックック……」

 

 




アルちゃん登場。この時はまだアウトローデビュー前の眼鏡アルちゃんです。

ちなみにウルフウッドは原作と違いアビドスネクタイを付けているので服の感じが黒服ともろ被り。不機嫌にもなります。
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