ノリと勢いだけで書いたので一日で書き終えてしまいました。
他の話もこんなノリで書けたらいいんだけどなぁ……
26/04/02誤字修正
メルリーは激怒した。必ず、このネタを形にせねばならぬと決意した。メルリーには男の友情がわからぬ。メルリーは作家である。実在の人物をモデルにし、いわゆる『ナマモノ』を描いて暮らしてきた。そのためネタに対しては、人一倍に敏感であった。
きょうメルリーはレッドウィンターを出発し、野を越え雪山を越え、シャーレにまでやってきた。メルリーには現在ネタが無い。今、絶賛胸熱マイブーム中の先×ウル本の最新作が行き詰っていた。こういう時はやっぱり現物を取材するに限るよね、と思ってシャーレを尋ねて来ていた。
ちなみにメルは先生派の生徒である。イケメンの大人でサブカルチャーにも理解のある理想の彼氏ムーブを先生はメルにかましてきやがったのだ。簡単に脳みそをこんがり焼かれたメルだったが、その後に気の抜けた顔でウルフウッドと一緒に喫煙している先生の姿を見てさらにその脳みそがぶっ壊されてしまい、気づけば性癖がGLからBLへと腐っていた。元々腐り気味だったかもしれないが、まあとにかくそれほどの衝撃を受け性癖が歪んでしまっていた。
そんなメルリーがシャーレに入ると、なにやら全体の雰囲気がちょっぴり寂しい。シャーレのカフェなど共用エリアでたむろしている生徒達の雰囲気が若干暗いのだ。メルリーはだんだん不安になってきた。しかしメルリーには知らない人に事情を尋ねる勇気はない。不安を抱きながら恐る恐るシャーレオフィスへと向かう。そしてメルリーは理解した。
「『現在繁忙中のため関係者以外立ち入り禁止』……って、どゆこと?」
なんかオフィスの入り口に張り紙が貼ってあるのだ。先生やウルフウッドではない、誰かの筆跡で。メルリーは恐る恐る中を覗き見ると、中にいたミレニアムの制服を着た生徒と目が合う。
(じゃ ま を す る な)
「「「ひぃッ」」」 ドンッ
中にいた生徒に口パクで告げられる。その圧力にメルリーは後ずさりしてしまった。きっとあの生徒はシャーレの業務がやばいときに現れ、先生の財布も握っていると噂の妖怪フトモモ女だ。掲示板で見た情報と一致しているから間違いない。すごい圧力だ。
「ん?」
ここにきてメルリーはやっと自分が後ずさった時に誰かと接していたことに気づく。感触のある方に顔を向けると、おそろいの猫耳イヤホンを付けた双子らしき生徒がいた。
◇ ◇ ◇
「ええー‼ 二人があの『TSC2渡来銃』と『Tri Heart』の開発者なの⁉」
「ふふーん、すごいでしょ‼」
「私達だけで作ったわけじゃないんだからそんなドヤ顔しないでよ、恥ずかしい……」
紆余曲折を経て、同じクリエイターとして意気投合したメルリーとモモイ、ミドリ。どうやら二人は新作のゲームを先生とウルフウッドにプレイしてもらいたくてシャーレを訪れていたらしい。しかし先生達は溜まっていた書類に忙殺されており、ユウカが番人も務めていたため断念してしまったのだとか。シャーレを訪れた時に生徒たちが若干残念そうにしていたのも、トリニティでのいざこざで入院していた先生達にやっと会えると思ったらそれが叶わなかったからのようだ。そして自分もそんな生徒の一人だと悟るメルリー。
取材はどうやらできそうにない。わざわざ遠いレッドウィンターからここまで来たのに無駄足になってしまったようだ。しかしメルリーはくじけない。せっかく目の前に『TSC2渡来銃』と『Tri Heart』の製作者がいるのである。メルリーは制作秘話なりなんなりの取材に意識を切り替えた。メルリーは二作品のファンである。『Tri Heart』にはちょっと酷評レビューを書いてしまったが、まぎれもなく二作品の事が好きだった。どちらも先生とウルフウッドをモデルにしていると当たりを付けていたし、先×ウル本のネタにも大いに利用させてもらっていた。ちなみに『Tri Heart』をやってから『TSC2渡来銃』を知ってプレイしたタイプだ。とにかく、せっかくの機会を生かしたいと思っていた。
「――え、ブイって先生がモデルじゃなかったの⁉」
「ビジュアルは先生をモデルにしたけどアレは違う人だよ。ヴァッシュ・ザ・スタンピードっていうウルフウッドさんの故郷にいる親友がモデルなの」
そして知ったとんでもないネタ。その時、メルリーに電流が走る。
つまり、なんだ? ウルフウッドさんは先生に昔の男を見ているということか?――無論、そんなことはない。姿を重ねてしまう時があるにはあったが、ちゃんとヴァッシュと先生を別人としてウルフウッドは見ている。ウルフウッド的に先生はまだ素直に友達だと言えない、そんな間柄だ。――しかしメルリーの腐った脳細胞は男の友情を理解できない。……ウルフウッドを求める先生、しかしウルフウッドは先生を見ているようで瞳の奥に違う誰かを見ていた――メルリーのシナプスがそんなしょうもないストーリーを勝手に出力し始める。
メルリーは苦しんだ。これを形にしないと頭がパーンって爆発すると。
メルリーは最高にハイになっていた。『傑作』が描けるという最高の『題材』を掴んだ時の気分が正しく今なのだと理解していた。
故に、メルリーは走った。走って、走って、運動不足ですぐに横っ腹が痛くなって素直に鉄道を利用して歩いて帰った。そして自室に籠り無我夢中で先×ウル本の最新作を書き上げた。
――要は、メルリー先生はやらかしてしまったわけである。
◇ ◇ ◇
ホシノは激怒した。必ず、この本を書いた作者を誅さねばならないと決意した。ホシノにはサブカルがわからぬ。そういうものには縁のない学生生活を送っていた。けれども想い人に関することには、人一倍に敏感であった。
今日は闇オークションの現場を押さえ、窃盗犯や転売ヤーのクズどもを一斉に捕まえる仕事をしていた。アリウス生徒が校舎にいてくれるのでホシノもアビドスの外へ出稼ぎできるようになっていた。カスどもを残さずとっ捕まえるには人数がいる。今回はアビドスの皆でこのミッションに挑んでいた。
そしてつつがなくゴミどもをひっ捕らえてヴァルキューレを待っていた時、ふとある商品がホシノの目に入っていた。
「……なにこれ?」
『この二人、聖職者04』と題された一冊の薄い本。なぜか表紙には自分の想い人と恩師が描かれているではないか。しかもやたらとかっこいいというか、煽情的なビジュアルで。ホシノは思わずそれを手に取ってしまった。そして、中身を見てしまった。
「は、はぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ⁉」
ホシノには理解できなかった。否、ホシノの脳が理解を拒んでいた。なぜニコラスと先生が絡んでいるのだ。しかもニコラスは先生にヴァッシュさんを重ねていて、先生がそれに嫉妬して……やめろ、私の脳にゴミのような情報を流すんじゃなぁい‼
ホシノは本を破り捨てようとして、一応これもヴァルキューレに渡さなければならない押収品の一つだからと、ギリギリに思いとどまる。
しかしその本の中身はホシノのラインをギリギリどころか思い切り超えていた。ホシノは別の世界線では亡くなった先輩のゴミすら遺品としてとっておくような女だ。大切な人との思い出には人一倍敏感だった。――ヴァッシュ・ザ・スタンピード、ニコラスの盟友。ニコラスが彼との思い出を語ってくれていた時に理解していた。彼との思い出はニコラスにとってかけがえのない記憶なのだと。彼はニコラスにとってかけがえのない存在なのだと。
――ホシノにとってこの本の内容は想い人の大切な宝物に泥を塗っているような行為に見えていた。故に、ホシノは静かにキレていた。
現物を持ち帰るわけにはいかないので本の写真を撮っておく。そしてアビドスに戻ってからユウカに連絡した。ユウカに連絡したのはメルリーとかいう下手人がゲーム開発部の誰かだと思ったからだ。ヴァッシュ・ザ・スタンピード、彼のフルネームを知っている人間は限られていた。私達と、そして『TSC2渡来銃』の製作者達しかいないからだ。
<ユウカちゃん、ゲーム開発部って子達と話がしたいんだけど>
<別に構いませんけど、あの子達がなにか?>
<〇〇〇〇.zip>
<……ちょっと待っててください>
暫くしてから、ユウカからホシノに連絡がかかる。今度はモモトークではなくホログラムの通話だった。画面を見るとゲーム開発部と思われる生徒らが正座で座らせられている。
<それでミドリ。なにか申し開きは?>
<だから違うってユウカ‼ アレを描いたのは私じゃないんだって‼>
<じゃあなんでこれにヴァッシュさんのフルネームが載ってるのよ⁉>
ユウカも思うところがあるのかゲーム開発部のイラストレーターであるミドリを問い詰めていた。しかしミドリは容疑を否認し、ある名前を告げる。
<それはその……その本の作者に私達が話しちゃったからで……まさかメルさんがこんなものを描いてるなんて思ってなかったの!>
<メルさん? まさかミドリ、犯人を知っているの⁉>
<……知ってるよ、この前シャーレで会話したんだ。メルリーっていうのはレッドウィンター所属の生徒、姫木メルさんのペンネームだよ>
涙目で語るミドリ。ついに下手人の名前が判明する。
しかしホシノは悩んだ。レッドウィンターはここから遠すぎるし、マンモス校だ。うかつに手を出すことはできない。まさか犯人の奴、それを分かってやっているのか? だとしたらとんだ食わせ物である。
<……わかったよ、ユウカちゃん。あとミドリちゃんだっけ? 疑ってごめんね>
ホシノは苦々しさを噛みしめながら通信を切る。とりあえずレッドウィンターに抗議の連絡を入れ、あの本を発禁にしてもらうほかは穏便に済む方法がない。これに関しては完全にあちらの良心まかせだ。風の噂で聞くレッドウィンターの評判からは期待できそうにないが……しかしどうであれ、こちらが悪役にならないためにも手順を踏むしかない。
ホシノはレッドウィンターに抗議の連絡を送付した。
◇ ◇ ◇
<先生助けて‼ 私の本が燃やされる~‼>
メルからの連絡を受け、先生は走った。先生は単純な男であった。生徒の助けを求める声を無視できない男であった。ウルフウッドは別の仕事があったので彼のバイクは使えぬ。そもそもレッドウィンターは雪が降っているのでバイクはちょっと危険だ。だから走れ! 先生。公共交通機関を使ってできる限り急げ、先生!
生徒の大切な創作物が燃やされることはあってはならぬ。例えそれが『ナマモノ』で炎上のリスクを孕んでいるものだとしても……一応、その、モデル本人に迷惑が掛かっていなければギリ、ありじゃないかな、とは思う。……多分今回、ついに火がついちゃったんだろうなぁ~、内容によっては擁護できないかもしれない。
先生の足が勢いを失いかける。しかし先生は自らの頬を張り気合を入れ直した。私は生徒を信頼せねばならぬ。疑いから始めてはならぬ。先ほどの弱音は悪魔の囁きだ。
先生は走った。そしてついにレッドウィンターへたどり着く。その校庭で轟々と煙が上がっていた。間に合わなかったか⁉ 先生は焚火を取り囲む生徒達に謝りながらその人込みを駆け抜け、ついにその中心へと到達する。
「うえ、うえぇぇぇぇぇんッ‼ カムラッドがぁぁぁ‼ トモエぇ~」
「大丈夫ですよチェリノちゃん、怖い本は全部粛清していますから」
「あああああああ、私の本がぁぁぁぁぁぁ‼」
「あああああああ、大ヒット商品なのにぃぃぃ‼」
阿鼻叫喚。なんだこれ、どういう状況? それが先生の正直な感想だった。チェリノがなぜだか本気で泣いているし、メルとヤクモが事務局の生徒に取り押さえられつつ焚火に向かって叫んでいる。
“ ごめん、ちょっと待って! どういう状況⁉ ”
「え、先生⁉ なんでここに⁉」
“ えっ⁉ メルが呼んだんじゃないの? ”
なぜか自分を呼んだはずのメルが動揺している。混乱している先生が説明を要求すると、トモエがそれを買って出た。
「……キッカケはアビドスからの連絡でした」
どうもホシノからメルが作った本への抗議の連絡がレッドウィンターへ入ったらしい。といってもレッドウィンターからしたら場所も分からないような田舎学校からの抗議である。普段だったら無視するところだが、しかし、どうも先生とウルフウッドさんに関わる内容らしい。それもあって念のためにと、トモエは目を通す事に決めた。その時、チェリノが近くにいたのが不幸の始まりだった。
「ん、なんだ? カムラッドとウルフウッドの漫画? おいらは載ってないのか?」
チェリノが添付されていた本の中身を見てしまったのだ。それは幼いチェリノには刺激が強すぎた。チェリノにとっては初めて見る大人の、それも男同士のアレだった。結構過激な本が出回るレッドウィンターにおいてもかなり強火な部類に入る内容である。チェリノはその迫力に怖くて泣いてしまったのだ。マジのガチ泣きである。
――これがトモエの逆鱗に触れた。
チェリノを怖がらせる本、それだけでこれは禁書に値する。泣き叫ぶチェリノの代わりにトモエが珍しく自ら粛清を指揮した。そして出版部でバンバン増刷がかかっていたそれを全て没収し、物理的に燃やしていたということだった。ちなみに対象は最新刊だけでなくシリーズ全てである。
「そしてこれがその本です、ご査収ください」
先生が禁書を受け取る。先生は頭を抱えた。このパターンは想定していなかった。というのもメルリー先生、実は先生には性癖が変わったことを隠していたのだ。そのため先生にとってはいまだに彼女はGL本の作家だった。渡された本の表紙からして嫌な予感しかしないし、案の定中身を見ても予想の斜め上の内容で立ち眩みしてしまいそうだった。これをウルフウッドが見たらどうなっていただろうか……この場にいなくて本当によかったと思う。というかそもそも――
“ ――メル、なんで
「だから私は呼んでないって‼」
“ え、じゃあこの連絡は…… ”
「――私が先輩のスマホで先生を呼んだんです」
“「モミジ⁉」”
おずおずと姿を現したのは知識解放戦線所属、メルの後輩にしてメルリー先生の相棒、秋泉モミジだった。
「な、なんでモミジが……
「すみません、メル先輩。でも、もう耐えられなかったんです‼」
「なにが⁉」
「私は、私はッ……純愛ウル×先派なんです‼」
「おまえユダだったのかぁぁぁぁぁ‼」
メルリーは崩れ落ちた。力なくその場に崩れ落ちてしまった。分かってしまったのだ。理解してしまったのだ。私は、今宵、殺される。自分の首が断頭台に固定されているのだと。処刑人が告げる。
“ ごめん、メル。本当にごめん。でも『見えないところでやってくれ』っていうものを見せられた公式としては、こう答えるしか、ないんだ…… ”
「先生、万が一にでも、OKでたりしない……?」
先生は力なく首を横にふるう。私一人だけであればよかった。先生は百合が好きだ。メルリー先生の一ファンでもあった。だから嗜むものとして、自分だけだったら許可してもいいかなとは考えた。でも、ウルフウッドは駄目だ。ヴァッシュさんは、なんというかもっと駄目だよ。自分が許可できる範囲を超えているし、多分、抗議を入れたというホシノはキレている。もう、火はついてしまっているのだ。この大火を鎮火するにはこれしかない。
“ メルリー先生、公式からの通達です。すみませんがこの本は販売中止としてください ”
「で す よ ね‼ ……うわ~ん‼」
メルリーは哭いた。ただひたすらに哭いた。ついでにヤクモも泣いていた。彼女たちの形になった情念は、轟々と燃え盛る業火に包まれ灰へと姿を変えていく。なんかよくわかんないけど暖かいからいいやと集まってきた生徒達に囲まれる中、事務局の生徒が積まれた同人誌を無慈悲に炎へくべていく。
メルリーが描いた『この二人、聖職者』シリーズは、キヴォトスを流星の如く駆け抜け、そして塵となった。
――しかし、一度生まれたものはそう簡単には死なない。
一度キヴォトスにばらまかれたメルリーの同人誌『この二人、聖職者』はプレミアという付加価値が付き、キヴォトスの深淵へと潜り込んでいた。そして感化された者たちは『TSC2渡来銃』の二次創作として、果ては一次創作として、その姿形を変えて似た概念を生み出し、増殖していた。燃えて灰になっても、残っているものたちがいた。
燃え残ったものに火が付き、新たな騒動が引き起こされることになるのだが……それはまた別の話である。
二次創作を嗜む者としてはメルリー先生の「浮かび上がってくるシーンを形にせずにはいられない」という思いに非常に共感してしまいます。
ただ今回の話は原作へのリスペクトは忘れないようにという自身への戒めもあったり。本当に良く悩むんですよね、このキャラは本当にこんな行動するか?言うのか?って。どうやっても二次創作なので私の主観によるキャラの湾曲は避けられませんし。
今回は書きたい話とキャラの齟齬が少ないので異常にすんなり書けましたけど、もしかしたら誰かの地雷にまた触れている話になっているかもしれません。
――誰かの地雷は誰かの主食
逆もしかりで、私の求める話は誰かの地雷なんですよね。話を更新するたびにお気に入りが減ったり増えたり減ったり増えたり……二歩進んで一歩下がる、ということがざらです。
ただまあそれでも、元々私の作品はメルリー先生のように読み手よりも自分のことを優先している作品で、それを楽しみにしてくれている人もいるので……初心は忘れず創作を続けていきたいですね。