ウルフウッドアーカイブ   作:タニシ・トニオ

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今回ブルアカ要素ゼロ
あと血界戦線のK・K姉さんの捏造設定もあるのでちょっぴり注意

4/12誤字合ったので修正


絆ストーリー:ウルフウッド04_忘れられない少女のキリエ

 少しばかり時間は遡り、これはまだウルフウッド達がマスター・チャペルとの戦いの傷を癒すためにトリニティの病院に入院していた時まで戻る。

 

 ウルフウッドは暇をもて余していた。正確には娯楽も何も無い病室で溜まり続けるモモトークのメッセージに辟易しスマホを投げ出していた。

 ウルフウッドは隣のベッドで同じくモモトークの返信に追われている先生に声をかける。

 

「……なあセンセ、教えて欲しいことあんねんけど」

 

“ え、ウルフウッドが私に? 珍しい……いいよ、答えられることならなんでも! ”

 

 流石の先生もモモトークの対応に疲れてきていたのか、この時ばかりは食い気味に彼からの話題に飛びついた。

 

「センセの使うあの電気バチバチさせるのあったやろ?」

 

“ 954血弾格闘技(ブラッドバレットアーツ)のこと? ”

 

「それそれ。センセ、それを『技』やゆうとったやないか。ちうことはワイも訓練すれば使えたりするんか?」

 

“ え!? あ〜……多分無理じゃないかな。これ確かに『技術』ではあるんだけど、何て言うか前提条件みたいなのがあるんだよね ”

 

「どんな条件やねん?」

 

“ ……ウルフウッドってさ、吸血鬼に噛まれたことある? ”

 

「吸血鬼〜? 噛まれるどころか故郷でもキヴォトスでも会ったこともあらへんな。なんや? それとセンセの技がなんの関係あんねん?」

 

“ ちゃんと関係あるんだよ。僕の技はさ、吸血鬼に噛まれたりしてほんのちょっぴり『アッチ』側に踏み込んでないと使えないんだ ”

 

「……ちうとなにか? センセは吸血鬼に噛まれたことがある言うんか?」

 

“ ……まあね ”

 

「――なんでそないおもろそうな話をだまっとったんや?」

 

“ 機会もなかったし、なにより面白い話じゃないからだよ ”

 

「ええからその話してみ。ぶっちゃけ暇やねん」

 

“ モモトークはいいの? ”

 

「飽きた。無事やゆーとるのにしつこいねん、やってられるか。センセかて同じやろ。気分転換や」

 

“ ……正直、これは君の百鬼夜行での事件みたいな類いの話だから話したくないんだよね ”

 

「でもワイは話したで。ええ機会やしお前も話せや」

 

“ そう言われると弱いなぁ……わかったよ。懺悔しますよ牧師様 ”

 

 これは僕が吸血鬼に噛まれた話で、牙狩りの力を得た話で……僕が『先生』になった話だ……

 

◇ ◇ ◇

 

 僕は子供のころ親にネグレクトされていてね。

 ウルフウッドの昔の環境に比べればマシかもだけど、小さい子供にとっては自分の周りの世界が全てだからさ、毎日真っ暗闇にいるようだったよ。

 周りの人にも見放されていて、自分は世界に一人ぼっちなんじゃないか? なんて思ったりもした。

 でもそんな時、担任の先生が気付いてくれて手を伸ばしてくれたんだ。それで僕の世界は広がった。

 ――今思えばその先生、大分教師の仕事の枠を越えて踏み込んでたなぁって思うけど……それでも僕は救われた。その先生に、僕は憧れた。あの人の様になりたくて僕は『先生』を目指すことにしたんだ。

 

 ……え? 恩師が男か女かって? 別にそれはどうでも……わかったよ、話すよ。

 ……女の先生だった。多分、僕の初恋だ。まあ僕が中学に上がったころに子供ができて退職しちゃったけど。失恋ってやつだね。今は元気に母親やってるのかなぁ、先生……

 ――話が逸れてるって? ウルフウッドが逸らしたんだろ、まったく。

 

 で、先生になるための勉強を僕はしていたんだけど、学費を自分で工面しながらだったから毎日金欠気味でね。色々なバイトをしてたんだ。それを見かねてか、ある時知人がすごく割のいい仕事を紹介してくれてね。

 

 ――ある女の子の家庭教師をして欲しい。

 

 どうも体が弱くてずっと入院している子がいるらしい。そしてその子の教師をしていた人がいたんだけど、事情があって引退することになって代わりの人材を探していたとか。

 ちょっと怪しいところもあった依頼だったんだけど、恥ずかしながら高給に目がくらんでしまってね。それに僕が目指す先生なら、きっとその子にも手を伸ばしてただろうって思ってさ。僕はその依頼を受けたんだ。

 

 ……その子の病室を初めて訪れた時のことは今でも覚えてる。彼女はずっと窓の外を寂しそうに眺めていた。彼女は小さい時の僕と同じだったんだ。彼女の世界は病室の中にしかなくて、孤独の中にいた。

 

 ――片羽キリエ、それがその子の名前だ。

 

 キリエの孤独を少しでも埋めてあげたくて、僕はカリキュラム以外のことも教えたよ。最近のニュースだとか、大学での話とか、元気になったらどこへ行きたいだとか、それこそ他愛ない話ばかりだったけど、とにかく色々。

 ある時キリエに言われたんだ。

 

「……先生は私を見捨てないでいてくれる?」

 

“ えっ? どうしたの急に? ”

 

「……だって、先生だけだから。私を見てくれるのは」

 

“ そんなことないと思うけど。君のご両親だって…… ”

 

「今まで一度も様子を見に来てくれなかったのに?」

 

“ ……忙しいからって言ってたよ ”

 

「それでも一度も来ないなんておかしいよ。きっとお父さんもお母さんも大切なのは世間体とかそんなので……私自身はどうでもいいんだ」

 

“ それは…… ”

 

 僕はそれを否定してあげることができなかった。

 キリエのご両親はキリエのことを大事にはしていた。でなければ彼女の治療を続けてないし、家庭教師をつけたりはしない。でも、『娘』として大切にしているかと問われたら確かに疑問をもたざるを得なかった。

 定期報告でご両親にキリエのことを話す時も「カリキュラムはこなせているか」「知識はついているか」といった話はするものの、キリエの気持ちに寄り添うような発言を僕は聞いたことがない。

 何て言うか、僕自身が親というものにいい感情を持ってないからかもだけど……キリエのご両親は彼女を作物か何かのように見てるんじゃないかと疑ってしまったこともある。大切なのは彼女の品質であって、彼女自身ではないのだ。

 ある時、遂に苦言を呈したことがあったけど――

 

“ キリエが寂しがっています。彼女のために時間を作ってあげることはできませんか? ”

 

「済まないが忙しくてね。それに『そういったこと』込みで君を雇っているんだ。宜しく頼むよ」

 

 ――結局、それも空振りに終わってしまった。。

 キリエのご両親は成功している人達だとは思う。でも、だからこそ彼女の言う『大切なのは世間体』といった言葉がしっくりきてしまうのだ。

 僕の親とキリエの親が同じに見えてしまって、僕は否定の言葉を紡げなかった。

 

「――ねえ、先生。確か、もうしばらくしたら先生辞めちゃうんだよね。本当にもう、来なくなっちゃうの……?」

 

 もう少ししたら、教育実習が始まる。教員免許取得に向けて本腰も入れていかなければならない。だからキリエの家庭教師を続けることはできない。

 

「――先生がいなくなっちゃったら、私、また一人ぼっちになっちゃう。辛いよ、嫌だよ……」

 

“ 大丈夫だよ、次に担当してくれる人もきっと…… ”

 

「そんな事ないッ! 私の先生は先生だけなのッ‼」

 

“  キリエ…… ”

 

 前任の家庭教師はあくまで勉強しか教えてくれなかったらしい。『先を生きる者』として接してくれたのは僕だけだった、とキリエは語ってくれたことがあった。だから僕はまだ未熟者だと言っても、彼女は僕のことを『先生』と呼ぶことに固執していた。

 

「私の先を照らしてくれるのは先生だけなの……だから、先生だけは私を見捨てないで」

 

 キリエの手は震えていた。その瞳は涙で歪んでいた。

 彼女にはまだ『先生』が必要だ。そして、その役割を全うするのは彼女の先生である僕の責任だと思った。

 

“ ……見捨てたりなんかしないよ。確かに家庭教師は辞めなくちゃいけないけど、キリエに会っちゃいけないわけじゃない。今よりも会える時間は格段に減ってしまうけど、君に会いに行く。まだいっぱい教えてあげたいことがあるんだ。君がこの病室から卒業するまで学習は続けるよ ”

 

「……ここから卒業したら、もう会ってくれない?」

 

“ まさか。卒業しても君は僕の生徒だ。元気になったら行きたいって言ってた場所に遊びに行こう。まあその時にできてる新しい友達と行った方が楽しいかもだけど ”

 

「そんなことない。絶対にないよ。……でも、そっか、先生はずっと()()()()でいてくれるんだね」

 

“ そうだね。僕はずっとキリエの先生だよ ”

 

「えへへへ、そっか。うん……約束だよ」

 

“ うん、約束 “

 

 キリエの不安も落ち着き、時間も遅くなってしまったので本日の授業はこれでお終いにした。

 そしてこれが、キリエとの最後の授業になった……。

 翌日、キリエは両親と一緒に行方不明になったんだ。僕は警察からの事情聴取でそれを知った。

 当時はただの大学生だった僕に何かできることも無くて、胸の中にわだかまりを抱えたまま僕は家庭教師を始める前の苦学生の日常へと戻っていった。

 

 そして教育実習が始まった。

 ――楽しかったよ。指導教員も良い人だったし、何より個性豊かな子供たちと接することができた。みんなも僕のことを先生、先生って言ってくれてね。改めて良い先生になろうって思えた、いい経験だったよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 実習期間の最終日、生徒たちが僕のお別れ会を開いてくれたんだ。

 帰りのHRの時間を使って学級委員長が代表で激励の言葉を送ってくれたりしてさ、嬉しくて泣いちゃいそうになるくらいで……そんな時に、ふと……キリエが現れたんだ。

 どうやって入ってきたのかもわからない。ただ静かに、教室の最後尾に、キリエが佇んでいた。

 僕は声も上げることができなかったよ。固まってしまっていた。

 なんで君が? 今までどこへ? 無事だったの? どうして? なんで?

 感情の処理が追い付かなかったんだ。そんな中、キリエが腕を振るう所作をした。

 

 ――次の瞬間、教室が生徒たちの血で真っ赤に染まった。

 

「嘘つき」

 

 僕は腰を抜かしてその場にへたり込むことしかできなかった。キリエはそんな僕ににじり寄って、そう言い放った。

 僕の意識は、そこで途切れた。

 

 目が覚めると、どこかの病院の一室だった。

 もしかして過労か何かで僕は気絶してしまって、さっき見た光景はただの悪夢だったのかな、なんて思ったよ。あまりにも滅茶苦茶な光景で現実のものじゃないと、起きた時は思ってた。でも、違った。会う人や目に入るニュースから、あれが本当の出来事だったと告げられた。凶悪な殺人鬼が学校に紛れ込み、僕はあの教室で唯一の生存者だということになっていた。

 指導教員も、生徒たちも、みんな殺された。殺人鬼? キリエが? キリエがやったのか?

 警察には正直に見たことを話した。でも凄惨な光景を目の当たりにしたショックにより記憶が混濁していると判断された。僕だってそう思ってた。あんな現実離れした光景が本当の事だとは思えなかった。あれは僕の記憶の混濁で、キリエがあんなところにいて、あんなことをするわけないと、そう思っていた。

 

「こんにちは戸狩君。私はK・Kっていうの。こっちの無口なのは私の師匠」

「……」

 

 そんな時、警察とは様相の違う二人の人物に出会った。

 

「あの事件のこと、お姉さんたちにも詳しく話してくれないかなぁ~」

 

“ ……僕の話は記憶が混濁していて…… ”

 

「いいから話しなさい。真実かどうかはこちらで判断するし、内容によってはあなたが知りたいことを教えてあげてもいいわよ」

 

“ …… ”

 

 僕は包み隠さずその二人に事情を話した。そして、真実を教えてもらった。

 

“ ブラッドブリード……? ”

 

「有体に言えば吸血鬼ってやつよ。そのキリエって子、私達が追ってる吸血鬼に同族にされてるわね」

 

 信じられない話が続く。

 K・Kさん達は『牙狩り』と呼ばれるヴァンパイアハンター達で、ここへはある血界の眷属(ブラッドブリード)を追って来ていた。

 そしてキリエの両親はその血界の眷属(ブラッドブリード)と契約していて、『生贄』を捧げることで眷属にしてもらう約束を交わしていたらしい。その『生贄』がキリエだった。

 しかし何があったかは分からないが、眷属にされたのはキリエだった。

 そしてあの教室での惨劇は、まぎれもなくキリエが起こしたものだと告げられた。

 

「――私達の気配を察知されて逃げられちゃったけどね。だから奴らを引っ張り出せる餌になりうる君に会いに来たってわけ」

 

“ 餌? どういうことですか? ”

 

「戸狩君。貴方はなんで自分だけ生かされたかわかる?」

 

“ ……わかりません ”

 

「貴方を眷属にするためよ。貴方、キリエって子に噛まれてるの。おとぎ話とかで聞いたことあるでしょ? 吸血鬼は吸血することで仲間を増やせるって。貴方は血界の眷属(ブラッドブリード)の仲間入り手前って状態なワケ」

 

“ 僕が、吸血鬼に? ”

 

「まだ転化までは至ってないけどね。で、あいつらは狙った獲物に執着することが多い。少なくともキリエって子は貴方の転化を完了させるために再び現れるわ、必ず。私達のターゲットも契約していた両親じゃなくてキリエって子をわざわざ眷属にしたわけだし、一緒に釣れるかもしれない。だから、悪いけど貴方の身柄を預からさせてもらうってわけ」

 

 正直、信じられない話ではあった。でも自分自身が目撃した光景、置かれている現状と一番辻褄が合う話でもあった。そして真実なら、再びあの惨劇が僕の目の前で起きる可能性を示していた。……それは絶対にダメだ。

 

“ ――わかりました。僕の身を貴方達にお預けします。ただ、お願いがあります ”

 

「ん、なにかしら?」

 

“ あなたたちはヴァンパイアハンターなんですよね? 僕にも、教えてください。キリエと対話できるだけの力が、欲しいんです…… ”

 

 キリエになんであんなことをしたのか聞きたかった。僕を眷属にしたいなら僕だけ襲えばよかったはずだ。なんであんな凶行をしたのか、彼女の口から直接聞きたかった。彼女を叱りたかった。彼女に罪を自覚して欲しかった。なんで彼らの命を無為に奪ったのか怒りたかった。

 

「……どーします、師匠?」

 

「……」

 

「本当ですか? まあ前提条件はクリアしてますけど……。

――戸狩君、死ぬほどキツイけど、本当にやるの? 私はオススメしないわよ。それに、その先に()()が待ってるか本当に理解してる?」

 

“ ……理解しているつもりです。でも、僕はあの子の先生でもあるんです。対話の果てに()()しか選択肢がないのであれば、僕はその選択をします ”

 

「……そう。わかったわ。覚悟決めてるってわけね。――()()()()。あんたは今から私の弟弟子よ」

 

 そして僕は休学届を出してK・Kさん達の指導の下、『牙狩り』になったんだ。

 

 ――え、どんな訓練だったのかだって?

 ……ごめん、ウルフウッド、それだけは、それだけは本当に勘弁してつかぁさい。今でも思い出そうとすると手が震えるんだ。超特急で仕上げるからってあんな……あんな……う、うぁわあああ、無理だって師匠! K・K姉さん! 人の体はそんなっ、う゛ッ!

 

「なにフラッシュバック引き起こしとんねんこのボケ! もうええから続き話せや!」

 

 ……ごめん、本当にごめんね。

 

 それで僕も最低限の戦力になったあたりで丁度キリエ達の動きも掴めたんだ。それで僕を囮にしてキリエ達を誘い出す作戦が実行に移された。

 僕は囮兼、キリエの担当に宛がわれたよ。K・K姉さん達のターゲットの血界の眷属(ブラッドブリード)も一緒に姿を表わしたら僕がキリエをそのターゲットから引き離して、そっちはK・K姉さん達が討伐するってことになった。

 ――そしてその作戦は上手くった。僕はキリエと再び相対することができた。

 

“ キリエ、教えて欲しい。なんであんなことをしたんだ⁉ 僕だけを攫うことだってできたはずだ。それなのになんで⁉ ”

 

「……先生が悪いんだよ。先生が約束を破ったから」

 

“ 約束って……君を見捨てないってこと? でも……ごめん、それは君の行方が…… ”

 

「そっちじゃない!」

 

“ じゃあなに⁉ ”

 

「……先生は、()()()()でいてくれるって、言ったじゃん」

 

“ その約束を違えたつもりはないよ。だからこうして君の前に立っている ”

 

「嘘だッ‼ ずっと見てたんだよ、あの子たちに囲まれて楽しそうに笑ってる先生を……あの時、先生は()()()()()()()()だった」

 

“ でも君の先生でもある。それを忘れたことはないよ ”

 

「それじゃ嫌なの‼ 先生は()()()()()()でいて欲しかったの‼」

 

“ もしかして、だからあの子たちの命を奪ったの⁉ ”

 

「そうだよ、それで先生を『私だけの先生』にしようとしたの。――ねえ、見て、先生。私今すごく自由なの! どんなに走っても息切れしないし、目を凝らしたらすっごい遠くまで見ることもできるんだよ。お父さんもお母さんも要らない。世界がね、輝いて見えるの! 先生が教えてくれた世界に私は歩き出せたの! やっと『白紙の切符』の行き先を書けるようになったんだよ!」

 

“ ……キリエ、それは間違ってる。その行き先は誰かの血で書いていいものじゃないんだ ”

 

「先生、違うよ。それは弱者の理論。『人間は常に何かを犠牲にして生きている』、そう教えてくれたのは先生だったよね。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。ただそれだけなんだよ」

 

“ ……その犠牲に、本当にあの子たちは必要だったの? ”

 

「うん。だってアレが残ってたら先生が『私だけの先生』にならないでしょ? 私の切符の行き先は『私だけの先生』と一緒に歩むことだから!」

 

“ ……わかったよ、キリエ。君は怪物になってしまったんだね ”

 

「……なんで(そんなもの)を私に向けるの、先生?」

 

“ ――それは、僕が君の先生で、あの子たちの先生でもあるからだ ”

 

 キリエの肉体が変質した刃が体を掠める。キリエの攻撃を躱しつつ、954血弾格闘技(ブラッドバレットアーツ)を放った。

 

(“ 見える ”)

 

 僕は、確かに強くなっていた。キリエの攻撃を躱しつつ彼女にダメージを与えることができていた。

 キリエは血界の眷属(ブラッドブリード)としてのランクは低いらしい。だから心臓か頭部を破壊できれば行動不能にできると聞かされていた。未熟な僕の力でそれを実現するには近距離で954血弾格闘技(ブラッドバレットアーツ)を叩き込むしかない。だから前へ、前へ、わずかなミスも許されない死線を越えて、彼女との距離を詰めていく。

 そしてついに、僕の牙が彼女の頭部へと届いた。あとは引き金を引くだけだ。

 

「――なんで、先生……」

 

 銃を突きつけた彼女の顔が悲痛で歪む。僕の脳裏に「見捨てないで」と言っていた彼女との思い出が蘇った。……僕はその引き金を引くことができなかったんだ。

 

“ ――ガァアッ‼ ”

 

 刃と化した彼女の腕が僕を貫く。

 

「ごめんね、先生。痛いよね、苦しいよね。でも大丈夫だから。大丈夫なようにしてあげる」

 

 キリエはそのまま僕を抱きしめ、首筋を噛んだ。僕の血とキリエの血が混ざっていくような感覚が体を巡る。まずい、このままでは転化される。残された選択肢は、一つしかない。

 

“ ……ごめん、キリエ。僕はずっと後悔ばかりしていた。もしも僕が君の両親にもっと何かを言えていたら、もしも君にもっと大切なことを教えられていたら、何か違う結果にできたんじゃないかって、ずっと、思っていた ”

 

「私は後悔してないよ。先生に会えて本当に良かったって思ってる。……先生は、違うの?」

 

“ ……君に出会えたこと自体に、僕は後悔してないよ。君が僕のことを『先生』って呼んでくれた時、嬉しかったんだ。ちょっとズルして早く夢を叶えられたみたいでさ。……君が、僕を『先生』にしてくれた。――()()()()()()()()()()()()() ”

 

 心のどこかで、こんなことになりそうな予感がしていた。

 だから僕はオリジナルの技を編み出していたんだ。

 

“ 954血弾格闘技『外典』(ブラッドバレット『アナザー』アーツ) ”

 

 といっても今から放つのは、とても技なんて呼べるもじゃないけれど。

 

“ Flash of Graduation ”

 

 僕の血全てを雷へ属性変換する自爆技。僕とキリエの血が混ざっている今ならその効果は絶大だろう。――君を一人では逝かせない。

 

「ッ⁉ だめっ、先生‼」

 

 閃光が僕たちを包む。

僕は二度と目が覚めない眠りについたはず、だった。

 

 僕は再び目が覚めた。一瞬、今までのことは夢だったのかと思ったけど、体に走る痛みにそれを否定される。

 

「あ、目が覚めたんだトガッち。随分無茶したわね~。あんなの私達教えてないはずだけど?」

 

“ ……キリエは? なんで僕は生きて? ”

 

 K・K姉さんから事の顛末を聞かされた。

 K・K姉さん達のターゲットは無事に討伐することができたらしい。そして僕の元に駆けつけた二人が見たのは、ズタズタになっている僕と、焼け焦げたキリエだったモノ……。

 師匠曰く、僕が辛うじて生きていたのはキリエが属性変換した僕の血(攻撃)を全て引き受けてくれたからとしか考えられない、とのことだった。

 

“ ――僕は、牙狩りとしても、先生としても、失格ですね。結局、何も果たせなかった…… ”

 

「……そうね。でもね、トガっち。これは覚えておいて。貴方はまだ生きている。やり直せることができるのよ。……まだ若いんだし大丈夫よ~。まあその体じゃ牙狩りを続けることは無理だろうけど、もう続ける理由もないんでしょ?」

 

“ でも、じゃあ何になればいいんでしょうか……? ”

 

「何にって、教師目指してたんじゃないの? リハビリ頑張れば通常の生活は送れる希望があるってお医者さん言ってたわよ」

 

“ 生徒の命を奪った僕に、先生になる資格なんか…… ”

 

「あのねぇ、トガっち。言ったでしょう、やり直せるんだって。人間なんだから失敗の一つや二つ、それこそ取り返しのつかないことだってしちゃうわよ。でもね、最低なのは失敗したり間違えたりすることじゃない。本当に最低なのは、それから目を逸らして歩みを止めることよ。別に貴方の人生だから教師目指すのを止めても咎めはしないけど、その理由を今回の事件のせいするのは止めなさい」

 

“ ……相変わらずK・K姉さんは手厳しいですね ”

 

「カワイイ弟弟子のケツを蹴り上げてあげるのが姉弟子の役割だもの。……大丈夫、あの子をまだ自分の生徒だって言い張れる貴方は筋金入りよ。トガッちはやっぱり、銃なんかよりも教鞭振るってる方が似合ってるわ。私が自分の子供を預けたいって思えるぐらい良い先生を目指してみなさいよ」

 

“ ……えっ、K・K姉さん、お子さんいたんですか⁉ ”

 

「んん~、トガっち、それはどういう意味? 私が若々しくて子持ちとは思えなかったってこと? それとも……」

 

“ ワカワカシクテビジンダカラニキマッテルジャナイデスカー ”

 

「んっんー、トガッち~、なんで棒読みなのかしら~? ……決めたわ、トガっちのリハビリ、私も手伝ってあげる♡」

 

“ ア”ア”ア”ア”ア”ア”ァ~ “

 

◇ ◇ ◇

 

“ 以上でこの話はお終い。ね、面白くなかったでしょ ”

 

「う~ん、おもろいかどうかは置いといてセンセらしい話ではあった思うで。死なんとおんどれのクソボケは直らんちうことはよくわかった」

 

“ いや、まあ僕がまだ未熟者だってのはわかるけどさ、そこまで言わなくてもよくない? ”

 

「そういうとこやっちうねん」ボソッ

 

“ なに? ”

 

「なんでもあらへん。――ところでセンセ、懺悔やゆうとったけどホンマに懺悔しとるつもりあるんか?」

 

“ どういうこと? ”

 

「どうせおんどれのことや。自分の事、自分で赦してへんのやろ? 赦しを請うてへん人間が懺悔なんてぬかすなっちう話や。神様が赦してくれるのはな、赦しを願った罪だけやぞ」

 

“ それは…… ”

 

 ウルフウッドの言う通りだ。この罪を赦してくれなんて僕は言えない。無理だ。

 どんな理由であれ、僕は生徒の未来を閉ざした。それは紛れもない事実だ。

 『先生』という生き方を選択した以上、この罪から目を逸らすことは、僕自身が許しはしない。

 

“ ……驚いた、ウルフウッドからそんな牧師らしい言葉が聞けるなんて ”

 

「お、喧嘩か? 喧嘩売っとんのやったら買うぞコラ」

 

“ ははは、冗談だよ冗談 ”

 

 こうやって冗談にしてくれる君にしか話せないよ、こんなこと。

 僕はこの罪を赦しはしない。でもこの罪を理解してくれる隣人を望まなかったわけじゃない。

 

 こうやって肩を並べて馬鹿をしあえる君に出会えたことは、このキヴォトスでの出来事の中でも飛び切りの幸運だと、今でも思う。

 




というわけでウルフウッドの絆ストーリーの皮を被った先生の過去話でした。
ただ個人的にウルフウッドの絆ストーリーはウルフウッドの好感度が上がるというより誰かのウルフウッドへの好感度が上がる話かなってイメージがあるので、まあいいかなと。

悲報、先生のクソボケは昔からだったし、生徒に刺されても直らなかった。
原作先生がミカとか一部の生徒に先生としての間合いを設けるのってなんでやろ?と考えた内容と、戸狩先生がブラッドバレッドアーツ使える理由を悪魔合体してできた話でした。

この話、多分先生ガチ恋勢ほど曇るんじゃないかな。少なくともワカモとかミカには絶対話せないやつ。
トライガンマキシマム6巻で街の人に石を投げられたヴァッシュと一緒に肩をなべてスタコラサッサしてくれる気のいいアンチャンにしか話せないお話ですね。
多分すでに先生のウルフウッドへの好感度はレベル20超えてます。

追記:次回最終章に突入する予定ですが、色々話を考えないとなので一か月ちょい投稿かかってしまうかもです
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