メインストーリーがどうしてもシリアス気味になってしまうので箸休め的なものですね。
絆ストーリー:ユウカ_見えない大人と子供の境界線
<“ ごめん、ユウカ! 助けて! ”>
<そろそろ連絡が来る頃だと予想してました。入院してる間に溜まった書類の処理ですよね?>
<” ……はい、そうです。本当にごめん! でもユウカでないと厳しいんだ! 埋め合わせはなんでもするよ! だからお願いします! ”>
<仕方ありませんね、シャーレに向かいます>
<” ありがとう! ”>
モモトークを閉じる。本当、先生には困ったものだ。私、これでもセミナーの会計でそれなりの立場にいる生徒なんだけどなー
「もしかして先生から連絡ですか、ユウカちゃん?」
「の、ノア⁉ 覗いてたの⁉」
「そんなことしなくても分かりますよ。ユウカちゃんがそんな顔するのは先生絡みの時ですから」
「そ、そんな分かりやすい顔してる⁉」
「ええ♪」
ノアにクスクスと笑われてしまう。ああ、もう恥ずかしい。私は顔を赤くさせながら逃げるようにセミナーの部室を後にした。
◇ ◇ ◇
シャーレに到着すると書類の山が待ち構えていた。二人の大人が死体の様に机に突っ伏している。
「来ましたよ、先生」
ガバッと先生が生き返ったように体を起こして私の手を取る。
……私の手が先生の手に包まれてる。
“ ユウカ!! ありがとう、本当にありがとう!! 君は救済の女神だ! ”
「ッ、ん……もう、そんな調子の良いこと言って〜」
先生は先生の不意打ちに声が上ずってしまった。ここはビシッと言わないとなのに……私、ニヤけてたりしてないかな?
「ユウカが来たっちうことはワイはお役御免やな。どれ、復学支援部の様子でも見に行くか」
“ は? なに言ってるのウルフウッド。逃がさないよ ”
「ユウカ来たんやからもうええやろ⁉」
“ 駄目だよ! エデン条約関係の報告書とかは君がいないとできないんだから! 特に私が昏睡してた時の事とか。そのためにホシノ呼んで復学支援部見てもらってるじゃないか⁉ ”
「チッ、面倒やなぁ」
どうやら今日の支援部当番はホシノさんのようだ。
シャーレには部員にまかせる二つの当番がある。シャーレの業務支援をするシャーレ当番。シャーレ復学支援部の部員に学校の紹介をしたり勉強などを教える支援部当番。
シャーレ当番は生徒との交流に重きを置いているのか普段は希望者からの抽選で選ばれるのがほとんどだ。今回の様に切羽詰まった状況だと例外的にその状況に見合った信頼されている生徒が呼ばれたりもするけれど。主に私とか。
対して支援部当番は生徒の進路に関わることも多いためか先生達から指名されて当番をお願いされている。私も支援部部員に数学を教えてあげて欲しいと頼まれ何回か講師のようなことをしたこともある。
ちなみにホシノさんもこれに呼ばれる常連で、シャーレ部員がまだ少なかった時は顔を合わせることも多かった。最近はホシノさんがよく担当していた支援部員への戦闘実技の講義を廃校になったSRTの生徒だかなんだかも受け持つ様になったらしくその頻度は減ってしまったけれど。
――というかなんなのよッ、あのウサギ女!
なんで私の伝言の付箋の近くにわざわざ付箋貼るのよ! しかも『シャワーお借りしました』とかどうでもいいやつを! そんなのモモトークで十分じゃない⁉ なに? ここは自分の縄張りですとでもアピールしたいわけ? 私は業務報告だから必要があってやってるだけなんですけど⁉ なによ、あけすけにアピールしちゃって、本当に卑しいったりゃありゃしない……ッ!
――コーヒーを入れようとした紙コップを握りつぶす音で我に返る。
と、とにかく、ホシノさんが来ているなら話は早い。ホシノさんなら伝家の宝刀『アビドスまで送って』でウルフウッドさんを先生から引き離すことができるもの。これなら自然な流れで先生と二人きりになることができる、完ぺき〜。仕事の終わりが楽しみだわ。これぐらいの役得はあってしかるべきよね。
そう自分に言い聞かせ、私は書類の山の攻略に挑んだ。
◇ ◇ ◇
「……あかんわ、 ヤニ切れた。おい、センセも付き合え」
“ あ〜そうだね……ユウカ、ちょっと休憩にしよう ”
「仕方ないですね、10分までですよ」
“「はーい」”
仕事の最中、ウルフウッドさんの一言で休憩になった。先生とウルフウッドさんは立ち上がり、二人は喫煙スペースとして利用しているベランダへと向かう。私も私で息抜きしたいので空になった紙コップを片手に給湯室へと向かった。
何となく甘いものが飲みたいな、なんて思いインスタントカフェオレのスティックに手を伸ばす。砂糖も既に入っておりお湯を注ぐだけでできる優れものだ。出来たそれを手に取り机に戻る途中で、先生たちの姿が目に入る。
(――煙草ってどんな味がするんだろう?)
喫煙後の先生やウルフウッドさんから漂う香りからこのカフェオレみたいに甘くはないのだろうな、とは思う。味としては美味しそうには思えない。それでも二人は嬉々としてそれを吸う。
それを理解ができない自分がたまに嫌になる。つくづく自分が子供なのだと言い聞かされているようで。
先生達のいるベランダを外部へと隔てるガラスのカーテンウォールは、私には見えない大人と子供の境界線に見え仕方なかった。私達では踏み越えられない一線がそこにある。
無論、私がベランダに行くことができないわけじゃない。私が目の前の扉を開けてあそこへ行けば、きっと先生は笑顔で私を迎え入れてくれる。
……煙草を灰皿に捨て、『先生』というペルソナを被った上で。
その振る舞いは大人として正しいと思う。『先生』が『生徒』に接する態度としては完ぺきだ。
――でも……でもですよ、先生。
私は一人の女性としてその内側に行きたいんです。『戸狩』という一人の男性の隣に立ちたいんです。どうすれば私は先生の隣に行けますか?
どうすればウルフウッドさんには見せている『戸狩という男』の表情を、私にも向けてくれますか?
「……はぁ」
休憩時間の終わりまで、私はベランダへ踏み出すことができなかった。
◇ ◇ ◇
“ やっと終わった〜!! ユウカ、本当にありがとう! ホシノも手伝ってくれてありがとね ”
「いいよ先生、気にしないで〜。私なら遅くなっても帰りの足があるからさ。ねぇ、ニコラス〜」
「わかっとるって、送ってやればええんやろ。全く……」
支援部当番を終えたホシノさんも加わり、溜まっていた書類はなんとかさばくことが出来た。時計を見ると十九時ちょっと過ぎぐらい、ディナーにはちょうどいい時間だ。後は予定通りホシノさんがウルフウッドさんを先生から離してくれれば……
“ そうだ、ユウカもホシノもご飯まだでしょ? よかったらピザでも頼んで皆で食べない? 私が奢るからさ ”
「「えっ?」」
先生がピザのチラシを持ちながらニコニコと提案してくる。え、一枚頼むと二枚目は無料のクーポン? お得だわ……じゃない!!
「ええやん、ワイはこのソーセージ乗っとるヤツ頼むで」
“ いいね、美味しそう。ユウカとホシノも好きなの選んでいいよ。ハーフ&ハーフなら丁度四種類頼めるからね ”
駄目だ、ウルフウッドさんが先に注文を言ってしまったせいで完全に流れがピザになってる。
(ど、どうしましょうホシノさん?)
ホシノさんにアイコンタクトを送ると彼女は首を軽く横に振り、答えた。
「お姉さんはシーフードがいいなぁ〜」
どうやら今回は諦めてピザを楽しむしかないようだ。ピザは嫌いではないし、先生の心遣いも嫌というわけではないし……ここは素直に流れに従うしかないか。
「……私は照り焼きチキンで」
“ わかった。……よし、注文完了! ここのピザ屋さん近いから出来立てが届くんだ〜 ”
先生がタブレットでピザの注文を終える。私はなんだか気が抜けてしまって大きくため息をつきながら椅子にもたれ掛かった。
すると先生が私の横の椅子に座る。
“ ユウカ、私達が休憩してた時、何か言いたそうにこっち見てなかった? 何かあったのかな? ”
「ふえっ⁉」
あの時の私、見られてたの!? ちょっと恥ずかしいけど、気にかけててくれたのが嬉しい。でも先生に心配してもらうようなことでもないし……
「大したことではないんです、ただ……」
“ ただ? ”
ただ、魔が差したというか、チャンスかもと感じたというか、勇気を出して聞いてみようとこの時は思ってしまって……
「……先生、私はどうしたら『大人』になれますか? 私達と先生達とはなにが違うんでしょうか? あの時、先生達を見ていてそう思ってしまって……」
“ ……なるほどね ”
先生は少し意外そうな顔をした後、椅子の背もたれに体重をかけた。
“ ユウカぐらいの年齢だと時には子供扱いされたり大人扱いされたりする時期だ。そんなことがあったのかな? ”
「……まあ、はい」
正確には大人扱いされたいという話だけど、まあ誤差範囲だろう。
“ そっか……難しい問題だね。これはそれだっていう答えがあるわけでもないものだから ”
「でも先生達は自分を大人だと定義してますよね? 何をもって大人と定義してるんですか?」
“ うーん、そうだなぁ〜…………ウルフウッドはさ、自分が大人だって自覚した時ある? ”
なかなか回答が思い浮かばないからか、先生はウルフウッドさんに話題をパスする。
「キヴォトスやったら二十歳から大人扱いやろ」
ウルフウッドさんは面倒臭がっておざなりな回答を述べるがそれに待ったをかけたのはホシノさんだった。
「ニコラス〜、ユウカちゃんが聞きたいことはそういうことじゃないのは分かってるでしょ〜。ちゃんと答えなきゃ駄目だよ〜」
ホシノさんもウルフウッドさんのちゃんとした回答を知りたいんだろうな。彼を見るじっとりとした視線には有無を言わせない圧力が含まれている。
「んなこと言うてもなぁ、ワイは体が先にでっかくなってしもうたり色々ちぐはぐやったし、そないなこと考える暇もあらへんかったからなぁ……」
「あ……」
何故かホシノさんがしまったというような顔をしていた。いったいどうしたのだろう? ウルフウッドさんの成長期が人より早かったとかじゃないの?
“ じゃあさウルフウッド。これができたら大人だって思うことはある? ”
先生が聞き方を変えて再び尋ねる。ホシノさんも再び興味津々そうにウルフウッドさんを見ていた。私も確かに気になる。ウルフウッドさんの大人の定義ってなんなんだろう。
「あ〜せやなぁ……」
ウルフウッドさんは悩む素振りをしながら懐から木彫りの鳥……だろうか、それを取り出し見つめながら言う。
「……『自分の生き死にを自分で決めれる』ようになったらやないか? 少なくともワイが兄弟のケツ拭きやめるラインはそこやな」
ウルフウッドさんは回答を言い終えると同時に木彫りの鳥を懐にしまう。ホシノさんは黙ってそれを見ているだけだった。
“ なるほどねぇ……自分の生き方を定めた時かぁ ”
「ちゅうてもワイのダチや目の前にいるアホみたいにガキのままの例外もおるけどな」
“ 友達を悪く言っちゃ駄目だよ。それに僕は欲望の解放のさせ方が上手なだけさ ”
「……先生、それって『DX超合金カイテンジャーロボ』の領収書のこと言ってます?」
“ ゆ、ユウカッ⁉ なんでそれを⁉ ”
後で問い詰めようと取っておいたレシートを先生の目の前でヒラヒラとさせる。五千円以上のものを買うときは相談してくださいねって言っておいたのに、まったく……
確かにウルフウッドさんの言う通り、先生は子供っぽいところがある。……でも、それでも確かに先生は『大人』だ。私はそれがなんでかを知りたい。
「これについては後で……それよりも先生。先生も生き方を決めて自分を大人だと定義づけた時があったんですか?」
“ えっ⁉ えっと、そうだねぇ…… ”
先生は窓に顔を向け、少しばかりもの悲しそうな顔をして話し始める。
“ ……あるよ。『この』生き方を決めた時っていうなら、きっとここだっていう時がね。……ここに赴任する前、私は先生になるための勉強をしながら家庭教師のバイトをしてたんだ。それで一人の女の子を受け持ってたんだけど……その子になにを教えるか選択して、教育者としての責任を持って接しようと決めた時だ。
――あの子に『先生』と呼ばれた時、僕は『先生』になった。多分、そこが『大人の私』の始まりだよ ”
先生のその語りに何故だか胸が苦しくなる。別に私達の前に教え子がいた、ただそれだけのはずなのに……『あの子』という最初の生徒が先生に楔のように打ち付けられている気がして嫌な気分になった。……嫉妬してるのかな、私?
先生はそんな私の心情を知ってか知らずか、外れかけた『先生』のペルソナをかけ直し、視線を窓から私に戻した。
“ ユウカ、生き方を決めた時が大人だっていう定義で話を進めたけどさ、やっぱりいつ『大人』になるかは人それぞれなんだ。私やウルフウッドがそうだったからって君らがそうとは限らないし、それで視野を狭めて欲しくはないかな。決めた生き方を変えちゃいけないってこともないわけだし ”
「……先生も『先生』の生き方を変えるかもしれないんですか?」
“ その予定は無いけどね。ユウカ達が大人になっても私はみんなの先生でいるつもりだよ。ただ一度は教職になるのを諦めたこともあるし、未来がどうなるかはわからないからね。これからもできる限りの後悔しない選択をしていくだけさ ”
「後悔しない選択ですか……?」
“ それも実際は難しいけどね。都合よく子供扱いされたり大人扱いされる不条理みたいに世の中不条理なことだらけだから。そしてそんな世界と戦う為の方法を学ぶのが『学習』なんだ。……今回の話、少しはユウカの『学習』になったかな? ”
「納得いかない所もありますが、まぁ……。もう少し自分でも考えてみます」
“ ははは、あまり力になれなくてごめんね。ただこれは最初に言った通り答えがない話だから。取り敢えずまた不条理な扱いでもされたら愚痴ぐらいは聞くよ ”
――ピンポーン
“ お、丁度ピザが来た。受け取ってくるね ”
どうやらお話はここまでらしい。
結局私が大人になる方法どころか『私はいつまでも
――いや、でもまだ挽回のチャンスはあるはず。
先生も言っていたじゃない!
『あの子』と違って私には先生とのこれからもあるし、少なくともあのウサギ女の入り込む隙なんか与えたりしてやらないんだから!
――新たな決意を胸に秘めたユウカをウルフウッドは冷ややかな視線で見ていた。
「……なあホシノ。センセが自業自得で刺されそうになってもワイが守らないかんのやろか?」
「それがニコラスの仕事でしょ?」
「ダッッッる……はあ、なんであいつ面倒臭いやつばっか引っかけんねん」
「ニコラスも気を付けないと駄目だよ」
「はぁ? 頭に血が上っとるガキどもに遅れなんぞ取らへんわ」
「いや、そうじゃなくて……まあいいや。……ところでさっきの木彫りの鳥って誰からの物なの?」
――女の戦いは水面下で熾烈を極めていた。
シャーレの日常というかシャーレ当番がどんな感じになっているかの雰囲気を書きたかった日常回。
5thPVでしたっけ? それであったユウカとミヤコの付箋のやり取りとか見ると色々水面下で争いがあるんじゃねーかな、と。
あと普通に年頃の子がぶつかる悩み相談的な話もしたかったというのもあります。
丁度ユウカぐらいの年齢は子供か大人かで揺れ動いている時だと思うので。
ちなにみ戸狩先生は戦いの指揮とかよりもこうした『先生らしいお悩み相談』とかが好きなので、ユウカの相談には内心ちょっとウキウキ気味だったりしてます。
ちなみにこの小説だと先生派とウルフウッド派の生徒がいて、ホシノがいるとウルフウッドを先生から離してくれるので先生派の生徒からはホシノはありがたがられているという裏設定があったり。ウルフウッド派からするとホシノは生徒の中では最大の障壁。
ちなみにどちらの派閥からも最大の障壁扱いされているのは先生&ウルフウッド。みんなユウカみたくベランダの中に入れないんです。
BLとかそういうんじゃなくてトライガンマキシマム11巻のミリィやメリルのように男の世界に立ち入ってしまいそうで遠慮してしまうとか怖気づいてしまうとかそんな感じ。