ウルフウッドアーカイブ   作:タニシ・トニオ

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07_エピローグ01

 目を開くと見知らん天井がある。

 

「ッッ‼」

 

 ミメシスはッ⁉ チャペルはどうした⁉

 警戒態勢を取ろうと体を起こすと胸と左手に激痛が走る。

 

「あだだだだだだ!」

 

“ ――おはよう、ウルフウッド ”

 

「……なんや、センセやんけ」

 

 となりのベッドで入院着を着たセンセが笑っとった。何がおかしいっちうねん。

 

「……こないな場所でこないな恰好で寝かされとるっちうことは、一応の片はついたんやな。センセ、ワイはどんだけ寝とった?」

 

“ ミメシス撃退と同時に気絶してから丸三日。ちなみに私が起きたのは一昨日かな ”

 

「チッ、三日もか……」

 

“ とりあえず君が知りたそうなニュースで良いのと悪いのがあるけど、どっちから聞きたい? ”

 

「……せやったら予想ついとる悪いニュースから」

 

“ 予想通りだよ。……あの後、トリニティの皆も協力して探してくれたらしいんだけど終ぞマスター・チャペルは見つからなかった ”

 

「チッ、しぶと過ぎやろあのジジイ。……ただ解せへんな。生きとるのが不思議なぐらいボロボロにしとったはずやで」

 

“ 私の技で入念に傷口も焼いた上でね ”

 

「それでどうやってあっこから脱出した? いくら何でも自力じゃ無理なはずや。……誰かが回収した? まさかゲマトリアの奴らッ⁉」

 

“ いや、私も最初そう思ったんだけど違うみたい ”

 

「はぁ? なんでわかんねん」

 

“ これ ”

 

 センセが真っ黒な封筒を取り出す。うわ、これは……

 

「それ、黒服からか?」

 

“ 気づいたらそこのテーブルに置かれてたらしいよ。で、読んだら『自分達はマスター・チャペルを回収してない』って内容が書かれてた ”

 

「はぁ? 信じられるわけないやろ! ベアトリーチェだってあいつ等の仲間やったやないか!」

 

“ いや……私は嘘じゃないと思ってる ”

 

「……おんどれボケてもうたんか?」

 

“ とりあえず手紙に書かれてた内容聞いてよ ”

 

 センセが手紙の内容をかいつまんで話し始める。それはこんなんやった。

 

・ゲマトリアはお互いの研究成果を発表し、利害が合えばその成果を互いに貸し出したりすることもあるが、基本的に各々の研究は各々独自のモノである。したがってベアトリーチェの研究に自分たちは直接的な関与はしていない。

 

・マスター・チャペルはあくまでもベアトリーチェ個人と契約を結んでいただけで、自分達との直接的なやり取りは無い。またベアトリーチェはマスター・チャペルに支配され自己を失ったとみなし、ゲマトリアから除籍とした。故にマスター・チャペルと自分たちは無関係である。

 

・マスター・チャペルは自分たちにとっても制御不能の危険な存在である。したがって彼に関する情報を掴んだらシャーレにそれを提供する。

 

「――随分都合のええことを。これのどこが信用できんねん?」

 

“ そう言いたい気持ちはわかるけどさ、思い出してみなよ。黒服の研究対象、君とホシノだったろ ”

 

「……あ」

 

“ マスター・チャペルの目的はウルフウッドへの報復だ。それは変わらないだろうし、であれば依然アビドスの生徒達も巻き込まれる可能性は高い。それに以前、黒服は君たちの殺害に舵を切ったカイザーと手を切ったじゃないか。それと同じでマスター・チャペルは黒服からしても邪魔な存在なんだよ。それに…… ”

 

「それに?」

 

“ 少なくとも黒服は、倫理は無いけど理屈はある。だから理屈の通じない相手とは反りが合わないんじゃないかな ”

 

「あ~ま~、そういわれるとそうか……」

 

 まだ微妙に納得できへんがセンセの言うとる理屈も分かる。それに腹立つことやけど、ワイらが気を失っとる横でこの手紙が置かれとったちうことは黒服は一度ワイらの生与奪権を持っとったに等しい。それでもワイらになんにもしてへんちうことは、そういうことなんやろな。ムカつくことには変わりないが。

 

“ あと、この手紙にはヘイロー貫通弾のことについても書いてあったよ ”

 

「なんて?」

 

“ あれはマスター・チャペルの力を利用してゲマトリアで製造していたらしいんだけど、接点が無くなったから作れなくなったってさ。無論、チャペル側もね。製作したものは全部ベアトリーチェが持って行ってしまったらしいから、アリウスで押収したものが全部になるみたい ”

 

「それがホンマやったらええ情報やな」

 

“ ……あと、ウルフウッドと協力すれば同じ物が作れますがいかがしますか、だって ”

 

「作るわけないやろがボケ‼ なに寝ぼけたこと言うとんねん、アホか!」

 

“ だよねぇ…… ”

 

 センセが苦笑いを浮かべながら手紙を丁寧に黒い封筒にしまう。いらんわ、破り捨ててまえそないな手紙は。

 

“ ――とりあえずマスター・チャペルはまだ生きていて、恐らくだけど正体不明の協力者がいる。悪いニュースは以上だよ ”

 

「……そか」

 

 ほんま、どこまで付きまとうねんこの因縁は。……やっぱり、変わるんは無理なんやろか。陽だまりの下に行けても、体を縛り付ける過去という名の鎖が絡みついてくる。その鎖がキレイ事の入るスキなんぞ与えてくれへん地獄にワイを引きずりこんでいく。

 もしもワイさえいなければ、この因縁さえなければ、あいつらはもっと笑えてたん違うか? ワイさえいなければ、きっと――

 

“ ――ウルフウッド、ありがとう ”

 

「……なんやねん急に。気持ち悪い」

 

“ いや、もし君がいなかったらって想像しちゃってさ。僕だけじゃマスター・チャペルに手も足もでなかった。ゾッとするよ、ほんと。だから、ありがとう ”

 

「……ケッ、そもそもワイがおらんかったら、おんどれはとっくの昔にくたばっとるわ。もっと普段から感謝せえや」

 

“ ははは、そうだね。じゃあシャーレに戻ったらウルフウッドの残業手当の他に昇給願いも出しておくよ ”

 

「ええでええで、誠意っちうんはそうやって示すもんや。わかっとるやないか」

 

“ ははははは ”

「ふっ、くっくっくっく」

 

 ――笑う。笑える。

 少なくともシャーレの先生がセンセだったのは、幸運だったかもしれん。

 

“ じゃあこのまま良いニュースも伝えようか。といっても全部が全部手放しで喜べるものでもないけれど…… ”

 

「とりあえずアリウスに残っとったガキ達はどないなった?」

 

“ みんな無事だよ。ミメシスに拷問されていた子供たちは全員スバル達が助け出してくれた。命に別状も無い。軽傷で済んでる子たちはホシノやスバル達と一緒にアビドスにいるみたい。……チャペル儀仗隊の子たちも、体は無事だよ ”

 

「……体は、か」

 

“ うん。この病棟で保護してるって。……体は治せても心の治療は難しいってミネが言ってた。――ああ、でも悪いことばかりじゃなくてね。メリィが彼女たちのケアを手伝いたいって言ってるらしい。『姉の命を奪ってしまったことを赦せるのは、きっと私だけだから』って ”

 

「そか。メリィも言えるようになったやないか。それやったらきっと大丈夫やろ」

 

“ ……そうだね ”

 

 センセの声のトーンが落ちる。どうせこのアホ、儀仗隊だったガキ達にしてやれることが無くて「僕は無力だ~」とか思うとるんやろ。ワイらは神様と違うんやで? 救世主様でもないんやで? 手を貸すことにも限度があるちっぽけな人間やねんぞ。

 まあわかっとる上でこいつはうんうん悩むんやろうけど。ほんまアホな奴なぁ。

 

「とりあえずあいつら元気になったら勉強教えたれよ。途中から授業追い付こうとするの、ホンマ大変やねんぞ」

 

“ ……そうだね。確かにそうだ。う~ん、経験者の言葉は違うね。やっぱり大変だった? 故郷からアビドスに入学した時は ”

 

「当たり前やん! 勉強どころかスマホの操作も分からへんかったんやぞ! ……あ、スマホで思い出した。あいつ等通信機とかは使えるけどスマホの使い方知らへんかったはずや。教えないかんことぎょうさんあるやん」

 

“ それは大変だ。アリウスの子達みんなだよね? 帰ったら一緒に頑張ろうか、復学支援部部長殿 ”

 

「藪蛇になってもうた、クソッ。それいい加減辞めさせてーな……」

 

“ 駄目でーす。アビドス卒業するまで君に部長でいてもらう予定なのでよろしく ”

 

「はぁ~~ッ⁉ ざっけんなッ! おどれが無理やり任命しておいてなめとんのか⁉」

 

“ じゃあ次のニュースね ”

 

「あ、おいこら話逸らすな‼」

 

 こいつホンマ調子乗りよってからに。辛気臭い顔しとるのも腹立つが、元気になっても腹立つなこいつ。

 

“ ーーカンナも来てくれてね。元々アリウススクワッドの子達の事情聴取で来てたみたいだったんだけど、私が丁度目を醒ましてたから少し話せたんだ。君が目覚めたら改めて事情聴取のご協力願いますってさ ”

 

「なんや、局長も来とったんか。それで、アイツらはどないなりそうやって?」

 

“ 黒幕の存在が認められてね。アリウススクワッドのみんなも軽い処分で済みそうだってさ。……ウルフウッドが色々根回ししてくれてたことやスバル達が被害を押さえてくれたことも大きかったみたいだよ。トリニティやゲヘナ、あとなぜかミレニアムからも彼女たちを擁護してくれる声が上がってるみたいでね。アリウスのみんなにヘイトが向くのは避けられそうだ ”

 

「それならええ。実際アイツら被害者でもあるしな。しかしよう局長らにも信じて貰えたな?」

 

“ アリウス自治区からヘイロー貫通弾を押収できたからね。これだけの証言と物的証拠があればヴァルキューレも動かざるを得ないってさ。後、カンナが引き気味に言ってたよ。『ウルフウッドさんをここまで追い詰めるなんて相手はどんな化物だったんですか?』だって。その傷が状況証拠にもなったみたいだね ”

 

「それは嬉しないわ。でもまあ『頭に花の咲いた筋肉モリモリ四本腕のマッチョジジイにやられた』ゆうても信じてくれそうでなによりや」

 

“ 実は私もカンナに似たような回答したんだけど余計引いてたよ。『……似顔絵は書きやすそうですね』って苦笑いしてた ”

 

「まあせやろな。……ん? 似顔絵っちうことは……」

 

“ マスター・チャペルをキヴォトスで指名手配してくれるって。少しでも情報を集めるためにね ”

 

「それはありがたいわ。ホンマ、局長はええ仕事してくれる」

 

“ ーーとりあえず私が今持ってるニュースは以上だよ。……さっき言った事情聴取とか、ミカの聴聞会に……あ、私が撃たれたせいで中止になってた補習授業部のテストもあった ”

 

「そういやワイもシスターフッドで説教する約束あったわ……」

 

“ ……お互いまだ色々やることはあるし、この事件の傷口も決して浅いものではないけれど……とりあえずはお疲れ様かな ”

 

「一件落着とはいかんが一段落っちうとこか。あ〜、一杯やりたくなってくるな……」

 

“ 本当だよねー ”

 

 ケタケタと横にいる男が笑っとる。

 ホンマ、こいつがおらへんかったらあん時どないなっとったやろか……?

 

「……センセ、あの時助けてくれてありがとな。感謝しとるんやで?」

 

“ う〜ん、えっと……君の気持ちがわかったよ。急に素直に感謝されるとキモいんだね ”

 

 こいつホンマ……

 

「ウーソーデースーヨーーーー!! いっつもワイがおんどれ助けとるもんな! あれぐらいして当然や、むしろ足らんわ! まだワイにぎょうさん借りあるもんなお前は!!」

 

“ それはまぁ追々返すよ ”

 

「踏み倒したらはっ倒すからな!!」

 

 

「病室ではお静かにですよ、ウルフウッドさん♪」

 

 

 センセに愚痴っとる後ろから、優しく、しかし底冷えする声がする。その冷たさに汗を流しながら後ろを振り返ると、そこにはセリナがいつの間にか立っとった。……アカン、額に青筋が走っとる。

 

“ セリナ、もっと言ってあげーー ”

 

「先生もですよ」

 

“ はい、すみませんでした ”

 

 その後、セリナにお前ら絶対安静なのに騒ぐなボケと小一時間説教された上、喫煙にまで話がおよんで大変な目におうた。

 ワイ絶対安静なんやろ? 休ませてくれ。禁煙講義はもうたくさんや。

 

 




色々蛇足をしつつ、パペット戦やラズロ戦の後のウルフウッドとヴァッシュのようなやり取りをさせたかった話。
最初の時と比べるとウルフウッドと先生ずいぶん仲良くなったなって書いててシミジミしてました。
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